料理とは配合だ。
組み合わせ次第で美味しくも、不味くもなる。
料理とは発見だ。
未知なる味を求め探求心をくすぐらせる。
私は寮の部屋ーーキッチンで料理に明け暮れていた。
何故、料理をしているかというと白雪さんの影響かな。
海水浴以来、白雪さんは金次君にお弁当を作っては昼食時間に一緒に食べている。
白雪さんの作るお弁当は凄いのだ。
何を張り切っているのか重箱ーー5重の弁当なのだ。
拝見させてもらったが、どう見ても2人前ではない。「白雪さん......今日は運動会だったかい?」と言いたくなる程に豪華すぎるのだ。
毎朝起きて、幼馴染いや恋人ーー金次君の弁当を作る白雪さんには感心するね。
彼女は積極的になったと思う。弁当だけでなく時間の都合次第では一緒に下校もしている。
「まずはマグロの切り身を......」
そんな白雪さんを見習って、私も本格的に料理をしようと決めた。
しかし、ただレシピ通りに作るだけでは面白くないので新しい料理ーーアレンジして作るようにしている
冷蔵庫から解凍したマグロの切り身に黒あんを塗り、パン粉をまぶして揚げる。
うん、外見だけは豚カツ風だけど味の方はどうかな......自分で食べるのもいいが、まずは誰かに食べさせて意見を聞いてからにしよう。
誰に食べさせようか考えているとピンポーン、とインターホンが鳴った。
誰だろう?玄関を開けると、
「ヤッホー!れいれい。遊びに来たよ」
りこりんがいた。第一被験者発見!本当にいいタイミングだ。丁度、味見してくれる人が欲しかったんだよね。
時刻は午後18時......うーむ、りこりん?遊びに来るには遅いのではないのかね?この子は本当に自由だな〜。
「いらっしゃい、りこりん。上がって上がって」
「お邪魔しまーす。おや⁉︎この匂い〜貴女は〜、料理してましたね〜?これは揚げ物ですね」
このダミ声は古畑任三郎か......探偵科で流行っているんだね。
「よくぞ見破ったね。明智君」
「そのネタはもう古いよ、れいれい。今は〜私の時代なんですねぇ〜〜〜んーふっふっふ......」
明智小五郎はもう古いのか......これも時代ですかね。
「なるほど、教えてくれてありがとうね。そうだ!りこりん、お礼によかったら私の作った揚げ物を食べてみない?」
「いいの⁉︎やったー、れいれいの手作り料理を食べられるなんて幸せだよ」
りこりんはその場でピョンピョンと飛び跳ねて嬉しそうだ。
私も嬉しいよ味見してくれる人がいてね。
「それじゃ用意するからリビングで待っていてくれたまえ」
「ラッジャー!」
私はそう言ってキッチンに移動する。
いやー、まさか作って初日に味見の機会が訪れるとは......本当についている。
「お待たせーりこりん......?」
マグロの黒あんカツをもって、リビングに戻ってくるとりこりんが壁に貼られた世界地図ーー今、世界中で発生している未解決事件を私なりに考え、関係図に表したものを眺めていた。
「ねぇ〜、れいれい。これは何かな〜、りこりん気になっちゃった」
「それは私の作った事件の関係図だよ」
料理を一旦、テーブルに置いて答える。
「この図を見るとーー今、世界中で発生している未解決事件には法則がある」
「法則?もっと詳しく教えてよ」
「じゃあ、この『武偵殺し』と『魔剣』から説明しようか。この2つの事件は決まって世界中で起こっている」
『武偵殺し』最近になって活発的に活動しているーー武偵ばかりを狙った爆弾犯。殺しという名が付いているが、実際は武偵の乗った乗り物に爆弾を仕掛け、遠隔操作した武装車両で追い回し、最後は海に落とすなどといった幼稚な犯人だ。
『魔剣』正体不明の誘拐犯。誘拐の対象は超能力者武偵ーー通称『超偵』と呼ばれる武偵を誘拐する。犯行の中には強引に誘拐する場合もあれば、超偵とコンタクトをとり勧誘する場合もある。
「この2つの事件ーー犯人には共通点がある」
「共通点?」
「犯行計画ーー作戦立案術がよく似ている。いや、『魔剣』の立案術を『武偵殺し』が真似ていると言った方がいいかな」
「同一人物じゃないの?『武偵殺し』は武偵に爆弾を仕掛けて追い回している間、別の場所で『魔剣』として犯行を行なったとも考えられるよ」
「私も最初はそう考えたけどやめたよ。だって、犯人像が違いすぎる。『武偵殺し』は無秩序型、『魔剣』は秩序型の犯人だもの」
私はりこりんに分析結果を説明する。
犯人像には大きく分けて2種類ある。
秩序型ーー全てにおいて秩序立っている人格が特徴で、高い知能を持っている。尊敬される立場にあり、魅力的で異性に人気がある傾向にあり、犯行の準備段階から徹底していて、犯行を誰にも気づかれずに速やかにこなし、犯行後、警察からの尋問されることさえ想定している。
無秩序型ーー秩序型とは正反対に、社会不適応で孤立して、知能もそれほど高くない。外見に無頓着で総じて無秩序さが見られる。
このタイプの犯人は両親がおらず、自分自身も高校を中退するなど、身の振り方ががさつ。犯行を楽しむ愉快犯の場合、犯行の余韻に浸りたがる傾向があり、犯行現場をビデオに収めたり、犯行現場に戻ることがある。
「私の推測だと『魔剣』は国籍はフランス人だね。ほら、ここ見てよ」
私はりこりんに世界地図ーーヨーロッパ州を指し示す。
「これを見てわかるように『魔剣』の犯行範囲はヨーロッパがメインだね。決まってヨーロッパの国々では強引な誘拐はしていない。全て勧誘している。特にフランス周辺ではその傾向が強く出ている」
「ヨーロッパーーフランスに思い入れでもあるのかな?もしくはアジアに恨みがあるとか?」
「いや、恨みはないだろうね。仮にあったとしてもこの犯人は私情ーー恨みを持ち込まない。そんなものがあれば、ここまでの犯行はできない」
怨念を挟み込んだ犯行には必ずほころびが出てくる。しかし、『魔剣』にはそれがない。戦闘能力のある超能力者を攫うとなればなおさらだ。
「さっきも言ったけど『魔剣』はフランス人、そして高い知性を持ち、作戦立案術と情報収集能力、カリスマ性にも優れている。おまけに超能力者だ」
「どうして超能力者だと思うの?誘拐の対象が自分と同じ超能力者だから?」
「そうだよ。超能力者と呼ばれる人たちは優れた力を持つが故に孤独でもある。大概の人間は自分とは違った存在を恐れるーー超能力者はその対象になりやすい」
孤独な超能力者の前に『魔剣』と呼ばれる超能力者が現れたらどうなるか?答えは簡単だ。孤独な超能力者は仲間ができたと喜ぶだろう。そして喜んで自分から勧誘されるだろうーー勧誘してくる相手がカリスマ性に優れていればなおさらだ。『魔剣』はその孤独感を見事についてくる。ここまでくると誘拐というよりスカウトだね。尊敬するよ。
「凄いね〜。『魔剣』が聞いたら真っ青だね。じゃあさ、『武偵殺し』は?」
一通りの結果を説明し終えると、りこりんは『武偵殺し』について尋ねてきた。りこりんも探偵科だから気になるのかな。
「『武偵殺し』はヨーロッパ州だけでなく最近になってアメリカにも現れている。犯行の手口は、最初はバイク、次がカージャック。乗り物に『減速すると爆発する爆弾』を仕掛けて自由を奪い、遠隔操作でコントロールしているね」
高みの見物と洒落込んでいるが、遠隔操作ーー操作には電波を使う。電波には一定のパターンがあり、何度も使えば簡単に居場所を特定されるが犯人は捕まっていない。
「そして、爆弾の扱いがとても上手い。ターゲットの武偵に悟られず、乗ってから初めてわかるようにするなど狡猾だ」
ターゲットの武偵も訓練ーー車両を点検してから乗車する者もいることを想定して爆弾を仕掛けるなど誰にもできることではない。
「この犯行には計画性がないように見えるが、しっかりと作戦を立案して犯行に臨んでいる。『魔剣』と同じようにね。おそらく、『武偵殺し』と『魔剣』は協力関係ーーそれもかなり親しい関係にある。過去に共通するものがあるか、あるいは出身地が同じーーフランスだったりね」
「どうしたの〜れいれい。私の方を見てさ?」
「うん?いや、なんとなくかな」
そういえば、りこりんの欠席と『武偵殺し』の犯行発生が重なっているような気がするんだよね。
「ねぇ、他にわかったことはない?何かあれば教えてほしいな」
「この犯人は努力家にも思えるんだよね。無秩序型だけどヤケにならず自分を高めるーー向上心に溢れている。いや、力に貪欲と言った方がいいね」
「努力家か......『武偵殺し』が聞いたらどう思うかな?」
「さあ?けど私から言わせて貰えば、この犯人は向上心があって素晴らしいと思うよ」
「えー、れいれいは武偵でしょう?武偵が犯罪者を褒めていいの?」
確かに武偵が犯罪者を讃えるのはマズイだろう。教務科に知られたら銃殺されかねない。
「純粋に褒めているんだよ。犯行はバイクから車ーーエスカレートしている。これは次のステップーー新しいことに挑戦しているように感じられる。向上心豊かで停滞を良しとしない。実に素晴らしいと思わないかい?」
「あはは、『武偵殺し』が聞いたら喜びそうだね。でも、犯罪を暴くだけじゃなく犯人を褒めるなんて、れいれいには犯罪者の才能がありそう」
犯罪者の才能か......まあ、武偵と犯罪者の境界線は曖昧だからね。武偵の中には犯罪ギリギリなこともやる人もいるし。
「じゃあ、『武偵殺し』と『魔剣』だけじゃなく、他の事件についてわかったことはある?」
「他の未解決事件は、そうだね......''共通点があるのに共通点がない''かな」
「なにそれ?ナゾナゾ?りこりんにはわかんない〜」
「同じような犯行があるけど違う。なんと言えばいいかな......まるでお互いの犯行手口を提供しているように感じられるんだよね」
異なる犯人が自分の十八番を他者に伝授し、その人が実行に移している気がする。
この未解決事件の犯人たちはまるでお互いが生徒であり教師にも見える。
「犯人たちの逃走経路は海。空だとあからさまだし、陸だと追跡されるーーどこまでもね。となれば残るは海ーーかと言って船じゃない。潜水艇だ。海でしかも潜水艇なら居場所を探られない。潜水艇は移動するし、拠点としても使えるからさ」
「凄い!凄いよ!名推理だよ、れいれい。もし犯人たちのリーダーが知ったられいれいに興味が湧くかもね」
リーダー?あー、そうか。犯人たちには頭目がいる可能性があったね。そこに気づくとは......りこりんもやるな!
「もしこの犯人たちにリーダーがいたら会ってみたいね」
「クフフフ、大丈夫だよ。れいれいなら近いうちに会えるよ.....きっと楽しくなるからさ」
「うん?どういう意味だい?」
「それは内緒でーす」
内緒って、どこの泥棒ですか?
『世界の泥棒』という本に「女は秘密を守ってこそ美しくなる」と、どこかの女泥棒が言っていたな。この様子ならりこりんは将来、綺麗になるだろうなー。まあ、今でも十分綺麗だけど。
「おっと!推理に夢中になってしまったね。料理が冷えてしまう」
「そうだった。ごめんね〜りこりん夢中になっちゃって」
2人でテーブルに着く。料理は温かい内に食べないとね。
「ほら、このソースもかけて」
私はりこりんのマグロ黒あんカツに''特製ソース''をかける。
「このソースも手作りなの?」
「そうだよ。色々なものを混ぜて作ったんだ。さあ、遠慮しないで」
「それじゃあ、遠慮なく。いただきまーす」
そう言ってりこりんは、かっぷりと可愛らしく噛ぶり付き、
「むごがおおおおおおおおおお⁉︎」
今まで聞いたことのない断末魔を上げ、のたうち回り倒れた。
りこりん⁉︎どうしたのさ⁉︎体がピクピクしているよ。ああ!口から泡まで吹いてる⁉︎
何がいけなかったんだ!ソースか?それともマグロが痛んでいたのか?いや、マグロは新鮮だった......ソースはハバネロとジンジャーエール、その他を混ぜただけだし......わからん!
いや、今は考えている場合じゃない。早く衛生科に運ばないと!