ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
リハビリ投稿です。よろしくお願いします。
某年某月某日 PM16:30
ダイシーカフェ
「――――ってことで、明日から帰還者学校に転入することにしたから」
これからよろしくな、とクライン――――壺井遼太郎は同席している彼らに脈略なくそんなことを言い始めた。
思わず遼太郎の顔を見つめる彼ら二人の少年。
一人はポカンとした様子で。
もう一人はまたアホなことを言っていると言いたげな表情で。
それぞれがそれぞれの思惑を胸秘めたまま、遼太郎の顔を見つめていた。
対する遼太郎の表情は大真面目のそれ。
まるでデスゲームに巻き込まれている最中のような、命をかけた状況においこまれているような。もっとわかりやすく言うのなら、ソードアート・オンラインに囚われているかのような遊びのない雰囲気を纏っている。
ふざけているようで真剣そのもの。
アホを見る目のまま金髪の少年――――茅場優希は未だに状況を飲み込めない黒髪の少年に向かって。
「おい、聞いてやれよ」
「えっ、やだよ」
即答。
むしろ食い気味で黒髪の少年――――桐ヶ谷和人は答えた。
そして再び携帯を操作し遼太郎の発言をなかったかのようにしようとする。
気持ちはわからないでもない。どうせ下らないことである。それは優希も理解しているし、何だったら自分もこのまま聞かなかったことにして帰りたい。
「オマエの友達だろうが。友情大切にしろよ」
「絶交する」
「判断が早すぎだろ」
見ろ、と両手を動かさず顎をクイッとあげて遼太郎の方を見るように和人を促した。
渋々であるが和人もそれに従い、遼太郎の方を見ると――――泣いていた。
「あの遼太郎くんが。社会人にもなって上司(女)をお母さんと呼び間違えても意地でも泣かなかった遼太郎くんが泣いてんだぞ」
「おいおい、一大事だぞこりゃ」
「知るかよそんな情報!! っていうか居たのかエギル!?」
「俺の店だ。俺が居なかったら一大事だろ」
「あぁ、一大事だな」
「一大事一大事しつこいな! 流行ってるのか!?」
あぁ、一大事だな、とエギルと呼ばれた男性――――アンドリューと優希は同時に力強く頷いて。
「遼太郎くんの話しを聞いてやれよ桐ケ谷」
「あぁ、聞いてやれキリト」
「俺限定!? みんなで聞けばいいだろ!」
「オレの話しは聞いてくれないのかキリト……」
「だからなんで俺だけなんだよ!?」
「そりゃオメェ。お前がオレの親友だからだろ」
「親友やめていいか?」
和人の言葉に対して、これまた重いため息を吐いて遼太郎は続けて言う。
「何だよ、オレはお前のことを親友って思ってたのにな……」
「一方通行で悪かったな。お前の気持ちは嬉しかったよ」
「あぁ……。もしお前が両腕を折ってもお尻を拭いてあげてもいい。そう思えるくらいには親友と思っていたのにな……」
「そうだな――――ん、お尻?」
「おう、お尻……」
「いや待て。親友のハードル高くないか??」
そう思うだろ、と和人は縋るような目で観戦していたアンドリューと優希を見るも。
「そういう事なら、俺達はクラインの親友にはなれないな」
「そうだな。アーンが精一杯だよな」
「アーンで精一杯なのか!?」
思いの外、遼太郎に対する優希の好感度の低さに驚きつつ、ハッ、と和人は再び遼太郎の方を見た。
自分が話しを聞かないだけで泣いているほど情緒が不安定な遼太郎だ。二人の明確な拒否発言を聞いてどんな面倒くさいことになるかわかったものじゃない。
案の定というべきか。
遼太郎はいじけながら。
「オレはいつだって異質な存在。誰にも馴染めない孤独な獅子さ……」
「カッコいい表現やめろよな」
「ハァ、両腕折れたらどうしよう」
「大丈夫だ。今のウォシュレットって進化してるから」
これ以上いじけられるのも面倒だと言わんばかりに、和人はため息を吐いて聞いた。
「それで、なんで帰還者学校に転入したいとか言ったんだ」
「これを見てくれ」
スッ、と胸ポケットから取り出したのは一枚の写真。
写っていたのは女性であった。
「なんだコレ?」
「おっぱい、デカイだろ?」
確かに見てみるとデカイ。
恐らく、実際に見ると写真よりも大きいだろうと和人は真面目に分析しながら。
「大きいけどそれが?」
「この人が、お前らの学校に先生として赴任してくるらしい」
「…………?」
だから、なんだと、言うのだろう。
和人はもちろんだが、巻き込まれたくないのか全く会話に入ってこない優希とアンドリューの二人ですら要領を得ずに首を傾げる。
自身と周りの温度差なんぞなんのその。
遼太郎は立ち上がり、まるでどこぞの独裁者が民衆に扇動するように身振り手振りを激しく訴える。
「オレは長年の夢を叶えるんだ!! おっぱいのデカイ先生の教え子になるっていう夢を!!!!」
「無理だぞ」
「……え?」
馬鹿げたことを大真面目に宣う遼太郎に思わず優希は口出しをする。
早く話しを切り上げたいのか、現実を突きつけ、そして突き放しながら。
「遼太郎くん、髭生えてっから無理だぞ」
「そこじゃないだろう」
「――――っ!?」
「クライン、そこじゃねぇって!!」
その後、どうやったら遼太郎を帰還者学校に通わせれるか、二時間にも及び討論が始まった――――。
誰もが感じた無謀であると、誰もが理解していた時間の無駄である、と。だが彼らは暇だったのだ。どうしようもなく暇だったのだ。
遊びに来た朝田詩乃より「馬鹿じゃないの?(先輩以外)」という発言があるまでこの討論は続いたという――――。