ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
べるせるく・おふらいん
茅場優希のヒミツ①
実は、麺を上手く啜れない(うどんは啜れる)
2025年12月13日 BoB予選同時刻
都内 ファミレス
暖房のよく効いた店内。
時刻は夕方近くということもあってか、様々な客層も統一性がない。
仕事帰りのサラリーマンが食事を楽しみ、昼ごろからいる世間話好きの主婦達が家庭内の愚痴に花を咲かせ、部活帰りらしい学生達が疲労感を漂わせながら談笑をする。
その中で、二人の帰還者学校の女子生徒がいた。
一人、栗色の長い髪の毛の女子生徒がこれまた美味しそうにパフェを食べ舌鼓を打つ。
一人、それを桃色のカーディガンを着た女子生徒が頬杖をつきながらジト目で見つめる。
相席しているということは、二人は知り合い以上の関係であることが分かる。
そしてその通り、二人はただの友人以上の関係なのだろう。
それを証拠に、桃色のカーディガンを着た女子生徒はこれまたわざとらしく、深く深くため息を吐いて。
「……それで、何のつもりだったのよ?」
ジト目で見つめるその視線の先。
その先にはこれまた間抜けな顔をしている栗色の長い髪の毛の女子生徒。
心当たりがない、と言わんばかりにスプーンを咥えながら、可愛らしく首をかしげながら。
「何のこと?」
「とぼけるんじゃないの」
手が届く距離ならチョップを食らわせているところだ、と心の中で思いながら呆れ声で桃色のカーディガンの女子生徒――――篠崎里香は続けて言う。
「あの兄妹がアスカ・エンパイアで遊んでるって嘘言ったでしょ」
「うぐっ」
心当たりがあるのか、心が詰まるような苦しい声を上げる。
そのまま明後日の方向へ眼を泳がせて、栗色の長い髪の女子生徒――――結城明日奈は苦し紛れに誤魔化すように。
「な、なんのこと~?」
「バカね。妹の方に聞いて裏は取れてんのよ」
「えー……?」
そういえば、話を合わせるようにと打ち合わせするのを忘れていたことを、ここで明日奈は思い出した。
なんて穴のある嘘だったのだろうか、と明日奈は自分の手際の悪さに失望しながら里香に問う。
「なんて言ってた?」
「にーちゃんと一緒に銃を撃つんだーって嬉しそうに言ってわよ」
「ユウキらしい」
「らしいじゃないわよ。詰めが甘いのよ詰めが」
「……返す言葉もありません」
何せ事実なのだ。明日奈に反論などある筈もない。肩身を狭く、そのまま消え入りそうである。華奢な肩がますます頼りなく見えるのは気のせいではないだろう。
そもそも、明日奈は器用な性格ではないことは里香は良く知っていた。
嘘をついたところで直ぐにバレるし、人の良い性格から嘘をつき続けても、明日奈自身が音を上げて周囲に直ぐにバレる。
誰が評したのか。きっと目つきも性格も口も悪い少年が言ったに違いない言葉。結城明日奈はポンコツであると。
確かに、と里香は思う。
外面は上手く取り繕って優等生然としているものの、いざ気を許した人間にはポンコツな部分を遺憾なく発揮していく。
ポンコツとは的を得た言葉だ、と里香は頷きながら。
「それで? どうしてアスカ・エンパイアで遊んでるって言ったのよ?」
「んー、優希くん的にそっちの方がいいかなって思ったから?」
いまいち、要領の得ない理由に里香は首を傾げてしまった。
どうしてあの捻くれ者のことを考えて、アスカ・エンパイアをプレイしていると言った方がいいとなるのか。
明日奈は困った笑みを浮かべて答えを述べた。
「ほら、GGOに偽者が出たって言ってたでしょ?」
「あぁ、あの物好きね」
「うん。最初は優希くんも本当に興味なかったけど、偽者が強いって聞いて――――」
「どんなものか興味が出てきてしまったと」
明日奈は、うん、と里香の言葉を肯定して。
「でも最初に興味ないって放置してたのに、今更興味が出ちゃって何だかなぁ、って思ってたみたいだったから」
「アンタが気を遣って違うゲームで遊んでいる、って言ったと」
なるほど、確かに優希の性格上そう思っても仕方ない。
最初興味がなかったのに、今になって興味が出てきて、それはそうと負けたような気分になる、とか訳のわからない言い分なのだろうと里香は予測を立てる。
普通に気になったから、偽者の顔を拝みにいく、でいいと思うのは自分だけだろうか、と里香は思いながら。
「相変わらずめんどくさいわね」
「そこが優希くんの良い所なのよ」
「どこがよ」
間髪にツッコミを入れる。
ニッコリと満面の笑みで、楽しそうに語る明日奈を見て、俯瞰的な思考のまま。
しかし明日奈にはどうにも通じてないようだ。
気にすることなく、彼女は笑顔のまま。
「優希くんがGGOに遊びに行ったのは、また違う理由なんだけどね」
「また何かめんどくさい理由なの?」
「ううん。単純に鉄砲の世界ってどんなものなのか興味持ってたみたい」
男の子だよねぇ、と暢気に語る明日奈を見て、里香は拍子抜けに感じてしまう。
銃が気になるから、という子供染みた理由だったとは思いもよらなかった。というよりも、本当に偽者の存在は二の次だったようだ。ここ数ヶ月、アルヴヘイム・オンラインには戻ってこないで、ずっとガンゲイル・オンラインに入り浸っているのが証拠だ。
あの男、思いのほかどハマリしているようだ。
「しっかし、GGOねぇ~」
偶然か必然か、里香の周りにもアルヴヘイム・オンラインにコンバートした男がいた。
彼もそんな理由なのか、とぼんやりと思っていると。
「どうしたの、リズ?」
「キリトのやつもGGOで遊ぶみたいなのよねぇ」
「えっ、いつから?」
「今日から」
数日前にいきなり「GGOにコンバートするから、装備とかアイテム預かってくれ」と頼んできた頼み込んできた男の顔を思い出しながら、何気ない調子で続けて言う。
「ったく、人のこと倉庫か何かだと思ってんのかしらねアイツは……」
「まぁまぁ、頼られてるってことじゃない」
「それは、まぁ、悪い気は、しないけどさ……?」
確かに悪い気はしなかった。
里香の想い人であるキリト改め桐ヶ谷和人という男を気になっている女性は多く存在する。
まず、大人の魅力と包容力のあるサチこと――――近衛幸。
そして、義妹という禁断な属性を有し抜群なプロポーションを備えている――――桐ヶ谷直葉。
最後に、幼い容姿で可憐と評せる可愛らしい性格の直葉とは違う妹系――――綾野珪子。
自分を含めて、四人の女性が和人を好いている状況で、その中で里香に頼ってきたという事実であり、それに対して里香も悪い気はしなかった。
故に、怒るに怒れない。
もしくは、惚れた弱みともいえるのだろうか。
思ったよりも。
いいや、思っている以上に、自分は和人を好いていることに気付かされた里香は、若干頬を紅く染める。
それに対面している明日奈が気付かない筈がない。
彼女はニヤニヤ笑みを浮かべて。
「リズってば可愛いー!」
「う、うるさいわねっ!」
キャー、と興奮するように言う明日奈に対して、里香の顔はますます紅く火照っていく。羞恥に染めながら、里香は明日奈に勢いよく指差して。
「そういうアンタはどうなのよっ」
「ふぇ?」
何のこと、と首をかしげる明日奈に対して、忠告染みた言動で里香は続けて。
「そうやってのんびりしていると盗られるわよ?」
「盗られるって?」
「優希が、誰かに、よっ!」
ぽかん、と眼を丸くする。
しかし直ぐに、明日奈は大丈夫、と力強く自信満々に頷きながら。
「優希くん、モテないから大丈夫よ!」
「………………」
知らない。
明日奈は知らない。
誰よりも危機感を持たないといけないのは明日奈だ。
油断しきっている。このままでは幼馴染は敗北するものというジンクス通りになりかねない。
茅場優希には、誰よりも強力な、形振り構わない後輩がいることを、幼馴染は気付いていない。
これは盲点だった。誰よりも付き合いが長い明日奈だからこその盲点。茅場優希という人間を知り尽くした上での盲点。現に、優希はモテない。腹黒い性格、粗暴な言動、目つきが悪く、他人にモテる要素など一欠片もない。だからこそ、明日奈は油断しきっていた。ライバルがいないと、暢気している。無自覚の後方理解者ヒロインであるが故の慢心であった。
そう。
いつだって例外がいることを、彼女は知らない――――。
今度、優希くんと来ようかな~、と暢気している里香は善意で忠告する。呆れた声のまま――――。
「――――泣いても、知らないからね?」
>>結城明日奈
幼馴染。
アスカ・エンパイアで遊んでいると広めた張本人。良かれと思って。
油断し切っている。恋愛力はクソザコ。
>>篠崎里香
はじまりの英雄のパートナー。
頼られていることに悪い気はしてない。可愛い。
実は、シリカが一番油断できないと思っている。もしくはサチ。直葉も。もうみんな自分よりも可愛いから油断できないと思っている。可愛い。
>>サチ
本名:近衛幸
ベルセルク・オンラインのオリジナル設定。
最近髪の毛伸ばしている。
実はメガネをかけたら、優希の好みに一番近い(裏設定)