ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
ガンゲイル・オンライン
BoB本選 ISLラグナロク 草原地帯
BoB本選が開始されて、既に一時間以上は経過していた――――。
30人は存在していた参加者も、既に半分以上が脱落していた。
辺りを少しでも散策しようものなら、地に倒れているプレイヤーの姿。その頭上には赤くDEADの文字が浮かんでいる。HPバーが削られログアウトも出来ず、BoB本選が終了するまでその身を地に晒す。そその姿から、彼ら彼女らがBoB本選に出場したプレイヤーがであることが嫌が応にもわかるというもの。
死屍累々。どれだけ強かろうが、どれだけ慎重に立ち回ろうが、終わりは平等に訪れる。それを教えるように、刻み込むように、彼――――キリトは地に付している一人のプレイヤーを観察し。
「相打ち、か……」
直ぐ傍で倒れているもう一人のプレイヤーを見て、そう結論付けた。
しかしあくまで、予想の範疇。キリトがもっと銃器に詳しければ、プレイヤーの身体に開いている弾痕と装備している銃器の口径、そして落ちている薬莢からどの銃で攻撃され、倒れている者同士で争っていたのかわかるというもの。
だがキリトでは相打ちしたのだろう、という予想で限界。
圧倒的に知識がないのだから、これ以上の情報は得られず、推理することなんてできるわけがない。
それでも、BoBという大会がどれほどレベルなのかわかるというもの。
100名以上は存在していたプレイヤー達が予選を勝ち抜き、30人程度しか進めない本BoB本選。上位ランカーしか存在しないのは目に見えているし、運だけで勝ち残るほど甘くない。倒れている二人も、強者であったのだろう。
それでも勝てない。
ガンゲイル・オンラインは今となっては数多くあるVRMMOの中でもPVPが主流、つまりは人対人で行なう対戦を重きに置いているゲームだ。
彼らだって、その中の選りすぐりの上位ランカーであり、これまで備えてきたのだろう。それでも現実はこの有様だ。地に伏し、勝ち残ることが出来ぬまま、野に姿を晒している。
――もし、もしだ。
――俺やユウキが
――無事で済むのか……?
チラッ、と。
倒れている二人をしゃがんで観察している黒髪の女性プレイヤー――――ユウキを見てキリトは考える。
きっと、彼女ならば大丈夫な筈だ。
アルヴヘイム・オンラインでの統一デュエルトーナメント、そしてこれまでに遭遇してきたプレイヤーを返り討ちにしてきた腕前。センスだけで言えばずば抜けており、仲間内でユウキ以上のVRMMO適正を持つ人間はいないだろう、とキリトは思う。
何よりも彼女の勝負に対する姿勢だ。楽しそうに笑みを浮かべたまま相手に相対し、相手の動きを分析する冷静さ持ち合わせている。油断や慢心などありえず、長いこと行動を共にしているが、今だに彼女の底をキリトは計りかねている。
故に、ユウキであれば
ならば自分が相対することになったとき、無事で済むだろうか、と彼は考える。
――わからない。
――
――何よりも……。
対峙したのは一度だけ。
それでも、それだけでも、
彼から放たれた嫌な気配―――ー殺気と呼称するには十分すぎる殺す意志をキリトは感じていた。
一般的な生活を送る人間に獲得することがない強い気持ち。それを間違いなく
ソードアート・オンラインの最後の日。
つまりそれは。
――平和な日々に開放されたのに。
――俺への殺意が色褪せることがなく。
――保ったまま、あるいは磨かれた状態で過ごしてきたということだ。
帰ることを望んでいた筈だ。自身と同じく、デスゲームに巻き込まれて現実世界に帰還することを願っていた筈だ。
なのに、だというのに、
「ふざけるなよ……っ!」
ふつふつ、と怒りが湧き上がる。
自分が何をしたのか、と。向けられた理不尽な感情に苛立ちをキリトは覚え、奥歯を噛み締めた。
万人に好かれる性格ではないことはキリト本人もわかっているが、命を狙われるほどのことをした覚えがない。どういう見解で、如何なる理由で、どういう訳で、自分が命を狙われないとならないのか。
それこそ
現時点では八方塞り。
その事実が余計にキリトの心を曇らせていた。
「大丈夫、キリト?」
「ん、あ、あぁ。大丈夫だ」
独り言が聞こえてしまったのか、それともキリトの様子を察したのか、いつの間にかキリトに近付いていたユウキが彼の顔を心配そうに覗き込んでいた。
キリトは反射的に、何でもないことを伝えるが、ユウキは納得していないようで。
「本当に?」
「本当だ。嘘ついてもしょうがないだろう?」
両肩を竦めて問題ないとジェスチャーをするキリトに、ユウキは訝しむ表情で疑うように視線を送る。
そして直ぐに「わかったよ」と追求しなかった。長い付き合いだ、きっとこれ以上キリトに聞いたところで、彼が素直に口を開くことがないと判断したのだろう。
彼女は話題を変えるように、
「にーちゃん大丈夫かなー?」
草原地帯から見える、BoB本選の舞台となっているISLラグナロクの中心部――――都市廃墟のビル郡に視線を送り、ユウキは心配そうに口を開いた。
「大丈夫って何が?」
「ほら、ボク達は二人で行動しろって言ってたけど、にーちゃんは一人でしょ?」
なんだ、そんなことか、と。
キリトは自身が装備している
「大丈夫だろ」
「うわっ、即答?」
「あぁ」
キリトは一度だけ頷いた。
対するユウキはおずおずとした調子で問う。
「理由とかあるの?」
キリトは特別な感情を言葉に乗せることもなく、今までのユーキという存在の人間性を分析した上で、何気ない口調のまま事実だけを口にする。
「目的が定まったアイツはしぶといからな。ユウキも知ってるだろ?」
「それは、確かに……」
困ったようにユウキは笑う。
今までのユーキというプレイヤーを見ていれば、茅場優希という人間を知れば、苦笑いを浮かべるのも理解できるというもの。
目的が定まった彼はしぶとい。
どれだけ痛めつけられようが、どれだけそれが苦難なものであろうが、どれだけ目の前に障壁があろうが、彼が足を止めることはない。痛めつけても痛みを無視して、苦難も歯牙にかけずに、障壁など壊して前に進む。
諦めを踏破し、強靭すぎる意志のまま、目的へと邁進する。それが茅場優希と言う狂人であるのだ。
だからキリトは口にする。
問題ない、と。死んでもタダでは死なない人間を心配するだけ無駄であるというかのように、不自然なほど気に留めない様子のまま。
「今のアイツはシノンしか見えてない。シノンと戦うまで斬ろうが焼こうが、目的を達成するまでアイツは負けないさ」
「ということはだよ、にーちゃんは
「それは……」
キリトも解らなかった。
彼らしくないといえばらしくない。
ならば、自分達の知らぬまに処理をするのか、と考えるもそれも違うとキリトは思う。障害になるのなら何も言わずに影で、誰にも知られずに裏で叩き潰すのがユーキのやり方だ。
だが今回は違う。
いつものように裏で処理するつもりならばそんなことを言うのはおかしく、ユーキという人間性にしては消極的な進め方でもある。
宛てがあるのか。
自分達も知らない何かを知っているのか。
今となっては確かめる術がない。
「……アイツは放置して問題ない、って言ってけどいざとなれば俺達が止めよう」
「そうだね」
ユウキも同意見なのか、力強く頷く。
しかし直ぐに。
「でもにーちゃんの言うとおり、大丈夫だったらさ、キリトにお願いしたい事があるんだよね」
「お願いって、ユウキがか?」
「うん」
珍しい、というわけでもない。
しかしどこか改まって口にするのは、彼女らしくないと思ったのかキリトは首を傾げる。
今までISLラグナロクの中心部である都市廃墟を見つめていたユウキは振り返り、キリトの方へと視線と意識を向ける。
その眼は真剣そのもの。
今まで見たことがないユウキの表情にキリトは奇妙に思いながら――――。
「ボクと戦ってよ、キリト――――」
「――――ううん、はじまりの英雄」
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ガンゲイル・オンライン
BoB本選 ISLラグナロク 都市廃墟
――――銃声が響き、閃光が照らし、爆発となって辺りを木霊する――――。
戦塵が周囲を舞い、視界が遮られていた。
そこへ――――、
「チ――――ッ」
舌打ちを伴い、いち早くその場から脱する金色の人影――――
彼の姿は五体満足無事――――というわけではない。むしろ不格好なそれだ。身体の至る所が、赤色の弾痕らしきエフェクトがあり、それだけで彼がどれだけ被弾しているかわかるというもの。
忌々しげに、体勢を立て直そうとするが。
「逃がすものか、間抜け」
「っ……!」
遅れてもう一人の人影が、
その右手には鈍く輝く棒状の得物――――クリーニング・ロッドが握られている。
武器、というには頼りない。銃身清掃用の道具にしては、先端が鋭利過ぎるそれを右手に持つ人影――――
必要最小限の動きで、
痛みは当然ない。
ペインアブソーバーが当然に機能している現状において、刺されたという事実は違和感として処理されていく。
材質は金属状。だが妙であった。ガンゲイル・オンラインにおいて金属製で本来の意味で武器と呼べるものはコンバットナイフ程度しかない。
だがしかし、現にこうして目の前にいる男は、金属製の棒状のそれで
「呆れた野郎だ。こんな所まで来ても剣士の真似事か?」
「それは、貴様もだろう、アインクラッドの恐怖。武器でもないスコップを振り回すなど、蛮族極まったな」
「蛮族。蛮族ねぇ?」
口元を引き裂きながら笑みを浮かべる。
含みのある言い方に、
同時に
気付かれた焦りはない。彼は照準を
「新ネタだ」
一発、二発。
引き金を引き、
奇襲は失敗。
舌打ち。
ままならない戦果に苛立ちを募らせてながら、
金属同士がかち合った際の特有の音が辺りに鳴り響かせて、両者の間に火花が生まれる。
そうして両者は拮抗する。
片や突き刺さんと力を込めて、片や防ぐために現状を維持する事に専心する。
「本当に、弱くなったな」
「だろうな。自覚はある」
売り言葉に買い言葉。
挑発のつもりなのか、
「お前からは、何も感じない。途方もない威圧も、身体の芯から冷やす恐怖も、何も」
「……っ」
「あのときのお前が、今のお前を見たら、どう思うだろうな?」
「……知るかよ。腹抱えて笑うんじゃねぇのか? っつーかよぉ――――」
言葉を区切り、力を込めて
「そこまで言うのなら、オレ程度に梃子摺ってんじゃねぇよ!」
態勢を崩した。
あとはいけ好かない胴体に風穴を開けるだけ、と
だが――――。
「――――そうだな」
それよりも早く、速く、疾く。
「お前を、殺す」
同時に
お前には用がない、と言わんばかりに放たれるそれは先程の速度の非ではなかった。
何とかそれを辛うじて防ぐ。
必殺の刺突。一度で終わるはずがない。
一、二、三、四。
尚も連続で放つそれをギリギリで防ぐ。
響きあう二つの鋼はよく出来た音楽のように、火花と音を散らす鋭利な凶器とプレート。
銃の世界であるガンゲイル・オンラインにおいて、珍しくもありえない金属音。
己の攻撃を必死に防ぐ、かつて自分が恐怖していた人間を前にして、
この程度か、と。ここまで墜ちてしまったのか、と。
もはや見る影もない。
アインクラッドの恐怖と呼ばれた人物と同一人物とは思えなかった。
どこにでもいる人間に成り下がり、今まさに自分に削り取られようとしている。
彼の最終到達点は“はじまりの英雄”。“アインクラッドの恐怖”など“はじまりの英雄”を本気にさせるための餌の一つでしかない。
――そうだ。
――オレはそのためにいる。
――技を磨き。
――牙を育て。
――憎悪を滾らせてきた。
――お前じゃない。
――アインクラッドの恐怖ではない。
――オレの標的はお前ではない。
故に、退け、と。
邪魔をするのなら、そこを退け、と憎悪を込めて、怒りのまま、ソードアート・オンラインで愛用していたエストックの代わりとなっている今の得物を振るう。
逸る
それはつまり、此処に至って
それが癪に障った。
弱くなった、脅威にもならなくなった存在が、何を自分と対等に争っている気でいるのか、と。
――ふざけるな。
――取るに足らなくなった分際のお前が。
――オレとまだ争っているつもりか。
――アインクラッドの恐怖。
――既にお前は取るに足らない存在。
――生き汚いやつだ、お前は……!
もはや相手にならない。
もはや怪物でもない。
もはや敗戦処理に等しい。
再三、
自分と
同時に、連続した銃声と弾丸が空を奔った。
回避行動を取っていた
脱兎の如く。
思わず鼻で笑う。なんと無様なことか、と。あまりにも必死に様子の
「ありゃ、当たらなかったか」
「お前か」
忘れていたわけではない。
ずっと様子を見ていたのか、かつて手を組んでいた者――――ピトフーイにやっと意識を向けた。
ピトフーイも
「チャンスじゃないの?」
「何がだ?」
「ほら、アインクラッドの恐怖だよ。攻めるなら今じゃない?」
「必要がない」
敵意をピトフーイに向けたまま、
「あんな雑魚、いつでも殺すことが出来る」
「雑魚、ねぇ?」
含みのある笑みを浮かべる。
奇妙に思えたのか、何が言いたい、と
「ボコられた癖に、アインクラッドの恐怖を舐めすぎじゃない?」
「クソ……っ」
脱兎の如く逃げ込んだ家屋の中で、
本当に運がよかった。あそこでもう一人の今脅威であるピトフーイが横槍をいれないと、どうなっていたかわからない。良くて致命傷、悪くてあそこで自分は敗北していた。そんな絶対の予感を感じ取っていた。
弱くなった、などわかっている。
そんな事実、百も承知だ。
そのことに恥じることはない。元から自分はこの程度であると、モブは――――ユーキは受け入れる。
だがそれも何もない状況であればの話しだ。
ここにおいて、弱いだけでは許されない。この程度の相手に、手間取ることなど許されないのだ。
「ふー……」
深く、深く、息を吐く。
追撃がないことから、完全に自分など眼中にないのだと理解する。好都合だった。時間が与えられるのは、ユーキにとっても願ったり叶ったりだ。
見つめなおす。
今の自分にとって足りないものは何か。昔の自分に満ちていたものは何か。
自分への憎悪が足りない、自身への憤怒が足りない、何よりも――――賭ける物が足りない。
何もかもが足りない。
そうして辛うじて、自分は一流達の中に割って入ることが出来た。
命を賭け、怒りのままに剣を振るっていたからこそ、ソードアート・オンラインで痛覚を獲得し、そのおかげで致命傷になりえる攻撃を直感で防ぎ避けることを可能にし、ズタボロになりながら前に進むことができた。
ならばどうすればいいか。
そんなもの簡単な答えであった。
「すー、ふー……」
息を吸い、溜め込んだ息を吐く。
自身はどうすればいいか、簡単なことだ。あの時のように、今までのように、同じ事をすればいい。何もかもが足りないのなら、賭けるものなど限られてくる。つまりは――――命を賭ければいい。
やり方はわかっている。
憎悪が足りないのなら生み出せばいい。
憤怒が足りないのなら汲み取ればいい。
燃やす火種がないのなら、自身が薪となればいい。
「あー、バレたら絶対に説教コースだなこりゃ……」
ぼんやり、と口にする。
怒られるだろうか、泣かれるだろうか、愛想尽かされるだろうか。どちらにしても禄でもない結末になる。
だがそれでも、だとしても――――。
「アイツが、オレの後ろを付いてくるヤツが、オレに真っ直ぐに喧嘩を売ってきたんだ――――」
これからユーキがやることはソードアート・オンラインでの再現だ。
致命傷となる傷を負えば、痛みとなり身体を奔らせ、最悪ショック死するかもしれない。百害あって一利なし。だがそうでもしなければ、自身にあった直感が作動しないというのなら仕方ない。
かつてと違うところがあるというのなら、ユーキの心境の変化だ。
自分の死に場所を探すような、自暴自棄にも似た理由ではない。絶対に負けられないから、絶対に倒れていられないから、この一時のみ以前の暴威を呼び覚ます。
思い出すのは後輩の真っ直ぐな眼。
きっと今も自信を視ているであろう眼を思い出して、ユーキは獰猛に笑みを浮かべる。
「――――後輩に情けねぇ姿なんて見せられねぇだろうがっ!」
瞬間、身体を穿っていた箇所から灼熱があり、それは直ぐに痛みとなって身体中を駆け巡る。
気が遠くなる。
それはアミュスフィアが強制ログアウトさせようとしているものであった。現実世界での優希の心拍が異常に高まった結果、アミュスフィアに備わっていたシステムが起動したのだろう。
だがそれを。
「――っ、今のは不味かったな」
ユーキは異常な意志力で耐え切った。
本来ではありえないのだが、それがユーキという人間の異常性。狂人と称されるほどの曲がらぬ意志で以て耐え切ってしまった。
次第に、視界がクリアになっていく。
痛覚が奔る、動くたびに激痛となって身体が訴える、限界であると悲鳴を上げる。
知るか、と。
無言でそれを悉くを破却して見せて、視野が広がっていくのがわかる。
何度も経験したことがある。
初めてPoHと対峙したときに、フロアボスと対峙したときに、キリトと決闘したときに、そして――――茅場晶彦を止めるときに。今感じている
ゾーン。
それは極限の集中状態。自分以外の体感速度が遅かったり、視覚聴覚が非常に鋭くなる状態。限界を感じることなく、自分の思い通りに体が動くような、全能のような感覚。
本来であれば、何も訓練されていない人間が入れない領域。それを優希は死にかけることによって無理矢理モノにしてみせる――――。
そうして、
尋常ならざる気配。
一人はかつて味わった気配なのか、恐怖で一歩後ずさり。
もう一人は待ち望んだ展開に、冷や汗をかきながら笑みを浮かべる。
二者二様。
だが問題の彼は歯牙にもかけない。それよりも先を見据えている故に。
「――――退けよ。アイツが待ってるんだ」
~べるせるく・おふらいん~
一方その頃
アスナ「んん??」
リズ「どうしたのよ?」
アスナ「んー、なんかユーキくんの様子が」
リズ「どうしたのよ?」
アスナ「なんか無茶しているような気がする……」
ストレア(生身でなんでわかるの……?)←AIなのでユーキの状態がわかる
ユイ(怖いですね……)←同じく