ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
誤字報告ありがとうございました。
2022年11月10日
AM9:30 『第一層』ホルンカ 宿屋
――――アインクラッドに閉じ込められて、四日が経った。
ホルンカの村に当初は片手で数える程度しかいなかったプレイヤーの数も、いつの間にか両手で数えるくらいには増え始めている。
それでも絶対数に比べたらそれは少ない。
なにせ、この仮想世界には一万人が閉じ込められており、人数だけ見れば大した規模である。
だというのに、ホルンカの村にいるプレイヤーは極僅か。
まだまだデスゲームが現実であると、受け止められないプレイヤーが多数であるということの証拠でもあった。
そんな中、宿屋の中に作られた簡易的な食堂にて、プレイヤーが二人食事を摂る。
食事と言っても、所詮は仮想世界である。本当に食事を摂るというわけでもないのだが、仮想世界の癖にその辺りはリアルのようで、三度空腹になるし、あろうことか睡眠も定期的に採らなければならないようである。
仮想世界というのなら、その辺りを無視してもいいのではないか?と不満そうに言う男性プレイヤーと
ちゃんと三度食べないと身体に悪いよ!と不摂生な男性プレイヤーを窘める女性プレイヤー。
二人の表情は正反対だ。
ニコニコとスープを飲む女性プレイヤーと不満タラタラでパンを不味そうに食べる男性プレイヤー。
「食わねぇ方がマシだ……」
「残しちゃダメだよ」
メッ!と、どこか悪い子供を窘めるような口調で注意してくる女性プレイヤー――――アスナに対して、どこか鬱陶しいような口調で。
「味もしねぇパンを無理に食わなきゃなんねぇ理由がどこにあるんだ?」
「ちゃんと食べなきゃ倒れちゃうよ?」
「倒れねぇよ。仮にもゲームだぞ、ここは」
「それでも食べなきゃダメ!」
そ、それとも、わたしが食べさせようか?とか細い声でモジモジ手を合わせながら呟いたアスナを無視して、男性プレイヤー―――ユーキは深い溜息を吐いて。
「おい、アスナ」
「な、なに? やっぱりあーんする!?」
「やったら叩き潰すぞ」
すっぱり厳しい口調で切り捨ててくるユーキに、どこか残念そうに肩を落とす。
そんなアスナを見ても、ユーキの口調は変わらない。むしろ厳しさと呆れを混同させて続けた。
「オレは確かに昨日の夜に元に戻れって言ったがよ」
「うん」
「オマエ、元よりも近い」
ユーキは言うと、視線を己の肩付近に送る。
近いとはそういうことだった。二人の距離感、つまりユーキの肩とアスナの肩が触れ合うような距離。そんな距離で二人は食事を摂っていた。
もちろん、周りを見てもまだまだスペースはある。大人数で座れることを考慮して、長椅子と長椅子を挟んで長机。それが横一列に二つ用意されている。
彼らが座っているのはその端。長椅子にはプレイヤーが点々と座っており、まだまだスペースが余り余っている。
だと言うのに、彼らは肩と肩が触れ合う距離で、食事を摂っていた。
何を言っているのかわからない、そう言いたげな表情でアスナは首を横に捻り。
「これくらい普通だよ」
「普通じゃねぇよ」
不機嫌そうな表情で、ユーキはアスナの顔面に手を乗せて、無理矢理力付くで引き剥がしにかかる。
「離れろぉ……!」
「むにぃぃぃぃ……!」
「このっ……いい加減にッ!」
「や、やめへぇぇ……!!」
剥がれない。
いくら力を入れても、アスナは剥がれなかった。火事場のクソ力というのか、それとも乙女は強くなくてはならないという現れなのか。この瞬間だけで言えば、アスナはユーキよりも力強かった。
「オマエ、何だよそのクソ力……! 敏捷にしかステータス振ってない筈だろ……!」
「ま、負けないもん……!」
「……もういい。何かバカバカしくなっちまった」
パッ、とアスナの顔を離すと、ユーキはメインメニュー・ウィンドウを開き、ステータス画面を開く。
自分のステータス画面――――主に、筋力の部分を睨みつけて、ユーキは忌々しげに口に出した。
「隣にいるのが夏侯惇のままだったら、問答無用で叩き潰してた」
「アレはアレでカッコイイと思うけどなぁ……」
しみじみと、当時の自分の姿を思い出して、彼女は続けた。
「でもそれを言うなら、ユーキ君が姫キャラのままだったら抱きついてたよ」
「苦労したんだがな。アレ作るの……」
ユーキが思い出すのは過去の自分の姿。
黒髪長髪に、黒い双眸。前髪を切りそろえた姫カット。正に守られるために生まれてきたかのような設計だった、と我ながら彼は自負している。
だが今では見る影もない。
ブロンドの髪に、蒼い瞳。普通にしていれば可愛い顔立ちなのに、それを台無しにする目付きの悪さに粗暴な口調。何よりも男である。
あの時のユーキ君は可愛かったなぁ、と過去を振り返ると同時に、アスナは直ぐに狼狽える表情に変わる。
そこで彼女はユーキの服の裾を掴んで不安そうに。
「ね、ねぇねぇ」
「あ?」
「も、もしかしてあの姿って、ユーキ君の好みの姿だったりするの?」
「……何言ってんのオマエ?」
そういうと、小馬鹿にする調子で彼はそのまま続けた。
「アレは童貞共を殺す為に設計したもんだ。別にオレの好みじゃねぇよ」
「そっか」
ホッ、と胸を撫で下ろすアスナに気付かずに、ユーキは忌々しげにパンを乱暴に齧りながら。
「クソウゼェ音声を聞きながら作ったのに、今となっちゃ無駄な徒労だったがな」
「音声?」
そういうとアスナは首を傾げながら。
「わたしのときはテキストだったけど?」
「なに?」
訝しむ眼でアスナを見るも、彼女は不思議そうにユーキを見つめるばかり。どうやら嘘はついていないようである。
そもそもこの問答に嘘をつくメリットはない。必要性が全くないのだ。
――それじゃ、あの声は何だったんだ?
――あのクソッタレの差し金か?
思い浮かべるのは、身元保証人だった男の顔。
喜怒哀楽があるのかどうか怪しかったものの、微かに感情の機微を感じ取れた従兄弟の顔。
――いいや、ンなことするメリットがねぇ筈だ。
――あの声は、誰の……?
そこまで考えると、あるものが視線に入り、思考が一時中断される。
それは昨日、宿屋前で自分たちを一瞥して、足早にフィールドに向かって行った男性プレイヤーの姿。黒い髪で黒い瞳、どこか中性な顔立ちをしており、見ようによっては少女とも見えるかもしれない男性プレイヤーだった。
身につけている装備も、黒いシャツの上から茶色のハーフコートを羽織り、黒色革製のズボンを履いている。そして背中にはユーキと同じ直剣『アニールブレード』を背負っていた。このホルンカの村にいる中で、一番装備が整っていると言ってもいい。加えて彼はソロのようである。
ちらほら居るプレイヤーは皆誰かと一緒に行動し、装備を整っている男性プレイヤーは一人でいる。そう言う意味でも男性プレイヤーは明らかに浮いていた。
ユーキはその男性プレイヤーを見て、心の中で一言。
――気に入らねぇ……。
彼が見たのは装備ではない、男性プレイヤーの眼だ。
どこか泣き疲れたように、どこか憔悴しきっているかのように、どこか――――伽藍堂のような無感情な瞳。
誰よりも装備を整えている筈なのに、誰よりも何も持っていない。そんな印象すら感じられる。
――何だ、その面は。
――本当に気に入らねぇ。
アスナもユーキの感情の機微に気付き、彼の視線の先を追うと「あっ」と小さく声を上げる。そして次に彼が次に何をするのか先読みして、一度離れることにした。彼が立ち上がる際に邪魔にならないように、嬉しそうにアスナが離れたと同時に。
「チッ」
舌打ちをして、ユーキは勢い良く立ち上がる。
向かう先は黒髪の男性プレイヤー。ズンズンと不機嫌そうに迷わず歩いて行く。
気に入らなかった、目障りだった、あんな眼をされて放っておく自分が何よりも許せなかった。
考えるより先に行動に移したユーキはそのまま不機嫌そうな口調で。
「オイ」
黒髪の男性プレイヤーは顔を上げる。
眼を丸くさせて、面を食らったような様子である。いきなり話し掛けられたのだ、その反応は無理もない。
だがユーキは構わずに口を開く。
眉間に皺を寄せて、誰よりも不機嫌そうな声色のまま。
「オマエ、オレ達と組め――――」
今思えば、最悪な第一印象だったと、ユーキは振り返っていた――――。
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同時刻
味気ない食事、味気ない戦果、味気ない――――光景。
それが今ある、黒髪の男性プレイヤー――――キリトの全てだった。
こんな筈じゃなかった、と彼は思う。
VRMMORPG『ソードアート・オンライン』のベータテストに当選した彼は、誰よりも早くソードアート・オンラインをプレイしていた。
あの時の興奮は今でも彼の胸に焼き付いている。頬を撫でる風、肌を照りつける熱気、まるで人であるかのようなNPCの挙動。まるで現実世界のようであるが、片手には剣を携え、フィールドに出ると現実世界では決して見ることが出来ないモンスターの有無が、ここが仮想世界であることを教えてくれる。
その事実にキリトは熱響した。
ここは剣一本でどこでも進める世界なのだ、と。心が弾んだ。新しきを知る喜びがあり、道に胸をときめかせるものが、この世界にはあった。
それから彼は夢中になった。寝ても覚めても考えるのはソードアート・オンライン。学校から帰宅すると、すぐに頭にナーヴギアを装着し、アインクラッドに戻ってくる。
それを繰り返し、製品版を手に入れた。
これでようやく、もう一度、あの世界で冒険出来る、また戻ってこれる。そう考えていたのだが――――。
「ッ……!」
現実は違った。この世界の創造主、茅場晶彦が始めたデスゲームに彼は巻き込まれ、世界はガラリと姿を変えた。
HPゲージがなくなれば、死亡を意味する。そんな冷酷な世界へと姿を変える。
一日目、つまりデスゲームが宣言された日。
その時点で、キリトは正直な所まったく実感が涌かなかった。いいや、実感というよりも直視出来ていなかったと言った方が正しいのかもしれない。
だからこそ、彼は一日目でホルンカの村に辿り着き、誰よりも早く装備を整えることが出来た。デスゲームという現実を直視出来ず、闇雲の先に進んだからこそ出来た。
だがそれもここまでだ。
日数が経つにつれて、嫌が応にも見なければならい。これは現実なのだと、認識しなければならない。
ここで握っていた拳を解き、辺りを見渡した。
――ここも、プレイヤーが増え始めてきたな。
――次の街を拠点にするか。
情報をただ処理するかのように、無感情に考えていた。
この村に他のプレイヤーが来る前に、次の街へ移り、自分を鍛えて装備を整えないとならない。そうしなければモンスターの奪い合いになり、満足に経験値を手に入れることが出来なくなる。そうなってしまえば、この残酷な世界で生き残れなくなる。
そして次の街へ、またプレイヤーが集まってきたら次の街へ。
何度も何度も繰り返す。
――こんなこと、何度繰り返せばいいんだ……。
第一層が突破されるまでだろうか、それともゲームクリアされるまでだろうか、それとも――――現実世界の身体が死ぬまでだろうか。
――ダメだ。
――考えちゃ、ダメだ……!
ブンブン、と頭を横に振る。
だが一度脳裏によぎったものは振り払えなかった。
思い浮かべるのは、はじまりの街で見捨てたこの世界で初めて友達になった男の顔、そして早々にデスゲームに乗り自分をモンスターにキルさせようとした同じベータテスト経験者、そして家族の顔。
――会いたい……。
――家族に、会いたい……!
――母さんに、オヤジに、妹に直葉に会いたい……!
取り留めない日常を彩っていた家族の顔を思い浮かべる。確執はあった、家族と言う割には壁を作っていた。それでも、会いたい。自分という人間を知る唯一の存在。
溢れ出した感情は止まらない。
嫌悪感、罪悪感、喪失感が波となり、キリトの感情を荒だたせた。
この世界で彼は一人だ。
友達となった男は初日に見捨ててしまった、同じベータテスターだった男はこの世界から永遠にログアウトしている。家族は勿論この場にはいない。
このまま一人でこの世界に生き、一人で攻略するのだろう。
「オイ」
だが不意に声が聞こえた。
キリトは顔を上げる。そこに立っていたのは男性プレイヤー。
髪の毛は薄い金色、瞳は蒼く、眼つきが悪い男性プレイヤーは不機嫌な調子で。
「オマエ、オレ達と組め――――」
今思えば、最悪な第一印象だったな、とキリトは思い出した――――。
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AM10:00 『第一層』ホルンカ周辺のフィールド
いきなり誘われたキリトはされるがまま、眼つきの悪いプレイヤー――――ユーキに引き摺られて組むことになった。
その様子を見て「声をかけるにも乱暴すぎよ!」と彼の仲間だった女性――――アスナに叱られていたのは記憶に新しい。
三人は軽く自己紹介をすると、フィールドに出てモンスターを狩り始める。
もちろん、三人一辺にモンスターに殺到するようなやり方ではない。とりあえずユーキとアスナだけで戦い、キリトは二人の実力がどの程度のものなのか見るために、少し離れた場所で見ていたのだが。
――凄いな。
眼を見張るものがあった。
視線の先にはアスナの姿。前衛で戦っていたユーキが下がると同時に、突貫してモンスターを刺し穿ち倒していく。
――細剣の子。
――凄いソードスキルの完成度だ。
――無駄がない。
――疾いし鋭いし、何よりも正確だ。
――まだ甘い所もあるけど、まだまだ強くなる……。
あそこまで完成度の高い細剣使いはベータテスターにもいなかった、とキリトは思う。
正確で、足運びも無駄がなく、エネミーモンスターの弱点を鋭く容赦なく突いてくる。今の現状で、上位の剣士と言えるだろう。
――もっと凄いのが、二人の連携だ。
――初心者なのに、スイッチの掛け声なしにフォワードとバックアップが交代。
――そんな技術見たことがないぞ。
――だけど……。
また新しいエネミーモンスターが現れたと思いきや、ユーキが臆することなく切り込んでいく。
アスナに比べたら、流麗とは言えない。荒々しく、まだまだ荒削り。その戦い方は剣士ではなく、戦士と言った方がしっくり来る戦い方だ。
彼の戦い方を見て、キリトは分析を始める。
――あの戦い方は、何だ?
――敵を見るや否や、有無を言わさず切り込むなんて……。
ユーキというプレイヤーはフォワードという役割だ。簡単に言ってしまえば、敵に切り込みターゲットを自分に独占するという役目である。モンスターからの攻撃による傷は絶えないし、危険が付き纏う役割だった。
だと言うのなら、今の彼の行動は正解だ。いの一番に切り込んで、敵を弱らせて、後退しバックアップにトドメを刺させる。
だがこれが普通のゲームだったらの話である。
プレイヤーのHPゲージがなくなれば死ぬデスゲームにおいて、それは命知らずな行為だろう。誰もが一度恐怖という感情が湧き起こり、それに打ち勝って初めてエネミーモンスターと戦える。
――普通なら躊躇するけど、アイツにはそれがない。
――ときには斬って、殴って、蹴って。
――自分の命なんて計算にいれてないような。
――自分以外を標的にさせないような戦い方だ。
危うい、何て危うい戦いなのだろうか。
この仮想世界がまだゲームであると認識しているのなら、ユーキの戦い方も頷ける。死ねばアイテムか何かで生き返れる、と浅はかな考えの人間であるのなら理解できる。だがユーキの様子にそれがない。この仮想世界をしっかりと現実と変わらないことを受け止めて、行動している。
この世界で死ねば死ぬ。そんな理不尽な事実をしっかりと受け止めている。
エネミーモンスターを倒して、アスナが「ユーキ君突っ込みすぎ! 危ないでしょ!」と叱り「うるせぇな、倒してんだから別にいいだろ」と馬耳東風のように明後日の方向を見て聞き流すユーキを見て。
――アイツ、多分優しい奴だ。
と、ユーキのことをそう判断した。
他人が傷つかないように、被害を最小限にするように動き、自分が傷ついても構わない。そうした動きが戦闘となって現れているのかもしれない。
それをユーキ本人が聞いたものなら「オレが動いたほうが早く済むからに決まってんだろ。別に他人なんざどうでもいい」という反論してくるだろうが、生憎キリトの評価は本人には聞こえていない。
――アイツの事を『強い』って言うのかもしれない。
――でも、何だろう。
――俺はアイツのことが……。
深く考えていると、キリトを呼ぶ声が聞こえた。
「キリト君、ユーキ君と交代してくれる?」
「いいけど、どうしたんだ?」
「言っても聞いてくれないから、そこで反省してもらおうと思って」
その言葉にどこか不機嫌な調子で、ユーキは反論した。
「聞く必要がねぇからな。反省するつもりもねぇぞ」
「いいから、君は休んでて!」
「ヘイヘイ」
「ヘイは一回!」
「ヘーイ」
そう言うと、ユーキはキリトと入れ替わる形で見学する側になった。
彼はぼんやりとキリトとアスナのやり取りを見る。
「キリト君どうしよっか?」
「まず『スイッチ』って言葉知ってる?」
「知ってるよ。入れ替わる時の合図だよね?」
「そうそう。それで俺がスイッチって言ったら――――」
あら方、パーティープレイでのレクチャーを受けて、二人はモンスターと戦う。
まだ組んでまもないこともあって、連携は拙いものであるが、問題なく二人はモンスターを狩っていた。
ユーキが注目するのは、アスナではなくキリトの方。
何度も彼女とは組んでいるし、実力がどの程度かわかっている。対してキリトの方は今回が初めて、実力がどの程度のものか不明瞭である。故にどの程度戦えるのか理解するために、キリトへと注目していたのだが。
――アイツ、上手いな。
――視野も広いし、アスナの動向にも機敏に察知してやがる。
――何て気が利くヤツ。
何匹かエネミーモンスターを倒したところで、初心者のアスナにアドバイスを送っているキリトを見て。
――それに良い奴だ。
――オレ何かとは比べ物にならねぇ、良い奴だ。
――だけど……。
気に入らない、とポツリと呟いた。
キリトの戦い方は、自分以外に傷をつけないようにしていた。それがユーキは気に入らない。
食堂では今にも折れそうなほど危うかったにも関わらず、今では他人が傷つかないように立ち回っている。そんな余裕もないくせに、無理をしているキリトが気に入らない。自分を甘やかしても良いのに、自分に厳しい彼が心底気に入らなかった。
そう思うと、ユーキは二人に近付いていて、何食わぬ顔で話しかけた。
「オイ」
二人はそれに気付いたのか、いったん剣を収めてユーキの方を見ながら。
「ユーキ君、はじまりの街にいったん戻らない?」
「何かあったのか?」
「村のプレイヤーの人に聞いたんだけど、最近はじまりの街周辺に変なモンスター出るんだって」
「それのどこが変なんだよ?」
その問に、アスナはどうやって説明したら良いのかわからない、といいたげな難しい顔をしながら。
「そのモンスター、はじまりの街周辺のモンスターを攻撃するらしいの。しかも凄く強くて、討伐も出来ないみたい」
「……それは面倒くせぇな」
心底気怠そうに、彼はそのまま深い溜息を吐いて思考する。
――討伐出来ねぇ理由は、それだけじゃねぇ。
――はじまりの街には戦えない連中が多い。
――そんなヤツらが、モンスターを討伐何て出来るわけがねぇ。
――だったらある程度戦えるヤツがはじまりの街まで出張ればいいんだが。
――それもありえねぇ。
――死ねば終わりのクソゲーやってんのに、わざわざ自分を危険に晒すバカはいねぇだろ。
――このままじゃ、はじまりの街にいるプレイヤーは見殺し。
――コルを稼ごうにも、フィールドに出たところで逆に狩られてゲームオーバーだ。
そこまで考えて、忌々しげにユーキは大きく舌打ちをする。
それを聞いてアスナは満足げに笑い、キリトはそんな彼女の反応を見て不思議そうに首を傾げる。無理もない、誰が舌打ちは世話を焼く合図だと見抜けるだろうか。そもそもそんなこと、見抜いているのはアスナだけ。ユーキ本人もそんな癖、気付いていないだろう。
「……オレははじまりの街に行ってくる」
「言うと思ったよ」
有無を言わさずにニコニコしながら言うアスナを無視して、ユーキはキリトへと視線を向けて。
「オマエはどうするよ、キリトくん?」
「そうだな……」
少し考えて、キリトは答えた。
「俺も行くよ。ちょっと気になることがある」
「そうか。あとオマエに言っておくことがあるわ」
「何だよ?」
ユーキは口元を歪めて、吐き捨てるように。
「オレ、オマエのことが気に入らねぇ」
「――――――」
キリトの様子に驚きはない。面と向かって言ってくる無礼なヤツ、と怒る様子もなかった。
あるのは納得。自分のもやもやとした感情。それをユーキは言い当ててきた。心の中でしこりがあった違和感。優しい奴っぽいけど、何かを感じていた。それが何なのか、ユーキから言ってきたのだ。
どこか晴れ晴れとした表情で、キリトは不敵に口元に笑みを浮かべると。
「奇遇だな。俺も、お前のことが気に入らないと思ってたんだ」
「話が合うな? それじゃはじまりの街に着くまで勝負するか?」
「いいぜ、勝負内容は?」
「モンスターを倒した数」
「乗った」
合図はいらなかった。
二人は同時に抜刀する。
キリトは背中に刺していた剣を、ユーキは腰に挿していた剣を。お互い同時に抜き放つ。
二人は知らない。
気に入らない意図は奇遇にも同じ、その理由も同じものだったということを。
要するに同族嫌悪に近い何かであることを、二人は全く知らない。
もう一度言おう。
キリトとユーキ。二人の出会いは最悪な第一印象から始まった。
置いてきぼりを食らったアスナはそれを見て一言。
「仲良くしないとダメでしょ―――――!」
→キリト
原作主人公。フラグ建築士一級習得。
もうチートや、チーターやろそんなん!
→二人の距離感
めっちゃ近い。
お互い制空権に入っている。
→「むにぃぃぃぃ……!」
→「や、やめへぇぇ……!!」
この間、アスナの顔は主人公のせいでへちゃむくれ。
主人公処す案件