私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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これをやりたかった


とある事件 シャーロック最初の敗北

11月下旬の武偵高校にてーー

 

「相談に乗ってくれてありがとう‼︎零さん」

 

「どういたしまして」

 

私は空教室で日課となっている生徒の相談に乗ってあげた。

机に座り、相手と面と向かって喋るのが私のスタイルだ。

相談相手は様々ーーランク向上のアドバイス・現在の学科でやっていけるか・友達などあるが、ただし、恋愛相談は苦手だ。それ以外ならOKだけどね。

最後の相談相手にバイバイと手を振るうと、

 

「主」

 

相手と入れ替わるようにモランが入って来た。

今、彼女は中等部からの研修生として高等部に出入りしている。モランは外国人で背も高いから、かなり目立つ。高等部ではある種の有名人だ。私の同級生達、特に男子からは人気がある。モランは知らないだろうが、中等部の間でも人気があるんだよね(特に女子に)

そんなモランが私の隣に座り、

 

「どうぞ。頼まれていたオペラのチケットです」

 

懐からオペラ座のチケットを取り出し、私に差し出してきた。

おお、チケットが取れたんだね。私はチケットを確認する。

場所は神奈川の横浜市。神奈川芸術劇場。演目は『ドン・ジョバンニ』座席はS席。

前に金次君と一緒に見た演目だが、私はこれが気に入っている。開演日に予定が空けば、必ず見に行く事にしている。まあ、今回は''ただ見に行くだけじゃないけどね''。

 

「楽しみですね主」

 

モランは再び懐に手を入れ、チケットを取り出した。演目は同じ『ドン・ジョバンニ』だった。しかも、座席は私の隣だった。

二枚も購入するなんて、S席は1万円近くもするんだよ。

 

「残念だけどモラン。君の分は必要ないよ」

 

「……本当に残念です。オペラを楽しみにしていたのに......」

 

モランは残念そうにチケットを懐にしまった。ごめんねモラン。君にはやってもらう事があるからね。

私の意図を理解したのか、モランは席を立ち教室から出ていった。

 

 

 

神奈川 横浜市某所ーーとある倉庫内にて

外は暗く、辺りに人はいない。そんな倉庫に2人の少女がいた。

 

「おい、ツァオツァオ。何でイ・ウーからの依頼を蹴った?」

 

峰 理子はイ・ウーの天才技師ツァオツァオを問い詰めていた。

理由はツァオツァオが突然、イ・ウーからの依頼を断って、別の客に爆弾を作った為だ。

ツォツォは守銭奴で、莫大な金と引き換えに何でも作る。イ・ウーはツァオツァオに対して、それなりの金を払っている。それこそ、最優先客となるくらいに

 

「それは......言えないアル」

 

『匿名の依頼人だねツァオツァオ君』

 

ツァオツァオが黙秘しようとした瞬間、理子の持っている携帯から第三者『教授』ことシャーロック・ホームズの声がスピーカーから聞こえてきた。

 

『僕の推理では相手はイギリス人と日本人のハーフだね。金もあり、それなりの権力もある。君の所属する蘭幫の庇護もしている』

 

理子はツァオツァオことココに携帯の画面ーースピーカーが聞こえるように向ける。

シャーロックの声を聞いて、ココは脱力して地面に座り込んでしまった。おそらく、安心感か開放感によるモノだろう。

 

「シャーロック様の言う通りネ。ソイツはツァオツァオや蘭幫を支持しているヨ。金と権力を持ち、そして......恐ろしく頭が回るヤツネ」

 

「なあ、ツァオツァオ。何があったんだ?あたし達イ・ウーを蹴って、ソイツに肩入れしたのは何か理由があんだろう?」

 

「ツァオツァオは悪魔と契約してしまったネ。仕事はまもなく今夜、完了してしまうヨ」

 

『爆弾を仕掛けたんだねツァオツァオ君』

 

「おい、どこに仕掛けたんだ?そいつは何をするつもりなんだよ?」

 

「恐ろしい計画を実行に移すように依頼されたネ」

 

ココはワナワナと震え出した。そんなココの姿を見て理子は驚いた。

ココがこんなに怯える相手とは一体?

 

「話せよツァオツァオ。『教授』がきっと助けてくれるから」

 

「ちょっと遅かったネ。姉妹を人質に取られたヨ」

 

姉妹ーーココに姉妹がいる事に理子は驚いた。まさか、万武の武人ココに姉妹がいたとは。

 

『爆弾の場所を教えてくれないかいツァオツァオ君。必ず君の姉妹を助ける』

 

「姉妹は無事ヨ。約束したくれたネ。ソイツとネ......証拠は決して残さない。それが姉妹を救う唯一の手段ネ」

 

ココは懐に手を伸ばし、

 

「爆発まで10分ネ」

 

『理子君‼︎止めるんだ‼︎』

 

拳銃で自分の頭を撃ち抜こうとした。

『教授』の叫びに、理子は思わずココの腹部に掌打を打ち込み、ココを気絶させた。

万武の武人ココに簡単に攻撃を当てられた事は意外だった。それほど、ココは追い詰められていたのか。

 

「ねぇ、『教授』。これからどうするの?」

 

『安心してくれたまえ。爆弾の場所もツァオツァオ姉妹の監禁場所も推理できている。理子君は爆弾を始末してくれ。僕はツァオツァオ姉妹を助けに行こう』

 

「了解。それで爆弾の場所は?」

 

『神奈川芸術劇場だよ』

 

 

 

神奈川芸術劇場ーー

 

理子は平凡な女性スタッフに変装して劇場に潜入した。

今日の演目は『ドン・ジョバンニ』。開演初日とあって、客は満員だった。

演目はラストに突入し、主人公ジョバンニが石像に生き方を改めよと促される場面だ。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

理子は道具置き場を通る際、人とぶつかりそうになった。相手は金髪で中性的な顔をしており、背は高く170はあるだろう。肩に布で巻かれた細長いモノを持ち、頭をシニヨンと呼ばれる結い方にしている。おまけに口にタバコを吸っている。香りからして、トルコタバコだ。

 

「お気になさらず」

 

相手はそれだけ言って去っていた。

少しに気になる理子だったが、今は『教授』からの依頼を優先すべきだ。

『教授』の推理では、爆弾は楽屋側の裏方ーー大道具・小道具・音響・照明など、客からは直接見えない場所に仕掛けられている。

 

『理子君。そこだ』

 

「ここ?」

 

『教授』の声で理子は止まった。

そこは、セリと呼ばれる舞台の床の一部分を長方形に切り抜き、その床を昇降させる装置だった。今まさに石像役の役者が舞台に上げられる所だ。

 

『その装置の真下に爆弾が仕掛けられているはずだ。調べてくれたまえ』

 

理子は指示に従い、装置の下に潜り込んだ。

装置の下を覆っている布をナイフで切り開き、中を覗くが、

 

「『教授』何もないよ」

 

『⁉︎』

 

装置の下には何もなかった。理子からの報告を聞いて『教授』ことシャーロックは驚きを隠せなかった。

卓越した推理を予知まで近づけたーー『条理予知』を覆させられた事に。

 

「ねぇ、『教授』。どうすんの何もないよ⁉︎」

 

理子は慌てたようにシャーロックに指示を仰ぐが、携帯からは何も聞こえてこない。

理子がどうするか迷っていると、フッと装置についている小窓に目がいった。近づいて開けてみると、チェストの駒ーー黒のキングがぽつんと置かれていた。

手に取ってまじまじと見るが、特に変哲も無い駒だ。

理子はその場から離れようとしたが、小窓からよく知る顔が見えた。

 

「何で零がここにいるんだよ」

 

小窓から見える席ーーS席に零がいた。私服姿でオペラを楽しそうに見ている。気のせいかこっちを見て、ニィと笑ったような気がする。

 

『間違えた......ここじゃない』

 

シャーロックがボソリと呟く。

 

「『教授』?」

 

『ここじゃなかった。間違えた。理子君、急ぐんだ。本当に爆弾が仕掛けられている場所は、ローズホテル横浜だ』

 

 

 

ローズホテル横浜ーー

神奈川芸術劇場からさほど離れていない、横浜中華街に位置するローズホテル横浜は、山下公園、元町にも徒歩5分と絶好の観光拠点になっている。四川料理で有名な「重慶飯店」の新館やアロマテラピーサロンもホテル内にある。

 

そのホテルに向かって理子は走っていた。人混みをうまく潜り向け、ホテル前に来た瞬間、ドガァァァァァンとホテル4階が吹き飛んだ。辺りに割れた窓ガラスが舞い、ホテル周辺にいた人間は何が起こったかわからず、パニック状態だ。

野次馬を駆け抜け、理子は4階に向かった。

 

「うっ......!」

 

爆破のあった部屋は惨劇だった。

家具は粉々、壁には血が飛び散り、床には即死だろう10人の死体が転がっている。

 

 

 

 

イ・ウー本部ボストーク号にてーー

 

「ここから打ったようだね」

 

『教授』ことシャーロックは、ステッキを銃のように構える。

シャーロックは自室に、理子とジャンヌを招いて、ホテル爆破事件について説明していた。

部屋にあるパソコンにはホテル周辺の地図ーー特にホテル向かい側の空きビルが大々的に表示されている。

現場の写真ーー理子が後で撮影したモノである。

 

「ねぇ、『教授』。ツァオツァオ達はどうなったの?」

 

「安心しなさい理子君。ちゃんと救出したよ。なんたって蘭幫の諸葛君の部下だからね」

 

「それで『教授』。この惨劇はツァオツァオ達を誘拐した者による犯行だというのか?」

 

「間違いないよジャンヌ君。これを見たまえ。三脚と腰掛け兼用のステッキを使っている」

 

シャーロックは理子が撮影したホテル向かい側の空きビルーー屋上のとある場所を指し示す。そこには何か細長いモノを置いた跡がある。

 

「いや、待て『教授』。もっといい場所を見つけた。僅かだが、三脚を引き摺った跡がある......ここだ」

 

ジャンヌが写真に写る僅かな跡に気づいた。

そこにはジャンヌの指摘通り、三脚を引き摺った跡がある。跡を追っていくと、ホテルからかなり離れた場所で終わっている。

 

「よく気づいたねジャンヌ君。正解だ」

 

「500mはあるね」

 

「いや、理子。600はある。風速は3mほどだろう」

 

「あと、手すりにタバコを押し付けた跡もある。おそらく、ここでタバコを消したんだろう」

 

3人は写真をまじまじと見る。

屋上の写真には手すりの上に風速計を置いた丸い跡と、タバコを消した焦げ跡があった。

 

「三脚のタイプからして、使われた銃はマルティニ・ヘンリー銃だね。消音器付きに改造してある」

 

「随分と古い銃だな。今時使っている者など私は見たことがない」

 

「でも『教授』。どうしてホテル爆破現場の周辺を調べろって、言ったの?この狙撃銃の跡と何か関係が......」

 

「僕の推理では、ホテルの爆破は囮だろう。本命を狙うためーー爆破によってターゲットを、誰を狙っていたか分からなくする狙いがあったんだろう」

 

「巧妙だな。爆破現場では誰も銃弾の跡など探さない」

 

ジャンヌは謎の狙撃手の姿を思い浮かべた。

屋上でタバコを吸い、銃を組み立て装填、風が吹く中ターゲットのみを射殺するーーおまけに爆破に合わせて。

 

「狙撃現場には何か他に残っていなかったのか理子?」

 

「あっ、そういえばこんなモノが落ちてたよ」

 

理子はポケットから袋を取り出した。袋には刻んだ葉っぱのような物が入っている。

 

「これは煙草葉だね。香りからしてトルコ葉だけじゃなく、バージニアもミックスされている」

 

トルコ葉......そして、狙撃。この2つにシャーロックはある人物を思い出した。過去に自分を射殺しようとした、とある大佐の事を......

 

「犯行現場には武偵が駆けつけたんじゃないかい?」

 

「うん。ホテルの近くにいたあたしの学校の連中が駆けつけてきたよ」

 

爆破のあったホテル周辺に武偵が偶々、いるなど都合が良すぎる。

 

「犯行はおそらく、『武偵殺し』つまりは理子君。君の仕業と断定される」

 

シャーロックはパイプを吹かしながら続ける。

 

「はあ⁉︎なんでだよ⁉︎あたしはやってないのに......!」

 

「現場から採取された証拠品ーー理子君が使っていた爆弾の部品と同じ物が発見されるだろう。ココ君が君に伝授した爆弾がね」

 

「ツァオツァオ姉妹を誘拐した者ーー黒幕は理子に恨みがあるのか?」

 

「いや、理子君に恨みはないだろう。これは''方法''だろう」

 

「方法?どういう意味だよ『教授』」

 

「この爆破事件は序章に過ぎない。いや、もしかしたら僕への挑戦かもね」

 

 

 

後日ーー

ローズホテル横浜爆破事件はニュースで大々的に取り上げられた。

犠牲となったのは海外の某貿易商の重役10名だった。

犯行は『武偵殺し』によるものだと断定。マスコミは『武偵殺し』が初めて武偵以外を狙った事を連日に渡り報道した。

しかし、この『武偵殺し』を英雄視する者が現れた。

殺害された10名は貿易商を隠れ蓑にした人身売買組織の一員だった事が発覚した。




ちょっと要素が足りないかな(苦笑)
もっと文章力が欲しい!(´;ω;`)

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