シルバーウィング   作:破壊神クルル

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56話

此処で少し時間を巻き戻し、視点を変える。

 

~sideイヴ~

 

デュノア君と共に臨海学校で使う水着を買いにショッピングモールへとやって来た。

デュノア君の買い物は直ぐに終わり、次は私の水着を買いに来た。

店員さんに勧められるままにビキニ水着を勧められた。

私に似合うか分からなかったので試着をする事にして試着室へと入る直前にデュノア君はトイレに向かった。

そして試着室にて水着に着替えていると試着室の外から人の気配を感じた。

しかもその人は試着室前から動こうとしない。

試着室の前には私の靴があるから試着室の中に人が入っている事は分かっている筈。

もしかして、次の人が並んでいるのかな?

でも、試着室は此処以外にもたくさんあったし、この試着室ではないと絶対にダメなんて事はない筈‥‥

店員さんにしても一声かける筈だが、外の人物は声をかけない。

トイレから戻って来たデュノア君にしても中に居る私に声をかける筈だ。

私がそんな疑問を抱いていると外の人物は私のいる試着室の中に入って来た。

 

「っ!?」

 

私が振り向くとその人物は手で私の口を塞ぐ。

 

「むぐっ!?」

 

「よぉ、久しぶりだなァ。ハニー‥随分とまぁ、大人びた身体つきになったじゃねぇか」

 

「うっ‥むっ‥‥んっ‥‥」

 

(コイツは確か五反田弾‥‥)

 

私は試着室の中に入って来たこの赤髪の男に見覚えがある。

五反田弾‥かつて百秋と共に私を強姦した男‥‥

私は過去の事を思い出しこの男を睨みつける。

 

「第二回モンド・グロッソの後、行方不明になったって聞いたから心配したぜ‥でも、こうして会えたんだ‥久しぶりに俺のモノをあげるぜ‥‥嬉しいだろう?ん?」

 

そう言ってこの男はなんとズボンと下着を下ろし始めた。

 

「久しぶりにお前に姿を見て思わず興奮しちまったからな‥‥場所が場所だけにお前の声を聞けないが、一緒に気持ちよくなろうぜ」

 

「んっ‥‥むぅ‥‥んっ」

 

(冗談じゃない。イヴとなった今でもお前の様な奴に犯されてたまるか)

 

私は口を塞いでいるこの男の腕を掴む。

 

「ん?ふん、無駄な抵抗だな」

 

コイツは今の私が中学時代の私だと思っている様だけど、今の私はもうあの頃の私じゃない!!

 

ぎゅぅぅぅぅぅぅ~

 

私は掴んでいる腕に力を入れる。

この男は私の腕を引き剥がそうとするがこの程度の力で引き剥がせると思うなよ。

私が更に力を入れるとコイツは私のお腹に拳を叩き付け始めた。

 

(くっ‥‥コイツ‥‥)

 

コイツはもう私の口をふさぐのを止めようとしているのか、口元から手を離そうとした。

しかしコイツの思い通りになんてさせない。

時間を稼げばいずれデュノア君か店員さんが戻って来る。

そうなればコイツの人生は詰む筈だ。

だから、それまでお前はその姿でこの場に居てもらうぞ。

お腹を殴られつつも私はデュノア君か店員さんが戻って来るのを待った。

そして‥‥

 

「お客様?」

 

店員さんが戻って来た。

 

「お客様?大丈夫ですか?御気分でも優れないのですか?」

 

店員さんは私が声をかけない事に心配そうに声をかける。

店員さんが来たのであればもう口元から手を放してもいいかな?と思っていると、

 

「どうかしたんですか?」

 

デュノア君も戻って来た。

 

「あっ、先程のお客様のお連れ様」

 

「何があったんですか?」

 

「それが、お客様が試着室に入ったきり出て来なくて‥‥お声をかけたのですがそれにも返答がなく‥‥」

 

「えっ?アインスさん?アインスさん!!」

 

デュノア君も来たのであればもうコイツに付き合う必要はない。

私はコイツの腕を動かして、声が出せるぐらいの隙間を作ると、

 

「た、助けて!!デュノア君!!」

 

悲鳴を上げた。

別にコイツの腕をへし折ってもいいが、それだと世間的に私も悪と見なされるかもしれないので、此処はこの状況と女尊男卑の風潮を利用させてもらうことにした。

私の悲鳴を聞いてデュノア君が試着室のカーテンを開ける。

デュノア君と店員さんは試着室の中を見て

 

「キャァァァァ!!変態よ!!」

 

店員さんが大声を上げる。

そりゃそうだ。試着室の中に下半身丸出しの男が居たのだから‥‥

 

「おい、お前!!アインスさんに何をしている!!」

 

下半身丸出しの弾の姿を見てデュノア君は物凄く怒っているみたいだ。

 

「い、いや、待て!!お、俺は‥‥」

 

弾はデュノア君に何か言おうとしたが、

 

「問答無用だ!!」

 

デュノア君は弾を試着室の外に引きずり出そうとしたので、私もタイミングを見計らって弾の腕を掴んでいた手を離す。

すると弾はバランスを崩す。

 

「このっ、変態野郎が!!」

 

デュノア君は渾身のストレートを弾にお見舞いする。

 

「誰か!!警備員と警察を呼んで!!」

 

店員さんが大声を上げて警備員さんと警察を呼ぶように言う。

 

「アインスさん、大丈夫?」

 

「怖かったよぉ~デュノア君」

 

世間の同情を買う為、あざといかもしれないが私は涙目でデュノア君に抱き付く。

 

「もう、大丈夫だからね」

 

抱き合う美女美男子の姿を見て店員さんも警備員さんもホッとした表情をする。

やがて、警備員さんが駆け付けると弾は下半身丸出しで伸びたまま警備員さんに連れていかれた。

周りのお客さんもドン引きしていた。

そして事情を聞きたいので私にも来てくれと言う。

流石に水着のままで行く訳にはいかないので一度着替えてから行くとこにした。

先程の弾の件もあり、試着室の前にはデュノア君と店員さんが立っていた。

着替えが終わり私は、

 

「どうも、ご迷惑をおかけしました」

 

「いえ、お客様にお怪我がなくてよかったです」

 

「その水着、購入させてもらいますので、キープをしてもらえますか?」

 

「承知しました」

 

着替えを終えて水着をキープしてデュノア君と共に警備室へと向かった。

 

 

やがて警察が来るとイヴと弾はそれぞれ別室で事情を聞くことになった。

イヴは警官に対して今度学校のイベントで臨海学校があり、その為の水着をシャルルと共に買いに来て水着を試着していると試着室の中にあの男が入って来たと説明した。

一方、弾は流石に警官の前で下半身丸出しのままで事情を聞くわけにはいかないのでちゃんとズボンを穿いていた。

そして弾は警官に対してあれはイヴが自分を誘ってきた。

自分はイヴにはめられたのだと主張した。

その証拠に自分はイヴに強く腕を掴まれたと事情を説明したのだが、

それじゃあ、その掴まれた証拠を見せてくれと警官が弾に腕を見せてくれと言う。

あれだけ強く掴まれたのだから自分の腕には跡が残っている筈だと思って自信満々の様子で警官に腕を見せる。

 

(これで俺の無実は証明される筈だ)

 

全くのお咎めなしと言う訳ではないだろうが、非はイヴ(一夏)の方にあると思っていた弾。

しかし‥‥

 

「何もないじゃないか」

 

警官がギロッと弾を睨みつける。

 

「そ、そんな筈は‥‥」

 

弾の腕には掴まれた跡が全然なかったのだ。

 

「あ、あれだけ強く掴まれたのに‥‥」

 

腕に跡がなかった事で警官は弾の主張に疑問を感じている様だ。

 

「ほ、本当なんですよ!!本当にあの女に強く掴まれたんです!!」

 

弾が幾ら主張しても腕に跡が残っていないのであれば証明のしようがない。

そして店の近くの防犯カメラの映像が届いた。

流石に試着室の前にはカメラがなかったが、店の前にもありその映像が届いて警官が解析するとイヴと弾が接触する場面はなく、またイヴが携帯を使って弾と連絡を取り合うような場面も見られない事から「イヴ(一夏)の方から誘ってきた」という弾の主張も疑問視された。

 

(ヤバいこのままじゃ‥‥そうだ!!)

 

このままでは自分は警察に逮捕されてしまうと思った弾は、

 

「あ、IS学園の織斑千冬さんを呼んでください!!」

 

すると、弾は千冬を呼んでくれと言う。

 

「織斑千冬?あのブリュンヒルデの?」

 

「そ、そうです!!あの人と俺とは知り合いなんです!!あの人なら俺の人柄をよく知っているから、俺がこんな事をする筈じゃないと信じてくれる筈です!!」

 

警官はやれやれと思いつつIS学園へと連絡を入れた。

そのIS学園では千冬や山田先生達一年生の担当教師は臨海学校のしおりの製作に追われていた。

そんな中、警察から連絡が入った。

内容がIS学園の生徒がショッピングモールで事件に巻き込まれ事件関係者が織斑千冬を呼んでくれと言っているらしい。

だが、千冬は今、臨海学校のしおり製作に追われており今からショッピングモールに行く余裕などない。

そこで千冬は山田先生を自分の名代として送った。

山田先生も臨海学校のしおりの製作に追われているのだが、千冬は山田先生の分も自分がやっておくと言って彼女を送り出した。

今からモノレールに乗ってショッピングモールに行くのが面倒だったからだ。

弾の思惑が外れ山田先生が来る事になり弾の運命は決定されたのかもしれない。

そもそも警官が千冬に事件関係者としか言っていなかった事が弾の不幸だったかもしれない。

千冬も当初、百秋か箒が事件に巻き込まれたのかもしれないと思ったのだが、加害者側が千冬の関係者と言っている事で千冬はこの件に面倒さを感じていた。

この時、もし弟が関係して居たら警察は「お宅の弟さん」と言うはずだし、箒は女の子なので痴漢をされる側であって痴漢をする側ではない。

千冬はこの事件の加害者が自分の関係者と言われてもピンと来なかった。

それどころか自分の名を借りて犯罪から逃げようと思っている卑怯な奴かと思って相手にするだけ時間の無駄だと判断した事も山田先生に押し付けた理由の一つでもある。

だが、自分の関係者と言われて真っ先に思いつくのが百秋と箒であり、それ以外には思いつかないとは千冬の交友関係は案外と狭い。

一方、押し付けられた山田先生自身も千冬から面倒事を押し付けられたと言う自覚はあったが、教師として自分の教え子が事件に巻き込まれたとなれば教師として行かない訳にはいかないのでショッピングモールへと向かった。

やがて山田先生は事件が起きたショッピングモールに到着し事情を聞くことになる。

警官が山田先生に事件の概要を説明した。

するとIS学園の生徒が試着室の中で強姦未遂をされたのだが、犯人は学園の生徒の方が自分を誘ってきたと供述している事を伝えると山田先生はその犯人に対して憤慨した。

取りあえず加害者が千冬と会いたがっていると言う事なので山田先生は自分が千冬の名代としてきたのでその人物に会うことにした。

そして山田先生を見た弾は千冬ではない事に困惑した。

 

「あんた誰だ?千冬さんはどうした?」

 

「織斑先生は現在所用で手が離せないので私が代わりに来ました」

 

(本当は私だって忙しいのに‥‥)

 

山田先生は心の中で千冬に対する愚痴をこぼした。

 

「事件の事は警察の方から聞きました。どう考えても貴方の供述には矛盾があり、非は貴方にあると思うのですが?」

 

山田先生は弾の言っている事が信じられないと言う。

 

「アンタはアイツの事を知らないからそう言えるんだ。アイツは昔からそうだったんだよ!!男と寝て金を荒稼ぎしていたろくでもない売女だったんだ!!」

 

弾は山田先生に自分達が流した一夏の悪評を説明する。

 

「ちなみにその人の名前は?」

 

「織斑一夏だ」

 

「織斑一夏?」

 

「そうだ。千冬さんの妹で百秋の姉の一夏だ」

 

「残念ですが貴方の言う織斑一夏と言う名前の生徒はIS学園には在籍していませんが?」

 

「そんな訳ない!!現に試着室の中に居たじゃないか!!」

 

「すみませんが被害に遭われた生徒とあっても良いですか?」

 

「はい。現在別室にいます」

 

山田先生は一時弾の居る部屋から出て被害にあったと言う生徒がいる部屋へと向かう。

 

「アインスさん!!」

 

其処に居たのは自分のクラスに在籍するイヴだった。

山田先生は何故弾がイヴを織斑一夏なる人物を間違えたのか分からないがイヴからも事情を聞く。

イヴは警官に聞かれた事と同じ事を答える。

イヴの話を聞く限りやはり警官から事情の説明を受けたのと同じく非はイヴにではなく弾にあると感じる山田先生。

山田先生は弾にイヴは一夏ではない事を証明するためにイヴから生徒手帳を借りて弾の下へと向かい、彼にイヴと一夏は別人である事を伝える。

 

「先程、被害にあったウチの生徒と会ってきましたが、その生徒は織斑一夏と言う名前ではなくイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスさんです」

 

「そんなバカな!?アイツは織斑一夏だ!!間違いない!!イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスなんて名前なんかじゃない!!」

 

「はぁ~貴方こそ何を言っているんですか?これが証拠です」

 

山田先生は弾に名前と顔写真が入ったIS学園の生徒手帳を見せても弾はイヴが一夏だと言い張る。

此処で話を続けてもキリがないと判断した警官は、

 

「話は署の方でじっくりと聞こうか?」

 

弾を立たせると警察署へと連行する。

 

「本当なんですってば!!本当に強く掴まれたし、奴の方から俺を誘ってきたんだ!!それにアイツは織斑一夏なんだ!!イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスなんて名前じゃない!!信じてくれ!!」

 

最後まで自分の非を認めずイヴを一夏だと言い張りながら弾は警察署へと連行されて行った。

今更ながらもしも、警察が千冬に加害者が弾であり、被害者がイヴだと知っていたらこの結果はあるいは違っていたのかもしれない‥‥。

 

 

余談であるがこの一件で五反田家は家庭崩壊をする事となった。

その日の内に五反田家に警察から連絡が入り、弾がIS学園の生徒を強姦未遂した事が伝えられた。

両親と祖父は最初その知らせを聞いた時信じられなかったが、蘭は内心いつかはやってしまうのではないかと思っていた。

そして警察署へと赴き事情を聞き弾からイヴ(一夏)の事を聞いて弾の両親も祖父も弾同様、

 

「息子はそいつに嵌められた」

 

「誘ってきたのは相手の方だ」

 

「アイツ(一夏)は昔からそう言うことを平気でする悪ガキだった」

 

と主張した。

しかし、監視カメラなどの証拠映像やIS学園の名前と顔写真入りの生徒手帳がある限り弾や彼の両親、祖父の主張は通らなかった。

弾は警察署に連行された後も千冬を呼んでくれと頼み、彼の両親と祖父もIS学園に連絡を入れて千冬に弾の弁護を頼んだ。

しかし警察署に連行されて、しかも証拠がありほぼ非が弾に確定している中で千冬は弾の弁護を行おうとはしなかった。

そもそも千冬はIS学園の教師であり弁護士ではない。

千冬は警察からの話を聞いて百秋にも弾の事は忘れろと言って弾の事を切り捨てた。

百秋も友人から犯罪者が出たことで世間体を考えて千冬の言う通り弾の事を切り捨てた。

自分の過去の汚名を弾がきてくれるなら丁度いいと思った。

百秋と千冬から切り捨てられたことを知った弾は百秋と千冬も道連れだと思い百秋が中学時代に自分と共に腹違いの姉である一夏を強姦していた事を始めとする悪事を警察に供述したが、弾がこれまで警察にしてきた供述が嘘だらけであったことが災いして警察は彼の供述を信じなかった。

弾はまさにオオカミ少年状態となったのだ。

警察は念の為に百秋と千冬に弾の供述が正しいのかを尋ねたが自分からろくに証拠がないのに犯罪を認めるバカは居らず、百秋と千冬は確かに弾の言っている事が正しいのだが犯罪者の烙印を押されるのは御免だと思い弾の供述を全て否定した。

更に世間の女尊男卑の風潮が拍車をかけて弾の立場をより一層悪化させた。

しかも行った犯罪が女性に対する強姦未遂と言うのが不味かった。

弾はまだ未成年者と言う事でテレビでも『16歳の高校生の少年』という事で実名は出されずに報道されたが、近所では瞬く間に弾が強姦未遂をした事が知れ渡ってしまう。

それはかつて自分達が一夏の悪評を流した時と同じく物凄い早さだった。

彼にしてみればまさに因果応報な結果となった。

弾の事件が近所に知れ渡ると五反田食堂には客が一切入らなくなり、店の前にはゴミが撒かれ、出入口のガラス戸には『強姦魔』 『女の敵』 『去勢しろ!!』 『この町から出て行け!!』 などの誹謗中傷が書かれた貼り紙が貼られ五反田家は近所から村八分状態となった。

蘭自身も兄が犯罪者となり学校では無視されたり嫌がらせを受けるようになる。

この時、蘭は一夏もこんな気持ちだったのかと中学時代に周囲からいじめを受けていた一夏の気持ちが分かった気がした。

度重なる近所からの嫌がらせに耐えられなくなった弾の母親は蘭を連れて実家に戻る事を決意して弾の父親と離婚した。

蘭は五反田の姓から母方の姓になった。

そして進学にしてもIS学園には千冬がおり、その千冬が自分の入学を認める訳がないと蘭は母親を説得しIS学園の進学を諦めさせることに成功して、彼女は母親の実家の近くにある普通の高校に進学することにした。

蘭は姓も五反田からかわり尚且つ世間が女尊男卑の世の中が彼女の味方となり、地理的にも母親の実家がある地方に引っ越した事からあの町で兄が起こした強姦未遂事件を知る者はほとんどおらず平穏な高校生活を送ることが出来た。

一方、あの町に残して来た父親と祖父、そして強姦未遂事件を起こした弾がその後どうなったのかを蘭は知らない‥‥。

 

それから先の未来にてAV男優で赤髪に長髪の男が出ていたと言う‥‥。


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