帝国建国記 ~とある休日、カフェにて~   作:大ライヒ主義

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第偽話・・・帝国統一

 

 

 「王国」の統一案は中央集権に重きをおいている。

 

 地方ごとバラバラな法律、規格の統一、貿易の自由化などであり、ありていに言えば「地域固有の権利など認めぬ。地方は中央に従うべし」という上から目線……もちろん効率性を第一とするなら、実に合理的である。

 

 ――しかし昨日まで持っていた権利をいきなり廃止すると言われて納得できる者がどこにいようか。

 

 かくして「王国」案は中小国の連合体である「同盟」諸国から強い反発を受けることになる。

 

 

 対して自らも「二重帝国」からは、地方分権を強調した「連邦制」に近い統一案が提唱される。

 

 自らも多民族国家であるがゆえ、少数民族や中小国の自治権に配慮したものであり、独自の文化や地位・歴史を持つ「同盟」諸邦にも受け入れやすいものであった。

  

 

 結果、「王国」は外交的に孤立した。

 

 

 こうして早くも「鉄血宰相」の責任を問う声が上がり始める。また、普通選挙を認めたことで自由主義派が勢いづき、「鉄血宰相」の基盤である保守派を脅かしていた。

 

 もともと「鉄血宰相」の支持基盤は国王の信任のみであり、議会からの支持は弱い。

 

 加えて言論統制や議会の停止などの強硬手段をしばしば採っていたため、民衆と議会からの評判はすこぶる悪く、また進歩的な王太子や王妃からも嫌われていた。

 

 唯一の戦果と呼べるのは、二重帝国が主催するドームヒューゲル国民会議への出席を、国王を説得して欠席にできたことぐらいである。

 しかしその勝利ですら、コケにされたと感じた残りの出席者――「二重帝国」と「同盟」諸国の反発と引き換えであった。

 

 

 

 そしてついに運命の時、1963年10月の総選挙で与党・保守党の38議席に対して、野党の進歩党・中央左派が合計が247議席を確保し、与党の惨敗に終わった。

 

 

 

 「鉄血宰相」が生き残るには不満を外にそらすしかなく、「二重帝国」や「協商連合」との係争地であるノルデン地方がその標的となった。

 

 

 しかし度重なる「鉄血宰相」の横暴をいつまでも見逃しておくほど、二重帝国も寛容ではない。

 

 

 当時「王国」の参謀本部は日陰の存在であり、後装銃も実戦で使われたことがないため戦力は未知数、鉄道と電信も不十分、そして「戦場の女王」と呼ばれていた大砲の性能では二重帝国の方に分があった。

 

 加えて「二重帝国」はイルドア統一戦争でイルドア・フランソワ軍相手に実戦経験を積んでおり、もし戦争になれば国力・兵力ともに上回る「二重帝国」の勝利は間違いないとされていた。

 

 

 なればこそ、「二重帝国」の側で開戦を躊躇う理由は無い。ましてや容赦する必要性など何処にもない。

 

 

 ゆえに国内の少数民族問題に悩まされていた「二重帝国」にとってみれば、「王国」との不和はむしろ望むところであった。

 

 こちらへの攻撃を強める「王国」に対して強硬策に出ることで、国内の愛国心を刺激して皇室や政府への不満を国外に逸らすことができるからだ。

 

 

 また、当時の「王国」軍は一枚岩ではなく、統一された指揮系統は存在しない。

 

 

 反「二重帝国」を掲げる「鉄血宰相」および陸軍大臣の一派と、反革命および統帥権重視の立場からこれに反対する派閥が存在していた。

 

 後者には人事権を持つ軍事内局局長、実戦部隊の最高司令官である陸軍元帥らが属しており、親「二重帝国」的な政策を主張していた。

 

 

 

 かくして「二重帝国」は「王国」との対決を決定する――。

 

 

 

 「王国」不在で行われたドームヒューゲル国民会議は始終「二重帝国」主導で話が進む。

 これまで「王国」が経済力をバックに中小の「同盟」諸国へ高圧的な態度で接してきたこともあり、旧教が多い南部はもとより同じ新教であるはずの北部までもが「二重帝国」支持へ回った。

 

 加えて「王国」の進める「“小”帝国主義」が「王国」を中心とした中央集権体制であることも徐々に判明し、特権や自治権を手放したくない「同盟」諸国の代表はこぞって「二重帝国」の「“大”帝国主義」へと鞍替えしていった。

 

 

 こうして「二重帝国」はドームヒューゲル国民会議を掌握し、「王国」への制裁を満場一致で可決させる。

 制裁内容には「鉄血宰相の辞任」も含まれており、拒否した場合は王国と二重帝国および同盟諸国の間での戦争も厭わないという内容であった。

 

 

 

 このとき、もし「二重帝国」が対決を先延ばしにすれば、ターニャの知る歴史のように「王国」が勝っていたかもしれない。

 

 軍事改革が進み、「鉄血宰相」は権力闘争に勝利し、ノルデン方面の戦争で共闘した「二重帝国」軍がハリボテであることに気づけたのかもしれない。

 

 

 

 ここまでならば、ターニャが元いた世界とほぼ同条件。そしてターニャのいた世界におけるプロイセン王国軍は最新技術を駆使し、下馬評を覆してオーストリア=ハンガリー二重帝国に勝利している。

 

 

 だが、この世界はターニャの元いた世界と似て非なる異世界。ターニャが転生前には得ることのできなかった異能の力がある。

 

 

 

 その力とは即ち、“魔法”――。

 

 

 

 「ラインの悪魔」ターニャ・デグレチャフを生んだ最大の要因である魔法は、「二重帝国」を名実ともに中欧の支配者たらしめた。

 

 神聖ロマヌム帝国を起源とする、帝国千年の歴史は新しき力である科学を停滞させもしたが、同時に古き力である魔術を比肩するもののないレベルにまで押し上げる。

 欧州の心臓部たる中欧にて脈々と受け継がれてきた魔術師たちの努力と研鑽は、「黄金のプラーガ」と呼ばれる欧州最大の魔術都市を生み出した。

 

 「二重帝国」の魔術師たちは長い歴史と伝統を余すところなく吸収し、その力量は新興のベルンやロンディウムの魔術師たちの比ではない。

 

 

 たったひとつ、ただの一つだけ歴史が「二重帝国」に味方したとすれば、それは「魔術」において他はない。二重帝国をに君臨する皇帝家の3大家領のひとつ「ベーメン王冠領」は質・量ともに世界一の魔術王国であった。

 

 

 科学技術では後れをとっていた「二重帝国」ではあるが、魔道師同士の戦闘に限れば「王国」の勝率はゼロである。おりしも魔道師の地位もまた、かつて魔術礼装と呼ばれていた魔術師の兵装=演算宝珠の改良によって上昇していた時代である。「二重帝国」の誇る魔道師部隊は、新興の科学国家である「王国」軍にとって大きな脅威となっていた。

 

 

 

 こうして国内・国外を問わず世論では「戦争になったら王国が負ける」という空気が大陸を支配した。それは限られた情報の中から導き出された、限定合理性にもとづいた理性的な判断だ。

 

 なれば当然、主戦派は勢いを失ってゆく。非戦派の「敗戦するよりは外交的譲歩で被害を最小限に」という主張が主流に乗り替わる。

 

 

 

 更に「鉄血宰相」に追い打ちをかけるように、ノルデン地方への介入に対して諸外国が非難声明を出し始める。

 

 

 通商ルートおよび制海権確保を国是とするアルビオン連合王国は、戦略上の要衝であるノルデンへの介入に対して反発。

 

 フランソワ共和国は歴史的な理由で「王国」と常に対立していた他、国内の政治的な事情から保守派に妥協するべく旧教徒に受けがいい政策……すなわち同じ旧教の大国である「二重帝国」との協調外交を模索していた。

 

 協商連合は以前からノルデンの領有権を主張しており、もちろん妥協する気などない。売られたケンカは買わねばならぬ。

 

 残るは「二重帝国」から独立したばかりのイルドア王国とルーシー連邦であったが、前者は独立直後であるため国内の立て直しに忙しく、後者も国内で発生した反乱鎮圧に追われていた。

 

 

 こうして「王国」は外交的に完全に孤立し、「鉄血宰相」ら保守派は国内でも支持を失っていく。ここぞとばかりに軍部と議会、そして王妃、王太子ら自由派が責任を追及するに至り、ついに「鉄血宰相」は辞任することとなる。

 

 

 「鉄血宰相」の辞任――。

 

 

 それは同時に、二重帝国が主導する「“大”帝国主義」の勝利をも意味していた。

   




 >与党・保守党の38議席に対して、野党の進歩党・中央左派が合計が247議席を確保

 これに加えて皇后と皇太子、陸軍元帥と軍事内局局長(国防次官みたいな人)の全員を敵に回して国王にも呆れられてたのにクビにされなかったビスマルクって何者なんや・・・。

 ちなみにここには書かなかったですが、ロシアとの密約を酔っぱらってパーティの席で野党の党首だかなんだかに全部バラしたりするとか、他にも色々やらかしてた模様


 ちなみにこの世界では鉄血宰相(笑)としてフツーにクビにされました。むしろターニャのいた世界の歴史の方がおかしい。それこそ存在Xがビスマルクに肩入れして小ドイツ主義を勝たせようとしたんじゃと疑うレベルでビスマルクの強運がチートレベル


 あと魔道師の存在は、史実の普墺戦争にはなかったジョーカーだと思います。魔法なら新興のプロイセンより、オーストリア=ハンガリーの方が強そう

 プラハから錬金術師の作ったゴーレムとかが出動したり、ハプスブルク家ゆかりの魔術礼装が大暴れとか、神聖ローマ帝国時代から皇帝家に伝えられてきた聖遺物とかが大活躍しそう。

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