ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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幕 間 もう一人の後輩

 2025年10月8日 PM12:19

 都内

 

 金髪碧眼の少年――――茅場優希はぼんやりとした様子で昼の都内を歩いていた。

 いつも剣呑な様子で、注意深く周囲に神経を張り巡らせている彼にとって、現在のような有り様は希少と言えるのかも知れない。

 

 だからだろうか。

 普段から標準装備であった鋭い目つき、凶悪な人相は鳴りを潜め、年相応な少年の顔つきで歩いていた。

 そのためか、やたらと人の目を引く。茅場優希は黙って、なおかつ顔つきを柔和にしていれば、外面は良い方である。恐らく母親に似ているからだろう。美しい長いブロンドの髪、そして透き通る蒼い瞳、凛とした顔つき。瓜二つ、とまではいかないものの優希は彼の母親によく似ている。

 

 ならば声をかける者が必ず現れる――――こともなかった。

 恰好はラフであるものの、背筋を伸ばし胸を張り、堂々と居丈高に歩く彼は凛としている。世間では肉食系女子がいるというのなら、今の優希は恰好な餌食になるに違いない。

 だが生憎、それは世間一般的な常識。物事には必ず例外が存在する。

 

 優希に声を掛ける人間はいない。

 むしろ目を合わせようともしなかった。彼が歩けば人垣が避け、道が出来上がる。

 特に優希は威嚇している訳でもない。殺気を放っている訳でもあ、周りの人間を威圧していることもない。単純な話し、優希が纏う独特の雰囲気が、相対する人間の本能を訴えているのだ。コイツに関わりを持つべきではないと。

 つまりはこういうことだ。誰が好き好んで、少年の姿をした獣に声を掛けるだろうか。

 

 

「……ふん」

 

 

 とはいえ、優希本人もなんとなく察してはいた。

 小さい欠伸をすると、名も知らぬ誰かが一瞬だけ優希を見るも直ぐに目をそらす。

 

 鬱陶しい、と思ったことはない。むしろ心地よくもある。何せ絡まれる必要もない、ただ何もしてこないなら、それはそれで良い。むしろそうあるべきだ。

 何せ最近まで、別の世界では絡まれっぱなしだったのだ。身に覚えのない因縁をつけられて、喧嘩を売られて、それを高値で買い、完膚なきまでに叩き潰す。その繰り返しをなんどもしてきた。

 正直な話し、ここで優希が黙って粛々としていれば、争いになどに発展はしなかった。優希もそれは理解している。だが挑まれたからには、応じて白黒はっきりしないと気がすまない。優希も男の子、強さ比べというのは心が躍る。相手が強ければ尚良い。

 問題はその相手が、徒党を組んだにも関わらず大したことがないということだ。スライムが現れ、何度も倒しても爽快感と高揚感を獲られないのと同じ。むしろストレスばかりが募っていく。

 

 そんな憤りが、無意識に出てしまっているのだろう。

 故に誰もが茅場優希に声を掛ける事もなく、むしろ触らぬように目をそらし避けて通っていく。触れば噛みつかれるかも知れない。

 

 

「先輩ー!」

「……?」

 

 

 ぼんやりとした調子から、意識を前方へと向ける。

 聞き覚えのある声が聞こえた。そしていつの間にか、目的としていた場所へと到着していたことを優希は認識する。

 

 目的地。それは後輩と待ち合わせをしていた場所に他ならない。周りには優希と同じ目的を同じとしているのか、携帯を気にしている男性から、どこに行こうかとその場で打ち合わせを始めるカップルも存在する。

 そしてその中に、優希を「先輩」と称する人間の姿もあった。

 

 優希に向かって、笑顔で、片手を振る。

 対して優希はどこか気恥ずかしげに、「おう」と応じて、軽く片手を上げてその人物の前まで歩を進めて。

 

 

「ハズいからやめれ」

「そうですかね?」

「そうです」

 

 

 気をつけます、と優希を先輩と言った人物は笑顔で応じる。

 その様子はまったく悪びれる様子もない。むしろどこか、優希を困らせて愉しい、と言わんばかりの調子だ。

 

 先輩というからには、その人物は優希の後輩に当たるに違いない。

 優希は後輩を軽く睨めつけて。

 

 

「恭二さ、性格悪くなってねぇか?」

「そうですかね?」

「そうです。まぁ、前までのオマエよりかは何倍もマシだけどな。堂々としてて楽しそうだし」

 

 

 呆れた調子でため息を吐く優希に対して、恭二と呼ばれた少年――――新川恭二は嬉しそうな笑みを浮かべて。

 

 

「僕が変わったのは先輩のせいですし、これは責任とって貰わないと」

「知るかよばか。オマエが勝手に変わっただけだ」

 

 

 ハッ、と薄ら笑いを浮かべて優希が言うと、なんとも言えない表情に一瞬だけ恭二は浮かべた。

 何やら腑に落ちない。その評定は嬉しくもあり、どこか悲しくもあるような。どうした、と優希が尋ねる前に恭二は笑みを浮かべて。

 

 

「それで、今日はどうしたんですか先輩?」

「……オマエさ、今」

「はい?」

 

 

 首をかしげる後輩に、いいや、と優希は首を横に振る。

 恭二がそれを隠し振る舞っているということは、他人には触れてほしくないということなのだろう。確かに自分と彼は先輩と後輩の仲であるし、仲が良い部類であると自覚もしている。だとしても踏み込んでほしくない領域というのは確かに存在する。それが先程の表情であるのだろう。自分のことよりも、優希の用事を優先にしたということは、そういうことだ。誰にも、触れてほしくない、ということに違いない。

 

 故に、優希は敢えて見なかったことにした。

 触れてほしくないと思っているのなら、わざわざ触れに行く愚か者はいない。

 

 

「悪ぃ、何でもない。オマエを呼び出した理由、だったか」

「はい。聞きたい事があるってことでしたけど……?」

「まぁな。恭二って確か、GGOやってたよな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして優希と恭二は腰を落ち着かせるために、大通りを歩き始めた。

 二人がこうして肩を並べて歩くのは初めて――――という訳でもない。むしろその真逆、彼らは良くこうして都内へと足を運んでいた。

 目的も様々。ゲーセンで暇をつぶしたり、新しい靴を見に行ったり、カラオケでストレス発散したり、甘味を求めて食べ歩きしたり、と特にこれといった目的はなかった。その様子は先輩と後輩というより、気の合う友達と遊んでいる、といったニュアンスに近い。

 

 そうして二人が選んだ場所といえば、明らかに適当に選びましたという喫茶店であった。

 此度はコーヒーを飲むためでも、スイーツを味わうためでもない。目的があり、恭二の話を聞きに来たのだ。静かで座れるならどこでも良い、と判断した結果と言えるだろう。

 

 何事も迅速に。

 優希はさっさと喫茶店のドアを開けると、恭二もその後に続く。

 

 客が来たにも関わらず、どこか無愛想な店主は「いらっしゃい」とだけ告げる。

 覇気もなければ、愛想もない。店内は昼時だと言うのに、客の姿は見当たらない。

 なるほど、と。優希は一人納得する。これは客が誰もいないのも納得である。この様子なら料理も期待できないだろう。だが幸運なことに、本日は飲食を目的としたわけではない。

 

 二人はコーヒーを頼むと適当に窓際のテーブル席について。

 

 

「驚いたなー」

「何がだ?」

 

 

 後学のためにと店内を見渡していた優希の耳に、恭二は何気なく呟いていた。

 それを優希は耳聡く拾うと、店内から恭二へと意識と視線を向けて、どういう意味なのか問いを投げた。

 

 

「先輩がGGOに興味あるとは思わなかったので。ALOを拠点にしてたし」

「興味がなかったわけじゃねぇよ。ただキッカケがなかっただけさ」

 

 

 最近忙しかったしな、と言い続けて。

 

 

「噂の“アインクラッドの恐怖”くんの面も拝んでおきてぇし」

「あぁ……」

 

 

 恭二は一度だけ納得したように力強く頷いて。

 

 

「偽物は僕と朝田さんも追ってるんですよ」

「あ? 朝田もか?」

「はい。僕よりも殺る気満々」

 

 

 肩を竦めて言う恭二に、どこかバツの悪そうな表情に変えて優希は問いを投げた。

 

 

「……朝田は元気なのか?」

 

 

 その問いはどこか曖昧なものだ。

 まるで長いこと会ってないようにも聞こえるそれは、文字通りそのままの意味なのだろう。

 

 恭二もある程度は、朝田詩乃から話しは聞いている。

 長いこと先輩と会っていないことを、本人の口から聞いたばかりだ。

 

 隠す必要もない。

 詩乃の今置かれている現状を、恭二は包み隠さずに優希へと説明することにした。

 

 

「元気いっぱいですよ。今の彼女、GGOでも有名プレイヤーの一人ですし」

「マジでか?」

「マジです。“異名持ち”って知ってます?」

「知らん。何じゃそれ?」

「優れたプレイヤーにだけ付けられるあだ名みたいなものですよ。その中で朝田さん、【恐弾の射手】って呼ばれてるんですよ?」

「何だその、物騒極まりないあだ名は?」

 

 

 呆れた反面、感心半面。どちらも半々といった様子で呟いた優希。

 同時に注文しいたコーヒーが運ばれてきて、優希は一口だけ口をつける。

 

 

「苦っ」

 

 

 思わず口に出てしまった。

 飲めたものじゃない、と言うには言い過ぎであるがコーヒーだと考えても苦すぎるし、優希自身が甘党であるということを考えても苦すぎる。

 優希は思う。こんな場所に来てよかった。ダイシーカフェのコーヒーがどれだけ美味いのか再認識することがで出来たのだから。

 

 恭二は苦笑を浮かべながら、口を開いた。

 先輩の反応を見て、どれほどのものか好奇心に勝てず、彼も一口飲んだのだろう。そして彼も思う。先輩は間違っていなかった、と。

 

 

「先輩は朝田さんとは会ってないんですか?」

「……まぁ、最近遊んでねぇな」

「どうしたんですかね?」

「さてな。連絡は頻繁に来るから、オレに愛想が尽きたって訳でもねぇらしい」

「……朝田さんが先輩を嫌うってありえないと思いますよ?」

 

 

 普段の彼女を知っているからこそ、恭二は断言することが出来る。

 朝田詩乃という彼女が、どれほど茅場優希という先輩を想っているのか。それが理解できるからこそ、恭二は断言する。ありえない、と。詩乃が優希を嫌うなんて、天地がひっくり返ってもありえないことであると。

 

 だがしかし、当の本人である優希は気付いていない。

 自分がどれほど彼女に想われているのか、これっぽちも気付いている様子もない。

 現に優希は、不思議そうに首を傾げて。

 

 

「ンなもん、わかんねぇだろ。そもそも好かれているって保証もねぇしな」

「先輩、そう言うとこですよ」

「あ?」

 

 

 全く要領を得なかったのかいまいち納得しきれていない様子で、まぁいい、と口にして優希は続ける。

 

 

「アイツも何か考えてんだろ。それこそ、オレなんぞと会ってる暇もないくらいにな」

「気になります?」

「気にならない、といったら嘘になる。けど邪魔する気はねぇぞ。アイツの人生だ、オレが口を挟むのは筋が通らねぇ。余程のことがない限り、アイツの好きにさせてやれ」

「余程のことって?」

「そりゃもちろん……命に関わる状況だろ」

「命、ですか……」

 

 

 邪魔をする気はない。

 優希は詩乃の過去をある程度は把握している。だからこそ、今回の彼女の行動には最初戸惑ったものだ。VRMMOをやるのはいいとしても、よりにもよって銃の世界であるGGO。普通に考えればありえない選択である。

 しかしストレアは言った。自分たちがありえないことでも、本人からしてみたら違うのかも知れない、と。朝田詩乃もバカじゃない。むしろ聡明であると優希は認識している。自分が銃を主体としている世界に言ってどうなるのか、詩乃がわからない筈もない。だが彼女は敢えて、過酷とも呼べる世界へ、彼女からしてみたら戦場と称してもおかしくもない世界へと飛び込んだ。

 何かがあったのだろう。彼女の中で、何かがあったのだろう。優希にはそれがわからないものの、邪魔する気はなかった。彼女が選んだ彼女の道だ。それを邪魔するのは、筋が通らない。

 

 そこまで考えて、優希は苦い、正直に言うと不味いコーヒーを一口飲んでいると。

 

 

「先輩」

「ん?」

 

 

 視線の先には神妙そうな顔つきで、恭二が口を開いていた。

 いつもの柔和な笑みとは程遠い。鬼気迫るように、真剣な表情で。

 

 

死銃(デス・ガン)には気をつけてください」

「デス、ガン……?」

 

 

 訝しみながら優希は続ける。

 

 

「何者だ? ソイツも異名持ちって奴か?」

「ううん。勝手に自称しているだけです。死の銃って書いて、デスガンって」

「ンだソレ。随分と寒い野郎だなオイ」

 

 

 小馬鹿にする態度であるものの、口調はその真逆。至って優希は真剣な調子で感想を漏らした。

 いつもの彼ならば、人を喰ったような態度で嘲笑っていたことだろう。だがそれを、恭二の反応が許さない。そうですね、と同意はするものの、恭二は笑み一つすら零すことなく、変わらぬ真剣な表情で優希を見つめていた。

 

 

「ンで、そいつがどうした? やばいくらい強いのか?」

「強い弱いの話しじゃないんです」

「……何が言いてぇんだ、恭二。ハッキリ言えよ」

「それは……」

 

 

 鋭い目つきとなり、警戒心を顕にする優希を前にして。

 恭二は意を決して結論だけを言った。

 

 

「そいつに撃たれたら――――死ぬんです」

「は?」

 

 

 想像していなかった言葉に目を丸くする。

 死ぬ。それはつまり文字通りのことなのか、それともゲーム内での話しなのか。

 

 

「死ぬってつまり……」

「現実世界で、死ぬんです」

「――――」

 

 

 言葉を失った。

 ポカンと口を開けて恭二を見る。

 

 冗談、と。バカバカしい、と。否定することは優希には出来なかった。

 何故なら、数年間そんな世界に囚われていたばかりだ。仮想世界での死は、現実世界にいおいても死に繋がる世界――――ソードアート・オンライン。

 亡き叔父が残した負の遺産。自身がこの手で殺めた者の消えぬ罪。そして――――茅場優希が関わりぬかねばならない事象の一つ。

 

 それがGGOで起きている。

 しかし同時に、それはありえない、と否定する声も優希の中にはあった。

 アレはナーヴギアを装着していたからこそ起きた。現在の次世代機であるアミュスフィアに、脳を焼き切るなんて機能は存在しない。

 

 ならば恭二の言うのは嘘なのか、と結論付けられるが。

 

 

 ――いいや、それもありえねぇ。

 ――そもそも恭二がそんなことする意味がない。

 ――オレに嘘をついて、何のメリットがある?

 ――つーか、コイツはンな質の悪い冗談を言うやつじゃない。

 ――ってことは……。

 

 すべて本当ということになってしまう。

 それを踏まえて優希は口を開いた。

 

 

「オマエは死銃(デス・ガン)ってクソが人を殺ってる現場を見たのか?」

「……見てないです」

死銃(デス・ガン)ってのはどんだけ有名なんだ?」

「……まだ有名じゃないです。これから行動する、と思います」

「あ? どういう――――」

 

 

 そこまで言って、優希からこれ以上続くことはなかった。

 恭二の眼、どこかで見たことがある。何かを隠しているようで、それで何かを決意するような眼。それは何度も見てきたもの。仮想世界で虜囚となっていた、身内を斬るために行動していた――――自分の眼とそっくりだった。

 

 

「わかった」

「え?」

 

 

 ポツリと呟いて優希は続ける。

 

 

死銃(デス・ガン)ってクソ野郎に気を付ければ良いんだろ?」

「そう、ですけど……」

「何だよ、まだ何かあんのか?」

「先輩は、聞かないんですか?」

「何を?」

「どうして死銃(デス・ガン)のことに詳しんだ、とか……」

「聞かねぇよ」

 

 

 曖昧な問いに、間髪入れずに優希は断言する。

 

 

「アドバイスが一つだ。――――やるからには死ぬ気でやれ」

 

 

 

 




 べるせるく・おふらいん
 ~怪獣トーク~

クライン「ばっかお前ぇ! キングギドラ最高だろ」
エギル「バカはお前だ! アンギラスの渋さわかってないとかにわかだろ!」
キリト「やっぱり王道を往くゴジラだろ」

リズベット「何語ってんの男共は?」
アスナ「さぁ?」

ユウキ「にーちゃんはどんな怪獣が好きなの?」
ユーキ「大コンドル」←そもそもゴジラよりもガメラの方が好き

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