シルバーウィング   作:破壊神クルル

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69話

福音を倒したイヴはその福音のコアを束に届ける為に一時、イヴを探しに来た簪達と分かれ、束の居るホテルへと向かった。

その途中で、人目が無くなるとISを解除して自らの翼で束の居るホテルを目指した。

束がクロエと共にホテルの部屋でイヴの帰りを待っていると、

 

スタッ

 

ベランダに誰かが降り立つ音が聞こえた。

それは束とクロエの待ち人であるイヴに他ならなかった。

 

「いっちゃん‥いや、この場合は敬意をこめて、殺戮の銀翼と呼んだ方がいいのかな?」

 

「どちらでも好きな方でいいよ。ほら、コレ‥‥」

 

そう言ってイヴは懐から福音のコアを取り出し束に手渡す。

 

「はい、確かに‥‥ん?ソレより大丈夫?少し顔色が悪そうだけど?」

 

「それが‥‥ちょっと、無理をしたみたいだ‥‥体中が重いし眠い‥‥」

 

そう言うとベッドに倒れるイヴ。

イヴが倒れると同時に纏っていたドレス甲冑も消滅し、彼女は一糸纏ぬ姿となる。

 

「次に目が覚める時は、お前の知っているイヴになっているだろうが、この身体が寝ているからと言ってあまり変な事はするなよ‥‥」

 

「し、しないよ!!」

 

「どうかな?クロエ、見張り役を任せた。そこの兎が私にイタズラしないように見張っていてくれ」

 

「承知しました」

 

「ちょっ!!クーちゃんまで!?そこまで束さん信用がないの!?」

 

「はい」

 

「即答!?」

 

「それとだ‥‥」

 

「ん?まだ、何かあるの?」

 

「ああ‥‥恐らく戻ったら、あのブリュンヒルデ様がいちゃもんをつけてくるだろうから、弁護してくれ‥‥」

 

「あぁ~確かに、あの女ならやりかねないな‥‥」

 

イヴが言ったことが簡単に予想でき、その場面を想像する事も簡単にできる。

それほど、彼女の行動は単純なのだろう。

 

「アイツの玩具には私の血がベッタリと付着していたからな、ルミノール反応とDNA反応が出る筈だ‥‥それを証拠にあのブリュンヒルデ様を黙らせてくれ‥‥」

 

窓際に立てかけてある雪片を指さすイヴ。

福音が間に居たが、雪片の切っ先はイヴの腹を突き刺していたので、間違いなくそこからはイヴの血液反応は出る。

血液と言うモノは一万倍薄めても反応を消す事は出来ないモノだ。

しかし、どんなに血が濃くても血のつながりは比例しない。

織斑姉弟とイヴを見ればそれは一目瞭然である。

 

「わかった」

 

「それじゃあ、頼んだ‥‥ぞ‥‥」

 

イヴはそう言ってゆっくりと瞼を閉じてそのまま寝入った。

 

「お疲れ様‥‥いっちゃん‥‥」

 

束は眠るイヴの頭を撫で、イヴに頼まれた事、そして福音のコアを調べ始めた。

まず、最初に雪片の刃にルミノール液を掛け、部屋の明かりを消すと、雪片の刃は青白く光り血液反応が出る。

ルミノール反応が出で詳しく刃を調べると、イヴの言う通り、ちゃんとイヴのDNA反応が出た。

まぁ、イヴが百秋に突き刺された事を知っていたのだから当然の結果と言えば当然だった。

それよりも束が驚いたのは福音のコアだった。

 

「ん?これはっ!?」

 

「どうなさいましたか?束様」

 

「福音のコアにウィルスが仕込まれていた」

 

「ウィルス‥ですか?」

 

「起動した後、時間差で暴走する様に仕込まれていたんだ‥‥今回の騒動‥アメリカが仕組んだ事じゃなさそうだよ‥‥もちろん、事故でもない‥‥誰かが意図的に福音を暴走させたんだ‥‥」

 

「しかし、一体なんの為に福音を暴走させたのでしょう?」

 

「そこまでは分からない‥‥でも、これを仕組んだ奴は私に宣戦布告をしたも同然だよ‥‥フフフ‥‥この篠ノ之束に喧嘩を売るとはね‥‥身の程知らずが‥‥何処の誰かはわからないけど、見つけたらこの私の手で絞め殺してやる‥‥覚えておけ」

 

不敵な笑みを零す束であるが、その目は憎悪に満ちていた。

 

「うっ‥‥うーん‥‥」

 

やがて、イヴがゆっくりと瞼を開けて目を覚ます。

 

「あっ、いっちゃん。起きた?」

 

「っ!?たばちゃん!!‥‥あっ、福音は!?福音はどうなったの!?」

 

イヴはあの時、百秋に刺された後の事を覚えていないらしく、バッと飛び起きると福音について束に聞いてきた。

 

「いっちゃん、おちついて‥‥福音ならもう一人のいっちゃんが倒したよ‥‥ほら、コレが福音のコア」

 

束が福音のコアをイヴに見せる。

 

「そう‥‥よかった‥‥」

 

福音が倒された事を知り、ドサッとベッドに再び沈むイヴ。

 

「それで、何が原因で福音は暴走したの?」

 

ベッドに横になりながらイヴは束に福音の暴走原因を尋ねる。

 

「それが福音のコアにウィルスが仕込まれていたみたいで‥‥」

 

「ウィルス!?アメリカがそんな事を‥‥」

 

「いや、どう見てもアメリカの仕業じゃないよ。別の誰かの仕業だよ」

 

「誰かって‥‥誰?」

 

「さあ、それはおいおい探して、見つけたらO・HA・NA・SHIをしてやるつもりだよ」

 

「そ、そう‥‥それより‥‥」

 

「ん?どうしたの?」

 

「どうして私‥裸なの?」

 

イヴは此処でようやく自分が裸な事に気づく。

 

「はっ!?ま、まさかアイツ‥このままの恰好で福音を倒しにいったんじゃ‥‥」

 

イヴの脳裏に裸姿で福音と戦う自分の姿が浮かぶ。

そして、彼女の言うアイツは勿論、イヴの中に居るもう一人の自分の事を指していた。

 

「うわぁぁぁん!!もう、お嫁にいけないよぉ~」

 

「いっちゃんはお嫁に行く必要はないよ。私がずっと養ってあげるから‥‥それに子供だって、私が思いついたアレを使えば‥‥」

 

最後に束が何かを言ったがイヴにはそれを行く余裕はなかった。

 

「大丈夫ですよ、イヴ様。イヴ様はちゃんと服を着て福音を倒しました」

 

クロエが頭を抱えてベッドの上を転がっているイヴに福音討伐の際はちゃんと服を着ていた事を伝える。

 

「ほ、ホント?」

 

「はい。いくらなんでも、裸で出る程、あの方もそこまでは野蛮ではないかと‥‥」

 

イヴの中で獣が眠っている事を良い事に好き放題言うクロエ。

 

「そ、そう‥‥よかったたぁ~‥‥でも、クロエさん。最近のアイツは発情期を迎えた獣みたいだから油断ならないんだよ‥‥特にデュノア君の前だと‥‥」

 

イヴがシャルルの名前を言うとピクッと束が反応する。

 

「イヴ様、お着替えは此方で用意してあります。どうぞ‥‥」

 

そう言ってクロエはIS学園の制服と下着をイヴに渡す。

 

「‥‥」

 

制服を受け取ったイヴの表情は何故か冴えない。

 

「どうかしましたか?」

 

「‥‥うん、戻ったらまたあの人に何か言われるのかと思うと気が重くて‥‥」

 

「だったら、私やクーちゃんと一緒に逃げちゃわない?それでずっと一緒に暮らそう。いっちゃん」

 

束はイヴにこのまま戻らず、一緒に暮らさないかと提案する。

 

「‥‥それも嬉しいけど、学園には帰りを待っている人がいるから」

 

「‥‥それって例のデュノア君の事?」

 

束がジト目でイヴに尋ねる。

 

「デュノア君もそうだけど、かんちゃんや鈴、のほほんさん、たっちゃん‥‥皆、帰りをまっているから‥‥」

 

「‥‥そう」

 

束は面白くないと言う表情をする。

 

「ご心配には及びません。イヴ様」

 

「クロエさん‥‥」

 

「もう一人のイヴ様はその点も含めて束様にちゃんと手は打たれていました」

 

「ちょっと、クーちゃん。君は私といっちゃんとどっちの味方なの!?」

 

束としては折角このままイヴを連れ出されると思っていたのにも関わらず、千冬を黙らせる方法をイヴに教えてしまうことに不満なのかクロエに食って掛かる。

 

「それは勿論‥‥」

 

「勿論‥勿論、私だよね!?クーちゃん!!」

 

「イヴ様です」

 

「あれ?」

 

束はクロエの返答を聞いてその場にズッコケる。

 

「うぅ~私には味方が居ないのか~?」

 

「味方を得たいのであれば、普段の生活や人間関係の改善をした方がよろしいかと?」

 

「ふん、人間関係なんて煩わしいだけだよ」

 

クロエに指摘されても束は人間関係を改善するつもりはないらしい。

 

「まぁ、バレちゃ仕方がないね。もう一人のいっちゃんはちゃんとあの女の対処を預けていたよ。だから大丈夫。私も一緒に行ってあげるから」

 

「う、うん。ありがとう‥たばちゃん」

 

取りあえず、千冬から理不尽な事はされないみたいなので、安心して着替えると束と共に旅館へと戻った。

 

 

此処で少し時間を遡る。

 

IS学園が臨海学校の為、貸切っている旅館では、イヴの捜索に向かい、彼女の無事を確認し、機能を停止した福音を回収した簪達が戻ると、入り口前には千冬は仁王立ちしていた。

千冬の後ろにはオロオロした様子で山田先生も居た。

 

「何処に行っていた小娘ども」

 

彼女は不機嫌である事はその声と表情を見れば分かる。

鈴やセシリア、シャルルはその顔を見てちょっと弱腰になる。

しかし、そんな中で簪は恐れる事無く、一歩前に出て千冬に報告する。

 

「イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスさんの捜索に出ていました」

 

「そんな指示を出した覚えはないぞ。勝手な行動をしたからにはそれなりの罰は覚悟しているのだろうな?」

 

「勝手ではありません」

 

「なに?」

 

「私達は山田先生の許可を貰って捜索に出ました」

 

「山田先生。それは本当ですか?」

 

「は、はい」

 

「どうして許可を出したんですか?私に相談もせずに」

 

「そ、それは‥‥」

 

千冬に叱咤され、うろたえる山田先生。

 

「織斑先生、山田先生の判断は間違っていないと思いますが?それにあの時、作戦室に織斑先生は不在でした。そうなれば、必然的にあの場での最高指揮官は山田先生でした。その山田先生の許可を得て私達を出撃しました。それにあの時はアインスさんの生命がかかっていました。万が一、アインスが死亡した時、貴女は責任を取れるのですか?ブリュンヒルデだからと言って免罪になると思ったら大間違いですよ」

 

「くっ‥‥」

 

「あ、あの‥更識さん」

 

「なんですか?山田先生」

 

「それでその‥‥アインスさんは見つかったのですか?」

 

「はい。なんでも少々所用があるみたいで、今は別行動をしているみたいですけど‥‥」

 

「そうなんですか。良かった~これで教職を続けられます」

 

イヴが無事だったことにホッと一安心する山田先生。

 

「それと、福音ですが、そちらもアインスが倒したみたいです」

 

「なんだと!?あいつ、また勝手な事を‥‥」

 

イヴが福音を倒したことが気に食わないのか、簪の報告を聞いて顔を歪ませる千冬。

 

「作戦に参加したアインスが福音を倒す事に何ら問題もない筈ですが?」

 

「だが、奴は敵前逃亡を行い、独断行動をしたその罰は受けてもらわねばな」

 

「でしたら、篠ノ之さんもその対象になるのではないのですか?」

 

「何故だ?」

 

「篠ノ之さんは既に福音が倒されたにも関わらず、未だに戻ってきません。アインスさんが独断の行動を取り、処罰されるのであれば、未だに戻らない篠ノ之さんも同様に処罰の対象になるはずです。篠ノ之博士の妹だから処罰の対象にしないと言うのであれば公私混同も甚だしいですね」

 

簪に論破され続けられる千冬。

 

「それにアインスさんの敵前逃亡も私達は腑に落ちていません。いくら、彼女が作戦を辞退したがっていてもあのアインスさんが訳もなく敵前逃亡するとは思えません。アインスさんの強さはあの二人よりも上です。むしろあの作戦では織斑君と篠ノ之さんはアインスさんの足手纏いだったのではないでしょうか?」

 

「な、なんだと!?」

 

「現に福音はアインスさん一人で倒しています。これなら最初からアインスさん一人に任せた方が早かったのではないでしょうか?」

 

まさにド正論を言われ、切れる寸前の千冬。

 

「織斑先生、抑えて下さい」

 

山田先生が千冬を必死に抑える。

 

「後の事は追って指示するので、皆さんはひとまず部屋で待機していてください」

 

山田先生が時間を稼ぎ、簪達は部屋へと戻った。

 

「山田先生、何故こんな事を‥‥ああいう教師に対して舐め腐った態度を取る生徒には厳しい教育的指導をしなければ示しがつかないだろうが!!」

 

「織斑先生‥教師と言いますが、私達は生徒達に教師らしい事をしているでしょうか?」

 

「ん?どういう意味だ?それは」

 

「確かに私達は教鞭に立ち教科を教えていますが、人間性について私達は教師と呼べるのでしょうか?こう言っては何ですが、織斑君に対しても世界初の男性操縦者、織斑千冬の弟と言う事で特別扱いしているように思えて‥‥それに篠ノ之さんも篠ノ之博士の妹と言う事で彼よりも特別扱いをしている気がします。篠ノ之さん自身、お姉さんは関係ないと言っていますが、困った時は篠ノ之博士の妹と言う立場を利用して好き勝手している事が目立ちますし‥‥」

 

「それは‥‥」

 

「篠ノ之さんがまだ訓練機を使用している時も他の上級生たちよりも優先に訓練機を貸す様にという通達で、三年の生徒達には色々と大変な思いをさせましたし‥‥」

 

山田先生から箒と百秋の学園生活の事を振り返ってみると、確かに的を射ていた。

しかし‥‥

それはそれ、これはこれだ。

百秋と箒はIS学園に在学する数多くの学生の中でも選ばれた者なのだ。

選民された者にはそれなりの待遇があって然るべきなのだ。

凡人と選民は違うのだ。

 

「だがな、山田先生。織斑と篠ノ之は選ばれた人間だ。普通の生徒とは違う。現に奴等は国家代表候補生ではなく、フリーの状態で専用機を持っている。その時点で既にほかの生徒とは一歩前に居るだろう」

 

「‥‥」

 

確かに百秋も箒も専用機を貰っていながらどの国にも企業にも所属していない。

百秋は世界初の男性操縦者。

箒は篠ノ之束博士の妹であり、その専用機はISの生みの親である篠ノ之束のお手製の専用機。

企業や国のIS関係者ならば、彼らの存在は喉から手が出るほど欲しい人材だ。

そう言った意味では既に各国家に所属している他の専用機持ちよりもちょっと違うのかもしれない。

千冬の言っている事も分からない訳ではない。

しかし、だからといって特別扱いして良いと言えるのだろうか?

千冬の教育方針に疑問を感じる山田先生だった。

 

それからしばらくして束と共にイヴは戻ってきた。

しかし、箒は未だに帰ってこない。

 

「やっと戻ってきたか‥ん?何故、お前まで来ている束」

 

「ん?それはお前がこの子に何か理不尽な事をするんじゃないかと思って、この子の弁護の為にね」

 

「弁護だと?」

 

「まぁ、玄関先で話す事じゃないから、一先ず中に入ろう」

 

束は話が少し長くなるから場所を変えようと言い、千冬もその点については了承してイヴ、束は千冬と共に旅館へと入る。

そして作戦室として使用していた部屋にて、

 

「では、戻って来るのがこんなにも遅れた理由を話せ、それにお前の敵前逃亡の事もだ」

 

千冬がイヴに今回の福音での報告を訊ねると、イヴの代わりに束が説明する。

 

「まず、お前がどんな事を聞いて知っているのかは知らないが、福音戦における彼女の行動は敵前逃亡ではない。むしろ味方からのフレンドリーファイアが原因だよ」

 

「フレンドリーファイアだと?」

 

「そう、フレンドリーファイア‥‥お前の弟、織斑百秋がこの子を突き刺したんだよ‥福音ごとね‥‥」

 

「そ、そんな証拠は何処にも‥‥」

 

「バレる様な嘘はいけないなぁ織斑千冬‥いや、ブリュンヒルデ」

 

「その名を言うな‥‥束、貴様でも次にその名を軽々しく言えば容赦しないぞ」

 

「へいへい。それで、証拠はIS委員会を通じて学園にも送られている筈だけど?」

 

「まさか、あの映像はお前が‥‥」

 

「ん?何の事かな?私はIS委員会の動きが妙だったから、確認しただけだよ。そしたら、お前の弟がこの子を福音もろとも雪片を突き刺していたじゃないか‥‥たまたま近くを通りかかっていたら、この子が怪我をして海に居たから助けたんだよ。で、福音に突き刺さっていた雪片をついでに拾って調べてみたら、雪片の刃にはこの子の血とDNAが付着していたから間違いないよ。ほら、コレが鑑定書」

 

束は自分が調べた雪片の刃に付着していた血液反応とDNA反応の鑑定書を千冬に見せる。

映像と鑑定書があるからには言い逃れも嘘も出来ない。

 

「今回の福音におけるこの子の行動すべてに目を瞑ればお前の弟がした愚行を見逃しても良いとこの子は言っているが‥‥どうする?織斑千冬」

 

「くっ‥‥」

 

「既にこの映像は学園にも届いているんだろう?理由がどうあれ、殺人未遂で退学処分になって何処かの研究所で実験動物扱いになっても私としては一向にかまわないんだけどね‥‥」

 

「わ、分かった‥‥」

 

千冬は苦虫を嚙み潰したように顔を歪め渋々束の提案をのんだ。

 

「それと‥‥」

 

「まだ何かあるのか?」

 

「私の愚妹‥アイツは普段、私は関係ないと言っているくせに困った事や自分に不利な事が有ると、私の名前を出しているそうじゃないか‥‥アイツの頼みをきかないとISに何か悪影響が出ると思って‥‥私にとってはそれこそが心外だよ」

 

束は箒の虎の威を借りる狐な態度の方が、箒に何か危害があるよりも胸糞が悪くなると言う。

 

「私は姉であってアイツの母親でも保護者でもない。今回の専用機の譲渡で今までの事は全て清算した。今後、アイツが問題を起こして私の名前を使っても私は一切関与しない。だから、しかるべき罰を与えろ‥‥でないとアイツは何時までもあのふざけた性格は治らないだろうからな‥‥それにアイツは今回、この子が海に堕ちたにも関わらず救助せずに見捨てたんだ‥‥そんな人でなしが妹だと思うと腸が煮えくり返る思いだよ」

 

「だ、だがお前はあれほど篠ノ之の事を‥‥」

 

「私がアイツを妹として可愛がっていたのはアイツが幼稚園の時までだ‥‥それ以降、私はアイツを妹として思った事なんて‥‥一度もないよ‥‥」

 

束は箒に着いてきつい一言を語る。

もし、この場に箒が居れば束に食って掛っていただろう。

 

「それじゃあ、私はやることがあるからこれで失礼するよ。いいか、くれぐれも私が言った事を忘れるな、そして破るな‥‥いいな?織斑千冬」

 

そう言い残して束は部屋を出て行った。

 

「‥‥くっ、今回は命拾いしたな、アインス‥‥お前も部屋に戻れ」

 

「‥‥はい」

 

こうして事後処理を残し、福音騒動は終結した。


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