シルバーウィング   作:破壊神クルル

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72話

束からの試練を乗り越えたシャルルは宿へと向かう為、夜の海岸をイヴをお姫様抱っこしながら歩いている。

 

「う‥‥うーん‥‥」

 

その最中、シャルルの腕の中のイヴが目を覚ます。

 

「あっ、アインスさん。気づいた?」

 

シャルルがイヴに声をかけるが、イヴはまだ意識が覚醒していないのか、寝ぼけまなこで、シャルルを見て、

 

「‥‥おとう‥‥さま‥‥」

 

シャルルを父、四季と間違えると再び目を閉じる。

 

「‥また寝ちゃった」

 

シャルルはやれやれと言う仕草をとりつつもこうしてイヴを取り戻せたことを喜んでいた。

しかし‥‥

 

「これはどう言う事なのかな?」

 

旅館の出入口にてシャルルは簪に詰め寄られていた。

イヴを部屋に戻す為にシャルルは簪に協力を求めたのだ。

もし、此処でシャルルが簪ではなく鈴に協力を求めていたら、此処までの事態にはならなかったのだが、シャルルの認識では、イヴの女子の友達№1は簪と言う認識があり、簪を選び、彼女を呼んでしまった。

 

「事と次第によってはシャルル‥地獄に落ちてもらうよ」

 

笑みを浮かべている筈なのに簪の身体の周りからは何だか黒い瘴気の様なモノが見える。

 

「ちょ、お、落ち着いて更識さん」

 

「私はとっても冷静だよ‥デュノア君」

 

「全然冷静じゃないよ。むしろ噴火寸前の火山だよ!!」

 

簪の笑みと瘴気に当てられて思わず後退るシャルル。

 

「それで、何があったの?」

 

「し、篠ノ之博士に嵌められて‥‥」

 

シャルルは詳しい事は言わなかったが何故こんな夜遅くにイヴと共に居るのかを簪に話す。

 

「へぇ~篠ノ之博士に‥‥ねぇ‥‥」

 

「う、うん‥‥」

 

「それで?」

 

「その‥‥アインスさんを部屋に戻すには僕じゃダメだから‥‥」

 

「まぁ、いいわ‥‥青姦‥はした様子が無いから」

 

「していないよ!!」

 

変な疑いをかけられそうだったのでシャルルは必死にそれを否定した。

そして、簪にイヴを託した。

イヴを託された簪はさっきまでの怒りをあっさりと引っ込める。

普通の女子高生では同世代の女子を抱っこなんて出来なさそうであるが、簪は更識家の人間と言う事もあり、イヴを軽々と抱っこしていた。

 

(私の腕の中で眠るイヴ‥‥うふふ‥‥可愛いわ~)

 

簪にとっては部屋に戻るまでの時間は至高の時間だった。

部屋に戻る最中、イヴはようやく目を覚ました。

 

「‥‥あ、あれ‥‥私‥どうして‥‥」

 

(お父様に抱かれていた様な気がしたんだけどな‥‥)

 

「覚えていないの?」

 

「ん?あれ?かんちゃん?‥‥此処は?」

 

「旅館」

 

「確か私は‥‥たばちゃんとデュノア君と浜辺に居た筈じゃ‥‥」

 

「なんかあったみたいだね」

 

「う、うん‥‥でも、よく覚えていないんだ‥‥でも‥‥」

 

「でも?」

 

「でも‥‥デュノア君に何か酷い事をしちゃった様な気が‥‥」

 

「それは多分気のせい‥‥気にする事じゃない」

 

「‥‥」

 

「それよりもイヴ‥」

 

「ん?」

 

「イヴ‥‥海に入ったみたいね」

 

「えっ?」

 

簪に言われ、イヴは自分の浴衣や身体が濡れて、おまけに潮の匂いがしている。

 

「このままだと風邪を引いちゃうし、潮の匂いで外に出ている事がバレちゃう」

 

「う、うん‥‥」

 

「だから‥‥お風呂に入ろう」

 

「そうだね‥‥」

 

簪に風呂を勧められイヴを風呂に入ることにした。

ただ‥‥

 

「えっと‥‥どうしてかんちゃんも?」

 

何故か簪もイヴと一緒にお風呂に入ってきた。

 

「私も濡れたイヴを抱っこしたから濡れちゃって‥‥」

 

「あっ、そっか‥‥なんか‥ゴメン」

 

「ううん、気にしていないから」

 

こうしてイヴと簪は人知れぬ深夜の入浴を行った。

バレたらヤバいが今回は束のせいでもあり、バレなければ分からない。

それに犯罪をしている訳でもないし、人を困らせている訳でもない。

 

「さっ、目を閉じて」

 

「ん」

 

簪はイヴの頭を洗う。

未だにイヴは一人で頭を洗う時はシャンプーハットを必要としている。

しかし、今回はシャンプーハットを用意していなかったし、簪も居る。

それにイヴの髪を洗いたいと申し出てきたのは簪の方からなので、イヴは簪の行為に甘え、彼女に髪を洗ってもらっている。

 

「どこか痒い所はない?」

 

「大丈夫‥かんちゃんは髪の毛を洗うのがうまいね」

 

「む、昔はよく、姉さんや本音にもしてもらったし、やっていたから‥‥」

 

「そう‥‥」

 

一時は関係が悪化した更識姉妹であったが、幼少期の頃は仲の良かった更識姉妹。

簪の言う通り、幼少期は姉妹、従者である本音とよく仲良くお風呂に入っていたのだろう。

反対にイヴの場合は、父以外織斑家に心を許せる者は居なかったし、束とは家が近かったが、箒が居るし篠ノ之家も百秋や千冬、弾が言い触らしたデマのせいで束以外からは敬遠されていた。

織斑家に養子になる前も母はイヴ(一夏)の為に働いていたので、基本的にイヴ(一夏)は一人でお風呂に入っていた。

未だにシャンプーハットを使用しているのはその頃の習慣の成れの果てだった。

簪から髪の毛を洗ってもらい、ついでに背中も洗ってもらったイヴ。

イヴも簪の背中を流した。

湯船の中に入っていると、簪がジッとイヴの胸を見る。

学園に居る時もこうしてイヴとは何度もお風呂に入った事はあるが、やはり同性から見てもイヴの身体は美しい。

 

「ん?どうしたの?」

 

そんな簪の視線にイヴは気づき、声をかける。

 

「あっ、いや‥‥その‥‥なんでもない」

 

簪は顔を赤くして即座にイヴから視線を逸らす。

すると、今度はイヴが簪の事を見る。

 

(うーん‥‥たっちゃん程じゃないけど、かんちゃんもかんちゃんなりに美乳だよね‥‥)

 

姉の楯無よりやや小振りであるが、簪の胸もそれなりにあるし、形も綺麗な胸をしている。

 

「むっ、イヴ‥今何か失礼な事を考えなかった?」

 

「えっ?そんな事ないよ」

 

考えが顔に出ていたのか簪はイヴの事をジト目で見る。

 

「むぅ~‥‥どうせ私はお姉ちゃんやイヴみたいに胸大きくないし‥‥」

 

イヴの胸を見て意気消沈する簪。

 

「そ、そんなことないよ。かんちゃんの胸も綺麗な形だし、それなりにあると思うよ」

 

「‥‥」

 

「だ、第一女性の胸何て、子供に授乳できれば良いってだけの機能だし‥‥」

 

「イヴが言っても全然説得力がないよ」

 

フォローする形が裏目に出てますます簪を落ち込ませてしまう。

そして簪は腹いせのつもりなのかイヴの胸をギュッと掴みそして揉み始める。

 

「か、かんちゃん!?」

 

「‥‥やっぱり、イヴの胸は柔らかい‥‥はむっ」

 

すると、簪は揉むのを止めたと思ったら、今度はイヴの乳房に口をつける。

突然の簪の行動にイヴは驚愕する。

 

「んっ‥‥ちゅっ‥‥」

 

驚いているイヴを尻目に簪は赤子が母親の母乳を飲むかのようにイヴの乳房に吸う。

いつしかイヴの方も簪を受け入れ、簪を抱きしめ、彼女の髪を撫でる。

この時のイヴの顔は母性にあふれており、母親の様な顔をしていた。

簪にとってまさに最高の時間が終わり、お風呂から出て新しい浴衣に着替え、二人はそれぞれの部屋へと戻っていった。

布団の中でイヴは浜辺での出来事を思い出そうとする。

確か‥‥浜辺で‥‥確か‥‥

 

 

「僕は‥‥僕は貴女が好きです!!一人の女性として!!」

 

 

「っ!?」

 

イヴは断片的であるが、浜辺でシャルルが自分に告白した事を思い出した。

 

(そうだ‥‥私は‥‥)

 

「でも‥‥どうしよう‥‥」

 

イヴはシャルルへの返答に悩んだ。

 

その頃、告白をしたシャルルの方も部屋に備え付けのお風呂で身体を洗った後、替えの浴衣に袖を通して布団の中に居た。

 

(うぅ~‥‥折角、告白したのにアインスさんがその事を覚えていない様子だった‥‥、また、改めて告白する勇気が‥‥)

 

あの時は吊り橋効果の様に鬼気迫るような勢いがあったからイヴに告白が出来たシャルル。

あのまま黙っていたら、イヴは今頃束に連れていかれていた。

でも、シャルルの行動で今回はなんとか束はイヴを連れて行くのを思いとどまってくれた。

それに本人の了承があれば、イヴとの交際も認めてくれた。

しかし、その肝心のイヴが自分の告白を忘れている感じだった。

あの時の様な鬼気迫る様な事はもう無いかもしれない。

 

「あぁ~‥‥どうしよう‥‥」

 

シャルルはイヴの事を思い、悶々とした夜を過ごす事になった。

翌日、学園に帰る日となったのだが、未だに百秋の怪我は酷くそのまま救急車で搬送される事になった。

万が一のことを思い、千冬は彼の乗る救急車に乗り、帰りの引率は山田先生が代行した。

本音を言うと箒もセシリアも千冬と同行したかったが、臨海学校は学園の行事であるので、千冬は箒とセシリアの同行を認めなかった。

心配そうに百秋が乗る救急車を見送る箒達‥‥

一方、鈴やイヴ、本音は興味なさげに見ていた。

イヴの『バハムート』を使用すれば回復するのだろが、正直に言ってイヴは例え自分が忌み嫌う力であっても彼の為に使用しようとは思わなかった。

最も止めを刺せと言うのであれば喜んで使用する。

帰りのバスの中でシャルルはチラッとイヴの事を見る。

そのイヴは本音と共にお菓子を食べながら談笑していた。

 

「デュノア君、どうかした?」

 

隣の席のクラスメイトがシャルルに声をかける。

 

「あっ、いや‥なんでもない」

 

シャルルは慌てて体裁を整える。

そして、イヴの方も本音を談笑をしつつ、時々チラッとシャルルの方へ視線を向ける。

 

「ん?イヴイヴ、デュノっちと何かあったの?」

 

流石は暗部の家に使える者、本音はイヴの何気ない仕草から彼の所がシャルルへ視線を向けている事に気づいていた。

 

「えっ?ううん、何でもないよ」

 

「そう?」

 

本音はそう言うが、二人の間に何かあったのだと確信を抱いていた。

 

(あ~あ‥‥これは学園に戻ったら、またイヴイヴを巡って一荒れくるかな?でも、たっちゃんもかんちゃんも折角仲が戻ったんだから、イヴイヴを巡って争わないでほしいな‥‥)

 

(いっそ、私がイヴイヴを貰っちゃえば争いは起こらないかな?)

 

そう思いつつ、本音はお菓子を口に放り込んだ。

 

臨海学校から戻ったシャルルはその日の内に整備室へと向かい愛機であるラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの検査を行った。

化け物と化したイヴとの戦いでかなりのダメージを負ったからだ。

検査をしたところラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡはかなりのダメージを負っていた。

 

「‥‥不味いな」

 

期末試験にはISの実技試験もある。

しかし、現状でラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの修理が難しい。

デュノア社が潰れ、ラファール・リヴァイヴの生産権は別の企業へと移ったが、自分はデュノア社とフランス政府を裏切った身‥‥ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの修理用部品をフランス政府に頼んでも恐らく却下されるのがオチだ。

幸い学園の訓練機にはラファール・リヴァイヴが採用されているので修理の部品はあるが完全に直すのは難しい。

 

(最悪、訓練機のラファール・リヴァイヴで実技試験をするしかないか‥‥でも‥‥)

 

問題は期末試験で行われる実技試験ではない。

シャルルが自由国籍を取得したらラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡはフランスへ返却しなければならない。

デュノア社は潰れてもラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの所有権はフランス政府にあるのだ。

壊れたまま返却すればフランス政府はシャルル・デュノア個人に何かしらの賠償を求めてくるだろう。

シャルルはまたもや新たな問題を抱える事になってしまった。

 

(はぁ~‥‥僕の人生は呪われているのかな?)

 

現状を嘆くしかないシャルル。

だが、何時までも嘆いている訳にはいかない。

シャルルは出来る限り、学園にあるリヴァイブの部品でラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡの修理をするしかなかった。

 

臨海学校から数日後‥‥

今回の福音における騒動の処罰が正式に決まった。

まず、今回の戦闘指揮を執っていた千冬に関して、

減俸と有事における指揮権のはく奪、夏休み期間中の研修だった。

彼女には教師としての在り方をもう一度基礎から叩き込む必要があった。

千冬は納得いかないと憤慨していたが、虚偽の報告及び生徒を生死にかかわる危険な目に遭わせたと言う事で覆る事はなかった。

 

(くそっ、あの疫病神め!!)

 

千冬は自分に虚偽報告した箒よりも自らが強制参加させたイヴが自分の足を引っ張ったとのだと心の中でイヴを逆恨みした。

次にイヴと突き刺した百秋について‥‥

本来ならば退学処分し、司法の手に委ねてしかるべきなのだが、日本政府がそれを頑なに拒んだ。

それは百秋が千冬の弟であり、世界初の男性操縦者の為だったからだ。

更に日本政府は今回の百秋の不祥事の隠ぺいを更識に依頼した。

更識家17代目当主の楯無個人としては当然、こんな依頼は受けたくはなかったが、更識家の主人は日本政府‥‥楯無はこの依頼を受けざるを得なかった。

百秋がイヴを刺した証拠映像はこの世で三つ存在している。

一つは束がもっており、その映像の存在は日本政府も学園側も知られていない。

もう一つは学園のメインコンピューターに保存されている映像‥‥。

この映像は楯無が理事長を説得し、削除した。

最後の映像は教員用のタブレットに保存されていた。

此方も『千冬の為ならば』と教員たちは喜んで削除した。

最初の情報源を見つける事は出来なかったが、あの映像がネットに流出しなかった事で、楯無としては受けたくない依頼であったが、この依頼はあっさりと片付いた。

しかし、百秋に何の処分もしない訳にはいかない。

福音戦で重傷を負ったが、彼には夏休みをすべて返上しての補修及び二学期の休日における奉仕活動が義務付けられた。

イヴを見捨てた箒にも同様の罰が下った。

学園長や楯無としては箒の専用機も没収したい所であったが、国にも企業にも所属していない箒の専用機の所有権はイヴと同じように篠ノ之箒にあり、本人の了承が無ければ専用機を没収する事は出来ない。

千冬同様、箒も当然この処分に関しては激怒したが、束が「自分の妹だからという理由での特別扱いは止めろ」と言う事で、箒の処分は覆らなかった。

ならば、イヴも処罰しろと千冬と箒は喚いたが、イヴに関しては処分する理由がなかった。

すると、千冬と箒は勝手に出撃し福音を倒したことが処罰の対象だと喚くが、元々福音の討伐メンバーであるイヴがその福音を倒す事の何処に問題があるのかと問われると二人はぐぅの音も出なかった。

 

福音騒動における学園の関係者が処罰されている頃、某所では‥‥

 

「只今~」

 

「あっ、おかえりスコール」

 

臨海学校が行われた海辺の町からスコールが帰ってきた。

帰ってきた彼女をオータムが出迎える。

 

「それで、どうだった?」

 

「それなりの収穫はあったわ」

 

「へぇ~それで、例のブリュンヒルデの弟‥白式の実力はどうだった?」

 

オータムは今後のターゲットとなる白式‥‥百秋の実力が気になる様子だった。

 

「ブリュンヒルデの弟と言うからどんな腕なのかと期待してけど、大した事なかったわ‥‥」

 

「でも、福音は撃破されたんだろう?」

 

「ええ‥予定通りね‥‥でも、福音を倒したのは別の人よ」

 

「別って‥‥まさか織斑千冬か?」

 

「いいえ、ブリュンヒルデ様は安全な後方で自分の生徒に福音の討伐を任せていたわ」

 

「うわっ、テロリストの私が言うのもなんだけど、それって教師としてどうなの?」

 

「そうね‥でもそんなブリュンヒルデ様だからこそ、此方につけ入る隙があるのよ。確か秋には学園で文化祭が開かれるわ‥‥普段は一般人の参加が許可されている筈‥‥予定通り、文化祭で白式を奪うわよ、オータム」

 

「おう、腕がなるぜ」

 

「‥‥」

 

スコールとオータムの会話を近くで聞き耳を立てている人物がいた。

 

「それと、篠ノ之箒‥‥彼女もあの篠ノ之束から専用機を貰っていたわ」

 

「へぇ~‥‥あの篠ノ之束から貰った専用機‥‥白式よりもそっちの方も価値がありそうだな」

 

「そうね‥‥M、聞いているのでしょう?」

 

スコールは聞き耳を立てている人物がその場に居る事に気づいていた。

 

「‥‥」

 

「この後、色々忙しくなるわ‥‥貴女の機体‥サイレントゼフィルスも何時でも出せるように整備は怠らないようにね」

 

「‥‥」

 

スコールに声をかけられたMと呼ばれた人物は返答することなく、その場から去って行った。

暫くしてオータムがスコールの前から去ると、スコールは海で拾ったあの虹色のカードを取り出して、

 

(もうすぐ‥‥もうすぐで貴女は私のモノになるのよ‥‥イヴ)

 

それをウットリとした顔で見つめていた。


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