シルバーウィング   作:破壊神クルル

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67話

 

束の手によって救出されたイヴは現在、怪我の治癒の為、クロエがチェックインしたホテルのベッドにて静かに眠り続けていた。

その頃、IS学園の生徒達がいる旅館では‥‥

 

「ねぇ、セシリア」

 

「なんでしょう?鈴さん」

 

鈴が一度、辺りを見回した後セシリアに声をかけた。

 

「箒の報告‥あれ、どう思う?」

 

鈴はセシリアに箒の報告について尋ねた。

 

「篠ノ之さんの報告ですか‥‥そうですね‥‥」

 

セシリアは顎に手を当てて考え込む仕草をとり、

 

「やはり、どこか腑に堕ちませんわね‥‥クラス代表選抜で私、イヴさんと戦った事がありますが、イヴさんの実力はまさに代表候補生でもトップレベル‥‥いえ、国家代表クラスですわ。そんなイヴさんが福音に負けるなんて‥‥それ以前にイヴさんの普段の生活態度を見る限り、やはり篠ノ之さんの報告を完全には鵜吞みにはできませんわね」

 

百秋派のセシリアであったが、彼女は別に百秋や箒、千冬程にイヴを嫌っている訳ではなかった。

その為、鈴同様、セシリアは箒の報告を第三者的目線‥‥普段のイヴの生活態度や彼女の実力から見ても福音に負ける。ましてや手柄を横取りする様な行為をするなんて考えにくく、セシリアも箒の報告には懐疑的だった。

 

「ふぅ~」

 

セシリアと分かれ、鈴が自動販売機で飲み物を買いそれを飲んでいると、

 

「鈴‥‥」

 

そんな時、簪が鈴に声をかける。

やはり、イヴが福音討伐作戦に参加した事からイヴの様子が心配になり鈴に声をかけたのだ。

簪のすぐ傍にはシャルルとラウラの姿もある。

 

「簪‥それにシャルルにラウラも‥」

 

「鳳さん、福音はあれからどうなったの?」

 

「それにイヴは無事なの?もう戻って来ているの?」

 

「我々には一切の情報がなくてな‥‥しかし、先程、篠ノ之が戻って来たのをチラッと見たので、気になってな‥‥」

 

「‥‥」

 

鈴はどうしようかと迷ったが、福音のスペックを伝える訳ではないので、鈴は簪とシャルル、ラウラに箒の報告とイヴが現在行方不明となっている事を伝えた。

箒の報告を聞いた時、簪の身体から瘴気の様なモノが一気にブワッと出てきた。

 

「あのアマぁ~ふざけやがってぇ~何、出鱈目をほざきやがる‥‥私のイヴがそんな事をする訳がないじゃない」

 

「「「‥‥」」」

 

簪がブツブツと何かを呟き、鈴とシャルル、ラウラがドン引きする。

しかし、いつまでもドン引きしている訳にはいかない。

何せイヴが行方不明なのだから‥‥

 

「そ、それよりも福音の討伐は無理でもイヴの捜索ならば、外交問題には触れない筈だ。我々もイヴの捜索に加わるのはどうだろうか?」

 

ラウラがイヴの捜索に志願してはどうかと提案すると、

 

「そ、そうよ‥イヴはきっと私の助けを待っている筈よ。行きましょう!!直ぐに行きましょう!!」

 

簪は瘴気を引っ込めてラウラの提案に乗る。

ただ鈴だけは、

 

「私は福音の討伐組だから次の指示が出るまで此処で待機するわ。それにあのバカ共(百秋と箒)の監視役もあるし‥‥」

 

鈴は一応、箒達の監視役として残ると言う。

 

「わかった」

 

「それじゃあ、お願い」

 

「ええ」

 

簪達はイヴの捜索へと向かうことにした。

それでも一応、教師からの許可は得なければならないので簪達が、千冬が作戦室として使用していた部屋へと行くと、そこに千冬の姿はなく教師は山田先生が居た。

簪達にとっては好都合だった。

千冬相手では、きっとイヴの事を毛嫌いしている千冬の事だ、絶対に自分達にイヴの捜索の許可を与えないだろう。

だが、山田先生相手ならば、方法はある。

それにちゃんと教師からの許可を得て出れば、いくら千冬でも文句は言えない筈だ。

 

「更識さん、デュノア君、ボーデヴィッヒさんまで‥‥部屋で待機の筈じゃあ‥‥」

 

「そんな事よりもイヴが行方不明と聞きました。捜索はされているんですか!?」

 

簪は山田先生に詰め寄りイヴの捜索が行われているのかを問う。

 

「い、今、海上と空を封鎖している他の先生達に連絡してアインスさんの捜索をしてもらっています」

 

「それなら、僕達もアインスさんを探しに行きます」

 

シャルルが山田先生に自分達もイヴの捜索へ志願する。

 

「で、でも‥‥」

 

山田先生はシャルル達の志願に対してやや消極的だ。

それは、シャルル達が福音の討伐に関して辞退したからだ。

 

「山田先生、我々は確かに福音の討伐に関しては辞退しました。しかし、福音の討伐とイヴの捜索は別物の筈です」

 

ラウラが福音とイヴの問題は別問題だと指摘する。

 

「た、確かにそうかもしれませんけど‥‥」

 

ラウラの指摘を受けても未だに煮え切らない山田先生。

そんな山田先生の態度に、

 

「山田先生‥‥」

 

「は、はい」

 

簪が底冷えするかのような声を出し山田先生の肩をガシッと掴む。

 

「今回の一件でこの臨海学校に参加した教師全員は何かしらの責任をとらされるでしょう。ですが‥もしも‥‥もしも、イヴが死んだ場合、その責任はより重いものになるでしょうね‥‥そうしたら、二度と教壇に立てなくなるかもしれませんよ」

 

「そ、そんな‥‥」

 

「それどころか最悪の場合、業務上過失致死傷の罪に問われるかもしれませんよ」

 

「ぎょ、業務上過失致死傷‥‥」

 

簪から罪状を言われ震え上る山田先生。

 

「刑務所での暮らしは結構きついみたいですよ‥刑務官からの懲罰と言う名の暴行や先輩受刑者達からの嫌がらせ‥‥それに出所して再就職できますかね~‥‥女性でも前科持ちではこのご時世じゃ、難しいかもしれませんよ~」

 

「うぅ~」

 

簪の言葉を聞いて涙目状態な山田先生。

 

「それが嫌ならさっさと決断しろ‥‥私達にイヴの捜索の許可を出すか、それとも教職を捨てムショにブチ込まれるか、二つに一つだ」

 

簪は山田先生を半ば脅す様な感じで決断を迫らせる。

 

「わ、わかりました‥‥アインスさんの捜索の許可を出します‥‥で、ですが、あくまでもアインスさんの捜索が目的ですからね。危険な事はダメですからね」

 

「はい、わかりました」

 

イヴの捜索の許可が下りると簪は先程までの表情とはうって変わって大らかな表情となる。

 

「「「‥‥」」」

 

簪と山田先生とのやり取りを見ていた鈴たちは呆然としていた。

 

「さあ、行きましょう」

 

しかし、簪の声でハッと我に返り部屋を出て、それぞれの専用機を展開するとイヴの捜査へと向かった。

 

簪達がイヴの捜索へ向かった頃、束の手によってホテルへと運ばれたイヴはと言うと‥‥

 

「う‥‥うーん‥‥」

 

傷が回復し、うっすらと目を開ける。

 

「あっ、いっちゃん、気が付いた!?」

 

イヴがうっすら目を開けた事に気づき声をかける束。

しかし‥‥

 

「篠ノ之束か‥‥」

 

束を見た時のイヴの口調に違和感を覚える束。

いつものイヴならば自分の事を『たばちゃん』と呼ぶはずなのに今、イヴは自分の事をフルネームで呼んだ。

 

「‥‥お前は誰だ?」

 

イヴの異変に気づいた束は声を低くしてイヴに問う。

 

「お前はいっちゃんじゃないだろう?お前は誰だ?」

 

「イヴから聞いていないのか?私はイヴの中に居るもう一人の存在だ」

 

「お前が‥‥」

 

束はイヴから確かにイヴの中にもう一人の存在が居る事は聞いていた。

こうして実際に会うのは初めてだ。

見た目はイヴと変わらないが、雰囲気はイヴとは異なる。

 

「丁度いいや、お前に聞きたい事がある」

 

「ん?なんだ?」

 

「以前、いっちゃんからきいたんだけど‥‥お前あのふたなり野郎の事が好きなんだってな」

 

束はビシッとイヴ(獣)に指を突きつけ、シャルルの事を好いているのだろうと問う。

 

「あん?イヴから聞いていなかったのか?」

 

イヴ(獣)は意外そうな顔をして束に尋ねる。

 

「表のイヴは分からないが、少なくとも私はデュノア君を友達ではなく、一人の男として見ている」

 

「ふん、あんなふたなり野郎の何処が良いんだ?そもそもアイツは男じゃない、ふたなりなんだよ!!ふたなり!!」

 

「だからなんだ!?」

 

「っ!?」

 

イヴ(獣)に対して束はシャルルの事は諦めろと言うが、イヴ(獣)は大きな声を出して束を怯ませる。

その眼光は鋭く、これ以上シャルルの事をふたなり野郎と言えばその牙と爪が自分に向けられるかもしれない。

クロエもイヴ(獣)の雰囲気に押されて身動きがとれない。

 

「そもそも、私を誕生させるきっかけを作ったのは誰だ?」

 

「‥‥」

 

イヴ(獣)の問いにバツ悪そうな顔をして視線を逸らす束。

 

「ふん、自覚はあるようだな‥‥そう、お前だ!!篠ノ之束!!お前がISなんてガラクタを作らなければこんな腐った世界にはならなかったし、イヴもこんな体にはならなかった!!そして、私も生まれる事はなかった!!」

 

「‥‥」

 

イヴ(獣)の語る内容が事実なだけに束は反論できない。

 

「それで、お前はイヴ(私)の恋愛事情についても口を出すのか!?」

 

「恋愛って‥‥それはお前の事情であって、いっちゃんはアイツとは恋仲になっていないはずじゃないか!!」

 

「そう言いきれるのか?」

 

「えっ?」

 

「表のイヴがデュノア君に恋心を抱いていないと言い切れるのか?」

 

「そ、それは‥‥」

 

確かに表のイヴも少なからずシャルルの事を意識している事を束はこの臨海学校にて彼女の口から聞いている。

 

「くっ‥‥」

 

満足に反論できず束は苦虫を噛み潰したように顔を歪める。

 

(やはり、恐れていた事になりつつあるか‥‥)

 

束が恐れる事、それは表と裏の両方のイヴがシャルルに恋心を抱く事。

束はこれまで沢山の人の悪意によって傷ついて来たイヴ(一夏)が他人(シャルル)に恋心を抱いてもまたソイツに裏切られ傷つくのではないかと心配していた。

だからこそ、イヴの周りに人を‥特に異性を近づけたくはなかった。

 

(当初の計画通り、事を進めたいけど、福音もあるしそれに今のいっちゃんは私の知っているいっちゃんじゃないから、アレは使えない‥‥今、下手な動きをしたら私が殺されてしまうから、此処はもう少し様子を見よう‥きっとチャンスはある筈だ)

 

束は元々この臨海学校である計画を練っていたが福音の暴走のせいでその予定が狂ってしまったが、まだ臨海学校が終わった訳ではないので、兼ねての計画を実行するチャンスはまだあると踏んでいた。

 

「‥‥わかった‥個人の恋愛問題について他人の私が口出しをするような問題ではなかったね。ならば君達の好きにするがいいさ」

 

「ほぉ~物分かりがいいじゃないか、流石天災」

 

束の言葉に満足したのかイヴ(獣)はその警戒心の様なピリピリした雰囲気を解いた。

 

「それで、私(イヴ)が落とされてから何があった?」

 

そしてイヴ(獣)は、表のイヴが百秋の手によって撃墜された後の事を束とクロエに尋ねる。

 

「‥‥くーちゃん。説明してあげて」

 

「承知しました」

 

束はクロエに頼んであの後の事を説明する為、イヴ(獣)にあの後の映像を見せた。

 

「ハハハハハ‥‥あのバカ、あっさりと返り討ちにあってやんの!!ハハハハハ‥‥」

 

イヴ(獣)は雪片でイヴを撃墜後、福音の攻撃をもろに喰らった百秋の映像を見て腹を抱えて笑っていた。

 

「「‥‥」」

 

そんなイヴ(獣)の様子に束もクロエも何とも言えないリアクションだった。

 

「なんだ?リアクションが少ないな」

 

「いや‥‥その‥‥」

 

「そこまで笑えるものですか?」

 

「けど、実際笑っちゃうだろう?もしも立場が逆だったらアンタらだって腹抱えて笑いこけているよ」

 

「そうでしょうか?」

 

イヴ(獣)の言葉にちゃんと返答する律儀なクロエ。

 

「それで、このガラクタは今どこにいる?」

 

イヴ(獣)が福音の現状を尋ねる。

 

「この座標にある小島にて静止しています。福音も雪片から受けた傷の修復をしているものかと‥‥」

 

「そうか‥‥なら、ちゃっちゃと行って片付けるとするか」

 

イヴ(獣)がベッドから降りた時、彼女はそこで初めて自分が今、服も下着も纏っていない素っ裸である事に気づく。

 

「おい、どうでもいいが、なんで私は服を着ていない?」

 

束とクロエに自分が服を着ていない事を尋ねると、

 

「傷の具合を確かめるためにやむを得ませんでした」

 

束の代わりにクロエが淡々と答える。

 

「そうか‥でも、私が寝ている事をいいことに変な事をしなかっただろうな?特にそこの天災」

 

「ちょっ、なんで私だけ!?」

 

「「‥‥」」

 

イヴ(獣)とクロエは自覚が無いのか?と思いつつジト目で束を見る。

 

「な、なにさ、その目は!?しかもくーちゃんまで!!」

 

「だって、普段のお前をみるとねぇ‥‥」

 

「ええ‥‥」

 

「ひどいっ!!」

 

束はクロエからも言われて涙目になる。

 

「さて、おふざけはここまでにして‥‥」

 

イヴ(獣)が目を閉じると、彼女の身体が突然発光し始める。

束は思わずその眩さに目を閉じる。

そして、再び目を開けると、イヴ(獣)は紺と銀のドレス甲冑を身に纏っていた。

ナノマシン構成により、彼女は服を構築したのだ。

 

「さて、では行くとするか‥‥」

 

髪を一度かきあげてベランダの窓を開けると、イヴ(獣)は背中に羽根を生やすとそのまま行こうとする。

 

「ISは纏わないのですか?」

 

クロエが福音相手にISを使わないのかと問う。

 

「ああ、ISは全力を出すのに邪魔だからな‥それにあのガラクタ(福音)は無人機‥‥別に破壊しても構わないのだろう?まぁ、表のイヴが今回の福音の暴走に関して何か思惑があるようだからな、コアだけは無傷で手土産に持って来てやるよ‥で、あのガラクタのコアは何処にあるかわかるか?」

 

「少々お待ちを‥‥」

 

クロエがハッキングを駆使して福音の情報を集め、

 

「判明しました‥‥福音のコアは人で言う心臓の辺りに搭載されています」

 

「OK、それじゃあ、また後でな‥‥」

 

イヴ(獣)は背中の羽根を羽ばたかせ、ベランダから飛び立ち福音の下へと向かった。

 

イヴ(獣)が福音の討伐へと向かったその頃、IS学園の生徒達がいる旅館内、百秋が治療を受けている部屋では、

 

「百秋‥すまなかった」

 

千冬にしては珍しく弱々しい声を出して眠っている彼の頭を撫でている。

彼女にとってもはや血の繋がった家族は百秋のみとなっている。

それ故に千冬は百秋には日々辛く当たりながらも強くなって欲しいと言う願いが含まれていた。

しかし、今回の福音討伐で百秋は重傷を負ってしまった。

当初はイヴのせいかと思っていたが、学園からあの映像が送られてきた。

箒の報告とあの映像‥どちらが真実かは今の千冬にとってはどちらでもよかった。

 

(ふっ、私も随分と弱くなったものだな‥‥)

 

思えばあの第二回モンド・グロッソで百秋が誘拐されてから千冬は百秋を強く意識する様になった。

彼がISを初めて動かしたと聞いた時、自身を守るための強力な力が手に入る反面、この女尊男卑の時代に面倒な事になったと複雑な気持ちを抱いた。

千冬が百秋を慈愛に満ちた目で見ていると、

 

「千冬さん!!」

 

そこへ、箒がやって来た。

 

「織斑先生だ馬鹿者」

 

千冬は慌てて織斑百秋の姉、織斑千冬から普段のIS学園教師、織斑千冬となり、箒に呼び方を訂正させる。

 

「そ、それよりも織斑先生。私をもう一度、福音の討伐へ行かせてください!!」

 

箒はもう一度、福音の討伐を志願する。

 

「百秋を此処まで傷つけた福音をこのまま放置できません。幸い奴は百秋の手によって損傷を受け、この近くで停滞しています」

 

「‥‥」

 

「奴が機能を停止している今が奴を討つ絶好のチャンスなんです」

 

「‥篠ノ之」

 

「はい」

 

「‥墜とせるか?福音を‥‥」

 

「むろんです!!今度は邪魔をするアイツが居ません!!例え、百秋が不在でも私と紅椿の力をもってすれば手負いの福音などたやすく討伐できます!!」

 

箒は自信満々で千冬に福音を倒せると言う。

 

「織斑先生、私も行きますわ」

 

そこにセシリアも福音の討伐に参加すると言う。

 

「‥わかった‥許可しよう。鳳を含め、討伐に参加した専用機持ちは全員で福音の討伐に迎え!!」

 

千冬は二度目の福音討伐の指示を出した。

 

「「はい!!」」

 

箒とセシリアは勇んで福音の討伐の為の準備を行った。


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