ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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 ~前回のあらすじ~
 ユーキ「オレ弱くなりすぎ。ヤバ谷園ムリ茶漬け」

アインクラッドの恐怖時代>>人間の壁>>ユーキ(ALO囚えられ時代)>>ユーキ(SAO最終攻略時代)>>>ユーキ(現在)


第6話 罪悪感

 

  

 2025年5月31日 AM9:00

 学生寮 茅場兄妹の部屋

 

 

 木綿季が起きたのは午前中のことだった。

 昨日は統一デュエルトーナメントのために、夜遅くまでアルヴヘイムへログインしていた彼女。

 

 本来であればこのような時間帯に起きては遅刻である。

 だが生憎、今日は土曜日である。つまるところの休みの日。そのためもあってか、部屋の外は多少であるものの騒がしい。とはいえ、学生寮の部屋はすべて完全防音となっており、そんな騒がしさすらも聞こえないのだが。

 

 ベットから状態を起こすこと数分。

 次第に意識を覚醒させること数分後。

 今日もログインしようとアミュスフィアに手を伸ばそうと躊躇ったこと一瞬。

 

 顔も飯も食わないで、ゲームとはいい身分だな? と、以前兄に叱られたことを木綿季は思い出す。

 ニッコリと満面の笑みで、されど背後には暗黒のオーラ。叱れるなんて経験をあまりしてこなかった木綿季にとってそれは、もう二度と味わいたくないものだった。

 

 故に、彼女は起きる。

 もう叱られたくないから、怒られたくないから、そんな子供のような感情で寝衣から簡素な部屋着に着替え、部屋から出た。

 

 

「おはよー」

 

 

 部屋を出ると直ぐにリビングに繋がる。

 きっと兄はとうの昔に起きていて、コーヒーを飲みながらテレビでも見ているのだと想像していたが。

 

 

「……あれ?」

 

 

 返事はない。

 この部屋の主である金髪碧眼の兄はどこにもいなかった。

 

 ならばどこだろうか、と。

 キッチンにもいなければ、部屋の外にもおらず、風呂場にもいなかった。

 となると最後は――――。

 

 

「にーちゃん?」

 

 

 兄の部屋しかない。

 そう確信した木綿季は、リビングから繋がっている兄の部屋の引き戸を開ける。

 だがそこにも兄はいなかった。

 

 思わず、んー、と木綿季は首を捻りながら兄の部屋をウロウロと歩き回った。

 自分を置いて、何処に行ったのか。買い物、というわけではないだろう。時間にしてそれは早すぎる。ならば何処へ行ったというのだろうか。

 そこまで考えて――――。

 

 

「……あ」

 

 

 思い出した。

 曇っていた表情はたちまち晴れたモノに。

 謎が解けたと言わんばかりに、木綿季は首を縦に振るい。

 

 

「そうだ、そうだったよ。昨日言ってた……!」

 

 

 探すこともなかった。

 そう言わんばかりな足取りで、木綿季は軽やかにリビングに戻る。

 

 昨日の夜。

 夕食のときに兄は言っていた。朝から出掛けることを、自分に告げていたのだ。

 兄は今――――。

 

 

「――――詩乃とお出かけしてるんだったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 2025年5月31日 AM10:20

 都内 中央公園通り前

 

 

 そのメールを貰ったのは26日だった。

 彼から言わせてみれば、“不本意”ながら桐ヶ谷和人と一緒に食事をし、そして中庭に向かっている最中のこと。

 携帯から通知音が鳴る。その発信源は自分のポケット中から。ということは、自分の携帯が鳴っていることに他ならず、それを確認するのは当たり前の行為と言える。

 

 発信源は彼の後輩から。

 内容は至ってシンプルなもの。

 『土曜日遊びに行くわよ』これだけだった。

 まるで決定事項であるかのように告げる後輩に、特に不満もなく彼は了承し、現在に至る。

 

 時は土曜日。

 学生の中では休日。そういう事もあってか、すれ違う者達は比較的若い年齢層であった。

 これから遊びに向かう友達同士、無数に存在するどこかのデートスポットに向かうであろうカップル達。新しい服を買いに出掛ける女性から、小腹が空いたのかだらしない格好でコンビニに入る男性。

 様々な目的を持った者達が行き交い、足を止めることもなくすれ違って行く。

 

 そんな人物から見て、自分はどう映っているのか。

 下らない事を考える。と金髪碧眼の彼――――茅場優希はクツクツと自身を嘲笑う笑みを浮かべた。

 

 このありふれたモノに満ちた光景も、下らない戯言を考えている自分も、こうして存在するということはそれだけ平和である言うことなのだろう。

 一年前まで、死と隣り合わせであったとは思えない。道を歩いたところでモンスターと出くわすこともなければ、危険なオレンジプレイヤーがいるわけでもない。

 誰もが装備を整えてから外に出ることもない、ありふれた日常が目の前に広がっていた。

 

 

「それが良いことなのか、悪いことなのか」

 

 

 考えるまでもない。

 のんびりと過ごす日常、デスゲームを強いられてしまった非日常。どちらが良いかなんて明白である。

 

 だが違和感なく溶け込んでいる、といえば嘘になる。

 今まで、それこそ、文字通り、優希は身を削りながら我武者羅に前進してきた。ソードアート・オンラインでは常に最前線で剣を振るい、アルヴヘイム・オンラインでは身代わりとなって囚われていた。

 別に感謝など望んでないし、誰にも認知されなくても構わなかった。それもこれも自分が望んでやったことだ。他の誰かが傷つくのが我慢出来なかった程度の、自分勝手な理由で彼は戦ってきた。そうすることしか思いつかず、そうすることでしか両親に報いれないと思っていたから。

 

 今となってはそんな無茶をしなくても良い。

 それは良いことだ。良いことの筈だ。自分を許す努力をしよう、と答えも得た。両親からの後押しももらった。

 

 だとしても、どうしても、違和感を覚え――――心には良くないモノが炙り出されて行く。

 自分などがこんなありふれた日常を送っても良いのだろうか―――――良い筈だ。

 自分が死に、両親が生き残れば救える命があったのに?――――憶測でしかない。

 アインクラッドで救えなかった命があるのに?――――自分にはどうしようも出来なかった。

 あの糞虫も言っていただろう。憎悪こそオマエの本質であると。それすらもなくなったオマエは何者だ? だから弱くなった。焔すらも操れなくなるほどに、オマエは弱くなった。

 ――――オマエが、許されると、本気で思っているのか――――?

 

 

「――――ッ」

 

 

 途端、世界が揺れた。

 クラッ、と視界が暗くなっていくのを感じて、目頭を片手で抑える。身体は芯から冷えて、しかし頬からは冷や汗が伝う。

 

 

「ったく、ポンコツにも程がある……」

 

 

 乱れた呼吸を整える。

 高鳴った鼓動を押さえつけるように胸を抑えて、弱々しくなってしまった自分に苛立ちながら辺りを見渡すと、いつの間にか目的地に付いていたようだ。

 

 そこは大きな公園。

 噴水があり、花壇があり色鮮やかにハイビスカスやカーネーションやキキョウといった夏に咲く花が植えられている。

 ただ公園と言う割に遊具がほとんどない。子供のための安全な公園作り、とかいう一環で遊具は全て撤去されているようだ。そのせいもあってか、ほとんどが家族連れ。子供単体で遊んでいる様子はなかった。

 

 そんな中に、彼女はいた。

 ソワソワと、落ち着くがなく、手首に巻いている腕時計を何度も確認する。

 いつもどおりメガネを掛けて、その肩には流行していたバッグが。黒ニットセーターを着て、グレンチェックショートパンツを穿き、グレーのロングブーツを履いている。

 

 ――マジか。

 ――待ち合わせよりも30分も早いんだぞ。

 ――もう待ってんのかアイツ。

 

 

 休んでいる暇はない、と優希は判断したようだ。

 彼は足早に軽く走り、後輩の元へとたどり着いて。

 

 

「悪い。待ったか?」

 

 

 彼女――――朝田詩乃は優希の顔を見た瞬間パーッと明るい表情になるものの、どこか観察するような眼で優希を見ながら。

 

 

「いま来たところ、なんだけど……」

「それじゃ行くか」

「ちょっと待って。待ちなさいよ先輩」

 

 

 若干、慌てた様子で詩乃は制止させて。

 

 

「大丈夫なの?」

「何がだよ?」

「だって顔色が真っ青と言うか……」

「別に気にすんなよ。それよりもアレだな」

    

 

       「メガネ、滅茶苦茶似合ってるじゃん。ナイスメガネ」

 

 

 

 

 

 




 次は後輩とのデートです。

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