シルバーウィング   作:破壊神クルル

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7話

 

~sideショウ・タッカー~

 

ロシアのテレビでは、女性官僚が殺戮の銀翼の手によって暗殺された事が報道されている。

 

「くっ、クククククク‥‥ハハハハハハ‥‥‥」

 

そのニュースを見て思わず声を出して笑ってしまう。

これでまた一匹、この世に巣食う害虫を駆除できた。

あの日の出来事は今でも忘れなれない‥‥

あれは、第二回モンド・グロッソの決勝戦があった日のことだった‥‥

顔馴染みではないが、何度か顔を合わせた事のある幽霊会社の様な名前のテロ組織に所属しているテロリストから電話を貰った。

内容はある検体を買ってもらいたいと言う事だった。

まぁ、検体は一体でも多いに越したことはないので、買うことにした。

やがて、テロリスト連中はその検体を持って私の下にやって来た。

持ち込まれた検体は一人の少女だった。

若すぎるな、それに随分と華奢な身体つきじゃないか‥‥

こんな軟な体で『バハムート』に耐えられるわけがないな。

買うなんて言わなければ良かった。

まぁ、どんな検体なのか聞かなかったこっちが悪いのだが‥‥

この時は簡単に『買う』と言って少々後悔したが、連中の次の言葉でその思いは失せた。

 

「此奴はただの小娘じゃありません。あの織斑千冬の妹です」

 

「ほぉ~あの織斑千冬の‥‥」

 

私はその検体の少女をチラッと見た。

 

(織斑千冬とは、あまり似ていないような気もするがな‥‥本当にあの織斑千冬の妹なのだろうか?)

 

織斑千冬、第一回モンド・グロッソ、そしてついさっき行われていた第二回モンド・グロッソで優勝した無敗のブリュンヒルデ‥‥

IS信奉者共が崇める象徴‥‥

世界を滅ぼそうとする害虫である女性権利団体の連中‥‥ISの生みの親である篠ノ之束と共に処断しなければならない害虫の一匹‥‥

その害虫の妹‥‥

もし、連中の言う事が正しければ、これは実に興味深い‥‥

彼女がバハムートを受け入れる事が出来れば、ブリュンヒルデの妹が間違った世界を正しき道へと修正し、世界を浄化できる‥‥

自らの妹によって粛清されるときのブリュンヒルデの顔を想像するだけで口元がにやけてしまう。

問題は彼女がバハムートを受け入れられるかだ‥‥

兎も角、私はいい値でこの検体を買った。

そしてバハムートを打つ為、彼女の服を脱がした時、私は彼女にある違和感を覚えた。

 

「むっ?この臭い‥‥」

 

その検体の少女からは男女が交わった時に発する独特の臭いがした。

 

(アイツら、貴重な検体を汚しやがったな‥‥ピザのトッピングにカナディアンベーコン頼んだらジャーマンソーセージ乗っけてきたようなもんだ‥‥)

 

見たところ、中学生くらいの年頃の女子が自分を攫って売り渡すようなテロリストと交わる訳がない。

貴重な検体を汚したことに関して連中にイラッときた。だが、生きている事には変わりないので、予定通りバハムートをこの検体に打つことは決定事項だ。

やがて、彼女が目をした。

そして、彼女はこれまで失敗したモルモットの死骸に気づき、

 

「貴方、人を何だと思っているの!?」

 

私を睨んできた。

ほぉ~流石ブリュンヒルデの妹、眼光もなかなかのモノじゃないか。

そして、私は彼女にバハムートを注入した。

彼女がバハムードの発する熱とナノマシンが体内を巡り、増殖していく痛みに苦しんでいる中、私達はバイタルを見ている。

これまでの検体はバハムートを受け入れることが出来ず、バハムードのナノマシンによって体内の組織、臓器、脳細胞、神経を食われ、死んでいった。

さて、彼女はどうだろうか?

バイタルは一時、危険レベルにまで上昇した。

これまでの検体通りの展開だ。

 

「‥‥やはり、失敗か?」

 

私のこの一言に彼女は反応すると、さっきまで危険レベルだったバイタルが安定し始めた。

こんな事は今までなかった事だ。

これはもしかして‥‥

 

「ま、まさか‥‥成功か?」

 

やがて、バイタルは完全に安定した。

そして私は彼女の体を恐る恐る調べた。

その結果‥‥

 

「間違いない‥‥成功だ!!」

 

「やったぞ!!」

 

「遂にやったぞ!!」

 

やった!!成功だ!!

私は遂に史上最強の生物兵器を誕生させることが出来た。

流石ブリュンヒルデの妹、褒めてやりたいぐらいだ。

だが、相手は史上最強の生物兵器。

ちゃんと首輪をつけなければ、こっちの身が危険だ。

そこでバハムードの活動を制御する事の出来る首輪を彼女に装着した。

これによって彼女は私の意のままに操れる。

史上最強の生物兵器を誕生させ、その生物兵器を制御し、私は世界を意のままに操れる力を手に入れた!!

篠ノ之束もISを作った時、この様な高揚感を得ていたのだろうか?

だが、私の偉業はお前以上だ!!

そして私は彼女に新たな名を与えた。

『織斑一夏』なんて俗っぽい名前など、新たに世界に君臨するこの私()の使いには相応しくないのでな‥‥

それから私のイヴはよくやってくれた‥‥

世界を我が物顔で食いつぶしていく女性権利団体の連中(害虫)を駆除してくれている。

 

そして、つい先日もロシアに居た害虫も駆除した。

いいぞ‥‥着実に世界は清浄化されている‥‥。

そう思っていた中、

 

「なお、今回の事件では唯一の生存者が確認されており‥‥」

 

アナウンサーのこの言葉に私は反応した。

生存者だと!?

イヴにはこれまで害虫とそれに組する者、全てを殺す様に命令してあった。

なのになぜ、生存者がいる!?

私はテレビに食いつき、一体誰が生き残ったのかを確認した。

すると、生存者は現ロシアの国家代表、更識楯無と言う情報が入った。

テレビ画面に生存者である更識楯無の顔写真も掲載されている。

更識楯無‥‥ああ、ミスター・更識のお嬢さん、ミス・カタナか‥‥

そうか、お父上の後を継いだのだね‥‥

君の情報も私の下に入ってきているよ。

ナノマシン技術を使用したISに乗っていると‥‥

私がナノマシン技術をIS技術に応用されるのを嫌っているのを知っていながら、そのナノマシン技術が組み込まれているISに乗るなんて‥‥

私への当てつけか?

女であり、

ISに乗り、

しかもそのISにはナノマシン技術を使用しているとは‥‥

私は何故、ミス・楯無を生かしたのかイヴに連絡を入れた。

イヴはまだロシアに居る筈だ。

そして、ミス・楯無はイヴの顔を見ている可能性がある。

そこから私にたどり着かれては今後の活動に支障が出る。

彼女は危険だ‥一刻も早く処理せねば‥‥。

 

「‥‥私だ」

 

「‥‥はい、お父様」

 

「ニュースを見た。ターゲットの抹殺には成功した件に関してはよくやった。だが‥‥」

 

「‥‥」

 

「‥‥だが、何故一人だけ仕留め損なった?」

 

「‥‥」

 

「答えなさい、イヴ」

 

「‥‥その‥‥あの人は、お父様の友人の子だったから‥‥」

 

「‥‥」

 

イヴは、これまで私の命令を忠実に聞いて暗殺を実行してきた。

だが、今回のような事はコレが初めてだ。

警護の中に知り合いが居たせいか?

それとも、織斑一夏の意識が戻りつつあるのか?

いや、そんな訳がない。

もし、織斑一夏の意識が戻っていると言うのであれば、暗殺なんてするわけがない。

まさか、イヴにイヴ自身の自我が覚醒し始めたとでも言うのか?

もしそうだとしたら、いつか私に反旗を翻すかもしれない。

だが、あの首輪にはまだ奥の手が仕込んである。

イヴが私を裏切る訳がない。

だが、ミス・楯無が生きているのは此方にしても都合が悪い。

直ぐにイヴを向かわせて口封じをしなければ‥‥。

いや、待て‥ナノマシン技術を使用しているISを乗っている彼女であれば、ミス・楯無にもバハムードの適性があるのではないだろうか?

イヴもまだロシアにおり、ミス・楯無は入院中で満足には動けない筈‥‥

ふむ、やってみる価値はあるな‥‥

イヴの逃亡援助の為、現地には協力者もいるからな‥‥

 

「イヴ」

 

「‥はい、お父様」

 

「君に汚名返上の機会を与えよう」

 

「‥‥」

 

「イヴ」

 

「はい、お父様」

 

「君が仕留め損なった更識楯無‥‥そいつを私の下に連れて来い」

 

「お父様の所に‥ですか?」

 

「そうだ。必ず生きて連れて来い‥なるべく五体満足でな‥‥」

 

「はい‥わかりました‥‥」

 

これまで殺しには慣れてきたイヴであるが、はたして生け捕りは出来るだろうか?

そんな一抹の不安を抱きつつ、私はロシアにいる協力者に作戦の変更の連絡を入れた。

 

 

~side楯無~

 

篠ノ之博士とイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスもとい、織斑一夏との関係を知った私自身も彼女の事をこれまで化け物扱いしてきた事を悔いた。

一部であるが織斑一夏の過去とブリュンヒルデこと、織斑千冬、そしてその弟の醜態を知り、ブリュンヒルデの見方が変わっていった‥‥。

 

「ですが、篠ノ之博士‥‥彼女と戦った私からの意見では、ISでは彼女には勝てません」

 

楯無は国家代表なのだから、決してIS操縦者の腕が下の方ではない。

むしろ、最年少で国家代表となった為、織斑千冬の到来、ブリュンヒルデに一番近いIS操縦者と言われているレベルである。

その楯無の腕をもってしてもイヴを倒すことは出来なかった。

 

「博士には何か対抗手段はあるんですか?」

 

楯無はIS以外にイヴに対する対抗手段はあるのかと尋ねる。

 

「まずは、あの子に会ってみないと分からないよ。それで、そのタッカーって奴は、君のお父さんの知り合いなんだろう?ソイツが何処に居るのか知らないの?」

 

「ざ、残念ながら‥‥」

 

楯無はタッカーの居場所は知らない。

恐らく父も知らないだろう。

ああいう、裏の顔がある奴等は一定の箇所にはとどまらず、世界各地を渡り歩いているか、世界の彼方此方に何か所にもアジトを構えている事が多い。

恐らくタッカーも同じだろう。

 

「ちぃっ、つかえねぇ‥‥だから、お前は負け犬なんだよ」

 

「ちょっ、その言い方は止めてください!!心にグサッてくるから!!」

 

「ん?それじゃあ、『ス○ル』って呼べばいいの?ただし、その場合だと、私のことは篠ノ之博士ではなく、『な○はさん』って呼んでもらうぞ」

 

「それ、作品が違うから!!っていうか、いい加減足をどけてください!!」

 

楯無は現在、束に踏まれている状態であり、いい加減足をどけてもらいたかった。

 

「ん?」

 

楯無と束が病室で話し合っている時、楯無の病室前で警護をしていた警官はフードを被った不審な人物が此方に近づいてくるのに気づいた。

警官が警戒をすると、その不審人物は物凄い速さで警官に近づき、鳩尾に拳をぶち込む。

 

「がっ‥‥」

 

鳩尾に強烈な一撃を受けた警官はその場に倒れる。

警備の警官を倒し、その不審人物は病室へと入る。

 

ガラッ

 

「「っ!?」」

 

突然開いた病室にドアの方へ楯無と束が視線を向けると其処にはフードを被った不審人物が居たが、病室の二人を確認すると、その不審人物はフードを脱いだ。

 

「っ!?」

 

「貴女はっ!?」

 

其処に居たのは、紛れもなくイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスだった。

イヴはまず、立っていた束に急接近し、警官同様、彼女の鳩尾に強烈な一撃を入れた。

 

「ぐはっ!!」

 

束は科学者であるが、結構体術とかはかなりの腕前であった。

その束がこうしてあっさりと倒されたのは、目の前にイヴが突然現れた事が一番の要因で、イヴをこうして目の当たりにした事で、一瞬の対応が遅れたのだ。

 

ドサッ

 

束がイヴの強烈な一撃を鳩尾に受けて倒れると、イヴは次に楯無に振り向く。

 

「あ、貴女は‥‥」

 

楯無は何故此処にイヴが来たのか理解できなかったが、真っ先に脳裏に過ぎったのが、

 

(まさか、私以外に篠ノ之博士が貴女の正体を知ったから、私を殺しに来たの?)

 

楯無以外の人物が殺戮の銀翼の正体を知ってしまった事なのかと思ったが、イヴは何も言わずに‥‥

 

ドスッ

 

「うっ‥‥簪ちゃん‥‥」

 

警官や束と同じく楯無の鳩尾に拳を入れて楯無を昏倒させた。

二人を倒した時、病室に清掃員のつなぎを着て、リネンカートを押してくる男達がやって来た。

男達は倒れている楯無をカートの中に入れ、束の方を見ると、

 

「此奴、篠ノ之束じゃねぇか!?」

 

「マジかよ!?あの指名手配の!?」

 

「ああ、間違いねぇ‥‥」

 

「じゃあ、コイツをどっかの国に売ればかなりの大金が手に入るかもな」

 

「ああ、一生遊んで暮らせる程の金が手に入るぞ!!」

 

男達は束を何処かの国に売り飛ばそうとしていたが、イヴは倒れている束を見て、

 

(篠ノ之束‥‥お父様がいずれ駆除すべき害虫と言っていた人物‥‥此処で殺すか?いや、楯無と同じように捕獲しなければいけないかもしれない‥‥此処はお父様の判断を仰ぐか‥‥)

 

「そいつはお父様の獲物‥‥勝手な手出しは許さない」

 

「何だと!?このガキ!?」

 

「邪魔する気か!?テメェ!!」

 

「‥此処で‥‥死ぬ?」

 

イヴが男達をその光の宿らない赤紫色の目で睨むと、男達は怯み、

 

「っ!?」

 

「わ、分かった」

 

男達はイヴの迫力に圧され、束もリネンカートの中に入れた。

 

病室から楯無と束が拉致をされた直後、タッカーの携帯が着信音を奏でた。

 

「‥‥私だ。どうしたのかね?イヴ‥ミス・楯無の確保には成功したのかな?」

 

「はい‥お父様。それと‥‥」

 

「なに!?篠ノ之束!?」

 

「‥はい。更識楯無の病室におり、倒しました。お父様の指示を仰ぐため、一応生かしています。どうしますか?殺しますか?」

 

「‥‥いや、ミス・楯無と同じく私の下に連れて来てくれ‥決して殺してはダメだよ」

 

「‥分かりました」

 

イヴには篠ノ之束を殺さす楯無し同様、生きて連れて来いと命じたタッカー。

そして、彼は‥‥

 

「ハハハハハ‥‥今日は何と言う僥倖だ!!まさか、あの篠ノ之束を捕獲できるとは!!ハハハハハ‥‥篠ノ之束‥‥この世界を滅茶苦茶にした罪、贖ってもらうぞ‥‥ISの情報を聞き出した後は、イヴの手によって人体に感じる苦痛という苦痛を味合わせて殺してやる!!」

 

タッカーは狂気に満ちた笑みを浮かべていた。

 

それから暫くして‥‥

 

「うっ‥‥」

 

束が目を覚ました。

すると、束は自分の手が後ろ手に手錠で拘束されている事に気づく。

目の前には自分同様、後ろ手に手錠で拘束されている楯無の姿もあった。

ただし、彼女はまだ意識を取り戻していない様でぐったりとしていた。

 

「っ!?」

 

「気がついたかね?」

 

そして、目の前には眼鏡をかけた男と手術着を着た男が居た。

 

「お前は?」

 

束は睨むように男達に名を尋ねる。

 

「私かい?私の名はショウ・タッカーだ」

 

「お前が‥‥ショウ‥タッカー‥‥」

 

束は目の前の男がショウ・タッカーだと知ると、殺気を滲みだす。

それは某管理局の白い悪魔がブチ切れた時と同じか、それ以上だった。

 

 

束がショウ・タッカーと初邂逅している時、某所では‥‥

 

「束様の反応が‥‥まさかっ!?束様の身に何かあったんじゃ!?こうしてはいられません!!」

 

某所にある束の研究所に居た人物は束のピンチを感じ、研究所を急いで出て束の元へと向かった。


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