突然の休校でショッピングモールへとやってきたイヴ、簪、本音、鈴の四人。
ゲームセンターで簪が何やら黒歴史を作り、鈴がクレーンゲームに多額の寄付をした後、四人はボーリングへと向かった。
鈴と本音はボーリング体験があるみたいなのだが、簪とイヴの二人は、ボーリングは初体験だった。
最初に経験者の鈴と本音が行いルールやボーリングのやり方を未経験の簪とイヴに教える。
当初はガーターばかり出していた簪とイヴだったが、コツを掴むとそれなりのスコア―を出すようになった。
ゲームを終えて片づけをしている時、ふと周りを見ると、女尊男卑主義に染まった女達が、近くに居た男に絡んで自分達が使った道具を片付けさせたり、自分達のゲームの料金を肩代わりさせている光景が見えた。
「ISもないのにアイツら何勘違いしているのかしら?」
鈴が女尊男卑主義に染まった女達に侮蔑の視線を向ける。
「ああいう女達を並べて、思いっきりボール投げたいなぁ」
「そうだね」
「ちょっ、イヴイヴもかんちゃんも何言っているのさ!?」
イヴが料金を肩代わりさせて去って行く女達を見ながら物騒な台詞を吐くが、簪もその意見には同意していた。
そんな二人にちょっと引いている本音。
ボーリング場を後にした四人は次にカラオケに行った。
ボーリングに続き、今回、カラオケも初体験の簪とイヴ。
本音と鈴はカラオケも経験済み。
意外と社交性が高い二人だ。
鈴が歌っている中、本音はイヴに話しかける。
「イヴイヴはカラオケよく来るの?」
「ううん、初めて‥簪さんは?」
「わ、私も‥初めて‥」
次に本音が歌い終えると、モニターに今の本音の歌の採点が表示される。
「なかなかやるじゃない、本音」
「本日のベストだって」
「採点もしてくれるんだ‥‥」
次にイヴも歌うとなかなか高得点。
「簪も何か歌ってみたら?」
「う、うん‥‥」
簪は自分が知っている歌を試しに歌ってみる。
「おお、なかなかうまいじゃない、簪」
「うん」
「かんちゃんの意外な特技発見!!」
皆は簪の歌を褒めるが、彼女が歌い終えて採点が表示されると、意外に点は低かった。
「あれ?」
「意外と辛口ね」
「あっ、でも、とっても上手かったよ」
「かんちゃんの歌が上手すぎて、機械も採点に困ったんだよ、きっと」
イヴと本音が簪をフォローする。
その後も順番で歌をうたっていくメンバー。
そしてやはり、簪以外のメンバーは高得点をたたき出すが、簪だけは何故か点が低い。
聴いている限り、簪は決して音痴ではないのに、何故か点数が低いのだ。
「‥‥」
簪は、よく見ているアニソンを選択する。
「おぉ、これはかんちゃんが好きなアニメの歌」
「そ、それならきっといい点が期待できるかも‥‥」
「が、ガンバって」
「ゴメン‥皆‥‥今は集中させて‥‥」
「「「う、うん」」」
カラオケなのになんで此処まで集中しているのか不明だが、簪に雰囲気に呑まれ、それ以上何も言えない三人。
やがて、簪が歌を歌い終えると‥‥ちょっとだけ点数があがっただけで、ほかの三人に比べたら、低いままの結果となった。
「「「「‥‥」」」」
採点の数値が表示されたモニターを前に皆は無言。
「か、簪さん、こういうのは遊びだから‥‥」
「で、でも点数は着実に上がっているよ」
「コツを掴んでいるんじゃない?」
「「うんうん」」
三人は簪をフォローするが本人は無視してその後も歌い続ける。
それから歌い続けること三時間‥‥
モニターには百点の数値が表示され、
「やった!!皆、私やったよ!!」
輝いた笑顔を見せる簪。
やりきったという感情が溢れている。
しかし‥‥
「「「おめでとう‥‥」」」
反対にグロッキー状態のイヴ、鈴、本音の姿がそこにあった。
休みの日なのになぜか色々あって逆に疲れた三人だった。
翌日
この日からは通常の授業が始まった。
ただ、クラスの中は浮ついていると言うか落ち着きがない様子だった。
それは一つの噂で持ちきりのためだった。
「ねぇ、あの噂聞いた?」
「聞いた、聞いた!」
「何々?何の話?」
「学年別トーナメントで優勝すると、織斑君と付き合えるんだって!!」
「そうなの!?」
「マジで!?」
それぞれが言葉を漏らす。
勿論この噂の発端は、先日箒が百秋にむかって言い放った『優勝したら付き合ってもらう』をクラスメイトが聞いていたことが発端である。
百秋は先日のクラス代表戦に突如乱入してきた謎のISを撃破した英雄として再び人気を取り戻しつつある。
そして、あのISに関しては、表向きは某国の実験中のISが暴走したと言う事になっている。
教室中が噂で持ちきりの中、当の本人が教室に現れた。
「おはよう!何盛り上がっているんだ?」
百秋が挨拶と共にクラスメイト達に尋ねる。
すると、
「「「「「「「「「「なんでもないよ」」」」」」」」」」
声を揃えてそう言われた。
(隠さなくても、俺の勇姿の事だろうな。いやぁ人気者は辛いぜ)
百秋は、クラスメイト達は自分があの謎のISを倒した事だと思っており、本人は学年別トーナメントでの優勝賞品(女子限定)については全く知らなかった。
すると、千冬と山田先生がやってきてHRを始める。
「ええと‥ですね‥‥今日は転校生を紹介します。しかも二人です」
山田先生の言葉に、教室がざわめく。
「では、どうぞ、入って来て下さい」
山田先生が廊下で待たせている転校生達に教室へ入って来るように促す。
そして、教室のドアが開き、
「失礼します」
「‥‥‥」
クラスに入ってきた転校生を見たとたん、教室が静まり返る。
何故なら、入ってきた転校生の内一人が、百秋と同じ男子の制服を身に纏っていたからだ。
「では、挨拶をお願いします」
山田先生が二人に自己紹介を促すと、まず金髪で男子の制服を着た転校生が挨拶をする。
「はい。シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
転校生の一人のシャルルは笑顔でそう一礼した。
その様子に、クラス全員が静まり返る。
「お、男‥‥?」
誰かが呟く。
「はい。 こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入を‥‥」
そう言いかけた。
すると、
「きゃ‥‥」
誰かが声を漏らす。
「はい?」
その反応に、シャルルが声を漏らす。
そして次の瞬間、
「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああああああああああああああっ!!」」」」」」」」」
歓喜の叫びが、クラス中に響き渡った。
「男子! 二人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~~~~~!」
等と入学初日、千冬がクラスで挨拶をした時と同じ位の黄色い声が教室中に響き渡る。
しかし、イヴは釈然としなかった。
(二人目の男性操縦者?ならば何故、百秋の時のように騒がれない。マスコミに騒がれずにいきなり出てくるなんて、なんか妙だな)
一人目の百秋の時は号外が出るぐらい騒がれたにもかかわらず、このシャルルの場合まったく騒がれず、キノコかタケノコのようにいきなりひょいと出てきたような印象を受ける。
二人目とは言え、世界中に数多く存在する男から二人目が出てきたんだ。
多少騒がれても不思議じゃないはずなのに、一切騒がれなかったことに違和感を覚えるイヴだった。
「騒ぐな。静かにしろ、まだHR中のクラスもあるのだからな」
鬱陶しそうに千冬が言い放つ。
「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わっていませんから~!」
山田先生が必死に騒いでいるクラスメイト達を宥めようとそう言う。
千冬と山田先生に促され騒いでいたクラスメイト達は静まる。
もう一人の転校生の方は一言でいえば変わっている。
イヴと同じ長い銀髪をして、左目には黒い眼帯をつけている小柄な少女。
身長も鈴と同じぐらいか、ちょっと小さい。
そして彼女の冷たい雰囲気を纏うその少女の印象は、まさに『軍人』であった。
コスプレか中二病という領域ではなく、まさしく本職の軍人気質だった。
「‥‥」
そして当の本人は教室に入っても一切口を開こうとはしない。
自己紹介をするつもりがないのだろうか?
それとも喋れないのか?
ただ、シャルルを見て騒ぐクラスメイトの姿を下らなそうに見ているだけだ。
「‥‥挨拶をしろ、ラウラ」
業を煮やした千冬が話しかけると、
「はい、教官」
今まで喋らなかった銀髪の少女は口を開いた。
「ここではそう呼ぶな。私はもうお前の教官ではないし、ここではお前も軍人ではなく、生徒だ。 私の事は織斑先生と呼べ」
「了解しました」
そうは言っているが、あの返答‥本当にわかっているのだろうか?
しかし、千冬と彼女の会話から二人は知り合いの様だ。
やがて、彼女はクラスメイト達に向き直り、
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
自らの名を告げただけで再び黙る。
(あれ?なんかデジャヴ)
ラウラと名乗った少女の自己紹介にデジャヴを感じるイヴだった。
「あ、あの‥‥以上ですか?」
「以上だ」
山田先生の問いかけにラウラは即答する。
彼女の返答に冷や汗を流し、顔を引きつらせる山田先生。
すると、ラウラと百秋の目が合った。
ラウラはツカツカと百秋のそばに近寄ると、
バシンッ
彼の頬に平手を見舞った。
「私は認めない。 貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!!」
ラウラは怒気を含んだ声でそう言い放つ。
「いきなり何しやがる!」
訳も分からず、ラウラから殴られた百秋も吠える。
「フン‥‥」
ラウラは百秋を無視して、自分の席に座る。
「ではHRを終わる。今日は二組と合同でISの実技訓練を行う。各人はすぐに着替えて第二グラウンドへ集合。解散!」
千冬がHRを締めくくりクラスメイト達は席を立ち着替えの準備をする。
(おいおい、仮にも貴女の大事な弟だろう?なぜ、ボーデヴィッヒさんに注意を入れなかったんだ?)
イヴは先ほどのラウラと千冬の行動に疑問を感じつつ、自らも着替えの準備をした。
二人目の男性操縦者であるシャルルの面倒は百秋が見ることになった。
彼らはアリーナの更衣室へと向かったが、廊下の奥からは地響きがするような沢山の足音と女子の声が木霊していた。
イヴが着替えているとふと視線を感じた。
振り返ってみると、先ほど、百秋を殴ったラウラがイヴのことをじっと見ていた。
(な、なんだろう?同じ銀髪だから見ているのかな?)
イヴは自分とラウラが同じ色の髪の毛だから、物珍しさで自分のことを見ているのかと思った。
しかし、当のラウラは、
(な、なんなんだ?あの女は!?むせ返すような血の匂いに禍々しい狂気を感じる。何者なんだ!?あの女は!?)
イヴの中の獣に薄々感づいて警戒していた。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
グランドに集まった生徒たちに千冬が今日の実技の内容を伝える。
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
「まずは戦闘を実演してもらおう。凰!オルコット!」
「「はい!」」
千冬に指名され、鈴とセシリアは返事をする。
「専用機持ちならすぐに始められるだろう。前に出ろ!」
千冬にそう言われ、
「めんどいなぁ何で私が‥‥」
「はぁ~、なんかこういうのは、見世物のようで気が進みませんわね‥‥」
二人はぶつくさ言いつつ前に出る。
そのまま千冬の傍を通りすぎるとき、
「お前たち少しはやる気を出せ。 あいつにいいところを見せられるぞ」
百秋に視線を向けつつそう小声で言った。
「やはりここはイギリス代表候補生、私セシリア・オルコットの出番ですわね!」
「‥‥」
セシリアはやる気を出したが、鈴は面倒くさいという態度を変えなかった。
「それでお相手は?鈴さんの相手でも構いませんが?」
「それはこっちの台詞よ。返り討ちにしてあげるわ」
「慌てるな、馬鹿共。 対戦相手は‥‥」
千冬がそう言いかけたところで、
「どっ‥‥どいてください~~~~~っ!!」
織斑先生が二人の対戦相手を紹介する前に上空から声が聞こえた。
声の主はこの場にいない一組の副担任、山田先生だ。
山田先生はISを纏ったままグランドにいる生徒達の中へ突っ込んでくる。
「っ!?」
イヴはリンドヴルムを纏うと落下してくる山田先生の下へと向い、山田先生を空中でキャッチした。
「まったく何やっているんですか?山田先生。ISをつけたままで無防備の生徒の中に突っ込んでくるなんて、生徒を殺す気ですか?」
「す、すみません」
イヴは山田先生を地面に下ろす。
「さて小娘共、さっさと始めるぞ」
セシリアと鈴に向かって千冬はそう言う。
「えっ? あの、二対一で?」
「いや、流石にそれは‥‥」
セシリアと鈴は遠慮しがちにそう言うが、
「山田先生は、こう見えても元日本の代表候補生だ。それに今のお前たちならすぐ負ける」
「へぇ~山田先生って代表候補生だったんだ‥‥」
イヴは山田先生の過去を知り、意外そうに言う。
「む、昔の事ですよ。それに候補生止まりでしたし‥‥」
こうして、山田先生VS鈴&セシリアの模擬戦が始まった。
試合開始と共に空へと舞い上がる三人。
模擬戦を開始すると、
「デュノア、山田先生が使っているISの解説をして見せろ」
千冬がシャルルにISの解説を促す。
「あ、はい。山田先生が使っているISは、デュノア社製『ラファール・リヴァイヴ』です。 第二世代開発最後期の機体ですが、そのスペックは、初期の第三世代にも劣らない物です。 現在配備されている量産ISの中では、最後発でありながら、世界第三位のシェアを持ち、装備によって、格闘、射撃、防御といった、全タイプに切り替えが可能です」
丁度、シャルルの説明が終わった時、
ドゴォォォォォン
山田先生の放ったグレネード弾が、セシリアと鈴に直撃した。
グレネードの直撃を受けた二人は地上に落下した。
「ううっ‥‥まさかこの私が‥‥」
「あんたねぇ‥‥何面白いように回避先読まれているのよ!」
「鈴さんこそ、無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!」
(くっ、ペアがセシリアじゃなくてイヴだったら‥‥)
鈴は組んだペアがセシリアではなく、イヴだったら結果は違ったと思った。
クラス代表戦の僅かな時間だったが、あの謎のISを追い詰める際、イヴと自分のコンビネーションはかなり良かったからだ。
「これで諸君にも、教員の実力は理解できただろう。 以後は敬意をもって接するように」
千冬はそう言うと、
「次はグループになって実習を行う。 リーダーは専用機持ちがやること。 では、分かれろ!」
千冬の号令でそれぞれのグループに分かれる。
ただその際、別れ際にイヴが山田先生に
「ねぇ、山田先生」
「なんでしょう?」
「今度、模擬戦をしてみませんか?」
と、山田先生に模擬戦の相手をしてくれと頼んだら、
「え、ええ、考えておきます」
山田先生は顔色を悪くしながらそう答えた。
そして始まったISの実技授業、一応、イヴも専用機持ちなので、クラスメイトに教える側となった。
「上手い、上手い、その調子‥足元は見ないようにして目は真っすぐ前を向くように意識して」
「う、うん‥‥」
千冬に言われたとおり、イヴは今、クラスメイトの一人のIS歩行をイヴは見ている。
ぎこちないながらもISを纏い歩くクラスメイト。
「うん。そこで止まって、お疲れ様」
「ふぅ~緊張した」
イヴの言葉に、停止する女子生徒。
「いいよ。 じゃあ、次の人に交代だね」
イヴがそう言うと、ISに乗っていた女子生徒は緊張が解けたのかため息を吐き、コクピットから飛び降りる。
「あっ、しまった」
それを見て、イヴは思わず声を漏らした。
ISが立ったままになり、コクピットが高い位置で固定されてしまったのだ。
「ああ、アインスさんの班もやってしまったんですね、仕方ありません。アインスさんも、今、織斑君がやっているように、自分のISを起動させて、次の人をコクピットまで運んであげてください」
イヴが山田先生にそう言われ、視線を百秋の班の方にチラッと向けると、百秋が白式纏い箒をお姫様抱っこして運んでいた。
箒の顔は、イヴの位置から見ても真っ赤であることが良くわかる。
「えっと‥‥次の人は‥‥」
「はい、は~い。 私だよ~、イヴイヴ」
そう言ったのは本音で、彼女はお姫様抱っこを若干期待しているようだ。
「そ、それじゃあ、のほほんさん、いくよ」
「う、うん」
イヴは本音をお姫様抱っこしてISに乗せた。
(ふぁ~イヴイヴ良い匂い~)
イヴにお姫様抱っこをされてご満悦な本音だった。
この時の授業は特に問題なく終わったが、ラウラが担当した班は、張りつめた雰囲気の中で行われたため、さながら軍事教練の様だった。
ラウラの班になったクラスメイト達には『ドンマイ』としか言いようがなかった。