タッグトーナメント後に意識不明だったイヴは数日後に無事意識を取り戻した。
ただその原因が、ラウラがイヴにキスをした事から彼女のキスでイヴが目覚めたのか?
それとも奇跡の様な偶然だったのだろうか?
それはどちらなのか分からない。
ただ事実なのはイヴが無事に意識を取り戻したと言う事だ。
楯無はイヴが意識を取り戻した事とその経緯を本音から聞くと、
「よろしい‥ラウラちゃん‥‥戦争よ!!」
そう言い残して生徒会室からイヴの居る医務室へと向かった。
「えっ?ちょっと!!たっちゃん!!生徒会の仕事は!?またお姉ちゃんに怒られるよ!!」
本音が後ろから叫んでいたが楯無の足は止まる事は無かった。
そしてイヴの居る医務室へと到着した楯無は‥‥
「はぁ~い、イヴちゃん」
「あっ、たっちゃん」
「心配したのよ、タッグトーナメントから数日の間も意識が戻らなかったんだから」
「医務の先生から聞きました‥その‥‥ご心配をかけてすみません」
「ううん、いいのよ。こうしてイヴちゃんが戻って来てくれたんだから‥‥でも‥‥」
「でも?」
「でも、イヴちゃんが私に心配をかけたと言う罪悪感があるなら、一つ私のお願い聞いてくれるかしら?」
「う、うん‥‥いいけど‥‥」
「ホント!?それなら、イヴちゃん。ちょっとの間、目を閉じていてくれる?」
「えっ?う、うん‥‥」
イヴは楯無のお願いを聞くことにして目を閉じる。
「‥‥」
楯無はイヴが目を閉じたのを確認するとそっとイヴの顔に自らの顔を近づける。
そして、イヴの唇を射程内にとらえると自らも目を閉じて‥‥
「「んぅ」」
イヴの唇に自らの唇を重ねた。
「んっ?」
イヴが唇に違和感を覚えて目を開けると眼前には顔を赤く染めながら唇を重ねる楯無の姿があった。
突然の楯無からのキスに驚いたイヴは咄嗟に楯無から離れようとするが、楯無は両手でイヴの体をガッチリとホールドしてイヴを逃がさないようにする。
「んっ!?」
イヴの体を固定した楯無はそのまま自らの舌をイヴの口の中に侵入させて彼女の口の中を蹂躙する。
「んっ!!んんっ‥‥」
突然楯無からのディープキスを受けたイヴはまさに混乱の最中に居る。
それから一体どれぐらいの時間が過ぎただろうか?
「ぷはっ」
楯無がゆっくりと唇を離す。
二人の唇と唇の間には唾液によってできた銀色の橋が出来た。
「い、いきなりどうしたの?」
イヴは何故楯無が自分にディープキスをしたのかを尋ねる。
「あら?医務の先生から聞いていないの?」
「えっ?なにを?」
楯無はイヴに彼女が目覚める直前にラウラがイヴにディープキスをしてその直後に意識を取り戻したことを伝える。
「えっ‥‥えええええぇぇぇ!!」
楯無の言葉を聞いて医務室にイヴの絶叫が響く。
「ラウラちゃんだけにイヴちゃんの唇は独占させる訳にはいかないもの」
楯無は普段のおちゃらけた表情ではなく、頬を赤くそめた顔でイヴに言う。
それはまさに恋する乙女の様な表情である。
「たっちゃん?」
「ねぇ‥もう一度‥‥いい?」
楯無がイヴにもう一度キスを強請ったその時‥‥
「何がもう一度なの?姉さん」
「っ!?」
其処にイヴではない別の人物の声がした。
しかも「姉さん」と言っている事から医務の先生ではない。
「‥‥」
楯無が油の切れかけたロボットのように恐る恐る背後を振り向くと其処には単色の目をした簪が立っていた。
「か、簪ちゃん‥‥」
「ねぇ、お姉ちゃん‥今、イヴに何をしていたのかな?かな?」
「あわわわわ‥‥」
「ねぇ、お姉ちゃん‥ちょっと向こうで一緒にO・HA・NA・SHI‥‥しようか?」
「か、簪ちゃん‥その台詞は貴女には似合わないわ‥その台詞は篠ノ之博士の方が似合うわよ」
「何を言っているのかな?‥かな?さぁ、一緒にO・HA・NA・SHIしようよ‥‥」
簪は楯無の後ろ襟を掴んで彼女をズルズルと引きずって行く。
真面目モードの楯無ならば簪を簡単に退けるぐらいは出来た筈だが、今はポンコツモードが発動中でしかもイヴとのキスをしたばかりだったので思うように力出ず、また簪の方も普段とは違う嫉妬モードで力が普段の嫉妬モードよりも威力が倍化されていたので、形勢は楯無不利の簪優勢となっていた。
そしてしばらくして‥‥
「アッ―――――――!!」
楯無の絶叫が木霊した。
彼女の絶叫を聞きイヴはビクッと体を震わせる。
「い、一体何が‥‥」
イヴが絞り出すように声を出すと、医務室に現れたのは楯無ではなく簪だった。
「か、かんちゃん?」
「‥‥」
医務室に現れた簪にイヴは声をかけるが簪は何も答えずに顔を少し俯かせてイヴの居るベッドに近づいてくる。
そして、イヴのすぐ傍に近づくと、
ガシッ
両手でイヴの顔をガッチリと固定する。
「か、かんちゃん?な、なにを?」
「‥‥」
戸惑うイヴに簪はやはりないも答えない。
そして、簪は顔をイヴに近づけていく。
「か、かんちゃ‥‥んぅ‥‥」
簪はそのまま自分の唇をイヴの唇に重ねた。
「んっ‥ちゅぅぅぅぅぅぅ~」
簪の場合キスの経験がない為、やや乱暴なキスとなったがそれでも簪は満足そうに唇を離した。
「きゅぅぅ~」
簪からの強引なキスでイヴはそのまま伸びてしまった。
「ウフフフ‥‥」
簪は舌なめずりをして伸びたイヴを見下ろしていた。
イヴが目を覚ますと簪の姿は消えていた。
「あ、あれ?‥‥今、ここにかんちゃんが居たような気がしたんだけどな‥‥」
辺りを見回しても簪の姿はなかったので夢かと思った。
「うぅ~酷い目に遭ったわ‥‥簪ちゃんがまさかあそこまでやるなんて‥‥」
ボロボロになった楯無が医務室に帰って来た。
「あっ、たっちゃん」
「うぅ~イヴちゃぁ~ん~傷ついた私を癒してぇ~」
楯無は甘えるようにイヴにすり寄って来る。
「あら?」
すると、楯無は何かを見つける。
「ん?どうしたの?」
「イヴちゃん‥その首‥‥」
「首?」
「え、ええ‥‥虫に刺されたように赤くなっているわよ」
「虫?」
医務室に虫なんている筈がないのにイヴの首すじは少し赤くなっていた。
楯無に言われて鏡で確認してみると、
「あっ、ホントだ‥なんだろう?コレ?」
楯無がよく見てみると、
(こ、これは!?キスの痕!?まさかっ、簪ちゃん!?‥‥そう、そういう事ね‥‥良いわよ簪ちゃんその勝負受けてあげるわ!!)
イヴの首筋に残った赤い痕を見て楯無は悟った。
これは妹からの宣戦布告なのだと。
楯無が簪に対して対抗心を燃やしていると、そこへ
「あっ、アインスさん、更識さん、ちょうどよかった」
山田先生が医務室に訪れた。
「山田先生」
「アインスさん、意識が戻った様ですね」
「はい。ご心配をおかけしました」
「いえいえ、無事に戻って来てくれただけでよかったです」
「それで山田先生、何かご用ですか?」
「あっ、そうでした。実は‥‥」
山田先生曰く寮の部屋を整理するのでイヴと楯無に話があったのだと言う。
「うぅ~また仕事が一つ増えました~」
今回山田先生が尋ねてきた聞いた後、山田先生は何やらぼやいている。
「あれ?でも、部屋割りとかの仕事って普通は寮長の仕事じゃないんですか?」
「そうね、確か一年の寮長は‥‥」
「織斑先生です」
「なんで、山田先生が部屋割りの仕事を?」
「織斑先生‥実は結構ずぼらでIS関係の授業以外の仕事はあまり効率が良くないんです」
「あ~確かに言われてみれば、ISの授業以外はほとんど山田先生が講義をしていますもんね」
これまでの授業風景を思い出してみてIS以外の普通の授業で千冬は教鞭をとっているのを見た事がない。
(でも、あの人が普通に学問を教えられるのかと問われると何だか無理っぽいな‥‥)
(半ば給料泥棒みたいな感じね‥‥)
「ですから結構、副担任の私に仕事の皺寄せが‥‥」
意気消沈して山田先生はそう言う。
確かに少しゲッソリしている。
ここ最近は無人機の乱入やVTシステムの騒動やらで書類仕事が結構多いのだろう。
だが、脳筋の千冬は書類仕事をこなせるとは思えない。
まさかと思うが自分の仕事を部下(山田先生)に押し付けているのではないだろうか?
山田先生の言動を見てそう考えてしまうイヴと楯無であった。
そして、肝心の寮の部屋割りの話なのだが、今度シャルルの部屋を変えると言うのだ。
そして現在一人部屋なのがラウラと簪なのでイヴと楯無のどちらかを簪かラウラの部屋にするかラウラと簪を相部屋にすると言うのだ。
此処で楯無は究極とも言える選択を突きつけられた。
簪をラウラへ部屋にブチ込むか?
それとも自分がラウラか簪の部屋に移るか?
だが、自分が部屋を移ればイヴはラウラか簪と同じ部屋になる。
簪の部屋となればイヴが簪とにとられてしまう。
ラウラだって今回、集中治療室での話を聞く限りイヴへの関心がない訳では無い。
だが、イヴがラウラと同じ部屋になれば自分は簪と一緒の部屋となり、これまでの溝を埋めるチャンスでもある。
それに集中治療室への百秋の侵入を考えると防犯上では自分かラウラの方がイヴを守りやすいと言うメリットも存在する。
楯無が悩んでいると、
「それじゃあ、私がボーデヴィッヒさんと一緒の部屋になります」
イヴがラウラと同時室になると言う。
「いいんですか?アインスさん」
「はい。楯無さんも妹さんの方が過ごしやすいでしょうから」
「‥‥」
楯無が悩んでいる間にイヴがラウラと一緒になる事を決めてしまい、山田先生もそれを了承したので、楯無は簪とイヴはラウラと同室となった。
引っ越しの際、楯無はイヴと別れる時まるで今生の別れをするかのようなオーバーリアクションをとりイヴはちょっと引いた。
「ボーデヴィッヒさん、今日からボーデヴィッヒさんと同室になるアインスさんです」
「よ、よろしく‥ボーデヴィッヒさん」
「あ、ああ‥‥よろしく」
イヴが同室と言う事で何だが緊張している様子のラウラ。
「それじゃあ、私はこれで失礼しますね」
山田先生はラウラにイヴを紹介した後、帰って行った。
少々気まずい空気の中、
「えっと‥‥そ、それじゃあ‥‥引っ越しと親睦を兼ねてお茶で飲みません?」
「あ、ああ」
「ボーデヴィッヒさん、紅茶でいい?」
「ああ、いいぞ」
イヴは寮の部屋に備え付けのキッチンで紅茶を淹れる。
「どうぞ」
「あ、ありがとう」
イヴからカップを受け取り口をつける。
「‥‥美味しい」
紅茶を一口飲み感想を述べるラウラ。
「ありがとう」
ラウラからの感想を聞きイヴも紅茶の入ったカップに口をつけた。
多少の気まずさはあったがこの先時間を重ねればこの気まずさもなくなるだろうとイヴはそう思った。
夜の茶会は進んで行く中、
「そう言えば、一つ聞きたい事があるのだが‥‥」
「ん?なに?」
「イヴはシャルル・デュノアと親しい間柄なのか?」
「えっ?どうして?」
(いつの間にか名前呼び‥まぁ、いいけど‥‥)
ラウラは自分とシャルルが親しい間柄なのかと問うが、イヴ自身シャルルとの接点は精々同じクラスメイトと言う事だけでそんなに親しい間柄ではない。
ついでに言うとラウラがさりげなく自分の事を名前呼びしているけど、気にしないイヴ。
「うーん‥同じクラスメイト‥ぐらいの間柄しか思い浮かばないな‥でも、どうして?」
「イヴが集中治療室に入院中、シャルルはよく見舞いに来ていたからてっきり親しい間柄なのかと思っていたのだが‥‥」
ラウラは何故シャルルがイヴの見舞いに来たのかを疑問に思った。
確かにクラスメイトだからと言う理由で見舞いに来るのは不思議ではないかもしれないが、あの時ベッドで眠るシャルルの視線はクラスメイトの見舞いに来た者の視線には思えなかった。
その頃、生徒会では‥‥
「どういう事なの?」
楯無は更識家の情報網を駆使して二人目の男性操縦者、シャルル・デュノアについての調査報告を見ていたのだが、その報告を見て思わず声を出した。
報告書には、
『デュノア夫人に出産記録は存在せず』
『デュノア氏には離婚事実もなし』
と書かれていた。
「デュノア氏に離婚記録もないから、結婚後はずっとこの夫人と連れ添って居る筈‥‥それなのに夫人には出産記録はない‥‥デュノア君は養子なのかしら?」
シャルルの出生に疑問を感じた楯無は引き続きシャルルとデュノア家の調査を命じた。
翌朝
「ん?」
朝イヴが目覚めると彼女は違和感を覚えた。
掛け布団を捲ると其処には裸姿のラウラがイヴの体にしがみついていた。
「えっ?えっ?なんで?ボーデヴィッヒさんが!?」
寝る前には確かに互いのベッドに寝ていた筈なのにラウラはこうしてイヴと同じベッドに‥しかも裸姿で一緒に寝ている。
同じ部屋の住人と言う事でイヴ自身も警戒心が緩んでいた様だ。
「ぼ、ボーデヴィッヒさん、ボーデヴィッヒさん、起きて‥朝だよ」
「うっ?うーん‥‥」
イヴに体を揺すられてラウラが目を覚ます。
「おはよう。ボーデヴィッヒさん」
「う、うん‥‥」
目を擦りながら起き上がるラウラ。
「ねぇ、ボーデヴィッヒさん」
「ん?なんだ?」
「どうして?私のベッドで寝ているの?しかも裸で‥‥」
起きたラウラにイヴは何故自分のベッドで‥しかも裸で寝ていたのかを尋ねる。
「親しいモノ同士は一緒に寝るのは当然のことなのではないのか?」
「‥‥それはちょっと違う気がする」
イヴはラウラの間違った知識にツッコんだ。
「あとなんで裸なの?」
「この方が相手を喜ばせると聞いたのだが‥‥」
「それを教えたのは誰なの?」
「ドイツに居る副官だ」
(その人、絶対にオタクだ‥‥)
ラウラの会話からドイツに居る副官はきっとオタクなのだろうと予測したイヴだった。
そこへ‥‥
「おはよう、イヴちゃん」
「イヴ、おはよう」
更識姉妹がイヴとラウラの部屋を訪れた。
そして更識姉妹が見たのは裸姿でイヴと同じベッドにいるラウラの姿‥‥。
「ラウラちゃん‥朝っぱらか一体何をしているのかな?」
楯無が青筋を立てて引き攣った笑みを浮かべてラウラに問う。
「ん?何って?互いに親睦を深めていたのだが?」
そんな楯無に恐れる事無く平然と答えるラウラ。
「いいわ‥集中治療室の件を含めて貴女とはちょっとお話しないといけないと思っていたのよ‥私のイヴちゃんに手をかける様なイタズラ兎は一羽で十分ですもの」
「お姉ちゃん、今の台詞は聞き捨てならない」
「ん?」
「『私のイヴちゃん』ってどういう事?イヴは私のモノよ」
「簪ちゃん、いくら簪ちゃんでもこればかりは譲れないって昨日の夜、話したわよね?」
「私もこればかりはお姉ちゃんには負けられない」
「おい、待て!!『私のイヴちゃん』とはどういうことだ?」
いがみ合う更識姉妹の口論にラウラも参戦し、部屋はまさにカオスとなった。
この事態を収拾するためにイヴは最終兵器、虚を召喚して事態を収拾した。
朝食を終えて教室へと登校したイヴはクラスメイトから声をかけられた。
また、休んでいる間のノートとかも貸してくれた。
皆、自分のことを心配してくれていたが、千冬と箒は、
((あのまま廃人になればよかったものを‥‥))
とイヴの復活を忌々しく思い、
百秋は、
(ちっ、アイツを抱く絶好の機会を失ったぜ‥‥)
とイヴを抱けなかった事を悔しんだ。
昼食の時、イヴは鈴と簪と本音、そして新たにラウラが加わったメンバーで食事を摂った。
夕食後、ラウラは部屋に戻った時イヴの姿は見えなかった。
「あれ?イヴ?」
そのイヴは寮の屋上に居た。
「‥‥」
イヴは目を閉じて意識を集中させる。
すると、背中から天使の様な白い翼が生える。
そして、イヴはその翼をはためかせて満月の夜空へと飛び上がる。
「たまには自分の翼(?)で飛ばないと勘が鈍るからね‥‥」
リンドヴルムではなく自身の翼で悠々と夜空を飛ぶイヴ。
ISではないので一々許可を取らなくても問題はない。
「~♪~♪」
夜空を飛んでいる中、イヴは思わず『星めぐりの歌』を口ずさむ。
夜間飛行を堪能したイヴは再びIS学園の寮の屋上へと着地すると翼を消す。
すると、
「アインスさん?」
「えっ!?」
誰もいないと思っていた屋上に自分の名を呼ぶ声がしたのでそちらへと視線を移すと其処には屋上に降り立った自分の姿を見て唖然とするシャルルの姿がそこにあった。