私は教授じゃないよ。大袈裟だよ   作:西の家

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ドン・ジョバンニ......キンジにお似合いな演目でしょうな。
彼の未来とならなければ......


オペラ座③

「面白かったね。金次君」

 

「あー、そうだな。でもラストで主人公が地獄に堕ちるのはな......」

 

オペラを観終え、私達はオペラ劇場を出る。

時刻は16時ジャスト。うん、予定通りに終わったね。

 

「そうだ!これから一階のシアターショップで買い物しない?家族にお土産でもさ」

 

「シアターショップって言ったら音楽関係の物くらいしかないだろう?うちの家族で......いや、兄さんなら好きそうだな」

 

この新国立劇場はシアターショップも完備されている。しかも、1階ーー私達がいるオペラ劇場と同じ階層にある。

音楽雑貨・小物・インテリア、ここでしか買えないオリジナルグッズ も販売されている。

オペラを見終えた後に買い物をするにはもってこいだ。

 

「シアターショップと言っても音楽関係だけじゃなく、他にも色々なものがあるよ。もしかしたら、金次君の気にいる物が見つかるかもよ」

 

「なら見てみるか」

 

おや?興味津々だね。感心、感心。

金次君にしては珍しい。

 

「うん。何ごとも好奇心さ」

 

「好奇心は猫を殺すと言うぞ」

 

「ここではそんな事はないよ」

 

物騒だな〜。武偵歴が長くなるとそんな考えしかできなくなるのかな?

 

 

一階を歩くこと数分ーー

青がトレードマークのシアターショップに到着した。

自動ドアが開き、中に入ってみれば既に10人ほど先客がいた。

3組ほどカップルが混ざっているね。うん!見ていて微笑ましいね。

壁にあるショーケースの中には様々な商品ーーアクセサリー、カップ、置物が並んでいる。

 

「どれにしようかな......迷うね」

 

「あー、すまんが零。俺は向こうの商品を見てるよ」

 

金次君が離れていく。何故だろう?

ちなみに君が向かってるのは恋人向けの商品コーナーだよ。

白雪さんにでも何か買ってあげるのかな?......まあ、いいか!

私は商品を物色する。このお店は実際に手に取って見るのは自由だ。

 

 

買い物開始から1時間経過ーー

私が選んだのはト音記号エナメルブローチ、シルバーのイヤリング、フェルトポーチの三点だ。

会計を済ませ、お店の出口に向かうと金次君が待っていた。

 

「長かったな。良い物が買えたか?」

 

「勿論さ♪」

 

私は某ハンバーガーショップのマスコットキャラ風に答える。

そういえば、ここ最近ハンバーガー食べてないな......ちなみに私はチーズバーガーが好きだ。

 

「金次君は何を買ったの?」

 

「別に......大した物じゃない」

 

何を買ったのかな?彼の手提げ袋を観察してみるか。

袋の下げ具合からして重たい物ーー慎重に持っているから陶器類だね。

それも一つだけでなく、最低二つは購入しているーーマグカップだ。

白雪さんに買ってあげたのかな。いや、白雪さんはコーヒーは飲まない。

ならば家族にだね。

私が思考していると、金次君が突然、

 

「そうだ零」

 

そう言ってゴソゴソと手提げ袋から、

 

「今日のお礼だ。よかったら受け取ってくれ」

 

小さな紙袋を手渡してきた。

うん?何だろう。

 

「中を見てもいいかい?」

 

「勝手にしろ」

 

彼の了解を得て、中を見てみるとシルバーのリングが入っていた。

 

「女子に今日のお礼として渡すとしたら、これがいいって店員が言うから買ってみたが、気に入らないか?」

 

ほほう。中々味のあるいい事をするじゃないか。

しかし、このシルバーリング......何を表すモノだったのかな?

うーむ、思い出せない。いや、考えると頭がズキズキしてくる。何故?

「そんな事はないよ。ありがとう金次君」

 

しかしお礼か。気分転換で誘ったんだけど、本当に彼は義理堅い性格をしている。

任侠になれるのでは......いや、そっち系の女性から好かれるね。彼の性格なら。

 

「なら私からもお礼をしないとね」

 

「いらねぇよ。電車でも言っただろ。女子から奢ってもらったら俺が殴られる」

 

「違うよ。奢りじゃないよ」

 

そう言って私はこっちこっちと手招きし、彼を寄らせて頬に軽くチュッとした。

 

「なっ⁉︎何すんだよ!」

 

金次君は頬に手を当て、顔を真っ赤にしてテンパってる。

見ていて面白い!ウブだね。若いね。最高だね。

 

「リングのお礼だよ。これは貰っても殴られたりしないよ」

 

「ば、馬鹿じゃねえのか⁉︎人の頬に......」

 

「私じゃあイヤだったかな?白雪さんならOK?」

 

「はあ?何で白雪が出てくるんだよ?」

 

白雪さん......君の想い人は気づいていない様子。

彼と一緒になりたいなら、ここから先は山あり谷ありだよ。

そして最後に一言、good luck。

 

「俺だったら良かったものの、他の奴にはするなよ」

 

「ハイハイ。了解しましたよナイト様」

 

うん?何だろう。背後ーーホールの柱から視線を感じるな。

おまけに寒気が襲ってきた。おかしいな暖房は効いてるはず......

 

「零!今すぐここから出るぞ!」

 

「えっ?ちょっと金次君⁉︎」

 

突然、金次君は私の手を取ると走り出した。

どうしたんだろう?何か危険を察知したのかな?

私が観察した限り、危険な物は無かったはず......

 

 

そのまま新国立劇場を出て走るとーー再び初台駅に戻ってきた。

 

「どうしたの金次君?突然走り出して、何かあったのかい?」

 

「ああ、俺にもお前にも危険なモノがな......」

 

金次君だけじゃなく私にとっても危険な物?

新国立劇場には危険な物ーー私が観察した限りは無かった。

あの時、誰かの視線を感じた。金次君が言う危険な物の正体はあれか。

金次君が真っ先に気づくとは......やはり彼の方が武偵歴が長い。

私も武偵としては、まだまだ未熟な証拠か。

 

「その危険なも......」

 

「危ない!」

 

突然、金次君が覆い被さるように私の頭を下げさせた。

同時に、私達の頭の上を何かが通り過ぎる。

何だ?

 

「し、白雪......」

 

私達の背後に巫女装束に身を包んだ白雪さんがその手に日本刀を持って立っていた。

気のせいか怒っているようにも見える。

 

「玲瓏館さん?これは一体どういうことですか?」

 

「デートだよ」

 

「ちょっ⁉︎零⁉︎」

 

なーんちゃって。ただの気分転換だよ、と続けて言おうとした瞬間、シャキンと白雪さんが私の前に日本刀を向けてきた。

 

「デート......私だってキンちゃんとしたことないのに......それなのに玲瓏館さんは......いや零は......あんな事やこんな事を......」

 

あれ?ジョークのつもりだったんですけど?白雪さーん戻ってきて。ただの冗談だよ。

突然、駅の前で日本刀を抜いた巫女さんの登場に通行人はガヤガヤと騒ぎ出した。

マズイな。ここで警察沙汰になったら後々、面倒。

 

「皆さんすみません!実は私達、映画の撮影をしているんです!お騒がせして大変申し訳ありません!」

 

とりあえず、ここは映画撮影と言っておこう。

これであまり騒ぎにはならない筈だ。

 

「白雪さん話を聞いて。ただの気分て......」

 

「問答無用!天誅!」

 

刀を上段に構え、突進してきた!

やるしかないか。ここからどうするか思考する。

気のせいか落ち着いて考えられるし、白雪さんの動きがゆっくりに見える。

服装は巫女装束ーー緋色袴典型的な服装だ。

履物は白袋に草履。

精神状態はかなり興奮している。これは怒りによるもの。冷静な判断はできない。

獲物は日本刀。ここには障害物はないから振り回せるだろうーーおまけにかなりの熟練者で素人じゃない。

まずは刀を無効化する。

柄に掌打を打ち込み、振り下ろすタイミングを遅らせる。続けて手首を掴み、刀ごと下に下ろした後、地面に固定。

最後に足払いを決め、後ろに転倒させる。完璧だね。

実行に移そうとした瞬間、

 

「やめろ!白雪」

 

金次君が私と白雪さんの間に入ってきた。

刀は金次君の鼻先寸前で止まった。

どうして前に出たの?だって白雪さんの持ってる刀は本物だよ。下手したら自分が切られていたかもしれないのに......

 

「どいてキンちゃん!私はそこの泥棒猫を成敗するんだから!」

 

「話を聞け!俺と零はだな......野外授業をしていたんだ!」

 

野外授業?

 

「野外授業って、2人で演劇を見ていたじゃない......それのどこが授業なの?」

 

白雪さん。正しくは演劇じゃなくてオペラだよ。まあ、違いは殆どないけどさ。

 

「オペラは英語で喋るだろう?英語の授業も兼ねて観ていたんだよ。零はイギリス人とのハーフだから英語がわかるみたいでさ」

 

金次君の言う通り、私は英語が喋れる。母さんはよく私の前では英語で喋るからね。

父さんは日本語一筋だけど......

 

「じゃあ、お店の前で零さんが......キ、キ、キンちゃんの頬にキスしたのは何で!」

 

なるほど、あの視線の持ち主は白雪さんだったのか......

一通りの発言からして、どうやら東京駅から尾行していたようだね。

彼女は探偵科でもやっていけるな。

 

「それは......その」

 

金次君が困っている。

よし、ここは助け舟を出してあげよう。

 

「もしかして白雪さん柱の影から見ていたんじゃない?」

 

「う、うん」

 

「だったら勘違いだよ。あれは金次君の頬にゴミが付いていたら吹いて取ってあげたんだよ」

 

まあ、嘘だけどね。でも嘘も方便と言うでしょう?

 

「そうだよね。金次君?」

 

「あ、ああ!そうなんだよ白雪。零がゴミを取ってくれただけなんだ。白雪の勘違いさ」

 

「そうだったんだ。私、てっきり玲瓏館さんがキンちゃんにキスしたんじゃないかって思ったよ」

 

そう言って白雪さんは刀を鞘に収めた。

金次君の言う事は落ち着いて聞くんだね......これは危ないような気がするぞ。

 

「さて!勘違いも解けたことだし、これから白雪さんも一緒にマックでも食べに行かない?この近くにあるしさ」

 

「マック?何なのそれ?」

 

おや?知らないのかな。これは箱入り娘と呼ばれるヤツだね。

 

「金次君もそれでいいよね?これから白雪さんにマックとは何かを教える野外授業に突出だ!」

 

「そ、そうだな!野外授業だ」

 

 

 

 

こうして私達はマックに向かった。

お店で白雪さんは目立ったよ。何せ巫女装束だからね。写真を撮る人までいたけど、そこは金次君がSP顔負けの護衛をして守ってあげた。

カウンターで注文する時、白雪さんはどうすればいいのかわからなかった。

見ていられないので白雪さんには私と同じーーチーズバーガーセットを注文させた。

チーズバーガーはいいよ。これでチーズ派ーー仲間が増えたね。

ちなみに金次君は照り焼きバーガー派だった。

各々注文した品物を持って席に座る。

 

「ほら、白雪さん。こうやって食べるんだよ」

 

「こ、こう?」

 

私は白雪さんにハンバーガーの食べ方を教えた。

ケッチャップが口の周りに付くが、それは白雪さんも同じだった。

見ていると何だか可愛い。

 

「お前ら仲がいいな。まるで姉妹だ」

 

金次君はポテトをポリポリ食べながらこっちを見る。

君はポテトから食べる派か⁉︎私からしたら、バーガーを最後に食べるのは邪道だぞ!

 

「姉妹というと白雪さんがお姉さんになるかな」

 

「そんなことないよ。玲瓏館さんは私より物知りだし。お姉さんは玲瓏館さんの方だよ」

 

「零」

 

「えっ?」

 

「今度から零って呼んでよ。私の苗字長いでしょう?遠慮なく下の名前で呼んでよ白雪さん」

 

玲瓏館と呼ばれるのは嫌いじゃないけど、親しい人からは下の名前で呼んでほしい。

 

「じゃあ、零さん」

 

「はは、それでもいいよ」

 

コーラで喉を潤す。うん、コーラはいいね。いつか本場アメリカのコーラと飲み比べてみたいものだ。

そういえば、今ハマっているネットのオンライン対戦チェスの相手もアメリカだったな。男か女かはわからないが、かなり強い。

現在の成績は64戦中49勝15敗0引き分けで私が勝っているが、油断はできない。

相手は守備よりも攻撃派。

かなり攻撃的だが、部下ーーキング以外の駒もけして無駄にはしない戦法を取ってくる。

サクリファイス派の私もそれで不意を突かれたな......今度はどんな戦法を見せてくれるのかな?

 

「ゴホ、ゴホ、何これ喉が痛いよ」

 

白雪さんがコーラを飲んでむせた。

あー、白雪さんにはコーラは早かったか......

 

「大丈夫かよ白雪。ほら、よかったらこれ飲めよ。まだ口つけてないから」

 

金次君が白雪さんに自分のドリンクを渡してきた。

ストローを刺していないから、まだ手をつけていないのは本当みたいだ。

確か金次君が注文したドリンクは爽健美茶だったね。

珍しくコーヒーじゃない。

 

「ありがとうキンちゃん」

 

白雪さんはドリンクを受け取ると、遠慮なく飲み出した。

あ、別にカップを外して飲まなくてもいいんだよ。ストローの刺し口があるし、まあ、それでも間違いじゃないけど。

 

「そうだ零さん。今日は本当にごめんなさい。キンちゃんとの野外授業を邪魔しちゃって......」

 

「ははは、いいんだよ白雪さん。紛らわしい事をした私にも責任があるしね」

 

「......何が紛らわしいだ」

 

はい、君は余計な事を言わない。ここで血の雨を見たいのかね?

私はテーブルの下から金次君の足を蹴った。

 

「金次君?」

 

「すまん......」

 

「どうしたの?2人とも」

 

「なんでもないさ♪」

 

その後、三人で雑談や学校での愚痴をこぼした。

金次君は蘭豹先生について愚痴ってた。

今度蘭豹先生に「金次君がこんな事を言ってましたよ!」と言ってあげようかな......いや、やめてあげよう。金次君が確実に殺されるね。

下手したら私も口封じで殺される......

 

「これから3年間、私達は同じ学校で学ぶ仲間」

 

「どうした零?突然」

 

「そうだよ零さん。それに仲間って私達はもう仲間だよ。ねぇ、キンちゃん」

 

その台詞は日本刀を振り回す前に言って欲しかったよ......

いや、そうするように差し向けたのは私か!

 

「一般中出身で足手まといになるかもしれないけど、これからも仲間としてよろしくね」

 

「もちろんだよ!零さん」

 

「まあ、足手まといにならないよう頑張れ」

 

これから3年間こんな感じで仲良くやっていけたらいいな......

あ、白雪さん。人の手を握る時は手を拭かないと......ケチャップがついてるよ。




次回は話がとぶかもしれません。
夏か、事件それともキンジの実家訪問であのお姉......バァン!
うん?外から銃声が......お前は⁉︎

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