シルバーウィング   作:破壊神クルル

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41話

学年別のタッグトーナメント最終日。

一年生の部、第一試合は、優勝候補であるラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒ペアが不利な状況となっていた。

ラウラのパートナーである箒は既に簪に倒されており、残るはラウラ一人となっていた。

だが、イヴはあくまでもラウラとは一対一で戦うことを望み、簪はそんなイヴの意を汲んで二人の戦いを見守っていた。

ラウラは再びプラズマ手刀を出してイヴに近接戦闘を挑む。

イヴもそんなラウラを迎え撃つかのようにバルニフィカスを大鎌モードにしてラウラへと接近していく。

ラウラのプラズマ手刀とイヴのバル二フィカスが幾度もぶつかり合う中、ラウラの一瞬の隙をついてイヴはバルニフィカスの柄でラウラの腹部を突く。

 

「ぐはっ!!」

 

体勢が崩れたことで均衡も破れた。

ラウラの腹部に再び強烈な衝撃と痛みが襲う。

イヴは今度、ラウラの腹部を思いっきり蹴り飛ばした。

そして、バルニフィカスを大鎌から大剣に変えてラウラに斜め左から剣撃と共に蹴りを加える。

この一撃がとどめとなり、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲンのエネルギーはかなりの量を減らされた。

 

「ぐっ‥‥ごほっ‥‥」

 

剣撃と共に蹴りをくらったラウラはアリーナの隅まで飛ばされ、息を整えつつ立ちあがろうとするが、膝が笑ってうまく立てず、まるで生まれたての小鹿のようにプルプルと震えていた。

 

(私は負けない‥‥負けるわけにはいかない‥‥)

 

ラウラは歯を食いしばってイヴを睨みつける。

イヴは無表情のままラウラを見つめながら彼女と対峙する。

 

(敗北させると決めたのだ!あの男を私の力で完膚なきまでに叩き伏せる!)

 

(徹底的に動かなくなるまで完全に破壊するまで‥‥)

 

(それを‥‥それを、こんな前菜如き化け物に邪魔されてたまるか!!)

 

(この化け物とあの男を倒すには力が必要だ!!絶対的な‥何物にも負けない力が!!)

 

(欲しい‥‥圧倒的な力が欲しい!!)

 

ラウラが此処の中で貪欲なまでに力が欲しいと願ったその時、

 

『汝、自らの変革を望むか?』

 

(っ!?な、なんだ!?)

 

『より強い力を欲するか?』

 

突然ラウラの頭の中から機械めいた男の声が聞こえた。

その声を聞いたラウラは躊躇せず、何の疑問も抱かずにその男の声に答える。

 

(よこせ!唯一無二の絶対を――比類なき最強を私によこせ!!)

 

ラウラが心の中でそう絶叫するとシュヴァルツェア・レーゲンが激しい電撃が放たれた。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

余りの急展開にイヴも簪も‥そして会場の観客達全員が戸惑うばかりであった。

 

「な、なに?あれ?」

 

「わかりません。形態移行ではなさそうだけど‥‥」

 

そんな中、ラウラのISの装甲がいきなりスライムの様に溶けだして、やがてはドロドロの液状になるとラウラの全身を包み込んでいた。

そしてそのまま装甲の泥はラウラを飲み込み、彼女の姿は見えなくなる。

 

『ハハハハハ‥‥こいつは驚いた』

 

イヴの中の獣がラウラの異常を見て声を上げる。

 

『あの銀髪もどうやら、心の中にとんだ闇を持っていたようだな』

 

(心の闇?)

 

『そうだ一夏。もっともお前ほどではないがな』

 

(あ、あれは一体何なの?)

 

『さあな。私はISの研究者じゃない‥ただ、あの銀髪の心の中にお前や私と似た存在の匂いを感じただけだ』

 

肝心な部分を知らないと言う獣。

 

「か、かんちゃん。ISって、あんな変形が出来る物もあるの?」

 

獣があてにならないので、イヴは簪に聞いてみた。

 

「そ、それはないよ。いくら形態移行でも装甲が溶けて操縦者を飲み込むなんて聞いたことがない」

 

今この場でISとの関わり経験が長い簪でさえ、目の前の光景は見た事も聞いた事もない現象だと言う。

ラウラを包み込んだシュヴァルツェア・レーゲンだったモノは球体となり、心臓の鼓動みたいにドクンドクンと脈を打ちながら変形し始めた。

そして目の前に立っているのは、ラウラの姿でもシュヴァルツェア・レーゲンの姿でもなく、打鉄を纏った千冬に似たモノだった。

ただし、顔はのっぺらぼうの様で目も鼻も口もなく、輪郭と髪型から織斑千冬の姿が想像できるようなもので、すべてが黒一色に染まった不気味な姿であった。

そして、その手にはシュヴァルツェア・レーゲンの装備には無く、むしろ百秋の白式の装備品である雪片が握られていた。

 

「雪片?」

 

「で、でもシュヴァルツェア・レーゲンの装備に雪片は無い筈‥‥」

 

イヴと簪がこの目の前の千冬モドキにどう対処すればいいのか戸惑っていると、千冬モドキは雪片を振りかざしてイヴへと迫って来た。

 

「くっ、どうやらあの織斑千冬モドキは戦いを望んでいる様だ‥‥」

 

イヴはバルニフィカスで千冬モドキの雪片を受け止める。

 

「イヴ!!」

 

「簪は危ないから下がって!!」

 

「で、でも‥‥」

 

「いいから!!このままだと簪も巻き込まれる!!」

 

「う、うん」

 

簪は渋々イヴの指示に従ってアリーナの隅へと避難した。

 

「全く、その姿‥‥見ているとイライラする‥‥」

 

千冬モドキの雪片とイヴの大剣モードのバルニフィカスが鍔迫り合いをして、イヴの目から光が消えかけたその時、

 

「邪魔だ!!そこをどけ!!」

 

「っ!?」

 

背後から百秋の声が聞こえ、イヴは千冬モドキを押し退けて横へとそれた。

その直後、千冬モドキの雪片と百秋の雪片がぶつかり合う。

 

「お前だけは‥‥お前だけは許さねぇ!!」

 

百秋は怒声を上げて千冬モドキとやりあっている。

彼の乱入で興ざめしたのか光を失いかけていたイヴの目に再び光が宿る。

 

「百秋!!一体どうしたのさ!?」

 

「アイツ千冬姉の真似なんかしやがって!!ぶっ飛ばしてやる!!!」

 

ピットから突然出て行ってしまった百秋の事が心配になったのかシャルルが追いかけてきた。

 

「シャルルは箒を頼む!!アイツは俺がぶん殴る!!」

 

百秋に頼まれてシャルルはアリーナに取り残されていた箒をピットへと連れて行ったが、やはり彼が心配なのか箒を避難させた後、シャルルは再びアリーナに戻って来た。

 

管制室でもラウラの異変は当然見ていた。

 

「あれは‥‥」

 

千冬がラウラの異変を見て言葉を零す。

 

「知っているんですか?織斑先生」

 

「ああ、あれはVTシステムだ」

 

「VTシステム?」

 

「Valkyrie Trace System(ヴァルキリー・トレース・システム)の略だ」

 

「それって一体どんなシステムなんですか?」

 

「過去のモンド・グロッソの戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステムで現在あらゆる企業・国家での開発が禁止されている御禁制のモノだ」

 

「それがなんでボーデヴィッヒさんのISに?」

 

「さあな、だが、VTシステムの存在は見た所、ボーデヴィッヒ自身にも知らされていなかった様子だ‥‥」

 

(先日の無人機と言い、今回のVTシステムと言い‥まさか、これもアイツの仕業なのか?)

 

「山田先生、教員部隊の編成を‥‥このままだとアリーナが廃墟にされかねん」

 

「そ、それが‥‥殆どの教員の方は来賓の方や生徒達の避難誘導に割かれていて動ける教員は殆どいません。さらに訓練機も大半を生徒に貸し出しているので、使うには一度フォーマットをしてからでないと‥‥」

 

「くっ‥‥」

 

大会と言う事で学園の訓練機は生徒に貸し出してあり、更に先日の無人機襲来の折、機体が何者かに盗まれてしまった事から機体の数も足りない。

人員も各国の大使や企業の役員、研究所の研究員らのVIPと生徒の避難誘導に割かれていて部隊を編成するのにも時間がかかる。

機体もなく、人員を集めるにも時間が掛かるこの状況‥‥

千冬には何も出来ずにただ、弟がこの事態の終息を図ってくれることを祈る事しか出来なかった。

ただ、相手はVTシステムと言う模造品だが、モンド・グロッソを優勝した時のデータを参考に作られているシステム。

つまり、百秋の相手は現役時代の織斑千冬と言う訳だ。

ISに乗って半年もたたない百秋の実力で勝てる筈がなかった。

 

『ハハハハハ‥‥見ろよ、一夏。さっさと逃げればいいものを‥アイツ、模造品ブリュンヒルデ様と戦うつもりだぞ』

 

(‥‥)

 

獣が模造品ブリュンヒルデ様に戦いを挑んでいる百秋を滑稽だと言って笑っている。

だが、当然の結果で百秋が勝てるわけがなく、千冬モドキの雪片の攻撃を受けてふっ飛ばされる百秋。

 

『素晴らしい。最高のショーだと思わんかね?おぉ‥ハハハハハ‥‥見ろ、人(百秋)がゴミの様だ。ハハハハハ‥‥』

 

ふっ飛ばされた百秋の姿を見て、爆笑している獣。

正直に言って五月蝿い。

 

「このっ‥雪片、零落白夜発動!!」

 

百秋は切り札である零落白夜を起動させて、一撃必殺の短期戦に持ち込もうとしていた。

しかし、いくら威力が強力な武器でも使い手がそれを使いこなす実力が無ければ宝の持ち腐れで百秋は千冬モドキに返り討ちに合い、雪片は弾かれて零落白夜を使用したせいか白式のエネルギーも切れて強制解除された。

ISを纏わぬ相手に興味がないのか千冬モドキは百秋に追撃をかける事無く、アリーナの中心で静かに鎮座している。

ISが強制解除されて使えるモノも自分の拳と蹴りぐらいしかないにも関わらず百秋は、

 

「うおおおおっ!!!」

 

千冬モドキに向かおうとする。

 

「百秋!!なにしているんだよ!!生身で向かって行っても死ぬだけだよ!!」

 

千冬モドキに向かって行く百秋を慌ててシャルルが肩を掴んで彼を止める。

 

「放せ!!邪魔をするならお前も‥‥」

 

「いい加減にして!!!」

 

パアン!!!

 

アリーナに乾いた音が響く。

 

「シャルル?」

 

一応ISは部分解除しているが、乾いた音の正体はシャルルが百秋の頬を叩いた音だった。

 

「生身でISに勝てると思っているの!!?それにISのない今の百秋ならあっさりと殺されるよ!!!」

 

「五月蝿い!!!あのデータは千冬姉のデータだ。千冬姉の千冬姉だけのものなんだよ!!!」

 

要するに百秋が許せないのは大好きである姉の千冬の紛い物が現れ、その紛い物が千冬の剣、剣術を使っている事が気に入らないと言う理由からだった。

 

「それにあんな訳の分からない力に振り回されているボーデヴィッヒも気に入らない。だからあのISもボーデヴィッヒも一発ぶん殴る!!!」

 

(下らないプライド)

 

百秋の怒る理由を聞いてイヴは呆れる。

確かに模造品に関しては怒る理由にはなるかもしれない。

美術品でも本物ではなく精巧に作られた模造品を掴まされれば怒りたくはなる。

だが、剣術に関しては怒る理由にはならないだろう。

優れた技術は後世に伝え残すべきだ。

千冬が編み出した剣術が剣術界において残すべき素晴らしい技術であるのならば、一人でも多くの人にその技術を継承するべきなのではないだろうか?

彼が怒っているのは彼一人のエゴにしか見えない。

 

「シャルル、エネルギーを‥‥リヴァイヴのエネルギーを俺にくれ!!」

 

「えっ?」

 

百秋はシャルルにISのエネルギーを分けてくれと言う。

 

「出来ないか?」

 

「‥できなくはないと思うけど‥‥」

 

「なら、頼む!!」

 

百秋の頼みにシャルルは戸惑った。

今、エネルギーを分ければ彼は再び千冬モドキに戦いを挑むだろう。

でも、また戦って勝てるだろうか?

いや、答えは『NO』だ。

また零落白夜を使用して返り討ちに合ってエネルギー切れを起こすのが目に見えている。

その場合あの千冬モドキが今度は彼の命を取らないと言う保証はない。

シャルルが戸惑っていると、アリーナ中央に鎮座していた千冬モドキが行動した。

千冬モドキはイヴを指さしたのだ。

 

『おい一夏、模造品ブリュンヒルデ様から御指名が入ったみたいだぞ』

 

(‥‥)

 

このまま放っておいてもいずれは避難誘導を終えて教師部隊が到着するだろうけど、あの千冬モドキがこのままじっとしている保証はない。

相手が自分を御指名と言うのであれば、自分が相手をしている間に教員部隊が来るまでの時間稼ぎをするのが今できるベストの選択なのかと思ったイヴ。

イヴは千冬モドキの御指名に答えるかのように前に出る。

 

「イヴ‥‥」

 

後ろから簪は心配そうに声をかける。

 

「教員部隊が来るまでの時間を稼ぐだけだよ。大丈夫」

 

イヴは簪に微笑んで彼女の心配を和らげようとする。

流石にこの事態に教員が鎮圧に来ない筈がないと思ったイヴは、今は観客の避難誘導をしているので、ソレが終わったら、きっと来てくれると信じていた。

そしてイヴはバルニフィカスを出して千冬モドキへと向かって行く。

 

「‥‥」

 

しかし、簪には一抹の不安が付き纏った。

 

千冬モドキとイヴが対峙している中、

 

『デュノア。聞こえるか?』

 

「織斑先生?」

 

シャルルのISに千冬から通信が入った。

 

『お、繋がったか‥デュノア。聞こえるか?』

 

「はい」

 

『お前は織斑と共にピットに避難しろ』

 

「なっ!?」

 

千冬の言葉に百秋は絶句する。

 

「な、なんでだよ!?千冬姉!!」

 

そして、千冬の指示に納得のいかない百秋は千冬に反論する。

 

「織斑先生だ。そもそもお前に勝てる相手だと思っているのか?相手は模造品だが、現役時代の私なのだぞ」

 

「で、でも‥‥」

 

「デュノア、いいからソイツをピットに放り込め」

 

「は、はい」

 

シャルルは百秋を掴んでピットへと戻る。

 

「は、放せ!!シャルル!!俺がアイツを倒さなければならないんだ!!」

 

シャルルの手によってピットへと連れていかれる百秋はアリーナに木霊する程の大声を残してピットに放り込まれた。

しかし、イヴと千冬モドキの戦いを見届けるかのように簪はアリーナに残った。

 

「織斑先生、教員部隊の編成ですが‥‥」

 

山田先生がようやく教員部隊の編成が出来る程の人員が集まり出したことを千冬に報告する。

 

「必要ないでしょう」

 

「えっ?」

 

「奴はどうやらアインスを御指名したみたいなので、教員部隊が来る頃には終わっている筈だ。よって教員部隊は周辺警備に回せ」

 

「で、ですが‥‥」

 

「先日の様に訓練機をまた強奪されては立つ瀬がないでしょう?」

 

「は、はい」

 

イヴの考えとは裏腹に千冬は編成された教員部隊をVTシステムの鎮圧ではなく、学園の周辺警備に回した。

先日の様にVTシステムにかかりっきりになっている隙に訓練機を再び強奪でもされたりしたら、それこそ目が当てられない。

 

その頃、アリーナでは対峙した千冬モドキとイヴは互いに獲物を構える。

互いにじりじりと滲み寄りながら機会を窺う。

そして‥‥

 

ダッ

 

ダッ

 

ガキーン

 

互いに動き出すと千冬モドキの雪片とイヴのバルニフィカスがぶつかり合う。

 

(もしかしてコイツ‥‥)

 

千冬モドキの動きを見て、先程百秋の相手をして居た時よりも動きが全く違う。

コイツはもしかして強者と戦う事を望んでいたのだろうか?

鍔迫り合いを止め弾き飛ばすが相手はすぐに斬り掛かってくる。

上段からきたと思えば次は瞬時に横一閃へと転換したり、突きや下段からの斬り込み。

完全にこれは剣道などではなく、実戦向きの剣術であった。

間合いを離そうともすぐに詰めてくる。

 

『おいおい、防戦一方じゃねぇか、一夏。しっかりしろよ。このままじゃ、この千冬モドキに殺されちまうぞ』

 

獣が真剣勝負の最中に茶々をいれてくる。

 

(うるさい!!)

 

集中している中、横から茶々を入れられると集中力が乱れる。

獣に対して文句を言っているとそれが仇となった。

 

「っ!?」

 

右わき腹に痛みが走る。

見てみると斬り傷と一筋の血が流れ出ていた。

 

「くっ」

 

「イヴ!!」

 

そして千冬モドキは再び斬りかかって来ると、相手の腹部に蹴りを放ち無理やり間合いを離す。

だが、千冬モドキはすぐに詰めてくる。

それから何合打ち合ったかわからないが、一行に教員部隊が来る気配がない。

こうなれば、もうこの千冬モドキは倒してしまおう。

そう思ったイヴは、

 

(くっ、千冬モドキも元はIS‥ならば、エネルギーを吸い尽くすまで!!)

 

イヴはバルニフィカスのアブソルートモードを発動させ、一気に勝負をかけようとした。

だが、教員部隊を待っていた為、勝負を長引かせたのが仇となり、脇腹からの出血はイヴの体力と集中力を思った以上に奪っていた。

当然イヴに投与されたバハムートもイヴの怪我を治療するが、ドロリーの様に一瞬で傷が治る訳では無い。

反対に千冬モドキはISと言う完全な機械なのか体力、集中力が切れると言う事がない。

千冬モドキとイヴの獲物がぶつかり合った。

 

ガキーン

 

そして、一本の剣が宙を舞った。


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