ベルセルク・オンライン~わたしの幼馴染は捻くれ者~ 作:兵隊
ルシオンさん、誤字報告ありがとうございました!
2024年8月15日 PM19:40
場所不明
アルヴヘイム・オンラインをプレイするにあたって、俺はナーヴギアを装着した。それは良い。
音声マニュアルに従って種族を選んだ。それは良い。
男は黒に染まれって偉い人が言ってた気がするし、黒色好きだし
名前も『Kirito』と入力した。それも良い。
問題があるとすればその後だろう。
ランダムで自分の分身であるアバターを生成したら、本来であれば各種族のホームタウンからゲームがスタートされるものだ。
そう、本来であればの話――――。
「ハッハッハ、参ったなこりゃ」
我ながらのんびりで、呑気な感想であると思う。
だが仕方ないだろう。どういうわけか、俺の視界では全てのフリーズが停止し、ところどころポリゴンが欠けた状態で、ノイズが這い回っている。
慌てて然るべき状況であるのだが、どう言うわけか俺の心は落ち着いてた。
数年間のデスゲームが俺の神経を図太くさせたのか、はたまた近くにどうしようもないほど滅茶苦茶で非常識なヤツが居た影響なのか、どうやら俺はちょっとやそっとのアクシデントでは動じないほどの強さを持ってしまったらしい。
だがこの現状はダメだ。
どうにかしないとならないし、このままではゲームが進まない。
手足を動かそうにもビクともしないし、かと言ってログアウトも出来ない。さてどうするか、と考えていると――――。
「おっ?」
ぶつん、と視界から見えていた世界が消えたと思いきや、謎の浮遊感に襲われた。
何か落下しているような、視界の下に空があり、上に地面がある。そんなありえない光景を見て、少しだけ不思議に思って首を傾げて。
「あっ、なるほど」
俺、落ちているのか。それも頭から、逆さまに。
納得、と俺は左手の掌の上に、右手で作ったグーをポンと軽く振り下ろした。
なるほどなるほど、俺は落ちているのか――――。
「――――ヤバイだろこれ」
自分でもわかるほど、直ぐに顔の血の気が失っていく。
なるほど、とか言っている場合じゃない。呑気に笑っている場合じゃない。
どうにかしようとしても、どうしようもない。手足をバタつかせたところで、落下速度が緩まる訳でもない。
「ヤバすぎるだろこれぇぇぇぇ!!!????」
一つ訂正しなければならないことがある。
俺の心が強くなった、図太くなった、動じなくなったと言ったが、アレはウソであったようだ。
ちょっとやそっとじゃ驚かないと自負していた自尊心がガラガラと崩れ去っていく。いいや、この状況はちょっとやそっとのレベルではないだろう。慌てないやつが居たら、ソイツは人間じゃない。俺の反応は当然のものだ。
まぁ、なんだ。
「……首から落ちても、即死扱いでゲームオーバーには、ならないよな……?」
結果だけ言えば、俺は生きていた。
幸か不幸か、俺が落下したのは鬱蒼とする森林地帯であったらしく、大中小様々な木々が天を貫いている。
どうやら、大樹から生えていた枝が落下速度を緩めてくれたようだ。
俺はぼんやりと、地面に背を預けて空を見つめていた。
周りには俺が落下した際に折ってしまった木々の枝が散乱している。
ログインして何もしてないのに、どういうわけかボロボロだ。
黒を強調している
実際、死にそうな目に合ったのだ。
放心状態の一つや二つ、なってもバチは当たらないだろう。
何はともあれ、俺は無事にアルヴヘイム・オンラインへとログインすることが出来た。
「……」
息を吸い、思いっきり吐く。
久しぶりの仮想世界、半年訪れなかったVRMMOの空気というやつを、俺は味わっていた。
頬を撫でる風はまるで本物のようで、見える星屑が散りばめられたような星空、その空に大きく主張する満月、耳に入る野鳥の声、まるで現実世界のような感覚を俺は味わっていた。
この感覚は半年前まで味わったモノに良く似ていた。
空を飛ぶ鉄の島――――アインクラッドの空気に良く似ていた。
似ている、何てモノじゃない。まるで遜色もなく、景色も、気配も、五感に伝わる感覚まで瓜二つと言ってもいいだろう。
違う点があるとすれば――――。
「そうだっ……!」
俺は飛び起きて、手慣れた動作で左指を上から下に振って、メイン・メニューウィンドウを開く。
デザインまでソードアート・オンラインと一緒であるのなら、一番下の欄にあるべきモノがある筈だ。直ぐに視線を這わせて、そのあるモノを探して――――。
「あった……」
思わず安堵して、ホッと胸を撫で下ろした。
そこに存在すべき英単語。それこそがソードアート・オンラインとアルヴヘイム・オンラインの決定的な差異。現実世界と仮想世界を行き来するための最低限の手段。
それこそが――――『Log Out』の有無だ。
これでその表記すらなかったら、笑い話にもならない。ミイラ取りがミイラになるというやつだ。
「冗談を言っていられる状況でもないな……」
呟いて、辺りを見渡した。
本来であれば、俺は
なのにここは森、見渡す限りの森、誰がどう見ても森。ホームもなければタウンもない。仮にここが
「とりあえず、武器でも装備するか……」
丸腰なのはどうにも落ち着かない。
空気がソードアート・オンラインと瓜二つであるのなら尚更だ。あの世界で、フィールドど真ん中、丸腰でいるなどありえない。
だが同時に疑問に思う。
少なくとも種族を決める際には、俺の背には片手剣が装備されていた筈だ。
しかし今は丸腰。件の片手剣は何処にいったというのか。落下する際、落としたのだろうか?
そこまで考えて、装備画面を開くと――――ありえない物を見た。
「は?」
おかしい、明らかにおかしい。
思わず眼を擦り、もう一度見る。
目頭を抑えて、再びそれを見る。
装備画面にあるのは、ずっと手にしていた愛剣。コレを手にしたのは、『アインクラッドの恐怖』としてのアイツとの決闘中だ。アイツに勝ちたいという願望と共に現れた、まるで俺の心がソレを手繰り寄せたように、それは突然現れた。
漆黒の直剣、その名は――――。
「『エリュシデータ』……?」
呆然と呟いて、俺はかつての愛剣を装備し―――手にとった。
ズッシリ、と。懐かしい重みが、俺の片手に収まる。何度も振るってきた、何度も手にしてきた、疑う必要がない。エリュシデータに間違いない。
「でも、なんで……?」
途方に暮れる俺は、もう一度メイン・メニューウィンドウを開いて、今の自分の状態を確かめた。
ヒットポイント、そしてソードアート・オンラインでは見慣れないマナポイントというものがある。マナポイントは恐らく魔力を表す数値、言ってしまえばMPのようなモノなのだろう。
だが注目するのはそこじゃない。習得しているスキル値、それは明らかに見覚えがあるもので――――ソードアート・オンラインで俺が習得していたスキルそのものだった。
「引き継ぎ? いいや、そんな筈は……」
アルヴヘイム・オンラインに前作があるわけでもない。
となれば、引き継ぎという概念は存在しないだろう。何せアルヴヘイム・オンラインはこれが一作目のゲームだ。そんなゲームに何を引き継げばいいのだろうか。
しかし現実を見ると、俺のステータスは明らかにおかしかった。
プレイ時間数分の素人とは思えないほどのスキル値、まるで数年その世界で暮らしていたかのような、本来ではありえない状態に仕上がっていた。
見た目は
とは言っても、考えても仕方ない。今はそんなことを考えるよりも――――やらなければならないことがある。
そこまで考えると。
「……」
俺は彼方上空を見つめる。
その先には木々が生えていない山岳地帯、そしてその先にある天を貫く大きな大樹に目を向ける。
大樹、なんてレベルじゃない。
この辺りの木々なんて比較にならないほど強大で、雄々しい過ぎるほどと言っても良い。
それはアルヴヘイムの中央に堂々と陣取っており、その根は恐らく地中深くまで根付いているに違いない。
アレこそが、俺の目的地。微かな希望の象徴とも呼べるモノ――――世界樹。
その頂点は見通す事が出来ないほど高く、雲海を突き抜けてまだ伸びている。その上には設定通り、空中都市なるものがあるのだろうか。それとも――――アイツらが居るのか。
「……ッ」
グッ、と自然と愛剣を握る手が強まる。
どうしてエリュシデータが存在するのか、今だにわからない。だがここにコイツが合ってよかった。今まで握ってきた、これまで頼ってきた、自分の分身とも呼べる存在。
これほど信頼出来る武器は――――リズベットの精製した『ウェイトゥザトゥルー』くらいなものだ。
だが今は白銀の直剣はなく漆黒の直剣のみ。
スキル欄には二刀流はなく、エリュシデータしか『はじまりの英雄』を示すモノはない。
だがそれでも、だとしても――――。
「――――行くか」
前に進む。
目指す場所は見えている、目的もハッキリしている、何をすれば良いのか鮮明に見えている。
ならば進む。あの時のように、あの世界で生きてきたように、アイツのように。真っ直ぐに最短距離で走り抜けるのみだ。
力強い一歩を俺は踏み出す――――。
「……え?」
「……ん?」
ガサっ、と草木をかき分ける音が聞こえると声が聞こえた。
俺もそちらに意識を向けた。
「……」
「……」
男だった。華奢であるものの、骨格から考えて男であることがわかる。
背の低い華奢な姿、黄緑色のおかっぱ頭、そしてファンタジー物によくでてくるエルフを彷彿とさせる長い耳。全体的に見てもどこか頼りない印象を感じる。
男性というよりも、少年と言った方が当てはまる彼は、ジッと俺の方を見つめていた。
沈黙は数秒か、数十秒か、それとも数分か。とにかく長いようで、短い沈黙が流れる。
NPC――――というわけでないようだ。
システムも、スキルも、グラフィックもソードアート・オンラインに似通っているのなら、プレイヤーを表す頭上のカーソルもそのまま。彼がプレイヤーであることを、頭上にある緑色のカーソルが証明していた。
このまま黙りというのもよろしくない。
精神的にも、何よりも沈黙が苦痛でしかない。
だから俺は片手を上げた。極自然に、エリュシデータを持っていない方の手を軽く上げて声をかけようとする。
「あ、あの――――」
それがイケなかったようだ――――。
「ひ」
「ひ?」
「――――ひぎゃぁああああああ!?」
その速度は脱兎の如く。
身体全体をビクつかせたと思いきや、一目散に俺に背を向けて走り去る。
アレは逃走だろう。
何もあそこまで逃げなくても良い筈であるが、今の俺の姿を見ると納得できる。
「……あー、これは不味いよな?」
アルヴヘイム・オンラインはPK推奨のVRMMO。
加えて今は世界樹攻略のため出し抜かれないように種族間で半ば冷戦状態。
更に言えば今、この場所は薄暗い鬱蒼とした森林地帯。
最後に俺は今は抜刀状態。
うん、これはもう逃げるだろう。今の俺は明らかに通り魔のそれである。アインクラッドであれば、剣を抜かれて逆に襲われかねない。
悪いことをした。
二度と同じ過ちは繰り返さないためにも、俺は背負っている鞘にエリュシデータを収めようとするも。
「居たぞ!」
「レコンが言ってたやつか!」
「
「俺達の領地が近いのに、舐めた野郎だ……!」
「でも
「知るかよそんなこと! シグルドに連絡しろ!」
――――遅かったようだ。
きっと逃げていた彼が援軍を呼んだのだろう。ガサガサ、と草木を掻き分けて包囲されている。
数は、5人ほどといったところか。
「……とりあえず、逃げるか」
表立って争うつもりもない。
今は何よりも世界樹を登ることが最優先だ。他のプレイヤー達と争っている場合じゃないだろう。
うん、と一度頷いて俺は駆け出した。
しばらく潜めて、騒動が収まったら行動に移そうと考えていた。
だがそれは悪手。
俺が駆け出したのは彼らの領地がある方向――――シルフ領であった。
それを知らずに俺は駆け出して――――考えもしなかった事態に陥ることになる。
>>キリト
桐ヶ谷和人。
ソードアート・オンラインの経験をそのまま持ってきた。伊達に仮想世界で暮らしてなかったぜ。
でも存在がやっぱりチート。次話で凄いことする。
>>黄緑色のおかっぱ頭
割とダメなオーラが出ている。リアルではメガネを掛けていることが予想される。
事の発端。
>>「ハッハッハ、参ったなこりゃ」
割と余裕がある。
さすが原作主人公。
>>エリュシデータ
えへへ、来ちゃった///
べるせるく・おふらいん
~入国検査~
カーディナル「私の眼がある限り、安易にALOの地に踏み入れることは許さん」
コートオブミッドナイト「審査お願いします!」
カーディナル「よし、貴様はキリトきゅんの為に何が出来る!?」
コートオブミッドナイト「カッコよくさせます!」
カーディナル「衣類は何よりもキリトきゅんと接近できるモノ。貴様はダメだ!」
コートオブミッドナイト「(´・ω・`)そんなー」
ウェイトゥザトゥルー「審査をお願いするわ!」
カーディナル「よし、貴様は我らがキリトきゅんの為に何が出来る!」
ウェイトゥザトゥルー「私が居ればキリト何て無敵よ。バッサバッサ敵を斬りまくってやるわ!」
カーディナル「ダメ」
ウェイトゥザトゥルー「……え?」
カーディナル「貴様、あざとい。これ以上リズ嬢をヒロインにしてはダメ。サチや他のヒロインにも平等にしないと。ダメ不採用貴様」
ウェイトゥザトゥルー「(´・ω・`)そんなー」
エリュシデータ「審査お願いします」
カーディナル「よし、貴様はキリトきゅんに何が出来るというのか?」
エリュシデータ「まず、私は(重量が)重くて(愛が)重いです」
カーディナル「……ん?」
エリュシデータ「キリトの敵は殺します、絶対に殺します、必ず殺します。特に不相応にも張り合っている
カーディナル「ふむ、貴女の座右の銘は?」
エリュシデータ「見敵必殺」
カーディナル「ッッよし、気に入った! アインクラッドの恐怖をファックしていいぞ!」
エリュシデータ「やったぜ」
恐怖「悪寒がパネェんだけど……」