シルバーウィング   作:破壊神クルル

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66話

IS学園の行事の一つ臨海学校の最中、アメリカとイスラエルが協同制作した軍用無人IS、銀の福音が暴走した。

この鎮圧に向かった百秋、箒、イヴであったが、福音に止めを刺そうとしたまさにその絶好のタイミングで運悪く戦闘海域に入ってしまった警戒船がいた。

イレギュラー対応の為に同行したイヴはその対処にあたった。

その最中、福音は警戒船、そして次にイヴを攻撃目標のターゲットにした。

イヴは今回の事件は単なる無人機による暴走なのかと疑問に感じていた為、福音の機能を完全に停止させた後、束に福音を解析して貰おうと自身のナノマシンで福音の機能を停止させようと福音の継ぎ目から髪の毛を侵入させてナノマシンを注入しようとしていた。

その時、百秋が雪片で福音ごとイヴを貫いた。

不意の攻撃とナノマシンを福音に注入しようとしていた事で福音と密着していた為、防御も回避も間に合わなくイヴの腹部には雪片の切っ先が突き刺さる。(突然も不意も予期せぬ事で意味合いは殆ど同じで繰り返し文になるため、片方削除しました。)

負傷したイヴはそのまま意識を失い、海へと墜ちていく。

しかし、イヴごと雪片で突き刺し福音を止めたかと思った百秋と箒であったが、福音は補助動力を起動させ再び起動した。

至近距離から福音の攻撃を食らった百秋も重傷を負う。

箒は百秋のみを助け、海へと墜落したイヴを見捨てて旅館へと戻った。

海へ墜落したイヴは意識を失った為、表の人格から獣へと変わり、先程助けた警戒船の手によって無事に生還し、港へと着いた。

その港では束が既に待っており傷の回復の為、眠っていたイヴを何処かへと連れて行った‥‥。

 

(やっぱり、いっちゃんをIS学園に‥‥アイツらがいる場所に入れたのは間違いだったかな‥‥)

 

束は自らの腕の中で眠るイヴを見ながら千冬や百秋、箒の居るIS学園にイヴを送った事を後悔していた。

 

(いい機会だし、このままイヴちゃんを連れて何処かに行ってしまおうかな‥‥今ならそれができるし‥‥)

 

束はこのままイヴを連れ去ってしまおうかと考えていた。

これ以上IS学園においておけばイヴは千冬達の手によって一夏からイヴになったにも関わらず再び傷つけられると思ったからだ。

すると、

 

「‥‥い‥‥ん‥‥」

 

「えっ?」

 

イヴがボソボソと眠りながらも何かを呟いている。

 

「ん?」

 

束がイヴの口元に耳を寄せると、

 

「ふく‥‥いん‥‥は‥‥ふくいん‥は‥‥」

 

イヴはこんな状態になっても福音の事が気になっていた。

 

「‥‥いっちゃん」

 

このままイヴを連れ去っても、イヴはきっと自分の元を離れてしまうかもしれないと思った束は、福音の件が片付くまではイヴの好きにさせようと思った。

最も束はイヴを無理矢理言う事を聞かせる手段を今回用意してきたが、それは別の目的の為に使うつもりだったので、今は使用しない事にした。

それと同時にイヴをこんな目にあわせた者達への報復も忘れなかった。

そこへ、

 

「束様」

 

束の後ろにはいつの間にかクロエが歩いていた。

 

「‥くーちゃん‥‥撮影は出来ている?」

 

「勿論です。プロですから」

 

束は今回の福音の件では一抹の不安を抱いており、クロエに頼んで偵察と記録を頼んでいた。

そしてクロエは百秋が福音ごとイヴを突き刺すシーンを録画していた。

束もまさか百秋が福音ごとイヴを突き刺す様な暴挙をするなんて予想外だった。

 

(あのバカも福音の攻撃で重傷を負ったみたいだけど、あのまま死んでくれれば良かったのに‥‥欠陥機でもやはりISはIS‥絶対防御は働いていたか‥‥)

 

それに妹が海に堕ちたイヴを見捨てて百秋のみを助けて戻った事も知った。

紅椿ならば、百秋とイヴの二人を助ける事は十分に出来た筈だった。

それにも関わらず、箒はイヴを見捨てた。

束は機会があれば、白式と紅椿には絶対防御が働かない様にバグを入れてやろうかとさえ思った。

イヴの受けた屈辱と怪我を奴等にも味合わせてやろうかと思ったのだ。

だが、その前にやるべきことは自分の宝物とも言えるイヴを傷物にした愚か者どもへの制裁が先である。

 

「くーちゃん‥その録画した映像をIS委員会経由で学園に送って」

 

「承知しました」

 

束は百秋と箒の愚行をIS委員会のコンピューターをハッキングしてそこからIS学園に送る様に指示した。

正体不明の添付ファイル付きのメールなんて怪しいので開かずにそのまま削除するだろう。

そうされたら奴等の愚行を学園の上層部に知らせることが出来ない。

だが、IS委員会のアドレスからならば開くだろうと踏んで回りくどいがIS委員会のコンピューターをハッキングしてから映像記録を学園に送った。

 

学園でも当然今回の福音の件は伝えられており、学園内にも対策会議室が用意されていた。

その中で学園長の轡木の元に箒が証言した通りの内容が記された報告書が届いた。

内容を見た時、学園長を始めとして集まっていた教師陣は皆、表情が硬かった。

千冬派の教師達は、

 

「だから、彼女の入学は反対だったんです」

 

「彼女が居なければ作戦は終わっていたかもしれないのに」

 

と、イヴに対する不満を零していた。

そして、千冬派の教師達は轡木にイヴの入学を許可した責任をとって学園長の職の辞任を迫った。

元々IS学園のトップを男性が務めていると言う事に不満を持っていた教師は多かった。

今回の福音の件を利用して轡木を学園トップの座から引き摺り下ろそうと画策したのだ。

ただ、教師達がイヴに対する不満や轡木の辞任を求めている中、生徒会長である楯無だけは一人腑に落ちない様子で考え込んでいた。

 

(織斑君と篠ノ之さんが参加する作戦にイヴちゃんが自ら志願するなんて考えにくい‥‥それにいくら暴走している無人機とはいえ、あのイヴちゃんが仕留め損ねるのもなんか不自然ね‥‥)

 

楯無はこの作戦の内容と報告に疑問を感じていた。

そんな中、IS委員会から一通のメールが届いた。

メールには映像データも添付されていた。

轡木が早速開いてみるとそこには驚きの映像が記録されていた。

そこには報告書とは全く異なる映像があり、イヴが作戦の邪魔をしているどころか福音の攻撃から船を守り戦い、密着している時に百秋が雪片でイヴごと福音を突き刺す映像が記録されていた。

映像は更に進み、雪片に突き刺されたイヴは海へと墜ち、停止したと思われる福音は動いており、その攻撃を至近距離から食らった百秋は重傷。

箒は百秋だけを助け、海に堕ちたイヴを見捨てて帰っていく映像がスクリーンに表示されていた。

その映像を見た楯無はギリッと奥歯をかみしめ握り拳を作り、力を入れる。

轡木も険しい表情で映像を見ていた。

反対に千冬からの報告を鵜呑みにしてイヴや轡木に対して不満をぶちまけていた教師達はなんだかバツ悪そうな顔をしていた。

 

「すぐに織斑先生と連絡を取って下さい」

 

「は、はい」

 

轡木は現地の千冬と連絡を取りこの映像と報告書の内容が異なる真意を尋ねることにした。

 

「はい、織斑です」

 

テレビ電話の向こう側には千冬の姿が映し出される。

 

「織斑先生‥現状は?」

 

まず轡木は千冬に現状を尋ね、彼女が先程の映像を入手しているのか、千冬自身の口から聞き出そうとする。

 

「報告書に記載した通り、福音は現在も静粛を保ったままです」

 

「そうですか‥‥それよりも先程の報告書ですが、間違いはないのですか?」

 

「はい、間違いありません。作戦に参加した篠ノ之箒自身から直接聞いたモノであり、同じく作戦に参加したアインスも未だに戻りませんから‥‥」

 

千冬は報告書に間違いないとはっきりと口にした事から、自分達に送られて来た映像を彼女はまだ見ていないのか、それとも故意に隠蔽しているのかそのどちらかだろう。

楯無は千冬の言葉を聞き、モニターに写る千冬を射殺す様に睨みつける。

 

「‥‥そうですか‥実は先程、IS委員会よりこのような映像が送られてきたのですが‥‥」

 

そう言って轡木は先程送られて来た映像を千冬に見せる。

 

「こ、これはっ!?」

 

映像を見て千冬は驚愕の表情をする。

その顔を見てどうやら千冬はこの映像の存在を今知った様だ。

だが、映像と異なる報告書を出したことについてうやむやにするつもりはない。

 

「これはどういうことですかな?」

 

轡木が千冬を睨みつける。

 

「そ、それは‥‥わ、私も現場で見た訳ではなく‥‥篠ノ之の情報のみで‥‥」

 

千冬は箒に責任転嫁させようとしているのか報告書と映像が異なるのは箒が悪い様に言う。

 

「そ、それにこの映像が真実とは限らないではありませんか。精巧に作られた映像かもしれませんし‥‥」

 

「IS委員会がその様な映像を作って何の利があるのですかな?」

 

「それは恐らく女尊男卑の理事が弟を嵌め様としているのではないかと‥‥」

 

「‥‥まぁ、事情はどうあれ、後日詳しい事情を聞かせてもらいますからね」

 

「は、はい‥‥」

 

「それとアインスさんの捜索は当然行っているのでしょうね?」

 

「えっ?」

 

轡木の言葉に対して千冬は「何を言っているんだ?」みたいな顔をする。

 

「『えっ?』ではありません。報告書と映像のどちらが事実にせよ、一人の生徒が行方不明になっているのです。探すのは教師として当然の責務ではありませんか」

 

「い、いや‥しかし、今は福音の対処が先では‥‥」

 

千冬はイヴの捜索よりも先に福音の対処を優先しようとしていた。

 

「まぁいずれにせよ、今回の件で織斑先生にはそれなりの責任はとってもらいます」

 

「なっ、そんなっ!?何故です!?」

 

「今回の福音鎮圧作戦の立案者、そして現場の責任者として責任を取るのは当然ではないですか」

 

「‥‥」

 

轡木の言葉に千冬は反論できなかった。

百秋が重傷を負い、イヴが行方不明になっているので何かしらの責任は取らなければならなかった。

だが、轡木は更に千冬を追撃する。

 

「そして、もし映像の方が事実であり、アインスさんが亡くなるような事があれば、その責任はさらに重くなりますからね」

 

そう言い残して轡木はテレビ電話をきった。

 

「‥‥」

 

「‥織斑先生?」

 

山田先生は心配そうに千冬に声をかける。

 

「‥山田先生」

 

「は、はい」

 

千冬の声は沈んでいた。

 

「直ぐに周辺の空と海を封鎖している教師部隊の半数をアインスの捜索へ差し向けてくれ」

 

「は、はい」

 

この時、千冬は改めて箒の証言が事実であってくれと心から祈った。

もし、あの映像の方が事実であるとすれば、イヴが海に墜落してからかなりの時間が過ぎている。

ISを纏っていたとはいえ、海中では絶対防御なんて役に立たないので海上に浮かび上がらなければ窒息死するし、海流に流されれば発見も難しくなる。

個人的にはこのままイヴが行方不明になってくれればいいのだが、今回に関しては自分の進退問題にも発展しかねない。

 

(福音を足止めするにしても何故あんな密着していた‥‥全く使えない疫病神が‥‥)

 

千冬は自分が強引にイヴを作戦に参加させたにも関わらず、面倒事を起こすイヴに対して完全に八つ当たりの様な思いを抱いた。

 

千冬の進退に危機が迫っている中、その一端を担った箒は意識不明の重体となっている百秋の傍にいた。

百秋は未だに呼吸器に繋がれて意識を取り戻さない。

 

「すまない‥‥百秋‥‥私がもう少し早く気づいていれば‥‥だが、百秋‥お前の怪我は決して無駄ではないぞ‥あの疫病神は死んだろうし、それに社会的にも抹殺したぞ」

 

箒は自分の報告によってイヴの社会的地位も葬ったと報告する。

だが、彼女は知らなかった。

自分の姉が学園と千冬に真相を伝えていた事を‥‥。

 

「これは我々の勝利だぞ、百秋‥‥後は福音を倒せばお前と私の株はあがり完全な勝利となる‥‥お前の仇は私がとってやるからな」

 

箒はこの後の福音の討伐作戦にも当然参加する事も百秋に伝えた。

福音討伐に意気込む箒。

そこへ、

 

「ねぇ‥」

 

「ん?」

 

「ちょっと、話があるんだけど‥‥」

 

鈴が箒に声を掛ける。

二人は旅館の外へと出ると、

 

「それでなんだ?態々外に連れ出して‥私はこの後、百秋の為に福音を討伐しなければならないのだが?」

 

「さっき、アンタが織斑先生に言った事‥アレ本当なの?」

 

鈴は箒に千冬へ報告した事が事実なのかを問う。

あの場で鈴も箒の報告を聞いていたが、鈴はどうしても箒の報告を信じられなかった。

元々イヴはこの作戦に乗る気じゃなかったし、クラス代表戦の時の事を思えば、態々横入りして他人の手柄を奪う様な性格ではない。

まだ知り合ってほんの数カ月であるが鈴はイヴの大まかな性格は理解しているつもりだ。

そのイヴが作戦の足並みを乱し、手柄欲しさに横入りしたなんて考えられない。

だからこそ、あの場に居た箒に真相を問いただそうとしたのだが、

 

「何を言うかと思えば‥‥あの場に私は居たのだぞ。その私がありのまま、見たままを報告したのだ。私が報告した事が事実だ」

 

箒は鈴にあの報告は事実だと告げる。

 

「そう‥‥」

 

鈴はまだ納得した様子はないが、このまま箒に尋ねたところで無駄だと判断し、早々に引き上げた。

 

その頃、肝心のイヴはと言うと‥‥

クロエが偽名を使ってチェックインした別のホテルの一室に束とクロエと共に居た。

 

「くーちゃん、お湯とタオル‥それからいっちゃんの着替えを‥‥」

 

「承知致しました」

 

クロエに着替えに必要なモノを頼み、束は血が付いたイヴのISスーツを脱がしていく。

ISスーツなのでその下には下着は身に着けておらず、ツナギの様な飛行服状のISスーツを脱がすとその下からイヴの白い柔肌が姿を見せる。

ただし、腹部には雪片によってつけられた傷があり、今は出血が止まっているがその姿は痛々しい。

 

「ん?‥‥これはっ!?」

 

束がイヴの傷口をよく目を凝らして見てみるとイヴの傷口はキラキラと小さく輝きを放っていた。

これはイヴのバハムートが傷口の修復を行っており、イヴが深い眠りについているのは、傷口の修復を優先しているので、余計な事に意識を集中しない様にする為の処置だった。

 

「傷口の修復演算の為にいっちゃんは眠っているのか‥‥」

 

海に堕ちた為、全身が海水でずぶ濡れ状態の為、本当はお風呂に入れたい所であったが、傷口の修復の為、それは修復が終わった後‥‥

今できる事は、お湯をつけたタオルでイヴの身体を拭いて、髪は少々塩の匂いが残るが、ドライヤーで乾かす事しか出来なかった。

 

「束様‥イヴ様は‥‥」

 

「今は傷口の修復で深い眠りについているから暫くは起きないよ」

 

「そうですか‥‥」

 

「いっちゃんが起きるまで暫くは私達も待機と言う訳だ‥‥」

 

「はい」

 

束とクロエはベッドの上で眠るイヴをジッと見つめていた。

 

一方、今回の騒動の発端となった福音も小島にて自分の体に突き刺さった雪片の処置に当たっていた。

鈍い機械音を出しながらゆっくり、確実に自分の身体に刺さった雪片を抜いていく。

そして、完全に雪片が抜けると浜辺に雪片を置く。

 

「どうやら、抜けたみたいね‥‥」

 

モバイルパソコンのモニター越しにスコールは雪片が福音の身体から抜けた事を確認する。

 

「折角の置き土産だし、使わなきゃ損よね‥‥」

 

そう言いながらスコールはモバイルパソコンのキーを打ち込むと、福音の腕からは幾つものコードが伸びてくると、やがてそれは浜辺に落ちている雪片に絡みつく。

 

『ユキヒラニガタ‥‥ロックコードカイセキカイシ‥‥』

 

スコールのモバイルパソコンのモニターには新たにウィンドウが開き、其処には解析率と書かれており、その数値は次第に上がっていく。

やがて解析率が100%になると、

 

『ユキヒラニガタ‥‥ロックコードカイセキカンリョウ‥‥アンロックモードセイコウ‥‥ツヅイテ‥ロックプログラムヲアラタニセッテイ‥‥』

 

「うふふ‥‥まさか、ブリュンヒルデ様御愛用の武器が私達、テロリスト側のモノになるなんて皮肉よねぇ~さぁ、次はどうでるのかしら?ブリュンヒルデ様は‥‥」

 

新たに雪片を装備した福音が映し出されているモバイルパソコンのモニターを見てスコールは不敵な笑みを零した。

 

まさか、百秋の残した武器が福音のモノになっている事を知る由もない千冬達。

現在、福音は静粛を保っているので、イヴの捜索に力を入れている。

 

「アインスはまだ見つからんか?」

 

「はい、未だに発見の報告は‥‥」

 

「ちぃっ」

 

イヴがまだ見つからない事に焦る千冬。

百秋も未だに意識も戻らない。

福音の作戦についても未だに変更の連絡もない。

百秋の事、イヴの行方、福音の対処、これらの事で千冬の思考回路は乱れに乱れる。

次第に冷静な判断が失われて行く。

椅子に座っている千冬は貧乏ゆすりをし、指でテーブルを荒々しく叩く。

 

「‥‥」

 

山田先生はそんな千冬に声を掛けづらくも、今の千冬の姿は見てられない。

 

「織斑先生‥先生も少し休まれてはどうでしょうか?」

 

「ん?‥あ、ああ‥すまないがそうさせてもらう。何か進展が有ったら呼んでくれ」

 

そう言って千冬は作戦室として使用している部屋から出て行った。

 


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