異世界の地下闘技場で闘士をやっていました   作:トクサン

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一時の夢

 セシリーと少女――リースは貴族地に入り、とある老舗のレストラン(料亭)へと足を運んでいた。無駄にキラキラとした装飾がある訳では無く、趣のある木造建築にどことなく自然の暖かさを感じる造り、その店を見たならば京は「和風」と口にしたかもしれない、兎に角この世界では珍しい異色の空間であった。

 しかし、リースは特に動じる事も無くセシリーの後に続いた。最奥の畳が敷かれた部屋、十二畳程の大きさで仮にリースが横になっても十分なスペースがあった。彼女が休める様にとセシリーが配慮した結果だった。

 

 リースは最初こそ手っ取り早く去ろうと考えていたが、目の前の女性――セシリーがかなり高位の貴族だと悟り、情報を引き出す算段を立てていた。元々情報屋に個人依頼を出していたリースだが、だからと言って手を拱いて待っているだけなど性に合わない。

 向こうから情報を背負って来たならば、遠慮なくぶんどるまで。寧ろこれは好機であると、リースは目に剣呑な色を宿した。

 

「取り敢えず楽にしていて、一応体に良いものを注文しておいたけれど無理に食べなくても良いわ」

「……名前、教えて」

 

 テーブルに肘を着き、どこか睨めつける様な形で問いかけたリースに、セシリーは何でもない様に返した。

 

「セシリーよ、呼び捨てで構わないわ」

 

 貴族の証である家名を名乗らなかったのは、国内でも有数の貴族である自分を前にして萎縮してしまっては更に病状が悪化してしまうのではないかと言う彼女なりの配慮からであった。リースからすれば要らぬ世話であったが、兎に角貴族地に顔パスで入れるという事は貴族確定である、彼女は情報を得るべく言葉を重ねた。

 

「最近、貴族の間で流行っている噂とか、知らない?」

「噂?」

 

 リースの言葉にセシリーは首を傾げる。何故そんな事を聞いて来るのかという疑問も湧いたが、或はこの場を持たせる為の他愛もない会話なのかもしれないと、特に何も考えずに答えた。

 

「さぁ、最近は社交界にも出ていませんし、特にコレと言った噂は聞きませんわ……それに、屋敷に居ても聞こえて来る噂なんて誰かの悪口に違いありませんもの、そんなモノを聞いていても何の得にもなりません事よ?」

「そう……」

 

 望んでいた答えが得られなかったリースは、悔しそうに表情を歪める。それが体調不良によるものだと思ったセシリーは、慌てて彼女に「ほら、遠慮せずに横になりなさいな」と無理矢理リースを寝かせた。

 

 リースも最近ちゃんとした睡眠が取れていなかったので、横になると多少の眠気を感じる。しかし、こんな何処の誰とも分からない人間の前で眠りに入るなど、リースの危機管理能力が許さない。

 無理矢理横になった状態でも、リースは確かに意識を保ち続けた。

 

「じゃあ最近、誰かを身請けしたとかいう話は?」

「身請け……?」

 

 横になったまま、自分を見上げて言うリースの言葉にセシリーは眉を下げる。それは、明らかに何らかの意図があって聞いている言葉だった。この場を持たせる為では無く、彼女は何らかの情報を欲しがっていると。

 

「貴女……誰かを探していますの?」

「………」

 

 セシリーの言葉に帰って来たのは沈黙、イエスでもノーでも無い返答は、しかし消極的な肯定を現わしている。セシリーは少しばかりリースの境遇に興味を抱きながらも、しかし親切心から自身の周囲に身請けした貴族が居るかどうかを考えた。

 

 身請けという言葉に京の姿が思い浮かんだが、彼は地下闘技場から身請けした人間だ。こんな色白でか弱い少女が、地下闘技場の関係者などあり得ないと断定、そこから周囲の家が最近身請けをしたかどうかを考え、結局否定を口にした。

 

「私の知る限り、周囲の貴族で身請けしたという家は無いわ、あくまで私の知る周囲の家は、ですけれど」

「……そう」

「……貴方が誰を探しているかは聞きませんけれど、大事な方ですの?」

「大事、とても――私にとっては、何よりも」

 

 家族か、或は恋人か。

 リースから感じられる焦燥、悲壮感はセシリーの肌を刺激した。それ程までに強い感情だった、もし自分が力になれるのであれば多少の助力はしてあげよう。そう思う程度にはリースはか弱く見えた。

 

「差し支えなければ、貴女とその人の話、聞かせては頂けません事?」

「………」

 

 その言葉はセシリーなりの気遣いだった。もし彼女のこの状態が失った彼、或は彼女が原因であったならば、誰かに話す事でソレを軽減できるのではないかと。人に話す事で胸のつっかえが取れるのならば、それに越した事は無い。

 対するリースは、そんな言葉を掛けられた事に少しばかり驚き、しかしぎゅっと唇を噛み締める事を答えとした。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「それで、その闘技場の彼女はどんな娘なんだよォ?」

「そりゃあもう、自分には勿体ない位良い女性さ」

 

 京とシーエス。

 男二人でカフェと言う名の居酒屋――酒があるならば、何処であろうと酒場になる、それが男という生き物――に居座って早三時間、そこには大量の酒瓶が並べられ、アルコールによって完全に舌の滑りが良くなった二人が居た。

 

 個室という閉鎖空間が他人からの視線を完全にシャットアウトし、その醜態を晒す相手は友人一人。折角友になったならば腹を割って話そうとシーエスが口にし、ならば酒だと注文を行った所から雲行きは怪しくなっていた。京も病院生活ではアルコールを摂取する機会も無く、初めてという訳ではないが久しく口にしていなかった酒の味に溺れていた。

 因みにこの世界の飲酒可能年齢は十五である。

 

「そうだな、少し嫉妬深くて、言葉が少なくて、けれど沢山の愛情を向けてくれる、小さくて可愛らしい女性だ」

「かぁあァ~~! お前ッ、おまえ、それはもう結婚するしかねェじゃねぇか! 式には呼べよ、沢山の花を持っていてやらぁ!」

「ふふっ、照れるな、そうだな、結婚したら報告しよう」

 

 シーエスの言葉に、満更でもなさそうな笑みを浮かべる京。出来上がっている、疑う余地は無い。

 酒の入った二人は最初こそ自身の身の上を打ち明けるに留まっていたが、そこからどういう方向に話が逸れたのか、今では互いの恋話になっていた。最初はシーエスの悲恋、もといセシリーに向けられた一方的な愛とも尊敬とも言える感情を語られていた京ではあるが、一方的に話し終えたシーエスの勧めもあり、京の恋人(仮)であるリースの話をするに至っている。

 

 因みにだが、何故リースが京の恋人(仮)になっているのかは分からない、京本人も分っていない。酒の力とは偉大であり、同時に恐ろしくもある。

 

「んでよ、んでよ、そのリースちゃんって子とよぉ、どうやって知り合ったんだァ?」

「ん? そうだなぁ、あれは地下闘技場に入れられて、五年位経った頃か……」

 

 京はリースとの出会いを思い出す。

 奴隷商人から地下闘技場のオーナーへ。

 十歳を超えた京は試合に出場できる年齢となり、一週間に一度の頻度でフィールド・アリーナへと駆り出されていた。本来はもっと出場回数は多いのだが、やはり子どもは子ども。そんなオーナーの方針により出場回数は通常の闘士より長いスパンが設けられていた。

 

 しかし、一度殺し合いとなればそこに子どもだから、という手加減は介在しない。ある時は子ども同士で殴り合いを強要され、時には複数人で自分達の倍近い身長を誇る大人と殺し合いを演じさせられた。

 毎日が死闘だった、生きる事で必死だった、その小さな体は弱さの象徴に他ならなかった。

 

「そんな時に彼女――リースと試合をする事になったんだ」

 

 京が彼女の戦う姿を見たのは、後にも先にもこれだけである。闘士十人と、亜人であるリースの試合。当時の彼女は今よりも更に無機質で、物静かであった。感情を知らない様な能面の顔に、圧倒的な魔法の力。

 あの十人の中に京が入っていたのは、子どもながらに急成長を遂げ子ども相手の一対一ならば完勝できる程の実力を身に着けたからだろう。実際、十一歳になった頃には大人と殴り合っても負けない程の地力を身に着けていた。

 

 当時のリースは地下闘技場最強の名を欲しいままにしていた、京が地下闘技場に入ってから五年、彼女は不動の王者として君臨していたのだ。当時の京は魔法という奴を実際に見た事が無かった、思えば待合室で他の闘士が絶望した様に俯いていたのは、あの圧倒的な力を目にした事があったからなのだろう。

 

 実際、その試合は彼らの考えた通りになった。

 開始直後に放たれた天を穿つ雷撃、地面を舐める炎、空気を凍らせる吹雪、それら自然の驚異が何の力も持たない人間に牙を剥くのだ。京は初めて見る魔法の力に愕然とした、恐怖した。

 こんなものと、どう戦えば良いのだと頭を抱えた。実際それは戦いと呼べるものではなく、ただ一方的な蹂躙であった。為す術なく倒れ伏す大人達、凍らされ、燃やされ、雷に打たれ、一人また一人と地面に転がった。

 

 人間が亜人と戦う事は死を意味する。

 京がその言葉を実感した日だ、確かにこれは、剣や弓を持ってこようと意味が無い。ましてや素手など論外だ、近付く前に殺されて終わる、それだけの力が魔法にはあった。

 

「実際、亜人と戦うなんて普通の人間には無理だと思った、魔法という奴はとことん不条理に出来ている、自分が思うに、亜人と言うのは完全な人間の上位互換、あの戦いをリースは実力と言っていたけれども、今でも自分は運だと思っているよ」

 

 結論を言ってしまえば、京はその試合を生き延びた。そうでなければ今、この場に居るのは誰だと言う話になる。しかし、その過程で京は文字通り死ぬ思いをした。恐らく嘗て経験した試合の中で、最も死を近く感じた戦いだった。

 

 一歩の間違いが死に直結する、少し判断が遅れれば、避け損ねれば、その攻撃は容赦なく自分の身を討ち滅ぼすだろう。それは京にとって慣れ親しんだ感覚、病院のベッドの上で刻々と己の体を蝕む病魔を自覚するように、リースの魔法は京の体を蝕んだ。

 天より穿たれる雷を不規則な回避によってやり過ごし、地面を舐める炎を跳んで躱し、飛来する氷の礫を拳で叩き落とした。

 

 自分でも恐らく、人外の動きをしていた事だろう。あれは正しく極限であった、脳内麻薬が全身を犯し、両手が砕けようとも防ぐことを止めなかった、痛みは快楽に、死の恐怖は愉悦に、命のやり取りは全ての大人が息絶えても続けられた。

 正直に言うと、京は死に抗っているという事実に興奮していた――率直に言うと、射精した。

 

 あの何の抵抗も許さずに、京をこの世界に送り込んだ【死】という理不尽に、自分が全力で抗っているという状況。それは一度死を体験した京に、これ以上ない興奮を与えた。

 どれだけ屈強な男だろうが、頭の良い人物だろうが、金持ちだろうが、死ぬ時は死ぬ。抵抗なぞさせて貰えない、そう称したのは他ならぬ京である。だが、その京が、他ならぬ自分自身が、必死に抵抗しているのだ、死を前にして。

 

 リースとの戦闘は時間にして五分程度だっただろう、それ程長い時間ではない。しかし魔法を回避し続けた京にとっては何十時間という長い時間に感じた。

 結局、京はリースの苛烈な攻めに屈し、炎を回避した瞬間、無防備な空中で氷の礫の直撃を食らって意識を失った訳だが、辛うじて命に別状は無かった京は再び闘士として復帰した。

 それからである、京という人間の記憶にリースと言う少女が刻まれたのは。

 

「その試合以降、何だかんだと言ってリースが部屋に来る様になったんだ、恥ずかしい話、その試合が結構盛り上がって、個室を貰えるようになったんだ、負けたと言うのに不思議な話だろう、それから一年、二年と経つ内に身長もグングン伸びてな、試合数も多くなった」

 

 リースとの試合が良くも悪くも京の枷を外し、「これ位ならば、死なない」と命の投げ売りに等しい試合でも、確実に勝利を捥ぎ取って行った。更に第二次成長期に入ってからは凄まじい勢いで背が伸び、筋肉が付きやすくなり勝率が上がる。

 京が初めて王者となったのは十三歳の頃である、試合に出場するようになってから三年、京はリースを除く並みいる強豪を打ち倒し見事王座を手にした。

 

 本来ならば現王者であるリースとの対戦が望まれたのだが、得難い強者――地下闘技場の人間からすれば金のなる木――同士をぶつけて一方を失うのならば、リースと京を対戦させずに金を巻き上げた方が良いという判断に至った。

 何より、京との対戦をリースが拒んだと言う理由もある。その真意を京は未だに知らない、しかし京としてもリースと再び戦う事は遠慮したいと言うのが本音だった。ましてや一対一のタイマンなど殺される未来しか見えない。

 

「それからリースの希望で部屋が一緒になって、まぁ前々から半分同棲みたいな状態だったけれども、かれこれ五年位の付き合いになる、自分にとっては親友でもあり、恋人でもあり……向こうも悪くは思っていない筈なのだけれど、あぁ、告白したらオーケー貰えるのかな……」

「イケるって、イケるって! 自信を持てよ京ッ! お前なら大丈夫だッ!」

 

 リースとの未来に想いを馳せ、しかし良い未来が浮かばなかったのか表情を曇らせる京。実際は告白オーケー云々どころか、告白した時点で押し倒される程の好感度を稼いでいるのだが、如何せん病院生活の長かった京は人の好意に疎い。

 その根底には「こんな自分を好きになる筈がない」というある種の劣等感があるのだが、何よりもリースが真っ直ぐすぎるのも原因だった。毎日好きだ好きだと言われていたら、そりゃあ一種の冗談なのではとも勘繰りたくなる。

 

 シーエスはそんな京を眺めながら酒を煽り、「かぁあ!」と声を上げた。その姿からは貴族なんて華やかな肩書は欠片も見えず、ただの飲んだくれにしか見えない。

 

「つぅか、羨ましいな、この色男ォ! あぁん? お前、セシリー様まで引っ掛けてよォ、セシリー様まで、セシリー様までお前に好意を……ん、セシリー様? お前、セシリー様とはどうするんだ?」

「うん……? 何故、そこでセシリーさんの名前が出て来るんだ」

「あん? そりゃあ、お前、セシリー様はお前の事が……お前の事が―――何だっけ」

「馬鹿、お前、今はリースの話だろう?」

「そうだったわァ、わりぃ、わりぃ、あーくそぅ、俺も彼女が欲しいィイ!」

 

 酔っ払いの二人は、そのまま泥沼の会話に突入する。

 そこに救いは無い。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「そう……大変だったのね」

 

 座敷の中、テーブルを挟んで対峙する二人。

 リースとセシリーである。セシリーはピンと背筋を張って綺麗な正座で座し、対してリースはテーブルに頬杖を着きながらセシリーを暗い目で見ている。

 

 結局あの後、リースはセシリーに洗い浚い全てを吐いた、地下闘技場の事や自身が亜人である事を除き、大体の事情は説明したと言って良い。セシリーが非常にしつこかったという理由もあるが、睡眠不足に加えて京成分不足という状態がリースの口を軽くした。

 

 本来ならば出会って間もない他人に自信の境遇やら感情を吐露する事等あり得ないが、京が傍に存在しないという事実は予想以上にリースの精神に負荷を掛けていた。

 何もかもが思い通りにならない、ならば泣き落としでも何でも使ってやる、少しの情報でも良い、貴族が手を貸してくれるのならば万々歳だ。

 リースは自棄半分、下心半分という形で説明を終える。それを聞いたセシリーの反応は実に同情的であった。

 

「けれど、商会も随分と酷い事を……せめて自身を身請けする時間くらい都合してくれても良いじゃありませんの」

 

 腕を組み、納得いかないと義憤に駆られるセシリー。

 リースの考えたカバーストーリーはこんなものである。

 曰く、とある商会に二人の奴隷階級の男女が居り、二人は互いに好き合っていた。商会はそこそこの大きさで、二人は奴隷階級でありながらも人並みな生活を送れていた。女は十年ほどその商会に身を寄せており、男は今年で五年目であった。

 女は十年間で貯めた金貨を使って自身を身請けし、また男の身も身請けしようとした。しかし男はそれを断り、自分の身は自分で身請けすると言った。女はそれを信じ、男が自由になる時を待っていた。

 

 しかし、ある日商会に貴族がやって来て、男の事が気に入った貴族が彼を身請けしてしまう。それを聞いた時、女は運悪く遠方の仕事で不在にしており、女が商会に戻った時には既に男の姿は何処にも無かった――と。

 

 このストーリーの男は京で、女はリースだ。

 強ち嘘でも無い、大凡の部分では合っていると言える。

 

 セシリーに本当の事を打ち明けないのは、単に身請けした相手が大貴族だと分かっているからだ。貴族は上下関係に従順である、仮にこの場で彼女が自分に味方すると明言しても、相手が国有数の大貴族だと分かったら手の平を返すかもしれない。そうなった場合、セシリーを通して向こうに自分の初動が悟られる可能性がある、リースはそう考えた。

 

「もし、身請けされた男性――彼が見つかったら、教えて欲しい、彼は背が高い、それに容姿も優れている、一目見れば分かる、と思う」

「……彼の名前は教えて頂けませんの?」

「――私と同じ、ライバットの名を持っている」

 

 セシリーは頷き、その名を記憶に留めた。

 ライバット、何処となく聞き覚えのある名だ、セシリーは少しだけその場で頭を悩ませた。それから、仮に彼女が彼を身請けした貴族とやらを見つけた場合、どうするのかが気になって問いかける。

 

「貴女はその身請けした貴族を見つけて、どうするつもりですの?」

「……返して貰う、彼を――お金はある、彼の身請け金と同じ位」

「……そう」

 

 勿論、嘘である。

 リースは彼を身請けした貴族を見つけ次第、問答無用で彼を奪還すると決めていた。そもそも身請けした奴隷を売るか否か、その決定権は所有者にある。つまり向こうの貴族が京を「売らない」と言った時点で、リースは交渉どころか彼を手に入れる機会を永遠に失う事になるのだ。

 

 セシリーはその事に気付いていた、もしや彼女はその事を知らないのではないかと。そして貴族に彼の譲渡を拒否された場合、目の前の少女が何をしでかす事になるか。薄々であるが、セシリーは察していた。

 

 しかし、だからと言ってセシリーが首を突っ込んで良い問題かと言われれば、否である。そもそも身請けを受けたのは商会であり、金銭のやり取りが行われていたのならば正当な取引と言える。

 そこに何ら関係ない第三者が首を突っ込む――同列である貴族ならば兎も角、恐らくリースの彼を身請けしたのはアルデマ家よりも下位の貴族、そこにアルデマ家が首を突っ込めば、それは助力では無く『命令』になる。

 それは余りにも理不尽と言えた。

 

 だが、このまま何もせず傍観すると言うのも――

 

「……もう行く、何か分かったら、これで教えて」

 

 リースはテーブルに小さな紙切れ一枚を置き立ち上がった、セシリーは紙を見つめて、「これは?」と問いかける。

 

伝言紙(メッセージカード)、これに文字を書けば私に伝わる」

「そんな高価な物を――分かりましたわ、何か分かったらコレに書きます」

 

 お願い、そう言ってリースは逃げる様に早足で座敷を出て行った。その背にセシリーは何かを言いかけて、しかし姿が見えなくなる事で言葉を飲み込む。

 渡された紙切れ――伝言紙を摘まみながら、彼女は溜息を吐いた。

 

「……結局、食事は無駄になりましたわね」

 

 そう言って伝言紙を手の中に仕舞う。未だに用意さえされていない食事、しかしこのまま店を出るのも料理人に申し訳ない。せめて自分だけでも食事を済ませて行こうと決める。

 それから彼女の探している男性の事を考え――不意に、京のフルネームを思い出した。

 

 エンヴィ・キョウ=ライバット。

 

 今はアルデマ家の家名が入っているが、ライバットの名を彼も持っている。普段は京とばかり呼んでいたので、直ぐに気付けなかった。彼は商会から身請けした人間ではないが、背も高いし容貌も美しい、彼女の言う男性と妙に合致していた。

 

「……まさか――ね」

 

 嫌な予感を覚える。

 断言できるわけではない、そうであるとも、違うとも。

 しかし考えれば考える程、彼女の言う人物が京に近付いて行く。

 

 セシリーは無意識の内に、拳を握り締めていた。

 

 

 




 修羅場の相手同士が顔見知りだった時の衝撃感よ。
 「嘘だろ、オイ」みたいな絶望、好き。

 因みに感想で「全裸で走り回ると風邪をひくから靴下は履こうね?」と言われたので靴下履いて走り回っています、ありがとう! ありがとう! 足あったかい!
 でも上半身と下半身がさっみーの、わたし風になってる、ヒュウ。

 ヤンデレ妹は諦めました、やっぱり時代は血縁関係の無いヤンデレなのか。
 でも好き。

 ヤンデレの為ならば修羅道であっても歩める。
 今なら靴下と共に風の様に走り抜けられる気がする(走り抜けられるとは言ってない)

 ┌(┌^o^)┐シュラァ……

 

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