クラス代表戦の最中、突如現れた謎の無人機。
現在まで無人で稼働するISを作った国は存在しない。
出来るのであるとすれば、ISの生みの親である篠ノ之束ぐらいだ。
案の定、ISのコアを調べたところ、シリアルナンバーは未確認のモノだった。
千冬は早速、束の下に電話を入れ、何の目的があってIS学園を襲撃したのか?
しかもその混乱に乗じて何故訓練機を強奪したのかを詰問した。
だが、束にしては千冬の言葉は寝耳に水で何のことかわからなかった。
千冬からの電話の後、楯無からも同じ内容の電話があり、束としては全く身に覚えのない完全な濡れ衣だった。
その頃、食堂では百秋とセシリアを称える宴会が開かれていたが、鈴、簪、イヴの三人は参加するのもバカらしいので、空いている間に大浴場に行くことにした。
脱衣場で服を脱いでいる時、簪と鈴がイヴの事をジッと見ていた。
「な、なにかな?」
「服の上から見て思ったけど、アンタ、胸大きいわね」
「えっ?」
「‥‥」
簪と鈴がイヴの胸をジッと凝視してくる。
「そ、そんなことないよ」
二人の視線にちょっと身の危険を感じるイヴ。
「さ、さぁ、混まないうちに早く入ろう」
そそくさと浴場へと逃げるイヴ。
「「‥‥」」
逃げたイヴを追いかけるように浴場へと入る簪と鈴。
湯船に入る前に体を洗う三人であったが、その際もやはり、簪と鈴の視線はイヴの胸に注視されていた。
そしてイヴが頭を洗う為、シャンプーハットを被った時、
((シャンプーハット!?))
鈴はイヴの行動に驚いて、簪はなぜか鼻の辺りを押さえていた。
「ちょっ、アンタ、高校生にもなってシャンプーハットを使っているの?」
(可愛い‥ギャップで思わず鼻血を出すところだった‥‥)
「えっ?あっ、うん‥これ使った方が洗いやすいから」
「‥‥あ~もう、そんなの使わなくてもあたしが洗ってあげるわよ」
鈴はイヴの後ろに立ち彼女の髪を洗い始める。
「あっ、鈴、ズルイ‥‥」
簪は出遅れたと思い、ボソッと呟いた。
「「「はぁ~」」」
大浴場の湯船に三人は浸かると、おもわず声が出る。
「今日は色々あって疲れた~」
「そうねまさか、試合中に乱入者が来るなんて予想外よ」
「うん‥でも、イヴと鈴が無事でよかった」
暫く湯船に浸かっていたが、簪と鈴がチラッとイヴの胸を見る。
「ん?な、なに?」
イヴがちょっと逃げ腰になっていると、
ムニュ
「はうっ!?」
簪が徐にイヴの胸を揉みだした。
「‥‥やっぱり、大きい‥‥それに柔らかい」
「えっ?ホント!?簪」
「うん」
「どれどれ」
「ちょっ、簪、鈴‥や、やめ‥‥」
「それそれそれ」
「よいではないか、よいではないか」
「あっ、ちょっ‥‥や、やめ‥‥」
湯船の中で二人にもみくちゃにされたイヴだった。
「うぅ~‥‥酷い目に遭った」
お風呂から寮の部屋に戻ったイヴ。
すると、部屋には楯無が居た。
「あっ、たっちゃん。今日はお仕事もう終わり?」
「ええ、今日の分はね」
連日生徒会室の泊まり込みが多い楯無であるが、今日は自室へと戻れた様だ。
「それでイヴちゃん、今日の試合で乱入してきたあの無人機の事なんだけど‥‥」
「はい‥アレってたばちゃんの所にあった無人機ですよね?」
「ええ‥それで、さっき篠ノ之博士に電話して聞いてみたんだけど、博士は学園に無人機を差し向けたりなんてしていないって‥‥」
「でしょうね‥たばちゃんが此処を襲う理由なんてありませんし‥‥」
「それにこれは戒厳令が敷かれているんだけど、今回の騒動の裏で学園の訓練機が何機か盗まれたらしいの」
「訓練機が?」
「ええ‥学園は故障と言う名目で、各国から機体を補充するみたいだけど‥‥」
「もしかして、無人機は囮であくまでも本命は訓練機‥‥?」
「でしょうね」
「でも、何のために訓練機を?それに何処の国がそんな事を?」
「アメリカ、中国、ロシア‥‥やりそうな国をあげたらきりがないけど、でも、もしかしたら、国じゃないのかも‥‥」
「国じゃない?それじゃあ誰が‥‥?」
「亡国企業(ファントム・タスク)」
「亡国企業(ファントム・タスク)?」
「ええ、世界各国でISの強奪や要人の誘拐、戦争介入をしているテロリスト集団よ。今回の騒動はそいつらの可能性があるわ」
「でも、そのテロリスト集団が無人機を開発できるほどの技術力を持っているんですか?しかもたばちゃんのところと同じ型の‥‥」
「その辺はまだ不明なのよ‥結構、謎の多い組織みたいだから」
「‥‥」
「訓練機の方も自分たちの戦力の補充なのか、それとも他国に売り飛ばす目的なのかも不明」
楯無は今回の件で何だか暗雲が漂う新年度になりそうな予感がした。
そして、この日、寮の部屋の調整が整い箒は引っ越しとなった。
ただその際、彼女は「今度の個人別トーナメントで私が勝ったら付き合ってもらう」と言って去って行った。
ただその現場を他のクラスメイトに目撃されていたことが箒の不運だった。
クラス対抗戦の翌日から学園は休校となった。
アリーナの復旧、委員会への報告、学園自体のセキュリティーの見直しなどで教師陣はごたごたとなり、授業どころではなかったのだ。
そして、今回命令無視、アリーナのバリアーを破った百秋とセシリアについてだが、お咎めなしという沙汰が下った。
楯無はこの処分に関して不満を抱いていたが、百秋が千冬の弟であること、セシリアがイギリスの代表候補生で外交問題を恐れた事、何より二人があの謎のIS撃破の為に一役買ったことが影響していた。
謎のISを撃破したと言う事で撃破の手柄と罰で今回は相殺されたのだった。
千冬としては命令無視をしたイヴと鈴に処罰を与えたいところであったが、千冬本人が許可した事と、謎のISの足止めをしたことでこちらもお咎めなしとなった。
突然授業が休校となり、体育会系の部活動に所属している生徒は、朝早くから部活動に勤しみ、予定の無い生徒はイレギュラーながらも突然の休みを満喫しようと買い物へと出かけたりしていた。
そんな中、百秋はIS学園に入学してから初めて自分の実家へと戻った。
当初は一週間の間は自宅~IS学園に通うはずだったのだが、政府からの急なお達しで入学当日からIS学園の寮に入る事になった。
その際、荷物は必要最低限の衣服と下着、携帯とその充電器だけだったので、今回の休校を機に必要な物を取りに行ったのだ。
これまでの休日はISの訓練で悉く潰されたので、今日だけはISの訓練を休んで実家に帰省したのだ。
だが、意外と時間はかからず、百秋は箒に次ぐ昔からの友人である五反田弾の家に行った。
丁度彼の高校も開校記念日で休みだったので、昼時でも彼は家に居た。
百秋は彼の部屋にて格ゲーをして時間を潰した。
「で?」
格ゲーをやっている時、弾が百秋に突然声をかける。
「『で?』ってなんだよ?」
「だから、女の園だよ。良い思いしてんだろう?お前のメール、見ているだけでも楽園じゃねぇか」
「実際に住むと聞くとじゃ大違いだぜ‥あっ、そう言えば俺のクラスにあの疫病神そっくりな奴が居るんだよ」
「疫病神?」
百秋の言う疫病神と言う言葉に首を傾げる弾。
「ほら、一夏だよ」
「あ~あ、アイツか‥‥」
百秋の言葉に思い出したかのように言う弾。
「おいおい、随分な言い方だな、お前を『男』にしてくれた奴だろう?」
百秋がニヤつきながら、言う。
「まぁ、確かにアイツが居た時には、性処理にはホント困らなかったからなぁ~あの頃はマジ、天国だったわ~」
「確かにアイツは顔と体だけは上玉だったからな‥‥」
「それにしても腹違いとは言え、姉を犯すなんてお前もマジ鬼畜だよな」
「お前こそ、アイツを縛ったり、目隠ししたり変態ギリギリなプレイばかりやっていたじゃねぇか」
「お前はシンプルすぎてつまらないんだよ、だから俺はアイツにはちょっと違う刺激をあたえつつ男を教えてやったんだよ」
百秋と弾は中学時代、一夏を強姦した時のことをニヤついた笑みを浮かべながら語っていた。
「で、ソイツはあの一夏なのか?」
「いや、本人が言うには違うみたいなんだが、俺はアイツが一夏にしかみえないんだよなぁ~」
「そんじゃあ、ソイツを食ってみればわかるんじゃねぇ?」
「そうしたいんだけど、タイミングがな‥‥」
百秋としてはイヴと関係を持ちたかったが、IS学園は寮の為なかなかタイミングが掴めなかった。
「お前の姉ちゃん、IS学園に務めているんだろう?その疫病神のそっくりさんを食っちまっても姉ちゃんの力でもみ消せるだろう?」
弾は千冬の力をもってすれば、女子一人を強姦しても揉み消せるだろうと言う。
「うーん‥それもそうか‥‥」
弾の言葉を聞いて、イヴと関係を持てるかもしれないと思った。
「あっ、そう言えば、あと鈴もIS学園に転校してきたんだよ」
「鈴?懐かしいな。元気そうだったか?」
「ああ、でも、この前訳の分からないことで騒いだから、『貧乳』って言ってやった」
「おいおい、そりゃあ、可哀想だろう?アイツ、胸の事結構気にしていたんだから」
「訳の分からないことを言って絡んできたアイツが悪い」
「あっ、鈴と言えば、ずっと不思議に思ったんだけど‥‥」
「ん?」
「お前、なんでわざわざ違うクラスの鈴を助けたんだ?姉の一夏は虐めていたのに‥‥?」
「わかってねぇな、だからこそだよ」
「?」
「鈴を助ける事によってまさか、俺があの疫病神を虐めていたなんて思わないだろうが、鈴の奴は俺をヒーローに仕立てるための盛り上げ役か俺の悪事を隠すための隠れ蓑にすぎないんだよ。でなきゃ、あんな貧乳のちんちくりんの相手なんてするかよ」
「うわっ、ひっでぇ奴だな、お前‥鈴の奴がそれを知ったら、失望するんじゃねぇの?」
「平気だよ、鈴の奴、結構鈍いからさ、今でも俺のことをヒーローだと思い込んでいるんじゃねぇの」
その後も下衆な会話を続けながら、格ゲーを興じる百秋と弾だった。
一方その鈴はと言うと‥‥
イヴと簪、本音と共にショッピングモールへと来ていた。
簪は当初、折角の休日なのだから、一日丸々使って愛機の製作に冒頭したかったが、休みの日だからこそ、日頃使っている頭を休めるのも必要だとイヴが言うと、本音も折角だから簪と一緒にスイーツ巡りをしたいと言う。
それにイヴの部屋の模様替えをする為に何か小物でも買いに行くには丁度いい機会なので、出掛けることにした。
序にここ最近仲が良くなった鈴も連れて、出掛けたのだ。
クレープ屋でクレープを食べる本音とイヴの姿は可愛らしく、簪と鈴は無意識にスマホのカメラのシャッターを切っていた。
簪と鈴だけではなく、周りの人も本音とイヴの姿を写真に収めていた。
次にゲームセンターへと行くと、待ち合わせ場所を決めてそれぞれやりたいゲームの所へと向かった。
そんな中、簪はクレーンゲームをチャレンジしていた。
景品は簪が好きな特撮ヒーローのフィギュアだったのだ。
「うっ‥‥くっ‥‥よしっ!!行け!!」
クレーンを操作し、中の景品にアームが掴みかかるが、アームの力が弱いのか、折角景品を掴んでも、持ち上がる事は無かった。
「び、微動だにしない‥‥」
(ま、マズイ‥‥これ以上、フィギュアに時間をかけるのは非常にマズイ‥‥)
簪は若干焦りながら、景品のフィギュアを見る。
(何がマズイのかと言うと、恥ずかしいの!!『そうまでしてフィギュアが欲しいのか?』と思われるのが、たまらなく嫌なの!!)
辺りを見回しながら自分の近くに人が居ない事を確かめる簪。
(で、でもこれは違う!!決してフィギュアが欲しいんじゃない!!難易度の高いゲームに勝利したと言う達成感が欲しいのよ!!)
其れっぽい言い訳を心の中で呟く簪。
(って、事を周囲に説明するのは不可能なの、もう良いです…好きです!!フィギュア!!でも、此処で引いたら、後悔しか残らない‥‥それだけは絶対に避けたい‥‥何としても持って帰る!!)
開き直り、フィギュアゲットに意欲を燃やす簪。
その目は完全に狩人の目になっていた。
腕まくりをして、気合を入れ直す。
そこへ、
「あの‥‥」
「ん?」
後ろから声をかけられ、振り向くと其処には、ゲームセンターの制服を着た女性従業員が居た。
「っ!?」
店員の姿を見た簪は狼狽する。
しかし、そんな簪にお構いなしに、店員は話しかける。
「ずらしましょうか?位置?」
(もしかして見られていたの!?店員さんに‥‥フィギュアに大金をつぎ込む姿を‥‥は、恥ずかしい~。でも、違うの!!フィギュアが欲しいんじゃなくて!!クレーンゲームが好きなだけ‥それを分かって!!下手な言い訳に聞こえるかもしれないけど、此処は甘えてみるしかない‥‥)
「ずらす?えっ?いや、まぁ、別にそこまで‥なんでまた?」
必死に体裁を整えようとするが、声が少し震えている簪。
平常心というものがなくなりかけている。
彼女は、何故店員がケースの中の商品をずらそうとするのか、その訳を尋ねる。
すると、
「物凄く執着なさっている様子だったので」
店員は営業スマイルを浮かべて、簪に言い放つ。
(はっきり言った!!この人、はっきり言ったよ!!)
店員の一言にこれまで、必死にひた隠そうとしていた彼女の苦労が水の泡となった。
(何より厄介なのが、店員さんの綺麗な目!!あの目は決して憐れんでいるのではない!!純粋に接客しているのが伝わってくる!!)
「お‥おね‥‥お願いします‥‥」
簪は、まるで油の切れた機械人形の様に、ギギギと音を立てるかの様に、店員さんに一礼し、景品の位置をずらして貰うように頼む。
「はい」
(これで完全にフィギュアに執着しているオタク女になってしまった‥‥)
一礼しながら、自らに着せられた不名誉な状態を呪う簪であった。
店員さんは、鍵を使い、一度ケースを開けると、景品のフィギュアの位置を取り出し口の近くへとずらしてくれた。
そして、簪は再び、クレーンゲームを再開するのだが・・・・。
(後ろで見ているよ‥‥スッゴイ見ているよ!!)
何故か店員さんは、景品の位置をずらした後、その場に留まり、背後から簪をジッと見ている。
そして位置をずらしたのが功を制したのか、そのワンゲームで景品のフィギュアをゲットした簪。
すると、
「フィギュアゲット、おめでとうございます!!」
店員さんは、簪の片手を高々に上げて、大声でフィギュアをゲットした簪を褒め称えた。
近くにいた客はドン引きしていた。
「また来てくださいね~」
店員さんは、明るい声でそう言うが、公開処刑をくらった簪は、彼女にしては珍しく、
「二度と来るか!!」
と、大声で、店員に言い放った。
簪が公開処刑を食らう少し前、鈴も別のクレーンゲームをやっていた。
「そのままいきなさい‥‥」
お目当ての人形をアームで上手くつかみ、後は取り出し口へと運ぶだけなのだが、人形は取り出し口の目前で落ちてしまった。
「あっ‥くぅ~もう少しだったのに~!!」
クレーンゲームを揺らして悔しがる鈴。
「リンリン、そのくらいにしたら?もう三千円も使っちゃったんでしょう?」
本音が鈴にもう諦めたらと言う。
「あたしは狙った獲物は必ず狩るのがモットーなの!!」
その後も鈴は追加金を使うが、目当ての人形を取る事が出来なかった。
それを見て本音は、
「偉い人は言いました。クレーンゲームは貯金箱であると‥‥」
ポツリとそんな言葉を呟く。
「上手いこと言うわね、ソイツ‥‥」
此処まででかなりのお金を使ってしまった鈴は項垂れる。
そこへ、
「どうしたの?鈴」
イヴが鈴と本音に合流した。
「あっ、イヴイヴ。実はね‥‥」
本音が何故、鈴がこんなにも項垂れているのかを説明する。
「成程、それで、鈴はどれが欲しいの?
「あ、アレ」
鈴がお目当ての人形を指さす。
「了解っと」
イヴは500円玉をゲーム機に入れると、ボタンを操作してクレーンを下ろした。
だがクレーンが釣り上げたのは、鈴のお目当てとは違った人形だった。
「えっ?ソレ別の人形?」
「いや、これでいいの。クレーンゲームの鉄則は『取れるモノから取る』だからね」
そう言ってイヴは三回目の操作で、鈴が狙っていた人形をゲットした。
「はい」
「あ、ありがとう‥‥」
鈴は礼を言って、イヴから人形を受け取る。
「あっ、その二つは貴女のモノだから、いいわ」
鈴はイヴが一回目と二回目にとった人形はいらないと言う。
「うまいね、イヴイヴ、なんかコツがあるの?」
「クレーンゲームは取りやすいモノから順番に取っていって、目標がいい位置に来るのを待つ。それさえ分かれば、クレーンゲームは難しくないよ」
「「へぇ~」」
イヴの説明に二人が納得していると、
「二度と来るか!!」
簪の大声が聞こえた。
「今の声って‥‥」
「かんちゃんの声だ‥‥」
「あの子があんなにも大声を出すなんて‥‥」
今までの三人の簪のイメージからは想像もできない大声を出した簪に戸惑う三人。
やがて、三人の前に、ゲームセンターの手提げ袋を持った簪が姿を現した。
「どうしたの?かんちゃん、あんな大声を上げちゃって‥‥」
本音が簪に何があったのかを尋ねると、
「‥‥聞かないで」
と、簪は俯きながら弱々しいそう答えた。
「えっと‥‥何があったかはわからないけど、な、何か嫌な事があったのなら、忘れちゃいなさいよ、折角の休みなんだから」
鈴が簪を励ます。
「じゃ、じゃあ次はボーリングでもしよう」
本音が次はボーリングでもしようと提案し、四人はゲームセンターを後にしてボーリング場へと向かった。