私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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最初に武藤君ファンの皆さま、ごめんなさい‼︎


愛を取り戻......いいや奪っちゃえ♪

 

東京武偵高校ーー車輌科にて

時刻は午前12時40分、お昼休みだ。

 

「武藤君、例の物は手に入ったかい?」

 

「勿論だぜ。確認してくれ」

 

私は武藤君と一緒に車輌科のガレージに来ていた。

何故ここに来たかというと、武藤君を始めとした車輌科の人たちにあるブツをお願いし、受け取りにきたからだ。

 

「ほらよ、ご対面だぜ」

 

武藤君はそう言って、ガレージのシャッターをガラリと開けた。

薄暗いガレージの中にあったのは、黒塗りの車ーーポルシェだった。

 

「ポルシェ356aーー水平対向エンジンを搭載。旧車マニアの間では、コイツは、たまらない名車中の名車だぜ」

 

これこそ私が武藤君ーー車輌科にお願いして、手に入れてきてもらったブツだ。

ポルシェ356A

ボディから独立してガード付きバンパー、曲面形状のシングルピース・フロントウインドウに丸型テールライト

1956年代のスポーツカーであり、ポルシェと言う名前を世界中に広めた名車だ。

決して、某子供探偵に登場したから気に入ったのではない!

偶々、車のパンフレットを見てたら気に入ったので、車輌科にお願いして探してもらったのだ。

 

「せっかくだから、エンジン吹かしてみろよ」

 

武藤君がキーを私に投げて渡してきた。

そうだね。せっかくだし、エンジンをかけてみよう。

運転席に乗り込み、キーを挿し込んで回すとブォォォォォオンというエンジン音がガレージに響く。

うーむ、この独特の不等長なアイドリング音は実に素晴らしい。

高校1年生で車の運転ができるとは、武偵免許は本当に便利だよね♪

 

「探しくれてありがとう、武藤君」

 

「いいって事よ。零に世話になりぱなしだったから、借りが返せてよかったぜ」

 

世話......あっ!勉強のことだね。

大袈裟だな〜私はほんの少しだけ、少しだけアドバイスしただけさ。

 

「しかし、零も渋いな。ポルシェ356aを欲しがるなんてさ」

 

「この丸みを帯びたポルシェ独特のフォルムが気に入っちゃってさ。それよりも本当に良かったのかい?相場の半分の価格でさ?」

 

この車は勿論、私のお金で買った物だ。武藤君ーー車輌科には探し出してもらっただけ。

最初は相場の金額を武藤君たちに渡そうとしたのだが、「そんなに要らないぜ。半額で手に入れてくる」と言ってきたのだ。

頼もしいと思った私は、お手並みの拝見も兼ねて任せた。

武藤君の態度を見るからに本当に半額で手に入れてきたようだね。

 

「構わねえよ。特定の車を探し出して、限られた金額で手に入れるのも俺たち車輌科の仕事だからな」

 

限られたって、そっちが提示してきたじゃないか。

無理せず相場の価格でよかったと思うけど......まあ、いいか!

 

「......なあ、零。ちょっと相談したいことがあるんだが、いいか?」

 

おや?急にどうしたのかな?また、勉強......いや、最近の武藤君の一般科目の成績は向上している。

この態度を見る限り、勉強関係ではなさそうだね。

 

「構わないよ。どうしたのかな?悩み事があるなら言ってごらん」

 

「ああ、実はよ......白雪さんについてなんだ。最近、キンジと恋人になったと聞いてよ」

 

あー、なるほど。武藤君はまだ白雪さんのことが諦めきれていないんだ。

白雪さんは最近は積極的になって金次君の側に付いている。「自分こそキンちゃんの恋人だ!」と言わんばかりのイキオイだ。

白雪さんは武藤君の気持ちに気づいていないな。

 

「白雪さんのことが諦められないんだね」

 

「ーー白雪さんを巡って、キンジとランバージャックをやったが勝てなかった」

 

ランバージャックか......懐かしいね。あれは入学直後に、金次君と武藤君が徒手でやった。

白雪さんと仲良くしている金次君が気にくわなくて、武藤君から仕掛けたんだっけ。お互いヘロヘロになるまで戦って、最後は金次君が勝ってたな。

 

「また白雪さんを巡って、ランバージャックを申し込むのかい?やめておいた方がいいよ」

 

「なんでだよ?」

 

「白雪さんは金次君一筋だからさ」

 

残酷かもしれないが敢えて、私はハッキリと武藤君に伝える。

それを聞いた武藤君は握り拳を作り、

 

「それくらい、とっくにわかってんだよ!白雪さんの気が俺にないことくらい!でも、でもよ......今でも好きなんだ」

 

声を張り上げたと思ったら、悔しそうに悲しそうにトーンを落としていった。

これは重症だね〜未練を自分の好きな物ーー車で紛らわしていたが、白雪さんと金次君が仲良くしている光景を見て、思いがぶり返したんだ。

 

「ーーじゃあさ、奪っちゃえばいいんだよ」

 

「奪うって、キンジから白雪さんをか?どうやってだよ?いや......親友に対してそんな事は......」

 

ありゃ?言い方がマズかったか......奪うという表現は外聞きが悪いね。

 

「武藤君ーー君の白雪さんに対する愛は本物だと私は思うよ。だからさ、その愛を白雪さんにぶつけるんだよ」

 

愛には様々な形があるからね。純粋な愛もあれば歪んだ愛もある。しかし、どれも愛に変わりはない。

 

「古来から女性というのは強い男性に惹かれるものさ。武藤君が金次君より強いことを証明すれば、きっと白雪さんは武藤君に振り向いてくれるはずさ」

 

「その方法がわかんねぇよ......また、ランバージャックでもやればいいのか?」

 

「うん、そうだよ。もう一度、金次君と戦うんだよ!そして、今度こそ勝利を掴むんだ」

 

まあ、私の計算では十中八九金次君が勝つだろうがネ。

武藤君は体格的に金次君に勝っているが、それでも負けた。何故か?金次君は幼い頃より祖父、父親や兄から戦い方を習って育った。スペックーー育った環境が違いすぎる。まあ、応援はさせてもらうよ。

これで金次君と戦って負ければ、武藤君も未練を断ち切れるだろう。

彼には新しい恋をしてもらいたい。

 

「武藤君はもっと自由になっていいと思うよ。それこそバイクみたいに」

 

「なんでバイクなんだ?例えになってないぞ」

 

「バイクは車道を走れるし、歩道も走ろうと思えばできるでしょう?」

 

歩道を行けば歩行者に迷惑だが......下手な例えかな。それを言うなら自転車の方がいいだろう!なんちゃって。

 

「......確かに......そうだ。そうだよな......!」

 

なんか武藤君が納得してしまった。

おーい、今のは冗談だからね。

 

「ありがとうよ零。なんかスカッとした。そうだよな......もっと自由になればいいんだよ。なんで今まで気づかなかったんだよ、俺はよ!」

 

「あー、うん。そうだよ自由にね。でも、程々にしてね」

 

「となればどうやるか......ランバージャックでいくか?でも、リング役はどうすればいい?不知火はいねえし、理子は入院中だしよ」

 

私の声が聞こえていないのは、武藤君は1人でプランを練っていた。

それにしても、りこりんか......土曜日に差し入れ持って絶対に行こう。

 

「同じ車輌科の人たちにリング役をお願いしてみればどうかな?」

 

「あー、でもよ......あいつらにも予定があるし、俺の戦いに巻き込むのはな」

 

「だったら私が説得してみようか?」

 

「本当か⁉︎ありがとうよ零。早速、頼むぜ」

 

 

 

 

キンジ視点ーー

 

「はい、キンちゃん。あーん」

 

俺は今、白雪と一緒に校庭の芝生にシートを敷いて、飯ーー白雪が作ってくれた弁当を食べている。

こうも変わらず5重の弁当箱とは、朝起きて作るのは大変だろう?

 

「そういう事はいいって、白雪。自分で食べるからよ」

 

「そんな......!酷いよキンちゃん」

 

おいっ⁉︎そんなに落ち込むなよ白雪。たかが弁当くらいでよ。

 

「......わかった。ほら、食わせてくれ」

 

「うん!はい、あーん」

 

白雪の掛け声に合わせて、俺は口を開ける。

うん、うまいな。白雪の飯は本当にうまい......零よりも遥かにな!

あいつの料理はある種の兵器だ。

ヤバイ!思い出すのだけで昨日の料理の味が......!

出てくるな!白雪の料理ーー味が汚染される!

俺と兄さんはあの時、オムライス(外見だけは見事な)を食って死にそうになった。

1つしかない台所の蛇口を求めて、奪い会いになったんだぞ!しかも、兄さんは俺に桜花を打ち込んでくるし......最悪だ。

結局、俺はそのまま洗面所の水道を使った。

 

「なあ、白雪。今度、時間がある時でいいから零に料理の基本を教えてやってくれ」

 

「別にいいけど......どうして?零さんは料理が得意そうに見えるけど」

 

得意だと⁉︎とんでもない。

確かにあいつの料理は外見だけは美味そうだが、中身は食べられた物じゃない。

零の舌ーー味覚はどうなってんだ?

 

「あいつの料理を一度食ってみればわかる......」

 

「......そんなにすごいの、零さんの料理?」

 

ああ、ある意味でスゴイ。白雪も食べてみれば......いや!ダメだ。白雪が死ぬ。

そんな事を思っていると、背後からブォォォォォオンという喧しいエンジン音が近づいてきた。

誰だよ⁉︎こんなにエンジンを吹かしてるのは⁉︎それにこのエンジン音はカワサキのGPX250じゃねぇか。俺が後ろを向くと、

 

「ヒャッハー!キンジ発見‼︎」

 

「よ〜う!キンジ〜お昼ご飯でちゅか〜!」

 

「白雪ちゃんと一緒にお昼とはいい身分じゃねかよ‼︎」

 

「羨ましいな〜俺らも混ぜろよ」

 

ドッドッドッドッドッドッというエンジン音をBGMに何十台ものバイク集団がいた。

何だよコイツら⁉︎いや、待って。落ち着いて観察してみれば、どいつもこいつも見たことのある顔ーー車輌科の連中じゃねぇか⁉︎

 

「キ、キンちゃん......何なのこの人たち?怖いよ......」

 

おれの背後で白雪が震えている。それもそのハズだ。全員、半袖の革ジャンに何故かトゲ付きの肩当てをつけている。

自己主張の為なのだろうか、派手なメイクをしている奴もいるれば......あ、頭をモヒカンにしている奴もいるぞ⁉︎

手には釘バットやナイフ、マシンピストルやAKー47まで持ってやがる。

 

「お前らどうしたんだよ⁉︎揃いも揃って変なカッコしやがって......!」

 

「うるせぇー‼︎これはな......自由の証なんだよ!」

 

じ、自由だと?何を言ってんだよ。誰が見てもダサい格好だぞ。恥ずかしくないのかコイツら?

 

「俺たちはな何ものにも縛られない自由武偵になったんだよ!」

 

「おうさ!武偵法なんかクソ食らえだ!」

 

「他人の決めたルールではなく、自分の決めたルールに従うと決めたんだ!」

 

待て待て!武偵が武偵法を守らなくなったら無法者じゃねぇか!いやコイツらは最早、無法者か......

俺が呆れていると、集団を掻き分けて一台のハーレーダビッドソンが現れた。

 

「ヒャッハー‼︎会いたかったぜ。キンジ〜久方ぶりだな」

 

「武藤......⁉︎」「武藤君......⁉︎」

 

ハーレーに乗っていたのは武藤だった。

髪を金髪に染めて耳にはピアス、首には髑髏のネックレスをしている。服装は半袖の革ジャンにトゲ付きの肩当てしている。お前もかよ‼︎

髪を染めていたから一瞬、誰だがわからなかった。

 

「コレは仮装パーティーのつもりか?車輌科はいつから無法集団になったんだ?」

 

「黙れぇ‼︎俺らはな、束縛から解放されたんだよ」

 

武藤は何処からかナイフを取り出し、ペロッと舐めて答えた。舌を切るから危ねぇぞ。

見るからにただのチンピラだ。

待って......さっき武藤は解放されたと言った。こいつら誑かしたヤツがいるのか?

 

「おい!武藤。一体、誰に誑かされた?こんなふざけた事をするよう命令でもされたのか?」

 

「命令〜?違うね。俺たちはあの方に自由に生きるようアドバイスを貰っただけさ!なあ、お前ら?」

 

武藤の問いに「おうよ‼︎」と他の連中が答える。

あの方?やっぱり誰かが武藤たちを誑かしやがったのか......⁉︎

ふざけやがって......武藤は時々ぶっ飛んだ所があったが、ここまでやる奴じゃない。許せねぇ。

 

「お前らの目的は何だよ?団体で来るってことは何か用があるのか?」

 

「ああ、そうだよ!遠山 キンジ!俺はお前にランバージャックを申し込むぜ!」

 

ランバージャックって、入学直後にやったアレか......何で今更?

 

「それもあの方とやらのアドバイスか?自由と言っておきながらまるで犬だな」

 

俺の言葉を聞いて、他の連中が「あぁん?」とキレだした。

これくらいでキレるなよ。車輌科は大雑把なヤツが多かったが、俺が知るかぎり、ここまで短気じゃなかったぞ。

 

「ヒャハハハハハ、犬、犬、犬ときたか。ハハハハハ」

 

武藤は狂ったように笑い出した。

だ、大丈夫かよ。本当に武藤だよな?

 

「俺たちを犬呼ばわりした罰を与えてやるぜ。おい!」

 

武藤の命令と共に、ヒュンと俺の首に鎖が巻きついてきた。

苦しい....突然、何しやがる!

 

「ランバージャックの前にグランド100周の刑だ!」

 

ブォォォォォオン‼︎ブォォォォォオン‼︎とエンジンが火を噴く。

それとも「ヒャッハー!」と声から、パラリラパラリラというクラクションが鳴り響く。

 

「行くぞお前ら!」

 

武藤の掛け声に合わせて発進する。

待って⁉︎このまま、引きずって行くつもりか!

 

「キンちゃぁぁぁぁぁぁん‼︎」

 

白雪の声が遠ざかっていく。

それと共に俺はバイクで引きずられていった。

 




ランバージャックの結果はーー

黒焦げのバイクの残骸が辺りに散らばっている。全て一瞬で高温の炎によって焼かれたようなひどい状態だ。
そんな中でキンジと武藤、頭に結んでいた白いリボンを解いた白雪の3人だけが立っていた。

「俺が欲しかったのは......白雪さんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」

武藤は最後にそう言うと、力尽きて倒れた。

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