ラブライブ! feat.仮面ライダー555   作:hirotani

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 巧のモノローグ、即ち『仮面ライダー4号』編は1話にまとめる予定でした。原作の改変は無い予定だったので消化不良に感じたら『4号』を観てください、とするつもりだったのですが、原作で進ノ介が語り部だったところを巧に、本作でμ’sとの出会いを経た彼に語り部を担わせることで原作とは見方の変わった、読者様が新しい発見のできる形の『4号』をお届けできるのではと思い、原作通り3話構成にすることにしました。

 ラブライバーの皆様にとってはμ’sの出番が無くて物足りなく、また結末を知る『555』ファンの皆様にとっては酷ではあると思いますが、どうか見届けていただけたら幸いです。


<part:number=monolog:title=Truth of the time/>

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   01

 

「おい、いつまでふーふーしてるんだ?」

 オープンカフェで俺の向かいに座る侑斗がからかってくる。別に良いだろ、と言おうとしたところで俺は逡巡する。

<bewilderment>

 何かがおかしい。でも、何に対して違和感を覚えているのかが分からない。

 侑斗とこうしてコーヒーを飲むなんて今が別に初めてなわけじゃない。戦いの合間のひと時として、こうして喫茶店で腰を落ち着けるのは貴重な安らぎだ。

 よくある事。日課のような時間なのに、俺は何かがおかしいと感じている。毎朝、顔を洗って歯を磨くことに違和感なんて覚えない。ごくありふれたこの時間に何かが潜んでいる。

 とても曖昧で、でも確実な何かだ。

 俺はカップのコーヒーに映る俺の顔を眺める。そこにいるのは眉を潜める俺自身だ。疑問に対する答えを持っているとは思えない。

</ bewilderment>

「侑斗。この店、前にも来たことあったか?」

 俺が聞くと、侑斗は店の看板を見上げて「いや」と俺に向き直る。

「初めて来た店だ。最近できたばかりらしいからな」

 そう、この店はつい最近オープンした。どんな店だろう、というささやかな好奇心から、俺達はこの喫茶店を選んだ。

「どうしたんだ?」

 侑斗が聞いてくる。俺はコーヒーに映る自分から目を逸らさずに答える。

「何となく、この後何かが起こる気がする」

「何かって、何がだ?」

<tension>

「分からない」

 俺は立ち上がった。勢いあまって椅子が倒れるが、それも構わずに続ける。

「でも、これからやばいことが起こるんだ。とにかくそんな予感がする」

 「落ち着け」と侑斗が言う。

</tension>

 そこで俺は周囲を見渡す。他の客達が俺を不審な眼差しで見ていて、一瞬でも視線が合うと顔を背けさせる。

 「悪い」と言いながら椅子を起こし、腰掛ける。侑斗はカップの中身をスプーンでかき回しながら言う。

「少し疲れてるんだ。休む暇もなかったからな」

 確かに、この数年間は忙しすぎた。「敵」は倒しても倒しても蜂起して世界征服に乗り出して、どこから涌いて出てくるのか根城を叩こうと探し回ったが一向に見つからない。もしかしたら、連中が紛れ込んでいる人間の社会こそが、奴らの拠点なんじゃないか、と思えてくる。

 だから、俺達は万一のためにこうして街に留まっているしかない。俺達は緊急時でなければ動けない。俺は気を張り過ぎているのだろうか。まるでつい最近まで戦場にいて、自宅で家族と穏やかに過ごすひと時でも戦場の緊張と興奮が冷めない帰還兵のように。

 そろそろ冷めた頃合いのコーヒーを啜ろうとしたとき、悲鳴が聞こえてくる。咄嗟に顔を向けると同時に、俺にはやっぱり、という確信があった。予感は確かだった。

 ウジみたい涌く、ショッカーによる侵略が始まった。

 

 

   02

 

「泊、事件だ!」

 ドライブピットの扉を開けると同時、侑斗が言う。ガレージで佇む進ノ介は「分かってる」と俺達を鎮めるように言った。まるで俺達が来るのを待っていたようだった。

「その前に、聞いてほしいことがあるんだ」

 「何言ってんだ」と侑斗が詰め寄ろうとするが、俺は「待て」と手でそれを制す。

「聞かせてくれ」

 ショッカーは街で暴れている。ここで悠長におしゃべりなんてしている場合じゃない。でも俺は、危機感よりも好奇心が先行している。進ノ介はもしかしたら、俺と同じ違和感を抱いているのかもしれない、と。

 進ノ介が話したことを要約すると、こうだ。

<list:item>

 <i:俺達は同じ時間を繰り返している>

 <i:時間が戻る度に記憶もリセットされる>

 <i:だから時間の繰り返しに気付くことができない>

</list>

 進ノ介が告げたことを要約して、俺は悟る。俺が抱いていた違和感。あれはデジャヴってやつだ。初めて体験するはずが、なぜか以前にも体験したように錯覚する不可思議な認識。

 この時間が繰り返されているなら、「今日」という日は何回目の「今日」なのか。俺は何度、侑斗とショッピングモールでコーヒーを飲んだのか。俺は何度ショッカーに襲われる人々を見たのか。そして何度戦ったのか。

 数えようにも、記憶がごっそりと抜け落ちているから分からない。時間の繰り返しなんて荒唐無稽なことが事実だとしても認識のしようがない。でも、進ノ介は例外のようだ。

「だとしたら、お前の記憶もリセットされてるはずだ。どうして時間が戻ってるって分かる?」

 俺の質問に、進ノ介はきっ、とまなじりを上げて答える。

「俺が死んだからだ」

 なぜそれが時間の繰り返しを認識できる根拠なのか。たとえ前の時間で死んだとしても、死ぬ前の時間まで巻き戻ればその記憶もリセットされているはず。

 「ベルトさん、俺のデータを」と進ノ介は後ろへと振り返る。視線の先にいるのは人ではなく、台座に乗ったベルトのバックルだ。

 進ノ介をドライブに変身させるドライブドライバー。それは単なる変身装置ではなく人格を持った機械だ。人工知能、とはまた違う。既に亡きベルトを開発した科学者クリム・スタインベルトが、自らが開発したアンドロイドに殺される前にベルトへ人格を移していたらしい。だからこのベルトさん――命名したのはネーミングセンスが破滅的な進ノ介だ――なる機械は生前のスタインベルトその人とも取れるし、あくまでコピーされた人格だから別人とも取れる。「自分」が「クリム・スタインベルト」と認識できるか否かは、この機械のみぞ知ることだ。

「私は装着者の健康状態を常に監視している」

 ベルトさんがそう言うと、彼――「それ」と呼ぶべきかは迷い所だ――を乗せた台座が搭載された映写機の光を放ち、スクリーンのない宙にホログラムが投射される。映っているのは、心拍数や脳波の波長とその他こまごまとした進ノ介のメディカルデータ。

「進ノ介に言われて、そのデータを書き換え不可能な領域に移動した」

 ホログラムが赤のレイヤーに覆われ、deadというロゴが浮かび上がる。

「進ノ介は確実に一度死んでいる。しかも、ついさっきだ」

 ホログラムが消えた。ベルトさんの示すデータを踏まえ、進ノ介があとを引き継ぐ。

「記憶は曖昧だけど、誰かが死ぬ度に時間がリセットされてる」

 多分この時間のリセットは何度も敢行されたんだろうな、と俺は考えていた。何度も繰り返されていくうちに進ノ介は俺と同じデジャヴを感じ取り、ベルトさんに自分の死を記録させた。この発見に至るまで誰が何度死んで、時間が巻き戻っているのかは分からない。進ノ介だけじゃなく侑斗も、剛も、そして俺も、反復する時間のなかで死んでいるのかもしれない。

「認めるしかないみたいだ」

 侑斗がため息交じりに言う。

「何とか、この繰り返しから抜け出す方法を考えないと」

 進ノ介の言う事はもっともだ。この世界の歪みを修正しないと、「今日」という時間は永遠に繰り返される。誰かが死ぬと世界はそれを無かった事と忘却し、人々は明日が来ると疑わないまま同じ時間を過ごし続ける。

 停滞なんてさせない。俺が人間を守るという意思を確固なまま保つために。

「繰り返す度に、事態は悪くなってる」

 進ノ介の言葉に、俺は思わず「どういうことだ?」と聞いている。

「ショッカーの勢いが増してるんだ」

 それはつまり、時間がリセットされても同じ出来事が必ず繰り返されるわけではないということだ。俺達は前の体験を覚えていなくて、振り出しに戻る。でもショッカーは時間を繰り返す度に組織としての力を増していき、世界征服に近付いていく。

 こんな敵にとって都合の良い現象は、明らかにショッカーの仕業だ。神の加護なんかにしては贔屓が過ぎている。

 「そいつは不味いな」と侑斗が腕を組む。俺も外の状況を思い出し、ドアへ向かって歩き出す。「どこ行くんだ」と進ノ介が言ってきて、俺は足を止める。

「こうしている間にもショッカーは暴れてる。敵が勢いを増してるなら尚更だ」

「待ってくれ。言ったろ。誰かが倒れる度に――」

「だからって、ショッカーを黙って見てろって言うのか?」

 時間がリセットする引き金は誰かの死。それを防ぐための方法なんて簡単だ。

「死ななければいいんだよ」

 そう言って俺はドアを開けて、ドライブピットを後にした。

 

 

   03

 

 オートバジンで現場へ向かう途中、対向から急停止して行く手を阻んだバイクに舌を打つ。こんな時に何だってんだ、と思いながら俺はオートバジンを停止させる。

<surprise>

 苛立ちは一瞬で消え失せる。大型のネイキッドバイクに跨る男の面影は見間違えようがない。

 俺はヘルメットを脱いでシートから降りると、目の前に忽然と現れた男の名前を呼ぶ。

「海堂」

 男はゴーグルをヘルメットへ上げ、緊張感も無くにやにやと笑みを浮かべながら言った。

「よう乾、久し振り」

 それは、まさに海堂直也だった。数年前、オルフェノクを滅ぼす戦いの直後に去っていった海堂そのものだ。数年という時間で年齢を重ね、肌の張りがなくなりかけて目尻のしわも目立ってきているが、「まあまあ」と落ち着きなくシートから降りる挙動はまるで変わっていない。

</surprise>

 とはいえ、俺も30歳を越えて老いを感じ始めているが。

「ほらご覧なさい。いいお天気、ねえ」

 へへへ、と笑いながら歩いてくる海堂を、俺はじっと見つめる。確かに今日は雲ひとつない晴天だ。同じ空はひとつとしてない、とか誰かが言ってた気がするが、この青空は何度も存在しているものだ。

「ちゅーか今日はよ、頼みがあって来たわけ」

 「頼み?」と俺は身構えながら尋ねる。数年振りに現れて何を要求してくるつもりだ。

 海堂は普段とは正反対な、真面目な顔つきをした。

「この件から手を引け」

「この件……。時間が繰り返してることか?」

 俺の質問に海堂は応えず、代わりにその場で土下座をする。勢いをつけすぎて、ヘルメットがアスファルトに当たるごつん、という音と海堂の「いて」という声が聞こえてくる。こいつにとっては大真面目かもしれないが、こんな姿勢の崩れた土下座なんて相手の神経をむしろ逆撫でするだけだろうに。

 でもこいつのふざけた姿を見て、ああこいつやっぱり海堂だな、と安心してしまう。

「頼む。ほら見て見て、俺様がこんなんなってんだぞ。これは頼み聞いてくれんだろ」

 普通は聞かねえよ、そんな態度。

 呆れながら俺は最も重要な質問を選別する。

「何か知ってんのか?」

「理由は説明できん。でもそうしてくんないともっと悲劇が起きることになる!」

 こいつに説明を求めたことが間違いだった。数年振りの再会のせいかこいつの性分をすっかり忘れていた。

「いま急いでんだ後にしてくれよ」

 ハンドルにかけたヘルメットを取ろうとすると、「何だよお。え、も、も、もう行っちゃった? ちょ、ちょっと待って」と海堂は伏せていた頭を上げて、その顔に見るのが随分久しい黒の筋を浮かび上がらせる。

「しょうがねえなあ。変身!」

 海堂の体が、灰色のスネークオルフェノクに変貌して立ち上がる。

 スネークオルフェノクが振り下ろす拳を避けながら、俺は「海堂!」と呼びかける。何度かの拳と回避の応酬のなか、俺はこの状況ならではの推測を口にしている。

「お前もしかしてショッカーに――」

 スネークオルフェノクが掴みかかってきた。腕に込められた力の不自然な弱さに俺は逡巡する。オルフェノクの筋力だったら、人間の姿のままでいる俺なんて簡単にねじ伏せてしまうはずだ。海堂は明らかに手加減している。

 どこからか、銃声と共にスネークオルフェノクの首筋が光弾で穿たれる。不意打ちに地面を転がるスネークオルフェノクへ、次に光弾が飛んできた方向を俺は見やる。

 白の鎧に首元のマフラーを翻し、マッハが飛び込んでくる。マッハは手にした銃身をスネークオルフェノクに打ち付け、「やめてくれ」という俺の声には耳も貸さずに攻撃を続ける。

<tool:Zenrinshooter>

 Zenrin

</tool>

 マッハが銃身に備え付けられたホイールを回した。ホイールが青く光り、エネルギーが蓄えられた銃身がスネークオルフェノクの腹をしたたかに打つ。

「ちょ、お前何だ一体!」

「何だじゃねえ!」

 一方的な戦いを傍観するのに耐え切れず、俺は「やめろ!」と追撃を加えようとしたマッハの腕に掴みかかる。生身のままだから容易に振りほどけるが、マッハはそうせず俺に青い眼を向ける。

「あいつは仲間なんだよ」

 「え?」と漏らし、マッハはスネークオルフェノクを見やった。散々殴られ蹴られたスネークオルフェノクは息をあえがせ、それでも発せられる「何だこの!」という声にはやはり緊張感が感じられない。

「覚えてろよ」

 小悪党じみた捨て台詞を残して、スネークオルフェノクはよろけた足取りで走り去っていく。マッハは追おうと体を半歩だけ進めるが、足を止めて俺に向き直る。

「だったら何でお前を襲ったんだよ?」

「それは………」

 どう説明すればいいのか分からなかった。俺から答えを得ることを諦めたマッハは、苛立たしげに俺の腕を振りほどく。

 海堂が何の目的をもって現れたのか、俺にも分からないのだから。

<change: disarmament>

 Otsukahre

</change>

 バックルから変身に使うバイクの模型を抜いて、マッハのスーツが消滅する。

「お前は何でここに来たんだ?」

 突然のことだったから、疑問が今更になって湧いてくる。剛は憮然とした表情で答える。

「姉ちゃんと映画観に行ってたら進兄さんから安全な場所にいろって連絡が来てさ。何かあると思ってその辺走ってたらお前があいつに襲われてるの見たんだよ」

 「何でまた……」と俺は呟く。霧子だけならともかく、貴重な戦力の剛まで避難させるなんて。

「それより、ショッカーが暴れてる」

 「何だって」と剛は目を見開く。意図なんてものは後で進ノ介から聞けばいい。最も優先すべきことは、ショッカーがもたらした混沌を鎮めること。

 誰かが死ねば時間が巻き戻され、ショッカーは更に勢いを増す。ならば死なずにショッカーを倒せば済む話だ。

 立ち止まって面の皮厚く人々を見捨ててしまえば、俺達の存在する意味が失われる。

 

 

   04

 

 ショッピングモールの壁を血飛沫が彩っている。床なんて一面が真っ赤だから、元は何色のタイルが敷かれていたかなんて分からなくなっている。床に広がる血をびちゃ、と鳴らし、靴とズボンを飛沫で赤く汚しながら生者たちが戦闘員から逃げている。床に転がる死者たちには目もくれず。

<list:item>

 <i:太鼓腹を裂かれて腸を零した中年男>

 <i:顔の右半分を抉られて脳味噌を零した若い女>

 <i:平たい胸に開けられた穴を血で埋めようとしている少女>

 <i:サッカーボールみたいに転がる少年の顔>

 <i:血>

 <i:血>

 <i:血>

</list>

 死体のバリエーションはとにかく豊かだ。リアルタイムでショッカーが生産する死体たちの間を縫って、ファイズに変身した俺とマッハに変身した剛は混沌へと走っていく。

 標的はチーターカタツムリとヒルカメレオン。

 なるほど、確かに時間は繰り返していると確信できる。俺はこの2体の幹部を初めて見るはずが、名前を知っている。こいつらと何度も戦っているが、俺はその度に記憶が起点に戻ってこいつらの力を探りながら相手しなければならない。

 チーターカタツムリの殻を砕くと、粘り気のある白い人工血液が亀裂の間から漏れ出す。腹を蹴り飛ばし、びちゃりと奴が血に濡れた地面に倒れると、俺はベルトから外したポインターにメモリーを挿す。

<tool:Faiz pointer>

 Ready

</tool>

 「貴様あ……」とチーターカタツムリが立ち上がる。こんな奴に俺達は何度も負けたのか。前の時間での自分自身に苛立ちながら俺はポインターを右脚のホルスターに付け、フォンのENTERキーを押す。

<technique>

 Exceed Charge

</technique>

 高く跳躍した俺の右脚、そこに装着されたポインターから赤い光線が放たれる。光線はチーターカタツムリの寸前で傘のように開き、その傘へ俺は右脚を突き出してキックを放つ。

 傘へ吸い込まれた俺の体はドリルのように敵の体を掘削しようとするが、なかなか掘り進められない。チーターカタツムリは肉の感触を持ちながらも固く、エネルギーを高めたキックでもその体を貫くことができず俺は跳ね返される。

 地面を転がった後に、俺は店舗の壁に叩きつけられたチーターカタツムリを見やる。腹から白い血を流しながら奴は俺をじっと睨むも、その頭を垂れて動かなくなる。

 敵は時間のループを経る毎に強くなるようだが、今の段階なら勝機はまだ俺達にある。確かに手こずる相手だが、進ノ介と侑斗が来ればこのループを終わらせることができるはずだ。

 俺はヒルカメレオンと戦っているマッハに加勢する。こいつにも必殺のキックをお見舞いすれば、この混沌は鎮まるはずだ。ポインターを右脚に付けたまま、俺はマッハと共に拳を打ち、蹴りを入れていく。

<formchange>

 Signalbike Shiftcar Rider Dead Heat

</formchange>

 ベルトのアイテムを交換したマッハが、ドライブに似た赤い装甲の形態に変わる。

<technique>

 Hissatsu Fullthrottle Dead Heat

</technique>

 俺の渾身の拳を受け、地面に伏せたヒルカメレオンへ赤く燃え上がるようなエネルギーを纏ったマッハが斜め上空からキック体勢で飛んでくる。よろめきながらも立ち上がったヒルカメレオンは顔面にキックを食らった。マッハの周囲に陽炎を発生させるほどのエネルギーと、ヒルカメレオンの頭に埋め込まれた爆弾が炸裂して体内からの爆炎で張り裂ける。

「良い()だった――」

 焼け焦げた敵の肉片が飛散していくなか、地面に降り立ったマッハは言葉を詰まらせた。一瞬を経て「思い出した」と。

「こいつを倒した後………」

 何を思い出したんだ、と聞こうとしたとき、不気味な笑い声が聞こえてくる。視線を向けると、さっき沈黙したはずのチーターカタツムリがゆっくりと粘液で照りつく左腕を振り上げている。だが確かにダメージはあるらしく、奴が歩いてきた軌跡にはしっかりと腹から流れ続ける白い血が残されていた。

 マッハは呟く。

「………死んだんだ」

 「ほらよ!」とチーターカタツムリが左腕を振る。腕から飛び散った紫色の毒々しい粘液がマッハにかかるとゲル状に変わり、わずか数秒足らずで瞬間接着剤のように凝固していく。

 「動けない……!」とマッハは身じろぎするが、かけられた凝固剤は更に固まっていき完全に立ったままの姿勢を固定させられる。「食らえ!」と掲げられたチーターカタツムリの両腕の間にエネルギーが迸り球形を作っていく。

「剛!」

 俺は左腕の腕時計型デバイスからメモリーを抜き、フォンに挿した。

<formchange>

 Complete

</formchange>

 胸の装甲が開き、形態を変えると同時に俺は駆け出す。

<system: acceleration>

 Start Up

</system>

 デバイスのスイッチを押すと、10秒のカウントダウン開始と同時に加速装置が起動する。一瞬で間合いを詰めた俺は跳躍する。脚に付けたままだったポインターから光線が放たれ、次に俺のキックがチーターカタツムリを爆炎へ変えるのに1秒も掛からなかったと思う。キックを食らう直前に奴は光弾の発射に成功したようで、それは既に発射地点から目標であるマッハまでの距離を半分以上飛んだところだ。

 四散した奴の肉片が背中にべちゃりと落ちたのも構わず、俺はすぐさまマッハへと走り出した。光弾よりは俺のほうが速い。手が届くまであと1メートルを切り、俺は手を伸ばす。

 そして、目の前で光弾が炸裂した。

 すぐ近くにいた俺は吹き飛ばされる。ゼロ距離でのダメージが相当堪えたのか、まだ5秒残っていたカウントが止まり、フォンが電子音声を鳴らす。

<formchange>

 Reformation

</formchange>

 加速が終わり、胸の装甲が閉じられる。煙とまだ燃え残っている炎のなかで、マッハのスーツが消えた剛が横たわりながら体をびくん、と痙攣させている。肺が破裂したのか、こひゅー、と弱い呼吸をする度に咳と共に血を吐き出している。

<shout>

「剛! 剛、しっかりして!」

</shout>

 いつからいたのか、駆け寄ってきた霧子が剛の肩を揺さぶって意識を繋ぎとめようとしている。それと同時に、進ノ介と侑斗が走って来た。どこで何をしていたのか。それを追求するのに既に事態は遅すぎる展開にまできている。

「俺達のなかに壊れた歴史改変マシンを動かすほどの、強い想いを持った人間がいたんだ」

 剛と、剛を揺さぶる霧子を見て進ノ介が言う。その目は陰を帯びているが、悲しみとはまた違う色だ。進ノ介と侑斗は何かを知ったのだろうか。この時間のループの真実を。

「姉…、姉ちゃん……――」

 眼球内の血管が切れたのか、真っ赤になった剛の目が閉じられる。微かに聞こえていた弱い吐息が消えた。

 どうしてこうなるんだ。俺は「剛…」と泣きながら弟に呼び掛ける霧子を見つめながら、自分の無力さを呪った。あのときチーターカタツムリを確実に始末しておけば、死んだと確認しておけば、こうはならなかったのに。俺はいつもそうだ。ようやく手を伸ばしたときには手遅れで、全部が最悪の結末へと向かってしまう。

 ごめん、霧子。

 あんたの弟を、助けてやれなかった。

 ごめん。本当、ごめんな。

「それは、剛に生き返ってほしいと願う霧子だったんだ」

 悟った進ノ介の言葉の後に、全てが静止する。

 

 俺はあと、何度この光景を見せられる。

 何度、誰かの死を見れば、このループは終わるんだ。

 

<countdown>

 <i:3>

 <i:2>

 <i:1>

 <i:Time Out>

</countdown>

 

 

   05

 

 「気付いた」とき、俺は自分がカフェでコーヒーを冷まそうとしていることに激しく動揺した。ついさっきまで剛の亡骸を霧子が揺さぶっているのを見ていたはずなのに。

 それが、時間が巻き戻ったと理解するのにしばらくの時間が必要だった。剛が死んだという「さっき」の記憶。侑斗とカフェに入ったという記憶も「さっき」のはずで、同じ時間帯でありながら全く様相の異なる記憶が俺の頭に駆け巡っている。まるで、場面の繋がりにまったく取り纏めのない映画を見せられたような困惑だ。雨が降っているシーンが次へ切り替わったとき、場所も時間も同じシーンのはずなのに何故か雨が止んでいるような、そんな違和感。

 侑斗も俺と同じらしく、コーヒーをかき回すスプーンを止めて頭を押さえつけていた。

「泊のところへ行くぞ」

 鬼気迫った顔で言う侑斗に、俺は黙って頷く。状況を整理するには、まだ頭を冷やさなければならなかった。

 

 

   06

 

 ドライブピットには皆が集まっていた。俺と侑斗と進ノ介と霧子。そして、死んだはずの剛が。

 ここへ来る間に、俺は時間にまつわる歪みを全て思い出した。どうやら時間の繰り返しによる記憶リセットも、完璧というわけじゃないらしい。侑斗と進ノ介も「さっき」のことを覚えていて、せっかくの非番に呼び出されて不貞腐れた霧子と剛にまずこの時間の歪みについて説明しなければならなかった。

 まず、どうやって真実を知ったのかを説明しなければならない。

 侑斗の持つ列車、ゼロライナー。

 正しい時間の運行を守るために誰が製造したのかも分からない列車は過去と未来、制約はあるそうだが時空を超えるタイムマシンでもある。時間を遡る術を持つ侑斗は時の列車に乗って過去へ行き、この時間の繰り返しの原因を見つけ出した。

 歴史改変マシン。

 ショッカーが世界征服のために作り出した、名前の通り歴史を改変させる力を持った究極の機械。

 ショッカーはマシンで本来の歴史なら存在しない最強の改造人間、仮面ライダー3号を生み出した。3号はショッカーを滅ぼした1号と2号を葬り、天敵がいなくなったショッカーが世界征服を達成する歴史をもたらす。

 多くの仮面ライダー達がショッカーの傘下に入る世界で、人間を解放するために反旗を翻したライダー、即ち俺達が歴史改変マシンを破壊することに成功した。

 大きな犠牲を払った末に偽りの時間は終わり、世界は元に戻ったはずだった。でも、壊れた歴史改変マシンは再起動し、ショッカーによる世界侵略は再開される。

 進ノ介は敵の幹部から重要なことを聞いていた。

 壊れた歴史改変マシンを動かしていたのは、俺達のなかにいる強い想いを抱いた者。

「私のせいで、時間が………」

 全てを聞いた霧子が、戸惑いと懺悔の入り混じった声を漏らす。

 進ノ介がマシン再起動の鍵として見出したのは彼女だ。

 弟に生きてほしいと願う霧子、と。

「その可能性はかなり高い」

 進ノ介はあくまで冷静に言う。続けてベルトさんが。

「それが本当なら、この繰り返しを抜け出すためには、歴史改変マシンを壊すしかない」

 「だったら」と剛が切り出す。

「早くそいつを見つけて完全に壊せば――」

 「そうしたいのは山々だが、簡単な話じゃない」と侑斗が遮った。「どうして?」と苛立たしげに剛が聞く。俺も話を聞きながら気掛かりだった。歴史改変マシンを動かす鍵が、どうして霧子でなければならないのか。

 俺がそれを質問する前に、進ノ介が答えを告げる。とても辛そうに弱々しく。

「マシンを壊せば、元の正しい歴史に戻る。剛が死んだ歴史に」

 俺は悟った。進ノ介が濁していた大きな犠牲、それは剛だった。剛はマシンを巡る戦いのなかで死んだ。剛がこうして生きているのは、霧子の想いでマシンが時間を歪ませているから。時間の歪みを正せば、剛は死者として現世から消える。

「八方塞がりだな……」

 ベルトさんが言った。機械で表情なんて分からないから、声色から苦い気分と判断するしかない。

 俺は腕を組みながら、湧き上がる怒りを抑えつけるのに必死だった。大切な人に生きてほしいという願いに罪はない。霧子はただ家族を愛しているだけだ。彼女の剛に対する愛情が世界に混沌をもたらした。彼女の世界で最も純粋で美しい想いにつけ込んだショッカーへの憎悪が俺のなかで募っていく。

 あれほどお調子者で喋り好きだった剛が、無言でガレージから出ていく。「剛」と進ノ介が後を追った。

「そんな、剛が……」

 空虚を見つめる霧子が、嗚咽交じりに呟く。俺も侑斗も、彼女への慰めの言葉を見つけることができない。何を言っても無責任だ。何もせずにいたらショッカーが世界を手中に収めて、マシンの破壊に成功したら剛は死ぬ。

 俺はガレージのドアへと歩き出す。「巧?」と侑斗が呼んできて、俺は振り返ることなく冷静を繕って応える。

「外の空気吸ってくる」

 エレベーターが来るのも待ち遠しく、俺は非常階段を上って地上に出る。正面玄関の自動ドアを潜ろうとしたところで、「どこに行くつもりだ?」という進ノ介の声が聞こえてくる。俺は玄関の陰に隠れて、進ノ介と剛を見つめる。

 「八方塞がりなもんか」と剛は言った。

「俺が死ぬ。ただそれだけだ」

「お前それだけってな――」

「こうしている間にも、ショッカーの世界征服にどんどん近付いてくんだろ?」

 剛が進ノ介に笑みを向けた。

「簡単じゃないか。俺の命と引き換えにこの世界を守る。世界を守ってカッコよく死ぬってのも悪くない」

 ああ、あの目だ。あの眼差しを俺は知っている。死ぬだなんて笑いながら言う、趣味の悪すぎる冗談を知っている。同じ目をした奴がいた。俺に命を分けてくれたあいつと、剛の顔が重なった。

「馬鹿馬鹿しい」

 そう言いながら、俺は陰から出て剛へと歩み寄る。「何?」と剛があくまでからかうように聞いてくる。その顔が更に俺を苛立たせる。

「本気でカッコいいと思ってんのか? いるんだよなあ、そういう馬鹿が」

「俺が馬鹿だって言うのかよ……!」

<anger>

「大馬鹿だろうが!」

</anger>

 我慢の限界だった。思わず年甲斐もなく怒鳴ってしまう。

「お前は満足かもしれないがな、残された奴どうすんだよ? ずっとお前を死なせたことを、胸のなかに抱えちまう」

 剛、お前は何も分かっちゃいない。死者っていうのは残された生者を呪縛するんだ。たとえ最期に残した言葉が祝福だろうが怨恨だろうが、この呪いは絶対に解けない。自分が悪かったんじゃないか、自分がその死の原因なんじゃないか、ってな。そういった想いと記憶にずっと苦しめられる。忘れようとしても不意に思い出すし、眠っているときに夢として現れる。霧子がお前を想う気持ちが大きければ大きいほど、苦しみも肥大してくんだ。お前はそんな呪いを霧子にかけるつもりなのか。

 喉まで出かかった説教を一旦噛み砕き、代わりにため息として吐き出す。

「………もうたくさんだ。誰かが犠牲になるのは」

 俺が呟いた言葉の後に、暗い沈黙が漂う。こんな気分でも空は晴天だ。この晴天を曇り空や雨空へ変えるのに、世界は剛という代償を求めている。

 やっぱり、オルフェノクがいなくなっても世界は変わっちゃいない。調和のために過酷な代償を求め続ける。

 進ノ介が沈黙を破った。

「考えよう。何とか全員で、この繰り返しから抜け出せる方法を」

 

 

   07

 

 時間のループから抜け出すのに最適なのは、歴史改変マシンを破壊すること。でもそうしたら、剛は死ぬ。

 なら選択はもうひとつを取るしかない。マシンを破壊せず、ショッカーを倒し続けること。敵が現れれば倒す。何度現れようが、犠牲者をひとりも出すことなく勝てばいい。

 俺達が頭を振り絞って出した選択はとても厳しいものだ。歴史が改変されたままショッカーを叩くには、奴らの本拠地を見つけ出さなければならない。そしてマシンを見つけ出し、誰も破壊できないよう俺達が管理する。

 そうするには、街で暴れている幹部を倒しながら、本拠地を探す必要があった。役割を分担した結果、幹部は俺達が倒し、進之介と剛は本拠地の捜索ということになった。

 ショッピングモールに現れたショッカーの勢力は前よりも増している。それに伴い、屍の数も増えていた。

<system: acceleration>

 Start Up

</system>

 加速装置を起動させ、俺は敵の群れへと突っ込んでいく。すれ違い様に戦闘員たちの頭を拳で穿ち、埋め込まれた爆弾を炸裂させていく。渦中の中心にいる幹部たち。俺は跳躍し、奴らの周囲にポインターから放たれたマーカーを包囲させ、高速のキックを打ち込んでいく。

 チーターカタツムリとヒルカメレオンは仕留めた。飛び散った奴らの人工血液が、爆炎で焼かれ地面に焦げ付く。

<system: acceleration>

 Time Out

</system>

 加速が終わった。フォンからアクセル専用のメモリーを引き抜いて、俺は形態を元に戻す。

<formchange>

 Reformation

</formchange>

 俺はアリマンモスと戦うゼロノスに加勢した。後はこいつだけだ。こいつさえ倒せば、ひとまずはショッカーを食い止めることができる。後からまた次の幹部が現れるかもしれないが、そうなれば俺達が倒すだけのこと。

 戦いが永久に続こうが、構うものか。俺は戦うと誓った。ファイズとして、仮面ライダーとして。

 ゼロノスの剣がアリマンモスの牙を叩き折る。俺は奴の長い鼻を掴み、腹に蹴りを入れる。奴が飛ぶ際、俺の引っ張った鼻が千切れた。断面から流れる白い血がまるで鼻水のように垂れる。俺は千切れた鼻を無造作に投げ捨て、ポインターにメモリーを挿す。

<tool:Faiz pointer>

 Ready

</tool>

 ポインターを右脚に付け、はフォンのENTERキーを押した。

<technique:number>

 <i:Full Charge>

 <i:Exceed Charge>

</technique>

 俺は跳躍し、奴をポインターから放たれたエネルギーで拘束する。ゼロノスが武器をボウガンへと変形させ、放った矢がアリマンモスの腹を貫く。一瞬遅れて俺のキックが、奴の上半身を吹き飛ばした。

 着地した俺はアリマンモスを見やる。下半身を失ったアリマンモスはまだ生きていて、腕をじたばたと動かしている。いくらショッカーの幹部とはいえ、血液を大量に失えば間もなく死ぬ。こんな姿では、もう何もできない。

 俺達がベルトからツールを抜き取って変身を解いたとき、プロペラを回す音が聞こえてくる。アリマンモスが空を仰いだ。釣られて俺と侑斗も視線を追う。

 飛行機だった。機首にプロペラの付いた、前時代的な軍用を思わせる機体の両翼が火を噴いた。機銃だ。大型機械だからこそ抱えられる大口径から弾丸が雨あられのようにショッピングモールの大型施設の向こうへ降り注ぎ、耳をつくほどの爆発音の後に黒煙が立ち昇る。

 アリマンモスは「おお……」と感嘆の声をあげる。

「遂に誕生した。我らがショッカー最強の戦士、仮面ライダー4号が」

 「4号だと?」と侑斗が言う。アリマンモスは気味悪く笑い、俺達を指差す。

「これで我らの勝利は確定した。ショッカー万歳!」

 アリマンモスは哄笑する。分断された腹から血を流し、やがてその腕が力なく地面に投げ出されて自分の血に浸っていく。

 飛行機から人影が出てくるのが見えた。影の両腕からマントがムササビの被膜のように広がり、気流に乗って下へと滑空していく。

「行くぞ!」

 侑斗の呼びかけに俺は「ああ」と応じて駆け出す。方角からしてモールの駐車場だ。バイクに戻る間がもどかしく、俺達は犠牲になった人々の屍を跨いで影が降りていく駐車場へと疾走していく。

 施設を迂回するのも面倒で、俺達は建物のなかを突っ切っていった。施設は破壊しつくされていて、瓦礫と死体、それらが放つ焦げ臭さと鉄臭さにむせ返りそうになった。駐車場に出ると、機銃でアスファルトの地面が抉られている。流れ弾を受けた車が所々で炎上していて、運悪く中にいた者の赤黒く焦げた死体が割れたフロントガラスから上半身だけ出しているのが見える。逃げようとして力尽きたらしい。

 そんな焦げ臭さが一層際立つ駐車場の真ん中で、降りてきた影はドライブと戦っていた。いや、一方的になぶっていると言うべきか。

 地面に伏すドライブの首根っこを、それは掴み強引に立ち上がらせる。俺達に気付いたのか、その赤い目をこちらに向けてきた。

 見た目はまさに仮面ライダーだ。ショッカーによって生み出された、1号と2号と同じ赤い目と風によってエネルギーを生み出すベルトを持つ。1号、2号、歴史改変マシンによって生まれた3号の系譜を継ぐショッカー最強の、そして最悪の改造人間。

 仮面ライダー4号。

 その顔を見て俺は怖気づいた。4号の口元は生身の、肉の弾力を感じ取れる唇が確かにある。奴の元になったのは人間だと分かった。だが、その色は全く血色が見えなかった。明らかに生きた人間の色をしていなかった。人間とはテクノロジーの力を借りれば、こんな屍のような色を浮かべてもまだ生きていけるのか。

「こいつを作り出すことが、ショッカーの最終目的だったのか」

 4号を睨み、侑斗は身構える。ドライブを殴り飛ばした4号の唇が歪み、「最終目的?」とせせら笑う。俺達は地面を転がるドライブへと駆け寄った。随分と酷くやられたらしい。息をあえがせるドライブの胸部装甲に亀裂が走っている。

「それは俺の力で、世界の全てを征服することだ」

 4号は掲げた拳を握り締める。既に世界は我が手中にある、とでも言うように。歴史の歪みによって生まれた戦士。こんな悪趣味な冗談、いかにもショッカーらしい。何度も世界を守るために戦ってきた俺達を葬るために、同じ仮面ライダーを差し向けるだなんて。

「そんなことさせるか!」

 俺は噛み付くように言う。まだショッカーに負けてはいない。こいつが世界征服の要になるなら、奴らの侵略が始まる前にここで倒せばいい。

 俺と侑斗はベルトを腰に巻き、システムを起動させる。

<change:sequence>

 <i:5・5・5・ENTER>

 <i:Standing by>

</change >

 

「変身!」

 

<change:number>

 <i:Complete>

 <i:Altair Form>

</change >

 俺達は同時に駆け出した。防御の体勢も取らず佇む4号の胸にふたり分の拳を叩き込む。避けることもせず、拳を受けた4号はにやりと笑みを浮かべて俺達の腹に拳を打ってくる。強烈な一撃で、俺はごほっ、と咳と共によろめく。4号は続けざまに突っ込んできたドライブに膝打ちを見舞った。俺もゼロノスも、臆すことなく4号に拳を打っていく。だが4号は俺達の攻撃なんて意に介さず、逆に俺達は4号の攻撃を受ける毎に痛みで身を悶えさせる。

 怖ろしい強さだ。3人がかりでも全く歯が立たず、俺達の体にダメージが着々と蓄積されていく。

「弱い!」

 ゼロノスの顔面に裏拳を見舞った4号が、そう吐き捨てる。

「その弱さ故に、時間を繰り返し続けるのだ!」

 4号の蹴りを食らったゼロノスの体が、宙を飛んで地面に叩きつけられる。耳孔に入り込んできたローター音の直後、ゼロノスの周囲を空から降ってきた弾丸の雨が砕いていく。脱出経路を塞がれたゼロノスのもとにミサイルが落とされた。炸裂した爆薬が、ゼロノスの叫びを爆音と爆炎によってかき消す。

「貴様らがショッカーに勝つことは絶対にない。この俺と、我が愛機スカイサイクロンがある限りな」

 ローター音を勝利の雄叫びのように鳴らしながら、スカイサイクロンが空を旋回している。

 爆心地に漂っていた煙が、風に流されていく。ゼロノスの鎧が消えた侑斗は、荒い呼吸を繰り返しながらも目蓋を懸命に持ち上げている。まだ生きていた。右腕を肩から吹き飛ばされているが、止血して適切な処置をすればまだ助かる。

 微かな希望を抱いた俺の顔面に、4号の拳が飛んでくる。マスクが割れた。スーツの形成維持が困難と、アラートがけたたましく鳴り響いている。亀裂のせいでまともに視界が確保できず、俺の闇雲に振った拳が掴まれて捻り上げられる。助けに入ってきたドライブの首が掴まれたのが僅かに見えて、喉を圧迫された進ノ介の声にならない叫びが聞こえてくる。

 4号は俺達を圧倒的な腕力で投げ捨てた。

「止めだ。我が力を思い知れ」

 4号は高く跳躍した。咄嗟に立ち上がった俺の視界に、緑色の光が入り込む。

「ライダーキィック!」

 何だあれは、と思った瞬間、「危ない!」とドライブが俺の体を退かした。「進ノ介」と俺がままならない視線を向けると、目の前で4号のキックを受けたドライブが爆炎に呑み込まれるのが見えた。

<shout>

「進ノ介!」

</shout>

 爆炎はすぐに治まっていく。炎上するほどの燃料がないからだ。煙の中から、地面に伏せる進ノ介の姿が見えてくる。進ノ介の顔から肩、胸の順に煙が晴れていくと共に、俺は目を剥いた。

 進ノ介は胸から下を失っていた。背中から伸びる背骨が突き出して、途中で折れている。即死だったようで、こちらを向く進ノ介の目は目蓋を閉じ切っていなくて空虚を見つめている。胸から下は離れたところにあって、それは胴体の様相を成さずぐちゃぐちゃの肉片と言ったほうがいい。繋がったソーセージのような管が腸と判断できる程度だ。

 すとん、とブーツの踵を鳴らし、4号が降り立つ。

「泊さん………」

 その声に俺は振り向いた。霧子だった。隣には剛もいる。銃声を聞いて駆けつけてきたのか。

「泊さん!」

 進ノ介の骸へ駆け出す霧子の肩を俺は掴んだ。

「駄目だ! あんたまで死んだら………」

 俺は4号を睨みつける。4号も俺を見つめていて、血色の失せた唇を歪ませて笑っている。

「これから世界は変わっていく。貴様らにとっての地獄、そして俺達にとっての楽園へとな」

<anger>

「ふざけるな……!」

 俺の怒りは4号ではなく、胸から上だけになった進ノ介と、既に事切れている侑斗に向けたものだった。

 どいつもこいつも、俺の前で先に死んでいきやがって。

 死んでも時間が巻き戻れば、お前らは生き返るだろうさ。でもな、死は死なんだよ。お前らを死なせたという後悔が、例え生き返ったとしても俺を呪うんだ。

 時間がリセットされて、こいつらが力を増して、そしてまた無残に死ぬ様を俺に見せつけるつもりか。

 今度こそ、今度こそ、という俺の誓いをどれだけ踏みにじれば気が済むんだよ。

</anger>

 さながら舞台役者のように両腕を広げ、4号は高らかに言う。

「さあ、地獄を楽しみな!」

 

<countdown>

 <i:3>

 <i:2>

 <i:1>

 <i:Time Out>

</countdown>

 

</body>

</ltml>

 


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