シルバーウィング   作:破壊神クルル

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64話

IS学園で行われていた臨海学校。

通常ならば、今は浜辺でISの実技演習が行われていた筈だったが、それは突如アメリカのISの暴走と言うイレギュラーな事態により中止となった。

この事態に自衛隊、在日米軍は対処する動きを見せず、なんとIS学園側でこの事態の対処に当たる事になった。

しかも教師陣は、ここ周辺の海と空の封鎖で実際に現場に赴くのは専用機持ちの学生。

このあまりにも異常な事態の収拾に一部の専用機持ちは作戦の参加を辞退したが、イヴだけは不可欠の戦力として強制参加させられた。

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容を考えよう」

 

「零落白夜で福音を落とすとして問題は百秋を誰が現場まで運ぶかだ」

 

零落白夜は攻撃力に対しては当たれば絶対的な威力を出すが、燃費が激しい。

白式で福音の所まで行き、そこで零落白夜を発動すると、威力が落ちる可能性もある。

 

「白式のエネルギーをすべて攻撃に回すってことか‥‥」

 

「目標に追いつける速度に超高感度ハイパーセンサーも必用になる」

 

「山田先生、この中で最高速度が出せる機体はどれです?」

 

「アインスさんのリンドヴルムですね。さっきの模擬戦では余り動きませんでしたし、リンドヴルムも福音と同様の高機動戦闘のオールラウンダーを目指した機体ですから」

 

山田先生は百秋の白式を運ぶにはイヴのリンドヴルムが最適だと言うと、百秋と箒は面白くなさそうな顔をし、イヴ本人もなんだか嫌そうな顔をする。

 

「待って下さい!!」

 

百秋とイヴが参加する事に対して不満があるのか箒が声を上げる。

 

「百秋を‥白式を運ぶだけでしたら、私の紅椿も機動力はあるはずです!!」

 

イヴに代わって箒が百秋を運ぶと言う。

最もイヴ自身も百秋を運ぶのであれば、箒に任せても良いと思った。

むしろ、そうして欲しいとさえ思った。

 

「山田先生、どうなのですか?」

 

「確かに先程のアインスさんとの模擬戦で取られたデータでは、確かに紅椿も機動性が高いです」

 

「……紅椿の調整にはどのくらいかかる?」

 

「五分から十分程です」

 

「そうか…ならば…やれるか?篠ノ之」

 

千冬は百秋の運搬役をイヴから箒へとチェンジした。

百秋、そしてイヴが互いに嫌悪している為、千冬本人もイヴよりは箒の方が百秋との相性がいいと思っての配慮だった。

千冬に指名されて先程の百秋同様、室内にいる全員の視線が箒に注がれる。

まぁ、始めて百秋の隣にいられるので、彼女の答えは決まっている。

 

「はい、やります!!」

 

これで作戦実行メンバーは決まった。

それでも不安はある。

その為なのか、

 

「本当に大丈夫なの?アンタ」

 

鈴が箒に尋ねる。

 

「むっ、それはどういう意味だ?」

 

「時間がないのは分かっているけど、アンタじゃまだ騎乗時間も経験も不足している上、腕前もさっきのイヴとの模擬戦を見る限り剣を振り回すくらいだけだし‥‥そんな幼稚な攻撃しかできない状態のアンタを実践に出すのは危険じゃないと思って」

 

「そうですね。此処はやはり、オールマイティーに動けるアインスさんの方が作戦成功率は上がりますね」

 

鈴と山田先生は箒よりもイヴの方が作戦の成功率があがると言う。

しかし、

 

「そんなことはない!!さっきの模擬戦では専用機を貰ったばかりで浮かれていただけだ!!」

 

作戦から降ろされるかもしれないと思った箒は必死になって弁明するが、その内容が内容だけに何だか頼りない。

 

「その浮かれが作戦行動中にでないとは限らないじゃない。これは模擬戦じゃなくて軍用ISを相手にした実戦なのよ。ほんの少し油断や慢心が大きなミスにつながるし、事と次第によっては生死にも関わる事なのよ」

 

鈴の発言に千冬も再び考え始める。

たしかに百秋とイヴの相性は最悪だ。

しかし、戦力とみたら百秋と箒よりは段違いで上‥作戦の成功率は上がる。

 

「過ぎた力を持てば周りもそして自分も傷つける。専用機持ちの基本的な心得よ。それをアンタは専用機を貰った事で浮かれていた。口では大丈夫と言っても心の中ではどうなの?まだ無意識というか潜在的に慢心や浮かれが残っているんじゃない?」

 

「鳳さんの言う通り、やはり今回は篠ノ之さんには降りてもらった方が‥‥」

 

鈴と山田先生は箒ではまだ騎乗時間も経験もなく、専用機を貰ったばかりで浮かれていると言う精神的な問題から作戦から降りてもらおうと言う。

イヴにしてみれば箒の状況が羨ましかった。

やる気はあるが、経験不足のせいで作戦から降りろと言われている。

片ややる気はないにもかかわらず経験があるからと言って強制参加させられている。

イヴが箒の状況を羨んでいると、やはり彼女は納得できないのか、

 

「ふざけるな!!この作戦に必要な条件を紅椿は満たしている!!ならばそこのやる気のない臆病者ではなく私がでるべきだろ!!」

 

大声をあげて椅子から立ち上がる箒。

 

「機体じゃなくて技量の問題なのよ!!」

 

鈴もムキになり箒に食って掛かる。

箒から臆病者と言われたイヴは至って冷静だ。

 

「お二人とも落ち着いてください」

 

セシリアが箒と鈴を宥める。

 

「はぁ~では、こうしましょう」

 

このまま無駄に時間を潰すわけにはいかず、イヴは妥協案とも言える提案を出す。

 

「織斑先生」

 

「なんだ?」

 

「これ以上時間を無駄につぶすわけにいかないので、作戦実行のメンバーは織斑君と篠ノ之さんでいきましょう」

 

「えっ?イヴ」

 

「ふん、やはり臆病風に吹かれたか?」

 

まさかイヴ自身が経験の浅い箒を押すとは思っても居なかったので鈴も山田先生も驚き、箒と百秋はイヴが臆病風に吹かれたと思いニヤついている。

ただし、イヴの提案はまだ続く。

 

「そして、バックアップとして私も出ます。どうでしょうか?」

 

「ふむ、バックアップか‥‥」

 

「はい。仮に零落白夜の攻撃が失敗した場合などのイレギュラーには私が対応しますので」

 

「なるほど。作戦実行の二人には福音に集中してもらい、お前はあくまで保険であり、それ以外の事に対処すると言う訳だな」

 

「はい。別に作戦はニ人だけという決まりはないはずですから」

 

「いいだろう。作戦実行メンバーは織斑と篠ノ之の二人、アインスはバックアップ要因として二人の補佐だ」

 

千冬が今回の福音に対する作戦を決定した。

箒としては百秋と肩を並べて戦える反面、イヴもそこに来ると言う事で完全に納得した様子はなく渋々と言った様子だった。

千冬の方もイヴのからの提案と言うのが少々癪にさわるが彼女の言う通り、時間を無駄に使う訳にはいかないので、イヴの提案をのんだのだ。

 

「あと、織斑先生。最後に質問があります」

 

「なんだ?」

 

「福音は当然有人機ですよね?」

 

「いや、福音は公式では世界初の無人機だそうだ」

 

千冬は敢えて福音を『公式』と言った。

非公式では既に無人機は存在していたからだ。

 

『無人機!?』

 

千冬の言葉に山田先生とイヴを除く皆が驚いた。

 

「なるほど、無人機だからこその暴走‥と言う訳ですね」

 

「アメリカもやっかいなモノを作ったもんだわ。しかもこの時期に‥‥」

 

作戦の内容、メンバー、そして福音の詳細が判明し、作戦に参加するメンバーのISが調整されることになり、出撃まで僅かであるが休憩・待機となった。

 

「イヴ‥‥」

 

部屋を出た時、イヴは鈴に呼び止められる。

 

「ん?なに?」

 

「ごめんね、簪達にイヴの事を任されていたのに‥‥」

 

鈴は今回の作戦ではセシリアと共に後方待機となった。

 

「ううん、今回の作戦上仕方ないよ」

 

「‥‥イヴ、無事に帰って来てね」

 

「うん」

 

イヴと鈴はハグをして別れた。

しかし、鈴には言い知れぬ不安がどうしても拭い去れなかった。

 

その頃、某所では‥‥

 

「へぇ~なるほど、白式の零落白夜での一撃必殺ねぇ~」

 

スコールはモバイルパソコンを片手に持ち、呟く。

耳にはモバイルパソコンから伸びたイヤホンをつけている。

そして、パソコン画面には二つのウィンドウがあり、片方は福音の現在位置を示しており、もう一つのウィンドウは旅館に仕掛けた盗聴器の音声ソフトを表示していた。

スコールは盗聴器から千冬が福音に対してどんな作戦をとるのかを聞いていた。

そもそも今回の福音の暴走は亡国企業‥スコールが仕組んだ事だった。

彼女は以前、タッカーの研究所で見つけた無人機を亡国企業の技術者に調査させた後、そのデータをアメリカの国防省へと送りつた。

元アメリカの軍人であったスコールにとって昔とった人脈はまだいくつかは生きており、その伝手で無人機のデータをアメリカ国防省へと送ることが出来た。

更に在日米軍が動かない事もスコールが関係していた。

一方、自衛隊の方はIS学園、千冬の方が関係をしていた。

テロリストとIS学園の教師‥相容れない二人が偶然にもこんな形で協力する事となった。

千冬に関しては百秋の為にお膳立てをしてあげたかったのだろう。

未だに世間では百秋の評価はブリュンヒルデの弟だったので、福音を落して世間にブリュンヒルデの弟ではなく、織斑百秋として認めさせる魂胆があった。

 

「箒、でも紅椿の補給や調整はどうするんだ?」

 

そして今回の作戦に参加するメンバーの内、箒は新たに自分の愛機となった紅椿について、この機体が束のお手製と言う事で束以外に調整出来るのかと思った。

 

「うむ、それが問題だな‥姉さんはいつの間にか居なくなっているし‥‥」

 

すると、

 

「ん?箒、その背中の紙はなんだ?」

 

「えっ?」

 

箒が背中に手を回すといつの間にか束からの伝言が書かれたメモが背中に貼ってあるのを百秋が見つけた。

 

「こ、これは‥いつの間に‥‥」

 

それによると紅椿は白式を作った倉技研の機器でも整備が可能な事が書いてあり、箒は百秋と共に倉技研が用意したコンテナへと向かい紅椿の補給を行った。

一方のイヴの方は鈴と分かれた後、彼女のスマホがメールの受信を知らせた。

受信したメールを見てみると、それは束からであり、リンドヴルムの調整をするのでメールに書いた場所まで来てくれとの事だった。

イヴが束に指示された場所に行くと、そこには束が待っていた。

 

「なんだか厄介な事に巻き込まれたね」

 

「うん‥念のために聞くけど、今回の一件、たばちゃんは関わってはいないよね?」

 

「関わる義理がないよ、それに無人機なら私のラボにあるからね、態々アメリカが作った奴を暴走させる意味もないしね」

 

「確かに」

 

「でも、何処かの誰かが私の作った無人機のノウハウをコピーして好き勝手にやってくれちゃっているみたいだけどね‥‥」

 

「ノウハウを奪われる心当たりはない?」

 

「うーん‥‥」

 

束はしばし考えた後、

 

「あっ、もしかしたら‥‥」

 

何か心当たりがある様だ。

 

「なに?」

 

「タッカーの研究所でくーちゃんが使った無人機‥あの残骸、そのままになっていたから、あの残骸を誰かが持って行ったのかも‥‥」

 

「それってもしかして、亡国企業‥‥」

 

「亡国企業?」

 

束は亡国企業の存在は知らなかった。

 

「実は‥‥」

 

イヴは以前、クラス対抗戦の際にIS学園を襲撃して来た無人機が束の研究所で見たあの無人機だった事、

そして無人機の襲撃に皆の目が集中している間に学園の訓練機が奪われた事を話した。

楯無の話ではその下手人が亡国企業の仕業ではないかと言っていた。

 

「成程ね。いっちゃんの話を聞く限り、その亡国なんとかって言うテロリストが私の無人機の残骸を修理して無人機のノウハウを得たとみて間違いないね。そしてその技術をアメリカに売ったのかな?」

 

「それって、アメリカがテロリストと交渉をしたってこと?」

 

「無人機は未だに私以外完成させていない技術だからね。世界の警察を自称するあの国なら強力な力を手に入れるためにテロリストと裏取引をしてもおかしくはないかも‥‥」

 

「今回の福音の暴走‥ただの暴走なのかな?」

 

「さあ~それは実際に福音を見てみないとわからないね」

 

束でも今回の福音の暴走は分からないと言う。

ただの暴走なのか?

それとも例の亡国企業が関わっているのか?

それにはまず福音の暴走を止め、福音を調べる必要があった。

 

「そういえば‥‥」

 

束は何かを思い出したかのようにイヴに尋ねた。

 

「いっちゃんは、例のふたなり野郎とは今、どこまで進んだの?」

 

「ふ、ふたなりって‥もしかしなくてもそれってデュノア君の事?」

 

「名前なんてどうでもいいよ」

 

束はシャルル個人には興味ないが、イヴとの関係には興味がある様だ。

 

「相変わらずもう一人の私はデュノア君にゾッコン」

 

「いっちゃん自身はどうなの?」

 

「私?‥‥うーん‥まだ、わからない‥でも、デュノア君はお父様以外で初めて私に優しくしてくれた男の人?な事は確かだよ」

 

「‥‥」

 

「いつかは私もデュノア君に答えを出さなきゃならないのは分かっているつもりだよ」

 

イヴはシャルルに対していつかは自分の内に秘めた答えを言わなければならない事は自覚していた。

シャルルは四季に次ぐイヴの事を想ってくれている人物だと言うが、束は実際に話してみないとまだ信じられなかった。

 

「あっ、そう言えば‥‥」

 

イヴも何かを思い出したかのように束に話した。

いや、話してしまった。

 

「ん?どうしたの?」

 

「実はこの前、夢の中でたばちゃんが‥‥」

 

イヴは以前見た夢の内容を束に語った。

それは束がイヴを一時的に男にする薬を飲ませ、逆レイプして、自身はイヴとの子供を孕んだあの時の夢の話だった。

 

「ひどいなぁ~いくら何でもそんな薬は作らないし、いっちゃんを襲ったりしないよぉ~」

 

「ホントに?」

 

「ホント、ホント」

 

イヴの話を聞いて束はおちゃらけた様子で否定する。

だが、心の中では、

 

(そ、そうか、その手があったか!!)

 

イヴの夢の話を聞いて何かを閃いた様子。

あの時、イヴの見た夢が夢であって欲しいと願うばかりである。

 

 

 

 

おまけ

 

 

時系列は時間を巻き戻して、昨夜、イヴが簪とシャルルと共にロビーでトランプをしていたころまで遡る。

 

「そう言えば、かんちゃんの髪を見て思い出したことがあるんだけど‥‥」

 

「ん?」

 

「何かしら?」

 

「昔、かんちゃんに似た人と会ったことがあって‥‥」

 

「「えっ?」」

 

イヴの発言に驚く簪とシャルル。

少なくとも簪にはイヴに出会った記憶はなかった。

いや、それは当時まだイヴが一夏だったからこそ、覚えていないのかもしれない。

そして、イヴは簪とシャルルに昔の事を語り始める。

あれはまだ、イヴが一夏だった頃の事‥‥

 

あの日、一夏は束と初めて出会った河川敷に居た。

その日は風が比較的に強い日で、一夏は河川敷で絵本を読んでいた。

しかし、風のせいで上手く読めない。

 

「風が強くて読みにくい‥‥失敗した‥川原で本なんて読むんじゃなかった」

 

あまりにも読みにくい為、一夏は絵本を閉じた。

その時、背後に人の気配を感じ後ろを振り向くと、そこには青い髪に赤い目で自分と同い年くらいの女の子が立っていた。

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

一夏の目とその女の子の目が合う。

しかし、互いに知らない中なので、無言のまま。

一夏はその子から視線を逸らす。

しかし、青髪の子は一夏に語りかけることなく、一夏の傍に腰を下ろす。

 

(き、気まずい!何?何なの?あの子誰!?)

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

(なんで無言なの?この広い川原でわざわざ私の傍に座って‥‥何の用か知らないけど、やっぱり私から声をかけるべきなのかな?いや、でもなんで?とにかく、初対面の人に気の利いたセリフなんて言えないよぉ~!!)

 

束の時は自身が大事にしていた懐中時計を壊されてしまったため、初対面である束に対しても人見知りと言うよりも大事にしていた懐中時計を壊されてしまった悲しみの方が大きかった為、束に話せた。

それに最初に話しかけてきたのは束の方だったし‥‥

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

相変わらず両者無言の中、一夏は心の中で必死になにか会話の糸口を探していた。

 

(えっと‥‥『今日はいいお天気ですね?』だ、ダメだ、そんなありきたりなセリフ、この状況に合わない)

 

(そうこの状況、ある晴れたこの日、魔法以上のユカイが 限りなく降りそそぎそうなこの状況‥多分この子、非現実的な何かを期待しているんじゃないかな?)

 

「‥‥‥ん」

 

一夏がチラッと青髪の女の子を見るとその子はなんかソワソワしている。

 

「‥‥」

 

(どうもそんな感じだ)

 

(となると、やっぱりここはインパクトのあるセリフのほうがいいよね‥‥)

 

(大体私はたばちゃんと遊ぶために待ち合わせをしているなんの能力もない普通の人なんだけどなぁ‥‥)

 

「‥‥‥んん」

 

(まぁ、いいや。兎に角、この子の期待を裏切っちゃダメだよね‥い、いくよ、インパクトのある言葉を!!)

 

悩んだ末、一夏は一言呟く。

 

「今日は‥‥‥風が騒いでいる」

 

(あれ?なんだろう?何か物凄く恥ずかしくなってきた‥‥何を言っているんだ?私は‥‥)

 

(これはやっちまったかな‥‥?)

 

これは滑ってしまったかと思いチラッと見てみると、

 

「…んん‥‥んん」

 

(あれ?なんかすごく嬉しそう‥‥)

 

意外にもその子は喜んでいる様子だった。

すると、その子は、立ち上がり、

 

「でも少し、この風‥‥泣いているわ」

 

「‥‥」

 

(この人も何を言っているの!?)

 

(なんか、もう逃げたい‥お家に帰りたい。でも、まだたばちゃんが来ていないし‥‥早く来て!!たばちゃん!!)

 

すると一夏の願いが届いたのか、

 

「いくよ、いっちゃん!!どうやら風が、街によくないモノを運んできてしまったようだ」

 

(ちょっ、たばちゃんまで何を言っているの!?)

 

その場にやって来た束までもが意味不明な事を言い放つ。

 

「あっ‥‥」

 

すると、束はその場にいた青髪の女の子に気づいて顔を真っ赤に染める。

 

(恥ずかしいならそんな事を言わなきゃいいじゃん!!)

 

「ふひひ‥‥‥ひぃ‥‥」

 

束の言葉を聞いてますます嬉しそうな様子の青髪の子。

 

(うわっ、メッチャ嬉しそうだよ!?)

 

(もう嫌だ。こんな変な空間からはさっさと逃げよう)

 

一夏は立ち上がり、この場から逃げようとする。

しかし、この変な空間の空気に当てられたのか、ついつい呟いてしまった。

 

「急ごう、風が止む前に」

 

(何を言っているんだ!?私は!?)

 

(もういいよ、行けるとこまで行ってやるよ!!)

 

自棄になり掛けた一夏。

そこへ、

 

「かんざしちゃん!!」

 

また知らない人が出てきた。

しかし、その人はこの青髪の女の子と同じ色の髪と目の色をしていた。

顔立ちも似ているので恐らく姉妹なのだろう。

 

「かんざしちゃん!!超ヤバイよ!そこのコンビニ、ポテト半額だって!行こうよ!」

 

(空気読めよ、あんた!いや読んでいるけど‥‥)

 

「かんざしちゃん、早く!!はや‥「ふがぁ!!」ウボォっ!」

 

「ふん!‥‥ふん!!!」

 

「か、かんざしちゃん、や、やめ、いた、いた」

 

「があああああああ!!」

 

かんざしちゃんと呼ばれたその子はお姉さんらしき女の子に殴り掛かりボコボコにしていた。

一夏はその隙に束と共にその場から立ち去った。

 

 

 

 

「ってことが昔あったんだ」

 

「へ、へぇ~」

 

簪はイヴから視線を逸らしている。

 

「あ、あの‥その話に出て来た子ってもしかして‥‥‥」

 

シャルルがチラッと簪を見る。

すると、簪は顔を真っ赤にして俯いてプルプル震えている。

 

「その子ってもしかして、さら‥‥」

 

シャルルが『更識さん』と言おうとした時、

 

「うがあああああああ!!!」

 

突如、大声を上げてシャルルに殴り掛かった。

 

「ちょ、な、なんで、い、いたい、や、やめ‥更識さん」

 

その後、簪はシャルルの耳元で何かを呟くとシャルルはものすごい勢いで首を縦に振った。

その様子をイヴは首を傾げて見ていた。


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