ラブライブ! feat.仮面ライダー555   作:hirotani

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 今回は文体をがらりと変えたので、「あれ、別作品?」と混乱すると思います。
 ご安心ください。『ラブライブ! feat.仮面ライダー555』ですよ。


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<ltml:lang=ja>

<body>

 

 

   01

 

<confession:number>

 <i:罪を背負い>

 <i:罰を求め>

 <i:彷徨いながら生き続け>

</confession>

 

 それでも俺は、正義は勝つと言えるのだろうか。

 

 

   02

 

 

 あれから数年が経った。「王」が死んで、世界は変わっただろうか。少しはましになっただろうか。時折出てくる疑問の答えは、俺が見る景色が十分に教えてくれる。

<list:item>

 <i:人は買い物へ行き>

 <i:職場へ行き>

 <i:学校へ行き>

 <i:泣いて>

 <i:笑う>

</list>

 何も変わっていない。オルフェノクの滅亡は、人間にとって何かの始まりにも終わりにもならなかった。とはいえ、まだオルフェノクは完全に滅びたわけじゃない。現に今、俺はまだ生きている。あれから奴らの姿を見る機会は極端に減ったけど、まだ人間のなかに潜んでいることだろう。人間を襲おうとしているか、それとも残された余生を人間として生きるか。

 きっと、オルフェノクという種が生まれた頃も、大して人間に変化は無かったのかもしれない。オルフェノクは太古から存在して、人間に紛れていた。人間はオルフェノクの存在に気付いたときに多少の混乱はあったのかもしれないが、それはごく一部のことだったに違いない。種は数年前の戦いに至るまで、人間との種族間衝突もなく静かに存続してきたのだから。

 だから世界は、人間は変わらず日々の暮らしを営み続けている。変わったことといえば、俺の戦う「敵」がオルフェノクでなくなったこと。世界を混沌に陥れようとする連中は次々と現れ、その度に俺は戦ってきた。新しい仲間と共に。

「おい、いつまでふーふーしてるんだ?」

 オープンカフェのテーブルを挟んで座る男が、コーヒーに息を吹きかける俺にからかうような視線を送ってくる。

「別に良いだろ。お前こそ砂糖入れ過ぎじゃないのか?」

 お返しに俺もからかうと、男は「俺の勝手だ」と不貞腐れた顔をして、シュガーポットからスプーンで掬った砂糖をカップへ入れる。もう何度も入れたものだから、コーヒーの味も香りも砂糖の甘さで消えていることだろう。

 この甘党男は桜井侑斗(さくらいゆうと)。今、俺と共に戦っている仲間のひとり。

 またの名前を、仮面ライダーゼロノス。

 人々から「仮面ライダー」と呼ばれる存在は、俺ひとりだけじゃない。他にもたくさんいるし、今もどこかで人間を守るために戦っているはず。

 何の脈絡もなく唐突に、離れた所から悲鳴が聞こえてくる。

 この悲鳴もまた、変わらない世界の様相のひとつだ。俺達がいくら守っても、人々の生活は簡単に、ほんの一撃で崩れてしまうほど脆い。俺と侑斗は互いに視線を交わし、注文したコーヒーを一口も飲むことなく席を立って悲鳴のもとへと駆け出す。

 近付くにつれて、悲鳴のこだまはどんどん拡大していく。俺にはもう、この悲鳴の根源が何者なのか分かっている。

 そう、奴らが現れた。オルフェノクの後に、世界を混沌へ突き落そうとする連中が。

<list:item>

 <i:遺伝子改造で強化された体>

 <i:カプセルで培養される姿形は人間そっくり>

 <i:でも知能は命令を理解する程度に低く設定されている>

 <i:「イーッ!」という声しか発することのできない>

 <i:言葉を持たない人造人間>

</list>

 体にフィットする黒装束の連中はまるでアリのように群体で現れる。逃げ惑う人々のなかには勇敢にも立ち向かう者がいるが、いとも簡単にねじ伏せられ、良心など取り払われた奴らによって容赦なく剣で斬られていく。

「数が多すぎる………!」

 苦虫を噛み潰すように俺は言う。これだけの数、俺達ふたりだけでさばき切れるものじゃない。

「泊を呼びに行くぞ」

 侑斗の判断に俺は「ああ」と同意し、踵を返してカフェへと引き返す。後方から待ってくれ、とでも言わんばかりに悲鳴は更に大きくなっていくのが感じ取れた。

 悪い。必ず戻るから持ち堪えてくれ、と祈る気持ちで俺は店先に停めたバイクに跨り、先に発進した侑斗のバイクを追いかける。

 混沌から遠ざかっていくにつれて悲鳴は小さくなり、更にバイクのエンジン音がかき消して完全に聞こえなくなる。到着したそこは、まだ連中の混沌には巻き込まれていないようで静かだ。

 久留間運転免許試験場。

 そこの入口前にバイクを停めた俺達は、すっかり通い慣れた建物の通路を走りエレベーターに入る。侑斗がパネルの番号ボタンをランダムに押している様は、まるで子供が悪戯をしているようだ。でも侑斗はしっかりと目的の階を指定している。そこへ至るためのボタンは設けられていない。何故ならそこは、この施設の抱える極秘事項だから。

 扉が閉じると、エレベーターが下降を始める。

 特殊状況下事件捜査課。通称、特状課(とくじょうか)

 この運転免許試験場にオフィスを構える警察の部署。何故こんな辺鄙(へんぴ)な所にオフィスを作ったかというと、必要な設備を置ける場がここにしかなかったからだ、とあの奇妙な喋るベルトが言っていた。

 目的の階に着いたエレベーターの扉が開き、短い通路を走った先にある扉を乱暴に開けるや否や、侑斗が鬼気迫った声で言う。

「泊、事件だ!」

 入ったガレージにいるスーツを着た男は、呑気な顔で飴玉を口に入れようとしている所だった。舐めるはずだった飴を眼前で静止させ、俺達を怪訝に見つめている。

 これでもこの男は刑事で、俺と共に戦うもうひとりの仲間だ。

 (とまり)進ノ介(しんのすけ)

 またの名前を、仮面ライダードライブ。

「おいおい、誰だあんた達」

 こいつ、寝ぼけてるのか。

「何言ってんだ? ショッカーが暴れてる」

 俺がそう言うも、進ノ介は「ショッカー? 何だそれ?」と間抜けな声で聞いてくる。こんな奴に守られているなんて市民が知ったらどんな反応をされるか。警察の威厳も落ちるだろうに。

「いいから行くぞ!」

 そう有無を言わさずに俺は進ノ介の肩を掴み、侑斗も手伝って外へと連れていく。

 

 

   03

 

 バイクでショッピングモールへ戻ると、状況は更に悪化している。さっきまで笑顔で行き交っていた人々は恐怖の表情を浮かべ、道端に転がる血にまみれた死体を跨いで戦闘員から我先にと逃げていく。

 車から降りた進ノ介はその様子を困惑した様子で眺めていて、そんな奴に事を説明している暇なんてない俺と侑斗は混沌へと駆け込む。

 黒装束の戦闘員のなかに、毛色の違う異形がひとりいる。

<list:item>

 <i:チーターのような顔 >

 <i:頭から伸びるカタツムリの触覚>

 <i:右肩に乗っている渦を巻く殻>

</list>

 そのグロテスクな組み合わせの怪物が、秘密結社ショッカーの幹部として戦闘員たちを率いている。幹部のベースは人造細胞ではなく、人間だ。優秀な頭脳や肉体を持つ人間はショッカーに目を付けられ、拉致されて否応なく体をいじられて異形に変えられてしまう。最初に「仮面ライダー」と呼ばれた者も、元はショッカー最強の怪物として体を改造されたらしい。

「そこまでだショッカー!」

 人々に襲いかかる戦闘員を蹴散らし、侑斗が幹部に告げる。

「罪のない人々を傷付けるのを見過ごすわけにはいかないな」

 こんなヒロイックな言葉が出てくるのも、仲間と一緒に戦ってきた影響なのか。でもヒーローを気取ることで、俺は俺自身が倒すべき敵になりうる存在であることを一時でも忘れることができる。現実逃避だが。

「貴様ら人間にこのチーターカタツムリ様が倒せるものか」

 怪物は嘲笑い、自分の姿を誇示するように両腕を広げる。ショッカーの目的は世界征服。政治と経済と軍事の全てを支配すること。逆らう者は皆殺し、という分かりやすい独裁主義者たち。

 連中のそんな崇高な、でも俺達にとっては矮小な野望を侑斗はせせら笑う。

「バーカ。お前なんかとレベルが違うんだよ」

 そう言って侑斗は手にしているベルトを、俺も「行くぞ!」とケースから出しておいたファイズのベルトを腰に巻く。

<change:sequence>

 <i:5・5・5・ENTER>

 <i:Standing by>

</change >

 

「変身!」

 

<change:number>

 <i:Complete>

 <i:Altair Form>

</change >

それぞれのベルトを起動させて鎧を身に纏い、俺はファイズに、侑斗はゼロノスに変身する。

「最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!」

 隆起する上腕を見せ、ゼロノスが口上を決める。最初のうちは皮肉を言ったが、もはやこれは侑斗にとってルーティーンのようなもの。だから俺は構わず、手首を振ってスーツの感触を確かめると駆け出す。

 まず優先的に、人に襲いかかる戦闘員に蹴りを入れる。引き剥がされた者は逃げていき、邪魔された戦闘員は優先度を俺に移して反撃しようと剣を振りかざす。人間よりは強く「製造」された戦闘員だが、力にものをいわせているだけで雑魚も同然だ。だから俺の拳は敵の剣よりも早く、その覆面で隠された顔面に突き刺さる。頭蓋が砕ける感触がして、次の瞬間には内部から頭が破裂して辺りに血と脳漿を撒き散らしていく。頭を失った黒装束の胴体は力なく倒れ、俺はマスクにかかった血を拭って狭まった視界を回復し別の標的へと駆け出す。

 組織は幹部と戦闘員の頭に爆弾を入れている。かつて組織から脱走した裏切り者が、仮面ライダーとして反旗を翻したことから採られるようになった措置らしい。

<list:item>

 <i: 元は人間だった幹部が再び人間に戻ったとき>

 <i:人間の遺伝子をベースにした戦闘員が人間としての自我に目覚めたとき >

</list>

 離反の防止として、遠隔操作できる爆弾が炸裂する。まだ組織にとっての裏切り者として認定されていないうちに、俺は連中の弱点である頭を狙って攻撃し続ける。まだ連中が人間と定義するには曖昧なうちに。

 それでも、感傷は捨てきれていない。だが戦いの最中に迷わないよう、思考を止める術はこの数年間で学んできた。敵として倒してきた者よりも、多くの者を守るための術として。

「変身!」

<change>

 Drive type Speed

</change>

 変身時のシステム起動音と共に、赤い仮面ライダー、ドライブが視界の隅に映る。あのぼんくら刑事、やっとギアが掛かったらしい。

 ゼロノスがチーターカタツムリの腹に剣を一閃する。真っ白な人工血液を傷口から流すチーターカタツムリは「おのれえ……」と呻き、腹を手で抑えながらモールの奥へと逃げていく。

「侑斗、巧、ここは任せろ!」

 戦闘員たちを相手取りながら、ドライブが言う。「分かった」と俺は返し、ゼロノスと共に奴の後を追っていく。

 腹の傷が響いたのか、チーターの遺伝子を組み込まれた割には走りが襲い奴にはすぐに追いついた。ふたりがかり。ゼロノスが剣で創傷を与え、俺は拳を見舞っていく。

「忌々しいぞ仮面ライダー。貴様らさえいなければ、世界はショッカーのものになるというのに」

 組み付いたチーターカタツムリが、俺に粘液でてらつく顔面を近付けてくる。別に俺は、ショッカーが憎いわけでもない。世界征服なんてやりたきゃ好きにやればいいさ。でも、そのために皆を巻き込むなって話だ。

「守り抜いてやるよ。この世界ってやつをな!」

 顔面に肘を打ち付け、反動で後退し間合いを取る。

「レッツ、変身!」

<change>

 Signalbike Rider Mach

</change>

 聞き慣れない起動音と、見慣れない姿が耳孔と視界に入り込んでくる。その乱入してきた白の戦士はチーターカタツムリに「追跡!」と蹴りを入れ、「撲滅!」と追撃の拳を打っていく。「いずれもマッハ!」と渾身の一撃を顔面に打ち込み、敵が地面を転がる間に追い打ちをかけると思ったがその場で四肢を大きく伸ばしたポーズを決めている。

「仮面ライダーマッハ!」

 こいつも仮面ライダーなのか。にしても、随分と調子のいい奴だ。戦う度にやるせない気分にとらわれる自分が馬鹿らしくなってくる。

「派手だな。あれいつもやってんのか?」

 お前も似たようなものだろ。そう思いながら俺は呆れを漏らすゼロノスに「俺達も行くぞ」と促し、取り敢えず味方らしいマッハと名乗るライダーの加勢に向かう。

 3人がかりとなれば、もはや敵に反撃の余地はない。自動走行で駆けつけてきたオートバジンのハンドルにミッションメモリーを挿す余裕が出てくる。

<tool:faiz edge>

 Ready

</tool>

 赤く輝く刀身を抜き、「決めるぞ」と俺が言うとゼロノスとマッハもベルトのエネルギー増強システムを作動させる。

<technique:number>

 <i:Hissatsu Fullthrottle Mach>

 <i:Full Charge>

 <i:Exceed Charge>

</technique>

 俺の斬撃の次に、剣をボウガンに変形させたゼロノスの弓撃(きゅうげき)、そして最後にはマッハのキック。吹き飛ばされたチーターカタツムリの頭が垂れるのを見届け、俺達はベルトから変身ツールを抜き取る。

「よーし、やったね!」

 鎧が消滅すると同時に、マッハに変身していた男が威勢よく声をあげる。

「お前後から来たくせに調子いい奴だな」

 侑斗が皮肉を飛ばすも、青年は「細かいこと気にすんなって。あんたも結構強いな」と気を悪くした様子はない。いかにもお調子者という言葉の似合う、まだ顔立ちに青さのある男だ。そんな青年の調子に着いていけないのか、侑斗は顔を背けて舌打ちする。俺もこの手の人間は受け付けない質だから、侑斗と同様にそっぽを向く。

 戦いを終えたのか進ノ介が走ってきて、こっちも終わったことを確認して安堵の表情を浮かべる。

「ていうか、あんたら一体何者なんだ?」

 青年が声に険を帯びさせる。

 それはこっちの台詞だ。そう言おうとしたとき、青年の首に背後から白の血に濡れた極太の触手が巻き付く。不意打ちに対処できず青年はずるずると引きずられ、その先にいる倒したと思っていたチーターカタツムリに捕らえられる。

「こうなったらひとりでもライダーを道連れにしてやる」

<shout>

「やめろ!」

</shout>

 進ノ介が叫びと共に駆け出す。俺と侑斗も駆け出すが、辿り着く前にチーターカタツムリの頭に仕込まれた爆弾が炸裂し、青年を爆炎が包む。空気が熱され、熱風が頬を撫でると焼かれそうでそれ以上進むことを躊躇する。

 煙が風に流されると、()えた臭気を放つ敵の肉片と、それに囲まれ顔の半分以上が焼けただれた青年が横たわっているのが見えてくる。

<shout>

(ごう)!」

</shout>

 あいつ、剛って名前だったのか。名前を呼びながら青年に駆け寄る女を見て、俺は不謹慎にもそう思った。

「剛、しっかりして」

 女が肩を揺さぶり、青年の意識を呼び戻そうと試みる。焼けて収縮した目蓋を持ち上げた青年は、虚ろになった瞳を女に向ける。

「姉ちゃん………」

 声を絞り出した青年の目蓋が閉じられ、その頭が力なく垂れる。「剛……、ねえ剛」と呼びかける女の目から涙が溢れた。涙が青年の顔に落ちていく様子を、俺と侑斗は見届ける。

 かけてやる言葉なんて見つからなかった。

 オルフェノクがいなくなっても、世界は何も変わっていない。こうして誰かが死ぬ様を見せつけられ、自分の無力さを呪い続けることすらも。

 

<countdown>

 <i:3>

 <i:2>

 <i:1>

 <i:Time Out>

</countdown>

 

 

   04

 

「おい、いつまでふーふーしてるんだ?」

「別に良いだろ。お前こそ砂糖入れ過ぎじゃないのか?」

「俺の勝手だ」

 コーヒーに砂糖を入れ続ける侑斗にそれ以上の皮肉は言わず、俺は自分のコーヒーを一口啜る。まだ熱くて、再び息を吹きかける。何が悲しくて男ふたりカフェでコーヒーを飲むために悪戦苦闘しているのか。これも侑斗が席につくなりウェイトレスに「コーヒーふたつ」とすぐ注文したせいだ。いい歳して恰好つけることでもないだろうに。

 俺達のいるショッピングモールのどこからか、悲鳴が聞こえてくる。俺は侑斗と視線を交わし、席を立って悲鳴のもとへと駆け出す。予想通り、黒装束の人造人間たちがアリのように群がって人々を襲っている。

「数が多すぎる………!」

「泊を呼びに行くぞ」

「ああ」

 俺と侑斗はカフェに戻ってバイクを駆り、混沌から離れて仲間がいるはずの運転免許試験場へと向かう。

 エレベーターで地下へ降り、秘密裏に建造されたガレージの扉を乱暴に開けた侑斗が中へ入り、俺も続く。まだこの辺りは敵の侵攻を受けていないから、佇んでいた進ノ介は事に気付いていないようだった。

「泊、事件だ!」

「ショッカーが暴れてる」

 「何だって? 行こう!」と進ノ介はベルトのバックルを手にして、ガレージに停めてある愛車に乗り込んだ。

 

 

   05

 

 ショッピングモールに戻ると、状況は更に悪化している。

 人々に襲いかかる戦闘員たちを率いる幹部が、混沌をまるで演劇を鑑賞しているように哄笑している。

「チーターカタツムリか」

 バイクから降りた俺は、無意識にその名前を言う。そこで、俺は違和感を抱いた。

「知ってるのか?」

 ベルトを手にした侑斗が聞いてくる。俺は答えに迷う。あのショッカー幹部を俺は初めて見るはずだ。なのに何で名前を知っている。とはいえ、そのことに答えを探しあぐねている暇なんてない。今はこの状況を鎮めることが先決だ。

「何だっていい。行くぞ」

 バイクのシートに括り付けておいたケースから、ベルトを取り出しながら俺は言う。府に落ちない様子を見せるが、侑斗は「ああ」と応じて共に混沌の渦中へと飛び込んでいく。悲鳴の合間から、車のタイヤが地面に擦れる音が聞こえてくる。進ノ介が到着したらしい。

「そこまでだショッカー!」

「罪のない人々を傷付けるのを見過ごすわけにはいかないな」

 俺達は腰にベルトを巻く。侑斗は電車のパスに似たゼロノスカードを掲げ、俺はフォンにコードを入力する。

<change:sequence>

 <i:5・5・5・ENTER>

 <i:Standing by>

</change >

 

「変身!」

 

<change:number>

 <i:Complete>

 <i:Altair Form>

</change >

それぞれの鎧を身に纏い、俺はファイズに、侑斗はゼロノスに変身する。

「最初に言っておく。俺はかーなーり、強い!」

 いつものゼロノスの口上には敢えて追求せず、俺は駆け出す。

「変身!」

<change>

 Drive type Speed

</change>

 遅れて進ノ介の変身したドライブが渦中へ飛び込んできた。その赤と黒の体が、間抜けにも何かに躓いたようでうつ伏せで倒れるのを、俺は戦闘員のひとりに組み付きながら見やる。

 何やってんだ、と言おうとしたところで、ドライブの足からロープのようなものが伸びていることに気付く。それは空虚から突然現れてきた。どこか生物じみたうねりをあげるロープはドライブの足から離れ、店舗の天井にいるもうひとりの幹部の右手に納まっていく。

<list:item>

 <i:全身から伸びるヒルのような触手>

 <i:カメレオンのようにぎょろりとした両眼>

</list>

 初めて見る幹部だ。今度は紛れもなく見覚えがなく、名前も知らない。奴が天井から飛び降りるとき、戦闘員が俺の胸に剣を一閃してくる。大したダメージじゃない。俺は目の前の敵の顔面に拳を打ち付け、中の爆弾が炸裂し頭が吹き飛ぶ様子を一瞥もせず、チーターカタツムリと戦っているゼロノスの助太刀に向かう。

 俺の蹴りで奴の体がよろめき、その隙にゼロノスが腹に剣を一閃する。傷口から白い人工血液が流れ出し、怒りに「おのれえ」と顔を歪めたチーターカタツムリはモールの奥へと走っていく。

「そいつは任せた」

 ゼロノスが別の幹部を相手しているドライブに告げて駆け出す。俺も後を追おうとしたところで、エンジン音を咆哮のように鳴らしながら誰も乗っていないオートバジンが走ってきて俺の傍で停まる。来る途中に戦闘員を何人か蹴散らしてきたのか、カウルに血がこびりついていた。

<tool:faiz edge>

 Ready

</tool>

 ミッションメモリーを挿したハンドルを引き抜くと、赤い刀身がぶーん、と唸りながら輝いている。剣を構え直し、俺はチーターカタツムリの走っていった方向へと駆け出す。

 しばらく走ると、ゼロノスがチーターカタツムリに剣を振りかざしているのが見える。腹の傷が響いたのか、奴はチーターの遺伝子が組み込まれている割には速く走れないらしい。俺は敵への到達と同時に、白い血に濡れた腹を剣で突く。

 吹っ飛んだチーターカタツムリはそれでも屈することなく立ち上がり、俺達に応戦する。まさかこいつは痛みを感じないんじゃないか、と思えてくる。人間の体を好き放題にいじくるショッカーなら、痛みの感覚を取り払うなんてやってのけそうだ。痛みを奪われた配下たちは自分の生命が危ういことに気付くことなく、ただひたすらに目の前の敵を殺すことに躍起になる。死への怖れを抱かずに。

 だとしたら、チーターカタツムリの動きを緩慢にさせているのは痛みではなく、失血による体の不具合だろう。全身の器官に十分な血液や酸素が行き渡っていない。だから痛みを感じなくても、奴は確かに自分の危機を感じ取ることができる。もっとも、ショッカーの改造人間は組織お手製の麻薬を使って、そういった感覚を麻痺させているようだが。兵士としてならどこまでも勇敢だ。

「レッツ、変身!」

<change>

 Signalbike Rider Mach

</change>

 不意にその起動音が聞こえてくる。

「追跡! 撲滅!」

 「いずれもマッハ!」と、飛び込んできた白のライダーがチーターカタツムリに渾身の蹴りを入れる。

「仮面ライダー、マッハ!」

 敵が地面を転がる間、追撃も入れずにポーズを決めるこいつの演出には付き合ってられない。「行くぞ」と俺は言い、「ああ」と返すゼロノスと共に駆け出す。

 3人がかりとなれば、もはや敵に反撃の余地はない。マッハが拳を打ち、怯んだ隙を突いて俺とゼロノスは同時に腹へ蹴りを入れる。白い血飛沫をあげながら倒れるチーターカタツムリは、「忌々しい」と恨み節を吐きながらそれでも立ち上がる。こいつらショッカーの執念深さというか、痛みを排除するテクノロジーの恩恵ってやつは気味が悪い。こんなゾンビめいた奴を殺すには、ミンチになるまで斬り刻むしかない。

「決めるぞ」

 俺は呼び掛ける。マッハはミニカーのバイクが納まったベルトのスロットカバーを開き、再び閉じる。ゼロノスはベルトから引き抜いたパスを剣から変形させたボウガンの柄に挿し込む。そして俺はフォンのENTERキーを押し、敵へ向かっていく。

<technique:number>

 <i:Hissatsu Fullthrottle Mach>

 <i:Full Charge>

 <i:Exceed Charge>

</technique>

 俺の斬撃が腹の傷をより深め、ゼロノスのボウガンから放たれた矢が胸を貫く。止めのマッハのキックによって体が大きく吹き飛び、チーターカタツムリは自分の真っ白な血の海に浸っていく。

 敵の沈黙を見届けた俺達3人は変身を解いた。

「やったね!」

 マッハのマスクに隠れていた顔を晒した詩島剛(しじまごう)が意気揚々と言う。「騒がしい奴だな」と俺が皮肉を飛ばすと、剛はやかましく絡んでくる。

「勝ったんだからもっと喜べよ。ほら、笑って」

「こういう顔なんだよ」

「どういう顔だよそれ」

 俺がそっぽを向くと、視線の先で剛の姉の霧子(きりこ)が安堵の表情を浮かべ、「侑斗もどういう顔なんだよ」と侑斗へ絡む弟を見ている。見慣れた婦人警官の制服姿じゃなくて私服だったから、一瞬彼女と分からなかった。今日は非番らしい。

 ふと、俺の視界の隅に戦いを終えたらしい進ノ介が入った。進ノ介はどこか怪訝な顔をしている。犠牲になった市民を想ってのことなのか、それともショッカーとの戦いがいつまで続くのかという不安なのか。

「ま、俺のマッハが一番良い絵だったけどな!」

 にやにやと笑う剛の表情がどす、という音と共に静止する。少し視線を下ろすと胸にぽっかりと穴が開いていて、その穴を開けた触手がゆらゆらと姿を現していき、剛の背後へと伸びていく。

 触手が胸から抜けると、剛はごほっ、と咳き込み鮮血を吐きながら崩れるように倒れる。

<shout>

「剛!」

</shout>

 叫んだ進ノ介を見やる。その背後、触手を右手に納めた進ノ介が倒したはずの幹部が、体中から白い血を流しながら俺達を見て笑い声をあげている。顔の造形が人間と全く異なっているから、どんな表情なのか分からない。

「お前も……、道連れだ!」

 断末魔を吐き捨てながらばんざいして、奴はうつ伏せに倒れる。衝撃で体内の爆弾が炸裂し、奴は辺りに爆炎と共に肉片と臓物、そして人工血液を撒き散らした。

 「剛!」と霧子が駆け寄り、弟の肩を揺さぶりながら涙声で呼び掛ける。ひゅーひゅー、と弱く呼吸をする度に、剛の口と胸から鮮血が流れ出す。心臓に直撃はしなくても、動脈か静脈かをやられたんだろう。胸膜の破れた肺のなかに血が侵入してきてもはや呼吸すらもままならない、と冷静にも理解できてしまう。

 自分の血に溺れた剛の目から生気が消失し、その頭が垂れる。

「剛……? 剛……!」

 泣きながら弟を呼ぶ霧子を見て、俺の胸にあったのは悲哀じゃなかった。こんな風に目の前で誰かが死んで、その遺族が泣き崩れる様子を前にも見たことがある気がする。過去にそれは見てきた。嫌というほどに。

 でも、今回は少しだけ違う。

<list:item>

 <i:死んだ者は剛>

 <i:泣き崩れる遺族は霧子>

 <i:それを傍観する俺と侑斗>

</list>

 こんな具体的な状況がそう遠くない以前、ついさっき体験したかのような既視感にとらわれる。おかしいことだ。

 世界は変わっていないと思っていた。でも、実は少しだけ変わっているのかもしれない。

 

 自覚できないほど、ほんの僅かに。

 

<countdown>

 <i:3>

 <i:2>

 <i:1>

 <i:Time Out>

</countdown>

 

 

   06

 

 先に現場に向かう 泊

 

 侑斗と久留間運転免許試験場に併設されたドライブピットへ駆けつけたとき、ガレージにはその書置きが残されていた。市民の通報を受けたのだろうか。何にしても、事は急いだほうがいい。今こうしている間にも、俺達がさっきいたショッピングモールではショッカーが人々を襲っている。

 バイクで現場に向かう道中に、剛と霧子はいた。2人も俺達に気付いたらしく、剛が「おーい!」と呼んでくる。俺達のバイクは戦闘用に開発されていて、外見も結構目立つ。

 2人の傍にバイクを停めると、剛が「どうしたんだ?」と俺に聞いてくる。

「ショッカーが暴れてる」

 ヘルメットも脱がず、俺は短くそう告げる。普段お調子者の剛は表情を引き締めて「どこだ?」と質問を重ねる。「ショッピングモールだ」と侑斗が告げると、「え?」と目を丸くした剛は同じ表情を浮かべた霧子と顔を見合わせる。霧子は言う。

「さっき泊さんから、ショッピングモールには近付くな、って連絡が来たんです」

 どういうことだ。俺には進ノ介の意図がまるで分からなかった。霧子だけならともかく、何で剛には現場へ向かえと要請しなかったのか。

「とにかく今は急ぐぞ」

 「ああ」と俺が、「俺も行く」と剛も応じる。俺はヘルメットのバイザーを下げて、クラッチペダルを踏み込みアクセルを捻ってバイクを走らせる。

 ショッカーはいつだって神出鬼没だ。何の前触れもなく、唐突に現れて世界に混沌をもたらす。俺達、仮面ライダー達はその度にショッカーを倒しその野望を阻止してきた。でも奴らはとにかくしぶとい。しばらく経てば再び戦力を揃えて今度こそ、と世界征服へと乗り出す。

 俺は考える。仮面ライダーである俺達のいる場所は、むしろ俺達を始末しようとするショッカーを呼びやすいんじゃないか、と。

 だとしたらこんな酷い話はない。人間を守るために戦ってきたのに、そこにいるだけで周囲の人々を危険に晒しているなんて。それでも、ショッカーがインフラを破壊して占領下に置こうと狙っているこの都市を離れるわけにはいかない。

 現場に到着すると、ドライブが3人の敵を相手しているのが見えた。チーターカタツムリと、ヒルカメレオン。あともうひとりは、初めて見る幹部だ。2人のお仲間と同じくグロテスクな組み合わせの。

<list:item>

 <i:人間サイズの巨大なアリの体>

 <i:ゾウのような長い鼻>

 <i:口の両端から曲線を描く双牙>

 <i:全身を覆う茶色の毛>

</list>

 進ノ介も警察の訓練で格闘技の心得くらいはあるだろうが、流石に3人相手だと分が悪い。バイクから降りた俺と侑斗は腰にベルトを巻き、走りながら変身システムを起動させる。

<change:sequence>

 <i:5・5・5・ENTER>

 <i:Standing by>

</change >

 

「変身!」

 

<change:number>

 <i:Complete>

 <i:Altair Form>

</change >

 俺はヒルカメレオンを、ゼロノスはチーターカタツムリをドライブから引き剥がし応戦する。戦闘用に体を調整されたからか、いくら拳を打ち付けても意に介さない。幹部なだけあって手強いが、敵わない相手じゃないはずだ。

 アリのような、マンモスのような幹部に突き飛ばされたドライブに、遅れてやって来た剛と霧子が駆け寄ってくる。

「進兄さん!」

「剛! 何でお前が?」

「家に帰る途中で巧と侑斗に会ってさ」

 「さ、一緒に」とベルトを手にした剛の手を、ドライブが阻むのが揺れる視界のなかで見えた。進ノ介のやつ、何考えてんだ。今は猫の手も借りたいときだってのに。

「駄目だ。ここは俺に任せろ」

「何で?」

「理由は後で説明する」

 ドライブは戦闘へ戻り、俺に掴みかかってきた幹部を引き剥がす。

「ベルトさん、頼みがある」

 戦いながら、ドライブが言う。何か考えがあるのか。意思を持った――正確にはドライブのベルトを開発した科学者の意識が移された――ベルトの「どうした?」という声が聞こえた。

 ドライブの言葉に意識を傾けようとしたところで、幹部が突進してきて俺と侑斗は突き飛ばされる。続けてドライブも殴り飛ばされ、幹部は自分のベルトを腰に装着しようとした剛へと向く。

「剛!」

 ドライブの声に、ヒルカメレオンの顔面に拳を見舞った俺は振り返る。幹部の双牙の間で迸るエネルギーが球体を成してプラズマの光を放っている。

<system: acceleration>

 Spe・Spe・Speed

</system>

 加速装置を起動させたドライブが駆け出すのと同時、幹部がエネルギー弾を放った。剛の前を赤いドライブの影が走り、そこにエネルギーが直撃し爆発する。ダメージで加速装置が解除されたドライブに、2射目が飛んで炸裂する。

 損傷を追ったドライブのスーツがスパークを散らし、辺りを爆発音と進ノ介の叫びが包んだ。

 煙と空気が熱されたことで生じる陽炎のなかで、スーツが消滅した進ノ介が力なく倒れる。ジャケットの下の白いシャツが、鮮血で赤く染まっているのが見えた。多分、爆発を至近距離で受けたせいで内蔵が破裂したんだろう。

<shout>

「泊!」

</shout>

 敵と間合いを取り、俺の隣に立ったゼロノスが叫ぶ。俺のなかでは怒りよりも疑問が先行していた。進ノ介は剛が戦うことを拒んでいた。まるで剛がやられると信じて疑わなかったかのように。

 疑問が解消されるのを阻むように、「次は貴様らの番だ!」と幹部達が迫ってくる。

「おいしっかりしろ! おい進兄さん!」

 剛の叫びが聞こえてくる。一瞬の間を置いて、霧子の「泊さん……?」という声も。その声色で俺は悟る。見やると、霧子が握っていた両手の間から進ノ介の手がするりと落ちて、地面に投げ出された。

「やだ……、泊さん!」

「進兄さん!」

 俺は叫んだ。叫びながらチーターカタツムリの顔面を殴り、倒れたその体を蹴り飛ばす。

 立ち上がろうとする奴に追撃の拳を振り上げようとしたとき、俺は視界の隅にいるものに気付き逡巡する。

 

「来るぞ」

 

 戦いの外苑に佇み、悲劇を無感情に眺めている海堂直也が、そう呟いたように聞こえた。

 

 瞬間、世界が静止した。

 

<countdown>

 <i:3>

 <i:2>

 <i:1>

 <i:Time Out>

</countdown>

 

 

</body>

</ltml>

 




 今回の文体は伊藤計劃先生の著書『ハーモニー』をオマージュしたものです。はい体の良いパクリです。ごめんなさい。

 ですが、パクった理由はあるのです。それに、私は伊藤計劃先生を尊敬しております! そうでなければこんな面倒くさい文体にしません。

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