シルバーウィング   作:破壊神クルル

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42話

学年別タッグトーナメントにてラウラの様子が突然、豹変した。

シュヴァルツェア・レーゲンは固い装甲から黒いドロドロの様なモノになり、ラウラはそれに包まれたかと思ったら、打鉄を纏う千冬そっくりの姿となった。

本物の千冬曰く、ラウラに起こった異変はVTシステムによるものだと言う。

VTシステム‥‥Valkyrie Trace Systemは過去のモンド・グロッソの戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムで今のラウラは現役時代の織斑千冬のコピー状態となっていた。

しかし、そこにラウラ自身の意識はなく、ただ強者を求めて戦う戦闘マシーンに近い状態となっていた。

千冬のコピーと言う存在がどうしても許せなかった百秋は戦いを挑むが、あっさりと返り討ちにされた。

千冬モドキは最初から百秋など眼中になかった様で彼を返り討ちにした後、自分の対戦相手にイヴをご指名してきた。

イヴは時間を稼げばやがて教員部隊が来てくれると思って戦っていたのだが、いくら待っても教員部隊は来ない。

そんな中、千冬モドキと戦っていたイヴは脇腹を切りつけられた。

負傷しながらも戦うイヴ。

そして千冬モドキとイヴの獲物がぶつかり合った時、一本の剣が宙を舞った。

飛んだのはイヴのバルニフィカスだった。

イヴの獲物を弾き飛ばした千冬モドキはイヴに止めをささんとばかりに雪片を振り上げて一気に振り下ろした。

 

「イヴ!!」

 

簪が叫ぶ。

イヴが殺される‥‥

そう思った簪であったが‥‥

 

パシッ

 

「なっ!?」

 

「くっ‥‥」

 

イヴは千冬モドキが振り下ろした雪片の一撃を見事な真剣白刃取りをして千冬モドキからの脳天唐竹割りから逃れた。

 

「このっ」

 

そして、千冬モドキの腹部に蹴りを入れて自分から引き離す。

蹴りを食らった千冬モドキは思わず手に持っていた黒い雪片を手放してしまうが、体勢を立て直した時、千冬モドキの手には新たな黒い雪片が握られていた。

そしてイヴが手に持っていた黒い雪片はドロッとチョコレートの様に溶けだしてやがて消えた。

どうやら、この黒い雪片はあの千冬モドキが握っていないと形を維持する事が出来ない様だ。

新たな雪片を出した千冬モドキはイヴに斬りかかって来る。

イヴはドラグーンを飛ばして千冬モドキの牽制を図る。

しかし、千冬モドキは最小限の動きでドラグーンの攻撃をかいくぐりイヴとの距離を詰めてくる。

 

「くっ」

 

イヴは次に衝撃砲を撃つがあくまでも牽制に過ぎず、ドラグーンの攻撃同様、千冬モドキに当たる事が無い。

イヴはアリーナを飛び回り、千冬モドキの攻撃を躱す。

そんな中、イヴの眼前に百秋が弾き飛ばされた雪片が落ちていた。

イヴは咄嗟に落ちていた雪片を拾い上げる。

ISの武装には通常ロックが掛けられておりライフルの場合手に持つことは出来るがロックが掛けられている場合は引き金を引くことは出来ない。

だが打鉄の主兵装である大剣の葵等の刃物類はこうしたロックからの基準に外れている。

雪片の場合はロックか掛けられているとビーム刃、零落白夜は使用不可能の状態なので模造刀と同じだがISのコアとアクセスする事の出来るイヴならば武装に掛けられているロックを解くことも可能なので、武装ロックを気にする事は無かった。

イヴの右側のもみあげが伸びて、雪片と絡みあう。

そして、ナノマシンによる高速処理で雪片にかけられているロックを解除し始めた。

 

『雪片武装ロック解除、アンロックモードへ移行』

 

空間パネルに雪片の武装ロックが解除され、これで誰でも雪片が使用可能となった。

 

(アイツの武器と言うのが気に入らないけど、この際、文句は言っていられない)

 

イヴは白式の雪片を構えて千冬モドキを迎え撃つ。

 

 

此処で時系列は少し巻き戻り、視点も変わる。

 

 

「シャルル!!なんで俺を連れ戻した!?」

 

ピットでは百秋がシャルルに食って掛かっていた。

彼はシャルルの胸倉をつかみ、今にも殴りかかりそうな勢いである。

そこへ、

 

「当然の処置だ。馬鹿者」

 

「織斑先生‥‥」

 

「千冬姉」

 

「織斑先生だ。何度言わせる気だ?馬鹿者」

 

千冬がピットに現れた。

 

「織斑先生、何故俺に戦わせてくれなかったんです!?」

 

「お前如きで今のボーデヴィッヒを倒せると思っているのか?模造品とはいえ今の奴は現役時代の私なのだぞ」

 

本人に直接言われてちょっとだけショックを受ける百秋。

 

「いくら、零落白夜が強力でも今のお前では宝の持ち腐れだ」

 

「アイツなら、倒せるって言うのか?」

 

「さあな‥‥だが、もしアイツがやられる様ならばアイツは最強でなかったと言う事だ」

 

千冬はピットの出入口で戦況を高みの見物と洒落込み、百秋とシャルルもそれに続いた。

そして、イヴのバルニフィカスが千冬モドキによって弾かれた。

 

「あっ‥‥」

 

(アイツもよく、頑張ったが此処までか‥‥)

 

(いいぞ、ソイツをそのままやっちまえ!!)

 

アリーナに居た簪が、イヴがやられると思ったのと同じようにピットにいる三人もイヴがやられると思ったのだが、イヴは千冬モドキが繰り出した脳天唐竹割の一撃を真剣白刃取りをして逃れた。

 

「すごい‥‥」

 

シャルルが思わず呟く。

 

(ちっ、あと少しだったのに)

 

百秋は此処の中で舌打ちをした。

 

(なかなかしぶといな)

 

千冬はイヴのしぶとさに感心した。

そして、イヴはバルニフィカス以外の武器で最大限の抵抗をするが、千冬モドキは降り注ぐドラグーンのビームと衝撃砲の壁を回避したながら千冬モドキはイヴとの距離を詰めてくる。

イヴはアリーナを飛び回り、千冬モドキと距離を取ろうとする。

バルニフィカスがなく、近接戦闘武器が無い今のイヴにとって近接型の千冬モドキとは相性が悪い。

そんな中、イヴは百秋が落とした雪片を拾った。

 

「アイツ、俺の雪片を!!」

 

自分の武器が使われた事に声を上げる百秋。

 

「でも、おかしいな‥ISの武器には普通ロックが掛けられている筈だから、アンロックしない限り、他人が使用できるはずがないんだけど‥‥」

 

シャルルが雪片の本来の持ち主でない筈のイヴが雪片を使用しているのに疑問を持つ。

 

「織斑、ちゃんとロックはかけたのか?」

 

千冬は百秋がロックをかけ忘れたのではないかと疑う。

 

「ちゃんと掛けたよ!!俺以外雪片は使えない筈だ!!」

 

「だが、奴は現に雪片を使っているぞ」

 

百秋はちゃんとロックは掛けたと言ったが、現実に目の前でイヴが百秋の雪片を使用している。

彼にしてみれば、どうしてイヴが自分のISの装備である雪片を使用できるのか理解できなかった。

 

(イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスさん‥‥ちょっと興味が湧いたかも‥‥)

 

シャルルはイヴの行動を見逃さないと彼女の姿をジッと見ていた。

 

 

千冬モドキの黒い雪片とイヴが手に持つ白い雪片がぶつかり合う中、

 

(雪片の零落白夜は確かに強力だけど、バリアー無効効果と言う事はISの特殊バリアーも無効にすると言う事‥‥それはつまり、搭乗者の命も危険に晒すわけだ‥‥このまま斬ったりしたら、中に居るボーデヴィッヒさんも殺してしまうかもしれない)

 

雪片を振りながらイヴは千冬モドキの中にいるラウラの身を案じる。

 

『いいじゃないか、イヴ。お前はあの害獣を一度は殺そうとしたのだぞ。今殺すのも後で殺すのも変わらないじゃないか』

 

獣がイヴに囁く。

 

(うるさい!!)

 

確かに獣が言った通り、確かにあの時イヴはラウラを殺すつもりであったが、今はラウラに対して殺意は抱いておらず、ただ純粋にISで思いっきり戦いたかった。

今こうして千冬モドキと戦っているのはラウラを元に戻したい為だった。

自分が戦いたいのはこんな千冬モドキではなく、ラウラ・ボーデヴィッヒ個人だ。

 

(ハッ!?そう言えば、コイツも元はIS‥なら、私の力で強制解除が出来るかも‥‥)

 

イヴは此処に来て雪片のアンロックを強制解除したようにラウラを包み込んだあのドロドロも解除できるのではと思った。

 

(一か八かやってみるしかない!!)

 

イヴは意を決して千冬モドキへと向かって行く。

千冬モドキはそんなイヴに対して突き技を繰り出して来た。

イヴは手に持っていた雪片を放り投げて千冬モドキが繰り出して来た突き技を空中でんぐり返しで躱し、それと同時にISを解除して千冬モドキの背中に抱き付く。

そして、イヴの髪の毛が伸びて千冬モドキの背中の中にズブズブと入って行く。

 

グッ‥‥ガッ‥‥ギッ‥‥

 

ナ、ナンダ‥‥コレハ‥‥

 

ワ、ワレノナカニナニカガハイッテクル‥‥

 

グオッ‥‥ジョ、ジョウタイヲ‥‥イジデキン‥‥コ、コノママデハ‥‥

 

ナ、ナゼダ‥‥

 

ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥ナゼダ‥‥!!!!!

 

イマノガハサイキョウノソンザイノハズナノニ‥‥

 

サイキョウノワレガナゼコンナコムスメゴトキニ‥‥

 

フザケルナ‥‥フザケルナ‥‥フザケルナ‥‥

 

ミトメン!!ミトメン!!ミトメンゾ!!

 

ワレハゼッタイニミトメンゾ!!

 

ワレハブリュンヒルデナルゾ!!

 

ワレハサイキョウナノダゾ!!

 

ワレヨリモサイキョウノソンザイナドミトメン!!

 

グオッ‥‥コ、コンナコトガアッテ‥タ‥マ‥ル‥カ‥‥

 

千冬モドキはその形を崩し始め、雪だるまが日の光を浴びて溶けるかのように溶けだした。

そして、中からは意識を失ったラウラがズルリと出てきた。

 

「ボーデヴィッヒさん!!」

 

イヴは髪の毛を元の長さに戻して千冬モドキから出てきたラウラを抱き上げる。

ラウラはちゃんと呼吸しているので彼女は生きている様だ。

今は眠っているみたいだった。

千冬モドキは溶けてアリーナの床に水たまりの様になった。

 

(元はボーデヴィッヒさんのシュヴァルツェア・レーゲンだったのに原型をとどめていない‥‥本当にISってどんな構造をしているんだ?)

 

溶けた千冬モドキを見てISの構造理論を疑問に感じるイヴ。

そこへ、

 

「イヴ!!」

 

千冬モドキを倒したと判断した簪がイヴ近づく。

 

「やったの?」

 

「あ、ああ‥どうやらそうみたい‥‥」

 

アリーナの床に広がる黒いドロドロを見てイヴは呟く。

 

 

「な、なにをしたんだ?アイツは!?」

 

一方、ピットにいる百秋たちはイヴがどうやってVTシステムを解除したのか全く理解できなかった。

千冬モドキの突き技をよけて突然ISを解除して背中に抱き着いたと思ったら、千冬モドキの体がいきなり溶けだしたのだ。

 

(心なしか、アインスさんの髪の毛が伸びたように見えたんだけど‥‥)

 

シャルルは雪片を拾った時もそうであったが、千冬モドキの背中に抱き着いたとき、イヴの髪の毛が伸びたように見えたのであった。

でも、今のイヴは髪の毛の長さは元に戻っていたので見間違えかと思ったため、百秋にも千冬にも尋ねなかった。

 

(ますます興味深い存在だ‥‥織斑百秋よりも‥‥彼女の事、もっと詳しく知りたいな‥‥)

 

自分が見た光景が見間違えなのか本当なのか、ますますイヴと言う存在に興味が湧いたシャルルだった。

 

 

千冬モドキは溶けてラウラはこうして無事だった。

これで事態は終息したかに思えた。

しかし‥‥

 

ミトメナイ‥‥

 

ミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイミトメナイ!!!!!!!

 

ミトメヌゾ!!

 

コンナコトガアッテイイモノカ!!!!!

 

ワレヨリモサイキョウノソンザイナドミトメヌ!!

 

コウナレバコムスメ!!

 

キサマヲトリコンデヤル!!

 

シンノサイキョウハコノワレダ!!

 

コノワレ‥シュヴァルツェア・レーゲン・ブリュンヒルデサマダ!!

 

千冬モドキだった黒いドロドロがゴポッと泡を立てると、やがてそれは次第に数を増してゆきそして‥‥

 

「っ!?イヴ!!後ろ!!」

 

「えっ?」

 

簪が大声をあげてイヴに注意喚起をする。

イヴが振り返るとあの千冬モドキを形成していたあの黒いドロドロが今度はイヴめがけて襲い掛かってきた。

 

「うわぁっ‥な、何よ!?コレ!?」

 

突然のことでイヴも反応が遅れた。

イヴがもがきながら黒いドロドロから逃れようとするがまるで底なし沼にはまったかのようにもがけばもがくほど体は黒いドロドロの中に沈んで行き、しかも今の自分はラウラを抱えている状態で両手が使えない。

 

(ひとまず、ボーデヴィッヒさんだけでも‥‥)

 

イヴはまず、助け出したばかりのラウラが再び飲み込まれないようにするため、

 

「かんちゃん!!ボーデヴィッヒさんを!!」

 

乱暴ではあるが、ラウラを簪の方へと放る。

放り投げられたラウラを簪はキャッチして、床へと置く。

 

「イヴ!!」

 

そして、簪は必死に手を伸ばして次はイヴの体を引っ張り出そうとする。

 

「かんちゃん!!」

 

イヴも黒いドロドロに飲み込まれながらも必死に簪へと手を伸ばす。

 

「イヴ!!イヴ!!」

 

「かんちゃん!!」

 

二人は互いに手を必死に伸ばして何とか手をつかむことには成功したが、

 

キサマ、ジャマヲスルナ!!

 

バチッ

 

「っ!?」

 

突如、黒いドロドロが放電のようなものを行い、簪の体に激痛が走る。

その痛みに思わず簪はイヴの手を放してしまった。

 

「かんちゃん‥‥かん‥ちゃ‥‥」

 

「イヴ!!」

 

簪が手を放したその一瞬の内にイヴは黒いドロドロに完全に飲み込まれてしまった。

 

「あっ‥‥い、イヴ‥‥イヴ!!」

 

黒いドロドロに飲み込まれてしまったイヴを見て簪はがっくりと両膝をついた。

 

(助けられなかった‥‥私‥イヴを助けられなかった‥‥)

 

目の前でイヴを助けることができなかった事実に簪は大きなショックを受けた。

そんなショックを受けている簪の手にはあの黒いドロドロの一部があり、ドロドロは簪に気づかれることなく、打鉄弐式の継ぎ目から巣穴の中へ逃げるかのように入り込んでいった。

イヴを取り込んだあの黒いドロドロはラウラの時のように球体へと変化した。

 

「あ、アインスさんが‥‥」

 

シャルルはイヴが黒いドロドロに飲み込まれた光景を見て唖然とし、

 

「ちっ、厄介だな。アイツがまさかVTシステムに取り込まれるとは‥‥」

 

千冬は現状を見て苦虫を噛み潰したように顔をゆがめ、ピットにある内線で山田先生を呼び出した。

 

『織斑先生』

 

「状況はそちらでも確認できたか?」

 

『はい』

 

「今度はアインスの奴がVTシステムに取り込まれた。大至急周辺警備をしている教員部隊をアリーナに呼んでくれ。あと更識姉にもだ」

 

『了解です』

 

千冬はここにきて最悪の事態を想定した。

幸い会場にいた観客の避難は完了しており、今の場に居るのは管制室の山田先生、ピットにいる自分を含めた三人。

アリーナにいるラウラと簪の二人。

これだけの人数ならば避難もすぐに済むだろう。

 

「織斑、デュノア。お前たちはすぐに此処から避難しろ」

 

「「えっ?」」

 

「当然だろう?アインスを取り込んだVTシステムは再び現役時代私の姿になるだろう。そうなれば、奴はまた無差別に攻撃をするかもしれないからな」

 

「織斑先生はどうするんですか?」

 

「私は万が一のことに備えてここに残る」

 

千冬はもし楯無そして教員部隊が全滅した場合のことを考えてここに残るという。

 

「そんなっ!?千冬姉も一緒に‥‥」

 

百秋は千冬も一緒に逃げようと言う。

 

「それは出来ない」

 

「どうして!?」

 

「私にだってブリュンヒルデとしての誇りがある。模造品如きに易々と引くわけにいかない」

 

「じゃ、じゃあ俺も‥‥」

 

百秋が自分も残ると言おうとした時、

 

「雪片もなく、白式のエネルギーもないお前に何が出来る?」

 

「‥‥」

 

千冬の指摘に何も言えない百秋。

 

「織斑先生、僕も残ります」

 

すると、シャルルもこの場に残ると言う。

 

「シャルル」

 

「デュノア‥だめだ。此処は危険だ。織斑と一緒に逃げろ」

 

(万が一アイツが百秋を狙ってきたら、お前が最後の盾になるのだから、ここに残す訳にはいかんのだ‥‥)

 

「此処は戦力が少しでも必要なんじゃないんですか?」

 

「あっ、いや‥そうかもしれないが、生徒を危険な目に合わすわけには‥‥」

 

「僕にも専用機持ち、フランス代表候補生としての誇りがありますから」

 

シャルルは千冬にニコッと微笑んだ。

しかし、その笑みは何かを含んでいるようにしか見えなかった。

でも、それが何なのかは千冬にも百秋にも分からなかった。


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