シルバーウィング   作:破壊神クルル

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8話

※今回登場するヘドロ生物兵器の外見は、劇場版『ドラゴンボールZ 超戦士撃破!!勝つのはオレだ』に登場したバイオブロリーをイメージして下さい。

 

 

殺戮の銀翼の正体がもしかしたら束の友人である織斑一夏の可能性があると思った矢先、束と楯無の前にその殺戮の銀翼こと、イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスが現れた。

イヴは病室に立っていた束を真っ先に倒した。

束は科学者でありながらも意外と武闘派な科学者であったのだが、イヴが突然自分の前に現れた事、そして彼女がもしかして昔の友人かもしれないということで反応が鈍りあっさりと倒されてしまった。

そして、束に踏まれている状態だった楯無もあっさりと捕まった。

束に踏まれている状況、そして入院中で体力が落ちていることがその原因だった。

そして、イヴの手によって拉致された束はイヴに『お父様』と呼ばれている生物研究者、ショウ・タッカーと邂逅を果たした。

 

「お前が‥‥ショウ‥タッカー‥‥」

 

眼光で人が殺せるんじゃないかというぐらいのレベルで束はタッカーを睨む。

 

「そうだ。それで、こちらは私の友人、サミール君だ」

 

タッカーは隣に居る手術着を着た男を束に紹介する。

 

「よろしく」

 

「それで、なんで私をここに連れてきた。お前は女尊男卑の世界に変えた原因を作った私を生かすとは思えないけど?」

 

「勿論だ。君には当然死んでもらう。だが、その前にISについていろいろ話してもらうぞ。ISのコアの製造方法とその弱点をな‥‥」

 

「お前の様な奴に言うと思っているのか?」

 

「だからこそ、このサミール君を連れてきたんだよ。彼の専門を当てられたら50点あげよう」

 

「いらないよ、そんなモン‥‥でも、道具から見たら、歯の掃除屋さんか?」

 

束はサミールが鞄から出し、台の上に乗っけている器具を見てサミールの専門を言う。

 

「ちょっと違うな‥彼は、東ドイツ出身で、私と同じ生物学の学者でね、人体に与える苦痛を知り尽くしている。東ドイツの技術をその身にたっぷり味わってくれたまえ」

 

「あっそう‥‥」

 

(専門を当てるもなにもどうみても拷問しか能のない変質者じゃないか)

 

(目なんか逝っちゃっているよ。重力振り切っているんじゃないの?精神が‥‥ほら、薬でもやっているみたいになっているよ‥‥)

 

「手始めにこれでいこう」

 

束がそう思っていると、サミールは束に対してO・HA・NA・SHIの準備の為、束に意識が朦朧とする薬を注射する。

 

「おい、注射を打つんなら消毒ぐらいしろよ、バイ菌が入ったら大変だろう」

 

「これから死ぬのだから、そんなことを気にしても仕方がないだろう?」

 

「では、これが効き始めた頃に戻るとしよう。話はそれからだ」

 

「ふっ、そいつは楽しみだ」

 

タッカーとサミールは下衆な笑みを浮かべて部屋を出て行った。

それからしばらくして束の意識がもうろうとしてきた。

そして、サミールは助手か見張りなのかもう一人、別の男と共に戻ってきて、ペンライトで束の瞳孔を確認する。

束の瞳孔を確認した後、サミールはゴム手袋をはめ始める。

 

「始める前に何かワシに言っておきたいことがあるかね?」

 

最後の遺言ぐらいは聞いてやるぞと言う態度で束に尋ねるサミール。

 

「ある‥‥時機、お前さんをぶっ殺してやる」

 

すると、束が物騒なセリフを吐く。

 

「そうかい、どうやって殺すんだ?」

 

束の強気な発言に対して、サミールは、手錠をかけられ動けない束が、どうやって自分を殺すのか?と余裕を見せながら、束に尋ねる。

 

「まず、お前さんをとっ捕まえて盾にして、あそこにいる見張りの男を殺る。そこに乗っかっている外科用のトロカールで‥それからお前さんの首をへし折るってのはどうだ?」

 

束はサミールに向かって具体的な殺害予告をする。

 

「どうしてそんな事がお前さんにできると思う?」

 

束が自分達の殺害予告をしても余裕を崩さないサミール。

 

「手錠を掛けられているのに?」

 

「うん」

 

「そんなもん、とっくに外したよ!」

 

「っ!?」

 

てっきり、束を拘束していると思っていたサミールは外された手錠を見て目を見開いて驚く。

その隙に束は、先ほどサミールに言った通り、彼をとっ捕まえて盾にして、台の上に乗っている外科用のトロカールを見張りの男に向かって投げる。

見張りの男も束は手錠で拘束されていると思い込んでおり、サミール同様、余裕の笑みを浮かべていたが、束の行動に驚き、判断と行動がワンテンポ遅れた。

束が投げた外科用のトロカールは見張りの男の左目に突き刺さり、見張りの男は絶命し、最後に束はとっ捕まえていたサミールの首の骨をへし折って彼も仕留めた。

サミールと見張りの男を仕留めた束は、楯無を拘束していた手錠を外して彼女の頬をペチペチと叩いて楯無を起こす。

 

「おい、起きろ」

 

「うっ‥‥」

 

束に頬を叩かれて楯無が目を覚ます。

 

「うっ‥‥此処は?」

 

「ショウ・タッカーの研究所」

 

「えっ!?」

 

「どうやら、私達は捕まって此処に連れてこられたみたい」

 

「一体何のために?」

 

「さあ?お前は分からないが、私はISのコアについてお話があるみたい。兎も角、此処が奴の研究所なら好都合だ。あの子を探そう」

 

「は、はい」

 

(うっ、ちょっとまだ頭がクラクラする‥‥)

 

束はまだ完全に薬物が抜けていない状態の為、万全とは言えないが、今はどうしてもあの子に‥‥イヴに早く会いたかった。

すると、すぐ近くから人の気配を感じた。

 

「ん?やけに静かだな?サミールさん?」

 

部屋の中から拷問をしている様子が無い事に不審に思ったタッカーの部下が近づいてきた。

束と楯無は息を殺して出入口の死角で待ち構える。

そして、部下が部屋の中で死んでいるサミールと見張りの男の姿に気づき、部屋の中に足を踏み入れたその瞬間、

 

「ふんっ!!」

 

ドカッ

 

「ぐはっ!!」

 

楯無が部下の腹部にバールを思いっきり打ち込んだ。

バールを打ち込まれた男があっという間に絶命した。

 

(‥私‥とうとう人を殺してしまった)

 

暗部の家系なのでいつかは人を殺める時が来ると覚悟はしていたが、こうして実際に人を殺めると、人と言うのはあっさりと死んでしまうモノだと感じる楯無。

死に呑まれてはならないが、殺す事に慣れて人間らしさを無くすこともあってはならない。

 

(私は今日の事を決して忘れない‥‥初めて殺した貴方のこともね‥‥)

 

楯無は自分が始めて殺した人間の死体をジッと見つめていた。

 

「ほら、お前のIS」

 

束はそんな楯無に待機状態のミステリアス・レイディを渡した。

連中はこの部屋に楯無のミステリアス・レイディを置いていったようだ。

束からミステリアス・レイディを受け取った楯無は早速、ミステリアス・レイディを展開する。

そして、

 

「やれやれ、私は本来、ISは乗る側じゃなくて作る側なんだけどね‥‥」

 

そうぼやきながら、束はラファール・リヴァイヴを纏った。

イヴ以外の相手から見るとISは強力な武器でもある。

案の定、この研究所にはISを装備した者はいなかった。

連中のプライドなのだろうか?

いや、それどころかこの研究所には女性の研究員も警備兵もいなかった。

通常の兵器ではISには勝てない。その為、ライフルや小銃でかかって来る連中を悉く倒していく楯無と束。

彼女らは立ちはだかる武装した警備兵や研究員を次々と倒して二人は研究所内を進んで行く。

だが、その様子をタッカーは監視カメラの映像から見ていた。

 

「くっ、サミールの奴、失敗したな‥‥くそ、やむを得ない‥‥コイツを出すか‥‥だが、コイツはイヴと違い私の命令を聞くか分からんが、今は四の五の言っている余裕はない‥‥」

 

タッカーはコンピューターのキーを押す。

すると、研究所内に設置されている保存室にある保存カプセルの一つの中に満たされている培養液が排出され、カプセルの中に保存されていたモノが動き出した‥‥。

 

「ふぅ~やっぱり、ISがいないとこんなモノね‥‥」

 

楯無がつまらなそうに言う。

その時、

 

「□□□□□□□□□□□―――!!!!」

 

どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。

 

「な、なに?この声!?」

 

「人間の声‥じゃないね‥‥」

 

楯無と束が周囲を見渡していると、ミステリアス・レイディとラファール・リヴァイヴが警告音をならし、敵の接近と注意を促す。

すると、

 

「□□□□□□□□□□□―――!!!!」

 

突如、不気味な声と共に床から大きな手が出てきた。

 

「なに?コレ!!」

 

「ビッグハンド!?」

 

楯無と束は慌てて後退する。

すると、地下から出てきたのは、全身がヘドロの様にドロドロしたモノに包まれた赤い目をした人の形をした何かであった。

人の形と言っても身長が2~3メートルぐらいある。

 

「な、なに!?アレ、気持ち悪い~」

 

「ヘドロのお化け、ドロリーだ!!」

 

「ハハハハ‥‥聞こえているかね?ミス・楯無、篠ノ之束」

 

すると、どこからともなくタッカーの声がしてきた。

 

「タッカー!!」

 

束と楯無は周囲を見渡すが、タッカーの姿は見えない。

 

「そいつもイヴと御同類‥私の作品の一つだ」

 

すると、周囲に設置されているスピーカーからタッカーの声がしてきた。

どうやら、自分達の行動は監視カメラでタッカーにはお見通しの様だ。

 

「作品?と言う事はこいつも生物兵器‥‥?」

 

「そのとおりだ」

 

(ちょっと、あの子だけでも辛いのに、もう一体いるなんて‥‥)

 

楯無はイヴ以外にも居た生物兵器の存在に軽い絶望感を抱く。

 

「もっともイヴと違って、外見が物凄く醜い作品になってしまったがね‥だが、バハムートを注入され生きていた事例だったので、処分せずにとっておいたのだよ」

 

「って事はコイツも本来は人間‥‥?貴方、人の事を何だと思って‥‥」

 

タッカーのあまりにも非人道的行為に楯無は思わず声を荒げる。

 

「その台詞懐かしいな‥‥」

 

「懐かしい?」

 

タッカーの言葉に楯無は首を傾げ、束は眉を顰める。

 

「イヴも生物兵器になる前、私にそう言ってきたよ‥私の実験で死んだモルモット達の死骸を見てね‥もっともそのイヴも今では私の最高傑作となっているがね、ハハハハハ‥‥」

 

「下衆が‥‥」

 

タッカーの言葉を聞き、束は怒りで顔を歪める。

そして、楯無は怒りを込めて一言呟く。

 

(何が最高傑作だ、あの子はお前なんかの作品なんかじゃない!!)

 

「しかし、ソイツはイヴと違い私の言う事を聞いてくれない不良品でね。だが、そんな不良品でも私の役に立つときが来た様だ。私の下に来たくば、その不良品に勝つことだ。では、精々頑張ってくれたまえ。ハハハハハ‥‥」

 

楯無と束はそれぞれ武装を展開してタッカーの言う不良品の生物兵器に立ち向かっていく。

 

「このっ!!」

 

楯無はヘドロ生物兵器の腹部に蒼流旋を突き刺す。

すると、この生物兵器はヘドロを纏っているせいか、ズブリと蒼流旋がヘドロ生物兵器の体内にめり込んだ。

 

「っ!?」

 

蒼流旋が深くめり込んでもヘドロ生物兵器は痛がる様子はなく、平然としている。

そして、楯無に向けてパンチを繰り出す。

 

「グッ‥‥」

 

ヘドロ生物兵器からのパンチを受け、楯無は吹き飛ばされる。

 

「くっ、ただのパンチなのになんて威力なの‥‥」

 

「このっ!!」

 

すると、次は束がヘドロ生物兵器の背後からラファール・リヴァイヴの標準装備である五五口径アサルトライフルと六一口径アサルトカノンを乱射する。

だが、弾は全て分厚いヘドロの中にめり込むだけで決定打を与えられない。

すると、ヘドロ生物兵器は束の方を向くと、口を大きく開けた。

 

「?」

 

束がコイツ何をする気だと思っていると、

 

ドンっ!!

 

「ゴフッ」

 

腹に何か食らったと思ったら、束は吹き飛ばされた。

吹き飛ばされた束は背後にある壁にぶち当たった。

 

「ぐっ‥‥な、なんだ?今のは‥‥?」

 

束は自分の身に何があったのか分からなかった。

 

「ハハハハハ‥‥どうした?篠ノ之博士、君の御自慢のISが全然歯が立っていないではないか」

 

タッカーがまたスピーカーから束と楯無に茶々を入れてきた。

 

「いちいちうるさい」

 

タッカーの声を聞き、束は忌々そうに呟く。

その間、楯無はヘドロ生物兵器に清き激情(クリア・パッション)を仕掛ける。

 

「□□□□□□□□□□□―――!!!!」

 

至近距離で爆発に巻き込まれたヘドロ生物兵器は大声をあげる。

だが、崩れかけていたヘドロの体が再生し始める。

 

「このっ!!」

 

「させるか!!」

 

再生中に束はブレッド・スライサー、楯無は蒼流旋でそれぞれ、頭と腕を切断する。

ベチャッと音を立てて頭と腕が落ちる。

 

「頭を斬ってしまえば‥‥」

 

束は脳を潰してしまえばもう再生もできないし、生きている事も出来ないと思った。

だが、斬られた筈の頭は体から新しい頭が生え、腕も同じく体から新しい腕が生えてきた。

そして、ヘドロ生物兵器は両腕を束、楯無に向けると、

 

ブワッ

 

激しい衝撃波で束と楯無は吹き飛ばされる。

 

「グハッ!!」

 

「ガッ‥‥!!」

 

楯無は壁に叩き付けられ、束はこの場にあったタンクに叩き付けられた。

 

「な、なに‥‥今の‥‥?」

 

「まただ‥‥」

 

初めてヘドロ生物兵器からの攻撃を受けた楯無は自分の身に何があったのか分からず、束はこの謎の技の正体が気になった。

 

「くっ、この!!」

 

楯無は蒼流旋を構えて再びヘドロ生物兵器へと立ち向かっていく。

ヘドロ生物兵器は自分に向かって来る楯無に手を向ける。

楯無は先程の攻撃を受けていたので、あのヘドロ生物兵器は手の掌から何かを出すモノだと思い、突入コースを変更する。

すると、楯無の横を何かが通過した。

そして、背後の壁に何かがめり込んだ。

見えない攻撃に楯無はヘドロ生物兵器との距離をとれず、兎も角、ヘドロ生物兵器の手の掌の射線上から逃れる事に精一杯だった。

 

(あの攻撃‥‥まさかっ!?)

 

楯無とヘドロ生物兵器のやり取りを見て、束にはヘドロ生物兵器の攻撃がわかった。

そこで束は楯無にプライベートチャンネルで通信を入れた。

 

「青髪、そいつの攻撃の正体がわかったぞ」

 

「何なんですか?コイツの攻撃は!?」

 

「そいつの攻撃は、衝撃波だ!!」

 

「衝撃波!?」

 

「そうだ。ソイツは手の掌から空間自体に圧力をかけて、余剰で生じる衝撃を砲弾化して撃ち出しているんだ。しかも手の掌だけでなく、口からも出してくるぞ」

 

「それって‥‥」

 

束からの説明を聞き、ヘドロ生物兵器の攻撃方法にある国のISに搭載予定の武装技術と同じではないかと思った。

 

「ああ、中国で開発中の技術だ‥‥それをアイツは先取りしていた‥‥しかもISでなくて生物兵器が出来る様にな‥‥悔しいが、奴は私と同じぐらいの天才科学者だよ‥‥」

 

束は苦々しそうにタッカーが自分と同等の天才科学者だと認めざるを得なかった。


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