ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 ちなみにユウキは宿屋、ユイちゃんはキリトの部屋に泊まっています。
 はじまりの英雄、幼女と一緒のベッドで寝てるってよ


第3話 遠い思い出

 

 

 ―――懐かしい、遠い夢を、見た――――。

 

 

 その世界はモノクロ。

 白黒で色彩など不鮮明で、これでもかというくらい色褪せた世界だった。

 どこにいるのかも“彼”にはわからない。だがどういうわけか、これは夢であることがわかっており、ここで出て来る登場人物も誰なのか分かっている。

 

 先ず出てくるのは少年――――それは“彼”自身であった。

 場所も不鮮明なもの。どこかの建物の一室で、周りにはパソコンがあり、四方の壁を埋める業務用冷蔵庫のような大きさの最新式の量子コンピューターが設置されている。どこぞの研究室、もしくは計算室と言うかのような場所に少年は居た。

 少年は腰掛けているリクライニングチェアが大きすぎるのか、足が地についていない。その姿は幼い姿なのだから仕方ない。小学生のときの“彼”の姿なのだろう。

 どこかぼんやりと、まるで他人事のような俯瞰的な目線で“彼”は結論付ける。

 

 その姿は痛々しいモノであった。

 腕には擦り傷、顔は打撲の痣があり誰がどう見ても腫れていることがわかる。

 とてもではないが、転んで出来るような傷ではなかった。まるでそれは第三者に殴られ、蹴られでもしないと負わない傷だ。となるとつまり――――。

 

 

『――――これは酷くやられたようだね』

『…………』

 

 

 ――――また新しい男性が現れる。

 男性は白衣をこれでもかというくらい見事に着こなし、表情も声も感情が篭っていない。その片手には救急箱を持っていた。

 

 少年の視線に合わせるように腰を落すと、男性は救急箱から傷薬を取り出しながら。

 

 

『手を出しなさい』

『……いらねぇよ、ンなもん。唾を付けておけば治る』

『確かに唾液に含まれているリゾチーム、過酸化酵素、lgaといった成分で、バクテリアの増殖を抑制することは出来る』

 

 

 しかし、と言葉を区切り有無を言わさない迫力で無表情で続けた。

 

 

『根本的な治療にはならない。手を出しなさい』

『……チッ、何言ってるかわかんねぇよ』

 

 

 男性の反応を見て、これ以上断っても引き下がらないことは少年も理解していたのか、渋々と言った調子で男性に向かって手を伸ばした。

 それを見た男性は一度微かに頷くと、救急箱から取り出した傷薬から液体をジュボッ!と勢い良く出し、ガーゼに染み付けて少年の傷に当てた。

 

 

『痛ぇ!!』

『……言い忘れていた。染みるからから気をつけなさい』

『忠告が遅いんだよ鉄仮面!』

『だから言い忘れたと言ったじゃないか』

『――――!! もういい、自分でやる!』

 

 

 何を言っても無駄だと瞬時に理解した少年は、力付くで男性から傷薬をふんだくると自分で治療し始めた。

 

 こうして傷を負うことも珍しくないのか、少年の治療は的確でスムーズだ。

 男性のように不器用の極みではない。傷薬の量も適量、腫れている顔に湿布を張って、苛立っている口調で少年は嫌味の一つを漏らす。

 

 

『なんでも器用に出来る癖に、ンでこういうことは不器用なんだアンタは』

『昔から不得意でね。私には向いてないようだ』

 

 

 男性は近場に合ったコーヒーメーカーを起動させて、近場にあったカップにコーヒーを注ぎ続ける。

 

 

『私はね、物を作るのは得意でも、人を治すのは不得意なんだ。――――兄さんと違ってね』

『……そうかい』

 

 

 どこかお互いに含みのある会話だが、それ以上に二人とも踏み込む様子はない。

 男性はコーヒーの入ったカップを持ち、手頃の椅子に腰掛けて少年に問いを投げる。

 

 

『その傷は?』

『……別に転んだだけだ』

『先日、学校から呼び出されたのだがね』

 

 

 コーヒーを一口飲み間を開けて。

 

 

『喧嘩しているそうじゃないか』

『……わかってんなら聞くんじゃねぇよ』

『イジメを受けているのかい?』

『……別に、オレは悪いことなんてしてないぞ』

 

 

 どこか拗ねたような口調で言う少年に対して、わかっていると男性は頷くとカップをテーブルの上に置くと懐から手帳を取り出してパラパラとめくり始める。

 そこである一定の場所でめくるのを止めて読み始めた。

 

 

『イジメられている後輩を助けたそうじゃないか』

『……待て、アンタ調べたのか?』

『君が素直に話す訳がないと思ってね』

『科学者よりも、探偵やってた方がいいんじゃねぇの?』

 

 

 呆れ半分真面目半分な調子で少年の軽口は、男性の調子を崩すまでには至らないらしい。

 男性は首を横に振って口を開く。

 

 

『生憎だが、転職するつもりはないよ』

『……冗談だよ。真面目に捉えんなよ』

『わかっているさ』

『……ッ!』

 

 

 何か言いたそうに口を開きかけるも、少年は直ぐに奥歯を噛み締めてグッとこらえた。

 掴みどころがない男だと思っていたが、こうまで自分のペースを乱されるのが我慢できなかったらしい。

 

 これ以上話をしても埒が開かない。

 むしろ自分だけが苛立って幼稚さを露呈するなんて屈辱を味わうことにある。そう感じた少年は、すぐにでもこの場を後にしようと苛立ちながら席を立つも。

 

 

『まだ話しは終わってないよ』

 

 

 男性がそれを許さない。

 数歩だけ進んだ少年の足が止まり、振り向かずに背を向けたまま淡々とした口調でそれに少年が答える。

 

 

『これ以上話すことなんてねぇよ』

『まだ質問に答えてないだろう』

『あぁ!?』

 

 

 荒らげる声と共に少年は振り返る。

 だがその次の言葉は出なかった。何故なら――――。

 

 

『その傷は、どうしたんだ?』

『――――――――』

 

 

 有無を言わさない圧。

 プレッシャーとも言えるそれを放ちながら、彼は少年に問いを投げる。男性は静かに、ただ静かに怒っていた。

 

 無表情で無感情。それが少年から見た男性だった。

 しかし今しっかりと感情を向けている。それも憤怒であり、向けられている矛先は少年ではない。

 

 

『なんでアンタがキレてんだ?』

『甥っ子を傷つけられて怒らない人間がいるとでも?』

『まるで保護者だな』

『私は君の身元保証人なんだがね?』

 

 

 この男にも感情というものがあったのか、と驚く。

 それと同時に、自分如きの為にここまで怒ってくれてるのか、と少年は嬉しく感じたのらしい。苛立っていた感情は静まり、ため息を付きながら調子を取り戻していく。

 

 その調子のまま少年は、先程の男性の疑問に答えることにした。

 少年が絶え間なく傷を負う理由。

 

 

『アンタも調べたんならわかるだろ。喧嘩してるだけだ』

 

 

 後輩が虐められている。それを少年が知ったのは偶然だった。

 偶然、同級生の会話が耳に入ったので、本当かどうか確認したらその後輩が虐められていた。人殺しと殴られ、疫病神と罵られ、理不尽な言いがかりを少年の後輩は受けていた。

 

 それが気に入らなかった、その程度の理由に過ぎない。

 寄って集って、しかも相手は女で、多数の相手が少数の者を嬲っている。正直な話、少年はその光景を見て反吐が出そうだった。

 

 だから喧嘩を売り、標的が後輩から自分になり現在に至る。

 その程度の理由に過ぎなかった。

 

 喧嘩といっても、実態はリンチに近い。

 その証拠に今の少年の痛々しい姿である。何よりも多勢に無勢、少年が勝てる道理はない。

 

 そんな甥っ子を見て、男性の機嫌が治る様子はない。

 無表情であるものの雰囲気が剣呑であり、明らかに苛立っている事がわかる。

 

 天才は何をしでかすかわからない。凡人が想像できないことをしでかすから天才なのだ、と結論付けて少年は先に伝えておくことにした。

 

 

『コレはオレの喧嘩だ。オレが喧嘩を売って、アイツらが買った。加勢はいらねぇ』

 

 

 きっぱりと告げる言葉。

 それは暗に“恥をかかせるな”と語っている。

 

 

『――――』

 

 

 黙って男性はそれを見る。何も言えなかったと言った方が正しい。その視線に、見覚えがあったのか。

 髪の色、眼の色は少年の母方のもの。顔もまったく似ていなかった。だがしかし、その意志力は瓜二つと言っても良い。

 

 絶対に自分を曲げない、折れないように真っ直ぐ過ぎる強い意志。それは男性の兄に、少年の父方によく似ていた。

 

 こうなってはてこでも動かないことを、男性は兄から学んでいる。

 戻らない過去から学び、懐かしみながら男性は少しだけ肩をすくめて呆れた口調で。

 

 

『本当に兄さんにそっくりだな君は』

『似てねぇよ。父さんなら、こんな生き恥は晒さない』

 

 

 少年の言葉の意味がどれほど重く、歪なものなのか男性は理解していた。

 生き恥の意味は喧嘩でボロボロになってることではない。両親を残し自分だけが生き残ってしまった後悔、それでも生きなければならない苦痛、そして――――少年から何もかもを奪ったモノに対する憎悪。

 それこそが少年の言う“生き恥”の意味だった。

 

 少年は背を向けた。

 その小さな背中にどれほどの絶望を背負っているのか、男性からは計り知れない。

 自分がその場に居て、自分だけが助かってしまった苦痛など想像を絶する事だろう。それほどまでに少年は両親を愛していたし、尊敬もしていたのだから。

 

 小さな背中、華奢な肩、フラフラなのは傷も癒えてないので真っ直ぐに歩くことも出来ないため。

 それでも少年は前に進む。立ち止まる時間すら惜しいと言わんばかりに、そんな時間すら自分には許されないとでも言うかのように進み続ける。

 

 

『一つ、聞いてもいいかな』

 

 

 尋ねずにはいられなかった。

 男性は重苦しい声で、少年に自分の疑問をぶつける。

 

 

『君はこの世界をどう思っている――――?』

 

 

 ドアノブに手をかけた手が止まる。

 少年は振り返らずに一言だけ答えた。

 

 

『オレはこんな世界――――滅べばいいのにな、って思ってる』

 

 

 その声は憤怒であり、憎悪であった。

 墨よりも黒く、闇よりも黒い心火を燃え滾らせる。このまま自分自身すら燃やし尽くしてしまうかのような怨嗟の声。

 

 それが誰に向けられたものか。理不尽極まる世界に対してか、それとも無様に生き残ってしまった自分自身に対してか。

 男性は全て理解して、氷のような声で呟いた。

 

 もはや少年は出て行っており、自分の声など聞こえないだろう。

 そうわかっていても、言葉にせざるを得なかった。

 

 

『あぁ、私もだよ――――優希君』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 2024年1月23日 AM8:35

 第十八層 ギルドホーム リビング

 

 

 ―――懐かしい、遠い夢を、見た――――。

 

 

 ぼんやりと、どこか心がざわつくような、懐かしい夢を見た。

 その夢の内容を、金髪の少年――――ユーキは思い出すことが出来ない。だがこれだけは言えた、もう二度と一緒にいられない人と会話するかのような、不思議な感覚であったと。

 

 胸に穴が空いたような、寂寞に似た謎の感情が波となってユーキに押し寄せる。

 少年自身ですら説明がつかない感覚があり、とても言葉に出来そうにない。そこで、八つ当たりするように頭をガシガシ掻きながら起きることにした。

 

 見渡すと自分の部屋ではない。

 リビングのソファーから起き上がったところを見ると、自分の部屋ではなくリビングで寝ていたとことが分かる。

 毛布がかけられており、ソファーの傍らには愛剣の両手剣『アクセル・ワールド』が立てかけられている。

 

 そこでユーキは思い出した。

 夜に日課としている素振りを終えて、ギルドホームに帰ってきた後ソファーに横になって寝てしまったことを。

 しかしそれでも妙であった。そのまま寝てしまったのであれば、毛布など使っていなかった筈。ならばこの毛布はどこから出てきたのか。

 

 

「あっ、起きた。おはようユーキくん!」

 

 

 ぼんやりと疑問に浮かんでいたユーキに声をかけてくる声が聞こえたので、彼はそちらへと視線を向ける。

 そこにいたのは笑顔の幼馴染――――アスナだ。

 

 ニコニコとご機嫌で、眩しいくらいの笑顔がユーキに向けられている。

 簡易的な白いセーターに黒いロングスカート。その上からエプロンを着用していることから、どうやら朝食を作っていることがわかる。

 

 対するユーキはテンションが低いまま「おはよ」と返し、目頭を抑えて問いを投げる。

 

 

「オマエだけか?」

「ううん。リズも一緒だよ」

「呼んだアスナー?」

 

 

 キッチンからまた新しい少女の声が聴こえて、その声の主はリビングまでやってきた。

 桃色の頭髪の少女――――リズベットは起きたユーキを見て、呆れた口調で続けた。

 

 

「アンタねぇ、寝るんなら自分の部屋で寝なさいよねー。それと、おはよう」

「……おはよ」

 

 

 まったくもってその通りであり、ぐうの音も出ないのは正にこのことを言うらしい、とユーキはぼんやりと考えていた。

 リズベットの言うことは正論である。以前であれば、こんな隙を見せることはなかった。ましてや、ソファーで寝顔を晒すなどありえない。油断なく、神経を張り巡らせて、決して隙を見せることなど無い。それがユーキという人間であった筈だ。

 

 しかしここに来て、ユーキは変わっていた。

 余裕が出来たという方が正しいのかもしれない。それが良いことなのか悪いことなのか、本人でさえわかっていない明確な変化。

 

 ユーキとある程度交流を深めれば変わったことが分かる変化だが、どうやら少年の幼馴染となるともっと深く変化に気付く。

 そう。今のユーキの状態など、アスナは敏感に察知する。

 

 

「大丈夫……?」

「あ?」

 

 

 目頭を押さえていたユーキはアスナへと視線を移す。

 

 満面の笑みだった彼女はもういない。

 どこか不安そうで窺うように、眉を八の字に変えて問いを続けた。

 

 

「何か悲しそうだから……」

「…………」

 

 

 それは敏感な差異であった。

 それはユーキ自身ですら気付いていなかったようで、思わず目を丸くする。

 

 そうか、自分は悲しかったのか。

 と、わかると同時に新たな疑問が生まれてくる。それは、何故?悲しいのはどうして?

 

 先程見た謎の夢が原因なのだろうと想像は出来るものの、内容を覚えていないことには原因がわからない。

 親しい人間と話をしていて、もう二度とそんなことは出来ない。そんな夢であったはずなのだ。それが誰なのか、ユーキは思い出せなかった。

 

 だからこそ、アスナの問に答えられない。

 覚えていない夢が原因だ、なんてこれほど間抜けな話しはないだろう。

 どう誤魔化すかユーキは考えていると、リズベットが首を傾げながらユーキを注意深く観察し始める。

 

 

「悲しそう? あたしには寝起きで機嫌が悪いようにしか見えないけど?」

「えー、こんなに分かりやすいのにー?」

「分かんないわよ……」

 

 

 それだけ言うと、リズベットは再びユーキの表情を観察し始める。

 その視線が流石に鬱陶しく感じたらしい。どこか不機嫌そうな声色で先程の話題を誤魔化す意味も込めて、ユーキはアスナに問う。

 

 

「あの野郎+1はどうした?」

「まだ寝てるよ」

「アイツは?」

「宿屋にいるみたい」

「いやいや、待って待って」

 

 

 軽快な幼馴染達のやり取りに、リズベットがストップをかける。

 

 

「どこの誰の話をしているのよ?」

「え、わかんなかった? あの野郎がキリトくんで+1がユイちゃん、アイツがユウキのことを言っているんだけど……」

「わかんないわよ」

 

 

 キッパリと返すと、リズベットはあぁ!と納得するようにパンと手の平を合わせた。

 全て合点がいったと言わんばかりに、今までの疑問が解消されたとでも言うように、朗々とした口調で続ける。

 

 

「わかっていたけど、改めてわかった。アスナ、あんたって変態ね」

「えっ、なんで!?」

 

 

 狼狽えるアスナを尻目に、うんうんとリズベットは満足気に頷きながら無視するように納得し始めた。

 

 

「何かおかしいと思ったのよねー。普通は気付かないことも気付くし、どんだけコイツのことを見てるのかって感じ?」

「普通気付くでしょ!?」

「いやいや、気付かないわよ。やっぱり変態ね、異常であることを気付かないなんて」

「違うもん!」

 

 

 そこまで嘆くとチラッ、と若干涙目になり始めたアスナはユーキに視線を泳がせた。まるで助けを乞うかのような縋るような視線を受ける。

 ここで引いては男が廃る。男の本能が感じ取り、ユーキは全力で受け止めることにした。

 

 

「え、オマエ変態なの……?」

 

 

 そう、受け止めた。

 変態であると言う情報を、全力でユーキは受け止めた。いわゆるドン引きである。

 

 そうなってはアスナが縋るのは自分自身。

 彼女はヘタヘタ、と力無く床に座り込み、イジイジと「違うもん、変態じゃないもん」とうわ言のように呟き始めた。その間、床に指でのの字を書く事も忘れない。完璧なイジケスタイルをここに完成させる。

 

 それを見たユーキは満足したのか、

 ため息を吐きながら、リズベットに苦言を漏らす。

 

 

「冗談はさておき、あまりやりすぎんなよ? うちのリーダーは、イジケたら長いんだからな」

「完璧にアンタの一言がトドメだったと思うんだけどね。まぁ、気を付けるわ。アスナ可愛いからついついやりすぎちゃうのよね」

 

 

 リズベットの言葉に答えることもなく、ユーキはチラリと時計へと目をやる。

 朝の9時を回っていなかった。早起きしすぎたのかもしれないと思うも、二度寝するつもりもなかったユーキは今日はどうするか聞くことにした。

 

 

「今日はどうするんだ? 何でも、金欠だって聞いたが」

「それは後々考えることにしましょう。あたしとキリトは今日別行動をとるから」

 

 

 それはどうしてだ? とユーキが尋ねる前に、イジケていたアスナが立ち上がりニッコリと満面の笑みを浮かべて。

 

 

「リズとキリトくん、デートするんだって!」

「デートぉ?」

 

 

 思わずユーキの顔が怪訝な顔つきに変わる。

 対するリズベットは顔を真赤にさせて、手をブンブン振り必死に否定し始める。

 

 

「ちちちち違うわよ! アイツ、また剣を折ったから、素材集めに行くだけよ!!」

「違くないでしょ! わたし知ってるんだからね? 昨日リズが服なに着てくかプチファッションショー開催していたこと!」

「なっ!? だ、誰情報よ!?」

「ユイちゃん!」

「あの娘の朝食はピーマンのピーマン閉じに決定ね……」

 

 

 さっきの仕返しよー!と言わんばかりにリズベットをいじり倒すアスナを見て、再びユーキはため息を吐いた。

 

 

 ――楽しいことは結構だが、だいぶ浮ついていやがるな。

 ――まぁ、あの野郎が一緒だっていうんだから問題はねぇが。

 ――緊張感がまるで足りてねぇなオイ。

 

 

 だがそれを指摘するつもりは、ユーキにはなかったようだ。取り留めのない日常。それを壊すのはどうも気が引けたらしい。

 こういうのも悪くない、と彼女達の呑気さに毒されていると自覚しながらソファーから立ち上がった。

 

 片手には立てかけていた両手剣が握られている。

 どうやら彼女達のやり取りが収まるまで、素振りでもするつもりらしい。

 

 千回目安にするかなぁ、とぼんやりと考えていると視界の端で通知アイコンが点滅し始めていた。

 片手でメインメニューウィンドウを開き、通知を開く。どうやらメッセージのようであり、差出人は情報屋のアルゴからであった。

 

 またどこぞのバカが五十層に突撃でもかましたのか、と考えていつでも動ける心構えでメッセージを開くと。

 

 

「な――――に――――?」

 

 

 息を呑む。

 眼を丸くさせて、暫く息をすることすら忘れて、手が震えだした。

 碧眼の双眸の瞳孔が開いていくのを自覚しながら、メッセージの本文を何度も目を通す。

 

 間違えようがない。間違えるはずがない。

 本文は単刀直入だった。

 

 

 ――――茅場晶彦の正体が掴めたかもしれなイ――――。

 

 

 

 




Q.アンケートいいですか?
ユーキ「あ? ……おい、どういう遊びだこりゃ?」

Q.……アンケートいいですか?
ユーキ「あー……、はいはい。どうぞどうぞ」

Q.ソードアート・オンラインを始めてどれくらいですか?
ユーキ「一年弱くらいか? ってか、オマエ知ってんだろ」

Q.ギルドに所属してますか?
ユーキ「所属してますが?」

Q.結婚システムって御存知ですか?
ユーキ「まぁ、聞いたことは……」

Q.興味ありますか?
ユーキ「ねぇな」

Q.……そういえば、先日キバオウさん結婚したらしいですよ?
ユーキ「へぇ。まぁ、そりゃ……いいんじゃねぇか? 好きにすれば」

Q.最近なら結構多いらしいですよ、結婚する人達
ユーキ「そうかい」

Q.ところで結婚に興味ありますか?
ユーキ「ねぇな」



キリト「アスナとユーキは何をやってるんだ?」
リズ「あの娘なりのアプローチ……?」
キリト「……話題ループしてるぞ。ユーキも何でノッてあげるんだ?」
リズ(アスナ頑張れ超頑張れ。そいつ案外鈍感よ?)

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