帝国建国記 ~とある休日、カフェにて~   作:大ライヒ主義

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いかにして古き二重帝国は新たなる王国を打ち破ったか?④

 

「結局、王国第2軍が戦場に間に合うことは無かった。彼らが戦場に遅れて到着した頃には、既に王国第1軍の戦線は崩壊していた」

 

 

 作戦を指揮していた二重帝国軍の皇太子は、流れが変わった事を見逃さなかった。彼はすぐさま予備にも総攻撃を命じると一転して騎兵と歩兵による追撃を続けた。

 

 ここにきて二重帝国軍の旧態依然とした戦術―――砲兵の事前砲撃がないまま無謀な銃剣突撃を繰り返す――がその真価を発揮した。

 勢いに乗った二重帝国軍は砲兵の支援を待たずして、要塞から次々に出撃して慌てふためく王国軍との白兵戦に持ち込んだ。

 

 

 白兵戦になってしまえば、もはや王国自慢の後装式大砲も同士撃ちを恐れて使えない。後装式銃の素早い連射による火力の集中もまた、敵とある程度の距離が無ければ発揮できない。

 

 

「カールスグレーツの戦場では、今や鉄血宰相と参謀本部の作り上げた華麗な芸術は失われていた。そこにあったのは中世から連綿と続く銃剣突撃の蛮勇だけで、野蛮な暴力が戦場を支配していた」

 

 

 敵味方が入り乱れた1対1の殺し合いともなれば、最終的には数の多い方が勝つ。二重帝国軍20万の兵士は自らも甚大な被害を被りながら、王国軍兵士14万人をスチームローラーの如く確実に磨り潰していった。

 

 

「あの戦場は地獄じゃった……今でも悪夢に見る。そして儂はそのとき、あれほど信じていた鉄血宰相と参謀総長の“戦争芸術”が単なる幻に過ぎず、戦争の本質は野蛮そのものなのだと悟った……」

 

 

 王国軍の本営では度重なる救援要請に対して、参謀総長が優雅に葉巻を選り好みするなどの余裕を見せて強がるも、もはや勝敗の結果は明らかであった。

 

 

 翌日、遅れて王国第2軍が到着するも既に後の祭りである。そこにいたはずの第1軍は霧散しており、倍近くの士気建興な二重帝国軍兵士が待ち構えていた。

 

 

 こうして戦闘は二重帝国軍の逆転勝利に終わり、結果的に兵力を分散した26万の王国軍は各個撃破される形となった。

 

 そしてこの報を受けて南部で苦戦していたイルドア王国は早々に戦争から離脱する。一転して優位に立った二重帝国とその同盟軍は南部と東部から王国領内へと進撃、首都ベルンへと迫った。

 

 

「王国内部では『鉄血宰相』が戦争責任を問われて失脚、最終的に王国の王女と二重帝国の皇太子が政略結婚することで戦争は二重帝国の勝利に終わり、帝国は統一された」

 

 

 そう言って、初老の教官は口を閉じた。ちらり、と時計を見ればまもなく講義終了の時間だ。

  




 分進合撃って成功すれば敵を包囲殲滅できるけど、失敗すると各個撃破されるという

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