ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
言い訳はあとがきにて。
――――ボクは本当に神様に嫌われている。
本当だったら、パパもママも姉ちゃんもずっと長生きできた。でもそれはあくまで予定の話。現実はそこまで甘くはなかった。
それはいきなりだった。覚悟をさせることもなく、急に失うことになった。姉ちゃんもパパもママも容態が急変し、ボクを残して家族はこの世から去ってしまった。
理不尽だと思う。どうしてボクだけ生き残ってしまったのか、小さい頃ずっとそれだけを考えていた。
でもどうにもならない。大切な人達は戻ってこないし、ボクみたいなちっぽけな人間がどうしたところで、世界は何一つ変わらない。
不平等に与えて、何もかもを奪っていく。――――世界は残酷なんだ。
ボクの病気に対する偏見もあってか、親戚の人からは盥回しにされて、施設に預けられた。そこでもボクは1人、孤独だった。
1人で過ごし、1人で通院し、帰り道も1人で、寝るときも1人。
ママはよくボクと姉ちゃんに「イエス様は、私たちに、耐えることの出来ない苦しみをお与えにならない」と励ましてくれていたけど、こんな苦しみボクには耐えられなかった。
耐えられる訳がないし、苦しかった。家族は誰もいない。誰一人としてボクと話そうとしてくれる人はいない。こっちから触れるものなら、凄く嫌な顔をされる。その度に、心が欠けそうになる。
ボクは何のために生まれて、どうして生きてるのだろう。
死ぬ為だけに生まれてきたボクが生きて、何が意味があるのだろう。ボクはそんなことをずっと考えていた。
そんな時だ。
病院の待合室で、いつも通り1人でずっと考えていたところに。
『オマエ、何でンな面してんだァ?』
最初は誰に言っているのかわからなかった。
まさかボクだとは思わない。だって今まで、1人だったし、ボクに話しかける人なんていなかったのだから。
『オマエだよオマエ。躾がなってねェガキだな』
ここでようやくボクに話しかけているのだとわかり、顔を上げる。
その人は大きかった。
物の例えとかじゃなくて、言葉通り大きい人だった。
どこか鍛えられた身体で、堀の深い顔立ちで短い髪で色は黒。顎には無精髭が生えてるものの、不思議と清潔感があった。肌は日に焼けていて、とても病院内にはいる人ではなかった。どちらかというと、スポーツジムによくいそうな人。
『誰?』
『見りゃわかんだろ。医者だよオレは』
嘘だと思った。
だけど、首からぶら下げている名札を男の人に見せられて、信じざるを得ない。
名札の名前は『茅場』と書かれており、この病院の先生であることがわかった。
『オマエ、信じてねェだろ……』
ボクの表情がそう書いていたのか、茅場先生はどこか面白くない口調と態度でそう言うと、勢い良くボクの隣へと座る。
それから乱暴な口調で。
『まァいいや。それで、何でそんな面してんだよオマエ?』
『え……?』
『オマエ、今にも泣き出しそうだったじゃん』
言われて初めて気付いた。ボクはまったく笑わない子になっていた。
パパとママが生きていたときは、元気な娘でいなくちゃいけないと思っていた。二人はボクと姉ちゃんを産んで、申し訳ないと思っていたことをボクはわかっていた。だからそんなことを気にしてないようにボクは振る舞っていた。勿論、全てが演技じゃない。パパとバーベキューしたのだって楽しかったし、姉ちゃんと遊んだ日々はかけがえのない思い出だし、ママとする刺繍も嬉しかった。
今となってはどうでもよかった。
こんな世界で1人、笑える余裕はボクにはなかった。
多分、このときのボクは限界だったのだと思う。
見ず知らずの人に、あれこれと身の上話を話して、どうしてボクだけこんな目に遭っているんだろうという憤りをぶつけてしまった。話していて泣きそうになりなるも、必死に我慢してボクは訴え続ける。
こんなことを話してもどうにもならないと知りながらも、言葉は止まらなかった。
それを聞いていた茅場先生は一度大きく頷いて。
『うるせェェ!!』
『えぇー……?』
励ますでもなく、同情するでもなく、茅場先生は子供みたいに大声を出した。
破天荒すぎると思う。自分から話しかけてきたのに、この反応はどうかと思う。あまりのことに、ボクは溜めていた涙も引っ込んでしまい、少しだけ引いてしまった。この様子だけでボクはわかった、茅場先生は誰よりも子供っぽい人なんだと。
子供がそのまま大きく育った大人の人は、いきなり立ち上がりボクに勢い良く指差して。
『だいたい、十数年しか生きてねェガキが人生語ってんじゃねェ、生意気にも程があんぞ! そういうのはなァ、もっと歳を重ねてから語れやこの野郎!』
『でもボク、いつまで生きれるかわからないし……』
『それだよ、その面だ。世界が滅亡したわけでもあるまいし、辛気臭い面しやがって』
そこまで言うと、茅場先生は乱暴にボクの頭を力強く撫でる。
数年、感じなかった温もり。他人に触れられたことがなかったから、ボクは呆気にとられた。
『オマエはオレが治してやる。人生語りてェなら、その後にしやがれ』
『で、でも……』
自分の病気は、自分自身がよくわかっている。
ボクはこのまま死ぬために生きているのだってわかっている。でもそれは、それだけは目の前の先生は許せないらしい。
茅場先生は人一倍ムキになって。
『デモもストライキもねェんだよ! オレが治すって言ったら治す! そして教えてやる、この世界はまだまだ捨てたもんじゃねェってことをな』
『――――その前にもう少し静かにしましょうね、貴方?』
『――――ゲェ!?』
茅場先生の背後から声をかけたのは1人の白衣を着た女の人だった。
ペコペコ、と。アレだけ破天荒に振る舞っていた人が、女の人に平謝りを繰り返す。ひたすら頭を何度も何度も下げていた。
その女の人は綺麗な人だった。
金髪碧眼で何もかもを包むような包容力に満ちている人。その人は茅場先生の奥さんらしい。茅場先生と同じく首から名札をぶら下げており、この人もこの病院の先生であることが分かる。彼女は座っていたボクと同じ目線に腰を落として。
『ごめんなさいね、この人が乱暴なことを言って。怖くありませんでしたか?』
『う、うん。大丈夫です……』
『そう、よかったです』
ニッコリと笑うと。
『それじゃ行きましょうか。色々と検査しないと』
『え……?』
どうやらこの人も、ボクを本当に治療する気のようだ。眼を見て冗談じゃないことが分かる。
女の人は手を差し伸ばして、茅場先生は腕を組んでその様子を見守る。この時ボクは治る訳がない、と思っていた。死ぬために生きていると、ボクは自分の人生に諦めを感じていた。
だったら、最初からダメだったとしても、失うものは何もない。
家族も友人もいない。親戚すらボクを見放した。失うものは何もない。だったら二人に付いていこう、とボクは手を握ろうとするも。
『ちょっといい……?』
『あァ?』
『どうしました?』
茅場先生は訝しげる様子で、女の人は可愛らしく首をかしげる。
ボクは恐る恐る聞いてみた。
『二人は、ボクに触れて何も思わないの? 感染ったらどうしようとか、思わないの……?』
『バカかオマエ』
茅場先生は呆れた口調で言うと。
『医者が患者にビビってどうすんだよ?』
同時に、女の人はボクの手を戸惑う様子もなく握り、笑顔で茅場先生の言葉に同意した――――。
それからというもの、ボクの日常は変わった。
何が変わったといえば、通院するのが楽しくなった。
茅場先生が色々と無茶苦茶なことを言って、茅場先生の奥さんに怒られて、ボクがそれを見て笑っている。
勿論、楽しいだけじゃない。辛い検査もしなければならないときがあった。でも、それでも二人がいたからボクは耐えることが出来た。優しく見守ってくれる二人がいたからこそ、ボクは笑えることも出来たし、頑張ることが出来た。
そうして、ボクの身体は次第に快方へと向かっていった。
有言実行、茅場先生は本当にボクの病気を治そうとし、ちゃんと宣言通り現実にしてしまった。世界がまだ捨てたものじゃないと言うとおり、ボクは教えてもらった。
同時に生まれる感情があった。
このままボクは貰ってばかりでいいのか、と。たくさんのことを二人からボクは教わり、たくさんのことを二人から貰ってしまった。死ぬために生まれてきたボクなんかを救って貰って、ボクは何を二人に返せるのだろう。
わからない。
ボクは思わず茅場先生に問う。
治してもらって、ボクは二人に何が出来るのか、と。そうしたら茅場先生は。
『ンな難しいこと考えてんじゃねェよ』
退屈そうな口調で、茅場先生は続けた。
『
『それでもボクは助けてもらったもん。恩返しさせてよ』
『木綿季もアレだな、頑固だよな? 何なの、ユウキって名前は頑固しかいねェの?』
ボクが何を言っても折れないと、先生もわかったのか少しだけ考えて。
『それじゃオマエ、オレの娘になれ』
『え、えぇー!?』
驚くボクを見て、少しだけ元気がない様子で先生は問いかけた。
『……嫌なのか?』
『ううん、全然嬉しいよ! 嬉しいけど、いいの……?』
『いいぜ、かみさんにはオレから後で言っておく。オレのガキも優希って言うだぜ。なんか面白いだろ?』
『本当に先生は子供っぽいよねー』
『ガキのオマエに言われんのはムカつくなァ、オイ!』
『きゃー!』
何度目になるだろうか、ボクは乱暴に頭を先生に撫でられる。ガシガシととても女の子にする撫で方じゃないけど、ボクはそれが好きだった。子供っぽい笑みで、ニカッと笑う先生が大好きだった。
『おにいちゃん、にいさん、にーちゃん。うん、にーちゃんかぁ……』
『どうした?』
『ボク、姉ちゃんはいたけど、にーちゃんはいなかったから練習してるんだ。……何か照れるね』
『会ってみるか?』
先生――――いいや、お義父さんは何気ない調子でそんなことを言った。
ボクは満面の笑みで。
『――――うん!』
これがいけなかった。
ここで逸る気持ちを抑えていれば、こんなことにならなかった。ボクが軽はずみな気持ちで応じたから、最悪なことになった。
――――交通事故だった。
お義父さんとお義母さん、二人はボクがいる病院に来る途中に、居眠り運転していた車に衝突されて――――この世から去ってしまった。
あまりにも唐突な出来事だった。
一瞬嘘だと思うも、寝ても覚めても事実は変わらない。ボクの恩人はこの世から姿を消した――――。
ボクのせいだ。
ボクがにーちゃんに会ってみたいって言うから、二人は病院に来る途中に事故にあった。ボクが言わなければ、こんなことにならなかった。やっぱりボクは――――二人に治療されて生き残るべきじゃなかった。
いいや、そうじゃない。
お義父さんはボクに『
だったらボクは生きなければならない。二人の生きた証である事を証明するために、罪悪感に押しつぶされようとも、何が何でも生きなければならない。そして――――にーちゃんに謝らないと、まだ会ったこともない兄に、会って謝らないといけない。
死んで楽になるなんて、許されない。
そんなことをしたらパパとママと姉ちゃんに怒られるし、そしてお義父さんとお義母さんにも叱られる。
そうしてボクはにーちゃんがどこにいるのか、尋ねるためにある人に会いに行った。
お義父さんの弟――――茅場晶彦。ボクはよくわからないけど、天才プログラマーと言う人で、ゲームを開発する人らしい。
そこでボクは晶彦さんのVR実験に参加する代わりに、ボクはにーちゃんの住所を――――茅場優希さんの住んでいる所を教えて貰った。
実験の終了に選別として、ナーヴギアとソードアート・オンラインのソフトを貰うも、そんなものは二の次。ボクは直ぐに、彼の住所へと向かった。
それが2022年11月7日。――――デスゲームが始まった翌日だった。
チャイムを押しても、反応がない。留守なのかな、と思ったけどドアは開いている。中を見てみると、優希さんは確かにいた。
寝ている。頭にはナーヴギアが装着し、彼はソードアート・オンラインの世界に入っていた。
全身が震えた。
震える手で携帯を操作して、救急車を呼んでボクはマンションを飛び出した。
それからはあまり覚えていない。いつの間にかボクの片手にはナーヴギアとソードアート・オンラインのソフトが握られていた。
頭で反復するのは優希さんを助けることだけ。
だってボクは彼に謝っていない、何よりも――――これ以上、家族を失いたくなかった。優希さんから見たら、ボクは両親を奪った張本人。家族なんて思われたくないだろう。でも、それでも、ボクにとってはこの世でたった一人のにーちゃん。残された絆を、ボクは失いたくない。
近場のネット喫茶でボクは慌てて、ソードアート・オンラインをインストールして、ナーヴギアを被り戸惑うことなく告げる。
『リンク・スタート』
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2022年12月27日
PM22:40 第五層 遺跡エリア
「ふぅ……」
そして今。
ボクは、全身鎧に身を包んだ彼と行動を共にしている。
彼は何体目かのエネミーモンスターを倒して、一呼吸置いていた。
ボクが知る中で、第二層から彼はずっとエネミーモンスターと戦って経験値を稼いでいる。それこそ不眠不休、食事もあまり摂っている様子もない。
思わずボクは問いかけた。
「大丈夫なの?」
「……何がだ?」
彼は振り返り、ボクに身体を向けた。
表情は全身鎧に包まれているので、読み取ることが出来ない。
「まったく寝てないじゃん」
「……問題ねぇよ」
嘘だと思う。
彼の様子はどこか危なっかしいもので、明らかに疲れている。それに生き急いでいるとも取れる行動で、自分の命を毛ほども大事にしていない。
「問題あるよ。休もうよ、ね?」
「問題ねぇって言ってんだ。それに休んでいる時間なんて、どこにもねぇ」
それだけ言うと、彼は再び前を歩き始める。
ボクもその後を慌てて、追いかけるも。
「わっ!?」
盛大にコケてしまった。
直ぐに立とうと足に力を込めるも、ボクの意思に反して震えるだけで力が入らない。
「あ、あれ……?」
「…………」
彼も気付いてるものの、足を止めることはない。
それはわかっている。第二層からここまで付いてきたのだから、彼が止まることはないと理解している。だからボクも彼を引き止めるマネはしないし、したくない。邪魔をしないように、ボクは後を追おうとする。けれど――――。
「おかしいな、どうして動かないのかな……」
何度踏ん張っても、力が入らない。
それでも立ち上がらないと、彼に追いつけないと、ボクは彼を守ることが出来ない。
「――――クソ……っ!」
舌打ちがあった。
前を向くと、彼が目の前に立っている。
そして乱暴に、ボクを抱えると目的地である迷宮区とは反対側にある主街区である『カルルイン』に足を進めていた。
「くたばるのなら、街でくたばれ」
「ごめんね……」
このやり取りは初めてではない。
彼の真似をして無理して、ボクが倒れて彼が街まで運ぶ。これを何度か繰り返していた。
守ると誓ったのに、足手まといになっている情けない自分に腹が立つ。でも同時に、ふと疑問が浮かんだ。どうして彼はボクを放っておかないで、今まで行動を共にしてくれたのだろうか。
「ねえ?」
「あ?」
「どうして、君はボクと一緒にいてくれるの?」
「…………」
ボクは彼の後をずっと付いてきた。
それでも彼はボクが倒れればこうして助けてくれるし、圏内まで一緒にいてくれる。放っておけばいいのにも関わらず、こうして安全圏まで運んでくれる。ローブで目深く素顔を隠しているプレイヤーなんかに構っている理由もない。
「別に、このまま死なれても寝覚めが悪りぃだけだ」
「そうなんだ……」
ボクは目深くフードを被り直して、申し訳なさそうに礼を言った。
「ありがとうね」
「礼を言う必要はねぇぞ」
え?とボクが聞く前に、彼はぶっきら棒な口調で。
「オレが勝手に手を伸ばして、勝手やっただけだ。ありがた迷惑、ただのお節介だろンなもん」
「――――――」
声を、失った。
あの時のお義父さんみたいに、お義父さんと同じこと言われて、ボクは声を失った。
それから顔を伏した。
やっぱりここでフードを取ることは出来ない。
ここでボクは彼と正面で向き合う事が出来ない。向き合うのなら現実世界で、ボク達が生きている世界で、そしてそこでちゃんと謝らないとならない。
仮想世界ではなく、現実世界で。ボクは彼と、ちゃんと向き合わないといけない。だからボクはフードを被る。ここではない場所で、ちゃんと謝りたいから、ボクはフードを被り続ける。
――ぶつからなきゃ、分かり合えないこともある。
――ボクがぶつかったら、君はボクを許してくれるかな……?
――ボクを、家族として認めてくれるかな……?
――にーちゃん……。
ボクの疑問は、誰も答えてくれない――――。
ということで、紫ローブの娘は元気にです。
主人公の両親の「元気になれェェェ!!!」で治療しました、ハイ。方法?手段?そんなものはぶん投げてます。作者自体バカなので小難しい方法なんて考えてません。治療した、元気になった。とても頭の悪い感じの内容ですが、それだけ両親がチートだったということで一つ。
それよりも紫ローブの娘の家族が早い段階でこの世を去っている改悪です。
これに関しては言い訳のしようがありません。何を言われても仕方ないと、重々承知しております。
ですがそれでもいいという方、いてくれたものなら私は何て幸せ者なのでしょうか。その方たちの期待に答えれるように努力しますので、どうかよろしくお願いします。