8月30日、束の下での修業を終えたシャルルは夏休みの最後の思い出作り?の為、イヴと共に水のテーマパーク、ウォーターワールドへとやって来た。
ウォーターワールドには様々なプールがあった。
流れるプール、波の出るプールに大きなウォータースライダー、バナナボートに乗船できるプール。
その他にも温泉や縁日スペースもあり、浴衣のレンタルも行っている。
夏休み終了二日前とは言え、まだ暑い日が続いている為、ウォーターワールドは家族連れ、友達同士にカップルなど、沢山の人で賑わっていた。
シャルルの場合、両有性具なので、上半身は女性の胸と変わりないので、通常の男性同様、胸をさらけ出してはシャルルが痴女と思われてしまう為、臨海学校の時と同じように上はISスーツ仕様のダイバースーツを着て、下は男性用水着を着用していた。
着替える際もシャルルはカーテンの敷居がある所で手早く着替えていた。
まぁ、上半身の着替えに関してはもう慣れたモノである。
そして予め待ち合わせ場所である更衣室を出てすぐのオブジェの前でシャルルはイヴを待っている。
イヴを待って居る時、シャルルは周りに居る男達をチラッと見る。
メタボな腹の男、ガリガリな男もいるが、中には筋肉モリモリマッチョマンな男も居た。
(はぁ~‥‥我ながら難儀な身体で生まれてしまったなぁ~)
シャルルは自分の特殊な生まれについて思わずため息を漏らす。
(アインスさんもこんな身体よりも男らしい筋肉質な身体の男の方がいいのかな?)
と、上半身は女性と変わらないこの身体よりも男らしい筋肉モリモリな身体つきの方がいいのではないか?と思ってしまう。
しかし、シャルルはまだ知らない‥‥イヴが胸フェチであると言う事を‥‥
そう言う点ではシャルルは男ながら上半身は女性の身体と言う事で、意外とイヴの理想な身体を持っていたのかもしれない。
シャルルがイヴを待ちつつ、自分の身体つきに悩んでいると、
「お待たせ」
着替えを終えたイヴがやって来た。
イヴの声に反応し、シャルルは自分の身体つきについての悩みを頭の片隅に置く。
水着姿のイヴを見てシャルルの顔は赤くなる。
思えば、臨海学校ではクラスメイトからビーチバレーに誘われ、イヴと戯れる事が出来なかった。
でも、今回はこうしてイヴと二人っきりでプールを楽しめる。
「それじゃあ、行こうか?」
「う、うん‥そうだね」
イヴがシャルルの手を取り、二人はプールに向け歩いていく。
「そ、そういえば、その水着‥‥」
プールサイドを歩いている時、シャルルはイヴの水着が臨海学校前、一緒にショッピングへ出かけた時と違う水着である事に気づく。
「その…新しい水着‥なんだけど…似合うかな?」
「う、うん。とても似合っているよ」
「フフ、ありがとう」
イヴの笑みを見て、顔全体が赤くなるシャルル。
いや、シャルルだけでなく、イヴとシャルルの近くに居た男達も思わず顔を赤くしていた。
流れるプールで浮き輪をレンタルしてイヴを浮き輪に乗せ、シャルルがバタ足で浮き輪を押していると、シャルルは何か直感めいたモノを感じた。
「アインスさん」
「ん?」
「ゴメン」
「えっ?」
シャルルはイヴを突然、水中へと押し倒した。
その直後、隣のプールにバナナボートに乗った本音たちが通り過ぎて行った。
(あれ?おかしいな、イヴイヴの気配を感じたんだけどなぁ‥‥)
バナナボートの上から周囲を見渡す本音。
彼女はイヴの気配を感じ取ったのだが、その肝心のイヴの姿は見当たらない。
(私の思い違い?いや、そんな筈はないんだけどなぁ‥‥)
「本音、どうしたの?」
辺りを見渡す本音の様子が気になったのか、本音の後ろに乗っていたクラスメイトが声をかける。
「ううん、なんでもないよ」
本音の乗るバナナボートはプールの底に沈んでいるシャルルとイヴに気づかづに流れて行った。
「ぷはっ!!」
「はぁ~」
本音の乗るバナナボートが完全に通り過ぎると、プールからシャルルとイヴが浮かび上がってくる。
「どうしたの?デュノア君、急に」
「いや、お邪魔虫の気配を感じて‥‥」
「?」
シャルルの言う事がちょっと理解出来なかったイヴは首を傾げた。
(僕達、同様IS学園の生徒も当然来ている可能性を考慮し忘れていた‥‥)
元々このウォーターワールドのパンフレットはIS学園の寮のロビーに合ったモノだかし、もうすぐ夏休みが終わり高と言ってもまだ夏休み期間中‥‥
故に当然ウォーターワールドにIS学園の生徒が来ていても不思議では無かった。
(更識さんも来ているのかな?)
この場に簪が来ていれば確実にイヴと接触して来る。
そうなれば折角イヴとの時間を邪魔される。
簪もそうだが、シャルルは自分でも此処まで独占欲が強かった事に意外性を感じた。
でも、それでもシャルルはイヴとの二人っきりの時間を誰にも邪魔されたくはなかった。
シャルルがそう思っていると、ビィービィーと警報音が突然鳴り響く。
警報と共にATTRACTION TIMEと書かれた看板が点滅しだした。
すると、ダムの放水の様にゲートが開くと、そこから大量の水がシャルルとイヴの方へ押し寄せて来た。
「おお、凄い!!」
「そんな事を言っている場合じゃないよ!!」
イヴは自分達に迫る大量の水に対して特に驚く様子もなく、むしろ興奮している。
しかし、シャルルの方は災害に出も巻き込まれた気分で慌てている。
やがて、大量の水は二人を飲み込み、イヴとシャルルはきりもみされながらもプールサイドに流れついた。
「面白かったね、デュノア君」
「あっ‥うん‥‥」
大量の水にきりもみされながらもイヴは楽しんでいたみたいだった。
続いて二人がやって来たのは、ウォーターワールドでも一際目を引く大きなウォータースライダーで、今回シャルルとイヴが並んだのはウォーターワールドの中に数あるウォータースライダーの中にあるペア滑りコースと言うモノであった。
形状は、曲線蛇行型のウォータースライダーであるが、このペア滑りは男女が二人で一緒に滑るモノらしく、主にカップルが一緒に滑るモノの様だ。
「それでは、ペア滑りのご説明をさせて頂きます」
滑り口では、ウォーターワールドの従業員からの滑り方のレクチャーを受けた。
「まず、男性の方が此処に座って…」
「あっ、はい」
シャルルは従業員の指示に従って指定された場所へと座る。
「そして、女性の方は男性の足の間に座って下さい」
「はい」
続いてイヴも従業員の指示通りの位置へと座る。
「えっと‥こうですか?」
「はい。それで、男性の方は女性の方を後ろからギュッと抱きしめてあげて下さい」
「は、はい‥‥そ、それじゃあ‥アインスさん‥‥い、いいかな?」
「う、うん‥いつでも‥いいよ…」
シャルルがイヴの身体に手を回すと、
「ひゃっ…!?」
イヴが小さな声を上げた。
こうした密着状態で今は変にシャルルの事を意識しているイヴ。
その為、思わずイヴに触れられて声をだしてしまったのだ。
(スーツ越しだけど、デュノア君の柔らかい胸が‥‥)
一方のシャルルの方も、
(や、やっぱり、アインスさんの身体‥柔らかい‥‥)
身体を密着させた事で互いに互いを変に意識してしまう。
『おい、一夏。そんなに気まずいなら変わってやろうか?』
イヴの中の獣が人格を変わってやろうかと訊ねる。
(よ、余計な事はするな!!こ、これは私の為に頑張ってくれたデュノア君のお礼なんだから、わ、私がやらないと意味がないの!!)
『ほぉ~そうかい。まぁ、せいぜい頑張ってくれよ。こっちはお前の中から高みの見物をさせてもらおうか?』
獣はきっとニヤニヤした顔をしているに違いない。
でも、イヴは獣の力を借りずに今回のシャルルとのお出かけは自分でやると言う。
それにシャルルへの告白の返答も獣ではなく、自分がやらなければならなかった。
「危ないので、しっかりと抱き付いて下さいね」
従業員の手助けによって、シャルルとイヴは更に密着状態となる。
「それでは、いってらっしゃい」
最後に従業員がシャルルの背中を押すと、シャルルとイヴはウォータースライダーを滑り落ちていく。
勢いよくウォータースライダーを滑走し、激しく水飛沫を上げながら曲線蛇行する。
ISとはで下降するのとは別の迫力がある。
その為、 加速する勢いが凄まじいのか、思わず声をあげるイヴ。
ただその最中、シャルルの手は図らずもイヴの胸に触れた。
最後のコーナーを曲がり、更に急になったスライダーを滑り落ちる様に流されていくと、激しく水飛沫が飛び散り、滑り終えたシャルルとイヴはびしょ濡れ状態だった。
「ぷはっ‥‥す、凄かったね、アインスさん」
「う、うん‥‥でも、デュノア君、今私の胸を掴んだでしょう?」
「あっ‥‥いや、その‥‥あれは不可抗力で‥‥」
イヴはシャルルにギュッと抱きしめられた感触と胸を触れられた感触を思い出して顔を再び赤くした。
シャルルもイヴの胸を触った事で顔を赤くした。
午前中、プールを目一杯楽しんだイヴとシャルルはウォーターワールド内に有るレストランに来ていた。
流石に店内まで殆ど肌を晒した水着で入るのは躊躇するため、上にパーカーを羽織って店内へと入る。
イヴはカルボナーラを注文し、シャルルはハンバーグのセットを注文する。
やがて、注文の品が来て食事を始める。
イヴは上品にフォークでカルボナーラのパスタの麺を絡め、上品に食べる。
でも美味しいのか満面の笑みでイヴはカルボナーラを食べる。
そんな様子をシャルルはぎこちない様子でフォークとナイフを使いハンバーグを食べていた。
「ねぇ、折角だから、またあれやろう」
すると、イヴが食事の手を一時止めてシャルルに声をかける。
「あ、あれ?」
「うん。この前、皆でショッピングモールに行った時、食べさせあいしたでしょう?」
「あっ、うん。そうだね」
シャルルが頷くとイヴはフォークでカルボナーラのパスタの麺を絡めると、
「はい、あーん」
イヴはそれをシャルルに差し出す。
前回のショッピングモールの時はシャルルの他に簪たちも居たので、その場の雰囲気があったのだが、今回はシャルルと二人っきり‥‥
今回はイヴなりの気遣いがあった。
「あ、あーん」
シャルルは意を決してイヴのカルボナーラを食べさせてもらう。
周囲の彼女無しの男には辛い光景である。
実際、シャルルとイヴの周りの男性客はシャルルの事を羨ましそうに見ていた。
食後もウォーターワールドのプールを堪能した後、夕方には縁日エリアへと向かった。
シャルルとイヴも浴衣をレンタルし、浴衣姿で縁日エリアを回る。
縁日エリアでは沢山の露店があった。
縁日の露店の定番の出し物である金魚すくい、射的、水風船釣り、型抜き、輪投げ、くじ引き、お面屋、スーパーボールすくい。
食べ物でも綿あめ、焼きそば、タコ焼き、イカ焼き、カキ氷、チョコバナナ、アメリカンドッグにフランクフルト、焼き鳥、あんず飴、りんご飴、たい焼き、クレープ、焼きとうもろこし、じゃがバター。
施設の敷地内であるが、そこはまさに本格的なお祭りの様なエリアとなっている。
「‥‥」
シャルルはチラッととなりを歩くイヴの姿を見る。
イヴは黒の下地に朝顔が描かれた浴衣に赤い帯、髪はピンでまとめ上げられており、大きなリボンをつけている。
髪の色が黒ではなく、銀となっているが、もし黒髪ならば大和撫子の様な風体だ。
シャルルの方は黒い縦縞が描かれた灰色の浴衣に白い帯をしている。
イヴは沢山ある縁日エリアの露店に目移りしている様子だった。
「ん?金魚すくい?」
シャルルは日本の縁日は初めて見たいで、縁日では定番の出し物である金魚すくいがどんなモノなのか分からず首を傾げた。
「デュノア君、金魚すくいは初めて?」
「う、うん‥‥これ、どうやってやるの?」
「これはね‥‥」
イヴはお店の人から網とお椀を受け取ると、まずはジッとプールの中で泳いでいる金魚を見る。
すると、目も止まらぬ速さで金魚を網で掬い、お椀へと入れる。
「こうして網で金魚を取るんだよ」
「「‥‥」」
イヴの速さにシャルルとお店の店員も唖然としていた。
「あっ、この網が破れるとゲーム終了だからね」
「う、うん」
シャルルもチャレンジしたが、初めての事なので、金魚は取れなかった。
続いて射撃では流石に元フランスの代表候補生‥‥使用していたのが玩具だったにもかかわらず、コルクの弾、一発で一個の景品を取った。
「僕、これ得意かも‥‥」
「おお、流石だね」
シャルルは満足そうだったが、射撃のお店の店員は渋い顔をしていた。
続いてやって来た食べ物の屋台では、
「あ~む‥‥はふ、はふ‥はふ‥はふ‥‥」
イヴは焼きたてのたこ焼きを頬張っていた。
「ゴクン‥‥うん、美味しい。デュノア君もどう?」
イヴはシャルルにたこ焼きを勧めるが、
「い、いや、デビルフィッシュはちょっと‥‥」
フランス人のシャルルにはたこを食べる事にはちょっと抵抗があった。
「はむ‥‥甘い‥それにふわふわしていて美味しい‥‥アインスさんも一口どお?」
たこ焼きには抵抗があったシャルルでも綿あめはすんなり受け入れることが出来た。
「じゃ、じゃあ‥一口‥‥はむっ‥‥うん‥甘い‥‥」
縁日エリアを見て回っていると、太陽は西の彼方に沈み、打ち上げ花火が打ちあがる。
シャルルとイヴは打ち上げ花火を見ていたが、
(へ、返事を‥しないと‥いけない‥よね‥‥)
イヴは打ち上げ花火を見ながらシャルルへの返事を今ここでしようと決心した。
「ふぅ‥‥はぁ‥‥」
深呼吸をした後、
「でゅ、デュノア君‥‥」
「ん?なに、アインスさん」
「その‥‥この前の‥返事なんだけどさ‥‥」
「えっ?」
「その‥臨海学校の‥‥」
「あっ‥‥」
シャルルは臨海学校での返事と言われ、身体をこわばらせる。
あの時、自分はイヴに異性として好きだと告白したが、肝心のイヴからの返答は未だになかった。
告白したらかといって絶対に実るとは限らない。
ましてや自分は女と男の両方の身体‥‥
人として中途半端な存在‥‥
そんな自分をイヴが受け入れてくれるだろうか?
イヴからの返答が怖く、心臓の鼓動が自然と早くなる。
「‥‥」
「その‥‥こんな私で、よければ‥‥」
「‥‥」
イヴの返答に最初は理解出来なかったが、
「ほ、本当に‥いいの?僕なんかで‥‥その‥こんな中途半端な身体なのに‥‥」
「中途半端じゃないよ‥‥デュノア君は立派な人間だよ‥‥私なんかと違って‥‥」
「そんな事ないよ!!アインスさん‥‥アインスさんの方が‥‥」
「いや、デュノア君の方が‥‥」
「いや、アインスさんの方が‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
互いに互いを弁護する様にしていると、思わず笑みがこぼれる。
「ふっ‥フフフフ‥‥」
「ハハハハハ‥‥」
不思議と笑いが込み上げてくる。
二人は笑い飛ばした後、自然と二人の顔の距離が縮まって行き‥‥
「「んっ‥‥」」
シャルルとイヴの唇は重なり合った。
「これからよろしくね、デュノア君‥‥」
「こちらこそ、アインスさん」
「「んっ‥‥」」
二人の唇は再び重なり合い、打ち上げ花火はまるで二人を祝福するかのように夜の空を照らしていた。
此処で時系列は少し過去へと遡る。
某所にある亡国企業のアジトでスコールが第二回モンド・グロッソ、織斑姉弟誘拐計画を調べている時、スコールが操作しているパソコンのモニターに織斑一夏、織斑百秋の顔写真が表示されている時、スコールの部屋のドアの隙間から、彼女の部屋を覗き込んでいる者が居た。
(織斑一夏‥‥織斑百秋‥‥そして、織斑千冬‥‥)
スコールの部屋を覗き込んでいる者は首からぶら下げているロケットをギュっと力強く握りしめる。
それは物凄い怒りを抑え込むかのようだった。
「‥‥」
そして、スコールは織斑一夏の顔写真と先日、IS学園が行った臨海学校にて盗撮したイヴの顔写真を比較して、確信を得た
「へぇ~まさか、あの子がねぇ~‥‥あの子があのブリュンヒルデ様の妹だったとはねぇ~」
妖艶な笑みを浮かべながら一夏とイヴの顔写真を比較しながら呟く。
そしてスコールはそのままの姿勢で、
「覗き見なんて良い趣味じゃないわね、M」
「‥‥」
スコールは自分の部屋を覗き見していた人物の存在に気づいていた。
「織斑千冬と織斑百秋は好きにしていいけど、この子だけには手を出しちゃダメよ」
「‥‥」
「まぁ、例え貴女でもこの子には勝てないわ」
「っ!?」
自分の部屋を覗き見していたMに対して、千冬と百秋は好きにしていいと言うが、一夏‥イヴに対しては手出し無用と警告するが、Mは何も答えない。
さらにスコールはMの実力ではイヴには勝てないと言うと、Mがその言葉に反応した。
「いいこと、もう一度言うわ‥命が惜しければ、絶対にこの子には手を出しちゃダメよ」
「‥‥」
スコールの言葉を理解したのか、していないのかは分からないが、Mはその場から去って行った。