ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 yuki3さん、ムーパパさん、黒祇式夜さん、誤字報告ありがとうございました!


幕 間 銃はロマン(男の子的な意味で)

 ――――彼にとって、その異名は、枷そのものだった。

 

 自称したつもりもない、自身の口から零したわけでもない。正しいと行動し、その結果として彼がそう呼ばれるようになっただけに過ぎない。

 無謀にも挑み、諦めを踏破し尽くし、倒れることすらも拒否し、彼は前に進み続けた。それが間違った道だとしても、彼自身信じて疑わない。自分の歩んでいる道は正しいものであると、誰よりも向いているからこそ進み続けていけるのだと。

 

 十数人で挑むべき敵を、単騎で叩き潰し。

 何十人で群がる殺人集団を、独りで蹴散らす。

 そうしていつの間にか、彼はそう呼ばれるようになった。

 

 とはいえ、彼にとってやはりその名は恥ずべき過ちでもある。

 誤った選択をし続けて、誤った道を進み続けて、誤った自分を周囲に晒す。それは彼にとって、恥ずべき行為であった。死んでも死にきれず、殺しても殺しきれない。生き恥、と彼は自分自身を嘲る。

 もう二度と、誤ちを起こさないように。もう二度と、選択を誤らないように。

 

 故に、その名は誇るべきものではない。

 故に、その名は彼にとって刻むべき忌み名。

 故に、その名は過去の行いを忘れない為の枷。

 

 何者かが言った――――はじまりの英雄。

 何者かが讃えた――――紅閃。

 何者かが称した――――クリエイター。

 何者かが告げた――――絶剣。

 なるほど、確かに。彼にとって彼らは讃えられるべき存在であり、一目置かれるべくして置かれた存在達だ。

 しかし、自分は違う。間違い続けた結果の末路。独りよがりに進んだ者の成れの果て。称賛されるべき存在でも、ましてや畏怖など論外にも程がある。

 

 どういうわけか、好き好んで“その名”を名乗る輩が現れている。

 彼にとってそれは不可解なことだ。【はじまりの英雄】、【紅閃】、【クリエイター】、【絶剣】の名を偽るのならわかる。しかし何故、よりにもよって“その名”なのか。百害あって一利なし。偽ったところで、名声も地位も得られるわけがない。

 彼は少なくともそう考えていた。だが現実に――――。

 

 

「アインクラッドの恐怖ぅ……!」

 

 

 その名を呼ばれた。

 三人倒れているうちの一人が倒れながら睨み怨嗟の声を上げる。敵意というには幼く、悪意というには浅い。彼に刃を向けたところで自体が好転しないことは百も承知。それでも彼に挑んだのは、きっと八つ当たりなのだろう。

 どうしようもない怒りをぶつけるために、彼に刃を向けたのだろう。

 

 彼も理解している。

 理解しているが、ここで「そうか」と刃を甘んじて受けるほど聖人君子として完成された存在でもない。

 彼にとって憤りはある。自分が知らない場所で、枷として甘んじて受けていた忌み名を、勝手に名乗られているのだ。それが原因でこうして逆恨みされているなどと笑えない冗談だ。

 

 何回、因縁をつけられたのか。

 数回か、十数回か。数えるのもバカらしくなったところで、彼は数えることをやめていた。

 それこそ、うんざりするほど。身に覚えのない因縁をつけられて、喧嘩を売られてそれを買う。自身の肩で担いでいる画桿の方天戟を何度振るったか。それはいつ頃から始まったのか。全ては忘却の彼方へと消え去っていった。

 

 

「何だよ、弱くなったんじゃないのかよ、アインクラッドの恐怖……」

 

 

 震える声。

 そんな声も何度聞いたか。

 

 深く、深く、深く。

 彼は顔と頭部を覆う兜の奥で、それは深くため息を吐いた。

 何度も聞いた言葉、何度も漏らされた感想、事実偽りのない真実。何度も聞いた。ならば彼が返すのもいつも通りの言葉。

 

 

「確かにオレは弱くなったがよ――――」

            「――――それでオマエが強くなったわけじゃねぇだろ……」

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 数ヶ月前 PM20:20

 ALO 央都『アルン』 近隣草原地区

 

 

「いい加減、鬱陶しくもある」

 

 

 億劫そうに、それはもう気怠げに、不機嫌極まりなく、鋼の塊のような重厚な全身鎧に身を包んだ白銀の戦士――――ユーキは呟いた。

 顔を覆う兜は外されており、現在彼がどのような表情を浮かべているか一目瞭然。それはもう不愉快極まりないと言わんばかりな顰めっ面。第三者から見たら、近寄りがたい雰囲気をユーキはこれでもか、というくらい放っていた。

 

 誰が見ても笑えない現状。

 それでも笑えるのは長年の付き合いが物を言うのだろう。

 ユーキが本気でキレていないことを把握している水妖精族(ウンディーネ)の彼女――――アスナは隣で座って笑みを浮かべて。

 

 

「放置していた癖に、今更それ言うの?」

「……うるせぇな」

 

 

 正論だ。

 アインクラッドの恐怖を名乗る偽物の存在はユーキの耳にも入っていた。

 GGO、ガンゲイル・オンラインにて、何者かがアインクラッドの恐怖を名乗り好き勝手暴れている。しかしユーキは放置していた。別に名乗られたところで気にする必要もなし、むしろその名を誇りとも思っていない彼にとって恥ずべきものであった。だからこその放置。触れたくもないモノを好き好んで触りに行くなど、物好きにも程があるが故に。

 

 その結果がこのザマだ。

 アインクラッドの恐怖を偽る何者かは、思いの外腕が立つようで、幾多のプレイヤーを撃ち負かし、そのしわ寄せが八つ当たりとなってユーキへと押し寄せる。“本物”は弱くなった、という噂も相俟ってその数は尋常ではなかった。

 

 

「弱くなったのは事実だけどよ、ここまで喧嘩売られるかね普通? どんだけ恨みつらみ買ってんだよオレは」

「ユーキくんって言うよりも、その偽物が悪質なんじゃないの?」

「さてな。正直、身に覚えがありすぎる。これが偽物のせいなのか、はたまたオレの身から出た錆なのか」

 

 

 うんぜりした口調で言うと肩を竦めて。

 

 

「だいたい、連中の強襲がお粗末すぎんだよ」

「連中って、ユーキくんを襲った人達のこと?」

 

 

 あぁ、とユーキは頷くと。

 

 

「連携のれの字もない。絶対ソロでかかってきた方が強かったぜアイツら」

「元々パーティー組んでた人達じゃないのかな?」

「大方、GGOってゲーム内で知り合って偽物に返り討ちにあい、勝てないからオレをヤろうぜって一時的に手を組んだんだろ」

 

 

 数の有利なんてどうとでもなる、とはユーキの持論であった。

 連中は数が多いほど驕る。数が多ければ多いほど、有利に事を運べると考えている。確かにその通りなのだろう。実際問題、突出した一騎の武よりも、一糸乱れぬ連携を持った数多の軍の方が脅威である。

 しかしそれは、戦争での話しだ。素人の喧嘩はそこまで洗練されたモノではない。数が多いからこそあぐらをかき、それが少しでも乱れるとたちまち脆くなる。烏合の衆とは良く言ったものだ。素人の喧嘩での数の有利など、何度でも覆せられる。

 

 ときに挑発し、ときに煽り、ときに分断する。同士討ちを誘うのも一つの手だ。

 頭に血が登れば登るだけ、冷静な判断ができなくなる。そうすれば、その喧嘩は詰みだ。あとは叩き潰せば済む。

 

 しかし慣れもある。

 ユーキは今まで、小学校から数えて幾多もの喧嘩をしてきた。SAOでも変わらない。ときには数多ものモンスターの大軍を相手取ることもあったし、殺人集団と相対することもあった。

 一対一、という状況は以外にも少ない。むしろ一対多という状況のほうが多いといえる。故に、ユーキは本能的に理解している。複数を敵に回した際、どうやって立ち回れば良いのか。彼は本能的に理解していた。

 

 

「ったく、喧嘩売ってくるのは自由だけどよ。もうちょっとは、気合い入れてほしいもんだ」

「そういう問題かなー?」

 

 

 困ったように笑みを浮かべるアスナに対して、ユーキは訝しむように問う。

 

 

「そういう問題じゃねぇの?」

「そもそも、ユーキくんを襲うのがおかしいと思うんだけど」

「それは、まぁ別に。よっぽど偽物が強いんだろ?」

「だとしてもユーキくんを襲うのはおかしいと思う……」

 

 

 アスナは面白くなさそうに呟く。

 無理もない。想い人が何の謂れもない因縁をつけられて、何度も襲われているのだ。憤りはあるし、一言文句を言わないと気が済まないというもの。

 だが何も言えない。何せユーキ本人が、偽物に対して穏やかそのものなのだ。第三者の自分が、とやかく言うのは違う、とアスナは考える。ユーキ風に言うと、筋が通らない、といういやつだろう。

 

 

「……ユーキくんはどうするの? 偽物、放って置くの?」

「まぁ、迷惑ではあるが……」

「あるが?」

「……今更、文句言うのもなぁ?」

 

 

 好きにさせておけ。

 それが当初のユーキのスタンスであった。自慢にもならないアインクラッドの恐怖を名乗りたいのなら、勝手にやらせておけばいい。そもそも、その名を誇りに思ったことなどユーキは一度たりともないのだ。勝手に名乗らてて、文句を言うほど【アインクラッドの恐怖】という名に思いれなどない。

 

 しかし状況が変わった。

 偽物に勝てないからと、今度は本物に因縁を付けてくる、という奇妙な状況になっている。それも相手が強ければ良かった。ギリギリの勝負ができる程度であれば、ユーキも文句はない。むしろ臨む所といった展開だ。だが蓋を開けてみれば、二流や三流のプレイヤー達ばかり。一人ではどうしようもないのなら、連携し挑んでくる、というわけでもなく。何かが劣るのであれば何かで補う、といった最低限の努力すら放棄した連中ばかり。

 そんなどうしようもない連中ばかりを相手にしているのだ、それはもう嫌気が差すというもの。

 

 腕を組み、青空を見上げて、ユーキは呟いた。

 

 

「GGOか……」

「いつコンバートするの?」

「……まだ何も言ってねぇんだけど?」

「わかるわよ、ユーキくんの考えることくらい」

 

 

 クスクス、と笑みを零し。

 

 

「それに何だかんだ言って、気になるんでしょ? 偽物のこと」

「まぁ、な。強いってハナシだし? 気にならないと言えば嘘になる」

「男の子って好きだよね、そういうの。強さ比べって奴でしょ?」

「意地があるからな、男の子には」

 

 

 拗ねた調子で言う幼馴染に、アスナは微笑ましく見つめた。

 

 

「それにほら、GGOって銃使うだろ?」

「うん、そうみたいだね」

「銃ってだけで放っておけねぇだろ。男の子的な意味でも」

「……偽物とか建前で、本当は結構気になってたでしょGGO」

 

 

 




>>茅場優希
 ユーキ。
 何度も襲撃されて辟易。例を挙げるなら、スライムが徒党を組んでやってくるみたいな感じ。
 偽物への興味、というよりもGGO自体に実は興味があった。銃ってロマンじゃん?男の的な意味で放っておけないじゃん?


>>結城明日奈
 アスナ。
 偽物に良い思いはしていない。
 GGOには興味がない。
 嘘である。この女、行きたくて仕方ないのである。
 銃なんて興味がない。ユーキくんが行くのなら、わたしも行きたいと思っている。でも束縛しているようで、態度には出せない。オマエも行くか? と聞かれたら全力で頷いてた。
 ユーキがアスカ・エンパイヤで遊んでいると広めた張本人。良かれと思って。


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