私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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この話で誰もが「お前が言うなぁぁぁぁぁ‼︎」と思うでしょう......




犯人は......お前だ‼︎

 

キンジ視点ーー

 

土曜日だというのに、俺は武偵病院のベットの上で寝ている。

武藤ーー車輌科の連中はランバージャックの前に俺を鎖で繋ぐと、そのままバイクでグランドを走り回りやがった。

あらかた走り終えると、間を入れずにランバージャックを開始した。

 

「あー、くそっ!思い出すだけで痛くなる......」

 

あれはランバージャックという名のリンチだったぞ!

俺と武藤を囲んでいた連中は武藤に味方するし、武藤に至っては凶器ーー散弾銃まで持ち出しやがった。

それに対して俺は素手で勝負するしかなかった。ダチに銃を向けるなんてしたくなかったからな。

 

「しかし......武藤はどうしちまったんだよ!」

 

武藤の様子は明らかにおかしかった。

あいつは偶にイッテルところがあったが、あそこまではひどくはなかった。

真っ直ぐで曲がったことが大嫌いな感じのいい奴だったのに!

武藤について考えていると、ガラリと部屋のドアを開いて、

 

「やあ、金次君。お見舞いに来たよ〜」

 

零が入ってきたーーその手にフルーツの盛り合わせが入った籠を持って。

炎天下の中、歩いてきたのだろうか?夏用の制服は汗で濡れて透けている。おいっ⁉︎下着が透けてるぞ!

しかも、く、黒だと⁉︎

待って⁉︎近づいてくるなよ!

 

「おや?どうしたのかな金次君〜興奮しているのかい?ならば思う存分興奮したまえ。知っているかい?興奮することで血流が早くなると、傷の治りが早くなるんだよ」

 

零は俺の側に寄るとやたらと胸の辺りを強調してくる。

そんな知識知らねえし!知りたくもねえよ!

こいつは本当に俺を揶揄ってくる......絶対にこいつでヒステリアモードになってたまるか!もしもなってみろ。その時はさらに揶揄われるに違いない。

 

「何の用だよ?こんな俺を見て笑いにきたのか?」

 

「そんなわけないよ。相棒が怪我を負ったと聞いてお見舞いに来たんだよ。さっきも言ったでしょう?」

 

零は丸椅子を持ってくると、俺の側に座って籠からりんごを取り出し剝きだした。

うん?何だよその変わったナイフは?

零の使っているナイフーー柄は丸くスイッチのようなモノが付いている。

 

「変わったナイフだな。かなり大きいし、重くないのか?」

 

「これかい?これはワスプナイフと言ってね。前に装備科の子から相談に乗ってあげたお礼として貰ったんだよ」

 

ワスプナイフーー直訳するとスズメバチのナイフ。文字通り蜂の一刺しのごとく、ナイフの柄の部分に仕込んである高圧ガス(炭酸カートリッジボンベ) が、スイッチを押すことで刃の部分から一気に噴射されるというもの。これにより刺した臓器や対象物は瞬間冷凍され、そのまま木っ端微塵に粉砕されてしまうという恐ろしい代物だ。

おいおい⁉︎なんて物でりんごの皮を剥いてんだよ。

それは本来、海でダイバーがサメに襲われた場合に備えて持っている物だぞ。

 

「間違っても人間に使うなよ。刺した瞬間、木っ端微塵だからな」

 

「大丈夫♪人間に使うなんて、そんな恐ろしい事を私がする訳ないじゃないか」

 

悪いが零......お前ならやりそうな予感がする。

いや考え過ぎか。こいつも武偵だし武偵法はしっかり守るだろう。

 

「それよりも金次君。聞いたよ、武藤君を始めとした車輌科の人達と乱闘したんだってね。うちのクラスはその話題で持ちきりだよ」

 

あー、そうなるよな。グランドのど真ん中であれだけの騒ぎを起こせば人目につくか......

俺と武藤と何十台ものバイク集団、おまけに全員おかしな服装に頭をしていればな。

 

「おまけに白雪さんも乱闘に加わったんだって?意外だなー、あの大人しそうは白雪さんがね」

 

白雪か......ランバージャックという名のリンチで一方的にやられている俺を見て白雪がキレた。

突然、頭に結んでいた白いリボンを取ると炎を出しやがった。

そして、その炎で車輌科の連中が乗っていたバイクを焼き払った。

白雪の話ではあれは超能力の一種で、普段はリミッターとしてリボンを結んで抑えているそうな。

 

「白雪は、あいつは何も悪くない。悪いのは不覚を取った俺の方だ」

 

「自虐的だね。いや白雪さんを庇うーー優しい所は金次君のいいところだね」

 

「褒められても嬉しくねぇよ」

 

「そうかい。それにしても白雪さんは入院していないみたいだね。受付で確認してみたけど居ないって言われたよ」

 

白雪はあの後、教務科に連れて行かれた。

後で確認したら、何でも青森の実家ーー星伽神社に呼び戻されたそうだ。

 

「あいつは実家に帰ったよ。なんか星伽の禁を破ったとか何とか......」

 

「なるほどね。白雪さんの実家は神社だし、色々と訳ありぽいね。まあ、そこは踏み込んであげない方がいいかもしれないね。はい、りんご」

 

そう言って零は剥き終えたりんごを俺に差し出してきた。

確かに......白雪の実家は閉鎖的な所があるし、色々と訳ありな事もあるか。

 

「どうしたの金次君?ほら、遠慮なく」

 

「ーーなあ、零。これは自家栽培とかそんなんじゃないだろうな?」

 

俺は思わず、こいつの料理について考えてしまった。

こいつの料理は食べられた物じゃない!前に試しに自分で作った料理を食わせてみたが、平然としてやがった。こいつの味覚は本当にどうなってるんだ?

 

「自家栽培だなんて......フルーツはしてないよ」

 

フルーツ以外はするのかよ!こいつの育てものはどうなるんだ?まずい!考えただけで胃が⁉︎

 

「なら、いい」

 

俺は意を決して、りんごをシャックと一口齧った。う、うまい⁉︎りんごがこんなにうまく感じなんて⁉︎普通の食材は素晴らしいぞ。

 

「ーー零。お前は武藤たちの事をどう思う」

 

「武藤君たちがどうかしたの?あー、気になるよね。あれだけボロボロになれば」

 

俺はりんごを食べならがら、零に武藤たちについて尋ねた。

行儀が悪いとか細かい事は気にしている場合じゃない。これは重大な話だ。

 

「怪我の事じゃない。実はな......武藤たちは誰かに唆されたようなんだ」

 

「武藤君たちが?うーむ、武藤君たちの様子は私から見てもおかしいなとは思ったね」

 

「......なんだか見ていたような口振りだな」

 

「うん。見てたよ。私も加勢しようと思ったんだけど教務科の先生たちに止められてね。ごめん、相棒のピンチに駆けつけられなくて。相棒失格だね」

 

零はショボーンと、落ち込みだした。

そんなに落ち込むなよ......これじゃ俺の方が悪いみたいじゃねぇかよ。

 

「ーー言い方が悪かった。すまん、教務科に止められたんじゃ仕方ないよな」

 

「いや、気にしないで金次君。さて、気を取り直して話の続きといこうか?どこまで話したっけ?」

 

「ああ、武藤たちは誰かに唆された気がしてしかたないんだ。武藤は俺と戦う前に『俺たちはあの方に自由に生きるようアドバイスを貰った』と言った。俺はあの方という奴が今回の乱闘騒ぎの黒幕だと思うんだ......それと」

 

俺は零に事の顛末を語った。

 

 

 

 

「......ふーん、なるほどね。あの方とやらの正体は直ぐにわかるとも思うよ。武藤君から直接聞けば......」

 

「それなんだが、武藤はまだ意識を取り戻していないんだ。医者の話では肉体のダメージが酷いみたいだな」

 

武藤を始めとした車輌科の連中はランバージャックの後、全員病院送りになった。

幸いにも一命を取り留めた。もしも死人が出たら大変だからな。

 

「うーむ、武藤君から話が聞けないのは痛いね。なら意識が戻るまでの間、私たちで黒幕を見つけようじゃないか」

 

「手伝ってくれるのか......!」

 

「当たり前じゃないか。私もその黒幕とやらに腹が立っているんだよ。金次君のダチは私のダチでもあるからね」

 

ダチって、零もそんな言葉を使うんだな。意外だったぜ。

 

「それじゃあ、今ある情報で推理してみようか。あっ、一個貰うよ」

 

そう言って零は林檎を丸ごと1つガリッと齧った。

おい⁉︎剥かないのかよ。

そのままモグモグと口を動かしながら、

 

「うーむ、まず武藤君が何故、そんな暴挙に出たか?金次君、何か思い当たる節はないかい?」

 

俺に尋ねてきた。俺も人のことは言えないが口に物を入れて喋るな。

 

「武藤は最後に『俺が欲しかったのは白雪さんだぁぁぁぁ』って言ったんだ。多分、白雪が関係していると思う」

 

「いや、正確には白雪さんと金次君じゃないかな?知っているかい?クラスの間では白雪さんと金次君は恋人同士だって噂だよ」

 

恋人って、俺と白雪はそんな関係じゃないぞ。一体誰だよ?そんな噂を流したのは?

 

「じゃあ、武藤がああなったのは俺と白雪のせいだって言うのか?」

 

「いや、そうじゃないよ。武藤は恐らく、なんと言えばいいかな......金次君。最近、白雪さんと一緒にいる時間が多くなかったかい?」

 

そう言えば確かに、最近は白雪と一緒にいる時間が多かった。昼食や放課後なんかが特に一緒にいたな。

昼食なんか白雪が作った弁当を食べたりして......

 

「恐らく、武藤君は白雪さんが好きだったんだよ。思い当たる節があるんじゃないのかい?例えば......入学直後のランバージャックとかさ」

 

「武藤のあれは白雪を巡ってのだったか......そう言えばやる前にやたらと白雪について喋ってたな」

 

「そしてランバージャックで金次君に敗北し、白雪さんの事は諦めた」

 

「俺に負けた?すまんが、ランバージャックについては、よく覚えていないんだ」

 

俺は武藤とランバージャックをしたのは、覚えているが結果は知らない。お互いボロボロになるまでやったのは覚えているが......

 

「私の知る限り、勝ったのは金次君だよ。おっと、話を戻すね」

 

零は話に一区切り付けると、また林檎を齧りだした。

 

「武藤君はそれを境に白雪さんへの思いを諦めた。しかし、金次君と白雪さんが仲良くしている光景を見て、昔の想いが蘇ってしまった」

 

武藤......そう言えばアイツは「俺はお前と白雪さんが仲良くしている光景を何度も何度も何度も見せられて、悔しかったんだよ‼︎」って泣きながら言ってたな。

 

「武藤君はあの方とやらに、その想いを利用されたんじゃないのかな?」

 

零はそう言うと林檎を食べ終えた。

お前は林檎の芯まで食べるのかよ。せめてタネは捨てろよな。腹を壊すぞ。いや、こいつなら心配ないか。

 

「それじゃ何か?武藤はまんまと踊らされたのかよ‼︎くそっ、人の想いを利用しやがって......‼︎」

 

クソッタレ‼︎胸くそ悪いぜ。黒幕もそうだが、武藤の心情に気づいてやれない自分にも腹が立ってきた。

 

「......本当に酷いよね。人の想いを利用するなんて最低だ」

 

「俺は何が何でも黒幕を見つけ出す!そして、この落とし前をつけさせる」

 

「私もいるよ?」

 

零は突然、俺の手の甲に自分の手を乗せてきた。

ふんわりとして、肌は白く見るからにスベスベだ。

 

「金次君、私は君の相棒......確か武偵は『仲間を信じ、助けよ』だったかな?ごめんね。その辺りはまだ覚えきれてなくてね」

 

「いや、まあ、だいだい合っているぞ」

 

「全部1人で抱え込む必要はないよ。どれ、私も抱えてあげようじゃないか。お荷物1つ1000万で‼︎」

 

「って、タダじゃないのかよ⁉︎しかも1000万とか高すぎだ!」

 

「ははは、ジョークだよ」

 

まったく、こいつは......冗談も程々にしろよな。

 

「まあ、ありがとうよ。なんか気が楽になった」

 

「どういたしまして」

 

こいつは俺を揶揄ってくるが、不思議と頼りになる。こいつと一緒にいれば、近い内に武藤を誑かした黒幕にも辿りつけるだろう。

俺が決心していると、部屋のドアが再びガラリと開き、

 

「キー君、ちょりーす」

 

理子が入ってきたーーその手に沢山のお菓子を持って。

そういえばこいつの病室は俺の隣だったな。

 

「おや、れいれいじゃん!どうしてここにいるの?」

 

「不甲斐ない相棒のお見舞いさ♪」

 

おいっ!不甲斐ないって、どういう意味だよ?

 

「相棒⁉︎すごいじゃんキー君!どうやって攻略したのさ?れいれいは難易度MAXなのに」

 

理子はベットの周りを走り回りがら騒ぐ。

うるせぇぞ‼︎病院では静かにしろよな。

ちょっとは零を見習えよ。

 

「まあまあ、りこりん。これでも食べて落ち着きたまえ」

 

零は理子に自分が持ってきたフルーツの盛り合わせを差し出した。

それは俺の見舞いの品じゃないのかよ。

 

「ありがとうれいれい。じゃあ、私もこれあげる」

 

理子は持ち込んでいた菓子の1つーーまんじゅうのようなものを零に差し出してきた。

 

「......」

 

「どうしたのれいれい?ももまん嫌いだった?」

 

「あー、ごめんね、りこりん。私、これ苦手なんだ」

 

零はまんじゅうーーももまんを見て、苦笑いした。どうしたんだ零。そんなにももまんが苦手だったのか?

俺には何だか大嫌いな物を見ているように見えるぞ。

 

「そうだったんだ〜ごめんね。りこりん知らなかったよ」

 

「ははは、気にしないで。さあ、フルーツをお食べ」

 

「ねぇ、これってどこで買った物なの?」

 

「それかい?私の自家栽培さ♪」

 

「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

 

突然、理子は叫び出すと病室から走って逃げっていった。

おい、どうしたんだ理子⁉︎待て、確か理子の入院した原因は......

 

「なあ、零。お前、理子に手料理を食わせたか?」

 

「......さあ、ナントコトカワカラナイナ」

 

嘘吐け‼︎

理子の入院の原因はお前か......理子のあの様子は尋常じゃなかったぞ。

あれはトラウマものだな。うっ⁉︎なんだ料理の事を思い出すと急に腹が......⁉︎痛い‼︎凄く痛むぞ‼︎おまけに目眩が!

 

「金次君?どうしたんだい?金次君!応答して金次くーーーーん‼︎」

 

零のそんな声を聞いて、俺は意識を手放した。

 




林檎ーーこのアイテムが意味するものとは。

白雪は実家に......理子は入院が延び......武藤は記憶が飛んだ


次回はホームステイ。さて男か?女か?
あの狙撃の名手さんをどうするかな。

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