ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 活動報告にも書きましたが、アクセル・ワールドVSソードアート・オンライン 千年の黄昏、フェイタルバレットをプレイし始めてしまい妄想が止まりません。
 ベルセルク・オンラインになんとかして組み込めないか画策中。やるとしても本編とは違って、外伝的な感じでやれないものか……。

 -シロ-さん、誤字報告ありがとうございます!


第14話 決戦前~大人の意地~

 

 

 2024年1月31日 PM15:32

 第一層 『はじまりの街』

 

 

 街は活気に包まれていた。

 まるでそれは、ソードアート・オンライン稼働日初日のように。いいや、それ以上の活気と熱気がはじまりの街を包み込んでいた。

 鍛冶スキル持ちのプレイヤーは代金を取らずに、武器のメンテナンス及び武器制作に関わっている。素材が足りなければ商人としてロールプレイしていたプレイヤーが無償で素材を提供し、足りなければ腕に覚えのあるプレイヤー達が急ぎ足でフィールドに出て素材集めに勤しむ。

 酒場や食堂には、料理スキルが高いプレイヤーが先導するように台所に立ち料理を振る舞っていた。戦えない者、子供も見ているだけではない。何か自分で出来ることを見つけては率先して動き、手を貸していた。

 

 一致団結。

 ありとあらゆるプレイヤーが、自分の長所で他所の短所を補っている。

 

 

「おい、素材が足りねぇ!」

「何が足りないんだ?」

「ゴーレムの心臓、海人の鱗、剛龍の甲殻、あとは――――」

「いや、もういい。リストをメッセで送ってくれ。持ってないか周りに聞いてくる」

「頼んだ!」

 

「次! 武器のメンテして欲しい人いない!?」

「いいや、大丈夫だ。すまねぇが、西区に向かってくれないか? 人手が足りねぇ!」

「ガッテン!」

 

 

 忙しなく動き回るプレイヤー。

 それは統率が取れておらず、司令塔も存在しない。だがプレイヤー達に迷いはなかった。

 茅場晶彦を倒し、仮想世界から現実世界に帰還を果たす。その一点が共通の目的となっている以上、全員に迷いはない。

 

 

「みんな、自分が出来ることを精一杯やってるなぁ……」

 

 

 ぼんやりと、蚊帳の外から見ていたクラインが石造りの路面に座りながら呟いていた。

 それに反応するのは彼の隣で立っているエギルだ。彼は気の抜けた発言をしたクラインに呆れながら言う。

 

 

「何を他人事のように言ってんだ? これからって時に、のんびりしやがってよぉ……」

「そういうエギルだって、俺と似たようなもんじゃねぇか」

 

 

 不満そうに口を尖らせているクラインに対して、エギルはどこか自信満々に胸を張って堂々と告げる。

 

 

「フフフッ、聞いて驚け。俺は素寒貧だ」

「えっ、ってことはなにか。お前さん、蓄えてた素材全部ねぇの?」

「応とも。貧乏まっしぐら、いつもニコニコのエギルさんのダイシーショップは閉店となりましたとさ」

「随分と思い切ったなぁ?」

「これで終わりだからな、出し惜しみは無しだ」

 

 

 エギルに残されたのは、獲物の斧。身を護る鎧に、最低限の回復アイテムくらいだろう。

 それでもエギルは笑っていた。むしろこの日のために蓄えていたモノをバラ撒けて清々しいと言わんばかりに、彼は居丈高に笑みを零す。

 

 そんな彼を見て、クラインは空を見上げる。

 清々しい青い空。もちろん、その空は本物ではない。限りなく本物に設計された、仮想世界での空であった。

 その空の上にはまだ階層が連なっている。こことは違う空をあと99回も見なければいけない。そう考えると、クラインは息苦しさすら感じていた。

 

 

「そうだよなぁ。茅場を倒せば、もう終るんだよなぁ……」

 

 

 だが今は違った。

 現実世界に戻りたいと言う気持ちもある。だがそれと同時に、この仮想世界も悪くないと思ってしまうのだ。

 悲しいこともあった。恐怖に身体が震えることもあったし、不安で眠れない夜を過ごしたこともあった。だがその中に、確かな悦びもあったのだ。その事実は仮想ではなく、現実のものである。

 

 

「お前さんの言いたいこともわかるけどな

 

 エギルもクライント同じ気持ちのだ。

 だがそれでも、帰らねばならない。エギルを今も待っている者がいる。この先の人生を共に歩んでいきたい者がいる、この先の人生を見守っていきたい者がいるのだから。

 

 エギルは苦笑混じりに言う。

 

 

「いざここから抜け出すって考えたら、ちょっとは名残惜しいかもな。でも俺達の生きる場所はここじゃない。そうだろ?」

「わかってるさ。あーあ、この世界から純粋なVRMMOだったらよかったのになー!」

「……一応聞くが、お前の言うここが純粋なVRMMOって奴なら何してたんだ?」

 

 

 つまらねぇことを聞くなよ、とクラインは言うと満面の笑みで親指を立ててサムズアップ。満面の笑みの晴れ晴れとしたグッドスマイルになりながら続ける。

 

 

「そりゃオメェ、もの凄いイケメンにして英雄プレイ。ンでモテモテ生活エンジョイだぜ!」

「あぁ、お前らしいよ……」

 

 

 欲望に忠実、もしくは自分に正直。

 この誰もが浮足立っている現状においてもブレないクラインに、どこか安心感をエギルは見出してしまう。こう言う男が場の空気を和ませるムードメーカーとなり得るのだろう、と確信する。

 

 そうすると、クラインは笑顔を消し、どこか物思いに耽るように思案しながら呟いた。

 

 

「真面目な話、俺だって現実世界に帰りたいけどよ。……それってアイツも同じだと思うか?」

「アイツ、か……」

 

 

 クラインが言う“アイツ”とはいったい誰のことを指しているのか、エギルは察知すると同時に苦い顔に変わる。

 仮想世界では“少年”は受け入れられた。それが現実世界でもそうかと言ってしまえば、恐らくそうではないだろう。どこかで、必ず迫害を受けるに違いない。世紀の犯罪者と関係者なのだ、民衆はそういったスキャンダルに飛びつくし、民意によって“少年”は指差されることだろう。

 

 

「アイツの――――ユーキの気持ちなんてわからんさ」

 

 

 でも、と言葉を区切りエギルは事実だけを口にした。

 

 

「――――それでもアイツは、俺達の為に全員に頭を下げた」

 

 

 そんな真似、自分に出来るだろうかとエギルは思考する。

 デスゲームに巻き込まれ、しかもその犯人は自分の身内。この事実が露呈してしまえば、プレイヤーの大半は敵になるかもしれない状況。そんな状況で、あの場面で頭を下げると事が出来るだろうか。

 答えは否だろう。恐らく、そんなこと出来る訳がない。

 

 

「そういえばよぉ、エギルってユーキとリアルで知り合いなんだろ?」

 

 

 クラインの問いに対して、ぼんやりと考えていたエギルは「おぉ」と答えて意識をクラインに向ける。

 

 

「知り合いでもあるし、常連だ。店出してるからな俺」

「えっ、マジかよ。初耳だ」

「言ってなかったからな。……んで、知り合いだがどうしたんだ?」

「ユーキって、あんな前に出るタイプなんか?」

 

 

 クラインは比較的、ユーキと知り合ってから日が浅い。

 第一層から顔馴染みであったが、直ぐにユーキは『アインクラッドの恐怖』として活動してしまっている。実際のところ、会話をするようになったのは去年の7月から。つまり数ヶ月前からのユーキしか知らない。

 

 だからこそ、クラインは疑問に思った。

 ユーキという人間はここまで周りを優先にする人間なのか、と。

 その問いに、エギルは答える。

 

 

「いいや、違うな。どちらかと言うと、アイツは影で色々と動くタイプだ」

「そうなのか?」

「あぁ。それに、自分の本心を他人に伝えるタイプでもない」

 

 

 思い出すのは、初めて出会った光景。

 迷子になったレベッカを探し回り汗だくになっている自分と妻と、レベッカを保護した人の良い笑顔を浮かべるアスナと無愛想なユーキの姿。

 そう言えば、俺には猫被ってなかったなアイツ。と小さく笑みを浮かべてエギルは続ける。

 

 

「本来のアイツなら、もっと上手く立ち回っただろうさ」

「根拠でもあんのか?」

「クラインは知らないだろうが、猫被るからなアイツ」

「それってつまり、演技するってことか?」

「おう。詐欺のレベルだぞアレは」

 

 

 いまいち想像ができないのか首をかしげるクライン。

 無理もない。粗暴で乱暴、口は悪く眼つきも悪い。そんなユーキが猫を被る姿が想像できないのだろう。

 

 困っている人間を見れば乱暴に話しかけ、泣いている人間が居ればぶっきらぼうに手を差し伸ばす。

 その辺りは変わっていないが、それでも本音を口にすることはなかったし、見ず知らずの他人に頭を下げるなんて選択もしなかった。

 

 

「それが今となっては猫を被らずに、全員の前で本音を曝け出して頭を下げると来たもんだ。変わったよ、ユーキは」

 

 

 感慨を顔に滲ませながら呟くエギルに、クラインは首を縦に振って同意する。

 

 

「ユーキだけじゃねぇ、キリトのヤツも変わったよ」

「そういえば、お前とキリトってパーティーを組んでたんだっけか?」

 

 

 その問いに、クラインは苦笑混じりの表情で応じた。

 

 

「パーティーっつっても、俺が一方的にレクチャー受けてただけだけどな? 始めの頃はアイツも結構テンパってたのによ、今じゃ『はじまりの英雄』とか呼ばれてんだぜ?」

「子供の成長は早いってことだろ」

 

 

 彼らだけではない。

 アスナだって、リズベットだって、ユウキだって強くなった。レベルやステータスの話しではない、もっと見えない何か。数値で見れるものでもなく、自分では実感が出来ないモノ。それこそが――――心だ。

 自分達よりも歳が若いくせに、誰よりも希望を持って前を見ている少年少女。人格がある程度完成されてしまった自分達には持っていない可能性を、彼らは持っておりそれを育み成長してきた。

 

 

「クライン」

「ん?」

 

 

 エギルは座っているクラインに拳を突き出す。

 クラインはポカンと見るだけだが、エギルはニヤリと口元を不敵に歪ませて言う。

 

 

「俺達も負けてられないぞ?」

「……そうだな」

 

 

 エギルが何を言わんとしているか理解すると、彼は立ち上がりエギルに向かって拳を突き出して――――

 

 

「大人の意地ってやつを見せてやろうぜ」

 

 

 ――――両者の拳を合わせた。

 

 いつだってそうだ。

 昔からも、そしてこの先も変わらない。

 子供を守るのはいつだって―――――大人の役割なのだから。

 

 

 

 


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