私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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家宅捜査?

別視点

 

理子はリビングに戻り、零が所有する本を記録し始めたーー本棚にあるモノだけじゃなく、床やテーブルに置かれている本も全てだ。

 

「うわ〜、零って、こんな本も読むんだ。明らかに武偵向きのモノじゃないね」

 

床に置いてある本ーー『世界の拷問一覧』『殺人鬼』『ゴッサム・シティのビラン』『ネルグ街の悪夢』『凶器と狂気』『殺人を無罪にする方法』などタイトルからしてヤバいモノばかりだ。

 

「こっちの本は何度も読んでるみたいだね。表紙と背表紙のシワが大きいし......あっ!フセンがしてある」

 

理子はテーブルに置かれている本に目が止まった。

『司法取引』『刑事告訴』『刑事免責』『取引後の犯人』『逮捕されない犯人』『時効反対』『撤廃』『家庭栽培』ーーテーブルに置かれているこれらにはフセンがしてあり、明らかに何度も読んでる事がわかる。

試しに何冊かパラパラと巡ってみると、

 

「『刑事免責』と『取引後の犯人』って、本のページにシワがある......これはグシャッと握って出来たものだ。零は本を大事にするのに何でだろう?」

 

2冊の本ーー『刑事免責』と『取引後の犯人』のページには、零だろうか?ーー誰かが握った為かグチャグチャになっていた。

零が本を大事する事を理子は知っていた。誰かに貸して、傷物にされたの手元に残した?

もしくは、零本人がグチャグチャにしたのだろうか。

 

「理子。そっちは捗っているか?こっちはある程度、記録したぞ」

 

リビングにジャンヌがやってきた。どうやら、別室にあった蜘蛛の巣を記録し終えたようだ。

 

「お疲れ〜。こっちはまだだよ。零って、色んな本読むから記録するだけで一苦労だよ」

 

「手伝おう。うん?何だこの本はいくつかのページがグチャグチャだ」

 

「そうなんだよね。零って、本を大事にするのに変だと思ってさ」

 

理子は2冊の本を眺めていると、ある事を思い出した。

 

「そういえば......零が前に担当した事件で刑事免責で罪に問えない犯人が許せないって、言ってた」

 

「それはどんな事件だったんだ?」

 

それは7月に入る少し前、子供を狙った連続誘拐事件を解決してほしいと零に直接依頼が舞い込んできたーー入学してから、幾つもの事件を解決して有名になっていた武偵だから珍しくはなかった。

事件は10年前から行われ、それまで7人の子供が誘拐された。7人の内、2番目と3番目の被害者は遺体となって発見された。

犯行の手口は子供を誘拐し、現場にメッセージの入った風船を置いていくという武偵や警察に対する挑戦状だった。

 

「零は見事に誘拐犯を暴き出したんだけど、誘拐犯には共犯者がいたんだよーー最初に誘拐された子供だったんだ。誘拐された当初、10歳で今は20歳になってたから、十分罪に問えたけど、零は誘拐犯ーー首謀者を逮捕するために取引を持ちかけたんだ」

 

「取引......ああ、成る程な。刑事免責か」

 

取引というワードにジャンヌは納得した。

刑事免責ーー刑事訴訟において,自己が刑事訴追を受けるおそれがあるとして証人が証言を拒否した場合に,証言義務を負わせることと引換えにその罪についての訴追の免除の特権 (免責特権) を裁判所が与えること。アメリカ合衆国の連邦法や多くの州法に規定があり,共犯者に免責を保障し,首謀者の訴追を確保することをおもなねらいとする。

 

「刑事免責を持ちかけ、首謀者である誘拐犯を逮捕したんだろう?共犯者は罪に問えなかったが、そいつも被害者の1人だ。取引は妥当だと思うぞ」

 

「違うよジャンヌ。逆だったんだよ。誘拐された子供の方が首謀者だったんだよ」

 

「首謀者だと⁉︎しかし、共犯者の方は当時、子供だったハズだ」

 

「誘拐されて10年の内に立場が逆転したんだよ。自分を誘拐した犯人をそいつは支配下に置いて、自分が首謀者になった。後は話さなくても分かるでしょう?」

 

「首謀者ではなく共犯者になり、刑事免責を利用して罪を逃れたわけだな。中々、頭が回るようだ。それで事件はどうなった?」

 

ジャンヌは理子に問うた。事件の結末がどうしても気になったからだ。

 

「刑事免責のおかげで罪にとえない事に零は激怒してたよ。あれはよく覚えいるよ。犯人にも、そして取引を持ちかけた自分に対してもね。それから零は撤退して罪を立証するために、頭を働かせてたよ」

 

理子は当時の事を思い出していた。

零は徹夜して法律関係の本を読み漁り、司法機関、武偵検事に片っ端しに電話をして、首謀者から共犯者になった犯人を罪にとえる方法を探し続けた。

 

「それでね。零は刑事免責の穴ーー共犯者という名目に目をつけたんだ」

 

共犯者ーー犯罪を共同で実行した者。または犯罪に関与した者。

 

「共犯者がどうしたのいうのだ?」

 

「零は犯人が共同で行なっていない誘拐ーー単独犯として行なった誘拐事件を立証して、逮捕したんだよ。でも単独で行なった誘拐は3件目の誘拐だけで、他は共犯者として行なった事になっていたから、事実上、一件の犯行しか立証できなかったけど......」

 

「成る程な。だから、この『刑事免責』の本はここまでグチャグチャなのか。余程、悔しかったのだろう」

 

「まあ、結局、その犯人は護送中、被害者遺族に誘拐されて殺されちゃったけどね」

 

事件があっけない結末で終わったからかーー理子はつまらなそうに、はぁーと溜息をつく。

 

「零の回想は終わりにして、調査を再開しようか」

 

「そうだな」

 

2人は再び調査を再開し始めたーー理子は再びリビングを、ジャンヌはキッチンの方に向かった。

 

「ここは化学実験室か?とても調理場とは思えないな」

 

中に入ってみると、そこは化学実験室だった。

実験装置は驚くほど本格的で、ずらりと並んだ大きなビーカーには気味の悪い緑色の液体が入っていて、そこから煙が立ち上っているーー換気扇は回っているので問題ない。

リビングに戻って取ってくるのが面倒なのだろうか?本棚がある。

ジャンヌは本棚を眺めてみると、古くてボロボロの学術書がコレクションされている。毒物に関する本だけで一段すべてが埋まっている棚もある。一番下の段には、『種の起原』、『女王蜂を隔離した場合の巣』、『人体の解剖学』、『発火現象』、『アレイスター・クローリー』などがあるーー隅には『緋色の研究』も置いてある。

キッチンのテーブルには、蜂蜜と苺ジャムとマーガリンがある。

 

「うっ⁉︎これはカエルの死体か?何故、そのままにしている?」

 

直径20cmほどの銅製の容器に5匹のカエルがプカプカと浮いているーーどうやら死んでいるようだ。

容器の隣には、死んだカエルの経過を調べる為だろうかーー解剖されたカエルの死体がある。おまけに解剖セットもそのままだ。

 

「こっちはサンプル棚か。どこのモノだ?」

 

キッチンの壁際に置かれた古い棚には、無数の土層サンプルと血液サンプルと歯の入った瓶類の重みでたわんでしまっている。

 

「うん?これはバイオリンか?何故、こんな物がここにある?」

 

瓶の横にあるバイオリン・ケースに目が止まった。明らかに、キッチンいや、化学実験室には不似合いだ。

 

「ジャンヌ〜、こっち来てよ」

 

理子の呼ぶ声が聞こえてきたので、ジャンヌはリビングに戻った。

 

「どうした理子?」

 

「見つけちゃった☆」

 

理子は手に万札を抱えていた。パッと見た限り、500万円はあるだろう。丁寧にロール状にして輪ゴムで止めてある。

 

「そんな物、どこから見つけてきた」

 

「リビングに置いてるクッキー缶の中にありました〜。零って、ベタなところがあるから、もしやと思って開けてみたら、ありましたよ」

 

「欲に駆られて盗むなよ理子。奴が確認したら、1発でアウトだ」

 

「も、勿論じゃん。あくまで調査の一環で開けてみただけだよ」

 

理子は渋々と札束をクッキー缶に戻す。

 

「それで他にめぼしい物はあったか?」

 

「うーん、めぼしいと言うか、変な物ならあったよ」

 

理子はジャンヌをベランダに方に案内した。

ベランダには様々な植物ーートマト・キュウリ・ピーマンが植えらていたが、どれも枯れている。

 

「どれも枯れているな。妙だな......奴は几帳面な性格をしていると思ったんだが」

 

「そんな零が植物を枯らしちゃうなんて変だよね。これも記録しよう」

 

理子はカメラでベランダの光景を撮影する。

ある程度、撮影し終えた2人はリビングに戻り、

 

「よくベランダの植物に気づいたな理子。私なら見落としていた」

 

「くふ。零からアドバイス貰ってたんだよ。『いかなる事も観察して、分析してみたら』ってね。おかけで観察眼に自信が持ててきたんだよね」

 

ジャンヌは知らないだろうが、零は理子を始めとした探偵科の生徒達を集めて講習をしている。

そこでは自信が感じた捜査の現状、不満、改善点などを指摘し合える場を設けているのだ。

零は探偵科の生徒にアドバイスも与え、武偵ランクや捜査能力を向上させた生徒を何人も輩出している。理子もそんな生徒の1人だ。

 

「リビングの他に気づいた事はないのか?」

 

「あっ!そうそう、これなんかウケるよ」

 

理子が差し出してきたのはパイプだった。ビリヤードと呼ばれるボウルが大きく曲がったパイプーークラシカルな形で、一般的なタイプだ。ボウル部分にはMと刻印されている。

 

「奴は喫煙者か?いや、この香りからして精油だな」

 

「郵便物として届いた物みたいだね。ほら、ゴミ箱に包み紙が捨ててあるよ。差出人は......イギリスのベイカー街ってあるね。氏名は読めないーーグチャグチャだ。誰かからのプレゼントかな?」

 

ゴミ箱の中には郵便物の包み紙が沢山捨ててあった。

側のテーブルの上をよく見れば、他にも沢山の郵便物があるーーどれも未開封の物だ。

品物は、油彩画・化石・昆虫標本・剥製など小包ごとバラバラだったが、共通する事が1つだけあった。

差出人は皆、イギリスのベイカー街。氏名はワザとだろうか。名前の欄はグチャグチャとなぞり書きーー読めないようにしてある。

 

「ベイカー街......『教授』に縁深き場所だな。それにしてもパイプか」

 

「ぷぷ、ダメだ。零がパイプ吹かしながら謎解きする光景が目に浮かんじゃう」

 

理子は口に当て、必死に笑いをこらえる。無理もない。あの『教授』の宿敵のひ孫がパイプを吹かしながら謎解きをするのだ。

 

「絶対に『教授』が知ったら、爆笑もんだよ!あー、ダメだ。お腹痛くなってきた」

 

「確かにな。これに奴が鹿撃帽でも被れば......プ、ダメだ。私も可笑しくなってきた」

 

「ぷはは、やめてよジャンヌ。笑わせないでよ!」

 

2人して笑い始めた。

 

「あー、パイプを吹かしながら『知恵の泉が私に囁いているのだよ』とか『混沌のカケラを再構築してやろう』って、言いそう。頼んだらやってくれるかな」

 

「何かのアニメの台詞か?」

 

「そうだよ☆絶対に零に言わせよう」

 

あり得ないかもしれないが、鹿撃帽を被り、手にパイプを持っている零の姿は何ともカオスな光景だろう。

そんな零の姿が見たくて、来年の文化祭で着せてやろうと計画する理子であった。

 

 




次回は零の新しい仲間達を登場させる予定です。
その後はあっちの『教授』と対決させるつもりです。
対決が終わったら、原作突入させます。

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