ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
DODのカイムとアンヘルをぶち込んだ二次創作作って下さい何でもしますから
埼玉県所沢市 総合病院
『ソードアート・オンライン』。
世界初のVRMMORPGの名称である。
2022年10月31日よりゲームメーカー『アーガス』より発売された。その人気は非常に高いもので、初期出荷1万本が瞬時に完売された。それほど凄まじい人気を誇っていた。
ナーヴギアというVRマシンを頭に装着し、完全ダイブを実現させていた。完成された仮想空間の中でプレイヤーは現実世界と変わらない臨場感で、ゲームをプレイしていた。
だがそれは過去の栄光。
今では忌むべきモノとして周知されている。
夢と希望に満ちていた『ナーヴギア』は悪魔の機械として評価を下げて、開発者であり今回の事件――――SAO事件の首謀者である天才プログラマー茅場晶彦は行方不明。
世界は正に混沌に包まれていた。
SAO事件の被害者であるSAOプレイヤーは今だに意識を取り戻した者はいない。
それもその筈。
ソードアート・オンラインをプレイしているプレイヤーはクリアしないと現実世界に帰還することが出来ない。クリア、それはすなわちアインクラッドの第百層の到達を意味している。
外部からの接触は皆無。それどころか、無理にナーヴギアを外そうとするものなら、強電磁パルスを発生されて装着者の脳を破壊する仕組みとなっている。
故に、プレイヤーの家族、友人、恋人は待っているしか出来ない。
そう、待っているしか出来ないのだ。プレイヤー達は命がけで戦っているというのに、自分たちは待っていることしか出来ない。途方もない無力感に苛まれるが、待っていることしか出来ない。
そんな中、病院にて。一人の女子中学生の姿があった。
学校帰りなのだろうか、制服を身に纏い、装着しているメガネがどこか知性の高さを演出させていた。歩く様子も背筋を伸ばし、どこか堂々としている。
そんな彼女は歩きながら、とある病室を目指す。
そこには彼女の先輩が今も尚眠っている。その先輩もSAOプレイヤーである。ゲームには全く興味がないと言うくせに「ツレがやりてぇって言うからな。仕方ねぇだろ」と渋々言う声は記憶に新しい。
だがこうして、SAOプレイヤーが収容されているのは珍しくもない。
この総合病院には彼女も把握していないものの、かなりの人数が今も眠り続けていることがわかっている。
当初は病院内も大パニックとなっていた。無理もない、家族や恋人がゲームの世界に囚われ、クリアしないと目覚めない。更に言えば、ゲームの世界でのゲームオーバーは現実での死を表している。とても冷静でいられる筈がない。
だが悲しいかな。人間とは慣れるものだ。
こうして見舞いに来ては、意識を取り戻してないことを落胆し、病室を後にする。そういったサイクルを繰り返していた。
彼女もその一人である。
学校帰り、もしくは休日にこうして病室に訪れていた。そして面会時間が終わるまで様子を見て、病室を後にする。
そうして今。
彼女はいつも通り、先輩の病室の前に立つと扉を開けた。
そこにはベッドがあり、横たわるのは少年。髪がプラチナブロンドで、一定の間隔で胸が小さく上下していることからまるで寝ているかのようだ。規則正しい呼吸音、腕には管が刺さっており、透明の栄養剤がそこから注射されている。
横には生体情報モニターが設置されており、胸や腹に粘着テープのように接着されていた。心拍数とか脈拍とか血圧を計るためのもので、現に電子音と共に折れ線グラフのようなものが表示されている。
少年の他にも、そこには一人。
ベッドの横のパイプ椅子に座っている少女の姿。
金髪でツーサイドアップの少女は静かに少年を見守っている。歳は6歳くらいだろうか。
少女は部屋に入ってきた彼女に気付くと、一度立って会釈する。
やはり少女は静かに、どこか淡々とした調子で口を開く。
「こんにちはです、詩乃さん」
「……えぇ、こんにちは。レベッカちゃん」
眼鏡の彼女――――朝田詩乃は寝ている少年の隣に近付き様子を見る。
「…………」
それは穏やかな寝顔だった。
瞼の奥にある蒼い瞳は見えないものの、穏やかな寝顔だった。寝ているだけ、と思いたいものだが頭に装着しているナーヴギアの存在が容赦なく現実に引き戻してくる。
寝ているのではない。この状態でも、少年は戦っているのだ。クリア目指して、恐らく戦っている。
詩乃は少年に眼を向けたまま、詩乃に名を呼ばれた少女――――レベッカに問いかけた。
「変わらず?」
「……はい、ゆーきは寝たままです」
「そう……」
極めて冷静に、詩乃は感情を表に出さずに答える。
だが身体は制御できないほど荒だっていた。両手の拳を握りしめて、奥歯を噛みしめる。そして悔しそうに少年へと視線を向ける。その姿は不甲斐ない自分が情けないようで、何も出来ない自分に苛立っているようでもあった。
どこか泣き出しそうで、我慢している。
それはレベッカも同じようで、必死に無表情という仮面を被っているようでどこか痛々しい。
泣くのを我慢している。そんな様子のまま、レベッカは徐に口を開く。
「それじゃ、私はもう行きますです」
「そう。今度はお父さんのお見舞いに?」
「はい。でも明日奈お姉ちゃんの様子見てから、ダディ――――お父さんのお見舞いに行きます」
「気を付けてね。お父さんの病院違うんでしょ?」
「ありがとうございますです。詩乃さんも帰り気をつけて下さい」
それじゃ、と軽く詩乃に会釈して、レベッカは病室を後にする。
小さい、あまりにも小さい背中を見守って、詩乃は静かに語り始める。
「最初は泣いてばかりだったのよ? ここに来ては泣いて、先輩にしがみついて泣いて、帰るときも泣いてた。今では静かなものよね」
当初の、SAO事件が始まって間もなかったレベッカを思い出した。
レベッカの母親と一緒に病室に来て、レベッカはこれでもかというくらい泣いていた。しがみついて泣いて、涙を拭っても溢れていた。
だが今ではそんな姿は見られない。
静かに、ただ静かに。どこか耐え忍ぶように、我慢するように、誰も困らせないようにレベッカは手のかからない子供を演じていた。
「きっと、お母さんに苦労させまいとしているんだと思う。彼女の気持ち、痛いほど分かるもの」
自身の過去と照らし合わせて、重ねるように詩乃は呟いた。
過去の自分と、今のレベッカ。二人の影を重ねてたまま、彼女は続ける。
「先輩はいつからあんな小さい子にまで手を出し始めたのよ。まさかロリコンなの?」
そう言って笑みを浮かべるも、その笑みはどこか悲しいもの。
喜怒哀楽の『哀』の感情を全面に押し出したような笑みだった。
「あの子だけじゃない。明日奈さんのお父さんとお母さん、それとお兄さんもお見舞いに来てるわよ? あとはレベッカちゃんのお母さん」
ここで顔を合わせた面々の顔を思い出す。
皆が皆、悲しそうな面持ちで少年を見ていたことを詩乃は思い出しながら。
「あんなに心配されて、貴方は何ていうのかしらね? どうせ捻くれた事を言うのでしょうけど」
そこで、ふと詩乃は昔を思い出した。
「覚えてる? 先輩がイジメられてた私を助けてくれたときのこと」
そうだ。
いつだって少年は捻くれていた。
過去の出来事から、母が精神的に病んでしまい彼女は母の療養の為に都内へと引っ越してきた。
そこで待っていたのは、輝かしい未来ではなく、起こしてしまった過去だった。どこから漏れたのか、詩乃が起こした過去が原因で彼女は転校した学校でもイジメられた。
犯罪者、人殺し、化物。
様々な罵詈雑言が彼女に投げつけられる。それこそ容赦なく、悪気もなく、物事の善悪の区別もつかないまま、詩乃の同級生は言葉を屈指し追い詰めていく。
そんな中、チッと舌打ちが聞こえたと思いきや。
――テメェら、下らねぇことでハシャイでんじゃねぇよ、と。
不機嫌そうな口調で、いつの間にか詩乃を守るように一人の少年が立ちふさがっていた。
そして始まる取っ組み合いの喧嘩。少年は一人で奮戦するも多勢に無勢。数には勝てずに、打ちのめされてしまう。
だが少年は倒れなかった。どれだけ殴られようと、どれだけ蹴られようと倒れずに、一人で向かっていく。詩乃の眼には少年はヒーローのように見えた。物語のように甘くなく、少年は負けてしまうものの、詩乃の眼には自分を救いに来た救世主のように見えた。
「どうして私を助けたのか聞いたけど、先輩が自分で何て答えたか覚えてる?」
――別に、オマエの為じゃねぇ。アイツらが目障りだっただけだ。
――1人に対して大人数で喧嘩挑んでるアイツらが気に入らなかっただけだ。
あまりにも捻くれて、あまりにもぶっきらぼうな理由。
直ぐに嘘だとわかってしまう。気に入らないのなら向かっていく必要性もない。目障りなら視界に入れなければいいだけの話だ。
少年がどう取り繕っても、どんな言葉で否定しても、詩乃を助けたという事実は変わらない。
だからこそ、詩乃は彼を『先輩』と呼ぶ。助けてくれた彼に敬意を表して、彼だけは先輩と呼んでいた。
「先輩は素直じゃないのよ。どうせそっちでも捻くれたことを言って、色々やらかしてるのでしょ?」
口は粗暴の癖に、他人を放っておけないお人好し。
少年にそういった人物評価を下して。
「――――ねぇ、先輩」
詩乃の声が震える。
彼女自身、これ以上口を開くとどうなるかわかっていた。
しかし止まらない。我慢しようにも止まらない。彼女は震えた声のまま。
「早く――――帰ってきてよ……」
溢れ出したのは声だけではない。
彼女の眼からは溢れんばかりの涙が流れ始める。メガネを取り、涙を拭う
「もう、一年よ? 私も中学二年生になっちゃった。これから受験勉強して、先輩と同じ学校に行こうと思ってた。多分、先輩には嫌な顔されると思うけど、それでも一緒にいたいから同じ学校に行こうとしてたのに……!」
身勝手な言い分だとは詩乃も理解していた。
だが言葉は止まらない。何も出来ない自分の憤り、一向に目覚めない彼への焦り、そしてこんな暴挙に及んだ開発者への怒り。それらが複雑に絡み合い、詩乃の感情を支配していた。
ただ一緒にいたい。
それだけなのに、彼は寝たまま。憎まれ口も、粗暴な声も聞くことが出来ない。
「お願い、お願いだから。無事に帰ってきてよ――――先輩……!」
ギュっと、両手で彼の片手を握りしめる。
細くなった手。栄養が行き届いてない手を握りしめたところで彼――――茅場優希は握り返しはしなかった――――。
2023年 11月10日 PM16:50
今だにSAOプレイヤーの帰還の兆しは―――――ない――――。