ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~   作:兵隊

102 / 170
 ムーパパさん、誤字報告ありがとうございました!


第6話 100人斬り

 

 

 それは何てことはない『狩り』だった筈だった――――

 

 

 

 目の前の光景を見て、風妖精族(シルフ)が誇る最強の二枚看板であるシグルドは呆然と思い出した。

 そう、何てことはない。自身が所属している風妖精族(シルフ)の領土に、単身無謀にも踏み込んできた影妖精族(スプリガン)を排除する、そんな簡単なモノであった筈だ。

 

 本来であれば、シグルドと言う男は自ら些事然とした物事を解決しようと率先して動くような性格ではない。

 むしろ他人を手駒とし、自分は安全圏から指示を出す。良く言えば指揮官、悪く言えばお山の大将、そんなやり方を好む人種だ。それでも、彼が剣を振るえば風妖精族(シルフ)の中でも指折り、いいや五指には入るほどの腕前なのは一重に彼の才能によるものと言えるだろう。

 そう言う事もあって、彼は不自由を味わったことも、挫折を経験したこともない。常に望んだある程度の戦果を手に入れて、勝者として勝利の美酒を味わってきた。

 

 そんな彼が自ら先頭に立ち、影妖精族(スプリガン)狩りを興じるのは唯の気まぐれだった。

 やることがなくなったから、本日の目標を達成したから、暇だったから、そんな程度に過ぎない。彼が剣を取るのは気まぐれであり―――――ちょっとした景気付けというのもあった。

 

 景気付けというのは、彼のこれからの未来。

 これからシグルドと言う男は、風妖精族(シルフ)の領主を裏切るつもりでいた。

 簡単に言ってしまえば、内通者である。その為に、アルヴヘイム・オンライン黎明期から積極的に風妖精族(シルフ)の為に活動してきた。種族間のパワーゲームがゲームの醍醐味となっているアルヴヘイム・オンラインで、彼は風妖精族(シルフ)に貢献してきた。

 全ては信用させるために、他の風妖精族(シルフ)から『シグルドならば絶対裏切らない』と信用させるために、彼は行動してきた。

 

 領主に立候補し、その全てが落選してきたが、彼にとっては領主の座は視野に入れていなかった。

 そのまま領主になればそれで良し、領主になれなければその補佐をすると忠誠心を見せることも出来る。

 その甲斐もあってか、今のシグルドは風妖精族(シルフ)中枢の一角の座に座るほどの権力と人望を手に入れた。そしてそれは、シグルドにとってまたとない展開でも合った。

 

 全ては、計画通り。

 裏切る筈のない彼が、火妖精族(サラマンダー)の内通者となり、来るべき転生システムで自身は火妖精族(サラマンダー)に転生し、風妖精族(シルフ)の領主を売り渡し確固たる地位を手に入れる。

 それが彼の本性であり、今まで尽くしていた理由でもあった。

 

 権力思考の権化。

 何度も何度も風妖精族(シルフ)火妖精族(サラマンダー)に苦渋を舐めさせられてきた。ならば自分も火妖精族(サラマンダー)となり、強者の位置に君臨しようとする浅はかな考え。

 

 火妖精族(サラマンダー)との密約の日取りも決まった。

 自身の立ち位置も明確にした。

 取引もシグルド側に益があるものであり。

 あとは実行に移すのみ。

 そんなところに、影妖精族(スプリガン)の身の程知らず一匹が、単騎で攻めてきた耳に入る。

 

 もうニヤけ面が収まらなかった。

 この何でも無い羽虫を狩って、更なる地位を手に入れよう。その程度の理由でしかなかった。

 

 シグルドの計画は完璧だった。

 現に、誰もが彼の胸中を見透かしているプレイヤーはいない。

 誤算があるとすれば―――――。

 

 

 ――なんだ、アレは……?

 

 

 例の―――――影妖精族(スプリガン)だろう。

 

 これは狩りであった筈だ、多勢に無勢である蹂躙であった筈だ。

 だと言うのに――――。

 

 

 ――何故オレ達は、アイツに、追いつけない……!?

 

 

 飛行して討ち取ろうとしても追いつけない。

 影妖精族(スプリガン)は飛んでいない。シグルドと他数名と違って、“羽”を出さずにただ駆け抜けるのみである。

 だというのに、何故か追いつけなかった。

 

 一定の距離を保つのもやっと、と言った所。

 引き剥がされまいと歯を食いしばり、加速しても更に影妖精族(スプリガン)は速度を上げる。

 

 

 その速さは完成されていると言っても良い。

 力強く、それでいて身体全体のバネを使い、しなやかに走る。

 例えるのなら、黒い豹である。獲物を仕留めることに特化したような、速さを追求するかのように、何人たりとも影妖精族(スプリガン)には追いつけない。

 

 このままでは引き剥がされる。

 チッ、と大きく舌打ちをするも、直ぐにシグルドの表情は笑みに変わる。

 彼の眼に映ったのは一つの大きな首都。華奢な尖塔群が、空中回路で複雑に繋がり構成されている街並み。それこそがシルフ領の首都『スイルベーン』である。

 

 このまま、影妖精族(スプリガン)はスイルベーンに侵入するようだ。

 思わずシグルドから笑みが溢れた。何をバカな、と小馬鹿にするような薄ら笑みを浮かべる。

 

 そのまま首都に入ってしまえば、影妖精族(スプリガン)文字通り何も出来ない。

 シルフ領でPK出来るのは、ホームタウンである風妖精族(シルフ)だけである。どう足掻いても、影妖精族(スプリガン)がシルフ領内で風妖精族(シルフ)を傷つけることは出来ない。

 

 それを知らずに首都に侵入するや否や、影妖精族(スプリガン)の足が止まった。一息を入れて、何か言おうと口を開きかえる。

 しかしそれに耳を貸すシグルド達ではなかった。

 

 問答無用。

 影妖精族(スプリガン)の周りに数十人ほどの風妖精族(シルフ)達が集い始める。

 円形の人垣が形成されて、その中心に一つの黒い点。もはや勢力差は絶望的であった。恐らく影妖精族(スプリガン)は首都に入れば、戦闘は終了すると思っていたのだろう。だが剣呑な雰囲気は収まることなく、ますます鋭くなるばかり。

 

 狩りは終わらない。むしろこれからが――――狩りの始まりである。

 

 

「ここまで殺伐としてるのか、この世界は?」

 

 

 苦笑交じりに、影妖精族(スプリガン)はボヤいた。

 呑気なモノであるが、次の瞬間その雰囲気は劇的に変化した。

 彼が剣を握った瞬間、背の鞘から漆黒の直剣を抜き放ち、その眼は鋭いモノに変わる。

 

 ゾワっ、と囲んでいた風妖精族(シルフ)の肌が栗立つ。

 眼の前に居るのは何者なのか。逃げてばかりの兎であった筈なのに、腹ペコの肉食動物を目の前にしたかのような感覚。

 コレではまるで――――。

 

 

「――――いいよ、相手になってやる」

 

 

 狩られる側ではないか――――。

 

 それを払拭するように、影妖精族(スプリガン)に一斉に殺到した。

 攻撃が通るのであれば、プレイヤーであればヒットポイントがなくなれば、相手が人間であれば絶対に勝てる。

 

 なのに。

 

 

「なんだ、アイツは……?」

 

 

 ポツリと呟いたシグルドに、誰も答えない。

 常識外れの動き、常人を凌駕した反応速度、後ろに眼があるかのような視野の広さ。漆黒の直剣を自分の手足のように振るう影妖精族(スプリガン)に、シグルドは背筋が凍りついた。

 

 数人がかりで、数十人がかりで、影妖精族(スプリガン)に剣を向けた。ときに槍のような長物で、ときに魔法で遠方から、ときに撹乱するように陣形を組んで。

 それでも影妖精族(スプリガン)には届かなかった。

 

 剣で挑んだ―――容易く弾く。

 槍で刺突する―――軽々と躱す。

 陣形を組んだ―――容易く突破してくる。

 魔法を打ち込んだ―――簡単に斬り捨てる。

 飛行して高さの利点を突いた――――それでも意味がなかった。

 軽々と、軽業師のように、地を蹴り、宙を飛び、縦横無尽に影妖精族(スプリガン)は駆け回る。

 

 それから影妖精族(スプリガン)は大きく後方を蹴って、一息をついて何やら軽蔑するような眼で風妖精族(シルフ)達を睨みつけて。

 

 

「まさかお前達、チーターか?」

「なに、を……?」

 

 

 チートは貴様だろ、とシグルドは叫びたかった。

 だが絞り出した言葉がそれだった。眼の前に居る怪物が何を言っているのか、本気で理解が出来ない。

 

 

「結構斬ったのに、誰一人ヒットポイントが削られてないじゃないか」

「まさか貴様、初心者(ニュービー)か……?」

 

 

 信じられない、と眼を丸くするシグルドと風妖精族(シルフ)達に対して、影妖精族(スプリガン)はただどう言うことかと眉を顰める。

 

 

 闘争の空気ではなくなった。

 周囲がザワ付き始める。まさかこれほどの剣士が、自分達が手も足も出なかった人物が初心者(ニュービー)だとは思っていなかったようだ。

 そして問題の影妖精族(スプリガン)は意味がわからない、と問いを投げようとしたところに――――。

 

 

「君、凄いね」

 

 

 パチパチ、と軽く拍手をしながら影妖精族(スプリガン)が称賛する風妖精族(シルフ)が一人。

 囲んでいた人垣が左右に別れていき、その中央から一人の風妖精族(シルフ)が姿を表した。

 混乱する周囲を置いてきぼりに、風妖精族(シルフ)の少女は覗き込むように、首を傾げて口を開いた。

 

 

「ねぇねぇ、本当に初めての人なの?」

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 2024年8月15日 PM19:50

 シルフ領 首都『スイルベーン』

 

 

 正直に言おう。

 俺はこの状況に混乱している。

 

 突然襲われて、街に着いたのに攻撃されるし、プレイヤーを攻撃してもヒットポイントが削られない、もしかして全員がチーターかと思いきや、また新手が現れる。

 どれから対応したら良いのかわからない。ぶっちゃけテンパっているのが、今の俺の状態だ。

 

 

「初心者、って割に動きが良すぎるし、でもその割に……」

 

 

 対して彼女。

 先程俺を囲んでいた包囲の中から一人だけ進み出て、気安い口調で話しかけてきた。

 上から下へ、下から上へ、と俺の全身を翠色の両目で注意深く観察する。その視線は正直、こそばゆいモノだった。だが敵意はなく、武器も携帯していない。丸腰である。

 

 長い金髪の髪の毛を白いリボンで一本に縛り、ファンタジー世界観に合っている容姿。

 言ってしまえばシルフらしいシルフといえるだろう。黄緑色の装備、金髪、翠色の眼。これでもかというくらいシフル要素が詰まっている。

 

 俺に警戒を緩めるつもりはない。

 PKが推奨されているVRMMOとはいえ、多勢で一人を襲いかかる連中だ。何をされるかわかったものじゃない。

 

 

「あっ、ごめんね。全員で襲いかかる真似なんてしちゃって……」

 

 

 俺の気持ちを察したのか、シルフの彼女は本当に申し訳なさそうに深々と頭を下げると、人垣に向かって――――。

 

 

「レコン!!!」

 

 

 ――――大声を張り上げた。

 

 その声量に思わず、大きく肩を揺らした。

 ビックリしたのは俺だけではないようだ。周りを囲っているシルフ達も大小様々に驚きを隠せない。眼を丸くさせていたり、途端に挙動不審になったり、急いで抜いていた獲物を収めたりと、様々な反応を見せる。

 

 何よりも驚いているのは、呼ばれた本人。レコンという人物だろう。

 おずおずと自信なさげな少年が人垣から姿を現す。見覚えが合った。彼は確か、俺の顔を見て悲鳴を上げた男だ。

 

 

「アンタねぇ、襲撃されたとか皆に嘘ついてんじゃないわよ!」

「だ、だって、あんなところに一人いたら……」

「確かめたの?」

「確かめてないよ。こ、怖かったし……」

「ほら見なさい! アンタが勝手にこの人にビビっただけじゃない! このヘタレ!」

 

 

 怒髪天を衝くとはこの事を言うのだろうか。

 今からでも拳骨を叩き込むかのような勢いで、レコンと呼ばれた少年が責め立てられていく。

 

 俺も無茶苦茶やってリズやサチと多くの人に怒られてきたし、例のバカもアスナやユウキに怒られてきのを見てきた。

 だがこれはその比ではない。人とはここまで本気で怒れるものなのか、と思わず舌を巻いてしまう。とは言っても、本人からしてみたら溜まったものじゃないのだろう。

 

 レコンは肩身狭い筈だ。

 小さい身体がますます小さくなっているような、そんな錯覚を覚えるほど彼は縮こまっている。

 

 

「大体ねぇ、この人が襲撃者とかスパイならここには来ないし、何よりもあんな戦い方しないでしょ!」

「えっ、あんな戦い方って……?」

 

 

 気付いてなかったの、と彼女は呆れたように首を横に振って答えた。

 

 

「必要最小限で、なるべくヒットポイントが削られない箇所を斬られてたでしょ皆」

 

 

 えっ!? とレコンが声を上げると同時に、周囲がザワつき始めた。

 各言う俺も、意外そうな眼で彼女を見る。まさか気付いているとは思わなかった。

 

 

「……気付いてたのか?」

「あ、うん。胴体、首、急所は狙わないで手足ばかり斬ってたよね?」

「まぁ、そうだけど……」

 

 

 そこまで観察して、どうしてもっと早くに仲裁してくれなかったのか。

 その疑問は直ぐに彼女の口から説明されることになる。

 

 

「ごめんね、もっと早く皆を止めるべきだと思ったんだけど。その、貴方の剣があまりに綺麗で見惚れちゃった。大切な人に似てるもんだから……」

「あ、うん。その、ありがとう?」

「ど、どういたしまして……」

 

 

 顔を真っ赤に染めて両手の人差し指をツンツンと突き合わせる彼女を見て、毒気が抜かれてしまった。

 それに俺も恥ずかしいし照れる。そこまで素直の賞賛を受けるとは思わなかった。俺は照れ隠しに頭を掻きながら、右手に持っているエリュシデータを背中の鞘に収めた。

 

 顔が熱い。

 きっと俺も顔を紅くなっていることだろう。

 我ながら単純だと思うし、あのバカにこんなところ見られた何を言われるかわからない。

 

 俺は気を取り直して、頭を振って雑念を振り払いながら。

 

 

「聴きたいことがあるんだ」

「え、なに?」

 

 

 可愛らしく首を傾げるシルフの彼女に、俺は小声で周りに聴こえないくらいの声で問いを投げた。

 

 

「どうして全員のヒットポイント削れないんだ?」

「あ、そっか。うん、そこからだよね」

 

 

 うんうん、と彼女は頷くと辺りを見渡して、バツの悪そうな顔に変わる。

 周囲には観察するように視線を向けてくるシルフ達の姿があった。正直、見世物にされているようで居心地が悪い。それは彼女の同じようであり、申し訳無さそうな顔で。

 

 

「ごめん、場所変えても良い?」

「別に良いけど」

 

 

 その提案は願ってもないものだ。

 俺は同意すると彼女は満面の笑みに変わると背を向けて。

 

 

「それじゃ行こっか。ちょっとレコン、アンタこの人に一杯くらい奢りなさいよ?」

「えー!? ど、どうしてさ?」

「当たり前でしょー? アンタの早とちりでややこしいことになったんだから!」

 

 

 そう言うと彼女は歩き始めた。

 言い渡されたレコン、そして俺はお互いに顔を見合わせた。

 

 気不味い。

 レコンはどこか居心地の悪そうな顔で俺を見るし、俺も元々社交的な性格ではない。気の利いたジョークの一つや二つ言えれば良かったのだが、俺にはそんな難易度の高いトーク力はない。

 よって俺もレコンも、無言で彼女の後を追いかける。

 

 

「どうしてヒットポイントが削られなかったか何だけどね?」

「あ、あぁ。教えてくれ」

 

 

 それは簡単、と言う調子で彼女は背を向けたまま言った。

 

 

「ここがシルフ領だからだよ」

「それは――――」

 

 

 どう言う意味なのか、と問いを投げる前に隣で歩くレコンがおずおずと言った調子で申し訳なさそうに言った。

 

 

「し、シルフ領ではですね。シルフ以外の種族はPK出来ないようになってるんです」

「え、そうなのか?」

「もっと詳しく言うとね」

 

 

 今度は前を歩く彼女は立ち止まり、俺達の方へと振り返り説明を付け加えた。

 

 

「各種族にホームタウンがあるのは知ってるよね?」

「あぁ。最初にそんな説明を受けたけど」

「ホームタウンってのは、文字通り種族のホームなんだ。その場所に入ってしまえば、シルフ領ならシルフしかPK出来ないし、サラマンダー領ならサラマンダーしかPK出来ないの」

「なるほど、だから攻撃してもヒットポイントが削られなかったのか……」

 

 

 少し調べればわかることだった。

 道理でシルフ領にはシルフ以外の種族が居ないわけだ。

 ここでPKされても文句は言えない。何せここには自身の種族の法律など通用しない、言ってしまえば他国にいるのだ。己の所属している種族の常識など通用するわけがない。ましてやアルヴヘイム・オンライン自体がPKを推奨しているのならば尚更である。

 そして俺はここで、漸く気が付いた。

 

 

「……ってことは、主街区――――っとここだと首都か。首都に居てもPKは発生されるってことだよな?」

「うん、そうだね」

「それで俺は、シルフ領に凸ったと……」

「そういうことになるね」

「……相当頭ヤバイやつだな俺……」

「まぁ、ぶっちゃけちゃえばね?」

 

 

 あはは、と彼女は乾いた笑みを零すと「そうだ」と俺に問いを投げる。

 

 

「君、どれくらい斬ったか覚えてる?」

「んー、そうだなー。50人くらいから数えてなかった」

「ひぇー……!」

 

 

 ドン引きするように、レコンが一歩後退る。

 まるでその眼は化物を見るようで、大変他人に向けてよろしい眼ではない。

 

 

「レコンの気持ちもわかるけどね。アレだけ斬っておいて、ノーダメとか君非常識にも程があるよ?」

「そうか? 俺が知ってるバカもこれくらいのこと出来ると思うけど……」

 

 

 実感が沸かない。

 とは言っても、アイツはダメージを全く受けないことはないだろう。

 致命傷をバカバカしい感度の高い直感で避けて、傷だらけになりながらも怯まずにゴリ押しで乗り切るに違いない。

 魔法攻撃も、あのバカなら何とかなる筈だ。斬れないにしても、避けるくらいは出来るだろう。俺よりも非常識であると思うのだが、その辺りどうだろうか。

 

 

「そう言えばさ、君の名前聞いてないよね?」

「確かにそうだな。俺はキリト、君は?」

「あたしはねリーファ。よろしくねキリ――――」

 

 

 キリト、と言う前に彼女――――リーファの言葉が詰まった。

 それは何故か。問うまでもない、俺が止めたから。それは物理的に、リーファの両手を掴んで、接近させて、身体を思いっきり密着させる。

 

 途端、リーファの顔が真っ赤に染まった。

 ボンッ、と小さな爆発音が鳴ったと錯覚出来るほど、彼女の顔は激しく紅く染まる。

 

 

「き、君! ななななな何を――――」

「リーファ! お前さ、リーファって言った!?」

「言ったわよ! 言ったけど、だから何――――?」

「アルフヘイムオンラインのリーファだよな!?」

「アルフヘイム? アルヴヘイムでしょ―――――」

 

 

 そこまで言うと、リーファは「あれ?」と眉を顰めて考える。

 何処かで聞いたことがある、と。何処で聞いたのだったか、と彼女は思い出していく。

 

 それは数日前に、それは早朝に、それは道場で。

 何処の誰が言っていたのか、リーファは思い出そうとしているのだろう。

 

 

「え、待って。待ってよ……?」

 

 

 紅く染まった顔は、青色に変わり、それから白い色に変わっていく。

 そして翠色の双眸に涙を浮かべて、ワナワナと身体全体を震わせて、声も震わせて恐る恐る。

 

 

「キ、キリト君ってさ、もしかしてだけど妹いない?」

「いるぞ」

「その娘ってさ、剣道やってる?」

「やってるぞ」

「結構強い?」

「全中ベスト8って言ってじゃないか」

 

 

 それからリーファは大きく口を開ける。

 すると危険を察知したのか、レコンは直ぐに自分の耳を塞ぎ始める。

 

 あっ、これは不味い。非常に不味い。

 だが気付いた頃には何もかも遅かった。リーファは――――いいや、俺の妹であるスグは羞恥心が混じった声で大きく口を開き――――。

 

 

「お、お兄ちゃんー!?!?」

 

 

 

 




>>シグルド
 権力大好きマン。
 サラマンダーにシルフ領主を売ろうとしていたところに、非常識なスプリガンに遭遇してしまった人。
 サラマンダー最強説を唱えていたが、その価値観は粉微塵にされてしまった模様。

>>レコン
 ALOが誇るヘタレキャラ。でもやるときはやる(やるとは言ってない)
 ドM。

>>リーファ
 桐ヶ谷直葉。フライジャンキーの気質あり。
 彼女がどんな気持ちでキリトを見ていたのかは、次回までお預け。

>>それを払拭するように、影妖精族(スプリガン)に一斉に殺到した。
 多勢に無勢とはこのことさ。
 シルフ100人斬り。キリトさんの新しい異名。
 正確には94人斬り。それでも化物。チートやチート。

>>「貴方の剣があまりに綺麗で見惚れちゃった。大切な人に似てるもんだから……」
 フラグビルダー。
 ユニークスキル。キリトさんだから仕方ない。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。