シルバーウィング   作:破壊神クルル

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40話

そしてとうとうやってきた学年別トーナメント当日。

学年別と言う事でトーナメントは、数日かけて行われる予定となっている。

 

「しかし、凄い数の人だね。外部からも大勢呼んでいるみたい」

 

イヴが観客席から周りにいる人とモニターに映る大勢の観客を見て声を漏らす。

 

「三年には企業や研究所からのスカウト。二年には此処一年間の成果の確認。それに留学生の場合は、それぞれの国の大使の人が見に来ているからね。一年生もそれなりの戦果を出せば、注目されるかもしないから皆気合が入っている」

 

簪がVIP席や許可証を持って来場した人の説明をする。

今回のタッグマッチは期間内にペア登録し、ペアが決まってない人は抽選で決まる仕組みとなっていた。

ペアと言う事で当然勝負は相方とのコンビネーションが勝利の一因になる。

よって、抽選で決まった即席ペアでの勝利率はペア申請した組よりも劣る傾向があった。

タッグトーナメントはやはり、メインである三年生からの試合から始まった。

専用機はなくともやはり、三年間の経験とISの搭乗時間は伊達ではなく訓練機ながら、一年の専用機持ちと互角かそれ以上の実力を持つ者がチラホラ居た。

本音の姉の虚も訓練機ながらもベスト3に入る実力を見せた。

二日目は二年生の試合がメインとなり、やはりと言うか当然と言うか、二年生の部で優勝したのは楯無であった。

優勝台に立つ楯無の姿を簪はムッとした表情で見ていた。

そして、最終日は今年入学した一年生の番となる。

企業はまだ一年生には期待はしていないが、今年の一年生には専用機持ちが多く、その中でも注目されているのは織斑千冬の弟であり、世界初の男性操縦者である百秋であった。

だが、二人目の男性操縦者であるはずのシャルル・デュノアはそこまで注目されていない。

その事実にイヴは違和感を覚えつつも今は他の選手について簪に尋ねてみた。

 

「かんちゃんは百秋の実力をどう見る?」

 

イヴは今回の注目選手の一人である、百秋の実力を日本代表候補生の目から見た百秋の実力を尋ねる。

もっとも簪自身、クラスが違うので普段の授業における百秋の様子を見ていないがクラス代表選抜戦とそこから特訓した事を考慮に入れて算出した百秋の実力は‥‥

 

「まだまだ代表候補生の域には達していない」

 

と、簪はそこまで恐れるレベルではないと言う。

今最も警戒するのは百秋ではなく‥‥

 

「問題はドイツの代表候補生‥‥」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ‥か‥‥」

 

「うん、彼女は多分一年生の中でも最強の部類だと思う」

 

簪の言う通り百秋も注目されていたが、今回の一年生の部ではラウラが優勝候補として名前が挙がっている。

一応自分も日本の代表候補生でもあり、専用機持ちなのだが、本職のIS部隊の軍人と比べられるとその注目度は落ちてしまう。

 

「フランスの二人目についてはどう思う?」

 

「シャルル・デュノアもドイツの代表候補生程じゃないけど、なかなかの強敵だと思う‥‥でも‥‥」

 

「でも?」

 

「でも、彼には何か違和感を覚える」

 

簪もやはり、シャルルには違和感を覚えていた。

 

「彼‥本当に男なのかな?」

 

「ん?」

 

「さっき、遠目で見たけど、彼の仕草は何か不自然と言うか、無理に覚えたと言うか、慣れないのに無理矢理やっているみたいな感じがするの‥‥それに一人目の彼と一緒に居る時、嬉しそうと言うか照れているようにも見える‥‥」

 

「まさか、あの二人‥ボーイズラブとか?」

 

「うーん‥そんな感じにも見えなくはないけど、それでもやっぱり違和感がある‥‥」

 

簪は考え込む仕草で違和感が何なのかを探るが明確な答えは出なかった。

やがて、会場のメインモニターが切り替わり、トーナメント表が表示された。

 

「あっ、対戦相手が決まったね」

 

「うん」

 

イヴと簪は一回戦目の自分達の対戦を見て、

 

「「えっ?」」

 

思わず声を上げる。

モニターに映し出されたトーナメント表には、

第一試合 更識簪 イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインス vs ラウラ・ボーデヴィッヒ 篠ノ之箒

と表示されていた。

因みに百秋の試合は第二試合となっており、パートナーの名前はシャルル・デュノアと表示されていた。

 

「まさか、一回戦目に彼女と当たるなんてね‥‥」

 

「う、うん‥でも、頑張ろうね」

 

「そうだね。さて、ピットに行こうか?」

 

「う、うん」

 

イヴと簪はピットへと向かった。

 

『幸先がいいのかそれとも厄日なのか分からないが、真っ先に優勝候補をぶっ潰すのも面白そうじゃないか。アイツはお前の大切なモノを奪おうとした害獣だ。遠慮なく潰してやれ。何だったら、私が直々に出て奴を狩ってやろうか?』

 

(黙れ、かんちゃんが居る前でお前なんかが出てきたら滅茶苦茶になるだろうが!!お前の出る幕はない!!すっこんでいろ!!)

 

ピットにてイヴはピルケースから錠剤を取り出しそれを飲んだ。

 

(イヴ‥あの薬‥‥もしかして精神安定剤の類なのかな?)

 

イヴは簪が既に獣の存在を知っている事を知らない。

だが、イヴは彼女なりに簪の事を気遣っていた。

 

(姉さんの言う通り、もしイヴの中の獣が出てきた時、私で止められるかな?‥‥ううん、私が止めないといけない)

 

簪は無理にでも自分を奮い立たせた。

しかし、楯無が見せた入試試験の時のイヴは、身の毛がよだつ程の強さと冷酷さを持っていた。

そのイヴを前に自分は彼女の前に立ち塞がり、彼女を元に戻す事が出来るだろうか?

姉の前ではイヴを守ってみせると豪語した簪であったが、その心に噓偽りはないが実際にやってみろと言われると不安になる。

それが簪の体に表面化したのか、彼女は小さくそして無意識にカタカタと震えていた。

 

「かんちゃん。そんなに緊張しなくてもかんちゃんなら大丈夫だよ。かんちゃんだって日本の代表候補生なんだから」

 

「う、うん」

 

(本当は試合に緊張している訳じゃないんだけどね‥‥)

 

「かんちゃん」

 

「ん?なに?イヴ」

 

「こう言うと気分を害するかもしれないけど、ボーデヴィッヒさんの相手は、私にやらせてくれるかな?」

 

「えっ?」

 

「鈴の仇もあるけど、あの時の決着を此処でつけたい」

 

イヴの目は光を失っておらず、見た所正気を保っている様子だ。

 

「分かった。それじゃあ私は篠ノ之さんを相手にすればいいんだね」

 

「うん‥‥ごめんね。代表候補生としてはボーデヴィッヒさんと戦ってみたかっただろうけど‥‥」

 

「ううん、そんな事はないよ。それに私だと勝てるか分からないし‥‥でも、いつかは戦って勝ってみせる。ボーデヴィッヒさんにも姉さんにも」

 

「ありがとう」

 

イヴは簪を信頼して彼女に箒の相手を頼んだ。

 

その頃、ラウラと箒の居るピットでは‥‥

 

「ボーデヴィッヒ。アインスの奴は私が仕留める。だから手を出すな。お前は代表候補生同士でやりあえ」

 

箒がラウラにイヴの相手は自分が務めると言う。

だが、

 

「ふん、お前がアイツの相手だと?」

 

ラウラは箒のその言葉を聞いて鼻で笑う。

 

「なっ!?なんだ、その態度は!?」

 

ラウラの態度に気分を害した箒。

 

「そんな量産品で戦って勝てるモノか‥‥」

 

ラウラは箒が纏っている打鉄を見て完全に見下している視線で言い放つ。

 

「アイツの本性はとんでもない化け物だ。化け物を狩るのは強者の特権だ。お前の方こそあの量産機モドキの相手をしていればいい」

 

「き、貴様‥‥」

 

「言っておくが、私は最初からお前の力などあてにはしていない。クジできまったらからしょうがなく組んでやっているだけだ。でなきゃ、有象無象の一つのお前と共に出るなんてしないさ」

 

「い、言わせておけば‥‥」

 

「此処でお前を潰してもいいのだが、それだとアイツらを潰す事が出来ないから、この大会中は大人しくしてやる。これ以上五月蝿く吠えるなら容赦はせんぞ」

 

「っ!?」

 

ラウラの殺気が籠った眼光に弱腰となる箒だった。

いくら虚勢を張っても箒は普通の女子高生であり、本物の軍人の殺気が籠った眼光には勝てなかった。

 

第二試合の出番となっている百秋とパートナーのシャルルは第三ピットにてモニター越しに試合を観戦することにした。

IS学園のアリーナには四つのピットがあり、第一試合のイヴと簪は第一ピット、ラウラと箒は第二ピット、そして第三、第四ピットには百秋とシャルルを含めた第二試合に出場する選手が控えていたのだ。

 

「あの人だね?百秋が言っていたアインスさんって‥‥」

 

「ああ」

 

対戦表に出ているイヴの顔写真を見ながらシャルルが百秋に尋ねる。

 

「随分ひどい戦い方をするって言っていたけど‥‥」

 

「酷いなんてもんじゃない。シャルルも見ていただろう?この前のアリーナでの一件を!!」

 

「う、うん」

 

「あのラウラって奴もムカつくけど、アインスはもっとムカつくやつだ。どうせなら、二人ともこの試合で潰れてくれれば、俺達の優勝は間違いないのに、くそっ」

 

対戦表を見ながら苦々しく呟く百秋と「あはは‥‥」と乾いた笑みを浮かべるシャルルであった。

 

やがて、試合開始時間となり、第一試合の選手達はアリーナへと出る。

アリーナの中央にてラウラとイヴがそれぞれ対峙する。

 

「まさか、一回戦目にお前とあたるとは思ってもみなかったぞ」

 

「ええ、私も同じ意見よ‥折角の機会だし、あの時の決着をつけましょう」

 

「ふん、所詮貴様など、私の目的のための前菜にすぎん」

 

「その前菜相手に前回は随分と怯えていたように見えるけど?」

 

「貴様!!言わせておけば!!」

 

「おい、私が居る事を忘れてもらっては困るぞ!!」

 

ラウラとイヴの舌戦に箒が口を割り込む。

しかし‥‥

 

「お前は黙っていろ、付属品」

 

「なっ!?」

 

ラウラはパートナーである筈の箒を一喝して黙らせる。

 

「ふふ、付属品だって‥‥」

 

ラウラの箒に対する評価に苦笑するイヴ。

 

「お前!!何がおかしい!?」

 

イヴの態度が気に食わないのか箒が声を荒げる。

 

「いや、そのままだと思ってね」

 

「何だと!?」

 

「だって、貴女‥‥周囲からは篠ノ之束の妹と言う付属品扱いじゃない」

 

「き、貴様~言わせておけば!!」

 

イヴのこの一言に箒は顔を怒りで赤くして叫ぶ。

 

(私、完全に背景の一部か空気化している‥‥)

 

舌戦に参加していない簪は完全に三人の眼中にない。

 

(でも、上手いな、篠ノ之さんを挑発して冷静さを失わせている)

 

イヴは箒を挑発させることによって彼女を興奮させて冷静さを失わせている。

興奮すればするほど、冷静な判断が難しくなり、些細なミスを犯しやすくなる。

そして遂に試合開始のカウントダウンが表示された。

アリーナの四人がそれぞれ武器を展開して構えを取る。

 

『試合開始まであと五秒』

 

カウントダウンが始まるとざわついていた観客達が静まり返る。

 

『‥‥四‥‥三‥‥二‥‥一‥‥』

 

緊張感が最大限に高まり、

 

『試合開始!!』

 

試合開始の合図と共に、

 

「はぁぁぁぁぁー!!」

 

箒が葵を振りかざしながら、イヴへと突っ込んで行く。

 

「かんちゃん任せた!!」

 

「うん!!」

 

突っ込んで来る箒に慌てる事無く、彼女の相手を簪に任せ、イヴは横へとそれると、イヴはラウラに対してユーディキウムⅡで彼女を銃撃する。

 

「くっ」

 

ラウラも箒をそっちのけで、イヴの相手をする。

その頃、簪は箒の葵の一撃を近接武器である対複合装甲用の超振動薙刀『夢現(ゆめうつつ)』で受け止めていた。

 

「どけ!!お前に用は無い!!」

 

「そうはいかない。貴女の相手は私」

 

「ならば、早々にお前を片付けてやる」

 

「代表候補生の力を舐めないで」

 

簪の夢現と箒の葵がぶつかり合う。

互いに幼少の頃から武術をやっていただけあってなかなかの勝負だ。

だが、ここにISも含まれるとなると、勝負の行方は少々異なる。

箒は剣道はやっていたが、ISの機動については学園に入ってからだ。

一方、簪は国家代表を目指す為に中学の頃からISに触れていた。

この差は大きく、また纏っているISにも差があった。

同じ打鉄系でも防御重視の打鉄と違い、打鉄弐式は機動性に特化しており、武装も打鉄よりも豊富だ。

簪は打鉄弐式の機動性を生かして箒を翻弄させる。

 

「うっ‥‥くっ‥‥この‥‥」

 

打鉄弐式の機動性について行けない箒。

次第に追い詰められていき、防戦一方の展開となる。

 

「そろそろ、決着をつける‥‥」

 

「なにっ!?そう簡単に‥‥」

 

「夢現‥『ドレインモード』発動」

 

簪が夢現にオーダーを下すと、夢現のビーム刃の部分が色濃くなり、やがてそれは黒紫色へと変化する。

打鉄弐式の武器はイヴのISの武装データが流用されている為、今回簪が発動させた夢現の『ドレインモード』もバルニフィカスの『アブソルート』と同じ効果を持っていた。

イグニッション・ブーストで箒の懐へと入り込み彼女を切りつけ、箒の打鉄のエネルギーを奪いつつ自らの機体のエネルギーを回復し、武装を瞬間転換して、連射型荷電粒子砲『春雷(しゅんらい)』を出してゼロ距離射撃で箒を仕留めた。

 

『篠ノ之機エネルギー切れにより、戦闘不能』

 

放送で箒が脱落した事が流される。

 

(所詮付属品は付属品か‥‥大して期待はしていなかったが、此処まで使えぬとはな)

 

箒が戦闘不能となった放送を聞いてラウラは心の中で箒に毒づく。

 

(だが、私とシュヴァルツェア・レーゲンの力をもってすればこんな奴等に負ける筈がない!!)

 

ラウラは最初から箒はあてにはしていなかった為、例え箒が戦闘不能となり、一人になっても自分は負けるわけがないと絶対の自信を持っていた。

一方、試合開始からわずかな時間で戦闘不能となってしまった箒は、

 

(専用機が‥‥私にも専用機があればこんな惨めな思いはしなかった‥‥)

 

と機体の性能差が敗因だと決めつけていた。

確かに箒の言う通り、彼女の敗因には訓練機と専用機という性能の差もあるが、元をただせば経験の差だろう。

箒が簪のように中学の頃からISの国家代表を目指そうとISに触れていれば、あるいは彼女にも専用機を与えられるチャンスがあったのかもしれない。

それどころか、束の妹という事で簪よりも注目を浴びていたかもしれない。

今更『もし』『たられば』なんて話をしても遅いが、箒が簪のように中学の頃からISの国家代表を目指そうとISに触れていれば、今頃専用機を纏っていたのは簪ではなく箒だったかもしれない。

それに束の妹言うことで簪の様に専用機の開発が凍結するなんてこともなかっただろう。

だが、これは本当に今更の話だ。

 

(元々訓練機では、搭乗者が変わるたびにフォーマットをしているからレベル1の状態でボスに挑むようなものだ。そんなのあまりにも不公平じゃないか‥‥)

 

箒は條ノ之束の妹という立場にありながら専用機がないことを嘆いていた。

百秋だって男という理由で代表候補生でもなく、企業や軍属でもないのに無償で専用機をもらっているが、本当はブリュンヒルデこと織村千冬の弟だから専用機を与えられたに違いない。

IS界で有名な人物の関係者なのになぜ、自分には専用機が与えられない。

箒は自分の環境に対して項垂れることしか出来なかった。

 

(そもそも姉さんがISなんて物を作らなければ、こんなことにはならなかったんだ‥‥姉さんがISなんて作らなければ、今頃私は百秋と普通の高校生活を送れていたはずなのに‥‥全部姉さんが‥‥姉さんが悪いのに‥‥それなのに姉さんはどうして私に専用機をくれない?私は貴女の妹なのに‥‥)

 

そして、今の現状をすべてはISを開発した束のせいにした。

 

箒と簪が戦っていた頃、イヴとラウラの戦いも近接戦闘から始まっていた。

AICでイヴの動きを止めても先日のようにドラグーンがある以上動きを止めて一方的に攻撃するのは無理。

しかも、今回はタッグ戦、ペアの簪だっている。

ならば、ドラグーンを使用できないように自分自身に意識を集中させる戦術しかない。

そのため、ラウラはイヴに近接戦を挑んだのだ。

シュヴァルツェア・レーゲンの両腕に装備されているプラズマ手刀とバルニフィカスの大鎌モードのビーム刃とバルニフィカスの柄がぶつかり合うたびにアリーナに戦いの戦歌が木霊する。

 

隙を見てラウラが大口径レールカノンをぶっ放せば、それを迎え撃つようにイヴもレールガンを発射する。

互いに衝撃波を受けて飛ばされながらもラウラはワイヤーブレードを出してイヴを絡めとろうとするが、ドラグーンがワイヤーブレードの行く手を遮る。

有線であり、数が圧倒的に少ないワイヤーブレードと無線式で数の点でもまさかドラグーン相手ではラウラの方が不利である。

互いに距離を取り、息を整えていると、

 

「おまたせ」

 

簪がイヴに声をかけた。

 

「あれ?もう終わったの?」

 

「うん」

 

箒が戦闘不能となった事は放送されたのだがイヴはラウラとの戦いに集中していたために聞き逃していた。

イヴがチラッと箒の方を見るとそこには自分の環境を嘆き打ちひしがれている箒の姿があった。


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