VTシステムに取り込まれた更識姉妹はVTシステムの中にあったイヴの残留思念によってVTシステムから完全に取り込まれるのを防ぐことが出来、しかも互いにVTシステムを取り込んで二次移行する事が出来た。
そして不死鳥を倒す事が出来るかもしれない切り札である雪片を使用して不死鳥との勝負に出た。
「「勝負!!」」
更識姉妹が雪片を一緒に握り不死鳥へと迫る。
「□□□□□□□□□□□―――!!!!」
不死鳥も雄叫びをあげて更識姉妹へと迫る。
風圧で吹き飛ばされそうになるが、今は一人じゃなく二人いる。
互いが互いを支え合い不死鳥へと向かって行く。
そして、更識姉妹と不死鳥が交差する。
「どっちだ?どっちか勝ったんだ?」
「‥‥」
ピットの千冬達は勝負の行方を見守る。
不死鳥と更識姉妹はしばしの間静寂を保っていたが、
「□□□□□□□□□□□―――!!!!」
不死鳥は絶叫しながらアリーナの床へと墜落していく。
「「やった!!」」
墜落していく不死鳥を見て思わず歓喜する更識姉妹。
そして墜落していく不死鳥の中からイヴが出てきた。
「イヴ!!」
簪が不死鳥と共に落ちていくイヴを空中でキャッチした。
イヴは シュヴァルツェア・レーゲンのコアを抱きしめまま意識を失っていた。
コアもイヴも失った不死鳥はアリーナの床に墜落すると完全に消滅した。
不死鳥を倒した事とイヴを無事に助けた事に安心したのか楯無もアリーナの床に着地するとその場に倒れた。
「お姉ちゃん!?お姉ちゃん!!」
簪がイヴを抱えたまま楯無に声をかけるが楯無がその場で目を覚ます事はなかった。
VTシステムの騒動が完全に終息し、学園側は残った教員をフル活用して現場では事態の収拾作業が行われた。
アリーナからは多くのストレッチャーが出入りして竜にやられた教員部隊のメンバー、ラウラ、イヴ、楯無が医務室に次々と搬送された。
アリーナはボロボロとなる程の大惨事だったにも関わらず死者が出ていなかったのはまさに奇跡に近かったが、これもISの絶対防御があってのことだった。
~sideラウラ・ボーデヴィッヒ~
なんだ?これは‥‥?
これは恐らくこれは夢かなにかだろう。
私は葬儀場に居た。
これは夢ではなく臨死体験と言うモノなのだろうかと思ったが葬儀形式が軍隊葬ではなくごくごく普通の一般葬だったため、これは私の葬式ではない事を悟った。
軍人であり、身寄りのない自分ならば必ず軍隊葬が行われる筈だからである。
それに参列者の中に副官のクラリッサを始めとする部隊の部下達が一人もいないのはあまりにも不自然だからだ。
では一体誰の葬式なのか?
私が祭壇へと近づくと其処には見慣れない男の遺影が飾られていた。
立派な祭壇である事から彼がそれなりの地位のある人間だったことが窺える。
そして名前の札には『織斑四季』と書かれていた。
織斑!?教官と同じ姓ではないか!?
では、この方は教官の関係者なのか?
教官の関係者と思われる遺体が安置されている棺では一人の少女が棺にしがみついて泣いていた。
この娘‥どこかで見覚えが‥‥
そう思っていると目の前に景色が一転した。
な、なんだ!?なにがあった?
すると今度は教官が先程の棺にしがみついて泣いていた少女に罵声を浴びせているシーンに変わった。
そして同じ様なシーンを何度も見せられた。
私は其処で違和感を覚えた。
確かにドイツでの教官は厳しかった。
罵倒も何度もされた。
でも、ちゃんと努力をして結果を残せば褒めてくれた‥‥飴と鞭の使い分けはちゃんとしていた。
しかし、目の前で繰り広げられている光景は鞭ばかりで教官は彼女の努力そして存在さえも否定していた。
何なんだ!?この光景は!?
自分の知る教官とはまるで別人ではないか!!
そして極め付けなのが、私が最も憎む男‥教官の弟である織斑百秋が彼女を強姦している光景だった。
しかも奴は行為の最中、彼女の事を『姉さん』と言っていた。
まさか、奴は自身の姉に対して関係を迫っていたのか?
その悍ましい光景に私は強烈な吐き気を催す。
私は両手で力強くグッと口元を押さえる。
だが、教官の家にあの弟以外の姉弟が居たのか?
そう思った瞬間‥‥
私の視界が暗転した。
「っ!?」
目を覚ましたのと同時に薬品臭が鼻を刺激した。
「わ、私は‥‥?」
私は上半身を起こして辺りを見回す。
そこは白い壁に白いカーテンそして白いベッド‥‥
清潔なシーツに包まれていた自分。
此処は医務室か‥‥
自分の居場所が分かった事で安心したかのように再びベッドに沈む。
そこへ、
「気がついたか?」
教官の声が聞こえた。
「きょ、教官‥‥わ、私は‥‥」
「全身に打撲と無理な負荷による筋肉疲労がある。しばらくはまともに動けないだろうから無理はするな」
確かに身体の隅々に軋むような痛みが走る。
「な、何が起きたのですか?」
「‥‥これは機密事項なのだがな。VTシステムは知っているな?」
「はい。正式名称は『ヴァルキリー・トレース・システム』‥過去のモンド・グロッソ受賞者の動きをトレースするシステムですが‥‥確かあれは‥‥」
「そうだ。アラスカ条約の中に定められている事項で現在、どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた。‥‥お前自身に悟られないように巧妙に隠されていたがな‥操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ。そして何より操縦者の意思……いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい」
「‥‥」
「現在、学園はドイツ軍に問い合わせている。近くIS委員会よる強制調査が入るだろう。」
教官の話から私はVTシステムに取り込まれたことは分かった。
だが、一体誰が私を開放してくれたのだろうか?
それに先程見たあの夢‥‥
私は気になり教官に尋ねることにした。
「あの‥‥私はどうやってシステムの支配から抜け出したのでしょう?」
「‥‥それは知らなくてもいいことだ」
そう言って教官は私に背を向けて去ろうとしていく。
「あ、あの‥教官」
「織斑先生だ。なんだ?」
「あの‥‥えっと‥‥なんでもないです‥‥」
私は教官にあの夢の真相を聞けなかった。
所詮夢は夢、何かの間違いかもしれない。
そう思ったからだ。
~side更識姉妹~
「学園最強がこれじゃあ形無しね‥‥」
ベッドの上で包帯とガーゼを張り付けた姿の楯無が自嘲めいた笑みを浮かべる。
「ううん、そんな事はないよ」
「簪ちゃん」
「お姉ちゃんが居なかったら、私‥イヴを取り戻せなかったから‥‥やっぱり姉ちゃんは強いよ‥‥私の中で無敵の存在‥だよ‥‥」
「簪ちゃん‥‥」
簪にそう言われて照れる楯無。
「ううん、簪ちゃんも立派だったわよ」
「でも‥私‥‥」
「何言っているの?ちゃんとイヴちゃんを助け出せたじゃない。それに稼働したばかりのISを二次移行までして‥私のISも二次移行したけど、簪ちゃんの方が物凄く早かったじゃない」
「‥‥」
「強くなったね、簪ちゃん」
「お姉ちゃん!!」
簪は楯無に抱き着く。
抱き着かれた楯無は傷口にズキッと痛みが走ったが、それを声にも顔にも出すことなく簪を受け入れ彼女の髪を優しくなでた。
VTシステムについてはIS委員会が調査を行うというが、千冬の脳裏にはどうしてもあの天災の影がちらついた。
そこで前回の無人機の時のように千冬は束に電話を入れた。
「もっしー?何か用?」
「ああ、今日はお前に聞きたい事がある」
「何かな?」
「今回のVTシステムの件‥‥お前は一枚噛んでいるのか?」
「ああ、アレ?あんな不出来なシステム‥あんなもの私が作る訳ないじゃない」
だが、束は無人機の時と同じく今回のVTシステムの件に関して自分はノータッチだと言う。
「ついでに言うと、あれを作った研究所は少し前に地上から消えてもらったよ。私のISにあんな出来損ないシステムをくっつけた事を後悔させてやらないとね‥‥」
「そうか、ほどほどにな」
ただ、ドイツにあるVTシステムを極秘に研究していた研究所は地図から抹消したという。
自分たちで禁止させた紛い物をコソコソと研究し製造したその行為とVTシステムそのものの存在が束の逆鱗に触れたのだ。
しかもその渦中にイヴを巻き込んだこともあり、今回の一件は必ず世界に知れ渡るだろう。
例え、IS委員会が揉み消したとしても既に天災兎の耳に入っているので、隠す事はほぼ不可能だ。
今回学園内で起きたVTシステムの騒動でドイツはIS界において発言権、信用を失いISの研究・技術開発は停滞または衰退する可能性も出てきた。
学園において損傷した機体、アリーナの修繕費もすべてドイツ政府が負担することになるだろう。
束の言うことを全て鵜呑みには出来ないが、噓をついていないとも言い切れないため千冬はこれ以上の追及はしなかった。
その頃、箒は寮の屋上から眼前に広がる海の方をじっと見つめていた。
(私にもっと力があれば‥‥)
今回のこともそうだが、無人機の時も自分に専用機があれば、百秋と一緒に戦えた。
無様に敵前逃亡なんてマネをすることはなかった。
今回のVTシステムの一件、イヴと更識姉妹が解決したが、自分にも専用機があれば、今回の騒動を解決していたのは自分と百秋の二人の筈だった。
(セシリアの奴は自分の専用機をもっているから自由に訓練できるが、私は訓練機の貸出申請をしなければISには乗れない。専用機をもたない者同士で分け合っている間に‥‥)
箒は訓練機の貸し出し申請書を書く手間や貸し出しにかかる時間を大きなロスだと感じていたが、彼女は束の妹と事で訓練機の貸し出しに関してもかなり優遇されており、本来ならば、優先される三年生や成績優秀者を押しのけて訓練機を借りることが出来ていた。
だが、その事実を箒は知らない。
(毎日自由に使えると言う事は毎日百秋と一緒に‥‥)
(あの人に頼むのはやはり癪だが、今手っ取り早く専用機を手に入れる方法はあの人を頼るしか手はない)
(そうだ、私はあの人の妹なのだ。そして、あの人の我儘のせいで一番苦しんだ被害者でもあるのだ。あの人が私のために専用機を用意するのはむしろ当然のことなんだ)
(これ以上セシリアに差をつけられてたまるか!!)
箒は自らのスマホに表示されている電話番号と名前を嫌そうに見るが、思い切って『発信』ボタンを押した。
先ほど千冬と電話をし終えた束の携帯が再び鳴り出した。
「ん?誰かな?また織斑千冬かな?」
束は携帯のディスプレイに表示された着信者を見て、一瞬出ようか出ないか迷ったが、此処で無視したら後々何度もかけてきそうなので渋々出る事にした。
「もすもすひねもす~はぁーい、みんなのアイドル・篠ノ之束さんだよォ~!」
電話口の向こうから聞こえてくるふざけた様な姉の声に箒は額に青筋を浮かべる。
しかし、此処で電話を切っては、今度は何時連絡が取れるか分からなかった為、電話を切りたい衝動を必死に押さえて姉と会話を始める。
「姉さん‥‥」
それでも不愉快な気分は収まらず、箒の声はぶっきらぼうだ。
「やぁやぁ我が妹よ。こんな時間にどうしたのかな?」
箒のぶっきらぼうな声を無視して何の用かと尋ねる束。
「姉さん、私に専用機を用意してください」
箒は要件をストレートで束に伝える。
「ん?箒ちゃんはどうして専用機を欲しがるのかな?」
「そ、それは‥‥」
電話をかける前は強気だった箒であるが、いざ束を前にしてみると委縮してしまう。
此処で姉の機嫌を損なえば専用機を用意して貰えないかもしれない。
そんな思いから箒は下手に出て姉の機嫌を損ねない様にして専用機が欲しい理由を話した。
「ほうほう、彼のためにね‥‥」
「は、はい」
「ふぅ~ん」
「‥‥」
「なるほど、箒ちゃんも年相応の女子高校生だね~青春しているねぇ~」
(あんな奴の何処が良いんだろう?)
「なっ!?」
束のからかうような声に思わず箒は赤面する。
だが、その反面束は百秋がモテる理由が分からなかった。
こればかりは天災の頭脳でも分からなかった。
「か、からかわないでください!!それで用意して貰えますか?」
(うーん、どうしよう~)
束は箒の頼みを聞くべきか迷った。
箒に専用機を与えれば百秋と共にイヴに何か迷惑をかけるのではないか?
昔と違い今の一夏(イヴ)が百秋と箒にやられるとは思えないが、危険な毒蛇は卵の内に殺してしまわなければならない。
だが、このまま彼女の申し出を拒否しつつければ、しつこく電話してくるかもしれない。
いや、イヴの隙を突いて彼女の専用機を強奪する恐れもある。
そこで、
「用意してもいいけど、決して他人に迷惑をかけないって約束できるかな?」
(箒ちゃん‥これが君に出来る私からの最初で最後のプレゼントだからね‥‥)
「はぁ?」
箒は束の言う事が分からなかったが、
「わ、わかりました」
箒はとりあえず返事をしておいた。
「IS学園では確か夏休み前に臨海学校があったでしょう?」
「え、ええ‥‥」
「それじゃあ、その時までに用意しておくよ」
「はい。ありがとうございます。姉さん」
束との電話を切ったあと箒はガッツポーズをした。
「やった!!やったぞ!!これで私も晴れて専用機持ちだ!!」
臨海学校が待ち遠しい箒だった。
一方、
「これで本当に良かったのかな?」
束は箒に専用機を与える事を今更ながら迷っていた。
確かに自分がISを作ったせいで両親と箒には多大な迷惑をかけた。
でも、箒が自分の作った専用機で更なる迷惑をかけるのではないかと心配になる束。
「‥‥しかたない‥専用機を作ると言った以上ちゃんと作るけど、でもその専用機が高性能とは言っていないからね‥箒ちゃん‥‥」
束は虚しい表情をしてキーボートを叩き始めた。
タッグトーナメントにおけるVTシステム騒動の後、ラウラはその日に意識を取り戻し、楯無も怪我はしたが骨折しておらず、打ち身と打撲程度で翌日には授業に出ていた。
だが、イヴだけは目を覚まさなかった。
やはり、長い時間VTシステムに取り込まれていたのが原因なのか医務の先生も詳しい原因は分からないと言う。
念の為、イヴの身柄は集中治療室へと移された。
IS学園はISを扱う為、学園内の医務室もかなり充実しており、
集中治療室にて脳波、心電図を図る機械のコードに繋がれたまま眠るイヴ。
放課後、更識姉妹と鈴、本音が見舞いに来た。
すると、そこには先客がいた。
「あれ?」
「あの人は‥‥」
「フランスの代表候補生の‥‥」
「‥‥」
集中治療室の中を見渡せる窓の前にはシャルルが眠っているイヴの姿をジッと見ていた。
「君、確かデュノア君だっけ?」
楯無がシャルルに声をかける。
「あっ‥‥」
シャルルも見舞いに来た更識姉妹達に気づいた。
「貴方もイヴちゃんのお見舞いに来たの?」
「は、はい‥」
楯無がシャルルに声をかけるとシャルルはよそよそしく答える。
「そ、それじゃあ、僕はこれで‥‥」
すると、シャルルはその場からまるで逃げるかのように去っていた。
「な、なんだったの?彼?」
「さあ?」
鈴と本音はシャルルが何故イヴの見舞いに来たのか分からなかった。
「‥‥」
しかし、楯無はただ医務室から出て行くシャルルの後姿をジッと見ていた。
簪はタッグトーナメントの時に、シャルルを見て彼に対して違和感を覚えていたが、楯無も今ここでシャルルと出会い簪同様、シャルルに対して違和感を覚えた。