ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

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第3話 住めば都(ガチ)

 2025年5月26日 AM6:10

 

 

 カーテンの隙間から漏れる日差しを顔に受けて、金髪の少年が目を覚ました。

 不快であるように顔を顰めて、目を細めて憎らしげに光の先にある太陽を睨みつける。同時に疑問に思うことが一つ。何故、自分は陽の光で目覚めなければならなかったのかということ。だがその疑問はすぐに解消されることになる。

 

 よく見れば、微妙にカーテンは開いていた。

 どうやらそこから光が漏れているようでもある。そこを踏まえて、なるほど、と少年は納得した。

 

 ならば自分が悪い。カーテンを閉めたのは自分なのだから。

 言ってしまえば己の不注意。完全にカーテンを閉じていれば、中途半端に起床することもなく目覚ましが鳴るまで眠っていた筈なのだ。

 そう、それもこれも全て自分の落ち度である。

 

 

「……って考えることが出来りゃ、オレはもうちょっとマシな人間だったんだろうけどな」

 

 

 生憎、そこまで人間は出来てねぇ、と欠伸を噛み殺しながら少年――――茅場優希はぶつくさボヤき始めた。

 

 そして布団から上半身だけを起こし、両手を上げ、身体をこれでもかと言うくらい伸ばす。

 更に前をボーッと見て数分、漸く彼の意識が覚醒を始めた。壁にかけてある時計を見ると、針は6時10分を指している。目覚ましをかけたのは6時30分。何だかんだで良い時間なのが更に腹が立ったようで、誰に向けるでもなく理不尽に舌打ちを一つ。

 

 今日も学生らしく勉学に勤しまないとならねぇのか、とため息を吐いてダラダラと布団から出て畳み、そして辺りを見渡して――――。

 

 

「いつまで経っても、馴れたもんじゃねぇな」

 

 

 以前まで住んでいたオンボロアパート――――ではない。

 彼から見える景色は白を強調とした壁紙、磨き上げられたフローリング、そして机と椅子と最低限の家具が設置された部屋。

 伽藍堂のように何もなく、歳相応という割には質素すぎる部屋。まるでそう――――新築のとある一室のような光景である。

 

 

 優希がここへ住居を変更してから、一ヶ月と少しが経過しようとしていた。

 現在、優希と彼の義妹である木綿季が住んでいるのは帰還者学校の学生寮だ。外観はシンプルな純白で綺麗そのもので、同じ外観のマンションが数棟に別れている。何でも地方の帰還者を受け入れるために建てたらしい。

 綺麗である、といっても都内にある高級タワーマンションと比べると数段劣るものの、そこらにあるマンションよりかは何倍も綺麗なものであった。

 

 部屋の内装もシンプルなもの。

 2LDKで一通り家電が揃っている。何よりも優希が移住を決めたのが家賃の安さにある。

 都内にありながら家賃が安く、水道光熱費も学校側が負担してくれるというありえないくらいの待遇の良さ。

 

 元々、木綿季と暮らすと考えていた彼にとって、帰還者学校の学生寮はうってつけの物件でもあった。何よりも安く、それでいて安く、更に付け加えれば安い。現在バイトをしていない彼にとっては楽園のような寮でもある。

 

 

「二つ返事で住んじまったが……」

 

 

 んー、と腕を組み彼は考え始めてしまう。

 あまりにも出来すぎているのではないか、と冷静に自分の現在の状況を踏まえて懸念が生まれ始めた。

 

 確かに助かっている。

 掛け持ちしていたバイトを全てクビになってしまった彼にとっては願ったり叶ったりでもある条件だ。だとしても上手すぎる話でもあった。

 学生寮に住んでいるのは、もちろんだが茅場兄妹だけではない。それこそ何百人、何千人といった学生が住んでいる。マンションが何棟あるのか正確に数えたこともないが、かなりの数であると優希は認識していた。

 だというのに、例外がなく。全員が全員とも安値で学生寮で生活している。この行為が経営観念から分析するに黒字か赤字かなど考えるまでもないだろう。赤も赤、大赤字なのは間違いない。むしろどうやって成り立っているのか考えつけないほどだ。

 

 

「……負債を覆すほどの“利益”があるのか、それともそれをこれから生み出すのか」

 

 

 そこまで考えて。

 

 

「オレには関係ねぇか」

 

 

 と、いとも簡単に優希は己の思考を放棄した。

 そんなことよりも目先のことだ。義妹が起きてくる前に、朝食の準備をしなければならない。

 

 

「アイツは……、まだ寝てるか。昨日遅くまでアルヴヘイムやってたからな」

 

 

 勉強は大丈夫なのかねぇ、と母親のようなことを愚痴りながら優希は寝間着の姿で部屋を出る。

 下は赤のスウェット、そして上は青色のTシャツととても締まりがない格好。所謂――――現実世界で良く見かけるラフな姿であった――――。

 

 

 

 

 

 

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 2025年5月26日 AM7:50

 学生寮 玄関ロビー

 

 

「ねみっ……」

 

 

 あれからいつまで経っても起きてこない木綿季を叩き起こして、慌てて朝食をとる彼女を尻目に優希は部屋を出た。

 いつもなら木綿季の準備が終わるまで待っているものの、今日の彼女は先約があるとのことで、今日は兄とは登校しないようであった。

 

 このまま兄離れしてくれりゃ助かるんだが、とぼんやりと思いながら気怠気に猫背でだらしなく歩いていた。

 ここは学生寮。歩いているのは彼だけではない。小走りで歩くもの、彼のようにのんびりとした歩幅で歩く者、立ち止まってスマートフォンを弄る者も存在する。

 十人十色。全員が全員とも行動に一貫性がないが、とあるモノが共通していた。それは全て、男性であるということ。

 

 それも当たり前と言えよう。

 先程言ったが、ここは学生寮である。その名の通り、学生が住まう寮。帰還者学校に通う者であれば、ここに住まうのは当然と言えよう。

 しかし、男女一緒とまではいかない。勿論だが、女子寮はあるし、優希が住んでいるのは男子寮である。本来であれば、男しか住めないのだが例外が一つ。それこそが木綿季という存在である。彼女のみが男子寮、加えて優希と同じ部屋に住んでいる。

 簡単にはいかなかった。兄妹とはいえ、血の繋がっていない男女が一つ屋根の下。常識的に考えられない現状、一筋縄ではいかない例外。何をどうして許可が降りたのか、何があったかを語るのは濃厚すぎる。強いて言えば、何もかもがあった。それこそ茅場優希が持ち得るありえないくらいの猫かぶり、狡猾とも言える根回し、そして卓越した煽動スキル使い勝ち取ったれ以外である。

 

 何があったのかは割愛する。

 兎にも角にも、茅場兄妹だけは例外を認められたということだ。

 

 とは言っても、周囲は思春期真っ只中の学生達。

 木綿季に何が起きるかわからない――――というわけでもなかった。周囲の男子学生は驚くほど紳士的に木綿季に接しており、とても手を出そうとする気配すらない。

 なにせ彼女の兄があの茅場優希。ソードアート・オンラインで【アインクラッドの恐怖】として名を轟かせていた男だ。今でこそ若干角が取れ、幾分か親しみやすくなったというものの、周りの評価は変わらず。簡単に言うと――――放っておけばなんの危険もない危険物、という扱いに落ち着いている。つまるところ、こちらから手を出さない限り噛みつかれることはないし、いきなり斬られることもないということだ。

 そういう認識であるからか、誰もが木綿季に手を出そうと考える輩はいない。手を出したあと、何をされるかわかったものではない。それこそが周りの男子学生の共通認識でもある。

 

 そんないつの間にか、再び恐怖の対象として君臨してしまっている男は、自分の立場も理解しないままマイペースに玄関ロビーへと向かっていた。

 

 

 のらりくらいと歩いていると。

 

 

「あ?」

 

 

 見覚えがある二人の姿。

 一人はここの寮母を務めている女性だ。年齢は二十代後半。黒真珠を思わせる、艶やかな黒髪の長髪。首にはチョーカーが巻かれている。第一印象は大和撫子然としている。しかし服装はTシャツにダメージジーンズととてもラフな格好であり、彼女の容姿では似合わないと考えられる。だがどういうわけか、妙にそのラフな格好が“キマって”いた。

 

 もう一人はそれこそ馴染み深い人物であった。

 優希と同じ深緑色のブレザータイプの制服を着ており、帰還者学校の生徒であることがわかる。栗色の綺麗な長い髪。白いストッキングを履いて上品に笑みを零す女子生徒の姿。

 

 方や口元を片手で隠しながら笑みを零す大和撫子。

 方や満面の笑みで応じていている育ちの良い雰囲気。

 むさ苦しい男子寮には似つかない光景が広がっていた。そして遠巻きに二人の女声を観察している男達。枯れ果てた砂漠の中に存在するオアシスのように、枯れ果てた大地に咲き誇る花畑を幻視するかのように、男達の目にはありえない光景が広がっている。まるで忘れないように、刻みつけるように、じっくりと男達は観察をする。彼女達の輪に入れなくてもいい、その変わり今の光景を忘却の彼方へ追いやることのないように、脳内にしっかりと刻み込んでいた。

 

 

 しかしここに、例外は存在する。

 

 

 男達の理想郷はいとも簡単に崩れ去ることになった。

 一人の空気の読めない男のてによって、脆くも儚くも朽ちていく。

 

 

「なにしてんのオマエ?」

 

 

 異物が一人――――優希は周囲の男達の感情など蹴り飛ばすかの如く。気軽になおかつ億劫であると言いたげに女子生徒に話しかけた。

 

 笑みを絶やさなかった女子生徒の彼女。

 それがますます笑みを深めて、パーッと輝かんばかりの笑みを優希に向けて嬉しそうに――――結城明日奈は口を開く。

 

 

「あっ、おはよう優希くん!」

「……ん、おはようさん」

 

 

 片手を上げて応じて、いやいや、とすぐに首を横に振り優希は再度疑問を口にした。

 

 

「違う、そうじゃねぇ。オレはなにしてんのかって聞いたんだけど?」

「優希くんを待ってたんだよ?」

「……わかった、質問を変えるわ。朝っぱらからなんで毎度毎度こんなとこにいるんだオマエ?」

「え、優希くんと学校に行くために決まってるじゃない?」

 

 

 なにを言ってるの? と言わんばかりに明日奈は首をかしげる。

 見る者によっては可愛いく見える仕草である。現に遠巻きに見ていた男子生徒達の数人は顔を赤らめている。

 

 しかし優希の反応は違った。

 呆れるように、されど諦めるように、明日奈を見つめる。

 彼女の住んでいる家がどこにあるかは知っている。帰還者学校学生寮から離れているのも知っている。こうして優希の登校する時間に合わせるとなると、早起きしなければならないことも理解している。

 だからこそ、優希は呆れる。そこまでしてオレに合わせる謂われもないだろう、と素直に口にしようとしたところ。

 

 

「ふふっ、モテモテですね優希君」

 

 

 上品に笑みを浮かべる寮母の姿がある。

 だがその笑みは、どこか優希の癇に障る微笑みであった。まるで人をイジって楽しむのを生き甲斐にしているような、玩具を見つけたような嗜虐的な笑み。

 現に目が笑っていない。小馬鹿にするように、猫をかぶっているそれはどこかで見覚えがある。

 

 わ、わたしは別に優希くんのことなんて何も思ってませんよ!? と慌てて否定する明日奈を無視を決め込んで、優希は寮母に向かってニッコリと満面の笑みを浮かべて恭しく頭を下げると。

 

 

「いやいや、寮母さんには負けますよ。この前だって男の人とデートしてたじゃないですか」

「……えぇ、お食事をさせてもらいましたよ」

「あれ、デートじゃない……? あぁ、だから帰ってくるのが早かったんですね! そうですかそうですか。てっきり僕はデートだと思ってましたよ。そうですよね、よく考えてみたらおかしいですもんね」

「……何が言いたいんですか?」

「いやなに。デートにしては帰ってくるのが早かったから――――てっきりフラれたものだと。がっつき過ぎて」

 

 

 そこまで言い切るとピシリ、と空気が凍りついた。

 え、え、えっ……? と異変に漸く気づいた明日奈は右往左往するように、優希と寮母の顔を交互に伺う。

 二人共笑みを絶やさない。口元には薄い笑みを浮かべて、目を細めてお互いに視線を向けている。両者の取り巻く雰囲気は肉食獣のそれだ。下手な素振りをしたものなら、食われて終わるのみ。一挙手一投足、些細な動きすらも見逃すことは出来ない。

 

 遠巻きに観察していた男子生徒達も二人の沈黙には冷や汗を流すばかり。

 数秒か、数分か、それとも数十分か。永遠ともとれる沈黙を破ったのは。

 

 

「フフフ」

「ハハハ」

 

 

 両者であった。

 乾いた笑み、表情は笑みを浮かべたまま、腹の探り合い始める。

 そして――――。

 

 

「ナメた口言うじゃないの、シャバ僧」

 

 

 口調は刺々しく、目つきは鋭い。

 上品な態度から鋭利な刃物へと寮母は変貌を遂げる。

 その変化に驚く様子もなく、優希は口元の笑みをますます深めていき。

 

 

「駄目ですよ、演じるならしっかりやらないと。本性出したら負けなんですから」

 

 

 売り言葉に買い言葉。

 空間を歪めるほどの口撃の応酬。

 笑うという行為は本来攻撃的なものであり獣が牙をむく行為が原点である、とでも言うかのように二人は笑い合う。

 

 これが彼らの日常。

 アインクラッドの恐怖、そして帰還者学校学生寮の寮母。

 この二人が現在、男子寮の抑止力となしているのは言うまでもない――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2025年5月26日 AM8:00

 

 

「もうっ、ダメでしょ! 喧嘩しちゃ!」

 

 

 明日奈は涙目になりながらも、優希にメッと人差し指を突き出して叱りつける。

 他人の目を憚ることなく大きな声で、凛とした無駄に通る声で、涙目になりながら。よっぽど二人のやり取りが恐ろしかったのか、その表情は今でも泣きそうである。

 

 対する優希はどこに吹く風。

 大して気にしない様子で、いつもどおり口悪くそれに応じた。

 

 

「喧嘩じゃねぇよ。あの人がオレと話すときは毎回あんな感じだろ。つか、オマエも何度も見てんじゃん」

 

 

 それは比喩などではなくそのとおりであった。

 寮母と優希のやり取りは毎回あんな感じ。腹に一物を抱えた者同士、同族嫌悪――――とまではならないものの、二人の会話は毎回あのような有様となっている。ときに寮母から吹っかけて、ときに優希から口火を切る。

 毎度周囲を凍らせては、お互い笑い合うとそこで終了する。正に、周りなど気にしない勝手気ままなやり取りであることか。

 

 明日奈も二人のやり取りは何度か見たことがある。

 こうして優希を迎えに行ったことなど数知れず。優希と二人で登校することもあれば、木綿季も交えて三人という状況もある。

 寮母と優希、周囲を凍らせるやりとりはそれこそ何十回と見てきた。だがそれでも、馴れないものは馴れないのだ。

 

 

「み、見てきてるけど! そうだけど! 良くないの、気持ち的に!」

「我慢してやれよ。あの人もストレス溜まってんだ。あぁでもしないと発散出来そうみたいだしな」

「えっ、あれで発散できてるの?」

「応とも。この前なんて肉じゃが作ってもらったぜ」

「思いの外仲良しさんだった!?」

「昔の武勇伝とか聞かせてもらったりもしたな。木綿季のやつ、メチャクチャ興奮しまくってたっけか」

「ぶ、武勇伝……?」

「あとは色々と教えてもらった。知ってるか? 一般人ってあの人達の業界じゃパンピーって呼ぶらしいぜ?」

不運(ハードラック)(ダンス)っちゃいそうだね、その知識……」

 

 

 ハハハッ、と乾いた笑みを浮かべて「あれ?」と声を上げて明日奈は優希に問いを投げた。

 

 

「木綿季はいないの?」

「あぁ、友達と学校行きたいんだと。アイツ、なんて言ったか。シリカって言ったか?」

「うん、シリカちゃんね」

 

 

 最近、付き合いのある見知っている少女の名前を聞いて明日奈は納得するように頷いた。

 シリカ――――綾野珪子。かつてソードアート・オンラインで知り合ったビーストテイマーの少女である。竜使いのシリカとまで言われていたプレイヤーで、その可愛らしい容姿から他のプレイヤーからはアイドルのように扱われていた。

 

 

「……アイツ、いつの間に友達なんて作ったんだ?」

「不満?」

 

 

 クスクスとからかうような口調で問いを投げる明日奈に、バカを言え、と否定しながら優希はぶっきらぼうに言い放つ。

 

 

「このまま彼氏でも作って、オレ離れしてくれりゃ万々歳だ」

「……それは当分無理だと思うなぁ」

「それもそうか。アイツ、昨日なんて遅くまでアルヴヘイムにインしてたみたいだしな。当分男なんてありえねぇか」

 

 

 ゲームに夢中なのだろう、と優希は一人納得しているがそういう意味で明日奈は言ったわけではない。

 

 木綿季という少女は、周りにわかるくらい兄を慕っている。

 ブラコン、なんて簡単に片付けて良いレベルではなく、彼女が優希の姿を見たものなら一目散に駆け寄るくらい、他の男など見る様子もない。その姿はまるで子犬だ。それもブレーキが壊れた子犬。彼女に尻尾が生えているものなら、ブンブンと引き千切れんばかりに尻尾を振りながら優希の周りをグルグル駆け回っていることだろう。

 故に、好感度など既に振り切っており、他の男など眼にも映らない。好みのタイプがあるとすれば、にーちゃんみたいな人と! と彼女は即答することだろう。

 

 だと言うのに、幼馴染は気付いていない。つまるところ、明日奈が抱いている淡い想いにも気付いていないことだろう。

 それが幸運なのか、不運なのか。明日奈は考えないことにした。つまり話題を変える。

 

 

「木綿季、張り切ってるみたいだね」

「ご苦労なこったよホント」

 

 

 木綿季だけではない。

 周囲を見れば、そこには帰還者学校に通う生徒達の姿。

 誰も彼もがどこか高揚と、そして殺気立っている。とはいっても剣呑のそれではなく、興奮覚めぬといったところだ。

 

 それもそのはず。

 近いうち、アルヴヘイム・オンラインではプレイヤー達の手によってとある大会が開かれる。

 その名も【統一デュエル・トーナメント】。グランド・クエストが攻略される前までは、種族間だけの閉鎖的な状況でデュエル大会が開かれていた。

 それを今度は種族の垣根なしに、なんの柵もなく、全種族で誰が一番強いのか競おうというのだ。その熱狂は爆弾のように、一つ爆発すればもう二つ爆発され、熱狂は波となり、興奮していたプレイヤーたちを包み込んでいく。

 

 今や、アルヴヘイム・オンラインはおろか、ネットは統一デュエル・トーナメントで話題が持ちきり。

 連日連夜、誰が勝つのか論争が収まらず、有志によってwikiまで作られる始末である。

 これは木綿季が興奮するのも無理はない、と優希は一人納得していると。

 

 

「きみは出るの?」

「大会か?」

「それ以外に何があるのよ」

 

 

 どこか抜けている幼馴染の問いに明日奈は笑みをこぼした。

 優希はそのまま、抜けた調子で少しだけ考えて。

 

 

「わかんねぇや」

「そっか。……うん、そっか!」

「なに笑ってんの?」

「別にー。ただね、うん。何だか嬉しい、かな?」

 

 

 だって、と言葉を区切り。

 明日奈は満面の笑みで。

 

 

「無理しなくても良い。戦わないって選択肢がある」

「それってもう優希くんが【アインクラッドの恐怖】にならなくていいってことでしょ?」

 

 




>>寮母
 本名:七枷真裏亜
 見た目は黒髪長髪でお淑やか、おまけに凛々しいとその名の通り聖母如き女性。
 しかし蓋を開けてみれば、実のところ元ヤン。最高にクールじゃねぇの。
 暇潰しと書いてキリングタイムと読んだり、喧嘩するとき消化器を何食わぬ顔で持ってきたりと素敵な女性。真裏亜さんは裏表のない素敵な女性です。
 当然、昔は襟足が長かった。女子寮の寮母が苦手。


>>統一デュエル・トーナメント
 栄えある第一回大規模デュエル大会。
 木綿季が滅茶苦茶張り切っている。


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