イヴの迂闊な行動のせいで、自身の秘密が世界で二人目の男性操縦者であるシャルル・デュノアにばれてしまった。
しかし、イヴの中の獣はシャルル自身にも何か違和感を覚え自身の秘密を教える事を条件にシャルルにも秘密を打ち明けるように取引を持ち掛けた。
そしてシャルルとイヴは放課後、生徒会室にて互いの秘密を打ち明けあうことになり、こうして生徒会室にて互いに秘密を打ち明けるために集まった。
まず、イヴがシャルルに自身の秘密を打ち明けた。
ナノマシンによって体全体を生物兵器に改造された打ち明けるイヴに対して半信半疑だったシャルルはイヴの変身を見て信じざるを得なかった。
イヴは白い大きな翼でシャルルの体を包み込み、髪の毛を伸ばすと蜘蛛が獲物を絡めとるかのようにシャルルの体に巻きつける。
そしてキスをする勢いでシャルルの顔に自身の顔を近づけてシャルルに語り掛ける。
(ちょっ‥アインスさん‥顔‥顔が近いって‥‥)
イヴに迫られ顔を赤くするシャルル。
(その体は本来、イヴちゃんの体なのよ!!もう少し大事に扱いなさいよ!!)
そんなイヴ(獣)の行動に楯無は文句を言いたかったが今はシャルルの正体を暴くのが先という事でないも言わずに心の中で文句を言った。
「さあ、次は貴方の番よ。どうして世界で二番目とはいえ、男性操縦者なのにあまり注目されなかったのか?それにどうして男の貴方から女の匂いがするのか?私、気になります!!」
((えるたそっ!?))
(ちょっと待て!!お前はまさか、男であるデュノア君の中に女の気配が混じっていたから協力したのか!?)
『ん?当然だろう?私でさえ知らない気配をコイツは持っていたんだ。気にするのは当然だろう?』
(‥‥)
「さあ、早く話して下さいな‥このまま絞め殺されたくはなかったらね」
そう言いながらイヴはシャルルの体に巻き付けている髪の毛の力を少し強める。
「わ、分かった‥分かったから、食べないでください!」
「食べないよ!!‥‥でも、食べないというだけで殺さないとは言っていないよ。さあ、早く」
「う、うん‥‥ただ、その前にコレ(髪の毛)ほどいて」
シャルルが説明する前に自分の体を拘束しているイヴの髪の毛を解いてくれと言う。
「その‥‥まず、僕が世界で二番目の男性操縦者なのに注目されなかったことに関しては‥その‥‥僕の体に事情がありまして‥‥」
「ん?どういうことかしら?」
「まさか、男ではなく女でしたなんてオチだけは勘弁してね」
「い、いえ‥そうではないんです‥‥で、では説明するよりは実際に見てもらったほうが早いと思いますので、その‥‥部屋のカーテンを閉めてもらってもいいですか?」
「えっ?ええ、いいわよ」
楯無が生徒会室のカーテンを閉める。
すると、シャルルが楯無とイヴに背を向けてジャケットのボタンに手をかけ、次にワイシャツのボタンに手をかけてゆき、上着を全部脱ぐ。
「ん?何する気だ?」
「私たちに何か見せたいんでしょう」
「ストリップかな?」
「男のストリップを見てもね‥‥」
「‥‥」
二人の会話はシャルルに筒抜けとなっており、シャルルは複雑な心境だった。
そして、楯無とイヴの方へと体を向ける。
「なっ!?」
「‥‥」
シャルルの体を見た楯無は目を見開き、イヴはノーリアクション。
「そ、それって‥‥」
シャルルの胸は男にしては大きく、どうみてもそれは女性の胸以外には見えなかった。
「デュノア君‥貴方、本当は‥‥」
楯無がシャルルに本当は男ではなく女なのかと尋ねようとした時、
「‥い、いえ‥確かに‥その‥‥まだ続きがあるんです‥‥」
シャルルは顔を赤くして目を閉じて今度はズボンに手をかける。
そしてズボンの下には男物の下着が姿を見せる。
シャルルは暫く下着に手をかけていたが、やがて決心したかのように下着を下した。
「「なっ!?」」
下着の下にあったのは紛れもなく男の性器であった。
これには流石のイヴも驚いた。
「ど、どういうことなの?」
「その‥‥僕は両性具有者なんです」
「両性具有‥‥」
(なるほど、だから男なのに女の匂いもしたのか‥‥)
シャルルの告白で謎が解けたことにより納得した獣。
(両性具有ってたしか‥‥男女両性を兼ね備えた存在よね?初めて見たわ)
初めて見た両性具有者の体をマジマジと見る楯無。
だが、やはり恥ずかしいのか顔がほんのりと赤い。
「あの‥‥一つ確認してもいいかしら?」
「えっ?あっ、はい。どうぞ」
「君の場合、生まれつき両性具有なのかしから?イヴちゃんの様に人体実験の被害者とかそういうわけじゃないわよね?」
楯無は念の為シャルルに何らかの実験によって両性具有となってしまったのかを尋ねると、
「い、いえ‥‥僕は生まれた時からこの体でした」
どうやらシャルルはイヴと違い最初から両性具有の体だったようだ。
「あっ、もういいわ。服を着て頂戴」
「は、はい」
話の続きをするにしても裸のままでは話しづらいのでシャルルに服を着てもらう。
「貴方の身体については分かったけど、まだ分からない事があるんだけど」
楯無が服を着たシャルルに抱いていた疑問を語る。
「なんでしょう?」
「失礼ながら、貴方についてこっちでも色々調査をしていたのよ‥‥」
「は、はい」
シャルルにとっても楯無の処置は当然だと思い割り切っている。
「それで、分かった事があるんだけど、デュノア夫人に出産記録がないの‥‥これはどういうことなのかな?」
「‥‥」
家族ネタはシャルルには禁句なのかシャルルは俯いてしまう。
『おい、一夏』
そんな中、獣がイヴに声をかける。
(なに?)
『お前も見ていただろう?コイツは男でもあり女でもあるそうだ』
(そうみたいだね)
『これなら男に苦手意識があるお前でもつきあえるんじゃねぇか?』
(な、なにを突然!?)
『過去にいつまでも縛られていては前には進めないぞ』
(余計なお世話だよ!!それに私は結婚なんて考えてなんかいないよ)
イヴは獣に結婚は考えていないと言う。
弟やテロリスト連中に汚され、人間ですらなくなった自分を一体誰が愛してくれるだろうか?
それに自分自身が男に対して苦手意識を持っている。
だから、自分は一生結婚できなくても良いとイヴはそう思っていた。
『おいおい、そんなに拗ねるなよ』
(拗ねてなんかいない)
イヴと獣がこのようなやり取りをしている間にも楯無によるシャルルへの尋問を続いていた。
「言いたくないのは分かるけど、いずれは分かる事よ。貴方のこれまでの不明な出生に関しては引き続き調査を依頼しているから‥‥」
「‥‥」
「それとももしかして貴方は養子なの?」
「そう‥ですね‥‥」
シャルルは諦め様子で楯無に自らの出生を語った。
「僕は‥正妻‥デュノア夫人とは血が繋がっていないんです‥父は確かにデュノア社の社長ですけど‥‥母は父の愛人だったんです」
(えっ?)
シャルルの出生を聞いてイヴは大きく目を見開いて驚く。
まさか、シャルルの出生は自分と同じ愛人と言う事で若干の親近感が沸いた。
楯無もイヴの事をチラッと見る。
『おい、聞いたか?コイツお前と同じ愛人の子だとさ』
(う、うん)
『愛人の子って言う共通点があるんだから、コイツの面倒を見てもいいんじゃねぇか?』
(お前やたらと私とデュノア君を絡めようとするな‥何が目的だ?)
『えっ?だってよぉ、両性具有なんて珍しいじゃねぇか』
(そんな理由で!?)
獣がシャルルに興味が抱いた理由があまりにも下らない事にむしろそっちに驚くイヴ。
その間にもシャルルは自らの身の上を楯無に語る。
「それでどういった理由でIS学園に?厄介払い?」
「多分それも含まれていると思うけど、実家からの命令なんです」
「実家?実家って言うと確か‥‥」
「フランスのデュノア社です」
「デュノア社‥確かフランスでは大手のIS企業‥‥」
「はい‥そこの社長‥父からの命令で僕はこの学園に送り込まれました‥‥二年前父の愛人‥つまり僕の母が亡くなった時に父の部下の人が突然訪ねてきました‥そこでIS適性を調べられて、半分は男の体にも関わらず、IS適性が高い事が分かり、デュノア社のテストパイロットをする事になりました」
ISを動かせるのは確かに女性のみだが、その女性でも全員が動かせる訳では無い。
女性の中でもIS適性が低い場合はISを動かす事ができない。
それでも世の中の大半の女性達はISと言う尻馬に乗り、好き勝手なこと行っている女性が多い。
そんな中、半分は男の体であるシャルルに高いIS適性があると言う事はまだまだISは未知なる機械なのかもしれない。
「父に会ったのは二回くらいで会話は数回‥時間は一時間もなかった‥普段は別邸に居たんだけど、一度本邸に呼ばれた事があるだけど、あの時は酷くて‥本妻の人に『泥棒猫』って言われて殴られて‥‥お母さんも死ぬ前に一言ぐらい言ってほしかったな‥‥」
シャルルは自嘲めいた笑みを浮かべる。
『同じ愛人の子でもお前とは180度違うな』
(う、うん)
イヴ自身も愛人の子であり、千冬や百秋には煙たがられたが父である織斑四季は自分の事を溺愛してくれた。
だが、シャルルの場合は死んだ母親以外味方は居なかった様だ。
「それからしばらくしてデュノア社は経営危機に陥りました」
「えっ?でもデュノア社は世界シェア第三位のIS企業じゃないの?」
世界情勢に関して獣は詳しくはないがそれでも有名企業の名前ぐらいは表のイヴの視界を通して知っていた。
だからこそ、世界第三位のIS企業が経営危機とは信じがたかった。
「デュノア社の目玉商品のリヴァイブは確かに名機かもしれないけど、第二世代型なんだよ。それでフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されたの。だからデュノア社にとって第三世代の開発は急務になったんだよ」
欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』において現在は第三世代ISの開発において一番最初に成功したイギリスが一歩リードしている状態で次いで最近になって第三世代の試作品の開発に成功したドイツが二位となっている。
セシリア、ラウラがIS学園に来たのもこの第三世代機の稼働データの収集でより完璧に近い第三世代機の開発の為だった。
しかし、フランスは未だに第三世代の試作品さえ完成していない状況でデュノア社としては焦っていた。
世界シェア第三位のIS企業にも関わらず第三世代機を作れない無能企業と言うレッテルを張られるどころかフランス政府からの支援金とIS開発許可の剥奪もあり、そうなれば会社は倒産するしかない。
シャルルの父であるデュノア社の社長はそれを恐れ、シャルルの厄介払いも兼ねてIS学園へと送り込み、世界初の男性操縦者の愛機、白式を始めとする各国の第三世代機のデータを盗んで来るように言われたのだ。
半分は男の体なので世界二番目の男性操縦者と言うのは嘘ではないが、百秋程に大々的に宣伝されると両性具有と言う事がバレる可能性もあり、彼の様に大規模かつ大々的に宣伝はしなかったのだと言う。
「「なるほど」」
シャルルの事情を聴き楯無とイヴは納得する。
「一ついいか?」
イヴ(獣)がシャルルに質問する。
「なに?」
「これは会社とかフランス政府とか関係なく個人的な質問なんだが、タッグトーナメントで百秋と一緒に居る時、随分と親しそうだったが、お前‥その体の通り両方いけるクチなのか?」
「「えっ?」」
イヴ(獣)の質問に唖然とするシャルルと楯無。
「つまり半分は男の体ってことは、半分は女の体なんだろう?まさかアイツと‥‥」
「ち、違うよ!!そんなんじゃないから!!」
シャルルは百秋との関係を否定した。
「その‥‥彼にも僕の正体がバレて、その‥‥事情を話した時、彼は励ましてくれたんだ‥それが嬉しくて‥‥」
(へぇ~アイツがね‥‥一体どういった思惑があるのやら?)
『大方、デュノア社の弱みを握ったって事で金でも脅し取る算段を考えたか世間体を考えたんじゃねぇの?アイツそう言うのは敏感だから』
確かにシャルルもこの学園ではかなりの人気者であり、そのシャルルを虐めたとなってはいくら百秋と言えど多勢に無勢、あっという間にトップカーストから底辺に転落する。
それを防ぐためにシャルルに優しい言葉をかけたのだろう。
「あっ、そう‥だが、あまり奴の言葉を鵜呑みにするのは危険だぞ」
「えっ?」
「大方、奴は学園の特記事項をお前に伝えて『三年あるから大丈夫』とか言って具体的な解決案は出していない筈だ」
「う、うん」
シャルルは思い当たる節があるようだ。
「モノは考えようだ。『まだ三年ある』『あと三年しかない』の二つだが、三年‥いや、正確にはあと二年と九ヶ月程か?その間に解決案がでなければどうする?まさか、ずっと留年し続けて学園に引きこもるつもりか?それにアイツの性格から考えたら、何もしないだろうし学園を卒業した後、お前がどうなろうと知った事ではないだろうさ」
「‥‥」
「デュノア君、残念だけど私もそう思うわ」
織斑姉弟の言動からイヴ(獣)の言っている事は事実になるだろうと予測する楯無。
「それでお前はこれからどうする?」
「えっ?」
「いくら特記事項があるとはいえ、スパイを堂々と学園に在籍させておくと思うか?理事長が知れば即退学になってフランスへ強制送還‥その後にお前を待っているのはムショ暮らしだ。その時親父は絶対に助けてはくれないぞ」
「そうね‥生徒の安全を守るのが生徒会長の役目なのよ」
「‥‥」
「コイツの実家は暗部に精通している家系‥つまり暗殺者と同じ様な家系だ。突然の病死、何らかの理由での自殺‥‥近々学園で生徒が一人亡くなるかもしれないな」
イヴ(獣)がニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
シャルルはイヴ(獣)の笑みと言葉を理解して震える。
「シャルル・デュノア」
「は、はい」
イヴ(獣)に呼ばれビクッと体を震わせるシャルル。
「お前は生きたいか?それとも死にたいか?」
「えっ?」
「死ねば全てが終わるぞ。お前のその半端な体ともおさらばであり、親父や政府からのしがらみからも解放され、もしかしたらあの世で母親と会えるかもしれないよ」
「‥‥」
「生きるとしてこの場をどうやってくぐり抜ける?例えこの場をくぐり抜けたとして解決案はあるのか?」
「‥‥」
イヴ(獣)の言葉にシャルルは黙って頷くだけしかできない。
「まぁ、生きたいと言うのであれば、幾つか提案だけはしてやる」
「えっ?」
落して上げるイヴ(獣)の言葉にシャルルが顔を上げる。
「ただし、その場合、お前は家族と故郷‥親父の会社で働く大勢の人々とその家族を捨てる事になるがその覚悟はあるか?お前一人の我儘で大勢の人々が不幸になるかもしれないが、それでもお前は自分の自由を勝ち取る覚悟と勇気はあるか?」
イヴ(獣)がジッとシャルルの目を見る。
「ぼ、僕は‥‥」
シャルルは葛藤する。
家族と故郷については正直どうでもいい‥‥
義母は自分の事を泥棒猫呼ばわりしているし、父親も自分の事を都合のいい道具としか見ていない。
それにイヴが言った通り父は自分が投獄されても絶対に助けはしないし、トカゲのしっぽ切りにするつもりなのは父の言動をみれば一目瞭然だ。
でも、会社で働く大勢の人々‥その人々の家族は?
自分一人だけ助かって社員とその家族を犠牲にしてもいいのだろうか?
「‥‥」
シャルルは頭を抱える。
「‥‥優れた技師・研究者なら再雇用できるだろうさ‥それに私の伝手で出来る事はしてやるよ‥‥アンタが生きたいと思うならな」
「えっ?」
イヴ(獣)の言葉を聞いて再びイヴの事をジッと見るシャルル。
(ちょっと!!伝手ってまさか、たばちゃんをこの件に巻き込むつもり!?)
『仕方ねぇだろう?それにこういう時に使わないでいつ使うんだよ?今でしょ!?』
(そのネタ古いよ!!)
『それよりもお前は不憫に思わないのか!?同じ愛人の子供としてコイツを助けてやろうとは思わないのか?お前は一体いつからそんなに冷たい人間になったんだ!?』
(そ、それは‥‥って言うよりも随分とデュノア君を擁護するね‥‥もしかしてお前‥デュノア君に惚れたの?)
『ばっ、お前何言ってんだよ!?わ、私が‥この殺戮の銀翼がだ、たかが人間如きに惚れる訳‥‥』
(あぁ~はい、はい‥分かった、分かった)
『なんかお前の言い方ムカつくんだけど‥‥』
イヴとしては意外に感じつつも獣が血と殺し以外の感情を持ってくれたことに関して少し嬉しかった。