シルバーウィング   作:破壊神クルル

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76話

夏休み直前に自由国籍を手に入れたシャルルはこれまでの愛機を元故郷のフランスへと返却した。

二学期からは専用機無しとなるかと思いきや、突然イヴと共に束からの呼び出しを受けたシャルル。

そして束の下へ行ってみると、束はイヴのナイト役として渋々であるが、シャルルを認め、シャルルの為に専用機を用意していた。

ただ性能を聞く限りでは、これまで各国が国家代表や国家代表候補生の為に開発した専用機よりも性能は上だ。

しかし、その性能を引き出す為には厳しい訓練が必要だった。

こうしてシャルルは束の下で新たな専用機の訓練を行う事になった。

だが、束の下での訓練はシャルルがかつてフランスで受けてきた訓練よりも厳しいモノであった。

朝から晩までほぼ実戦形式の模擬戦の連続であり、しかも一対一ではなく、常に一対複数の戦いだ。

ISの絶対防御がある為、大怪我や死に至るような事はないがそれでも地面に叩きつけられたり、攻撃をうけて衝撃を受けたりして常にグロッキー状態であることは変わりない。

でも、夏休み終盤になり、シャルルも大分新たな専用機、『ベディヴィア』の取り扱いにも慣れてきた。

こうした才能も元フランス代表候補生たるシャルルの才能であると言える。

シャルルは最近ではゴーレム相手には複数でも勝率をあげてきた。

最もイヴ相手にはやはりシャルルでも勝てていない。

そんなイヴもあの臨海学校でのシャルルへの返答にもどうするべきかと困惑していた。

これまでの人生でイヴは男性には酷い目に遭ってきた。

でも、シャルルはその特殊な体の生まれの関係で、完全な男性とは言えない。

それ故かイヴはシャルルに対しては父である織斑四季同様、嫌悪感は抱いていない。

イヴの中に住み着いている獣もシャルルに対してはイヴ以上に好意をもっており、人を殺す事しか考えていなかった筈の獣に人間味を持たせていった。

そう考えてみると、シャルルは凄い人物なのかもしれない。

イヴがシャルルへの返答に困っている中、夏休みの日も残りわずかになっていくある日、この日もシャルルはいつものようにベディヴィアの訓練の為、訓練場に行くとそこにはいつも自分の訓練相手をしているゴーレムの姿はなく、イヴ一人だった。

 

「あれ?今日はアインスさん一人なの?」

 

「‥‥」

 

シャルルが今日の相手はイヴ一人なのかと問うとイヴは黙ったまま俯いている。

 

「ん?どうかしたの?アインスさん」

 

黙って俯いているイヴに違和感を覚えるシャルル。

すると、

 

メキッ‥‥

 

ゴキッ‥‥

 

グチャッ‥‥

 

イヴの姿が変化した。

その姿はあの臨海学校の夜、あの浜辺でみた化け物へと姿を変えた。

 

「し、篠ノ之博士!!貴女はまたアインスさんを!!」

 

シャルルはあの時のように束がイヴに何かしたのかと思い声をあげる。

だが、

 

「いや、違うよ。デュノア君」

 

あの化け物姿のイヴが人語を話した。

 

「この姿は私の意志でこうなったんだよ」

 

これまでイヴが化け物の姿になったのはイヴの意志ではなく、第三者の思惑で無理矢理化け物の姿にされたので理性と言うモノはなかった。

だが、今回はイヴ自身の意志でこの姿になったので、理性があり、こうしてちゃんと言葉をしゃべる事が出来るのだ。

 

「で、でもなんで、その姿で?」

 

シャルルは何故、態々その姿で自分の相手をするのかを訊ねる。

 

「デュノア君の相手はもうゴーレムじゃ務まらない‥‥流石、フランスの代表候補生」

 

「元がつくけどね」

 

「だからこそ、私の本気の姿で相手にならないとデュノア君の相手が務まらないからね」

 

「で、でも僕はまだISを纏ったアインスさんに勝ってない様な‥‥」

 

シャルルはまたリンドヴァルムを纏ったイヴにも勝っていないのにその上を行く化け物の姿のイヴにはステップを飛ばしていないかと問う。

 

「私を守るのであれば、今の私以上の力をつけないとね‥‥夏休みももうすぐで終わるんだから、段取り順でのんびりとは出来ないからね‥‥じゃあ‥いくよ‥‥」

 

そう言うや否やイヴは高速でシャルルと距離を詰める。

 

「くっ‥‥」

 

シャルルは咄嗟にガラティーンを振う。

 

ガキーン!!

 

シャルルのガラティーンとイヴの金属化した腕の刃がぶつかり合う。

ガチャ、ガチャと鍔迫り合いをしていると、

 

ヒュン

 

イヴの蛇状の尻尾がシャルルへと襲い掛かり、

 

バチン!!

 

「ぐぁっ!!」

 

シャルルを弾き飛ばす。

流石に蛇の尻尾の消化液は出さない。

それでもISを纏ったシャルルを吹き飛ばす威力があるのだから、かなりの力だ。

 

(尻尾なのにこれだけの威力‥‥やっぱりあの姿のアインスさんは強すぎる!!しかも今回はあの時と違い、元も戻す方法はアインスさんを気絶させるぐらいしかない‥‥)

 

あの浜辺の時は、束がイヴに対してN.S増幅振動機なる機械をつかって無理矢理イヴをあの姿にした為、N.S増幅振動機を取り外したら元の姿に戻ったのだが、今回はイヴの意志であの姿になっているので、あの姿を解除するにはイヴが自分の意志で元の姿に戻るか、イヴを気絶させて解除させるかの二通りしかない。

 

「こうなったら‥‥」

 

シャルルは覚えたての単一仕様能力の一つ‥‥

百秋の白式と同じ能力‥『零落白夜』を発動させ、イヴへと斬りかかる。

再びシャルルのガラティーンとイヴの金属化した腕の刃がぶつかり合うが、

 

「デュノア君、君は大きな間違いを犯しているよ」

 

「えっ?」

 

「零落白夜は確かに使い方次第では強力な単一仕様能力だけど、それは相手がISの時だ」

 

「っ!?」

 

「残念だけど、私はISじゃないよ」

 

そう言うとイヴは腕に小さな二対の翼を生み出し、ほぼゼロ距離で羽根の弾丸を何枚も撃ち込む。

このままでは不味いと思ったシャルルは零落白夜を解除して、イヴと距離を取り、もう一つの単一仕様能力、『絢爛舞踏』 を発動させてエネルギーの回復を図る。

しかし、イヴは相手のエネルギーを回復させる余裕を与えない。

シャルルのISの能力を把握しているからこそ、追撃の手を緩めない。

腕の刃物と時折繰り出してくる蹴り、距離を取れば、羽根による銃撃で動きを止め、其処へ距離を詰めてくる。

肩の部分にかかと落としを喰らい、そのまま地面に叩きつけられるシャルル。

 

「いっ‥つぅ~‥っ!?」

 

地面に叩きつけられ、起き上がった瞬間、シャルルは直ぐにその場から転がる。

その直後、イヴの鍵爪の足が襲い掛かる。

もし、あのままあの場で倒れていたら、イヴの鍵爪の餌食となり、更にイヴに押し潰されていた所だった。

 

「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥」

 

模擬戦の筈なのに命の危険を感じる。

モンド・グロッソの本場でもこんな緊張感は味わえない。

本物の戦場に立って居る様な錯覚さえ覚える。

無意識の内にガラティーンを持っている手がカタカタと震えている。

自分の中にある生存本能がイヴを恐れているんだ。

 

「どうしたの?デュノア君‥‥やっぱり、私が怖い?」

 

「っ!?」

 

イヴの言葉に模擬戦に熱くなり、そしてイヴに恐怖を抱いたシャルルの頭に冷や水をぶっかけられたような感覚になった。

 

「そ、そんなことは‥‥」

 

「強がらなくていいよ。私自身、こんな力を使っているけど、私は私が怖いもん‥‥ましてやそんな化け物と対峙しているんだから、デュノア君の恐怖は当たり前だよ」

 

「‥‥」

 

「でも、私を守ると言うのは常にその恐怖と戦わなければならないって事‥‥」

 

「‥‥」

 

「この恐怖を克服しろ、慣れろ‥とは言わない。でも、決してこの恐怖に呑まれないように最低限でも強い心と精神を持ってもらう‥それがこの模擬戦の本当の目的‥‥」

 

「‥‥」

 

「だから、私はある程度力は抜くけど、心は鬼にしてデュノア君に徹底的に恐怖を体験させて恐怖を植え付ける!!」

 

それからイヴは徹底的にシャルルをボコった。

だが、シャルルもイヴの事を理解し、絢爛舞踏を何度も使い、倒れても起き上がり、イヴへと果敢に挑んだ。

 

「はぁ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥」

 

ISを解除して訓練場で大の字に倒れているシャルル。

 

「今日は此処まで‥‥明日もやるからね」

 

「う、うん。お願い‥‥」

 

「じゃあ、私は先に上がるから」

 

倒れているシャルルを尻目にイヴは先に戻る。

 

『おい、一夏』

 

(なに?)

 

『さっきの模擬戦でお前はデュノア君にああいったが、なんだがデュノア君を試しているようにも見えるが、同時にお前はデュノア君を自然な形で拒絶させようとしているようにも見えるんだが?』

 

(‥‥)

 

獣の指摘にイヴは思わず黙る。

二学期になればシャルルが一学期と違う専用機を所有している事は嫌でもバレる。

しかもあの百秋と同じ単一仕様能力を持つISだ。

あの織斑姉弟がいちゃもんをつけてこない筈が無い。

それに関しては楯無を通じて自由国籍を盾に守るつもりだ。

でも、それ以外‥自分と関わりを深めると余計な嫌がらせの飛び火をシャルルに浴びせてしまうかもしれないと言う不安があった。

 

『お前、デュノア君がアイツらに酷い目に遭わされると思っているんじゃないのか?』

 

(‥‥)

 

『‥沈黙は肯定と見なすぞ』

 

(‥そう思ってもらっても構わないよ)

 

『つまり、そう思っているって事はお前自身、デュノア君に対してそう言う感情が存在するって事か?』

 

(‥‥)

 

『まぁ、今はデュノア君を二学期が始まるまでに少しでもあの機体に慣れさせることと強くすることを優先させよう。でも、お前自身もデュノア君に対する気持ちも整理しておけよ』

 

(‥‥)

 

まさか、獣から恋愛関係の忠告を受けるとは思ってもみなかったイヴだった。

それから夏休み最後の週までイヴはあの化け物の姿でシャルルの相手を務めた。

勿論、模擬戦の相手以外に時間の合間を見つけて夏休みの課題もちゃんとやったし、模擬戦後のアフターフォローもちゃんとやった。

そして、夏休みも残すところあと三日となった頃、結局シャルルは化け物の姿のイヴに勝つことは出来なかったが、残り日数とこれまでの模擬戦の結果から少なくとも同学年では上位に当たる実力はついた。

学園最強の楯無相手にどれくらい食いつくかは分からないが、少なくとも良い所まで行ける筈である。

 

「それじゃあ、たばちゃん。またね」

 

「うん、元気でね」

 

「篠ノ之博士、専用機から訓練までありがとうございました」

 

「まぁ、この先は君自身の努力次第だからね。才能に自惚れていると必ず痛い目を見るからね。私が言うのもなんだけど、『努力に勝る天才なし』だよ」

 

「はい」

 

束にしては珍しくシャルル(他人)に対してアドバイスをして見送った。

確かにこの束の下での修行中、シャルルのISの腕は上がった。

だが、その一方、イヴの方はシャルルに対する思いに明確な答えを出す事が出来なかった。

 

束の下からIS学園の寮へと戻り、互いに疲れたのでこの日は部屋へと戻る。

 

「はぁ~‥‥どうしよう~‥‥」

 

イヴはベッドに倒れ込み、天井をボォっと見る。

自分自身、きっと獣が言う通り、シャルルの事を意識していると言う事はイヴ自身、シャルルに対して恋愛感情を抱いているのだろう。

でも、シャルルは両性具有とは言え、れっきとした人間‥‥

しかし、自分は人の姿をした化け物‥‥

それ以外にも自分はあの織斑姉弟に目の敵にされている。

自分と関係を深めればきっとそれはシャルルへと飛び火してしまう。

シャルルに対して恋愛感情を抱いているのであれば、そう言った迷惑から遠ざけたい。

 

『まぁ、そこまで難しく悩まなくていいんじゃないか?』

 

(‥‥)

 

『‥‥ひとまず、デュノア君はあのマッドの所で修業を頑張ったんだからよ、デュノア君を誘って何処かに出かけたらどうだ?』

 

(‥‥)

 

イヴはシャルルへの答えはでなくとも、獣の提案はいい案だと思い、部屋から出て寮のロビーへと向かう。

ロビーにはアルバイトの広告やテーマパークのチラシとかが置いてある。

何か参考になるかもしれないと思って来てみたのだ。

夏休みも事実上、残り二日なので、旅行へは無理。

よって日帰りで行ける様な所だ。

すると、一枚のチラシが目に入る。

そのチラシにはつい最近になってオープンしたテーマパークのモノだった。

 

「‥‥とりあえず、此処に行こうかな?」

 

夏のテーマパークらしく、様々なプールの他に縁日スペースでは浴衣のレンタルもあり、施設内を浴衣で回る事も出来るらしい。

イヴはチラシを一枚持ってシャルルの下へと向かう。

 

その頃、シャルルも寮の自分の部屋のベッドの上に居た。

 

「はぁ~‥‥」

 

半月の間、束やクロエも居たけど、事実上イヴと生活を共にしていた事になるが、進展は特になかった。

まぁ、束の所での目的は新しく貰った専用機を使いこなす為だったのだが、折角の高校の夏休み‥少しくらいは想い人と一緒に楽しみたかった。

修業中は確かにイヴのあの姿相手での模擬戦はホント命の危機を感じるし、発狂する程怖かった。

でも、模擬戦が終わればいつものイヴに戻り、優しくしてくれた。

そんなイヴの事をシャルルはより一層愛おしく思う。

シャルルがイヴの事を思っていると、

 

コンコン‥‥

 

部屋のドアをノックする音がした。

 

「デュノア君、起きている?」

 

「あ、アインスさん!?」

 

訪ねてきたのは今、自分が思っていたイヴだった。

シャルルは慌ててベッドから飛び降り、ドアへと向かう。

 

「お、おまたせ、アインスさん」

 

「そんなに待っていないけど‥‥ごめんね、疲れているのに」

 

「そんな事ないよ。それで、何か用?」

 

「うん、明日もし、暇なら此処に行かない?」

 

「えっ?」

 

イヴは先程、ロビーで手に入れたテーマパークのチラシをシャルルに見せる。

 

「あっ、此処って最近オープンしたテーマパークだよね?」

 

「うん、デュノア君、たばちゃんの所で頑張っていたし、夏休みももうすぐで終わりだから、夏休みの思い出にでも‥と思って‥‥」

 

イヴはやはり、シャルルを誘うのがちょっと恥ずかしいのか、ほんのりと頬を赤く染め、チラチラと視線を逸らしながらシャルルを誘い、返答を待つ。

そんなイヴの姿にシャルルのハートに矢が突き刺さり、

 

「うん!!行こう!!」

 

シャルルにイヴからの誘いを断ると言う選択肢は存在しなかった。

 

「分かった。それじゃあ、明日9時半に寮の玄関で待合わせをしよう」

 

「うん、分かった」

 

「それじゃあ、また明日ね」

 

「うん、また明日ね、おやすみ、アインスさん」

 

「おやすみ、デュノア君」

 

こうして明日、イヴはシャルルと共にテーマパークへお出かけする事となった。

その頃、某所にある亡国企業のアジトでは‥‥

 

「‥‥」

 

亡国企業のメンバーの一人、スコールは一心不乱にパソコンのキーボードを叩いていた。

そして、最後にEnterキーを叩くと、パソコンのモニターにはある項目が表示される。

そこには、

 

『第二回モンド・グロッソ、織斑姉弟誘拐計画』

 

と書かれていた。

第二回モンド・グロッソにおける織斑一夏、織斑百秋の二人の誘拐計画書だった。

依頼人はなんと開催国であるドイツ政府だった。

ドイツ政府の思惑は二つあった。

織斑千冬は元々第一回モンド・グロッソでの優勝経験がある為、第二回モンド・グロッソでも優勝候補だった。

その優勝候補を潰す為、織斑千冬の妹と弟を誘拐させ大会を辞退させる事、

もう一つは、織斑千冬に貸しを作る事、

誘拐事件解決の為、ドイツ政府は軍と武装警察をいつでも出動できるようにしていた。

そして、その思惑は大会の参加を辞退させる事は出来なかったが、織斑千冬に貸しを作る事が出来、軍のIS部隊の教官職につける事に成功した。

その誘拐計画の中で依頼人はドイツ政府であったが、織斑姉弟の誘拐実行犯はスコール達の組織、亡国企業だった。

だが、この計画にスコールやオータムは参加しておらず、世界初の男性操縦者である織斑百秋の顔は兎も角、第二回モンド・グロッソ後に行方不明になった織斑一夏の事が気になり調べていた。

スコールは織斑一夏誘拐の実行部隊から、誘拐後、織斑千冬は織斑一夏の救助に来なかったので、その後一夏をタッカーの研究所に売り飛ばした事を知ったのだ。

その後、タッカーの下でどうなったのかは知らないと言うが、あのタッカーが関係していると言う事で、もしかして‥と言う思いがあった。

 

「これはっ!?」

 

そしてスコールはあの時の誘拐ターゲットである織斑一夏の当時の顔写真を見て思わず驚愕の声御をあげた。

彼女の思惑は当たっていた。

 

「へぇ~まさか、あの子がねぇ~‥‥」

 

パソコンのモニターに映る織斑一夏の顔写真を見てスコールは妖艶な笑みを浮かべていた。

スコールはパソコンのモニターに映る織斑一夏の顔写真を見てある確信を得たのだった。


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