シルバーウィング   作:破壊神クルル

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4話

ロシアのある女性官僚の下に殺戮の銀翼から暗殺予告が送られてきた為、女性官僚の護衛をする事になった楯無。

次々と暗殺者の手によって斃されて行く警備兵達‥‥。

そして、屋敷で生き残っているのは自分と護衛対象である女性官僚だけとなり、その暗殺者が今、楯無の目の前に現れた。

 

「そ、そんな‥‥嘘‥でしょう‥?‥あ、貴女が‥‥殺戮の銀翼‥‥なの‥‥?」

 

楯無は震える声で目の前の暗殺者、殺戮の銀翼に尋ねる。

 

「‥‥」

 

暗殺者、殺戮の銀翼は以前、父に連れて行ってもらった香港のクルージングパーティーで出会ったあのイヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスだった‥‥。

 

「‥‥」

 

「‥‥答えて‥ホントに貴女が殺戮の銀翼なの‥‥?イヴちゃん?」

 

楯無がイヴに彼女は世間を騒がせている殺戮の銀翼なのかと問う。

もっとも、今彼女は此処に居る時点で十中八九、イヴが殺戮の銀翼であることは間違いないだろう。

ただ、妙な事に彼女は暗殺者と言うのに手には何の武器も持たず、ISも装備していない。

此処まで来るのに警備兵達を斃して来たと言うのであれば、武器を所持している筈。

暗殺者なのだから暗器なのかと思うが、いくらなんでも軽装すぎる。

楯無が困惑していると、イヴは一気に楯無と距離を詰めてきた。

 

「っ!?」

 

本能的に楯無はランスで自分の身を護る。

すると、ガキーンと金属質な音が鳴り響く。

自らのランスに何か金属質の様なモノが勢いよくぶつかったのだ。

楯無がランスを見ると、そこには信じられないモノが彼女の目に映った。

ランスにぶつかった金属質のモノの正体はイヴの腕であった。

イヴの腕は人の形の腕ではなく、大きな包丁の様な刃物に変形していたのだ。

 

「くっ!!」

 

楯無はランスを振り、イヴを振り払う。

 

「‥‥イヴちゃん‥貴女、ターミ○ーターT1000なの?」

 

楯無がそう思うのも無理は無く、刃物の腕をしたイヴは楯無に振り払われると、元の人の形の腕に直った。

当然、イヴからの返答はない。

楯無はすぐに体勢を立て直し、ナノマシンの水を螺旋状に纏ったランス、蒼流旋(そうりゅうせん)を装備する。

そして、瞬時加速を使いイヴに接近し蒼流旋(そうりゅうせん)を突出し突貫する。

それをイヴは悠々と回避すると、カウンターで裏拳にて楯無の腹に当てる。

その時、イヴの腕は金属グローブをはめた状態となっていた。

吹き飛ばされた楯無は、一時、上に避難する。

楯無が配置されたこのダンスホールはある程度天井の高さがあり、飛行することが出来た。

反対にイヴはISを装備していない。

故にイヴは自分の所までたどり着くのは不可能だと思っていた。

だが、楯無の予測はすぐに覆った。

バサッと言う音と共にイヴの背中には天使を思わせる白い大きな翼が生え、自分の下へと飛んできた。

 

「くっ、この化け物め‥‥」

 

思わず楯無はイヴを見てそう呟くと、蒼流旋(そうりゅうせん)に装備されているガトリングガンをぶっ放した。

イヴのこれまでの戦闘スタイルから彼女は、飛び道具は使えず、腕を刃物などに変えての接近戦専門だと予測した楯無は距離を取っていれば対処のしようはあると判断したのだ。

ISと言う枷がなく、身軽なイヴは楯無の放つ弾丸をもなげに避け、楯無に近付こうとタイミングを計っている。

だが、あくまでも銃撃は楯無の布石の一つでしかない。

銃撃で仕留められれば儲けもの。

楯無の本命はナノマシンを散布させた水蒸気爆発、清き激情(クリア・パッション)でイヴを仕留める事だった。

そして、ホールに清き激情(クリア・パッション)が発動可能なナノマシン散布を完了させ、楯無は、

 

「そういえば、なんだか少し暑くないかしら?」

 

とイヴに問いかける。

 

「‥‥」

 

しかし、イヴは無言のまま‥‥

やがて、楯無が指をパチンと鳴らすとホールにて水蒸気爆発、清き激情(クリア・パッション)が発動し、大爆発が起きる。

ホールを爆破した事で護衛対象の女性官僚から後で文句が飛んできそうだが、今は形振りなんて構っていられない。

あの化け物を仕留めるには手段を選んでいる余裕など楯無にはないのだ。

やがて、爆煙がおさまると、イヴが居た所には白い繭の様なモノが浮かんでいた。

 

「ま、まさか‥‥」

 

楯無の脳裏に嫌な予感が過ぎる。

そしてその予感はあたり、繭が開くと其処には無傷のイヴの姿があった。

イヴが爆発の前、咄嗟に背中の翼を大きくし、自らの体を包み込んで爆発から身を守ったのだ。

イヴの予想外の行動で予定が狂わされ、次の行動が遅くなる。

そして、その隙をイヴは見逃す事無く、楯無に迫って来る。

しかも手には何時の間にか薙刀が握られており、イヴはその薙刀で楯無に斬りかかって来る。

 

「くっ」

 

楯無はその薙刀の斬撃をなんとか躱し、イヴの背後をとる。

絶好の攻撃ポジションをとったと思った楯無であったが、次の瞬間、

 

ドンッ!!

 

楯無は突然腹部に衝撃を受けホールの壁に打ち付けられた。

 

「グハッ‥‥ぐっ‥‥一体何が!?‥‥っ!?」

 

混乱している楯無がイヴを見ると、自分の腹部を殴ったモノ正体が分かった。

自分の腹部を殴ったモノ、それはイヴの髪の毛であった。

イヴの長い髪の毛が束となり、その束は拳を形成し、楯無の腹部を殴りつけたのだ。

しかもその威力はかなりのモノで、自身を守っているナノマシンで形成された水のヴェールが所々削られているのが見えた。

そして、さらに驚愕させられたのが、自分のISが表示するシールドエネルギー残量である。

攻撃を食らったのはイヴの裏拳一発と先程の髪の毛パンチの一発の合計二発のみ‥‥

それにもかかわらず、シールドエネルギーの残量が半分を切っていた。

飛行と能力使用を考えても明らかにエネルギーの消費が異常である。

これ以上イヴの攻撃を食らってはあっという間にエネルギー切れを起こす。

楯無は高速で旋回し照準を取りにくくしようという戦法に切り替える。

最悪、自身のワンオフ・アビリティーを発動させなければならない。

そう考えなんとか時間を作り作戦を練ろうとしたが、またしてもイヴが予想外の攻撃を繰り出す。

手に持っていた筈の薙刀はいつの間にか消え、楯無に腕を向けると、イヴの腕からは小さな二対の天使の翼が生えると、羽根が物凄い速さで楯無に向かってきた。

 

「ちっ」

 

楯無は舌打ちした後、その羽根を回避するが、イヴはまるで銃を撃つように羽根を撃ってくる。

刃物などの接近戦用の武器しかないと思っていたが、まさかこんな予想外な飛び道具をもっていたなんて楯無のアテは大きく外れた。

幸い羽根にはホーミング機能がついていない様子だったが、弾切れ‥もとい羽根切れがない様子だったので、もう悠長に考えている時間はないと、楯無は意識を集中しワンオフ・アビリティーを発動する事にした。

ミステリアス・レイディのワンオフ・アビリティー、沈む床(セックヴァベック)‥‥高出力のエネルギーが必要なので、ミステリアス・レイディの専用パッケージの麗しきクリースナヤを必要とする。

専用パッケージ、麗しきクリースナヤと接続する事でアクア・ナノマシンが高出力状態に移行する事が出来、沈む床(セックヴァベック)が発動する事が出来る。

ただし、外せば、エネルギーを充填しなければ使えないまさに一度っきりの能力であるが、沈む床(セックヴァベック)は超広範囲指定型空間拘束結界。

対象を周りの空間に沈め、拘束する強力な結界で、その拘束力はドイツで研究・開発をしているAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)システムを遥かに凌ぐ力がある。

しかも広範囲の為、失敗など考えられない必中のワンオフ・アビリティーでもあった。

そして、このホールと言う限られたスペースならば、目を閉じていてもイヴは沈む床(セックヴァベック)に引っかかる。

楯無は今度こそ、自分の勝利を確信した。

 

「っ!?」

 

突如、イヴの動きが鈍くなり始めた。

ミステリアス・レイディのワンオフ・アビリティー、沈む床(セックヴァベック)が発動し、その能力が効いてきたのだ。

相手がISでないので、この能力が効くのか心配であったが、どうやらそれは杞憂だった様だ。

何しろ楯無自身、IS相手にワンオフ・アビリティーを使用した事があるが、ISを装備していない相手にワンオフ・アビリティーを使用するのはこれが初めてであった。

だが目の前の動きが鈍くなったイヴを見て、ワンオフ・アビリティーが効いたのだと確信した。

楯無はワンオフ・アビリティーが効いた事に安堵しつつ、イニシアチブを握ったことで余裕が出来たのか、イヴを見てニコリと微笑んだ。

こうなれば、もうイヴは沈む床(セックヴァベック)から逃れる術はない。

後は体力が落ちてヘロヘロになった所を捕まえれば良い。

だからこそ、余裕の笑みを浮かべてあの無表情のイヴが悔しそうな表情を浮かべるのを見ようとしたのだが、

 

「‥‥」

 

イヴは焦る様子もなく、相変わらず無表情のままだった。

 

「随分と余裕(?)なのね、もう身動きが取れないのに‥‥」

 

イヴの態度が気に入らない楯無は眉根を顰める。

もう動くことのできないイヴに勝機も逆転のチャンスもない。

にもかかわらず、イヴは焦る様子もなく、無表情のままでジッと自分を見ている。

 

(なのにこの余裕な態度?)

 

イヴの態度に今まで余裕の笑みを浮かべていた楯無は一転して焦りを感じる。

そして、それは現実のものとなった。

先程まで動けなかったイヴが右腕を水平に持ち上げると、彼女の右手にサイズと呼ばれる死神がよく使用する大鎌が出現した。

 

「っ!?何もない所から鎌を!?どうやって!!」

 

楯無の疑問に答えることなく、イヴは大鎌を振りかざし、楯無に接近して来る。

 

「なんで!?どうして!?さっきまで、沈む床(セックヴァベック)の効果で動けなかったのに‥‥どうして動けるの!?」

 

楯無が理解できないのも無理は無かった。

だが、沈む床(セックヴァベック)はそもそも広範囲指定型空間拘束結界と言う能力であるが、その種は清き激情(クリア・パッション)同様、ナノマシン操作によるものだった。

麗しきクリースナヤによって高出力状態のナノマシンが広範囲に散布され、時期を見てそのナノマシンが相手のISの可動部分に侵入させ、可動部分をマヒさせて動きを拘束する。

ただその前準備に発動までの時間がかかるうえに、集中力と拘束するためのナノマシン強化による高出力エネルギーが必要となる。

それ故に沈む床(セックヴァベック)を発動するには麗しきクリースナヤの補助が必要なのだ。

これが沈む床(セックヴァベック)の正体であり、今回イヴの場合は彼女が呼吸した事により、ナノマシンがイヴの体内に侵入し脳から送られるニューロンの動きに影響が及び、動きが鈍くなったのだ。

だが、楯無の誤算は、イヴに投与された戦闘用ナノマシン『バハムート』の力を知らなかった事である。

白血球が体内に侵入したウィルスを駆逐するのと同じようにイヴの体内のバハムートがイヴの体内に入って来たミステリアス・レイディのナノマシンを駆逐した事により、イヴは再び動けるようになったのだ。

形勢はこれで完全に逆転した。

ワンオフ・アビリティーが効かず、しかもそれを発動させるのにかなりのエネルギーを消費してしまった。

今の楯無はイヴの攻撃を躱し、これ以上のエネルギー消費を抑える事しか出来なかった。

その時、

ミステリアス・レイディが警告音を鳴らす。

楯無が確認すると、それはエネルギーの残量が少ない事を示す警告音だった。

 

(ど、どうして!?まだ警告音がなるほどのエネルギー消費じゃない筈!!)

 

楯無の計算では警告音がなる程のエネルギー消費はもう少し先の筈でまだ警告音が鳴るには早かった。

だが、エネルギー残量を示す表示計では、確かに警告音が鳴るレベルの残量となっている。

 

(どうして!?エネルギー消費が通常よりも早すぎる!!)

 

表示計を見ていると、通常ではありえない速度でエネルギーが消費している。

自分の専用機は此処まで燃費消費が悪い機体ではない。

このミステリアス・レイディの異常に楯無は理解できず、顔には次第に焦りの色が滲み出る。

楯無がこのミステリアス・レイディの異常に理解できないのも無理は無かった。

このミステリアス・レイディの異常は、ただの機体トラブルではなく、イヴの仕業であった。

だが、楯無がその事実に気づくはずもなかった。

イヴは先程、楯無に髪の毛パンチを当てた際、楯無のISにバハムートを送り込み、ミステリアス・レイディに感染させていたのだ。

ミステリアス・レイディに感染したバハムートは、ミステリアス・レイディのエネルギーを食い始めたのだ。

これがミステリアス・レイディに起こった異常であり、楯無はイヴに沈む床(セックヴァベック)を仕掛けたのが、それを逆にイヴにやり返されたのだ。

そして、これ以上飛行しているとエネルギーが切れて途中で落ちてしまう。

楯無は覚悟を決めて、ミステリアス・レイディのエネルギーが切れる前に床に降り立つ。

そして、素早くランスを構える。

すると、イヴは追撃をせず、暫くホールの上を飛びながら、楯無を見下ろすと、彼女に攻撃をせず、ある程度の距離をとった地点に降り立つ。

そして、手にしていたサイズはまるでガラス細工が壊れる様に飛散し消える。

サイズを消したイヴはまた新たな武器を出現させる。

 

「っ!?」

 

楯無はイヴが出した新たな武器を見て目を見開く。

イヴが出したのは、今、楯無が手にしている蒼流旋(そうりゅうせん)だったのだ。

 

「‥随分と悪趣味な事をしてくれるじゃない」

 

楯無は蒼流旋(そうりゅうせん)を出現させたイヴにまるで苦虫を噛み潰したように顔を歪め、忌々しそうな声で言い放つ。

エネルギーが尽きかけのミステリアス・レイディの相手をするのであれば、上からの攻撃をすれば、時期にエネルギー切れを起こして勝てるのに、イヴは敢えて楯無と同じ武器を出して、それで決着をつけようと言うのだ。

 

「‥‥いくわよ」

 

「‥‥」

 

両者が互いに蒼流旋(そうりゅうせん)を構える。

目線は常に相手を捉え続ける。

イヴと楯無、それぞれが互いに相手の動きと目を見つめ合い、

そして‥‥

 

「勝負!!」

 

楯無は残り少ないエネルギーを惜しみなく使い、ブーストをふかしてイヴへと迫る。

対するイヴも白い翼をはためかせて楯無を迎えうつ。

両者の距離はみるみるうちに縮まり‥‥

 

「はぁっ!!」

 

気合い一声と共に楯無が蒼流旋(そうりゅうせん)を突き出す。

イヴはそれをスッと僅かに横にそれ躱す。

 

「しまっ‥‥!!」

 

楯無が自分の攻撃がかわされた事に焦りを感じたその瞬間、

 

ブシュッ!!

 

今度はイヴの蒼流旋(そうりゅうせん)の突きが楯無を襲う。

イヴの蒼流旋(そうりゅうせん)の突きは楯無の腹部に深々と突き刺さり、その反動を殺す事無く、楯無をホールの壁に縫い付けた。

 

「ゴフッ!!」

 

楯無は口から大量の血を吐く。

そしてイヴは楯無の腹部に突き刺さった蒼流旋(そうりゅうせん)を抜く。

壁を背に楯無の体はズルズルと床に倒れる。

彼女の周りには忽ち赤い血の池が広がった‥‥。


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