ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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あぁ^~、モンハンとFGOが終わらないんじゃ^~

亜月さん、ししくろさん、誤字報告ありがとうございました!!


第3話 それでも少年は止まることなく

 

 2022年12月28日

 PM17:20 第五層 迷宮区

 

 

 迷宮区タワーの手前の遺跡―――超巨大迷路のマッピングも終わり、鎧の少年と紫ローブの娘は第五層の迷宮区にて経験値を稼ぎながらマッピングを行っていた。

 

 第五層のデザインテーマは遺跡。

 デザインテーマの通り、ダンジョン内は石造りであり、街やフィールドにも至る所で朽ち果てた遺跡が存在している。

 

 超巨大迷路もその中の一つ。

 構造はその名の通り入り組んでおり、一日二日で迷路全体をマッピングすることは出来ない。しかし幾つかの謎解きをクリアすれば、ほぼ一直線にショートカット出来るのだが、残念なことに鎧の少年も紫ローブの娘もそういった謎解きは向いていなかった。

 そうして彼らは湧いてくるモンスターを倒しつつ、迷宮全体を踏破することになる。第五層に到達して、五日ほどで完了する。しそうして今、こうして迷宮区に到達していた。

 

 超巨大迷路の後に、ダンジョン攻略。

 言葉にすると厄介極まりないように見えるが、そこまで厄介というわけでもなかった。第五層の迷宮区は単純な作りとなっており、一日でマッピング出来る代物。むしろ前哨戦である超巨大迷路の方が厄介極まりない。

 

 

 そうして、鎧の少年は迷宮区に湧いてくる何十体倒したかわからない小型ゴーレムを倒して、一呼吸置いた。

 表情は全身を覆う鎧のせいもあり見えないものの、その様子はどこか疲労が色濃く見え隠れしている。

 

 身の丈程ある石斧剣を地面に突き立てて、深呼吸をしながら。

 

 

 ――ここいらのモンスターはもう相手にならねぇ。

 ――弱点もわかった、それに両手剣と相性が良い。

 

 

 ここで意識を紫ローブの娘に向けた。

 彼女は踊るように、小型ゴーレムの攻撃を軽々とかわして、同時に弱点である額の紋章に向けて片手剣を突き立てる。だがさすがに一撃では倒せないようだ。

 かわして斬りつけて、再度かわして突き立てる。それを数度繰り返して、小型ゴーレムを倒していく。小型と言っても、二メートル程の体格であるが、紫ローブの娘には関係がないようである。

 

 その様子は軽業師のようで、舞踊でもしているかのようでもある。

 敵を見つけようものなら、いの一番に切り込む。攻撃に全力を出し、回避なんて二の次。傷つくことを前提とした泥臭い戦法の自分とは真逆、流麗とも取れる戦い方の彼女を見て。

 

 

 ――レベルもオレが上、筋力も遥かにオレが上。

 ――だがプレイヤースキルはコイツの方が圧倒的に上だ。

 ――何よりもコイツの反応速度は並じゃねぇ。

 ――敵が動くのと同時に、反応しやがる。

 ――後の先、ってヤツか……。

 

 

 そこで彼はふと、とあるプレイヤーを思い出す。

 自分が直感で物事を判断するのなら、そのプレイヤーは並外れた洞察力で全てを把握する。

 自分が相手が動く前に動く、つまり『先の先』で動くのなら、そのプレイヤーは相手に合わせる、つまり『後の先』で全てを封殺する。

 

 忌々しいが自分より強い、そう認めたプレイヤーの顔を思い出してながら。

 

 

 ――アイツにそっくりだな。

 ――まぁ、腕前は比べるまでもねぇ。

 ――野郎の方が数段上手ではある。

 ――だがこれならその辺の雑魚相手なら、簡単には死なねぇか。

 

 

 その辺の雑魚。それはエネミーモンスターを表していた。

 紫ローブの娘は強い。恐らく、ソードアート・オンラインをプレイしているプレイヤーの中でもその腕前は上位に食い込む程だろう。だがそれでも、鎧の少年は彼女と共にフロアボス討伐に赴いたことがなかった。

 

 フロアボスはエネミーモンスターとは訳が違う。

 プレイヤースキルでどうにでもなるモノでもないし、下手をすればHPゲージが全て削られてゲームオーバーになる可能性すらある。そんな場所へ、彼女を連れて行く気はなかった。

 名前もわからない、顔も見たことがない、いつも自分の後をついて来る、何度言っても止めることはない、それに目的が分からない分鬱陶しいと感じることもある。だがそれとこれとは別、連れて行ってもし万が一死なれたりしたら寝覚めが悪い。何よりも、ボス討伐を一人で行うと決めたのは彼だ。そんなつまらない理由に付き合わせるつもりもない。そういった理由で鎧の少年は紫ローブの娘と共にフロアボスを討伐したことがない。

 

 そして幸か不幸か、第五層の迷宮区は他の層に比べて、緩い作りになっている。

 これであれば、今日だけでマッピングが終わり、ボス部屋にも到達できてしまう。となると、紫ローブの娘も一緒にボス攻略することになってしまう。

 どうしたものか、と鎧の少年は考えていると。

 

 

「……あれ?」

 

 

 何体目かの小型ゴーレムを倒し、岩の塊に戻した紫ローブの娘から、不思議そうな声が上がった。

 小型ゴーレムを倒したことにより獲得コルと経験値、そしてドロップアイテムを知らせるウィンドウを見て、彼女は首を傾げていた。

 

 鎧の少年は突き立てていた石斧剣を引き抜いて、肩に担ぎながら紫ローブの娘へと近付いて。

 

 

「どうした?」

「ドロップしたアイテムに防具があったんだけど、ちょっと見てみてよ」

「あ?」

 

 

 鎧の少年も不思議そうにウィンドウを見る。

 紫ローブの娘の視線に合わせて、少し腰を折る。その際、肩と肩で触れ合う距離になってしまうが、二人は気にしてない様子である。

 

 何よりも、ドロップした防具がそれを許さなかった。

 距離感など関係がない。ドロップした防具を見て、鎧の少年から息を呑む声が聴こえる。

 

 

「オマエ、それ……」

「えーと、名前は『スケープ・ゴート』? これって確か、君が探してた防具だよね?」

 

 

 紫ローブの娘の言うとおり、第五層で手に入る兜の防具『スケープ・ゴート』を彼は探していた。

 それこそ『鼠のアルゴ』に情報料払ってでも手に入れたかったもの。第五層に来て数日。経験値を稼ぎながら探していたのだが、一向に見つかる気配がない。ここで普通なら、『鼠のアルゴ』の情報はガセネタではなかったのか、と疑うのだろうがその辺り彼はアルゴを信用していた。

 会話するようになって日が浅い、何よりもアルゴというプレイヤーネームしか知らない、彼がマッピングしたダンジョン内のデータを渡す代わりに、格安で情報を提供する、といった仕事上の関係のような間柄であるが、情報という一点に関してはアルゴを信用していた。

 

 故に、この情報は嘘ではない。

 そう信じて、彼はずっと現在まで探していた。

 だがまさか、石造りのモンスターから鉄で出来た防具がドロップするとは彼も夢にも思わなかったのだろう。

 

 どう言えばいいのか、迷っているところに。

 

 

「えへへへ……」

「…………」

 

 

 紫ローブの娘は笑みを零す。

 口元が笑みで緩ませて、彼女はどこか嬉しそうに。

 

 

「ボクを褒めてもいいと思うよ?」

「……よくやった」

「うん!」

 

 

 ぶっきら棒であるが、それだけで満足したのか紫ローブの娘の笑みは益々深まっていく。

 

 

「欲しい?」

「……あぁ、だがタダじゃねぇんだろ?」

「勿論だよ!」

 

 

 力強く頷くと、彼女は鎧の少年を少し見上げるような距離まで近付く。

 そしてどこか様子を見るように恐る恐る、と言った口調で。

 

 

「ボクとカルルインで一緒にご飯食べてほしいなーって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 PM19:05 第五層 カルルイン

 

 

 そうして二人は、迷宮区から第五層の主街区であるカルルインへと移動していた。

 

 街並みはやはりと言うべきか、第五層のテーマである遺跡に因んだ作りとなっている。第五層のフロア南部に広がる巨大な遺跡の中央部、そこにカルルインは築かれていた。イメージとしては、遥か昔に滅んだ文明、そこを後からやって来た人間が再利用している、といったモノである。

 その為か、お世辞にも水っ気がない不毛とも呼べる見た目である。だが埃っぽいというわけでもない、その辺りはNPCが毎日掃除している為か、不潔な感じはないようである。

 

 街も石造り。

 岩をくり抜いて出来た家や、巨大な石を積み上げられて出来た建物があちこちに建っている。

 風化している為か、ところどころ石や岩が削られているが、倒壊する様子は微塵もなく、それがいいアクセントとなっているのか猥雑に街を賑わしていた。

 

 第五層が突破されて、数日が経っている。

 そうなってくると、プレイヤーの数も少なくない、むしろ多いと言ってもいい。

 それもここが攻略の最前線であるからだろう。性別もプレイヤーネームも不明。正に正体不明のプレイヤー『アインクラッドの恐怖』が単騎で次々フロアボスを撃破しているのだ。数多くのプレイヤーのゲーマー魂にも火がつくというもの。デスゲームになったところで、それは変わることはない。ゲーマーとして攻略することに負けられないのだろう。

 

 そんな中、件の鎧の少年と紫のローブの娘は路地裏を歩いていた。

 薄気味が悪い、という様子もない。どこからか聞こえるヨーロッパの民族音楽を思わせる笛の音が聞こえてくるせいもあってか、路地裏だと言うのに妙な明るい雰囲気を演出していた。

 

 

 ご機嫌に歩く紫のローブの娘の後ろで、鎧の少年は面倒くさそうな調子で後を追う。

 ツギハギの鎧であることは変わらないものの、その兜は真新しい――――『スケープ・ゴート』が装備されていた。その形はどこか羊を思わせる角の生えたモノで、頭部を完全に覆っているのでやはり表情など読み取ることが出来ない。その外観は敵を威嚇するような造形となっている。勿論、伊達や酔狂でこんな目立つ兜を被っている訳ではない。理由あって、鎧の少年はこの兜を探していた訳であるのだが。

 

 

 ――コイツ、人が好すぎる。

 ――ここでオレがトンズラしたらどうする気だったんだ?

 

 

 一緒に食事をする。そして報酬として、彼女がドロップした装備品である『スケープ・ゴート』を渡す。その筈が、すでに報酬品は彼の手元にあり、あろうことかもう装備している現状。もはや彼女に付き合うメリットはなく、これ以上は時間の無駄である。

 鎧の少年はそう判断した上で、彼女の希望通りに行動を共にしていた。

 

 

 ――まぁ、ここでコイツを置いて帰る選択肢はねぇな。

 ――恩を仇で返すことになる。

 

 

 そうして数分後。迷路のような路地裏を進み、目的地に到着した。

 石壁にはランタンがぶら下がっており、その手前には小さな看板が立っている。そしてその看板には『Tavern Inn BLINK&BRINK』という店の名前があった。

 

 その前に立ち止まると、紫のローブの娘は口元に笑みを張り付かせて鎧の少年の方へと身体を向けていた。

 彼は面倒くさそうな口調で。

 

 

「ここか?」

「うん、ここだよ!」

 

 

 そう言うと、彼女は勢い良く店の中へと続く扉を開ける。

 同時に――――。

 

 

「うわわっ!」

 

 

 突然の突風。

 彼女は咄嗟に目深く被っているローブが飛ばないように頭を片手で押さえるも、風に驚いたのか地面に尻もちを付いた。

 

 戦闘時に見せた身のこなしとは正反対の様子に、鎧の少年は呆れたような溜息を吐いて手を差し伸ばす。

 

 

「何してんのオマエ?」

「ちょっとびっくりしちゃった……」

 

 

 ありがとう、と彼女は照れ臭そうに笑いながら彼の手を取って立ち上がった。

 

 そうして鎧の少年は改めて周囲へと視線を向けた。

 店内は普通のもの。椅子があり、テーブルがあり、その向かい側に椅子がある。

 二人席のもあれば、大人数を想定している席も存在する。中でも注目するのは、店内ではなくその先にあるベランダの席。どうやら先程の突風は、このベランダから吹いてきたようである。

 

 

「ねぇねぇ」

「あ?」

「あそこに座ろうよ」

 

 

 紫のローブの娘は、ベランダの席を指差していた。

 特別断る理由もなかったので、鎧の少年は頷いた。

 

 二人はベランダの席まで足を運ぶ。

 そこから見えた景色は絶景の一言に尽きるものだった。アインクラッドの外周を見渡せるようになっており、空には星々が輝いている。まるで落ちてくるかのような輝きを放っていた。

 

 手すりに身を乗り出して、紫のローブの娘は感嘆するような声を上げる。

 

 

「うわぁ……」

「落ちても知らねぇぞ」

「大丈夫だよ、手すりから出ないもん」

「……だといいがな。満足したら、さっさと席に座れ」

「うん」

 

 

 どこかまだ満足していない様子で、チラチラ景色を見ながら紫のローブの娘は自分の席に座る。

 それを見て、鎧の少年は卓上に置いてあった銅板に羊皮紙を張ったメニュー表を彼女に差し出して。

 

 

「ほら」

「ありがとう。うーん、どれを頼もうかな~?」

 

 

 どこかご機嫌な様子でメニュー表を眺める彼女を見て、彼は景色に目を向けながら。

 

 

「よくこんな所見つけてきたな?」

「実は、アルゴさんに教えてもらったんだ」

「『鼠』から?」

 

 

 再度確認すると、うん!という元気が良い声が聞こえてきたので、視線を景色からテーブルを挟んで座っている紫のローブの娘に向けた。

 

 

「迷うなぁ~。どれも美味しそう……」

「アイツからオススメは聞いてねぇのか?」

「聞いてるよ。でも気になる物もあってさー」

 

 

 何だそんなことか、と言わんばかりな口調で彼は当たり前のように言う。

 

 

「食べれる程度に食えばいいじゃねぇか」

「でもカロリーとかあるし……」

「この世界にンなもんあるわけねぇだろ」

 

 

 それに、と言葉を区切り小馬鹿にしたような口調で彼は続けた。

 

 

「チンチクリンの癖に、体型のこと気にしてんじゃねぇよ」

「あぁー、ダメなんだよ! 女の人に体型のこと言っちゃダメなんだよ!」

「ヘイヘイ」

 

 

 身を乗り出して非難されるも、彼はどこに吹く風。

 全然気にしてない様子で、視線を景色へと向ける。同時に、ある疑問が浮かび、それを彼女に問いかけた。

 

 

「つーか、ンでオマエはオレと飯食いたかったんだ?」

「……言わなきゃダメ?」

「無理にとは言わねぇ」

 

 

 そこまで言うと、彼女は少しだけ考えて。

 

 

「ボクが君と一度しっかりご飯食べたいと思ったのと、あとはこうでもしないと休んでくれないから」

「……どういう意味だ?」

 

 

 ここで彼は視線を再び景色から彼女の方へと向ける。

 彼女は真剣な口調で答えた。

 

 

「ご飯食べてる? ちゃんと寝てる?」

「……当たり前だろ」

 

 

 彼の答えに、嘘だというかのようにやんわりと彼女は首を横に振る。

 

 

「第二層からボクは君と一緒に居るんだよ? ボクは一度も、君が身体を休ませている所を見たことがないもん……」

 

 

 彼女の言うとおり、ここまで彼は身体を休ませたことはない。

 不眠不休で彼はひたすらクエストを受注し、なければダンジョンに潜って経験値を稼いでいた。

 

 しかしこの世界でも生理的欲求である睡眠欲と食欲が存在していた。

 仮想世界だと言うのに、睡魔が襲いかかるし、空腹にもなる。その原理は、ほとんどのプレイヤーは分かっていない。特に食欲など誰も分かっていないことだろう。

 

 現実世界とは違い、彼らがいるのは仮想世界。特に寝なくても、食べなくても死ぬわけがない。何しろ彼らプレイヤーの命の残量は眼に見えている。それこそHPゲージであり、これがある限り彼らが死ぬことはどありえない。

 とはいっても、睡眠欲も食欲も生理的欲求である。十全に活動するには一度満たさなくてはならない。

 

 だが鎧の少年にとって、何の問題もなかった。

 この仮想世界は彼と相性がいい――――いいや、相性が良すぎるといっても過言ではない。

 常日頃、彼は過去の影響もあってか、自分を無意識に辛い方へと追い込んでしまう悪癖がある。日常生活を送ることにおいて、それは致命的な短所とも呼べるだろう。だが幸か不幸か、この仮想世界においてそれはプラスに動いていた。

 

 この程度で自分が倒れてはならない。

 この程度の罰で自分が折れてなならない。

 そういった脅迫概念が強靭な意志となり、彼は突き動かされていた。

 『これくらいで倒れるなどありえない』もしくは『両親を見殺しにした自分が、休むことなど許されないに決まっている』といった強いイメージ。確固たる確信をもって、彼は存在していた。

 

 強い意志、自分すらも騙すような精神力。

 狂人とも取れる彼の特性が、この仮想世界と病的なまでの相性の良さを見せつけていた。

 

 

 休息など必要がない。

 そう言い捨てるかのような強く斬り捨てる口調で彼は答える。

 

 

「オマエには関係ねぇだろ」

「関係、あるよ……」

 

 

 弱々しく彼女は言うと、そのままの口調で。

 

 

「まだ言えないけど、ボクには関係あるもん……」

「オマエ……」

 

 

 それはどういう意味だ。と、問う前に。

 

 

「よーう、お二人さン」

 

 

 乱入者の登場に、この話題は切り上げることになった。

 その人物は、金褐色の頭髪に、両頬に髭のような三本のペイントのような線が特徴的な女性プレイヤー――――アルゴだった。

 

 彼女はタイミングを見計らったように、現れて気軽に二人に話しかける。

 

 

「お邪魔だったカ?」

「……いいや、終わったところだ。それよりも、オマエ何の用だ?」

 

 

 鎧の少年の問いに、アルゴはメインメニュー・ウィンドウを開きアイテム欄から羊皮紙を実体化させて。

 

 

「第五層のフロアボス攻略部隊の編成が整ったから、お前に知らせようと思ってナ」

「何だと……?」

 

 

 彼は訝しむような声を上げると、乱暴にアルゴの持っている羊皮紙を眼を通した。

 そこでとあるプレイヤーの名前を発見し、彼は奥歯を噛み締めていた。

 

 

 

 アルゴはその様子を静観して見守っていた。

 攻略部隊を編成しボスを討伐する。これが普通の攻略であると彼女は考える。

 何せソードアート・オンラインのフロアボスはレイドボスである。レイドボスとは複数のパーティーで戦えるボスのことである。本来であれば単騎で挑むモノでもないし、撃破出来るものでもない。

 そう言う意味では、鎧の少年はMMORPG自体初心者であることがアルゴにもわかっていた。

 

 問題はその後。

 鎧の少年は必ずフロアボスを単騎で撃破していた。

 HPゲージが1ドット残そうが、足が吹っ飛び、片手がちぎれかけていようが、誰よりも早く挑み討伐していた。

 そうしてそこで発生するラストアタックボーナス。それらを全て、『はじまりの英雄』に渡してくるようにアルゴに依頼してくる。

 

 自分で装備し、自分に使うならまだしも、第三者に渡すという意味がわからない行動。

 攻略することを重点に置いていないアルゴに依頼するのはわかる。だがどうして自分ではなく『はじまりの英雄』に渡すように依頼してくるのかアルゴには理解出来なかった。

 何度聞いても「あの野郎のファンってことにしておけ」とはぐらかされて終わる。

 

 何よりも彼が探していた防具――――スケープ・ゴートである。

 ソードアート・オンラインではフレンド登録したら、フレンドリストからマップで追跡出来ることになっている。だがスケープ・ゴートを装備したら、追跡が出来なくなる仕様となる。それくらいの効果しか、アレにはない。高い防御力もなければ、特別な耐性を備わっている訳でもない。ベータテスト時でもネタにもならないネタ装備として一時有名になっていたほどだ。

 そんなものを探して装備している理由。それは考えるまでもなく、会いたくないプレイヤーがいるということに他ならない。

 

 そして彼の今での不可解な行動を手掛かりに紐解いていくと『はじまりの英雄』が関係しているということになる。

 

 

 その羊皮紙は攻略部隊をわかりやすくリストに纏めたものであり、彼女の中にある確信に変える手段でもあった。そこに記載があるプレイヤーネームは『はじまりの英雄』とそれに親しいプレイヤーの名前も記載されている。

 アルゴはどこかわざとらしい口調で続ける。

 

 

「結構錚々たるメンツだゼ? 『はじまりの英雄』は勿論、ギルド『アインクラッドナイツ』を率いるディアベル、あとは『斧使いのエギル』、『はじまりの英雄』の追っかけのキバオウ一派に、『紅閃のアス――――」

 

 

 と、彼女が言う前にグシャリと鎧の少年は羊皮紙を握り潰す。

 そうして乱暴に席を立つと同時に、紫のローブの娘が彼の行く手を遮った。

 

 

「どこに行くの?」

「決まってんだろ、迷宮区だ」

「……休んでくれないの?」

「関係ねぇって言ったつもりだが?」

 

 

 二人の視線が交差する。

 沈黙が支配すること数秒。彼女はわかったよ、とだけ言うと真剣な口調で。

 

 

「だったらボクも一緒に行く」

「……足手まといだ」

「それでも行くもん」

「しつこいヤツ。邪魔だって言ってんのが聞こえねぇのか!」

「行くもん!」

 

 

 言い争いはヒートアップしていくばかり。

 見かねたアルゴは足早に二人の間に入りながら。

 

 

「おいおい、落ち着けヨ。攻略部隊が編成されたんだ、お前もそろそろ単独でフロアボスと戦うことはやめロ。少し冷静になれ」

「…………」

「そもそも、一人でボスを相手にしてたのがおかしいんダ。正気の沙汰とは思えないゾ」

「……それは説教のつもりか?」

「助言ダ。いいから黙ってオネーサンの言うことを聞いておケ」

 

 

 鎧の少年は沈黙すると、フンと鼻を鳴らして。

 

 

「その攻略部隊ってのが行動するのは何時だ?」

「明後日。12月30日ダ」

「……わかった」

 

 

 感情もなく、簡単に呟く。

 彼はそのまま180度向きを変えると、自分の席へと乱暴に座り直して、紫のローブの娘に。

 

 

「……今回はオマエの言うとおりにしてやる」

「うん……! ありがとう!」

 

 

 自分の思いが届いたと思ったのか、紫のローブの娘の口元が満面の笑みを浮かべた――――。

 

 

 

 

 だがそれは違った。

 彼は――――アインクラッドの恐怖はその深夜、単騎で迷宮区に赴く。

 そして第五層が攻略されることになるのであった――――――。

 

 

 

 





→――野郎の方が数段上手ではある。
 何自慢なのか。

→「ボクとカルルインで一緒にご飯食べてくれたらほしいなーって……」
 一緒に食事したいお年頃。

→『アインクラッドナイツ』を率いるディアベル
 ちゃっかり生存しているディアベルはん。
 優しい世界。


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