ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
番外編です。息抜き息抜き。以前に、シノンとの絡みをみたい、というご感想を頂いた結果作りました。nazimiさん、アイディアありがとうございます。頂きました(事後承諾)
後輩と先輩の馴れ初め話です。だいぶ端折ってます。馴れ初めだけで、十話構成くらいなんだもの。
その辺り詳しくはVol.6で本気出す。超本気出す。
――――人間社会において、必ず必要悪というものは存在する――――。
人間とは一人や二人、悪認定しておけば、人は結束し、安らぎを得る存在だ。理由は様々なもので、『物事が上手くいかない憤り』であったり、『ストレスの捌け口』であったり、『劣っている人間を見て安心したい』であったりと様々なものだ。
そうして、人間は『必要悪』を自分達の中から見繕い、無条件で貶めて良い存在へと変えて、平穏を保っていく。自分よりも弱い立場の人間を陥れ安心したい、自分よりも劣っている人間を貶して静穏を得たい。そんな身勝手な理由で、必要悪として選定された人間の事情などお構いなしに、人間は押し付ける。
人間とは欠陥だらけであり、不完全なの生き物である。こうでもしなければ、自分を保てず、平穏を実感出来ないのだろう。
それはまるで――――生贄だった。
自分以外の誰でもい。誰かが『必要悪』となることで、平穏を享受することが出来て、自分は安らぎを実感すること出来る。
それは例え、人間が成長しようが変わることはないだろう。
生まれて育ち、義務教育を経験し、希望校に進学し、社会に出て、余生送ろうとした所で、何一つ変わらない。『必要悪』の選定は終わらない。死ぬまで付き纏っていく。
『必要悪』の選定基準は単純なものだ。
自分よりも劣っている人間、性格が破綻している人間、そして――――無条件で貶めてよい人間であるかどうか。
そう言う意味では、彼女は適任だった。
彼女は転校生。
東北から母親の療養の為、近隣の小学校へと彼女は転校してきた。
転校した彼女を知る人間はいない。どんな性格なのか、一体どう言う人間なのか。彼女以外の人間は知る由もない情報である。だが、そんなものは関係なかった。転校してきた少女は、過去に――――人を殺したのことがある人間。つまりは『悪』であると、彼女以外の人間は認定してしまった。
その際、どんな状況で、どんな言い分があるのか、何て彼らには関係がない。
人を殺した彼女は『悪人』であり『悪』である。それを罰する自分達は『正義』であり『善』である。身体的にも精神的にも幼い彼らは、短絡的に認定してしまった。
彼女にとって不幸なのは、それを咎める教師達も幼い彼らに同意してしまったことだ。教師達も、必要悪を欲していたのだろう。一人生贄が居れば、秩序は保たれる。一人の犠牲で生徒達は団結し合い、結束が固まっていく。そうしてイジメられるのは彼女のみとなり、教師達の労力も減るというものだ。
そうして、彼女にとって地獄の日々が始まった。
何も知らない彼らからは自分が悪だと罵られて、集団で軽く殴られる事もあった。教師に助けを求めても事態は変わらない。かと言って、母親に助けを求める訳にもいかない。
正に八方塞がり。彼女は肉体的にも、精神的にもすり減らしていく日々を送ることになっていた。
ここで、彼女が逃げるという選択肢を持つ普通の人間であれば、何かが変わっていたのかもしれない。
更に不幸だったのは、彼女は自分が思っているほど強い人間であったことである。ここで逃げてしまえば、精神的に病んでいる母親が気付いてしまう。それだけは避けなくてはならない、と。彼女は気丈に振る舞っていた。母親の療養の邪魔にならないように、せめて母親だけは守らなくてはならない、と彼女は“何もなかった”ように振る舞い続けた。
だが限界は来る。
幼い彼女にとって、学校での
殴られ、蹴られて、罵られて、無視される。彼女から見た学校とは世界そのもののようで、世界中の人間が自分を敵として見ているかのようだった。
そんな地獄の日々が続くと思いこんでいた。
小学校を卒業し、中学校に進級し、高校生になろうと変わらないのだろう、と彼女が諦めていたある日。
『――――テメェら、下らねぇことでハシャイでんじゃねぇよ』
救いの手が差し伸ばされる。
その手の主は、金髪碧眼の少年。粗暴な口調、乱暴な態度。とてもヒーローとは呼ぶに相応しくない人物が、彼女の前に守るように立ち塞がっていた。
それからと言うもの、彼女に対し害する行為はなくなった。
とはいっても、彼女は浮いた存在だ。無視されることはあれど、好意的に迎えれる訳もない。
一体、自分達こそ善人だと信じてた少年たちに何が起きたのか。
簡単な話だ。『必要悪』が無視されるほどの悪を用意しただけに過ぎない。『必要悪』すら霞むほどの『絶対悪』を用意していた。
しかも用意したのは、彼女を助けた金髪碧眼の少年だ。
金髪碧眼の少年は、『必要悪』が二度と生贄にならないように、自分自身を生贄にすることで、彼女がイジメられないように噂を広めた。
『必要悪』が霞むほどの悪名を広めて、悪劣な噂を広めて、その
普通の人間ならばそんなマネはしないだろう。生贄にされている人間の代わりを自らが行うなど、とても正気の沙汰ではないし、まともな精神構造ではない。
だが、少年はそれが出来る人間であった。
我慢が出来ない人間。それを容認出来るほど少年は大人ではなく、流れに身を任せる素直な感性を持っていなかった。
こうして、暗躍、努力が身を結び、『必要悪』が霞むほどの『絶対悪』になることになる。
金髪碧眼の少年の希望通り、目論見通り、世界中の敵は『
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数年前 PM16:45
某小学校 図書室
私がイジメられなくなって、数日が経った。
とは言っても、暴力を振るわれなくなっただけで、無視は未だに続いている。でもそれも仕方ないと思う、私はそれだけのことをしたのだから。
私は――――人殺しだ。
母を守る為に、私は人を殺した。銃で、人を――――。
『……ッ!』
血濡れた男、怯える人の目、化物を見るような母の顔、そして――――返り血を浴びた拳銃を持つ手。
当時の状況を思い出す度に、呼吸が荒くなり、視界が揺れて、動悸が激しくなる。
そして、唐突に湧き上がる吐き気。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い――――!
『ぅ……うぅ……!』
学校の壁に肩を預けて、私は何とか立っていた。
行き交う生徒達は、私を怪訝そうな眼で見て、私の素性を知っている教師は見て見ぬ振りを決め込んでいる。
それこそが、私に与えられた罰と言うかのように、世界中の人間が私を敵意を向けているように、感じていた。しかし、それは過去の話。
私は過去を思い出さないように、壁に手をかけて無理矢理歩いて行く。
行き先は図書室。私はそこへ、何度も足を運んできた。理由は――――。
『ぁ……』
そうしている内に、私は図書室に着いていた。
心臓がドキドキする、先程の動悸とは違う。私は緊張していた。図書室には、恐らく彼が居る。そう思う度に、私の心臓は早まっていく。
早く会いたい、お話したい。でも会いたくない、何を話せばいいのか纏まらないから。そんな矛盾した願望がせめぎ合い、私の心臓はより早まり高まっていく。
落ち着けようとしても逆効果。
大きく息を吸い、そして深く吐く。それを数度繰り返して、幾分かマシになって。
『――――よし』
私は意を決して、図書室のドアを開ける。
窓から差し込む夕焼けに眼を細めて、古本独特な匂いがする。
私の通う小学校の図書室は広い部類だと思う。教室を三つ分を吹き抜けたくらいの面積があり、様々な種類の本が棚の中に収められていた。分厚い辞典から、和英辞書。日本史から世界史、小学生が読むかどうかわからない生物理学の本まで幅広い。
そんな中、片隅に設置されている読書スペース。
そこに、私が図書室に通う目的となっている人物がいた。
私の地獄の日々。
辛いことばかりで、怖いことばかりだった日々で、彼だけは私を見てくれた。彼だけが救いの手を差し伸ばしてくれていた。
『……ッ』
しんと静まり返っている図書館。私の心臓だけが響いているのではないのか、と錯覚してしまうほど辺りは静かで、私の心臓は忙しなく動いていた。
一歩一歩、また一歩。私は彼に近付いていく。
彼はどうやら勉強中のようだ。私にはわからない数式をノートに書き殴って、教科書とノートを交互に視線を向けている。
ここで初めて、彼が私よりも歳上なのだとわかったところで、彼の隣に立った。
漸く彼の眼がノートから私へと向けられた。
彼は周囲に意識を向けて、誰も居ないことを理解すると面倒くさそうに問いを投げる。
『……何の用だ?』
『その……貴方に会いに……』
上手く言葉に表せない上に、最後の方なんてか細いもので聴こえてたかどうか怪しい。対して、彼はこれみよがしに溜息を吐いて呆れた口調で。
『何度も言ってるけどよぉ、オレに構うんじゃねぇよ。標的から外されたっていうのに、また的になりに来るとかバカじゃねぇのか?』
彼の言う通り、私に対するイジメは不思議となくなった。そして同時に、彼に対する当りが強くなっていった。
そんな私に気を使ってか、彼は周囲に人がいる時は私と話そうともしない。もう一度、標的になることを危惧してのことなのだろう。
申し訳なくなる。恐らく彼が標的になったのは、私を助けたからだ。彼だけが私を助けて、周囲の反感を買ってしまい今の状況に陥ってしまった。
そう思うと後ろめたくなり、私は彼の方を満足に見ることが出来ない。
『下らねぇことを考えてんじゃねぇぞ』
『……え?』
私は顔を上げる。
彼は笑っていた。
いいや。笑う、という表現は正しくないのかもしれない。
どちらかと言うと、それは人を小馬鹿にするような笑みに近い。
邪悪に口元を歪ませて、人を喰うように私に事実だけを伝えた。
『もし仮に、標的がオマエじゃなくて違うヤツだったとしても、オレは行動に移していた。今のような立場になるのは、必然ってヤツだろ』
それはつまり、私とは違う誰かが虐められても、彼は私のときのように手を差し伸ばしていた、ということになる。
普通の人はそんな状態になっても、見て見ぬふりをする筈だ。大抵の人間は、損得で動いている。助けて自分に特があるか、関わって自分にどれだけの損があるのか。そうやって考えて、人間は動いている。
私はそれを学んだ。母親が病んでしまった件、私が引き起こした事件の件、そして――――この世界で爪弾きにされて、それを学んできたつもりだ。
だというのに、私が学習した前提をこの人は覆そうとしている。
自分に得がなくても手を伸ばし、損になろうと彼は関わることを止めない。
『どうして……』
『あ?』
『どうして、私を助けてくれたの……?』
だから、私は疑問をぶつけることにした。
縋るように、求めるように、彼だけを見て、彼だけに質問をぶつける。
そうすると彼は、少しだけ考えて。
『だから言ってんだろ』
呆れた口調で続けた。
『別に、オマエの為じゃねぇ。アイツらが目障りだっただけだ』
『……目障、り?』
『そうだ。一人に対して大人数で喧嘩挑んでるアイツらが、気に入らなかっただけだ』
そんな理由で、彼は喧嘩を売ったというのか。
気に入らないと言う自分の感情一つだけで、彼は戦っていたというのか。
ただ納得できないというだけで、彼は全校生徒と教師、保護者の敵に回ったというのか。
『どうして、貴方はそんなに強いの……?』
『ハッ、オレが強い? 節穴にも程があんだろオマエ』
そして彼は呆れた口調で。
『それに自己分析がお粗末過ぎる。もっと自分を見つめ直せよ』
『どういう意味……?』
『本当にわからねぇのか?』
彼の問に、私はただ頷くだけしか出来ない。
何を言いたいのか考えても、私には何一つ納得出来ないのだからか。
『オレは強くない、むしろオマエを寄って集って嬲っていた連中と同じだ。腐って捻くれて、クソのような連中と同じだ』
『……!』
それは違う。
同じな筈がない。同じな訳がない。
私を虐めるだけだったアイツらと助けてくれた貴方が一緒な訳がない。
否定しようと口を開く私よりも先に、彼は強い言葉で告げた。
『強いのはオマエだ。耐えて我慢して、泣き言を言わなかったオマエこそが――――強いヤツだ』
『――――え?』
意味が、わからなかった。
どうして彼よりも、私のほうが優れているというのか。
私は我慢していただけだ。彼のように立ち向かった訳ではない。ただ我慢していただけの人間だ。
だが彼はそれは違うという。
我慢している者こそ、強い人間であると彼は断言する。
『オマエが何をしたのかなんざ興味がねぇ。オマエはその昔、罪を犯したのかもしれない。命を奪うことをしたのかもしれない』
だが、と言葉を区切り。
『それでも――――助かった命があった筈だ。奪うことで、助けた命があった筈だろ?』
『――――――――、』
言葉を、失った。
彼は知っている。恐らく、私が犯した罪を知っている。そして知った上で、私を救おうと言葉を送ってきれくれた。
誰もが否、と否定し。誰もが私を悪だと認めていたのに対して。
彼だけ是、と擁護し。彼だけ私を善だと否定した。
『オレには、それが出来なかった。オレはただ奪うだけ、だがオマエは違う。奪ったにも関わらず、同時に命を救った。しかも言い訳もせずに、罪だと受け止めている。そんな人間を強いと称さずして、何を強いって定義するんだ?』
私は、心が軽くなるのを感じる。
犯した罪は消えることはない。人の命を奪った、それを悪だと言うのならそうなのだろう。
しかし彼は言った。奪って救われる命があると。人殺しの私を、彼は認めてくれていた。
『そんな人間を、オレが強いって思ったオマエを嬲るクソ共が許せなかった。オマエを助けた訳じゃないってわかっただろ? オレはオレが気に入らないと思ったから、首を突っ込んだ。自分から巻き込まれに言ったようなもんだ。オマエが後ろめたくなる謂れはねぇ筈だが?』
『それでも……』
私は逸らさずに、彼だけを見つめた。
今度は言い淀どむつもりもない。臆面もなく、自分の言葉を彼だけにぶつけた。
『私は貴方に助けられた。貴方だけが、私を助けてくれた』
『助けてねぇって何度も言ってんだろ。礼なんぞ言うなよ? 自分自身を殺してやりたくなる』
それだけ言うと、彼は再びノートに視線を向けて、右手にシャープペンシルを持った。
そこで私は気付いた。
彼に、恋をしているのだ、と。
だからこうして、彼に会うために図書室に通い、彼と話をしたいのだ。
彼の隣で同じ景色を見て、談笑するだけでいい。それだけで、私の心は満ちていった。同じ空間に居るというだけで、安心していく。
彼の隣にいたい。
その為には、私が変わらないとならない。本当に強い人間に、変わらないとならない。
それこそ、銃に怯えなくても済むように。戦場で笑っていられるくらいの強い人間に、変わるために。
でも最初に、やることがあった。それは――――。
『ねぇ、先輩』
『……それはオレのことか?』
『えぇ、そうよ。先輩は――――』
『先輩は、どんな娘が好みなの――――?』
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現在 PM15:50
埼玉県所沢市 総合病院
「――――まさか、メガネ好きなんて思わなかったわ」
少しだけ、昔を思い出して呟いた。
恥ずかしがる素振りすら見せずに、堂々と臆面もなく、無駄に男らしく先輩はそう告げていた。その口振りは、全世界の男はみんなメガネ好きというかのようなものだった。
「それを真に受けて、伊達メガネをかけている私も私だけど」
「…………」
とある病室の一室の主は、私の言葉には答えない。
穏やかな寝顔で、いつも機嫌が悪い態度をしている人とは思えない、穏やか過ぎる寝顔。
彼―――先輩の頭にはナーヴギアが装着されている。それを見て先輩が未だに帰ってこない現実を突きつけられていく。
「先輩は人が好きすぎるのよ。私を庇ったからイジメられたんじゃなくて、私よりも悪を演じることで全てのヘイトを自分に集めたからイジメられた、何て後から聞いた私の気持ちわかる?」
「……」
「わかる筈ないわよね。……鈍感」
私は先輩の右手をギュッと握りしめる。
少しでも彼の温もりを感じていたいから、私は何よりも強く握りしめた。
「本当に感謝してもしきれない。先輩には助けてもらってばかりだし、私をずっと守ってくれていた」
そんな彼の隣に、私はずっと居たい。
将来、彼が女の子を好きになるかもしれない。想像もしたくないことであるが、こればかりは先輩が決めること。
勿論、私も負けるつもりもない。絶対に彼の隣は私が勝ち取る。いっぱい努力して、たくさん綺麗になって、私を選んでもらえるように全力を尽くす。
誰かが言ったか。
愛は尽くすもの――――恋は戦うもの、であると。
「先輩、知ってた?」
どうせ、先輩は帰ってくる。
彼は誰よりも強くて、世界中を敵に回そうと一つのことをしっかりやり遂げる。そんな人であり、私の先輩だ。
だから私は待つ。いつまでも待つ。私はこの人に――――。
「――――私って、独占欲、凄いのよ?」
――――私はこの人に、恋をしています――――。
→先輩
アイツのこと。
この頃から暗躍することに長けている。ヘイト稼ぎはお手のもの。
イジメられないようにするにはどうすればいい?
↓
庇っても意味がないし、一緒にいた所で意味がない
↓
せや! だったら、もっと悪人になって連中の関心を集めればええんや!
地味に精神的にぶっ飛んでいる。幼馴染はこんなことがあったのは知らない。別の学校だったので。
→後輩
先輩からの呼ばれ方は朝田。地味に、むしろかなり不満。先輩に恋をしている。
先輩翻訳をマスターしていなので、言葉通りに受け取ることもしばしば。幼馴染凄い(小並感)
今では立派なメガネっ娘。後に『発砲妻』と呼ばれる。
ちなみに彼女のヒロイン的な立ち位置。
幼馴染が『手を引く者』
妹が『背中に乗り甘える者』
彼女は『隣に立つ者』