異世界の地下闘技場で闘士をやっていました   作:トクサン

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来世で自分は

 そうして、こうして。

 

 京太郎はイケメンに生まれた。

 そして齢五歳にして両親を賊に殺され、顔が良いからと奴隷商に売り飛ばされた。

 挙句の果てに地下闘技場で闘士として戦うハメになった。

 

 なんで?

 

 京太郎の新たな人生を説明するならば、これだけの言葉で済む。

 何だこれはと、割り振られた部屋で京太郎は自身の新たな人生を嘆いた。それはそうだろう、貰ったギフトを生かせぬどころか、完全に裏目に出た結果である。

 頑丈になった体は地下闘技場でも不屈の戦士として絶賛され、その神様が奮発してくれた甘いマスクは女性客を虜にし、メディア露出が増えるばかりである、つまり試合が増える。

 

 どうしてこうなった。

 

 京太郎――この世での名は『(キョウ)』――京は己の不運を呪った。

 ここまで来ると最早、呪いか何かの類ではないかと訝しむ。

 生まれたばかりの頃は良かった、自身の前世はあやふやで、子ども特有の素直さも併せ持つ、何と言うか普通の赤子だったと思う。両親も至って平穏な性格、平凡な人物で、相応の愛情と厳しさを持って接してくれたと思っている。村も平和で、生活こそ最初は慣れなかったものの、ネットもテレビもゲームも、無くても何とかなると知ったばかりだった。

 

 五年の歳月、親愛の情があったと言えばその通りだ。

 そして住んでいた村の唐突な焼き討ちから賊の襲撃、瞬く間に村の人間は襲われ、女子供は略奪にあった。当時の京太郎の胸中を言い表すなら「えぇ、なにこれぇ」である。

 言い訳させて貰えるのならば、全てが京太郎のあずかり知らぬところで進んでいた事であり、目の前で両親を殺されただとか、酷い目に遭ったとか、そういう訳では無い。

 有体に言って、現実感が欠片も無かったのだ。

 

 略奪の対象の中には勿論、京も含まれていた。

 五歳になると比較的顔の造りが分かって来る、京の顔面は村の中では随分と上玉に映った。周囲が然程パッとしないという理由もあったが、神様直々のギフトという結果もあり、都内でも中々お目に掛かれないレベルという容貌だったのだ。

 結果、それに目を付けた賊が奴隷商に高値で京を売り払い、その容貌と神様特製の頑丈な肉体に目を付けた地下闘技場のオーナーが購入、生き残る為の術を叩き込まれて今に至る――という訳である。

 

 解せない。

 

「もうやだ、こんな人生」

「元気、出して」

 

 待機室、もとい闘士に割り振られた個別部屋。そのベッドの上で項垂れる京に、彼を励ます一人の少女。京は今年で十六歳になる、奴隷商の元に居た期間を除けば闘士として十年のキャリアを積んだと言う訳だ。

 

 十六歳になった京は前世の貧弱な肉体と打って変わって、鋼の様な筋肉に凄まじい身長を誇っていた。身長百九十七センチ、体重百キロ、未だに成長中のピチピチ現役十六歳である。恐らく前の友人に今の姿を見せれば、「世紀末を闊歩している伝承者か、悪魔を従えて時間止める黒幕から世界救いそう」と口にする事請け合いである。

 

 顔の件もそうだが、神様の授ける力と言うのはどうにも、人の感性とは少しズレている気がした。端的に言うのであれば「誰がここまでやれと言った」である、京とて素手で岩を砕くまで出来るとは思っていなかったのだ。

 

 今では闘技場内でも、「えぇ、お前マジかよ……?」みたいな目で見られ始めている。観客からは大ウケだが、最近対戦相手が目に見えて怯え始めていた。京としても泣きたい気分である。

 

 京の隣に寄り添う少女は、この場に居る事から闘士の一人である事が分かる。京に割り振られた特別待遇室――地下闘技場で特に高い戦績、或は集客率を誇る闘士に割り振られる部屋――に居座る彼女だが、それは単に此処は彼女の部屋でもあるから。

 

 少女は名を『リース』と言う。

 

 集客率、及び高い戦績が条件というだけで、リースの容姿もまた美しい。長い白髪に整った顔立ち、少しばかり幼さが前に押し出されるが、既に一人の女性らしい雰囲気は纏っている。

 しかし、彼女の魅力は容貌よりも、その武力に集まっていた。彼女は今年で二十一になる、だが未だに少女の様な外見だ。

 それは単に、彼女が人間という枠から外れているからなのだが――彼女は人間ではなく亜人と呼ばれる存在であった。本の中の存在の様に思われるが、実際彼女は実在しているし、何より馬鹿みたいに強い。

 

 四肢は細く、少女然とした体格を見れば大抵は闘士だなんて思わない、それはそうだろう。彼女が使うのは手足ではなく、もっとハイテクなモノ。

 所謂、『魔法』という奴だった。

 

 魔法、魔法である。

 手から炎を出したり、雷を落としたり、水を生み出したり、毒を振りまくアレである。ファンタジー万歳と叫ぶべきか、寧ろ嘆くべきか。

 

 残念なことに、魔法の才能を京は持ち合わせていない。単純に肉体的な話だった、人間に魔法は使えない、それは魔臓器と呼ばれる器官が人間に備わっていないからだ。

 単純な話、彼女の体には血液の代わりに魔力が循環している。体の造りからして異なるのだ、故に体格も違うしあらゆる部分が違う。だから外見で侮って、「おじさんと良い事しようねぇ~」なんて言った日には肉片一つ残らない事確実である。

 

 実際、京が一番戦いたくない相手は誰かと聞かれれば、迷わず彼女を挙げるだろう。素手で岩を砕くのも十分怪物の所業だが、流石に対戦相手を氷漬けにしたり、雷撃で黒焦げにする、炎で燃えカスにするなどと言った事は出来ない。

 

 尤も、出来てもするつもりはないが。

 

 因みに彼女が身請けされたにも拘わらず、清い体であるのは手を出したら殺されると分かっているからである。京も同じ理由で同室であると言うのに手を出せていない、単に度胸が無いともいう。入院中に恋愛沙汰など無かったのだ、悲しくなんてない。

 

「……どうしたの、京、なんか今日、元気ない、嫌な事あった? 大丈夫? 結婚する?」

「……結婚したいけど稼ぎが無いよ」

「――私一杯ある、安心して」

 

 それはヒモと呼ぶのではないのでしょうか。

 そんな聖母の様な微笑みを向けられたら衝動的に頷いてしまいそうだが、生前母が「男は甲斐性」と言っていたので、何とか鋼の理性を以てして首を横に振った。総人生初めての伴侶兼彼女に養われる夫とか情けなくて生きていけない。

 

「そこは頷こう、京、ね、頷こう? 良い子だから」

「やめて、無理矢理首を縦に振らせようとしな――アッ、ダメッ、マガラナイ、そこから先はマガラナイヨ!」

 

 因みにだが、魔法は肉体的な強化に使用する事も出来る。この万力の様な力を見よ! 首の骨を圧し折ってやるとばかりの勢いだ。

 

 元が人間の血に近い役割である事から想像できると思うが、寧ろ体の内側に作用する力の方が強い。下手をすると京の様に、素手で岩を割るなどと言った事も可能だろう。

 無論、それをやってしまえば先に体の方が壊れてしまうだろうが。

 

 魔法とて万能ではない、肉体のスペック以上の事をするとダメージが残る。壊れた傍から治す――などと言った使い方は出来るだろうが、痛みは消せないので普通に炎や氷をビュンビュン飛ばした方が楽だろう。

 

 リースの猛攻を筋肉の全力全開で防いでいると、室内にあるベルが鳴った。それを聞いた途端、リースの体が離れる。

 

 仕事の時間だ。

 

 プライベートはプライベート、仕事は仕事。

 この辺りはリースも良く理解している。

 どこか名残惜しそうなリースの視線をビシビシ感じながら、京はゆっくりとベッドから立ち上がった。部屋を見渡すと、自分の部屋だと言うのに随分と殺風景だ。必要最低限の生活必需品と、本が数冊にベッドとテーブル、それだけ。部屋の隅に飾られた金色のベルが、やけに眩しく見えた。

 

「……さっさと倒して来て」

「……善処するよ」

 

 何とも日本人らしい答えを残し、京は独り苦笑いを浮かべた。

 

 




 突貫作業=クォリティごみだけど許してね!
 許してくれるって信じてる!
 許して!

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