シルバーウィング   作:破壊神クルル

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75話

 

 

学園が夏休みとなり、シャルルは自由国籍を無事に取得したが、それはシャルルにとってフランス代表候補生の資格と専用機の所有権の剥奪を意味していた。

シャルルは愛機をかつての故郷に返還したが、これまで苦楽を共にした愛機を手放した事に少なからず、シャルルは意気消沈した。

そんな中、イヴはシャルルを買い物へと誘う。

買い物をして、昼食に入った喫茶店の店長さんに誘われてその店の臨時バイトをしたシャルルとイヴ。

イケメンな執事のシャルルと美少女のメイドなイヴのおかげでこの日の喫茶店はそれなりに人が入った。

ただ、そんな中で喫茶店に招かれざる客‥逃走に失敗した強盗犯達が逃げ込んできた。

普段は男を下に見ている女尊男卑主義な女性客も拳銃を手に持っている強盗犯達を前、身体をブルブルと震わせていた。

しかし、強盗犯達にとっての不幸は逃走に失敗しただけでなく、逃げ込んだ店にシャルルとイヴが居た事だった。

シャルルとイヴの息の合ったコンビネーションで強盗犯達はあっという間に御用となった。

ただ、自分らがIS学園の生徒であると言う事がバレると色々と面倒なので、シャルルとイヴは警察の介入前にその店を出た。

そして、帰り際に二人は屋台のクレープ屋でクレープを食べた。

その屋台のクレープは女子高生の間で恋が叶うと言う噂があった。

当初はお目当ての恋が叶うミックスベリー味のクレープが店になかった事にちょっと残念そうなシャルルであったが、イヴはミックスベリー味のクレープがなんなのかを見抜き、ベンチでクレープを食べながらその正体をシャルルに教えた。

 

それからシャルルは、夏休み期間中はバイトをしようと決め、早速ネットで探した。

夏休みと言う事でイベントがあちこちであり、運営スタッフの募集があった。

イベントスタッフはバイトの期間が短いが、バイト代は結構高額なモノが多い。

シャルルは早速、登録してイベントスタッフのバイトをしていた。

勿論、そのバイトにはイヴも参加していた。

ただ、バイトの最中、同じバイトの大学生がイヴにモーションをかけるのを見て、嫉妬心を露わにした。

勿論イヴは付き合うつもりはないので断り続けた。

そんなバイト続きな夏休みを送っていると、イヴのスマホに束からメールが届いた。

 

「ん?束ちゃんからメール?」

 

開いてみるとシャルルと一緒に自分の下に来て欲しいと書いてあった。

 

「メール、篠ノ之博士から?」

 

「うん。なんか、デュノア君も一緒に来てほしいみたい」

 

「‥‥篠ノ之博士が僕に一体何の用だろう?」

 

「さあ?」

 

シャルルは自分が束からあまり好印象を受けていない事を知っていた。

それは束自身が興味の無い人には関心が無い事とシャルルが自分の一番のお気に入りであるイヴに恋心を抱いている事が気に食わない部分が影響している。

 

(あっ、でも臨海学校で篠ノ之博士はまた会う事があるだろうって言ってたっけ‥‥?)

 

シャルルは臨海学校の終わりに束が自分に会うかもしれないと言っていた事を思い出した。

 

「‥‥まさか、僕の身体を使って人体実験‥なんてことはないよね?」

 

束が一体自分に何の用があるのか不明だが、一応自分は世界で二番目の男性操縦者となっている。

束が自分を人体実験のモルモットにする可能性は十分ある。

 

「うーん‥‥そんなことは無いと思うけど‥‥」

 

イヴは否定するが、あの束だからなぁ~と言う事で完全に否定する事は出来なかった。

でも、イヴ自身も一緒に行く訳だし、そこまで酷い事はしない筈だと思った。

束の下に行くため、イヴがISを纏い、シャルルをお姫様抱っこする形で束の下へと向かった。

シャルルとしては恥ずかしい体勢であったが、専用機を返還してしまった身としては仕方がなかった。

 

「たばちゃん!!」

 

「やあ、いっちゃん。待っていたよ‥‥ついでに君もね」

 

束はイヴとシャルルを出迎えた。

 

「それで、私とデュノア君を呼んだ用って何?」

 

イヴは束に今日態々、自分とシャルルを呼んだ訳を訊ねる。

 

「うん、そこの‥でゅ、デュノア君‥が、自由国籍を手に入れて専用機無しになった情報を得てね」

 

束はシャルルの名前を呼ぶとき、少し顔を引き攣らせていた。

シャルルの名前を無理に呼んだことが目に見えて分かった。

 

「一応、デュノア君にはいっちゃんのナイト役を不本意ながら任せたんだからね、そのナイトが腑抜けでは困るから、君に新たに専用機を用意したんだよ」

 

束はシャルルに自らのラボへ呼んだ理由を話した。

 

「「新しい専用機!?」」

 

束の言うシャルルの為に用意した新しい専用機と言う単語に反応するイヴとシャルル。

 

「そう、早速見せるからついてきて」

 

そう言って束はシャルルの新たな専用機がある格納庫へと二人を案内する。

 

「さっ、これが君に新しい専用機‥ベディヴィアだよ」

 

そこにあったのは中世の鎧をベースに背中には折りたたまれた翼、レールガン、大きな剣を背負ったISだった。

しかもラウラのシュヴァルツェア・レーゲンの様なワイヤーブレードを左右にそれぞれ三基、計六基装備しているのも見える。

 

「鎧型‥全身装甲型のIS‥‥」

 

「‥重そう」

 

「じゃあ、早速、この機体のスペックを説明しよう」

 

束はシャルルにベディヴィアの説明をする。

 

「見ての通り、ベディヴィアは全身装甲型のIS‥防御力が通常のISより高い、掌にはいっちゃんのリンドヴァルムと同じ衝撃砲を装備、背部のウイングユニットは高推力スラスターを搭載し、あの青髪のIS同様、ナノマシンによって巨大な光の翼を形成しその見た目からは予想外の超加速を発揮する。でも、それはパイロットの実力次第だけどね」

 

束はどんなに性能が高いISも乗る者の技量が釣り合わなければ宝の持ち腐れだと言う。

 

「そして、飛行時にはナノマシンを広域散布することで、超高機動と同時に周囲の空間上に自機の光学残像を形成し、視覚的・電子的にも敵からの補足を不可能としている。まぁ、簡単に言えば残像を作って相手をかく乱するってことが出来るってこと」

 

束の説明からベディヴィアはスピードもかなり出る機体の様なので、そう言ったスピードから生じる衝撃波からパイロットを保護するため全身装甲型のISなのかもしれない。

 

「そして、ベディヴィアの最大の特徴は単一仕様能力が二つ存在している事」

 

「単一仕様能力が二つ!?」

 

これまでのISで単一仕様能力が二つ搭載されたISなんて確認されていない。

その事実にシャルルは驚愕するしかない。

 

「‥‥それって単一仕様能力って言えるのかな?」

 

一方、イヴは単一仕様能力が二つあると言う事でそれは単一仕様能力と呼べるものなのか、ちょっと疑問に思う。

 

「まぁ、二つと言っても既に存在している単一仕様能力を搭載しただけのものだけどね」

 

「いや、それでも凄いと思いますよ‥‥」

 

「まず一つ目はウイングユニットに装備されているその長剣、ガラティーン‥ビームサーベルとしても実体刃の剣としても使用が可能で、刺突攻撃の際にレーザーを放出し、斬撃そのものをエネルギー刃として放出することが出来る。そしてあの織斑百秋の専用機‥白式の単一仕様能力と同じ性能を有している」

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

自分らが嫌う男と同じ単一仕様能力と言う事でシャルルもイヴもやや表情をこわばらせる。

 

「でも、確か零落白夜は対象のエネルギーのすべてを消滅させる一方、自らのシールドエネルギーをかなり消費する筈‥‥」

 

「そう、零落白夜はまさに文字通り、諸刃の剣だけど、私から言わせればそんなのただの欠陥品の何物でもないね。だからこそ、その補助としてのもう一つの単一仕様能力‥絢爛舞踏を装備させてあるんだよ」

 

「けんらんぶとう?」

 

「これは零落白夜と対になる能力‥簡単に言えばエネルギーを増幅‥つまり、エネルギーを回復させる能力だよ」

 

「エネルギーを回復!?」

 

「そう‥くしくも私の愚妹にあげた紅椿にも同じ能力が備わっている‥‥でも紅椿はあくまでもベディヴィアの試作としての作品‥だから、エネルギーを回復するって言っても完全にではなく、半分か三分の一ぐらいの回復量しかない。もっともあの愚妹が紅椿の単一仕様能力を開花できればの話だけどね。でも、このベディヴィアは全エネルギーを回復させる力を持っている」

 

「それってかなりのチートなんじゃ‥‥」

 

イヴが束の説明を聞いてベディヴィアの能力は攻撃、防御共に難攻不落とも言える機体なのではないかと言う。

シャルルもイヴの意見には同意するかのように首を縦に振る。

 

「いっちゃんのナイト役にはこれぐらいの機体じゃないとね。でも、片方の単一仕様能力が発動中はもう片方の単一仕様能力は使えないし、完全に使いこなすにはそれなりの訓練が必要だから」

 

結論から言うとベディヴィアは百秋の白式と箒の紅椿の性能を合わせ持った機体であるが、その性能は両機を大きく凌いでいる事は一目瞭然である。

ただこの性能はもはやモンドグロッソなどの競技向けではなく、兵器としての性能だ。

束は敢えてベディヴィアを競技向けのISではなく、大切な人を守る為武力行為も辞さないと言う心構えをシャルルに持って貰う為、兵器としてのISを用意した。

それはあの臨海学校にてシャルルが束に対してどんな外道な手段をとっても、アンチヒーローになってでもイヴの事を守ると誓うと言ったからだ。

人を守ると言うのはそう簡単な事ではない。

百秋はそれをさも簡単にできるように言っている。

そんな彼の行為と言動はイヴと束に胸糞悪い思いをさせている。

世間ではアラスカ条約なんてモノがあるが、臨海学校での銀の福音を見る限り、すでにそんな条約なんて合って無いものとなっている。

それに束は世界から指名手配されている身で、シャルルはどの国にも属さない自由国籍の身‥よって二人にはアラスカ条約なんて元々関係なかったかもしれない。

 

「まぁ、この他にも武器スペースの容量には余裕があるから装備したいものがあれば、後は君なりのアレンジをして‥それじゃあ、早速フォーマットをしようか?」

 

束は本来ならば、イギリスのIS技術、BTシステムも搭載しようかと思ったが、束は自分が興味を持った人物以外、道端の雑草か小石程度にしか思っていない束にとってシャルルはまだそこまで興味を抱く対象ではなかった。

故にシャルルにBTシステムを扱えるか不明であり、BTシステムは万人が扱えるシステムではなく個人の能力差が表に出る機能なので、ベディヴィアからは外された。

しかしその代わりに武器の容量に若干の余裕もあり、シャルルが搭載したい通常の武器を搭載する余裕がある。

それにベディヴィアにはラウラのシュヴァルツェア・レーゲン、イヴのリンドヴァルムに搭載されているAICも搭載されている。

 

そんなベディヴィアに束はシャルルに早速乗れと言う。

束に促されシャルルはベディヴィアへと搭乗する。

 

(お、重い‥‥リヴァイブとは大違いだ‥‥)

 

ベディヴィアは今までのISとは大きく違い、重く感じた。

 

「それじゃあまずは歩いてみて」

 

「は、はい」

 

ISの基本動作をしてみるシャルル。

しかし、元が着くとは言え、フランスの代表候補生だったシャルルの腕をもってしてもベディヴィアは扱いづらい機体だった。

 

(くっ、思うように動かない‥‥同じISの筈なのに‥‥)

 

シャルルの動きはぎこちなく、その形からまるで機械仕掛けのロボットの玩具の様だ。

 

「まぁ、動かせればいいか‥‥それじゃあ、次は飛行訓練と武器の稼働訓練をするよ」

 

「は、はい」

 

「それじゃあ、いっちゃん」

 

「ん?」

 

「此処は危ないから私と一緒に向こうに行こうか?」

 

「えっ?」

 

束はイヴの背中をグイグイ押しながら、防護ガラスとシールドが張られた管制室へと行く。

それを見たシャルルはなにか嫌な予感がした。

 

「あ、あの‥‥」

 

「それじゃあ、今から模擬戦をしてもらうよ」

 

「えっ!?模擬戦!?」

 

突然束から模擬戦をしろと言われて驚愕するシャルル。

 

「で、ですが、篠ノ之博士、僕はまだこの機体に乗りたてですよ!?そんな中で、いきなり模擬戦だなんて‥‥」

 

「敵はいつ、どこからくるか分からない。それに『兵は戦場で一人前になる』って言った軍人もいるくらいだからね。実戦に勝る経験はないよ」

 

「で、でも‥‥」

 

「いいからつべこべ言わずにやれ!!」

 

「っ!?」

 

「大丈夫だよ。ISには絶対防御があるし、例え壊れても私が直ぐに直してあげるから」

 

束がパチンと指を鳴らすと三基のゴーレムが現れ、シャルルに襲い掛かって来た。

 

「うわっ!!い、いきなり三体も!?」

 

「敵が常に一体で来るとは限らないでしょう」

 

「そ、それはそうですけど‥‥うわっ!?」

 

ゴーレムの攻撃を躱しながら束に意見するシャルル。

しかし当然と言うか、当たり前の結果で、今さっき乗ったばかりの機体でゴーレム三基の相手はきつく、撃破する前にベディヴィアのエネルギーが尽きた。

エネルギーを回復させる筈の単一仕様能力も発動させる事は出来なかった。

 

「うぅ~‥‥」

 

「大丈夫?デュノア君?」

 

イヴがシャルルを介抱するが、

 

「うぅ~‥‥ダメ‥‥気持ち悪い~」

 

解除されたベディヴィアから出てきたシャルルは顔色が物凄く悪く、ISに酔ったみたいだった。

 

「まぁ、稼働初日にしては動かせただけでもマシかな?」

 

酔ってグロッキー状態のシャルルには目もくれず、束はタブレットに目をやり、ベディヴィアの稼働データを整理している。

 

「これから夏休みの間は、ベディヴィアの稼働を兼ねてこうした模擬戦をしてもらうよ」

 

「えっ!?で、でも、僕、バイトが‥‥」

 

「どうせ、日雇いだろう?不本意だけど、そのくらいのお小遣いぐらいは出してやるよ。今はベディヴィアに一日でも早く慣れてもらわないとね。コイツは作った私が言うのもなんだけど、とんでもないじゃじゃ馬だからね」

 

「た、確かに‥‥」

 

「コイツの能力を一朝一夕で引き出せると思ったら大間違いだからな」

 

百秋や箒の様に専用機を貰ったその日から専用機を使いこなせるかと思ったら大間違いだぞと忠告する束。

その意見についてはシャルルだって元代表候補生だから分かっている。

だが、初日でこのベディヴィアを動かしてみてもコイツは確かにとんだじゃじゃ馬でしかも気難しい機体だった。

 

「それでも、いっちゃんのナイト役を務めると言うのであれば、二学期が始まるまでにコイツをそれなりに乗りこなしてもらうからな」

 

「は、はい‥‥」

 

厳しい言葉であるが、束の言う事も最もであり、一応、此処で過ごす間、衣食住はあるし、入る筈だったバイトの収入は束がお小遣いとしてくれると言うので、シャルルはこの新たな機体に慣れる為、イヴと共に此処に逗留することになった。

 

それからシャルルは時間が許す限り、朝から晩までベディヴィアの稼働を兼ねた模擬戦を行った。

最初はゴーレム三基相手にボロ負けし続けてきたシャルルであるが、そこは元フランスの代表候補生、次第にゴーレム三基相手に優勢となり、勝つことが出来た。

ゴーレムは三基から五基、七基、十基と増えて行き、イヴもリンドヴァルムでゴーレムと共にシャルルの模擬戦の相手をした。

そしてもうすぐ夏休みが終わろうとしているある日の晩、イヴはバルコニーに一人佇み、夜空を眺めていた。

 

『おい、一夏』

 

イヴの中の獣が語り掛ける。

 

(なに?)

 

『お前、まだあの返事を迷っているんだろう?』」

 

(‥‥)

 

獣の言う返事とは臨海学校でシャルルが自分に対して好きだと言う返事だ。

シャルルは自分からの返事を待っている。

連日自分やゴーレム相手にボロボロになりながらも、シャルルは必死に自分のナイトになる為、日々頑張っている。

そんなシャルルの努力にはそれなりに報いなければならない。

でも、それは本当の愛なのだろうか?

自分のこれまでの人生の中で好きになった異性なんていない。

むしろ異性は恐怖の対象でしかなかった。

イヴ自身も戸惑っているのだ。

この気持ちが本当の愛なのか?

それともただの同情なのか?

自分も獣みたいに正直になることができればこうした迷いや戸惑いを感じる事は無かったのかもしれない。

ここ最近はシャルルの相手をして自分の気持ちを誤魔化して、見て見ぬふりをして来た‥‥

でも、いつまでも迷い、うやむやにしているわけにはいかない。

 

(返事‥しないとなぁ‥‥少なくともこの夏休み中には‥‥)

 

イヴはバルコニーの柵にもたれながら夜空を見上げながらシャルルへの返事をどうするべきかを悩んだ。





※シャルルの新たな機体、ベディヴィアはFate/Zeroのバーサーカー、ランスロットをベースにガンダムSEED DESTINYのディスティニーガンダムのウイングユニットを取り付けた感じをイメージしてください。

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