シルバーウィング   作:破壊神クルル

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6話

~side篠ノ之束~

 

ここ最近、世間を騒がせている殺戮の銀翼‥‥

最初はなんの興味なんて抱かず、ただの殺し屋だと思った。

インターポール(国際警察)では、いずれも殺戮の銀翼は亡国企業のエージェントだと決めつけていた。

亡国企業‥‥各国の新型ISの強奪や要人誘拐、各地での武装介入を行う大規模なテロ組織‥‥

インターポールが犯人を亡国企業の連中と思っても無理は無い。

その後も殺戮の銀翼の暗殺が続いた。

狙らわれた権力者達はその警護にISを投入していた。

本当はISをこんな形で使用されたくはなかった。

ISは本来の目的である宇宙開発の道を完全に断たれている。

その現状に私はとても不満を抱いていた。

話を戻そう‥‥

殺戮の銀翼に狙われた権力者達はISを警護のために使用していたが、その全てを殺戮の銀翼は突破してターゲットを殺していた。

しかも警護に当たっていたISを全て壊して‥‥

これまで亡国企業に強奪された機体でここまでの性能を有しているISはあっただろうか?

それともパイロットがあの織斑千冬の様な奴なのだろうか?

私はいつの間にか殺戮の銀翼に興味を抱いていた。

そして、つい最近、ロシアにて殺戮の銀翼がロシアの女性官僚を暗殺したらしい。

これまでの様に警護に当たっていたIS全てを搭乗者諸共破壊して‥‥

いや、全てとは語弊がある。

今回の事件では唯一の生存者が居た。

現ロシアの国家代表‥‥

あの殺戮の銀翼と戦って唯一生き残った奴‥‥

どんな奴だ?

私は念の為、ソイツのことも調べてみた。

へぇーコイツの機体、ナノマシン技術を投入しているのか‥‥

ナノマシン技術‥‥

てっきり医療分野に特化した技術だと思っていたのだけど、まさかISにもその技術を転用するなんてね‥‥

ちょっと会ってみようかな?

それにコイツなら殺戮の銀翼の顔を知っているだろうし‥‥

どんなISに乗っているのかな?

どんな顔をしているのかな?

やっぱり織斑千冬に似た顔なのかな?

それとも筋肉モリモリマッチョマンの変態かな?

気になった私は居ても立っても居られず、ロシアへと向かった。

そして、私はロシアの国家代表の負け犬と接触し、早速、殺戮の銀翼がどんな奴なのかを確かめるために、ソイツのISのコアにアクセスし、記録映像を再生させる。

すると、映像では負け犬の証言とは違い、殺戮の銀翼と負け犬が壮絶な戦いを繰り広げていた。

負け犬は最初、殺戮の銀翼を見て、動揺している様だったが、それは私も同じだった。

 

「‥‥そんな‥‥ばかな‥‥あの子が‥‥」

 

私はあの子が殺戮の銀翼だなんて信じられなかった‥‥

もしかしたら、他人の空似かもしれない。

そんな思いがあった。

髪の色が黒ではなく銀色になっているし‥‥。

負け犬は殺戮の銀翼に『イヴちゃん』と言っていた。

でも、この容姿は‥‥

タブレット越しだが、束さんセンサーが反応している。

確かめるには、この殺戮の銀翼と直接会って確かめなければ‥‥

殺戮の銀翼があの子と同一人物なのかを‥‥

その前にまずは、殺戮の銀翼の情報を集めなければ‥‥

手始めに‥‥

 

「おい、負け犬」

 

私は足元に転がっている負け犬に声をかける。

 

「お前がさっき言っている事と全然違うじゃないか‥‥どういう事だ?これは?」

 

「そ、それは‥‥」

 

「正直に話せ、全部だ‥でないとお前の機体、スクラップにするぞ。専用機なんだろう?コレ‥‥」

 

私はこの負け犬の専用機を人質にとって負け犬から殺戮の銀翼の情報を聞きだす事にした。

 

 

~side楯無~

 

「正直に話せ、全部だ‥でないとお前のこの機体、スクラップにするぞ。専用機なんだろう?コレ‥‥」

 

篠ノ之博士は私のミステリアス・レイディを人質にとってきた。

殺戮の銀翼の正体を知られた上にミステリアス・レイディを人質に取られた。

殺戮の銀翼の正体を知っている時点で私は家族も人質に取られている。

これ以上大事なモノを人質に取られる訳にはいかないのに‥‥

だが、篠ノ之博士ならば、ミステリアス・レイディをスクラップにする事ぐらい可能だろう。

しかもこの場で‥‥

でも、私もただやられっぱなしでいる訳にはいかなかった。

 

「篠ノ之博士は何故、殺戮の銀翼の正体にこだわるんですか?」

 

「お前が知る必要はない」

 

「そうはいかないわ。私にだって守るモノがあるのよ!!」

 

「ちっ」

 

篠ノ之博士は舌打ちをした。

 

「殺戮の銀翼の情報は教えるわ。でも、一つ約束して欲しい事があるの」

 

「なに?」

 

ミステリアス・レイディがあの時の戦いを見ていると言うのであれば、あの化け物が言ったあの会話も記録されている筈‥‥。

私は篠ノ之博士にあの化け物が私に言った警告部分の会話を聞いてもらった。

 

「‥‥成程、お前は事実上家族を人質に取られている訳か」

 

篠ノ之博士はあの化け物の警告内容をすぐに理解してくれた。

 

「私が知っている限りの情報は教えるわ。だから、その情報を絶対に外に漏らさないで、あと出来るなら私の家族を守って」

 

私は恥も外聞もなく篠ノ之博士に頼み込む。

 

「‥‥情報次第だな、まぁ、情報を絶対に外に漏らさないって事だけは約束してやるよ。さあ、話せ‥‥」

 

私は篠ノ之博士の言葉を信じて私の知る限りの殺戮の銀翼についての情報を教えた。

 

「ショウ‥タッカー‥‥」

 

「ええ、あの子はタッカーを『お父様』と呼んでいた‥‥でも、私が初めて二人に会った時、タッカーはあの子の事を『知り合いの娘』と言っていたわ。それに苗字も違うし‥‥」

 

「‥‥」

 

「それにタッカーはナノマシン技術の研究者で、IS技術にナノマシン技術が使用されている事に対して不満を抱いていました。それに‥‥」

 

「それにタッカーは男で、この女尊男卑の世界を好ましく思っていない」

 

「はい‥‥殺戮の銀翼に殺されたのは皆、女性権利団体の関係者ばかり‥‥」

 

「あの子を使って徐々に女性権利団体の力を削ごうと言う訳か‥‥」

 

「恐らく‥‥」

 

「‥‥」

 

篠ノ之博士は顎に手を当て考え込む仕草をとる。

 

「あの‥‥」

 

「なに?」

 

「篠ノ之博士は先程、殺戮の銀翼の顔を見て動揺していましたが、もしかして篠ノ之博士と殺戮の銀翼と顔見知りなんですか?」

 

「‥‥」

 

「話したくなければ構いませんけど‥‥」

 

「いや、お前も情報を言ったから教えてやるよ‥‥殺戮の銀翼は‥‥あの子と似ているんだ‥‥」

 

「あの子?」

 

篠ノ之博士は遠い目をして語り出した。

昔出会ったことのある友の事を‥‥

 

 

~side篠ノ之束~

 

あの子に出会ったのはホント偶然だった‥‥。

ある日、ぶらりと散歩に出ていると、河辺で泣いている子が居た。

普段の私ならば、気にしなかったが、河辺にはその泣いている子と自分だけ‥‥

他人にあまり興味ない私でもこのシチュで見捨てる程、人として腐ってはいない。

もし、他にも通行人が多ければ見捨てていたかもしれないけどね‥‥

でも、私はその時、声をかけて正解だったと今でもそう思っている。

 

「どうしたのかな?」

 

「ふぇ?」

 

私が声をかけると、その子は顔を上げた。

その時、私の胸をズキューンと何かが射抜いた。

 

(な、なに?この子‥‥かわいい!!お人形さんみたい!!持って帰れないかな?)

 

抱きしめたい衝動を抑えて私はその子に何故泣いているのかを尋ねた。

すると、その子は壊れた懐中時計を見せる。

蓋には天使の装飾が施された銀の懐中時計でなかなか高価な代物の様だ。

 

「こわれちゃった‥‥おとうさまからもらったおまもり‥‥こわれちゃった‥‥」

 

(成程、お父さんから貰った時計を壊しちゃって泣いていたのか‥‥でも、壊れたにしてはちょっと妙だな、まるで地面にたたきつけたような壊れ方だ‥‥転んで壊しちゃったのかな?)

 

「よしよし、泣かないで、私がそのお守り直してあげるよ」

 

「ほんと?」

 

「うん」

 

私はその子の手を引いて家に戻った。

その途中、

 

「そう言えば、お名前聞いていなかったね、私は篠ノ之束。貴女は?」

 

「おりむらいちか」

 

「へぇー一夏ちゃんか‥‥じゃあ、『いっちゃん』ね」

 

「いっちゃん?」

 

「仇名だよ、仇名、親友同士の間で交わすお友達の名前だよ」

 

「いっちゃん‥‥じゃあ、たばちゃんね」

 

「たばちゃんか‥‥そんな仇名で呼ばれたのは初めてだよ。ハハハハハ‥‥」

 

そして、私は家に戻ると織斑一夏こと、いっちゃんの懐中時計を直した。

動き出した懐中時計を見て、いっちゃんはとても喜んでいた。

その時のいっちゃんは目を輝かせていた。

でも‥‥

 

「あの‥‥」

 

「ん?何かな?」

 

「コレ、たばちゃんにあげる」

 

いっちゃんは大切にしていた懐中時計を私にあげると言ってきた。

 

「えっ?でも、コレ、いっちゃんの大事な御守りなんでしょう?」

 

「うん‥‥でも、わたしがもっていたら、またこわしちゃうから‥‥だから、たばちゃんにあげる」

 

そう言って私に懐中時計を手渡しした。

 

「ゆうじょうのしるし」

 

「‥‥あ、ありがとう」

 

この時、私は何故、いっちゃんが大事にしていた懐中時計を私にあげたのか分からなかった。

でも、それを知る機会は直ぐに来た。

私の実家は神社でもあり、剣術道場もやっていた。

その道場の中でも織斑千冬と言う同い年の少女はとびぬけて剣の才能があった。

 

(織斑‥‥いっちゃんと同じ苗字だ‥‥)

 

織斑なんて珍しい苗字、そうそうあるモノではない。

 

(もしかして家族かな?)

 

そして、織斑千冬の弟の織斑百秋も姉の千冬同様、私の実家の道場に通い、妹の箒ちゃんと稽古をするようになった。

私は箒ちゃんと違って剣術を極めたいと言う訳ではないので、剣術はやらず門下生達の世話の手伝いをやらされていた。

ある日のこと、箒ちゃんと百秋が更衣室でコソコソと話をしているのを私は偶然聞いてしまった。

 

「おい、百秋、あの懐中時計、ちょっともったいなかったんじゃないか?」

 

(ん?懐中時計?)

 

「えっ?いいんだよ、どうせ、親父がそこら辺の露店で買って来た安物だろう。それをアイツときたら、いつも大事そうにもっているんだから、まったくお笑いだ」

 

「いや、それがそうでもない様だ‥‥」

 

「えっ?どういう事だよ、それ?」

 

「実は昨日やっていた財宝鑑定団って番組で、似たような懐中時計の鑑定依頼をした奴が居てな」

 

「うんうん」

 

「その時の値段が‥‥」

 

箒ちゃんが百秋に耳打ちする。

 

「はぁっ!?マジかよ!!」

 

「ああ」

 

「ちくしょう、それだったら、アイツの時計、壊さないで取り上げて売ればよかった」

 

百秋は残念そうに呟いた。

そして、二人の会話を聞き私は珍しく動揺した。

 

えっ?ちょっとまって‥‥

昨日テレビでやっていた財宝鑑定団に出た懐中時計って‥‥

私は急いで部屋に戻り、昨日、財宝鑑定団と言う番組を放送しているテレビ局のホームページを見て、財宝鑑定団に出た出品リストを見た。

するとその中にはいっちゃんが私にくれた懐中時計と同じものがかなりの高額査定で写真付きで出ていた。

 

「‥‥」

 

そして、さっき、百秋が言っていた言葉が脳内でリピートされる。

 

「アイツの時計壊さないで取り上げて売ればよかった」

 

「アイツの時計壊さないで‥‥」

 

「アイツの時計‥‥」

 

「アイツの時計‥‥」

 

そして、いっちゃんが言っていた‥‥

 

「わたしがもっていたら、またこわしちゃうから‥‥」

 

「わたしがもっていたら、またこわしちゃうから‥‥」

 

「わたしがもっていたら、またこわしちゃうから‥‥」

 

百秋の言葉といっちゃんの言葉の意味が繋がった。

まさか、アイツ‥‥

そして、箒ちゃんの会話から、その現場に箒ちゃんが居たのではないかと予測できた。

アイツらが、まさか‥いっちゃんの懐中時計を‥‥

私はいっちゃんの懐中時計を机の引き出しから出し、それをジッと見つめた。

初めて見たとき、妙だと思った。

壊れ方がまるで地面にたたきつけられたような壊れ方をしていた。

当初はいっちゃんが転んで壊してしまったのかと思った。

でも、あの二人の会話から真相は‥‥

懐中時計を持つ私の手に思わず力が入る。

それから直ぐだった。

私は箒ちゃんと距離を置くようになったのは‥‥

その後、私はいっちゃんとの時間を楽しみながら、小さい頃の夢だった宇宙開発‥‥

宇宙へ行くためのマルチフォーム・スーツ、インフィニット・ストラトス(IS)の開発を進めた。

だが、学会に発表した時、学者連中は私の発表を机上の空論だと抜かした。

悔しかった‥‥

だからこそ、私はISの凄さを知らしめる為にある事を起こしてしまった。

道場でナンバー1の実力者、織斑千冬を協力者として‥‥

今思うとそれがすべての間違いだった。

間違った手段でISの実力を知らしめた事、

協力者に織斑千冬を選んでしまった事を‥‥

百秋はあんな男だったが、長姉である織斑千冬なら、同性だし、いっちゃんの事を可愛がってくれていると思っていた。

それがあんな事になるなんて‥‥

 

第二回モンド・グロッソの後、いっちゃんが家出をして行方不明になった事を私は知った。

彼女が百秋や箒ちゃん達に学校で虐められている事も‥‥

私は気づくのが何もかも遅かった‥‥

もし、殺戮の銀翼がいっちゃんだったら、なんで暗殺者になってしまったのか?

私はその経緯を知りたい。

そして、私はいっちゃんを救いたい。

それが今の私の望みだった。

 

 

~side楯無~

 

篠ノ之博士の話は重い内容だった。

それ以上に博士の友達、織斑一夏があまりにも不憫で仕方がなかった。

もし、殺戮の銀翼の正体が織斑一夏ならば、篠ノ之博士の口から何とかしてもらえるかもしれないと言う思いが浮かび、私は

 

「篠ノ之博士、私も協力します」

 

と、協力を申し出た。

例え、殺戮の銀翼の正体が織斑一夏でなくとも殺戮の銀翼をこのまま野放しにしておくのは危険だし、何よりも負けっぱなしはやはり、私のプライドが許さない。

 

「それで、織斑一夏ってどんな子だったんですか?本当に殺戮の銀翼と似ているんですか?」

 

私が織斑一夏の顔がどんな顔なのかを聞くと、

 

「これだよ、私といっちゃんが最後に取った写真は‥‥」

 

篠ノ之博士がタブレットを操作して織斑一夏の画像写真を見せる。

画像は今よりも昔に撮られたものの様で、違う点は髪の色と長さ、年齢ぐらいで確かに織斑一夏の顔は殺戮の銀翼と似ている容姿だった。


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