シルバーウィング   作:破壊神クルル

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3話

香港にて裏世界の権力者達が集まるクルージングパーティーに父と共に参加した17代目の楯無候補の更識刀奈は、乗客の中で父の16代目楯無の知り合いで生物研究者兼医師のショウ・タッカー氏と出会い、その彼が連れていた違和感ありまくりの少女、イヴ・ノイシュヴァンシュタイン・アインスと共にパーティーを回る事になった刀奈。

パーティー会場をまわる二人であったが、寡黙なイヴは刀奈に話しかける事無くただ黙って刀奈の後ろを歩くだけ‥‥

あまりにも気まずさを感じた刀奈はイヴと何とかコミュニケーションをとろうとして自己紹介を行った。

刀奈はイヴのフルネームを知った後、

 

「‥‥」

 

「‥‥」

 

(か、会話が思いつかない‥‥)

 

自分は意外とコミュニケーション能力が高い方だと思っていたのだが、後ろを歩く銀髪の少女相手だとどうしても会話が続かないし、話のネタが思いつかない。

無言で、気まずい空気の中、刀奈はパーティー会場を歩く。

刀奈は気まずさを感じているのにイヴの方は全くそう言った様子を見せない。

 

(もう嫌だ、さっさと会場を回ってお父様と合流してこの子とは別れよう‥‥うん、そうしよう!!)

 

刀奈はこれ以上気まずい思いと気まずい空気はもう御免だと思い、会場を回りながら父の楯無を探し始めた。

そんな時、イヴは突然立ち止まりカジノスペースをジッと見ていた。

 

「ん?どうしたの?イヴちゃん」

 

「‥‥」

 

刀奈が声をかけてもイヴは反応せず、一心不乱にカジノスペースをジッと見ている。

 

「‥‥えっと‥‥もしかして、あそこで遊びたいの?」

 

「‥‥」

 

刀奈の問いにイヴは頷く。

この客船が航行している海域は日本の領海ではなく、しかも船内に集まっているのは裏世界の権力者達‥‥故にギャンブルは成人してからなんて法律は、なにそれ美味しいの?な環境であったので、刀奈達がカジノスペースでカジノ賭博をプレイをしても何ら問題は無かった。

刀奈自身、ちょっとカジノには興味があった。

しかし‥‥

 

「あっ、でも私お金持っていないんだった‥‥」

 

今現在、刀奈はお金を持っていなかった。

すると、

 

チョイチョイ

 

イヴが刀奈の袖を摘まむ。

 

「ん?なに?」

 

「‥‥お金」

 

イヴは自らの財布を刀奈に見せる。

 

「えっ?いいの?」

 

刀奈が尋ねるとイヴは頷く。

 

「ありがとう!!イヴちゃん!!」

 

これまで違和感バリバリのこの少女に一歩引ていた刀奈であったが、余りの嬉しさに彼女は違和感を忘れ、銀髪の少女に抱き付いた。

こうして刀奈とイヴはカジノスペースにてカジノゲームをする事になった。

まず、イヴの持っていたお金をチップに換金するのだが、イヴは財布に入っていたお金全てをチップに換金した。

 

(イヴちゃんってやっぱり何者なの?)

 

財布の中に同世代とは考えられない程のお金をイヴは有していた。

そしてそのお金を惜しげもなく全てチップに換金したイヴの行動に刀奈は驚愕した。

お金をチップに換金し、その半分を刀奈に渡すと、「あとは好きにしろ」と言わんばかりにイヴはカジノスペースの中に消えて行った。

折角イヴからの好意でもらったチップなので刀奈もカジノで遊ぶことにした。

だが‥‥

 

「‥‥」

 

あれだけあったチップはあっと言う間に無くなった。

 

「ちょっとは自信あったんだけどな‥‥」

 

刀奈は残念そうに呟きながら、ゲームの椅子から降りた。

 

「さてと、イヴちゃんはっと‥‥」

 

そして、刀奈は別れたイヴの様子が気になり、イヴを探しながらカジノスペースを見回る。

すると、カジノスペースの一角に人だかりが出来ていた。

 

「ん?何かしら?」

 

刀奈はその人だかりが気になりその人だかりに近づいてみると‥‥

 

「い、イヴちゃん!?」

 

刀奈は思わず声を上げた。

大勢の人だかりはイヴを囲むように出来ており、その理由は、イヴのテーブルの上にはチップの山が出来ていたからだ。

 

(コレ全部、イヴちゃんが稼いだの!?)

 

負けてあっという間にチップが空になった自分とは反対にイヴは勝ちまくった様だ。

イヴはまさにポーカーフェイスで勝ち上がっていた様子。

彼女の無表情(ポーカーフェイス)は刀奈でも何を考えているのか分からないぐらいだ。

 

(イヴちゃん‥‥ますますわからない子だわ‥‥)

 

山積みのチップに囲まれながら、無表情でカードゲームを興じるイヴを見て刀奈はますますイヴに違和感を覚えた。

だが、彼女はイヴと次に再会する時、まさかあの様な再会になるとはこの時、知る由もなかった。

 

 

クルージングパーティーの後、刀奈は更識家の当主の名である楯無を襲名し、正式に17代目楯無となった。

ISも設計やプログラミング等は様々な人の援助を受けつつも組み立てに関しては自らが手掛けた専用機『ミステリアス・レディー』を完成させた。

ミステリアス・レディー‥‥ロシアが設計・開発したISであるグストーイ・トゥマン・モスクヴェの機体データを元に製作された楯無の専用機で他の専用機と違い組み立て型のフルスクラッチタイプの機体となっている。

通常のISよりも装甲が少なく装着者の肌が多く露出されている作りとなっているが、その防御をカバーするのがナノマシンで構成された水のヴェールであった。

IS界においてナノマシン技術が流用された試作機とも言える新型のISであり、完成当初はじゃじゃ馬な機体と思われたが、楯無は「私自身も相当のじゃじゃ馬だし、じゃじゃ馬同士気が合うかも」と言っていた。

そして、日本政府からの密命でロシアへと渡り、僅かな期間でロシアの国家代表となった。

勿論、専用機のスペックもあるが、短期間でロシアの国家代表となれたのは、楯無の才能も関係していた。

楯無は、諜報活動が出来るように自由国籍を取得し、ロシアの国家代表となる事が出来たのだ。

また楯無は、17代目楯無を襲名したその日、妹の更識簪に暗部とは関係のない日々を過ごしてもらう事を願って、彼女に「貴女はずっと無能のままでいなさい」と語った。

だが、楯無が妹の為にと思って言ったこの一言が簪の心を傷つけ、後々まで引きずる禍根になった事をこの時の彼女は気付かなかった。

 

 

刀奈が17代目楯無、そしてロシアの国家代表となっている頃、世界のあちこちでは相変わらず、殺戮の銀翼の暗殺が続いていた。

しかし、警察は殺戮の銀翼の暗殺をやはり、亡国企業の仕業と勘違いし、見当違いの捜査をしていた。

また、ターゲットとなっている女性権利団体の者は、次は自分の番なのではないかと怯える日々を過ごす事となった。

そんな中、ロシアの女性権利団体に所属する女性官僚の下に例の暗殺者からの暗殺状が送られてきた。

これまで殺戮の銀翼から暗殺状を受け取って来た者は悉く殺されて来た。

今度は自分の番となった。

女性官僚は震えあがったが、このまま何もせずただ黙って殺される訳にはいかない。

暗殺された者達同様、女性官僚は軍や警察から選りすぐりのボディーガードを集めた。

その中には、ロシアの国家代表となった楯無の姿もあった。

 

「まったく、私は軍人でも警察官でもないのに‥‥」

 

ISはあくまでもスポーツ器具の筈‥‥

それが、対象者を暗殺者の魔の手から守るためにこうして警備員として配備されている。

確かに更識の家は暗部に対する対暗部用暗部の家柄であるが、まさか他国の官僚を守る事になるとは思わなかった。

予告の時間が刻一刻と近づいている中、楯無は配置に着こうとする。

そんな中、今回、殺戮の銀翼から命を狙われている女性官僚が楯無に声をかける。

 

「お待ちなさい、楯無」

 

「なんでしょう?」

 

「今回の任務、失敗は許されないのよ、国家代表である貴女の腕を見込んで、こうして警備をさせてあげているの」

 

「はぁ‥‥」

 

「いいこと、絶対に殺戮の銀翼とか言う非情な殺し屋を生きて私の前に連れてくるのよ。この手で引き裂いてやらないと気が済まないわ!!いいこと、必ず連れてくるのよ!!」

 

女性官僚はヒステリーを起こしたかのように叫ぶ。

 

「わ、わかりました」

 

女性官僚に返答し、楯無は持ち場につく。

楯無が消えた後、彼女が出て行ったドアを見ながら、女性官僚は、

 

(ふん、極東のメス猿が、自由国籍と専用機の力で我がロシアの国家代表なんて、我が国の代表候補生の質も落ちたものだわ‥‥どうせなら、あのメス猿と暗殺者、両方が片付けば我がロシアにとってこんな都合のいいことはないのに‥‥)

 

と、苛立った表情で扉を見ていた。

この女性官僚は徹底した差別主義者であり、男は勿論、白人以外の女に対しても差別意識を持っていた。

そして、ロシアの代表が自由国籍を有しているとは言え、生粋のロシア人(白人)ではなく、日本人(有色人種)であることに不満を抱いていた。

女性官僚の屋敷が物々しい警備体制の中、庭を警戒していた警備兵の一人が突然倒れた。

 

「どうした?‥‥ぐぁ!!」

 

そして駈け寄った別の警備兵も倒れた。

倒れた警備兵士達の首筋には真っ白い羽が深々と突き刺さっていた。

二人の警備兵が死亡した事がバレる事もなく、警備兵達は屋敷を警備し続けている。

そして、ある警備兵が巡回をしていると、突如、毛皮の様なモノに体が包み込まれた。

 

「なっ!?むぐっ!?」

 

叫ぼうとすると、その毛皮の様なモノは警備兵の口を塞ぎ、次の瞬間、警備兵の体に激痛が走ると、その警備兵は息絶えた。

警備兵を仕留めた後、この警備兵の体に巻き付いた毛皮の様なモノはまるで潮が引くようにスッーと何処かへと消えていった。

また、屋上を警備していた警備兵は突如、背中に激痛を感じたと思ったら、そのまま息絶えた。

彼は自分の身に何があったのかを知る前に息絶えたのだ。

そして、警備詰所前で警備をしていた警備兵は突如、目の前に銀色の何かが降って来たと思ったら、心臓を一突きにされ、死亡した。

暗殺者はその後、警備詰所に爆弾を仕掛けた。

警備詰所を出た暗殺者は先程仕掛けた爆弾を炸裂させた。

爆音が辺りに響き渡る。

 

「な、何!?一体何ごと!?」

 

突然響き渡る爆音に狼狽える女性官僚。

 

「警備詰所で爆発!!」

 

「周辺に暗殺者が潜んでいるかもしれません!!館内のIS部隊を外に回しますか!?」

 

「だめよ!!IS部隊は私の最後の切り札よ!!外のことは男連中に任せて、IS部隊はそのまま屋敷内で待機!!」

 

女性官僚は警備の配置を外には銃器で武装した男の警備兵を置き、屋敷内にISを装備した女性警備兵を置いたのだ。

自分の位置に近ければ近い程、強力な警備を敷き、この事態を逃れようと考えたのだ。

だが、配置位置が悪かった。

ISは確かに強力な兵器かもしれないが、その大きさゆえ、どうしても屋敷内では動きが制限されてしまう。

この屋敷がIS学園のアリーナぐらいの広さを誇っていれば違ったかもしれないが、いくら女性権利団体に所属している官僚とは言え、IS学園のアリーナ程の広さの屋敷ではなかった。

警備詰所で爆発が起こり、庭を警備していた警備兵達が集まって来る。

消火器で火災を消化しようとしている警備兵達の足元から突如、銀色の刃物が突き出してきて警備兵達を串刺しにして行く。

何とか逃れる事が出来た警備兵達も何処からか飛んでくる狙撃で次々とその場に倒れていく。

倒れた警備兵の身体には白い羽が深々と突き刺さっていた。

 

「来やがれ、ツラ見せろ。出て来い、チェーンガンが待っているぜ」

 

「出て来い!!クソッタレエエ!」

 

「化け物めぇ、チキショー!!」

 

警備兵達は怒声を上げて銃を乱射する。

そして、彼らは今回自分達が仕留めるターゲットの姿を捉えた。

長い銀髪を靡かせ、黒いワンピースの様な服装をしている少女だった。

 

「いたぞぉ、いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!」

 

暗殺者の姿をようやく見つけた警備兵達はその少女を追いかけて行く。

そして、少女は庭の中に建てられた一軒の小屋の中へと入って行く。

そしてその小屋を警備兵達は囲み、

 

「よし、撃て!!」

 

小屋に向かって銃を撃つ。

 

小屋は忽ち蜂の巣になる。

 

「撃ち方止め!!」

 

「くたばったか?」

 

「機銃弾200発とチェーンガンを、フルパック。それでも生きていられる動物はいないはずだ、ましてあの距離で‥‥」

 

「見て来い、カルロ」

 

(俺、この仕事が終わって故郷に帰ったら‥‥)

 

そんな事を抱きながらカルロは恐る恐る小屋の扉を開け、中の様子を確かめる。

すると、天井から小屋の中には有る筈のない方天画戟がカルロにめがけて迫り、方天画戟の刃がカルロの腹に深々と突き刺さる。

天井に潜んでいた少女が小屋の床に降り立つと窓から少女を銃撃しようとした警備兵に少女は投げ斧を投げ、投げ斧は警備兵の頭部に突き刺さり、もう片方の手にも投げ斧をもっており、それを外に居る警備兵にも投げ、そして、もう何も持っていない筈の手にはいつの間にかハルバードが握られており、彼女はそのハルバードをまるで演武をするかのように舞い警備兵達をなぎ倒した。

 

警備詰所の爆発に続いて次は屋敷の電気系統にも異常が起こり、突如屋敷内の電気が消えた。

非常灯も自家発電機も作動せず、完全な真っ暗闇と化した。

そして、暗視スコープを装備したIS部隊の隊員が見たのは自分達に向かって天使の様な羽を背中に生やした人間らしきモノが接近して来る光景で、その直後、彼女達は愛機と共に運命を共にした。

ISには絶対防御機能が有る筈なのに、その機能が一切働かず、相手のIS?が触手の様なモノを伸ばしてきて、触れられると機体の動きが鈍くなり、その隙を腕に装備されている大剣で止めを刺される。

しかもその威力は絶大で、一振りでIS諸共搭乗者の胴体を切り離すほどの威力があった。

屋敷内と言う限られた空間スペースの中で、IS部隊は密集していた事も有り満足な動きが取れないまま全滅したのだった。

 

突然の爆発と停電、そして、下から聴こえてくるIS部隊の断末魔の悲鳴。

暗殺者、殺戮の銀翼は確実に此方に近づいてくる。

楯無の手がカタカタと無意識に震える。

 

(武者震い?)

 

(いいえ、違う‥‥これは恐怖‥‥)

 

楯無は、自分は今日、此処で死ぬかもしれないと言う恐怖を抱いていた。

ISには絶対防御機能が着いている筈なのだが、下から聞こえてきた断末魔の悲鳴を聞いていると絶対防御機能でさえ、気休めにもならない様な錯覚に陥った。

いや、恐らく気休めではなく事実なのだろう。

でも、此処で逃げる訳にはいかない。

更識家の当主として、そしてロシア国家代表としての維持が楯無をこの場に踏み留めた。

やがて、噂の暗殺者が楯無の前に姿を見せると、彼女は目を大きく見開いた。

 

「そ、そんな‥‥嘘‥でしょう‥?‥あ、貴女が‥‥殺戮の銀翼‥‥なの‥‥?」

 

彼女は震える声で目の前の暗殺者、殺戮の銀翼に尋ねる。

 

「‥‥」

 

しかし、彼女はあの時と同じ、無口、無表情のまま楯無をその光を宿さない赤紫色の瞳でジッと見ていた。

 


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